局所自由層

同義語:locally free sheaf局所自由加群層

概要

局所自由層(locally free sheaf)とは、環付き空間 $(X,\mathcal{O}_X)$ 上の $\mathcal{O}_X$ 加群層のうち、各点の近傍 $U$ で構造層の有限直和 $\mathcal{O}_U^{\oplus n}$ と同型になるものをいい、$n$ を階数という。スキーム上では幾何的ベクトル束の切断の層にほかならず、同型類は $\mathrm{GL}_n$ 値の遷移関数の Čech コホモロジーで分類される。局所 Noether スキーム上の連接層では、局所自由・各茎が自由・平坦が同値である。双対・テンソル積・Hom・外積で閉じ、階数 $1$ のものが可逆層である。$\mathcal{O}^{\oplus n}$ や非特異多様体の接層が例で、摩天楼層や尖点をもつ曲線の $\Omega^1$ は連接だが局所自由でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 環付き空間, スキーム, 層, 加群, 自由加群, 準連接層, 連接層, 平坦加群

定義

局所自由層は、環付き空間 $(X,\mathcal{O}_X)$ 上の $\mathcal{O}_X$ 加群の層($\mathcal{O}_X$ 加群層)のうち、各点の近くで構造層の有限個の直和 $\mathcal{O}_X^{\oplus n}$ と同型になるものである。スキームの上ではベクトル束の切断の層にあたり、連接層のうちもっとも扱いやすい類をなす。

局所自由層と階数

$(X,\mathcal{O}_X)$ を環付き空間、$\mathcal{E}$ を $\mathcal{O}_X$ 加群層とする。

  1. $\mathcal{E}$ が局所自由(locally free)である、または局所自由層(locally free sheaf)であるとは、$X$ の各点 $x$ に対して、$x$ の開近傍 $U$ と集合 $I$ があって、$\mathcal{O}_U$ 加群層の同型 $\mathcal{E}|_U\cong\mathcal{O}_U^{\oplus I}$ が存在することをいう($\mathcal{O}_U:=\mathcal{O}_X|_U$、$\mathcal{O}_U^{\oplus I}$ は $I$ で添字づけた $\mathcal{O}_U$ の直和)。
  2. $\mathcal{E}$ が有限階数の局所自由層(locally free sheaf of finite rank)であるとは、1 の $I$ を各点で有限集合にとれることをいう。$I$ の元の個数 $n$ を点 $x$ における $\mathcal{E}$ の階数(rank)といい、$\operatorname{rank}_x\mathcal{E}$ と書く。すべての点で階数が $n$ に等しいとき、$\mathcal{E}$ を階数 $n$ の局所自由層という。
  3. 階数 $1$ の局所自由層を可逆層という。

以下、断りのない限り「局所自由層」は有限階数のものを指す。階数が定まるには $\mathcal{O}_U^{\oplus m}\cong\mathcal{O}_U^{\oplus n}$ から $m=n$ が従う必要がある。各点の茎 $\mathcal{O}_{X,x}$ が局所環のとき(局所環付き空間。スキームや複素多様体はそうである)、剰余体 $\kappa(x)=\mathcal{O}_{X,x}/\mathfrak{m}_x$ をテンソルして $\kappa(x)^{m}\cong\kappa(x)^{n}$ を得るからよく、より一般に $\mathcal{O}_{X,x}\neq0$ なら可換環上の自由加群の階数は一意である(AM69 第 2 章演習 3)。本記事では局所環付き空間だけを扱う。

点でのファイバー

$(X,\mathcal{O}_X)$ を局所環付き空間、$\mathcal{F}$ を $\mathcal{O}_X$ 加群層、$x\in X$ とする。$\kappa(x)$ ベクトル空間
$$ \mathcal{F}(x):=\mathcal{F}_x\otimes_{\mathcal{O}_{X,x}}\kappa(x)=\mathcal{F}_x/\mathfrak{m}_x\mathcal{F}_x $$
を $\mathcal{F}$ の点 $x$ におけるファイバー(fiber)といい、その次元 $\dim_{\kappa(x)}\mathcal{F}(x)$ を $\mathcal{F}$ の $x$ でのファイバー次元という。

局所自由層 $\mathcal{E}$ では $\mathcal{E}(x)\cong\kappa(x)^n$ であり、ファイバー次元は階数に一致する。一般の $\mathcal{O}_X$ 加群層では、ファイバー次元は点ごとに変わりうる(ex-locally-free-sheaf-ideal-of-point)。

階数の局所定数性と連接性

$(X,\mathcal{O}_X)$ を局所環付き空間、$\mathcal{E}$ を有限階数の局所自由層とする。

  1. 階数関数 $x\mapsto\operatorname{rank}_x\mathcal{E}$ は $X$ 上の局所定数関数である。とくに $X$ が連結空間なら $\mathcal{E}$ の階数は一定である。
  2. $X$ がスキームなら、$\mathcal{E}$ は準連接層であり、さらに $\mathcal{O}_X$ が連接(たとえば $X$ が局所Noetherスキーム)なら $\mathcal{E}$ は連接層である。
定義からの確認
  1. 点 $x$ の開近傍 $U$ で $\mathcal{E}|_U\cong\mathcal{O}_U^{\oplus n}$ なら、同じ同型により $U$ の各点 $y$ で $\operatorname{rank}_y\mathcal{E}=n$ である。よって階数関数は局所定数であり、連結空間上では定数である(値 $n$ の逆像が開集合かつ閉集合だから)。
  2. $\mathcal{E}$ が自由になる開集合に含まれるアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ たちは $X$ を覆い、その上で $\mathcal{E}\cong\widetilde{A^{\oplus n}}$ だから $\mathcal{E}$ は準連接である。$\mathcal{O}_X$ が連接なら $\mathcal{O}_X^{\oplus n}$ は連接層の有限直和として連接であり(連接層の記事の補題)、連接性は局所的な性質だから $\mathcal{E}$ は連接である。$\square$

直感

局所自由層は、$\mathcal{O}_X$ 加群層のうち各点の近くで $\mathcal{O}^{\oplus n}$ という自明な形をしているものである。ベクトル束が局所的に $U\times\mathbb{K}^n$ であるのと同じ発想で、実際スキーム上では局所自由層と幾何的ベクトル束は同じものである(thm-locally-free-sheaf-vector-bundle)。その情報は自明化の貼り合わせを記述する一般線型群 $\mathrm{GL}_n$ 値の遷移関数に集約され、同型類はČechコホモロジー $\check{H}^1(X,\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X))$ で分類される(thm-locally-free-sheaf-transition)。
連接層の側から見ると、局所自由層は「平坦(平坦加群)な連接層」「各茎が自由な連接層」であり(thm-locally-free-sheaf-flat)、ファイバー次元が跳ばない連接層である。捩れ元をもつ連接層や、閉部分集合の上にだけ載っている連接層は局所自由でない(ex-locally-free-sheaf-skyscraper、ex-locally-free-sheaf-cusp)。射影スキーム上の任意の連接層は局所自由層の直和の商として書けるので(連接層の記事の Serre の定理)、局所自由層は連接層のコホモロジーや Chern類、Grothendieck群を計算する際の基本的な部品である。

