Woodin基数(Woodin cardinal)とは、到達不能基数 $\delta$ であって、任意の集合 $A\subseteq V_\delta$ に対し、ある $\kappa<\delta$ が存在して、$\delta$ 未満のすべての $\lambda$ について臨界点 $\kappa$、$j(\kappa)>\lambda$、$V_\lambda\subseteq M$、$j(A)\cap V_\lambda=A\cap V_\lambda$ を満たす初等埋め込み $j\colon V\to M$ が取れるものである。Woodin 基数の下では可測基数が定常集合をなし、Woodin 基数は Mahlo 基数である。可算無限個の Woodin 基数とその上の可測基数があれば $L(\mathbb R)$ で決定性公理が成り立つ。
Woodin 基数(Woodin cardinal)とは、到達不能基数 $\delta$ であって、$V_\delta$ のどんな部分集合 $A$ を指定しても、$\delta$ 未満のある基数 $\kappa$ が「$\delta$ 未満のすべての高さまで $A$ を正しく写す初等埋め込み」の臨界点になるものをいう。ここで $V_\alpha$ は累積階層の第 $\alpha$ 段(階数が $\alpha$ 未満の集合全体)であり、臨界点とは初等埋め込みが最初に動かす順序数である。
Woodin 基数は、巨大基数の階層では可測基数・強基数より上、超コンパクト基数より下の無矛盾性の強さを持つ(BingOst19 §4.3, p. 17)。その重要性は実数の集合の理論にある。有限個・可算個の Woodin 基数とその上の可測基数は、射影集合や $L(\mathbb R)$ の集合の決定性を導く。この記事では定義を量化の順序に注意して述べ、Woodin 基数の下に可測基数が定常的に現れること(したがって Woodin 基数は Mahlo 基数であること)と、関数を使った形が従うことを証明する。
以下では ZFC を基礎とし、$j\colon V\to M$ は推移的なクラス $M$ への初等埋め込みを表す(クラスとしての扱いは初等埋め込みの「注意」を参照)。$\operatorname{crit}(j)$ は $j$ の臨界点である。
集合 $A$、基数 $\kappa$、順序数 $\lambda>\kappa$ について、$\kappa$ が $A$ に関して $\lambda$-強であるとは、初等埋め込み $j\colon V\to M$ で
$$
\operatorname{crit}(j)=\kappa,\qquad j(\kappa)>\lambda,\qquad V_\lambda\subseteq M,\qquad j(A)\cap V_\lambda=A\cap V_\lambda
$$
を満たすものが存在することをいう。
最後の条件は、$j$ が $A$ を動かさないという意味ではない。階数が $\lambda$ 未満の集合 $x$ については「$x\in A$」と「$x\in j(A)$」が一致する、という意味である。$j(A)$ は階数が $\lambda$ 以上のところで $A$ と違ってよい。
到達不能基数 $\delta$ が Woodin 基数であるとは、すべての $A\subseteq V_\delta$ に対して、ある $\kappa<\delta$ が存在し、$\kappa<\lambda<\delta$ を満たすすべての $\lambda$ について、$\kappa$ が $A$ に関して $\lambda$-強であることをいう。
量化の順序は「$\forall A\ \exists\kappa\ \forall\lambda\ \exists j$」である。$\kappa$ は $A$ に応じて選んでよいが、一度選んだ $\kappa$ は $\delta$ 未満のすべての $\lambda$ で使えなければならない。一方、埋め込み $j$ は $\lambda$ ごとに取り替えてよい。一つの $j$ で $\delta$ 未満の全階数を処理することは要求しない。
BingOst19 §4.3, p. 17 は、$V_\lambda\subseteq M$ を課さずに $j(A)\cap V_\lambda=A\cap V_\lambda$ だけを要求し、$j(\kappa)>\lambda$ の代わりに $j(\kappa)\ge\lambda$ と書く形で定義する。この形でも、定まる Woodin 基数は同じである。この記事の定義からその形の定義が従うのは明らかなので、逆を示す。$A\subseteq V_\delta$ に対して
$$
A'=\{(0,x)\mid x\in A\}\cup\{(1,x)\mid x\in V_\delta\}\subseteq V_\delta
$$
