Löwenheim–Skolemの定理

同義語:Löwenheim-Skolemの定理レーヴェンハイム–スコーレムの定理Löwenheim–Skolem–Tarskiの定理Löwenheim–Skolem theorem

概要

Löwenheim–Skolemの定理(Löwenheim–Skolem theorem)とは、一階言語 $L$ の文の集合が無限のモデルをもてば、$\lvert L\rvert+\aleph_0$ 以上のすべての基数 $\kappa$ について濃度がちょうど $\kappa$ のモデルをもつという定理である。構造から小さな初等部分モデルを取り出す下向きの定理と、初等図式とコンパクト性定理で大きな初等拡大を作る上向きの定理からなる。帰結として、無限構造はそれが満たす文の全体でも同型を除いて決まらず、有限のモデルをもたず 1 つの濃度で範疇的な理論は完全である(Łoś–Vaught の判定法)。可算な言語で書かれた集合論も可算なモデルをもち、この現象は Skolem のパラドックスとよばれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 初等部分モデル, コンパクト性定理(一階論理), 濃度

実数体は非可算で、自然数の構造は可算である。では「非可算である」「可算である」という性質を、一階の文の集合で言い表せるだろうか。答えは否定的である。Löwenheim–Skolem の定理 によれば、一階の文の集合が無限のモデルを 1 つでももてば、言語の大きさ以上のどんな無限濃度のモデルももつ。一階論理では、無限構造の大きさを指定することができない。
定理には 2 つの向きがある。構造から小さな初等部分モデルを取り出す 下向き の定理と、構造を大きな初等拡大に広げる 上向き の定理である。下向きの定理は、証人を加えて閉じる議論で 初等部分モデル の記事が証明している。この記事では、コンパクト性定理と初等図式を使って上向きの定理を証明し、両者を合わせて「無限モデルをもつ理論は、言語の大きさ以上のすべての無限濃度のモデルをもつ」ことを示す。さらに、帰結として完全性の判定法(Łoś–Vaught の判定法)を証明し、Skolem のパラドックスとよばれる現象を説明する。
以下、$L$ は一階言語、$\lvert L\rvert$ はその記号の個数とする。$L$ の論理式は、$L$ の記号・可算個の変数・論理記号からなる有限列なので、その個数は $\lvert L\rvert+\aleph_0$ 以下である。構造の台集合は空でなく、構造と同じ文字で書く。$N\preccurlyeq M$ は $N$ が $M$ の初等部分モデルであること、$M\equiv N$ は初等同値(同じ文を満たすこと)を表す。基数の計算では 選択公理 を仮定する。

定理の主張

Löwenheim–Skolem の定理

$M$ を無限な $L$ 構造とし、$\kappa$ を $\kappa\ge\lvert L\rvert+\aleph_0$ を満たす基数とする。

  1. (下向き)$\kappa\le\lvert M\rvert$ なら、$N\preccurlyeq M$ かつ $\lvert N\rvert=\kappa$ となる $N$ がある。
  2. (上向き)$\kappa\ge\lvert M\rvert$ なら、$M\preccurlyeq N$ かつ $\lvert N\rvert=\kappa$ となる $N$ がある。
    とくに、$L$ の文の集合 $T$ が無限のモデルをもてば、$T$ は濃度がちょうど $\kappa$ のモデルをもつ。

1 は 初等部分モデル の記事の定理「下向き Löwenheim–Skolem の定理」による。同記事の定理は、$A\subset M$ を含み濃度が $\lvert A\rvert+\lvert L\rvert+\aleph_0$ 以下の初等部分モデルの存在を述べている。$\lvert A\rvert=\kappa$ となる $A\subset M$ を選んで適用すれば、得られる $N$ は $\kappa=\lvert A\rvert\le\lvert N\rvert\le\kappa$ を満たす。2 は下の節の thm-ls-upward である($\kappa\ge\lvert M\rvert$ と $\kappa\ge\lvert L\rvert$ から $\kappa\ge\lvert M\rvert+\lvert L\rvert$)。最後の主張は、$T$ の無限モデル $M$ に、$\kappa\le\lvert M\rvert$ なら 1 を、$\kappa\ge\lvert M\rvert$ なら 2 を適用すればよい。初等部分モデルや初等拡大は $M$ と同じ文を満たすので、$T$ のモデルである。$\square$