例と反例

自由層と射影空間上のひねり
  1. 任意の環付き空間で $\mathcal{O}_X^{\oplus n}$ は階数 $n$ の局所自由層である。これを自由層(free sheaf)または自明な局所自由層という。$\mathcal{E}\cong\mathcal{O}_X^{\oplus n}$ となることを $\mathcal{E}$ が自明(trivial)であるという。
  2. 体 $k$ 上の射影空間 $\mathbb{P}^n_k=\operatorname{Proj}k[x_0,\dots,x_n]$($n\ge1$)上の Serre のひねり層 $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}(d)$($d\in\mathbb{Z}$)は可逆層である。実際、アフィン開集合 $U_i=D_+(x_i)$ の上で $x_i^d$ 倍が同型 $\mathcal{O}_{U_i}\to\mathcal{O}(d)|_{U_i}$ を与える(Har77 II.5.12)。$d\neq0$ なら $\mathcal{O}(d)$ は自明でない。大域切断の空間 $\Gamma(\mathbb{P}^n,\mathcal{O}(d))$ は $d\ge0$ なら次数 $d$ の斉次多項式の空間、$d<0$ なら $0$ であり(Har77 II.5.13)、$d\neq0$ ならその次元は $\Gamma(\mathbb{P}^n,\mathcal{O})=k$ の次元 $1$ と異なるからである。
  3. 直和 $\mathcal{O}(d_1)\oplus\dots\oplus\mathcal{O}(d_r)$ は階数 $r$ の局所自由層である。$\mathbb{P}^1$ 上の $\mathcal{O}(1)\oplus\mathcal{O}(-1)$ と $\mathcal{O}^{\oplus2}$ は大域切断の次元がともに $2$ だが同型でない。$\mathcal{O}(-1)$ をテンソルすると $\mathcal{O}\oplus\mathcal{O}(-2)$ と $\mathcal{O}(-1)^{\oplus2}$ になり、大域切断の次元が $1$ と $0$ で異なるからである。
接層・余接層と Euler 列

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の非特異多様体(非特異多様体。$k$ 上有限型・整・分離的で各局所環が正則局所環であるスキーム)で $\dim X=n$ とする。Kähler微分の層 $\Omega^1_{X/k}$ は階数 $n$ の局所自由層である(Har77 II.8.15)。その双対 $\mathcal{T}_X:=\mathcal{H}om_{\mathcal{O}_X}(\Omega^1_{X/k},\mathcal{O}_X)$ を接層(tangent sheaf)といい、prop-locally-free-sheaf-closure によりこれも階数 $n$ の局所自由層である。$p$ 次の外積 $\Omega^p_{X/k}:=\bigwedge^p\Omega^1_{X/k}$ は階数 $\binom{n}{p}$ の局所自由層で、$\omega_X:=\Omega^n_{X/k}$ は可逆層(標準層、可逆層の記事)である。
射影空間 $\mathbb{P}^n_k$ では、$\Omega^1_{\mathbb{P}^n/k}$ は Euler 列(Euler sequence)とよばれる $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}$ 加群層の短完全列
$$ 0\longrightarrow\Omega^1_{\mathbb{P}^n/k}\longrightarrow\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}(-1)^{\oplus(n+1)}\longrightarrow\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}\longrightarrow0 $$
に入る(Har77 II.8.13)。右の射は $\mathcal{O}(-1)^{\oplus(n+1)}$ の $i$ 番目の成分を $x_i$ 倍して $\mathcal{O}$ に送る射で、$\Gamma(\mathbb{P}^n,\mathcal{O}(1))$ の基底 $x_0,\dots,x_n$ が定める。$U_i=D_+(x_i)$ の上では右の射は $i$ 番目の成分で分裂(分裂完全列)するので、$\Omega^1|_{U_i}$ は $\mathcal{O}(-1)^{\oplus(n+1)}|_{U_i}\cong\mathcal{O}_{U_i}^{\oplus(n+1)}$ の直和因子 $\mathcal{O}_{U_i}^{\oplus n}$ と同型になり、$\Omega^1_{\mathbb{P}^n/k}$ が階数 $n$ の局所自由層であることがこの列から直接わかる。また $n$ 次の外積をとると $\omega_{\mathbb{P}^n}\cong\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n}(-n-1)$ が得られる(Har77 II.8.13、II 例 8.20.1)。

反例:摩天楼層

$k$ を体、$X=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]$、$p$ を原点(極大イデアル $(x)$ に対応する閉点)とし、$i\colon\{p\}\hookrightarrow X$ を包含とする。$\mathcal{F}:=i_*k$、すなわち $p$ を含む開集合 $U$ で $\mathcal{F}(U)=k$、含まない開集合で $\mathcal{F}(U)=0$ とおいた層を $p$ における摩天楼層(skyscraper sheaf)という。$\mathcal{F}$ は $x$ 倍写像 $\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_X$ の余核 $\widetilde{k[x]/(x)}$ に等しく、連接層である。
$\mathcal{F}$ は局所自由でない。実際、茎は $\mathcal{F}_p=k\neq0$、$q\neq p$ で $\mathcal{F}_q=0$ であり、$p$ のどの開近傍 $U$ にも $p$ と異なる点 $q$ が含まれる($X$ の空でない開集合は稠密だから)。もし $\mathcal{F}|_U\cong\mathcal{O}_U^{\oplus n}$ なら、$q$ の茎を見て $0=\mathcal{F}_q\cong\mathcal{O}_{X,q}^{\oplus n}$ より $n=0$、一方 $p$ の茎を見て $k=\mathcal{F}_p\cong\mathcal{O}_{X,p}^{\oplus n}=0$ となり矛盾する。
この例が示すこと:$\mathcal{F}$ は連接(有限型・有限表示)である(満たす性質)が、局所自由でない(満たさない性質。破る含意:「連接層は局所自由」)。破れているのは「各茎が自由」の条件($\mathcal{F}_p=k$ は $x$ で消えるので $\mathcal{O}_{X,p}=k[x]_{(x)}$ 上自由でない)であり、同時に平坦性も破れ(thm-locally-free-sheaf-flat)、ファイバー次元は $p$ で $1$、他の点で $0$ と跳ぶ。一般に、整スキーム $X$ の閉部分スキーム $Z\subsetneq X$ の上の $0$ でない層の順像は、台(層)が $X$ 全体でないので局所自由でない。

