数値多項式(numerical polynomial)とは、十分大きいすべての整数 $n$ で整数値 $P(n)$ をとる有理係数の多項式 $P(z)$ のことである。数値多項式はちょうど二項係数多項式 $\binom zi$ の整数係数の一次結合であり、従ってすべての整数で整数値をとり、次数が $d$ なら $d!\,P$ は整数係数になる。差分が最終的に数値多項式に一致する整数値関数は、それ自身も最終的に数値多項式に一致する。Hilbert 多項式は数値多項式であり、射影多様体の次数が整数になる理由を与える。
射影多様体の斉次座標環 $R=\bigoplus_nR_n$ の Hilbert 関数 $n\mapsto\dim_kR_n$ は整数値の関数で、十分大きい $n$ では有理係数の多項式に一致する。この多項式は、整数でない係数をもってもよいが、十分大きい整数ではいつも整数の値をとる。このような多項式を数値多項式(numerical polynomial)という。$\frac{z(z-1)}2$ のように係数が分数でも値は整数になる多項式がその典型である。
この記事の主定理は、数値多項式が二項係数の多項式 $\binom zi$ の整数係数の一次結合にちょうど一致すること、従って実はすべての整数で整数値をとることである。ここから、$d$ 次の数値多項式の先頭の係数の $d!$ 倍は整数になる。これが射影多様体の次数(Hilbert 多項式の先頭の係数の $(\dim)!$ 倍)が整数になる理由である。もう一つの主定理として、差分が最終的に数値多項式になる整数値関数はそれ自身も最終的に数値多項式になることを示す。
$\mathbb Q[z]$ を有理数係数の 1 変数多項式環とする。
$P\in\mathbb Q[z]$ が数値多項式であるとは、ある整数 $N$ があって、$n\ge N$ を満たすすべての整数 $n$ で $P(n)\in\mathbb Z$ となることをいう。
整数 $i\ge0$ に対し
$$
\binom zi=\frac{z(z-1)\cdots(z-i+1)}{i!}\in\mathbb Q[z],\qquad\binom z0=1
$$
とおく。これは次数 $i$、先頭の係数 $1/i!$ の多項式である。
$\deg\binom zi=i$ なので、$\binom z0,\binom z1,\dots,\binom zr$ は次数 $r$ 以下の多項式のなす $\mathbb Q$ ベクトル空間の基底である(次数の三角性による)。特に、次数 $r$ 以下の $P\in\mathbb Q[z]$ は
$$
P=c_0\binom z0+c_1\binom z1+\cdots+c_r\binom zr\qquad(c_i\in\mathbb Q)
$$
とただ一通りに書ける。
差分作用素 $\Delta$ を $(\Delta P)(z)=P(z+1)-P(z)$ で定める(差分作用素)。整数上の関数 $f:\mathbb Z\to\mathbb Z$ にも同じ式 $(\Delta f)(n)=f(n+1)-f(n)$ で使う。
$i\ge0$ とする。
$P\in\mathbb Q[z]$ を次数 $r$ 以下の多項式とし、$P=\sum_{i=0}^rc_i\binom zi$($c_i\in\mathbb Q$)と書く。次は同値である。
2 ⇒ 3 は lem-np-binomial の 1 による。3 ⇒ 1 は明らかであり、1 ⇒ 4 は $n_0$ を十分大きくとればよい。残る 4 ⇒ 2 を $r$ についての帰納法で示す。
$r=0$ なら $P=c_0$ は定数で、$c_0=P(n_0)\in\mathbb Z$ である。$r\ge1$ とし、次数 $r-1$ 以下では成り立つとする。lem-np-binomial の 2 により
$$
\Delta P=\sum_{i=1}^rc_i\binom z{i-1}=\sum_{j=0}^{r-1}c_{j+1}\binom zj
$$
であり、$\Delta P$ の次数は $r-1$ 以下である。$n=n_0,\dots,n_0+r-1$ では $(\Delta P)(n)=P(n+1)-P(n)$ は整数の差なので整数である。これは連続する $r$ 個の整数なので、帰納法の仮定から $c_1,\dots,c_r\in\mathbb Z$ である。最後に
$$
c_0=P(n_0)-\sum_{i=1}^rc_i\binom{n_0}i
$$
は lem-np-binomial の 1 により整数である。$\square$
条件 4 の「連続する $r+1$ 個」は減らせない。$P=\frac12\binom zr$($r\ge1$)は $n=0,1,\dots,r-1$ で値 $0$ をとるが、$P(r)=\frac12$ である。また「連続する」も外せない。$P=\frac z2$ はすべての偶数(無限個の整数)で整数値をとるが、数値多項式ではない。
$P$ が次数 $d$ の数値多項式なら、$d!\,P\in\mathbb Z[z]$ である。特に $P$ の先頭の係数は $e/d!$($e$ は $0$ でない整数)の形をしている。
thm-np-main により $P=\sum_{i=0}^dc_i\binom zi$($c_i\in\mathbb Z$、$c_d\ne0$)と書ける。$i\le d$ なら $d!\binom zi=\frac{d!}{i!}\,z(z-1)\cdots(z-i+1)$ は整数係数である。先頭の係数は $c_d/d!$ である。$\square$