可算言語では、無限モデルをもつ文の集合は可算モデルをもち、非可算なモデルももつ。可算言語の場合の下向きの定理は Zac25 Theorem 12.32(p. 251)が完全性定理の証明から導いている。

初等図式

上向きの定理では、$M$ を部分構造として含む大きな構造を作る。そのために、$M$ の元に名前を付けて、$M$ で成り立つことをすべて文として書き出す。
$M$ の各元 $a$ に新しい定数記号 $c_a$ を用意し、$L_M:=L\cup\{c_a\mid a\in M\}$ とおく。$M$ を $c_a\mapsto a$ で $L_M$ 構造に拡張したものを $M_M$ と書く。

初等図式

$M_M$ で真な $L_M$ の文の全体を、$M$ の 初等図式(elementary diagram)といい、$\operatorname{Eldiag}(M)$ と書く。

$L$ の論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n)$ と $a_1,\dots,a_n\in M$ について、代入補題(一階述語論理 の記事の補題「代入補題」)により
$$ M_M\models\varphi(c_{a_1},\dots,c_{a_n})\iff M\models\varphi[a_1,\dots,a_n] $$
である。$L_M$ の文はどれも、ある $L$ の論理式の自由変数に定数 $c_a$ を代入した形をしている。

初等図式の補題

$N'$ を $L_M$ 構造とし、$N:=N'|_L$ をその $L$ への簡約、$j(a):=c_a^{N'}$ とする。$N'\models\operatorname{Eldiag}(M)$ であることと、$j\colon M\to N$ が初等埋め込みであることは同値である。

$L$ の論理式 $\varphi(x_1,\dots,x_n)$ と $\bar a\in M^n$ をとる。代入補題と、$L$ の論理式の充足が簡約で変わらないことから、$N'\models\varphi(c_{a_1},\dots,c_{a_n})$ は $N\models\varphi[j(a_1),\dots,j(a_n)]$ と同値である。
$N'\models\operatorname{Eldiag}(M)$ とする。$M\models\varphi[\bar a]$ なら $\varphi(c_{\bar a})\in\operatorname{Eldiag}(M)$ なので $N\models\varphi[j(\bar a)]$ である。$M\models\varphi[\bar a]$ でないなら $\lnot\varphi(c_{\bar a})\in\operatorname{Eldiag}(M)$ なので $N\models\varphi[j(\bar a)]$ でない。よって $M\models\varphi[\bar a]\iff N\models\varphi[j(\bar a)]$ であり、$j$ は初等埋め込みである(初等埋め込み の記事の定義「埋め込みと初等埋め込み」の (ii))。
逆に $j$ が初等埋め込みなら、$\operatorname{Eldiag}(M)$ の文 $\varphi(c_{\bar a})$ について $M\models\varphi[\bar a]$ なので $N\models\varphi[j(\bar a)]$、すなわち $N'\models\varphi(c_{\bar a})$ である。$\square$

原子論理式とその否定だけを集めた図式について同じことを述べたのが、構造(モデル) の記事の定理「図式の補題」である。そちらでは埋め込み、ここでは初等埋め込みが対応する。
初等埋め込み $j\colon M\to N$ が得られれば、$N$ の元の名前を付け替えて、$M$ そのものを初等部分モデルとして含む構造に取り替えられる。

初等埋め込みを包含に取り替える

$j\colon M\to N$ が初等埋め込みなら、$M\preccurlyeq N^\ast$、$\lvert N^\ast\rvert=\lvert N\rvert$ を満たす $L$ 構造 $N^\ast$ と、$g\circ j=\mathrm{id}_M$ を満たす同型写像 $g\colon N\to N^\ast$ がある。