反例:尖点をもつ曲線の微分の層

$k$ を体、$A:=k[x,y]/(y^2-x^3)$、$X:=\operatorname{Spec}A$ とする。$X$ は原点 $o$(極大イデアル $\mathfrak{m}=(x,y)$)に尖点をもつ平面曲線で、$A$ は $x\mapsto t^2$、$y\mapsto t^3$ により多項式環 $k[t]$ の部分環 $k[t^2,t^3]$ と同型な整域である。$\Omega^1_{X/k}=\widetilde{\Omega_{A/k}}$ は連接層であり、$\Omega_{A/k}=(A\,dx\oplus A\,dy)/A\rho$、$\rho:=3x^2\,dx-2y\,dy$ である。Kähler微分の記事の反例(尖点における捩れ元)で示されているとおり、$\omega:=2x\,dy-3y\,dx\in\Omega_{A/k}$ は $\omega\neq0$ かつ $y\omega=0$ をみたす、$0$ でない捩れ元である。
$\Omega^1_{X/k}$ が局所自由でないことを示す。整域 $A$ 上の自由加群とその局所化は捩れ元をもたないので、$\omega/1\in(\Omega_{A/k})_{\mathfrak{m}}$ が $0$ でないことを示せば、$o$ での茎 $(\Omega_{A/k})_{\mathfrak{m}}$ は自由でなく、$\Omega^1_{X/k}$ は $o$ の近傍で自由でない。$\omega/1=0$ なら $s\omega=0$ となる $s\in A\setminus\mathfrak{m}$ がある。$y^2=x^3$ より $y$ を含む素イデアルは $x$ も含むので $V(y)=\{o\}$ であり、$s\notin\mathfrak{m}$ から $V(s,y)=\emptyset$、すなわち $(s,y)=A$ で $1=as+by$($a,b\in A$)と書ける。すると $\omega=as\omega+by\omega=0$ となって矛盾する。なお $D(y)=\operatorname{Spec}A_y$ の上では $A_y=k[t,t^{-1}]$ なので $(\Omega_{A/k})_y=\Omega_{A_y/k}$ は $dt$ を基底とする自由 $A_y$ 加群であり、$\omega$ の台は原点だけである。
別の見方をすると、$\rho\in\mathfrak{m}(A\,dx\oplus A\,dy)$ だから原点でのファイバー $\Omega_{A/k}\otimes_Ak=k\,dx\oplus k\,dy$ は次元 $2$、$D(y)$ の点では次元 $1$ である。$X$ は既約(既約空間)ゆえ連結なので、局所自由なら階数は一定でなければならず(prop-locally-free-sheaf-rank)、これだけからも局所自由でないことがわかる。
この例が示すこと:$k$ 上有限型のスキームの $\Omega^1_{X/k}$ はつねに連接である(満たす性質)が、局所自由とは限らず(満たさない性質)、ex-locally-free-sheaf-tangent の「非特異」の仮定は外せない(破る含意:「$k$ 上有限型のスキームの微分の層は局所自由」)。実際、$k$ が代数閉体で $X$ が $k$ 上の多様体なら、$\Omega^1_{X/k}$ が点 $x$ の近傍で階数 $\dim X$ の局所自由層であることと $x$ が非特異点であることは同値である(Har77 II.8.15)。

反例:ファイバー次元が跳ぶ連接層

$k$ を体、$X=\mathbb{A}^2_k=\operatorname{Spec}k[x,y]$、$\mathcal{I}:=\widetilde{(x,y)}$ を原点 $o$ のイデアル層とする。$\mathcal{I}$ は連接層であり、$X\setminus\{o\}=D(x)\cup D(y)$ 上では $\mathcal{O}_X$ に一致するので階数 $1$ の自由層である。しかし $o$ でのファイバー $\mathcal{I}\otimes\kappa(o)=(x,y)/(x,y)^2$ は $x,y$ を基底とする $2$ 次元 $k$ ベクトル空間なので、$\mathcal{I}$ は局所自由でない(prop-locally-free-sheaf-rank)。茎で言えば、$\mathcal{I}_o=(x,y)k[x,y]_{(x,y)}$ が自由なら、その階数は関数体 $K=k(x,y)$ をテンソルした $\mathcal{I}_o\otimes K=K$ の次元 $1$ に等しく $1$ 元で生成されるはずだが、最小生成元の個数はNakayamaの補題によりファイバーの次元 $2$ である。
この例が示すこと:$\mathcal{I}$ は連接で、ex-locally-free-sheaf-skyscraper と違い捩れ元をもたず($\mathcal{O}_X$ の部分層だから)、生成点での階数は $1$ である(満たす性質)が、局所自由でない(満たさない性質)。破る含意は「整スキーム上の捩れのない連接層で生成点での階数が $1$ のものは可逆層」である。逆に、被約スキームの上では、連接層のファイバー次元が局所定数であることと局所自由であることは同値である(連接層の記事の補足、Har77 II 演習 5.8)。被約でない場合はこの同値は崩れる($\operatorname{Spec}k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ 上の $\widetilde{k}$)。

性質

平坦性・茎の自由性による特徴づけ

鍵は「Noether 局所環上の有限生成平坦加群は自由」という可換環論の事実と、「茎で成り立つ同型が近傍に広がる」という有限型の層の性質である。

Noether 局所環上の有限生成平坦加群は自由

$(A,\mathfrak{m},k)$ を Noether 局所環(Noether環かつ局所環)、$M$ を有限生成の平坦加群とする。このとき $M$ は有限階数の自由 $A$ 加群であり、その階数は $\dim_kM\otimes_Ak$ に等しい。