とおき、$A'$ に対してその形の定義が与える $\kappa$ を取る。$\kappa<\lambda<\delta$ に対し、$\lambda+3<\delta$ についての $j$($\operatorname{crit}(j)=\kappa$、$j(\kappa)\ge\lambda+3$、$j(A')\cap V_{\lambda+3}=A'\cap V_{\lambda+3}$)を取る。まず $j(\kappa)\ge\lambda+3>\lambda$ である。$x\in V_\lambda$ なら順序対 $(1,x)$ の階数は $\lambda+2$ 未満なので $(1,x)\in A'\cap V_{\lambda+3}\subseteq j(A')\in M$ であり、$M$ は推移的なので $x\in M$、すなわち $V_\lambda\subseteq M$ である。また初等性から $j(A')=\{(0,x)\mid x\in j(A)\}\cup\{(1,x)\mid x\in j(V_\delta)\}$ なので、$x\in V_\lambda$ について $x\in A\Leftrightarrow(0,x)\in A'\Leftrightarrow(0,x)\in j(A')\Leftrightarrow x\in j(A)$ である。よって $\kappa$ はこの記事の意味で $A$ に関して $\lambda$-強である。
$A=\emptyset$ を指定すると、$j(\emptyset)=\emptyset$ なので最後の条件は自動的に成り立つ。したがって Woodin 基数 $\delta$ の下には、$\delta$ 未満のすべての $\lambda$ について $V_\lambda\subseteq M$、$j(\kappa)>\lambda$ となる $j$ の臨界点 $\kappa$ がある。とくに初等埋め込みの「臨界点は可測基数」により、$\delta$ 未満に可測基数がある。
$A$ として閉非有界集合 $C\subseteq\delta$($C\subseteq\delta\subseteq V_\delta$)を指定すると、$\kappa$ を $C$ の元として取れることが次の節で分かる。$A$ を選ぶことは、$\kappa$ に「$A$ から見て特別な位置にある」ことを強いる手段である。
$\delta$ を Woodin 基数とする。$C\subseteq\delta$ を閉非有界集合とし、$\kappa<\delta$ を $A=C$ に対して定義が与える基数とする。このとき $\kappa\in C$ であり、$\kappa$ は可測基数である。とくに、$\delta$ 未満の可測基数全体は $\delta$ で定常集合である。
$\kappa$ が可測であることは、$\kappa$ がある初等埋め込み $j\colon V\to M$ の臨界点であることと初等埋め込みの「臨界点は可測基数」から従う。$\kappa\in C$ を示す。$C$ は閉なので、$C\cap\kappa$ が $\kappa$ で非有界であることを示せばよい($\kappa$ は可測基数なので極限順序数である)。
$\alpha<\kappa$ を任意に取る。$C$ は $\delta$ で非有界なので $c\in C$ で $c>\kappa$ となるものがある。$\delta$ は極限順序数なので $c<\lambda<\delta$ となる $\lambda$ を取り、$\kappa$ が $C$ に関して $\lambda$-強であることを使って $j$ を取る:
$$
\operatorname{crit}(j)=\kappa,\qquad j(\kappa)>\lambda,\qquad j(C)\cap V_\lambda=C\cap V_\lambda.
$$
順序数 $c$ の階数は $c<\lambda$ なので $c\in V_\lambda$ であり、$c\in C$ から $c\in j(C)$ となる。すると
$$
j(\alpha)=\alpha<\kappa< c<\lambda< j(\kappa)
$$
なので、$M$ の中で「$j(C)$ の元 $x$ で $j(\alpha)< x< j(\kappa)$ となるものがある」が成り立つ(証人は $c$。この性質は $j(C)$ の元の範囲に制限した量化記号だけで書けるので、$M$ の中と外で同じ意味を持つ)。これは式「$C$ の元 $x$ で $\alpha< x<\kappa$ となるものがある」に $j$ を当てたものなので、初等性から $V$ でもこの式が成り立つ。よって $C\cap\kappa$ は $\alpha$ より大きい元を持つ。$\alpha<\kappa$ は任意だったので $C\cap\kappa$ は $\kappa$ で非有界であり、$C$ が閉であることから $\kappa\in C$ である。
最後の主張:どの閉非有界集合 $C\subseteq\delta$ も、いま示したように可測基数 $\kappa$ を含む。これは可測基数全体が定常であることの定義そのものである。$\square$
証明で使ったのは $A=C$ を保つ条件だけであり、$V_\lambda\subseteq M$ は使っていない。$\kappa$ は $C$ の「外」にあるかもしれない候補だったが、$j(C)$ と $C$ が $\lambda$ まで一致するために、$\kappa$ の上にある $C$ の元 $c$ が $j(C)$ の中で $\kappa$ と $j(\kappa)$ の間の証人になり、それが初等性で $\kappa$ の下へ引き戻される。