要点:$N$ のうち $j(M)$ の元は対応する $M$ の元に、残りの元は $M$ と交わらない新しい元に名前を付け替え、構造を写し取る。

詳しい証明を開く

$M$ と交わらず、$N\setminus j(M)$ と同じ濃度の集合 $X$ と全単射 $k\colon N\setminus j(M)\to X$ をとる(たとえば $X:=\{M\}\times(N\setminus j(M))$ と $k(b):=(M,b)$。順序対 $(M,b)$ が $M$ に属すると、$M\in\{M\}\in(M,b)\in M$ となって正則性公理に反する)。$j$ は単射なので、$g(j(a)):=a$、$b\notin j(M)$ では $g(b):=k(b)$ と定めた $g\colon N\to M\cup X$ は全単射である。台集合 $N^\ast:=M\cup X$ に、$c^{N^\ast}:=g(c^N)$、$f^{N^\ast}(\bar y):=g\bigl(f^N(g^{-1}(\bar y))\bigr)$、$R^{N^\ast}:=\{g(\bar b)\mid\bar b\in R^N\}$ と解釈を定めると、$g$ は同型写像である。

同型写像はすべての論理式の真偽を保つ(一階述語論理 の記事の定理「同型補題」)ので、包含写像 $M\to N^\ast$、すなわち $g\circ j$ は、初等埋め込みと同型写像の合成として初等埋め込みである(初等埋め込み の記事の命題「埋め込みが保つ式」の (iii))。初等埋め込みは埋め込みなので、$M$ は $N^\ast$ の部分構造であり、$M\preccurlyeq N^\ast$ である。$\square$

上向き Löwenheim–Skolem の定理

上向き Löwenheim–Skolem の定理

$M$ を無限な $L$ 構造、$\kappa$ を $\kappa\ge\lvert M\rvert+\lvert L\rvert$ を満たす基数とする。このとき $M\preccurlyeq N$ かつ $\lvert N\rvert=\kappa$ となる $L$ 構造 $N$ がある。

段 1(大きなモデルを作る). 新しい定数記号 $d_\alpha$($\alpha<\kappa$)を用意し、$L':=L_M\cup\{d_\alpha\mid\alpha<\kappa\}$ とおく。$L'$ の文の集合
$$ \Sigma:=\operatorname{Eldiag}(M)\cup\{\lnot(d_\alpha=d_\beta)\mid\alpha<\beta<\kappa\} $$
を考える。$\Sigma$ の有限部分集合 $\Sigma_0$ に現れる $d_\alpha$ は有限個 $d_{\alpha_1},\dots,d_{\alpha_n}$ である。$M$ は無限なので相異なる元 $b_1,\dots,b_n\in M$ がとれ、$M_M$ を $d_{\alpha_i}\mapsto b_i$(ほかの $d_\alpha$ は任意の元)で $L'$ 構造に拡張すると、$\operatorname{Eldiag}(M)$ の文は $M_M$ で真なのでそのまま真であり、$\Sigma_0$ の不等式も真である。よって $\Sigma$ は有限充足可能で、コンパクト性定理(一階論理)(言語の大きさに制限はない)によりモデル $N_1$ をもつ。$N_1$ では $d_\alpha$ の値が互いに異なるので、$\lvert N_1\rvert\ge\kappa$ である。
段 2(ちょうど $\kappa$ に縮める). $A:=\{c_a^{N_1}\mid a\in M\}\cup\{d_\alpha^{N_1}\mid\alpha<\kappa\}$ とおくと $\lvert A\rvert\le\lvert M\rvert+\kappa=\kappa$ であり、$\lvert L'\rvert=\lvert L\rvert+\lvert M\rvert+\kappa=\kappa$ である。初等部分モデル の記事の定理「下向き Löwenheim–Skolem の定理」を $L'$ 構造 $N_1$ と $A$ に適用すると、$A\subset N_2\preccurlyeq N_1$($L'$ 構造として)かつ $\lvert N_2\rvert\le\lvert A\rvert+\lvert L'\rvert+\aleph_0=\kappa$ となる $N_2$ がある。$d_\alpha^{N_2}=d_\alpha^{N_1}$ は相異なる $\kappa$ 個の元なので $\lvert N_2\rvert=\kappa$ である。
段 3($M$ を含む形に直す). $N_2\preccurlyeq N_1$ なので $N_2$ と $N_1$ は同じ $L'$ の文を満たし、$N_2\models\operatorname{Eldiag}(M)$ である。lem-ls-elementary-diagram を $N_2$ の $L_M$ への簡約に適用すると、$j(a):=c_a^{N_2}$ は初等埋め込み $M\to N_2|_L$ である。lem-ls-replace により、$M\preccurlyeq N$ かつ $\lvert N\rvert=\lvert N_2\rvert=\kappa$ となる $N$ がある。$\square$