Nakayama の補題と Tor による証明

$n:=\dim_kM\otimes_Ak$ とおき($M$ は有限生成なので有限)、$k$ ベクトル空間 $M\otimes_Ak=M/\mathfrak{m}M$ の基底 $\bar m_1,\dots,\bar m_n$ を $m_1,\dots,m_n\in M$ に持ち上げる。$u\colon A^{\oplus n}\to M$ を $e_i\mapsto m_i$ で定めると、$u$ の余核 $C$ は有限生成で $C/\mathfrak{m}C=0$ をみたすので、Nakayamaの補題により $C=0$、すなわち $u$ は全射である。$K:=\ker u$ は Noether 加群 $A^{\oplus n}$ の部分加群なので有限生成である。短完全列 $0\to K\to A^{\oplus n}\to M\to0$ に $-\otimes_Ak$ を施すと、Tor関手の長完全列
$$ \operatorname{Tor}_1^A(M,k)\longrightarrow K\otimes_Ak\longrightarrow k^{\oplus n}\longrightarrow M\otimes_Ak\longrightarrow0 $$
が得られる。$M$ は平坦なので $\operatorname{Tor}_1^A(M,k)=0$ であり、$k^{\oplus n}\to M\otimes_Ak$ は $\bar m_i$ が基底であることから同型である。よって $K\otimes_Ak=K/\mathfrak{m}K=0$ であり、$K$ は有限生成なので再び Nakayama の補題により $K=0$ である。したがって $u$ は同型で、$M\cong A^{\oplus n}$ である。$\square$

有限型の層の台は閉

$(X,\mathcal{O}_X)$ を環付き空間、$\mathcal{G}$ を有限型の $\mathcal{O}_X$ 加群層(各点の近傍 $U$ で全射 $\mathcal{O}_U^{\oplus n}\to\mathcal{G}|_U$ をもつ層)とする。点 $x$ で $\mathcal{G}_x=0$ なら、$x$ の開近傍 $V$ があって $\mathcal{G}|_V=0$ である。すなわち $\mathcal{G}$ の台(台(層))$\operatorname{Supp}\mathcal{G}=\{x\mid\mathcal{G}_x\neq0\}$ は閉集合である。

証明の所在

証明は連接層の記事の命題(台と茎)に譲る。要点は、$x$ の近傍 $U$ で $\mathcal{G}$ を生成する有限個の切断 $s_1,\dots,s_m$ の芽が $x$ で $0$ なら、$x$ のある近傍 $V\subset U$ で $s_i|_V=0$ となり、$V$ の各点の茎が $0$ で生成されることである。

局所自由層の特徴づけ

$X$ を局所 Noether スキーム、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接層とする。次は同値である。

  1. $\mathcal{F}$ は有限階数の局所自由層である。
  2. 各点 $x$ で茎 $\mathcal{F}_x$ は有限階数の自由 $\mathcal{O}_{X,x}$ 加群である。
  3. 各点 $x$ で茎 $\mathcal{F}_x$ は平坦 $\mathcal{O}_{X,x}$ 加群である($\mathcal{F}$ は $X$ 上平坦である)。
茎の同型を近傍に広げる証明

1 ⟹ 2 は $\mathcal{F}|_U\cong\mathcal{O}_U^{\oplus n}$ の茎をとればよく、2 ⟹ 3 は自由加群が平坦だからである。3 ⟹ 2:連接層の茎 $\mathcal{F}_x$ は Noether 局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ 上の有限生成加群なので、lem-locally-free-sheaf-flat-local により平坦なら自由である。
2 ⟹ 1:点 $x$ をとり、$\mathcal{F}_x$ の基底 $\bar s_1,\dots,\bar s_n$ を $x$ の開近傍 $U$ 上の切断 $s_1,\dots,s_n\in\mathcal{F}(U)$ で表す。これらが定める射 $u\colon\mathcal{O}_U^{\oplus n}\to\mathcal{F}|_U$ は $x$ の茎で同型である。余核 $\mathcal{C}:=\operatorname{coker}u$ は連接層 $\mathcal{F}|_U$ の商として有限型であり $\mathcal{C}_x=0$ なので、lem-locally-free-sheaf-support により $x$ の開近傍 $V$ で $\mathcal{C}|_V=0$、すなわち $u|_V$ は全射である。核 $\mathcal{K}:=\ker u|_V$ は連接層の間の射の核なので連接、とくに有限型であり(連接層の記事の系)、$\mathcal{K}_x=0$ だから再び lem-locally-free-sheaf-support により $x$ の開近傍 $W\subset V$ で $\mathcal{K}|_W=0$ である。よって $u|_W\colon\mathcal{O}_W^{\oplus n}\to\mathcal{F}|_W$ は同型であり、$\mathcal{F}$ は $x$ の近傍で自由である。$\square$

定理の使い方と Noether 性の除去

証明の 2 ⟹ 1 は、連接層の茎が自由になる点の集合が開集合であることを示している(連接層の記事の補足)。Noether 性は次のように外せる。任意のスキーム上の有限表示の準連接層(有限表示加群を貼り合わせた層)$\mathcal{F}$ について「局所自由」と「各茎が平坦」は同値である。実際、局所環上の有限表示平坦加群は自由であり(Eis95 付録 A3、Stacks Tag 00NX)、有限表示加群への自由加群からの全射の核は有限生成なので、上と同じ広がりの議論が使える。この形の主張により、Brauer群やAzumaya代数の理論で「有限局所自由」(有限・平坦・有限表示)とよばれる加群層は局所自由層にほかならない。局所自由性は忠実平坦降下で降下する(平坦性・有限表示性がそれぞれ降下するため)。「有限型かつ平坦」だけでは、Noether でない環の上では局所自由にならない例がある(絶対平坦環 $A$ と有限生成でないイデアル $I$ に対する $\widetilde{A/I}$:茎はすべて $0$ か剰余体だが、台 $V(I)$ が開でない)。

双対・テンソル積・Hom・外積で閉じること

局所自由層の構成で閉じること

$(X,\mathcal{O}_X)$ を局所環付き空間、$\mathcal{E},\mathcal{F}$ を階数 $m,n$ の局所自由層とする。

  1. 直和 $\mathcal{E}\oplus\mathcal{F}$ は階数 $m+n$、テンソル積 $\mathcal{E}\otimes_{\mathcal{O}_X}\mathcal{F}$ は階数 $mn$ の局所自由層である。
  2. $\mathcal{H}om_{\mathcal{O}_X}(\mathcal{E},\mathcal{F})$($U\mapsto\operatorname{Hom}_{\mathcal{O}_U}(\mathcal{E}|_U,\mathcal{F}|_U)$ で定まる層)は階数 $mn$ の局所自由層である。とくに双対層 $\mathcal{E}^\vee:=\mathcal{H}om_{\mathcal{O}_X}(\mathcal{E},\mathcal{O}_X)$ は階数 $m$ の局所自由層であり、自然な射 $\mathcal{E}\to\mathcal{E}^{\vee\vee}$ と $\mathcal{E}^\vee\otimes\mathcal{F}\to\mathcal{H}om(\mathcal{E},\mathcal{F})$ は同型である。
  3. $p$ 次外積 $\bigwedge^p\mathcal{E}$ は階数 $\binom{m}{p}$、$p$ 次対称積 $\operatorname{Sym}^p\mathcal{E}$ は階数 $\binom{m+p-1}{p}$ の局所自由層である。
  4. 任意の点 $x$ での茎は $\mathcal{E}_x\cong\mathcal{O}_{X,x}^{\oplus m}$ であり、$(\mathcal{E}^\vee)_x\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal{O}_{X,x}}(\mathcal{E}_x,\mathcal{O}_{X,x})$、$(\mathcal{E}\otimes\mathcal{F})_x\cong\mathcal{E}_x\otimes_{\mathcal{O}_{X,x}}\mathcal{F}_x$ である。
Hom 層と双対についての証明