$d!$ はこれ以上小さくできない。$\binom zd$ の先頭の係数はちょうど $1/d!$ である。また、数値多項式の係数そのものは整数とは限らない($\binom z2=\frac{z^2-z}2$)。
数値多項式の全体 $\operatorname{Int}(\mathbb Z)$ は $\mathbb Z[z]$ を含む $\mathbb Q[z]$ の部分環であり、$\binom zi$($i\ge0$)を基底とする自由 $\mathbb Z$ 加群である。
thm-np-main の 1 と 3 の同値により、$\operatorname{Int}(\mathbb Z)$ は「すべての整数で整数値をとる有理係数多項式」の全体に等しい(この意味で数値多項式は整数値多項式(integer-valued polynomial)とも呼ばれる)。これは和・差・積で閉じ、整数係数多項式を含む。同じ定理の 1 と 2 の同値により、その元は $\binom zi$ の整数係数の有限和でちょうど書ける。$\binom zi$ は $\mathbb Q$ 上一次独立なので、$\mathbb Z$ 上でも一次独立である。$\square$
例えば $\binom zi\binom zj$ も数値多項式なので、$\binom zk$ の整数係数の一次結合で書ける。$\binom z1^2=z^2=2\binom z2+\binom z1$ がその最初の例である。
$P=\sum_{i=0}^rc_i\binom zi\in\mathbb Q[z]$ なら、各 $i$ について $c_i=(\Delta^iP)(0)$ である。
lem-np-binomial の 2 を $i$ 回使うと $\Delta^iP=\sum_{j\ge i}c_j\binom z{j-i}$ である。$z=0$ を代入すると、$\binom 0{j-i}$ は $j=i$ のとき $1$、$j>i$ のとき $0$ なので、$(\Delta^iP)(0)=c_i$ を得る。$\square$
ずらし $(EP)(z)=P(z+1)$ について $\Delta=E-1$ であり、$E$ と $1$ は可換なので二項展開により $(\Delta^iP)(0)=\sum_{j=0}^i(-1)^{i-j}\binom ijP(j)$ である。従って、係数 $c_i$ は値 $P(0),\dots,P(i)$ の整数係数の一次結合である。逆に thm-np-main の表示により、各値 $P(n)$ は $c_0,\dots,c_r$ の整数係数の一次結合である。ここから次がわかる。
$0$ でない数値多項式 $P=\sum_ic_i\binom zi$ について、すべての整数での値 $P(n)$ の最大公約数は、係数 $c_0,\dots,c_r$ の最大公約数に等しい。
値の全体が生成する $\mathbb Z$ の部分群と、係数が生成する部分群は、直前の段落により互いに他を含むので等しい。$\mathbb Z$ の $0$ でない部分群は、その元の最大公約数で生成される。$\square$
例えば $z^3=6\binom z3+6\binom z2+\binom z1$ なので $z^3-z=6\binom z3+6\binom z2$ であり、$n^3-n$ はすべての整数 $n$ で $6$ の倍数で、$6$ より大きい公約数はない($2^3-2=6$)。
多変数でも同じことが成り立つ。$\mathbb Z^m$ の点で整数値をとる $P\in\mathbb Q[z_1,\dots,z_m]$ は、$\binom{z_1}{i_1}\cdots\binom{z_m}{i_m}$ の整数係数の有限和にちょうど一致する。$m$ についての帰納法で示す。$P$ を $z_m$ についての多項式とみて
$$
P=\sum_{i=0}^rQ_i(z_1,\dots,z_{m-1})\binom{z_m}i\qquad(Q_i\in\mathbb Q[z_1,\dots,z_{m-1}])
$$
と書く($\binom{z_m}i$ は係数環 $\mathbb Q[z_1,\dots,z_{m-1}]$ の上でも次数 $r$ 以下の多項式の基底である)。整数の点 $a\in\mathbb Z^{m-1}$ を固定すると、$P(a,z_m)=\sum_iQ_i(a)\binom{z_m}i$ はすべての整数で整数値をとる 1 変数の多項式なので、thm-np-main により $Q_i(a)\in\mathbb Z$ である。よって各 $Q_i$ は $\mathbb Z^{m-1}$ で整数値をとり、帰納法の仮定が使える。逆向きは lem-np-binomial の 1 から明らかである。
$f:\mathbb Z\to\mathbb Z$ を関数とし、数値多項式 $Q$ と整数 $N$ があって、$n\ge N$ のすべての整数で $(\Delta f)(n)=Q(n)$ が成り立つとする。このとき数値多項式 $P$ がただ一つあって、$n\ge N$ のすべての整数で $f(n)=P(n)$ となる。$Q\ne0$ なら $\deg P=\deg Q+1$ である。
thm-np-main により $Q=\sum_{i=0}^rc_i\binom zi$($c_i\in\mathbb Z$)と書ける。
$$
P_0=\sum_{i=0}^rc_i\binom z{i+1}
$$