段 1 だけで $M$ の大きな初等拡大は得られるが、その濃度は制御できない。コンパクト性定理はモデルの存在だけを保証するからである。段 2 の下向きの定理が、濃度をちょうど $\kappa$ にそろえる役目を果たしている。上向きと下向きの定理は、互いを補い合って thm-ls-main を与える。
仮定 $\kappa\ge\lvert L\rvert$ は段 2 で使われる。言語が大きいと、どの初等部分モデルも大きくなりうる(後の反例の表の 3 行目)。仮定 $\kappa\ge\lvert M\rvert$ は、$M$ の初等拡大は $M$ より小さくなれないので必要である。

帰結

無限構造は理論で決まらない

無限構造の理論は同型を除いて決まらない

$M$ を無限な $L$ 構造とする。$M$ と初等同値で、$M$ と同型でない $L$ 構造がある。とくに、$M$ で真な文の全体 $\operatorname{Th}(M)$ をすべて満たす構造は、同型を除いても $1$ つに決まらない。

$\kappa:=\max(\lvert M\rvert,\lvert L\rvert+\aleph_0)^+$(その次の基数)とおく。thm-ls-upward により、$M\preccurlyeq N$、$\lvert N\rvert=\kappa$ となる $N$ がある。$N\equiv M$ だが、$\lvert N\rvert=\kappa>\lvert M\rvert$ なので $N$ と $M$ の間に全単射はなく、同型でない。$\square$

たとえば自然数の構造 $(\mathbb{N},0,S,+,\cdot,<)$ と同じ文を満たす非可算な構造がある。それは $\mathbb{N}$ と同型でないので、$\mathbb{N}$ にない「無限に大きい元」をもつ。可算でも $\mathbb{N}$ と同型でないモデルがあることは、超準モデル の記事の定理「算術の超準モデルの存在」が示している。一階論理では、数学的帰納法の原理を論理式ごとの無限個の文として書くことになる。帰納法を部分集合を走る量化記号で 1 つの文として書く二階論理では、自然数の構造は同型を除いて決まり(OLT26 Corollary 39.2、p. 609)、Löwenheim–Skolem の定理は成り立たない(同書 §39.5、p. 611)。

完全性の判定法

文の集合 $T$ が 完全 であるとは、$T$ がモデルをもち、どの $L$ の文 $\sigma$ についても、$T$ のすべてのモデルで $\sigma$ が真であるか、$T$ のすべてのモデルで $\lnot\sigma$ が真であるかのどちらかが成り立つことをいう。基数 $\kappa$ について、$T$ の濃度 $\kappa$ のモデルが存在し、どの 2 つも同型であるとき、$T$ は $\kappa$-範疇的($\kappa$-categorical)であるという。

Łoś–Vaught の判定法

$L$ の文の集合 $T$ がモデルをもち、有限のモデルをもたず、ある基数 $\kappa\ge\lvert L\rvert+\aleph_0$ について $\kappa$-範疇的ならば、$T$ は完全である。