どの主張も局所的なので、点 $x$ の開近傍 $U$ で $\mathcal{E}|_U\cong\mathcal{O}_U^{\oplus m}$、$\mathcal{F}|_U\cong\mathcal{O}_U^{\oplus n}$ としてよい。2 を詳しく示す。
$\mathcal{H}om$ 層は制限と交換する($\mathcal{H}om_{\mathcal{O}_X}(\mathcal{E},\mathcal{F})|_U$ と $\mathcal{H}om_{\mathcal{O}_U}(\mathcal{E}|_U,\mathcal{F}|_U)$ の $V\subset U$ 上の切断はともに $\operatorname{Hom}_{\mathcal{O}_V}(\mathcal{E}|_V,\mathcal{F}|_V)$ だから)。よって $\mathcal{H}om(\mathcal{O}_U^{\oplus m},\mathcal{O}_U^{\oplus n})\cong\mathcal{O}_U^{\oplus mn}$ を示せばよく、有限直和は $\mathcal{H}om$ の両変数で直和に変わるので $\mathcal{H}om(\mathcal{O}_U,\mathcal{O}_U)\cong\mathcal{O}_U$ に帰着する。開集合 $V\subset U$ に対し、射 $\varphi\colon\mathcal{O}_V\to\mathcal{O}_V$ は $a:=\varphi_V(1)\in\mathcal{O}(V)$ で決まり($W\subset V$、$b\in\mathcal{O}(W)$ に対し $\varphi_W(b)=\varphi_W(b\cdot1|_W)=b\,a|_W$)、逆に $a$ 倍は射を定める。この対応は制限と両立するので $\mathcal{H}om(\mathcal{O}_U,\mathcal{O}_U)\cong\mathcal{O}_U$ である。これで $\mathcal{H}om(\mathcal{E},\mathcal{F})$ は階数 $mn$ の、$\mathcal{E}^\vee$($n=1$ の場合)は階数 $m$ の局所自由層である。自然な射 $\mathcal{E}\to\mathcal{E}^{\vee\vee}$($s\mapsto(\varphi\mapsto\varphi(s))$)と $\mathcal{E}^\vee\otimes\mathcal{F}\to\mathcal{H}om(\mathcal{E},\mathcal{F})$($\varphi\otimes t\mapsto(s\mapsto\varphi(s)t)$)が同型であることは局所的な性質だから $U$ 上で確かめればよく、上の同一視のもとで前者は $\mathcal{O}_U^{\oplus m}$ の恒等射、後者は同型 $\mathcal{O}_U^{\oplus m}\otimes\mathcal{O}_U^{\oplus n}\cong\mathcal{O}_U^{\oplus mn}$ に対応する。
1 と 3:$\mathcal{E}\otimes_{\mathcal{O}_X}\mathcal{F}$ は前層 $V\mapsto\mathcal{E}(V)\otimes_{\mathcal{O}(V)}\mathcal{F}(V)$ の層化であり、外積・対称積も同様である。層化は制限と交換し、$U$ 上では加群の同型 $A^{\oplus m}\otimes_AA^{\oplus n}\cong A^{\oplus mn}$、$\bigwedge^pA^{\oplus m}\cong A^{\oplus\binom{m}{p}}$、$\operatorname{Sym}^pA^{\oplus m}\cong A^{\oplus\binom{m+p-1}{p}}$ が各開集合で整合的に成り立つので、前層の段階で自由層と同型である。4:茎をとる操作は制限と交換するので $U$ 上の同一視から従う。$\square$

階数 $1$ の場合、2 の同型は $\mathcal{L}^\vee\otimes\mathcal{L}\cong\mathcal{H}om(\mathcal{L},\mathcal{L})\cong\mathcal{O}_X$ を与え、可逆層の同型類がテンソル積で群(Picard群)をなすことの根拠になる。可逆層に固有の性質(Cartier因子との対応、次数と切断、Picard 群)は可逆層の記事に譲る。

ベクトル束との対応

スキーム上では、局所自由層は幾何的な対象としてのベクトル束と同じものである。まずベクトル束を定義する。

スキーム上の幾何的ベクトル束

$X$ をスキームとする。$X$ 上の階数 $n$ の幾何的ベクトル束(geometric vector bundle)とは、スキームの射 $\pi\colon V\to X$ と、$X$ の開被覆 $\{U_i\}$ および $U_i$ 上のスキームの同型 $\psi_i\colon\pi^{-1}(U_i)\to\mathbb{A}^n_{U_i}=\mathbf{Spec}_{U_i}\mathcal{O}_{U_i}[t_1,\dots,t_n]$ の組であって、任意の $i,j$ と任意のアフィン開集合 $W=\operatorname{Spec}A\subset U_i\cap U_j$ について、合成 $\psi_j\circ\psi_i^{-1}\colon\mathbb{A}^n_W\to\mathbb{A}^n_W$ が $A$ 代数の同型 $A[t_1,\dots,t_n]\to A[t_1,\dots,t_n]$ で各 $t_k$ を $t_1,\dots,t_n$ の $A$ 係数一次形式に送るもの(線型な座標変換)から定まっているものをいう。開集合 $U\subset X$ 上の $V$ の切断とは、$\pi\circ s=\mathrm{id}_U$ をみたすスキームの射 $s\colon U\to V$ のことである。

局所自由層とベクトル束の対応

$X$ をスキーム、$\mathcal{E}$ を階数 $n$ の局所自由層とし、$\operatorname{Sym}\mathcal{E}^\vee=\bigoplus_{p\ge0}\operatorname{Sym}^p\mathcal{E}^\vee$ を双対層の対称代数の層(準連接 $\mathcal{O}_X$ 代数)、
$$ \mathbb{V}(\mathcal{E}):=\mathbf{Spec}_X\operatorname{Sym}\mathcal{E}^\vee\xrightarrow{\ \pi\ }X $$
を相対スペクトル(相対Spec)とする。このとき $\pi\colon\mathbb{V}(\mathcal{E})\to X$ は階数 $n$ の幾何的ベクトル束であり、開集合 $U\subset X$ 上の切断の集合は $\Gamma(U,\mathcal{E})$ と、$U$ について自然に同型である。すなわち $\mathbb{V}(\mathcal{E})$ の切断の層は $\mathcal{E}$ である。