Woodin 基数 $\delta$ は Mahlo基数である。すなわち $\delta$ は到達不能であり、$\delta$ 未満の正則基数全体は $\delta$ で定常である。
到達不能性は定義に含まれる。可測基数の「可測基数は到達不能」により可測基数は正則なので、$\delta$ 未満の正則基数全体は、thm-woodin-stationary の定常集合を含む。定常集合を含む集合は定常である。$\square$
$\delta$ が Woodin 基数なら、$V_\delta$ は「ZFC + 可測基数が非有界に存在する」のモデルである。したがって ZFC +「Woodin 基数が存在する」は、ZFC +「可測基数が非有界に存在する」の無矛盾性を証明する。
$\delta$ は到達不能なので $V_\delta$ は ZFC のモデルである(到達不能基数の「到達不能基数からZFCの集合モデルが得られる」)。thm-woodin-stationary により $\delta$ 未満の可測基数は非有界である。$\kappa<\delta$ が可測で、$U$ が $\kappa$ 上の非主で $\kappa$-完備な超フィルターなら、$U\subseteq\mathcal P(\kappa)\subseteq V_{\kappa+1}$ なので $U\in V_{\kappa+2}\subseteq V_\delta$ である。$\kappa$ 未満の長さの $\mathcal P(\kappa)$ の元の列もすべて $V_\delta$ に属するので、「$U$ は非主で $\kappa$-完備な超フィルター」という主張は $V_\delta$ の中でも成り立ち、$V_\delta$ の中で $\kappa$ は可測である。よって $V_\delta$ の中で可測基数は非有界である。$\square$
Gödel の第二不完全性定理と合わせると、ZFC +「可測基数が非有界に存在する」が無矛盾なら、この理論から Woodin 基数の存在は証明できない(証明は巨大基数の「可測基数は到達不能基数の無矛盾性を証明する」の後半と同じ)。
Woodin 基数からは、集合 $A$ の代わりに関数 $f\colon\delta\to\delta$ を使う次の性質が従う。関数 $f$ について $f[\kappa]\subseteq\kappa$、すなわち $\alpha<\kappa$ なら $f(\alpha)<\kappa$ となるとき、$\kappa$ は $f$ で閉じているという。
$\delta$ を Woodin 基数とする。すべての関数 $f\colon\delta\to\delta$ に対し、$f$ で閉じている $\kappa<\delta$ と、初等埋め込み $j\colon V\to M$ で
$$
\operatorname{crit}(j)=\kappa,\qquad V_{j(f)(\kappa)}\subseteq M
$$
を満たすものが存在する。
$f$ を順序対の集合 $\{(\alpha,f(\alpha))\mid\alpha<\delta\}$ と見る。順序対 $(\alpha,\beta)$ の階数は $\max(\alpha,\beta)+2$ なので、$f\subseteq V_\delta$ である。$A=f$ に対して定義が与える $\kappa<\delta$ を取る。
まず、$\alpha<\delta$ と、$\lambda>\max(\alpha,f(\alpha),\kappa)+2$ を満たす $\lambda<\delta$、および $\kappa$ が $f$ に関して $\lambda$-強であることを示す $j$ について
$$
j(f)(\alpha)=f(\alpha)\tag{*}
$$
が成り立つ。実際、$(\alpha,f(\alpha))\in f\cap V_\lambda=j(f)\cap V_\lambda$ であり、$j(f)$ は $M$ の中で関数なので、$j(f)$ の $\alpha$ での値は $f(\alpha)$ である。
$f$ で閉じていること:$\alpha<\kappa$ とし、上のように $\lambda$ と $j$ を取る。初等性から $j(f)(j(\alpha))=j(f(\alpha))$ であり、$j(\alpha)=\alpha$ と $(*)$ から $j(f(\alpha))=f(\alpha)$ となる。もし $f(\alpha)\ge\kappa$ なら、$j$ は順序数について単調なので $j(f(\alpha))\ge j(\kappa)>\lambda>f(\alpha)$ となり矛盾する。よって $f(\alpha)<\kappa$ である。
埋め込みの条件:$\lambda:=\max(f(\kappa),\kappa)+3<\delta$ とし、$\kappa$ が $f$ に関して $\lambda$-強であることを示す $j$ を取る。$(*)$ を $\alpha=\kappa$ に当てると $j(f)(\kappa)=f(\kappa)<\lambda$ なので、$V_{j(f)(\kappa)}\subseteq V_\lambda\subseteq M$ である。$\operatorname{crit}(j)=\kappa$ はもともと成り立つ。$\square$