$T$ が完全でないとすると、ある文 $\sigma$ について、$\sigma$ が偽になる $T$ のモデル $M_1$ と、$\lnot\sigma$ が偽になる $T$ のモデル $M_2$ がある。すなわち $M_1$ は $T\cup\{\lnot\sigma\}$ の、$M_2$ は $T\cup\{\sigma\}$ のモデルである。$T$ は有限のモデルをもたないので $M_1,M_2$ は無限であり、thm-ls-main により $T\cup\{\lnot\sigma\}$ と $T\cup\{\sigma\}$ はそれぞれ濃度 $\kappa$ のモデル $N_1,N_2$ をもつ。$N_1,N_2$ はどちらも $T$ の濃度 $\kappa$ のモデルなので、$\kappa$-範疇性により同型である。同型な構造は同じ文を満たす(一階述語論理 の記事の定理「同型補題」)が、$N_1\models\lnot\sigma$、$N_2\models\sigma$ なので矛盾する。$\square$

稠密な線形順序と代数閉体
  1. 端点のない稠密な全順序の理論 DLO(言語 $\{<\}$)は $\aleph_0$-範疇的である。可算な端点のない稠密な全順序は、元を交互に対応させていく往復の議論により $(\mathbb{Q},<)$ と同型になる(この記事では証明しない。BS12 Chapter V §1 の Exercise 15、p. 202 が往復の議論を示唆する演習としている)。DLO のモデルは空でない全順序で最大元をもたない(端点がない)ので無限であり、thm-ls-los-vaught により DLO は完全である。したがって $(\mathbb{Q},<)$ と $(\mathbb{R},<)$ は初等同値である。これは 初等部分モデル の記事の命題「有理数は実数の初等部分モデル(順序の言語)」と整合する。
  2. 標数 $p$($p$ は素数または $0$)の代数閉体の理論 $\mathrm{ACF}_p$(環の言語)は、非可算な基数 $\kappa$ について $\kappa$-範疇的である。標数と素体上の超越次数が同じ代数閉体は同型であり、非可算な代数閉体では超越次数が濃度に等しいからである(この記事では証明しない。Mil22 Proposition 9.16 と Remark 9.17、p. 117)。有限体は代数閉体でない(代数的閉体 の記事の命題「有限体の非代数閉性」)ので、$\mathrm{ACF}_p$ は有限のモデルをもたない。言語は可算なので、thm-ls-los-vaught により $\mathrm{ACF}_p$ は完全である。たとえば $\mathbb{C}$ と、$\mathbb{Q}$ の代数閉包 $\overline{\mathbb{Q}}$ は同じ文を満たす。

$\mathrm{ACF}_0$ は $\aleph_0$-範疇的ではない。$\overline{\mathbb{Q}}$ と $\overline{\mathbb{Q}(t)}$ はどちらも可算な標数 $0$ の代数閉体だが、超越次数が $0$ と $1$ で異なり、同型でない。範疇性は 1 つの $\kappa$ で成り立てば判定法に使える。