相対 Spec の普遍性による証明

相対スペクトル $\mathbf{Spec}_X\mathcal{A}$($\mathcal{A}$ は準連接 $\mathcal{O}_X$ 代数)の基本性質として、アフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}A\subset X$ 上で $\pi^{-1}(U)=\operatorname{Spec}\Gamma(U,\mathcal{A})$ であること、および $X$ スキーム $f\colon Y\to X$ に対して $X$ 上の射 $Y\to\mathbf{Spec}_X\mathcal{A}$ が $\mathcal{O}_X$ 代数の射 $\mathcal{A}\to f_*\mathcal{O}_Y$ と自然に一対一に対応することを用いる(Har77 II 演習 5.17、EGA2 1.2.7、1.3.1)。
ベクトル束であること:$\mathcal{E}$ が自明になるアフィン開集合 $U=\operatorname{Spec}A$ をとる。prop-locally-free-sheaf-closure により $\mathcal{E}^\vee|_U\cong\mathcal{O}_U^{\oplus n}$ であり、$\Gamma(U,\operatorname{Sym}\mathcal{E}^\vee)=\operatorname{Sym}_A(A^{\oplus n})=A[t_1,\dots,t_n]$($t_k$ は基底 $e_k^\vee$)だから $\pi^{-1}(U)=\mathbb{A}^n_U$ である。2 つのそのような開集合の共通部分のアフィン開集合 $W=\operatorname{Spec}B$ 上では、2 つの自明化の差は $\mathcal{O}_W^{\oplus n}$ の自己同型、すなわち行列 $g\in\mathrm{GL}_n(B)$ であり、$\mathcal{E}^\vee$ の自明化の差は $g$ の転置の逆行列で与えられる。$\operatorname{Sym}$ をとった $B[t_1,\dots,t_n]$ の自己同型は各 $t_k$ を $t_l$ の $B$ 係数一次形式に送るので、座標変換は線型である。
切断の層:開集合 $U\subset X$ 上の $\pi$ の切断は $X$ 上の射 $U\to\mathbb{V}(\mathcal{E})$ にほかならず、上の普遍性により $\mathcal{O}_U$ 代数の射 $\operatorname{Sym}(\mathcal{E}^\vee|_U)\to\mathcal{O}_U$ と一対一に対応する。対称代数の普遍性($\mathcal{O}_U$ 代数の射 $\operatorname{Sym}\mathcal{G}\to\mathcal{B}$ は $\mathcal{O}_U$ 加群層の射 $\mathcal{G}\to\mathcal{B}$ と一対一に対応する。局所的には加群の対称代数の普遍性である)により、これは $\mathcal{O}_U$ 加群層の射 $\mathcal{E}^\vee|_U\to\mathcal{O}_U$、すなわち $\Gamma(U,\mathcal{E}^{\vee\vee})$ の元と対応し、prop-locally-free-sheaf-closure の $\mathcal{E}\cong\mathcal{E}^{\vee\vee}$ により $\Gamma(U,\mathcal{E})$ の元と対応する。各段の対応は制限と両立するので、切断の層は $\mathcal{E}$ と同型である。$\square$

対応の逆と規約の違い

逆に、階数 $n$ の幾何的ベクトル束 $\pi\colon V\to X$ の切断の層 $\mathcal{S}$ は階数 $n$ の局所自由層であり($U_i$ 上で $\mathbb{A}^n_{U_i}$ の切断は $\mathcal{O}(U_i)^{\oplus n}$ の元で、座標変換が線型だから $\mathcal{S}|_{U_i}\cong\mathcal{O}_{U_i}^{\oplus n}$)、$V\cong\mathbb{V}(\mathcal{S})$ となる。したがって $\mathcal{E}\mapsto\mathbb{V}(\mathcal{E})$ は階数 $n$ の局所自由層の圏と階数 $n$ の幾何的ベクトル束の圏の圏同値を与える(Har77 II 演習 5.18)。ベクトル束の言葉と局所自由層の言葉はこの対応で行き来する。
規約に注意する。Har77 II 演習 5.18 と EGA2 1.7 は $\mathbb{V}(\mathcal{E}):=\mathbf{Spec}\operatorname{Sym}\mathcal{E}$ と定義しており、その切断の層は $\mathcal{E}^\vee$ である。本記事は切断の層が $\mathcal{E}$ 自身になるように $\mathbf{Spec}\operatorname{Sym}\mathcal{E}^\vee$ を採用した。同様に射影束 $\mathbb{P}(\mathcal{E}):=\mathbf{Proj}\operatorname{Sym}\mathcal{E}$(Har77 II.7)は $\mathcal{E}$ の各ファイバーの「超平面の空間」であり、$\mathcal{O}_{\mathbb{P}(\mathcal{E})}(1)$ の押し出しが $\mathcal{E}$ になる(Har77 II.7.11)。Chern類の定義には射影束が使われる。

遷移関数と非可換コホモロジーによる分類

局所自由層は、自明化の貼り合わせ方の情報だけで復元できる。$\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X)$ で、開集合 $U$ に $\mathcal{O}(U)$ 成分の $n$ 次正則行列の群 $\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}(U))$ を対応させる群の層を表す。

遷移関数と Čech 1 コサイクル

$\mathcal{U}=\{U_i\}_{i\in I}$ を $X$ の開被覆とし、$U_{ij}:=U_i\cap U_j$、$U_{ijk}:=U_i\cap U_j\cap U_k$ と書く。

