周期写像(period map)とは、偏極 Hodge 構造の変動、とくに複素射影多様体の滑らかな族 $X_s$($s\in S$)に対し、各 $s$ の Hodge フィルトレーションを局所系の平行移動で基準のファイバーのコホモロジーに移し、偏極 Hodge 構造の分類空間である周期領域 $D$ の点として読む写像 $S\to\Gamma\backslash D$ のことである。値は道の取り方によるので、モノドロミー群 $\Gamma$ で割った空間に入り、普遍被覆の上で $D$ への写像に持ち上がる。周期写像は正則で、その微分は Gauss–Manin 接続で表され、Griffiths 横断性は周期写像が水平であることと同値である。重さ $1$ の周期領域は Siegel 上半空間で、楕円曲線の族では周期の比 $\tau$ を対応させる写像になる。
前提知識: Hodge構造, Hodgeフィルトレーション, 局所系, Gauss–Manin接続
複素射影多様体の族 $X_s$($s\in S$)では、コホモロジー $H^n(X_s,\mathbb{Z})$ は位相的には局所的に一定だが、その上の Hodge 構造(Hodge フィルトレーション)は $s$ とともに動く。周期写像 は、各 $s$ に Hodge フィルトレーションを対応させ、それを固定した格子の上のフィルトレーションとして読むことで、族を「偏極 Hodge 構造の分類空間(周期領域)への写像」に変えるものである。楕円曲線の族なら、各ファイバーに周期の比 $\tau=\omega_2/\omega_1\in$ 上半平面 を対応させる写像がそれにあたる。周期写像は正則であり、その微分は Griffiths 横断性という強い制約を満たす。格子をどの基底で読むかは底空間の基本群の作用(モノドロミー)でしか決まらないので、周期写像の値はモノドロミー群で割った空間に入る。
以下、整数 $n$、階数 $N$ の自由加群 $H_{\mathbb{Z}}$、非退化な双線形形式 $Q\colon H_{\mathbb{Z}}\times H_{\mathbb{Z}}\to\mathbb{Z}$ で $Q(y,x)=(-1)^nQ(x,y)$ を満たすもの、$h^{p,q}=h^{q,p}\ge0$($p+q=n$、$\sum h^{p,q}=N$)を固定する。$f^p:=\sum_{p'\ge p}h^{p',n-p'}$ とおく。$H_{\mathbb{C}}$ の部分空間 $V$ の複素共役を $\overline V$ と書く。
$H_{\mathbb{C}}$ の減少フィルトレーション $F^\bullet$ で $\dim F^p=f^p$ を満たすもののうち、
Hodge構造 の命題「Hodge フィルトレーションによる特徴づけ」と注意「双線型関係の言い換え」により、$D$ は、$H_{\mathbb{Z}}$ 上の重さ $n$、Hodge 数 $h^{p,q}$ の Hodge 構造で $Q$ を偏極(同記事の定義「偏極 Hodge 構造」)とするものの全体と 1 対 1 に対応する。$\check D$ は Grassmann 多様体の積 $\prod_p\mathrm{Gr}(f^p,H_{\mathbb{C}})$ の閉部分集合である。
$\check D$ は滑らかな射影代数多様体で、$Q$ を保つ複素線形変換の群 $G_{\mathbb{C}}$ の等質空間 $G_{\mathbb{C}}/B$($B$ は放物型部分群)である。$D$ は $\check D$ の開部分集合で、$Q$ を保つ実線形変換の群 $G_{\mathbb{R}}$ が推移的に作用し、固定部分群 $V$ はコンパクトである。したがって $D=G_{\mathbb{R}}/V$ は複素多様体である。
この記事では、重さ $1$ の場合(thm-pm-siegel)を除いて証明しない(Gri70 Proposition 8.2・8.12、pp. 150–152)。$F\in\check D$ での接空間は、$\mathrm{Gr}(f^p,H_{\mathbb{C}})$ の接空間 $\operatorname{Hom}(F^p,H_{\mathbb{C}}/F^p)$ の直和の中で、包含 $F^{p+1}\subset F^p$ と条件 1 の微分に両立する元 $(\phi_p)_p$ のなす部分空間である(同 (8.4)–(8.6)、p. 151)。Gri70 は Hodge フィルトレーションを増加の向き($F^0\subset\dots\subset F^n$)に番号づけている。
重さ $1$ では、周期領域は具体的に書ける。$n=1$ のとき $Q$ は交代形式なので、$H_{\mathbb{Z}}$ の基底 $e_1,\dots,e_g,f_1,\dots,f_g$($N=2g$)で
$$
Q(e_i,f_j)=\delta_{ij},\qquad Q(e_i,e_j)=Q(f_i,f_j)=0
$$
となるものがあるとする(偏極が主偏極の場合)。$x=\sum_ia_ie_i+\sum_jb_jf_j$ を行ベクトル $(a,b)\in\mathbb{C}^g\times\mathbb{C}^g$ で表すと、$Q(x,y)=a\,{}^tb'-b\,{}^ta'$($y=(a',b')$)である。$h^{1,0}=h^{0,1}=g$ で、フィルトレーションは $F^1$ だけで決まる。