この性質は、$f$ が大きく伸びる関数であっても、$\kappa$ が $f$ で閉じ、しかも $M$ が $V$ を $j(f)(\kappa)$ の高さまで含むことを要求する。$f$ を速く増える関数に取るほど、$M$ に要求される高さが大きくなる。
定義の条件を外したり、近い性質で置き換えたりすると、Woodin 基数でなくなる例がある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $A$ を保つ条件($A=\emptyset$ の場合だけ要求する) | 強基数 $\kappa_0$ より大きい最小の到達不能基数 $\delta$(どちらも存在を仮定) | Mahlo 基数でないので Woodin 基数でない |
| 埋め込みの条件全体(可測性だけにする) | 最小の可測基数 $\kappa_m$ | 下に可測基数がないので Woodin 基数でない |
強基数 $\kappa_0$(すべての $\lambda>\kappa_0$ について $\lambda$-強な基数、巨大基数の定義を参照)と、それより大きい到達不能基数があると仮定し、そのうち最小のものを $\delta$ とする。
$A$ を保つ条件を外した定義は $\delta$ で成り立つ:どの $A$ についても $\kappa=\kappa_0$ とすればよい。$\kappa_0<\lambda<\delta$ に対し、$\kappa_0$ が $(\lambda+1)$-強であることから $j(\kappa_0)\ge\lambda+1>\lambda$、$V_\lambda\subseteq V_{\lambda+1}\subseteq M$ となる $j$ が取れる。
しかし $\delta$ は Mahlo 基数でない。$C$ を $\kappa_0<\mu<\delta$ を満たす強極限基数 $\mu$ の全体とする。$C$ は閉である(強極限基数の上限はまた強極限基数)。$C$ は非有界でもある:$\alpha<\delta$ に対し $\mu_0=\max(\alpha,\kappa_0)$、$\mu_{n+1}=2^{\mu_n}$ とおくと、$\delta$ が強極限なので $\mu_n<\delta$、$\delta$ が非可算で正則なので $\mu=\sup_n\mu_n<\delta$ であり、$\mu$ は $\alpha$ より大きい強極限基数である。$C$ の元 $\mu$ が正則なら、$\mu>\kappa_0$ は非可算な正則強極限基数、すなわち到達不能基数になり、$\delta$ の最小性に反する。よって $C$ は正則基数を含まず、$\delta$ 未満の正則基数全体は定常でない。cor-woodin-mahlo により $\delta$ は Woodin 基数でない。
2 行目は thm-woodin-stationary から直ちに従う:Woodin 基数の下には可測基数があるので、最小の可測基数は Woodin 基数ではない。可測性は Woodin 性を含意しない。
量化の順序を「$\forall A\ \forall\lambda\ \exists\kappa$」に入れ替えると、$\kappa$ を $\lambda$ ごとに選び直せるので条件は弱くなる。thm-woodin-stationary の証明では、$\alpha$ ごとに取り替える $\lambda$ に対して同じ $\kappa$ を使うことが本質だった。
Woodin 基数の仮定からは、実数の集合の決定性が導かれる。実数の列を二人が交互に自然数を選んで作るゲームで、どちらかに必勝戦略があるとき、その勝ちの集合を決定的という(決定性公理)。次の定理はいずれもこの記事では証明しない(所在は Koe13 §3.2)。
$L(\mathbb R)$ は実数全体から始めて定義可能な部分集合を取る操作を繰り返して得る内部モデルであり、結論は宇宙 $V$ 全体の決定性ではない($V$ では選択公理により決定的でない集合が作れる)。また、仮定の個数は本質的である。$L(\mathbb R)$ の決定性は、可算無限個の Woodin 基数の存在と無矛盾性の強さが等しいことが知られている(BingOst19 §7.2, p. 35)。一個の Woodin 基数を仮定するだけでは、$L(\mathbb R)$ の決定性を導く上の定理の仮定は満たされない。
Woodin 基数の存在は ZFC の定理ではなく、追加の公理である。到達不能基数の存在を含意するので、ZFC が無矛盾なら ZFC からは証明できない(到達不能基数の「ZFCからの証明不可能性」)。これは存在が否定されたという意味ではない。
$j\colon V\to M$ はクラスについての記法であり、定義の「初等埋め込みが存在する」は式ごとの図式やクラスを扱う理論で解釈する(初等埋め込みの「注意」)。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する