  1. $\mathcal{U}$ に関する $\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X)$ の 1 コサイクルとは、族 $(g_{ij})$、$g_{ij}\in\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}(U_{ij}))$ であって、任意の $i,j,k$ について $U_{ijk}$ 上でコサイクル条件 $g_{ik}=g_{ij}g_{jk}$ をみたすものをいう。2 つの 1 コサイクル $(g_{ij})$、$(g'_{ij})$ がコホモローグであるとは、族 $(h_i)$、$h_i\in\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}(U_i))$ があって $U_{ij}$ 上で $g'_{ij}=h_ig_{ij}h_j^{-1}$ となることをいう。これは同値関係であり、同値類の集合を $\check{H}^1(\mathcal{U},\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X))$ と書く($g_{ij}=1$ の類を基点とする点付き集合)。
  2. 開被覆の細分への制限は $\check{H}^1(\mathcal{U},\mathrm{GL}_n)\to\check{H}^1(\mathcal{V},\mathrm{GL}_n)$ を定め、すべての開被覆にわたる帰納極限 $\check{H}^1(X,\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X)):=\varinjlim_{\mathcal{U}}\check{H}^1(\mathcal{U},\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X))$ を $\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X)$ 係数の 1 次 Čech コホモロジー(Čechコホモロジー。群が非可換なので点付き集合)という。
  3. 階数 $n$ の局所自由層 $\mathcal{E}$ と、$\mathcal{E}$ が自明になる開被覆 $\mathcal{U}$、自明化 $\varphi_i\colon\mathcal{O}_{U_i}^{\oplus n}\xrightarrow{\sim}\mathcal{E}|_{U_i}$ に対し、$g_{ij}:=\varphi_i^{-1}\circ\varphi_j\in\operatorname{Aut}(\mathcal{O}_{U_{ij}}^{\oplus n})=\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}(U_{ij}))$ を $\mathcal{E}$ の遷移関数(transition functions)という。

$\operatorname{Aut}(\mathcal{O}_U^{\oplus n})=\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}(U))$ は prop-locally-free-sheaf-closure の証明中の同一視 $\mathcal{H}om(\mathcal{O}_U^{\oplus n},\mathcal{O}_U^{\oplus n})\cong\mathcal{O}_U^{\oplus n^2}$(射は $\mathcal{O}(U)$ 成分の行列と対応し、合成は行列の積)による。

局所自由層の Čech コホモロジーによる分類

$(X,\mathcal{O}_X)$ を局所環付き空間とする。階数 $n$ の局所自由層 $\mathcal{E}$ にその遷移関数の類を対応させる写像は、階数 $n$ の局所自由層の同型類の集合から $\check{H}^1(X,\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}_X))$ への全単射である。自明な層 $\mathcal{O}_X^{\oplus n}$ は基点に対応する。$n=1$ のときは $\mathrm{GL}_1(\mathcal{O}_X)=\mathcal{O}_X^\times$ はアーベル群の層であり、この全単射は群の同型 $\operatorname{Pic}(X)\cong\check{H}^1(X,\mathcal{O}_X^\times)=H^1(X,\mathcal{O}_X^\times)$ になる。

貼り合わせによる証明

矛盾なく定まること:$g_{ij}=\varphi_i^{-1}\varphi_j$ は $U_{ijk}$ 上で $g_{ij}g_{jk}=\varphi_i^{-1}\varphi_j\varphi_j^{-1}\varphi_k=g_{ik}$ をみたすので 1 コサイクルである。自明化を $\varphi'_i=\varphi_i\circ h_i^{-1}$($h_i\in\mathrm{GL}_n(\mathcal{O}(U_i))$。同じ $U_i$ 上の自明化はこの形に限る)に取り替えると $g'_{ij}=h_ig_{ij}h_j^{-1}$ となりコホモローグであり、開被覆を細分しても帰納極限の中で類は変わらない。同型 $\alpha\colon\mathcal{E}\to\mathcal{E}'$ があれば、$\mathcal{E}'$ の自明化 $\alpha\circ\varphi_i$ の遷移関数は $\mathcal{E}$ のものと一致する。
全射性:1 コサイクル $(g_{ij})$ に対し、$U_i$ 上の自由層 $\mathcal{O}_{U_i}^{\oplus n}$ たちを $U_{ij}$ 上の同型 $g_{ij}$($j$ 側の切断 $s$ を $i$ 側の切断 $g_{ij}s$ に送る)で貼り合わせる。コサイクル条件は層の貼り合わせ条件そのものであり(開集合 $U$ 上の切断を、$U\cap U_i$ 上の切断の族 $(s_i)$ で $U\cap U_{ij}$ 上 $s_i=g_{ij}s_j$ をみたすものと定める)、得られる $\mathcal{O}_X$ 加群層 $\mathcal{E}$ は $U_i$ 上 $\mathcal{O}_{U_i}^{\oplus n}$ と同型、すなわち階数 $n$ の局所自由層で、その遷移関数は $(g_{ij})$ である。
単射性:共通の細分にとりかえて、$\mathcal{E},\mathcal{E}'$ の遷移関数が同じ開被覆でコホモローグ $g'_{ij}=h_ig_{ij}h_j^{-1}$ であるとする。$U_i$ 上の同型 $\alpha_i:=\varphi'_i\circ h_i\circ\varphi_i^{-1}\colon\mathcal{E}|_{U_i}\to\mathcal{E}'|_{U_i}$ は $U_{ij}$ 上で
$$ \alpha_i=\varphi'_ih_i\varphi_i^{-1}=\varphi'_ih_ig_{ij}\varphi_j^{-1}=\varphi'_ig'_{ij}h_j\varphi_j^{-1}=\varphi'_jh_j\varphi_j^{-1}=\alpha_j $$
($\varphi_i^{-1}=g_{ij}\varphi_j^{-1}$ と $\varphi'_ig'_{ij}=\varphi'_j$ を使った)をみたすので、貼り合わさって大域的な同型 $\alpha\colon\mathcal{E}\to\mathcal{E}'$ を定める。
$n=1$ の場合:$\mathcal{O}_X^\times$ はアーベル群の層なので $\check{H}^1(\mathcal{U},\mathcal{O}_X^\times)$ は通常の Čech コホモロジー群であり、$\mathcal{L}\otimes\mathcal{L}'$ の遷移関数は $g_{ij}g'_{ij}$(自明化のテンソル積をとる)なので対応は群の準同型、したがって同型である。任意の位相空間・任意のアーベル群の層について 1 次の Čech コホモロジーは層コホモロジー $H^1$ に一致する(Har77 III 演習 4.4)。$\square$

分類定理の使い方

thm-locally-free-sheaf-transition は、位相空間上のベクトル束が $\mathrm{GL}_n$ 値の変換関数で分類されること(ベクトル束の記事)の層版である。$\check{H}^1(X,\mathrm{GL}_n)$ は $\mathrm{GL}_n$ トーサーの同型類の集合でもあり、$\mathcal{E}$ に対応するトーサーは枠の層 $\mathcal{I}som(\mathcal{O}^{\oplus n},\mathcal{E})$ である。Zariski位相の代わりにエタール位相や fppf位相で貼り合わせても得られる層は Zariski 局所自由層に一致する。これは局所自由性が忠実平坦降下で降下する(rem-locally-free-sheaf-flat)ことの帰結であり、$H^1(X_{\mathrm{Zar}},\mathrm{GL}_n)=H^1(X_{\mathrm{et}},\mathrm{GL}_n)=H^1(X_{\mathrm{fppf}},\mathrm{GL}_n)$(Hilbert の定理 90 の一般化、Mil80 III.4.9)を意味する。Azumaya代数とBrauer群の理論では、$\mathrm{PGL}_n$ トーサーが $\mathrm{GL}_n$ トーサーに持ち上がることが、Azumaya 代数が $\mathcal{E}nd(\mathcal{E})$($\mathcal{E}$ は階数正の局所自由層)の形に書けることと同値になる。