Skolem のパラドックス

集合論の公理系 ZFC は、所属関係を表す 2 項関係記号 $\in$ だけの可算な言語で書かれている。ZFC が無矛盾ならモデルをもち(Gödelの完全性定理)、そのモデルは無限なので、thm-ls-main により可算なモデル $M$ をもつ。一方、ZFC は「自然数全体の冪集合は非可算である」ことを証明するので、$M$ の中にも「非可算」と判定される元 $P\in M$ がある。可算な構造の中に非可算な集合があるのは矛盾に見える。これが Skolem のパラドックス である(Zac25 Example 12.34、p. 252)。
矛盾は生じない。$M$ で「$P$ は非可算」が真であるとは、$M$ の中に、$M$ の自然数全体から $P$ の上への全射の役をする元がないということである。$M$ の外から見れば、$P$ の「元」($M$ で $x\in P$ となる $x$)は可算個しかなく、それらを数え上げる全射は存在する。しかしその全射は $M$ の元ではない。「可算である」という性質は、構造の内側から見るか外側から見るかで答えが変わりうる。Kun80 Chapter IV §7(pp. 140–141)は、ZFC の有限個の公理を満たす可算な推移的モデルについて同じ現象を説明し、「可算」が絶対的でないことを Skolem のパラドックスとよんでいる。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
無限のモデルをもつ「ちょうど 2 元」を表す文 $\sigma_2$無限濃度のモデルの存在
一階の文である二階の文「台集合は可算」と「台集合は無限」の連言非可算なモデルの存在
$\kappa\ge\lvert L\rvert+\aleph_0$実数ごとの定数記号 $c_r$ と、$r\ne s$ についての $\lnot(c_r=c_s)$可算なモデルの存在
有限のモデルをもたない(Łoś–Vaught)記号のない言語の空の理論完全であること
反例の確かめ

1 行目:$\sigma_2:=\exists x\,\exists y\,\lnot(x=y)\land\forall x\,\forall y\,\forall z\,(x=y\lor y=z\lor x=z)$ は、台集合がちょうど 2 元であることを表す。$\{\sigma_2\}$ のモデルは 2 元の構造だけで、無限のモデルも、ほかの濃度のモデルもない。定理の仮定「無限のモデルをもつ」は省けない。
2 行目:二階論理では、関係を走る量化記号を使って「台集合は可算」を 1 つの文で書ける(OLT26 Theorem 39.8 の証明、p. 611。この記事では証明しない)。これに「台集合は無限」を連言でつないだ文は、$\mathbb{N}$ を台集合とする構造で真だが、非可算な構造では偽である。同書 Theorem 39.7(p. 611)は逆に、無限のモデルをもつが可算なモデルをもたない二階の文があることを示している。
3 行目:言語 $L=\{c_r\mid r\in\mathbb{R}\}$ と $T=\{\lnot(c_r=c_s)\mid r\ne s\}$ を考える。$\mathbb{R}$ を台集合として $c_r$ を $r$ と解釈すれば $T$ のモデルで、無限である。しかし $T$ のどのモデルでも $c_r$ の値は互いに異なるので、モデルの濃度は $2^{\aleph_0}$ 以上であり、可算なモデルはない。$\lvert L\rvert=2^{\aleph_0}$ なので、$\kappa=\aleph_0$ は定理の仮定 $\kappa\ge\lvert L\rvert+\aleph_0$ を満たさない。
4 行目:記号のない言語(等号だけ)の空の理論 $T=\emptyset$ のモデルは空でない集合そのもので、同型は全単射である。よって無限基数 $\kappa$ ごとに $T$ は $\kappa$-範疇的である。しかし文 $\forall x\,\forall y\,(x=y)$ は 1 元の集合で真、2 元の集合で偽なので、$T$ は完全でない。有限のモデルをもつことが判定法を破っている。

1 行目の $\{\sigma_2\}$ のように有限のモデルしかもたない理論はあるが、任意に大きい有限のモデルをもつ理論は無限のモデルをもつ(コンパクト性定理(一階論理) の記事の命題「任意に大きい有限モデルから無限モデルへ」)。したがって、$L$ の文の集合 $T$ については次のどちらか一方が成り立つ:$T$ のモデルはすべて有限で、その濃度は上に有界である。あるいは、$T$ は $\lvert L\rvert+\aleph_0$ 以上のすべての基数を濃度とするモデルをもつ。

関連項目

参考文献

[5]
Kenneth Kunen, Set Theory: An Introduction to Independence Proofs, Studies in Logic and the Foundations of Mathematics 102, North-Holland (Elsevier Science Publishers), 1980, Chapter IV §7:Corollary 7.11(有限個の公理の可算な推移的モデル)p. 140、その後の説明(Skolem のパラドックス)p. 141

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