とおくと、lem-np-binomial の 2 により $\Delta P_0=Q$ であり、$P_0$ は数値多項式である。$g=f-P_0$(整数上の関数)は $n\ge N$ で $(\Delta g)(n)=0$ を満たすので、$n\ge N$ では $g(n)=g(N)$ である。$c=g(N)=f(N)-P_0(N)$ は整数なので、$P=P_0+c$ は数値多項式で、$n\ge N$ で $f(n)=P(n)$ となる。二つの多項式が無限個の整数で一致すれば等しいので、$P$ はただ一つである。$Q\ne0$ なら $c_r\ne0$ として、$P$ の次数は $\binom z{r+1}$ の次数 $r+1$ に等しい。$\square$
結論は $n\ge N$ に限られ、すべての整数に延ばすことはできない。次の例がそれを示す。
体 $k$ 上の多項式環 $S=k[x_0,\dots,x_r]$ の $n$ 次斉次部分 $S_n$ の次元を $H_r(n)$ とし、$n<0$ では $H_r(n)=0$ とおく。$n+1$ 次の単項式は、$x_0$ で割り切れるもの($x_0$ を一つ外すと $n$ 次の単項式に一対一に対応する)と、$x_1,\dots,x_r$ だけの $n+1$ 次の単項式に分かれるので、$r\ge1$、$n\ge0$ で
$$
(\Delta H_r)(n)=H_{r-1}(n+1)
$$
である。$H_0(n)=1$($n\ge0$)から始めて thm-np-difference を $r$ 回使うと、$H_r$ は $n\ge0$ で $r$ 次の数値多項式に一致する。実際その多項式は $\binom{z+r}r$ である($n\ge0$ では $n$ 次の単項式の個数の数え上げの公式)。
$r=1$ では $H_1(n)=n+1$($n\ge0$)だが、$n<0$ では $H_1(n)=0$ であり、多項式 $z+1$ は $n=-2$ で $-1\ne0$ となる。差分による判定が十分大きい $n$ についてしか結論しないのはこのためである。
$S=k[x_0,\dots,x_r]$ 上の有限生成な次数付き加群 $M$ の Hilbert 関数 $H_M(n)=\dim_kM_n$ は整数値であり、十分大きい $n$ で有理係数の多項式 $\varphi_M$ に一致する(Hilbert関数 の定理「Hilbert 多項式の存在」)。従って $\varphi_M$ は数値多項式であり、thm-np-main により
$$
\varphi_M=\sum_{i=0}^dc_i\binom zi\qquad(c_i\in\mathbb Z)
$$
と書け、cor-np-denominator により $\varphi_M$ の先頭の係数の $d!$ 倍($d=\deg\varphi_M$)は整数である。射影空間の閉部分多様体 $X$ の次数は、斉次座標環の Hilbert 多項式の先頭の係数の $(\dim X)!$ 倍として定義され(Har77 I §7、p. 52)、これが整数であることはこの系から直ちにわかる(Hilbert 多項式の次数が $\dim X$ に等しいことは同書 Theorem 7.5、pp. 51–52 による。証明は 射影多様体の次数 の定理「Hilbert 多項式の次数と零点集合の次元」)。Har77 は Theorem 7.5 の証明で、超平面で切った完全列から Hilbert 関数の差分を調べ、thm-np-difference を使って多項式性を導き、Proposition 7.6 (a)(p. 52)で次数が整数であることを thm-np-main から導いている。
同じ理由で、Noether 局所環 $(A,\mathfrak m)$ の $\mathfrak m$ 準素イデアル $I$ と $0$ でない有限加群 $M$ に対する Hilbert–Samuel 多項式も数値多項式である(Hilbert–Samuel関数)。その次数を $d$ とすると先頭の係数の $d!$ 倍は整数であり、これが Hilbert–Samuel関数 の記事の定義「Hilbert–Samuel 重複度」の $e_I(M)$ である。
thm-np-main の条件 4 を弱めると成り立たなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 整数値をとる点が $r+1$ 個以上 | $P=\frac12\binom zr$($r\ge1$)は連続する $r$ 個の整数 $0,\dots,r-1$ で整数値 | $P$ が数値多項式であること($P(r)=\frac12$) |
| 整数値をとる点が連続している | $P=\frac z2$ はすべての偶数で整数値 | $P$ が数値多項式であること($P(1)=\frac12$) |
1 行目の $P$ は次数 $r$ で、整数値をとる連続した整数は $r$ 個しかなく、条件 4 が要求する個数に一つ足りない。2 行目は整数値をとる点が無限個あっても、間が空いていれば足りないことを示す。
数値多項式の定義と、thm-np-main の 1 ⇒ 2 ⇒ 3、thm-np-difference は Har77 I §7 の定義と Proposition 7.3(pp. 49–50)にあり、同書は差分による次数の帰納法で証明している。この記事の証明も同じ筋で、条件 4 を加えて帰納法の仮定を連続する点の個数に置き換えた。整数値をとる数列が $\binom nk$ の整数係数の和で書けることは、差分作用素 の記事の定理「Newton の前進差分公式」からもわかる。
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