射影加群との対応と分裂定理

アフィンスキーム上の局所自由層と射影加群

$A$ を可換環、$X=\operatorname{Spec}A$ をアフィンスキームとする。$A$ 加群 $M$ に対し、$\widetilde{M}$ が有限階数の局所自由層であることと、$M$ が有限生成射影加群であることは同値である。したがって $M\mapsto\widetilde{M}$ は有限生成射影 $A$ 加群の圏と $X$ 上の有限階数局所自由層の圏の圏同値を与える。また $X$ をコンパクト(コンパクト空間)なHausdorff空間、$C(X)$ を $X$ 上の実数値(または複素数値)連続関数(連続写像)の環とすると、$X$ 上の実(複素)ベクトル束にその大域切断の $C(X)$ 加群を対応させる関手は、$X$ 上のベクトル束の圏と有限生成射影 $C(X)$ 加群の圏の圏同値を与える(Serre–Swan の定理)。

Serre–Swan の定理の出典

代数的な主張は Eis95 付録 A3 および Stacks Tag 00NX に、位相的な主張は Swan Swa62 に譲る。局所自由層の言葉での定式化は Serre Ser55 に始まる。「局所自由 ⟹ 射影」の要点は、$M$ が有限表示で各 $M_{\mathfrak{p}}$ が自由なら $\operatorname{Hom}_A(M,-)$ の完全性(完全関手)が各素イデアルでの局所化で確かめられることである。逆は、射影加群が自由加群の直和因子なので平坦であることと、thm-locally-free-sheaf-flat(Noether でなければ rem-locally-free-sheaf-flat)による。多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ 上の有限生成射影加群はすべて自由であり(Quillen–Suslin の定理、Qui76)、$\mathbb{A}^n_k$ 上の局所自由層はすべて自明である。一方、Dedekind整域 $A$ のイデアル類群が自明でなければ $\operatorname{Spec}A$ 上に自明でない可逆層がある。

Grothendieck の分裂定理

$k$ を体とする。$\mathbb{P}^1_k$ 上の階数 $n$ の局所自由層 $\mathcal{E}$ は、整数 $a_1\ge a_2\ge\dots\ge a_n$ を用いて
$$ \mathcal{E}\cong\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(a_1)\oplus\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(a_2)\oplus\dots\oplus\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(a_n) $$
と分解し、整数の列 $(a_1,\dots,a_n)$ は $\mathcal{E}$ の同型類から一意に定まる。

分裂定理の出典と限界

Grothendieck Gro57 が Riemann球面上の正則ベクトル束について示し、代数的な証明は Har77 V 演習 2.6、および $\mathcal{O}(a)$ の層コホモロジーの消滅を使う階数についての標準的な帰納法(OSS80 第 1 章 §2.1)に譲る。次元が $2$ 以上の射影空間では類似は成り立たない。たとえば ex-locally-free-sheaf-tangent の $\mathbb{P}^n$ の接層 $\mathcal{T}_{\mathbb{P}^n}$($n\ge2$)は可逆層の直和に分解しない。実際、Euler 列の双対 $0\to\mathcal{O}\to\mathcal{O}(1)^{\oplus(n+1)}\to\mathcal{T}_{\mathbb{P}^n}\to0$(局所自由層の短完全列は局所的に分裂するので双対も完全)を $\mathcal{O}(-1)$、$\mathcal{O}(-2)$ でひねり、$n\ge2$ ですべての $d$ について $H^1(\mathbb{P}^n,\mathcal{O}(d))=0$ であること(Har77 III.5.1)を使うと、$\dim_k\Gamma(\mathbb{P}^n,\mathcal{T}_{\mathbb{P}^n}(-1))=n+1$、$\Gamma(\mathbb{P}^n,\mathcal{T}_{\mathbb{P}^n}(-2))=0$ である。もし $\mathcal{T}_{\mathbb{P}^n}\cong\bigoplus_{i=1}^n\mathcal{O}(a_i)$ なら、後者から $a_i\le1$(すべての $i$)、前者から $a_i=1$ となる $i$ がちょうど $n+1$ 個となり、直和因子は $n$ 個しかないので矛盾する。射影空間上の分解しない局所自由層の分類は、Horrocks–Mumford 束などを含む活発な研究対象である。

関連項目

参考文献

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Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II.5(局所自由層、5.12・5.13、演習 5.7・5.8・5.17・5.18)、II.7(射影束、7.11)、II.8(Kähler 微分、8.13・8.15・例 8.20.1)、III 演習 4.4、III.5.1、V 演習 2.6
[2]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique II : Étude globale élémentaire de quelques classes de morphismes, Publications Mathématiques de l'IHÉS 8, pp. 5–222, 1961, §1.2–1.3(相対 Spec)、§1.7(ベクトル束 $\mathbb{V}(\mathcal{E})$)
[3]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, 第 2 章(Nakayama の補題、自由加群の階数:演習 3)、第 3 章(局所化)
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David Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry, Springer, 1995, 付録 A3(有限表示加群について射影・平坦・局所自由の同値)
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James S. Milne, Étale Cohomology, Princeton University Press, 1980, III.4.9(Hilbert の定理 90 の一般化:$\mathrm{GL}_n$ トーサーの位相非依存性)
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Jean-Pierre Serre, Faisceaux algébriques cohérents, Annals of Mathematics 61, pp. 197–278, 1955, Chapitre I §2(連接層と局所自由層)、Chapitre II(アフィン多様体上の連接層と加群)
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Richard G. Swan, Vector bundles and projective modules, Transactions of the American Mathematical Society 105, pp. 264–277, 1962, 全体(コンパクト Hausdorff 空間上のベクトル束と有限生成射影 $C(X)$ 加群の対応)
[9]
Daniel Quillen, Projective modules over polynomial rings, Inventiones Mathematicae 36, pp. 167–171, 1976, 全体(Quillen–Suslin の定理)
[10]
Alexander Grothendieck, Sur la classification des fibrés holomorphes sur la sphère de Riemann, American Journal of Mathematics 79, pp. 121–138, 1957, 全体(Riemann 球面上の正則ベクトル束の分裂)
[11]
The Stacks Project Authors, The Stacks Project, The Stacks Project Authors, 閲覧日 2026年9月22日

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