$\mathfrak{H}_g:=\{Z\in M_g(\mathbb{C})\mid{}^tZ=Z,\ \operatorname{Im}Z\ \text{は正定値}\}$ とおく。$Z\in\mathfrak{H}_g$ に、行列 $(I\mid Z)$ の行が張る $g$ 次元部分空間 $F^1_Z$ を対応させる写像は、$\mathfrak{H}_g$ から $D$ への全単射である。$G_{\mathbb{R}}=\mathrm{Sp}(2g,\mathbb{R})$ は $D$ に推移的に作用し、$D$ は複素次元 $g(g+1)/2$ の複素多様体である。$g=1$ では $D$ は上半平面である。
$n=1$ では、定義の条件は (a) $Q(F^1,F^1)=0$、(b) $0$ でない $x\in F^1$ について $iQ(x,\bar x)>0$ にまとまる。実際、(b) から $F^1\cap\overline{F^1}=0$($x$ が両方に入れば $\bar x\in F^1$ で、(a) により $Q(x,\bar x)=0$)、次元から $H_{\mathbb{C}}=F^1\oplus\overline{F^1}$ であり、$H^{0,1}=\overline{F^1}$ での正値性は $-iQ(\bar x,x)=iQ(x,\bar x)$ から (b) に帰着する。
$F^1\in D$ を、行が基底をなす $g\times2g$ 行列 $(P\mid R)$ で表す。$P$ が正則でないなら、$0\ne\lambda\in\mathbb{C}^g$(行ベクトル)で $\lambda P=0$ となり、$x=\lambda(P\mid R)=(0,\lambda R)\ne0$ について $Q(x,\bar x)=0\cdot{}^t\overline{\lambda R}-\lambda R\cdot{}^t0=0$ となって (b) に反する。よって $Z:=P^{-1}R$ とおけば $F^1$ は $(I\mid Z)$ の行で張られ、$Z$ は $F^1$ から一意に決まる。$x=(\lambda,\lambda Z)$、$y=(\mu,\mu Z)$ に対し
$$
Q(x,y)=\lambda\,{}^tZ\,{}^t\mu-\lambda Z\,{}^t\mu=\lambda({}^tZ-Z)\,{}^t\mu
$$
なので、(a) は ${}^tZ=Z$ と同値である。このとき $\bar x=(\bar\lambda,\bar\lambda\bar Z)$ について
$$
iQ(x,\bar x)=i\bigl(\lambda\bar Z\,{}^t\bar\lambda-\lambda Z\,{}^t\bar\lambda\bigr)=2\,\lambda(\operatorname{Im}Z)\,{}^t\bar\lambda
$$
なので、(b) は $\operatorname{Im}Z$(実対称行列)が正定値であることと同値である。以上で全単射が示された。
推移性。$J:=\begin{pmatrix}0&I\\-I&0\end{pmatrix}$ とおくと $Q(x,y)=xJ\,{}^ty$ なので、$gJ\,{}^tg=J$ を満たす実行列 $g$ の群 $\mathrm{Sp}(2g,\mathbb{R})$ は、行ベクトルに右から $x\mapsto xg$ で $Q$ を保って作用し、条件 (a)・(b) を保つので $D$ に作用する。$X+iY\in\mathfrak{H}_g$ をとり、$Y^{-1/2}$ を正定値対称行列 $Y^{-1}$ の正定値な平方根として
$$
g_1:=\begin{pmatrix}Y^{-1/2}&0\\0&Y^{1/2}\end{pmatrix},\qquad g_2:=\begin{pmatrix}I&X\\0&I\end{pmatrix}
$$
とおく。$X$ が対称なので、どちらも $gJ\,{}^tg=J$ を満たす。$(I\mid iI)g_1=(Y^{-1/2}\mid iY^{1/2})$ の行は、左から $Y^{1/2}$ を掛けた $(I\mid iY)$ の行と同じ空間を張り、$(I\mid iY)g_2=(I\mid X+iY)$ である。よって $g_1g_2$ は $iI$ に対応する点を $X+iY$ に対応する点に写し、作用は推移的である。$\mathfrak{H}_g$ は対称行列の空間 $\mathbb{C}^{g(g+1)/2}$ の開集合である。$g=1$ では $\mathfrak{H}_1=\{\tau\mid\operatorname{Im}\tau>0\}$ である。$\square$
$S$ を連結な複素多様体とする。$S$ 上の階数 $N$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群の 局所系 $\mathbb{V}$ に対し、$\mathcal{H}:=\mathcal{O}_S\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{V}$ は、$\mathbb{V}\otimes\mathbb{C}$ の切断を水平とする平坦な接続 $\nabla$ をもつ正則ベクトル束である(接続 の定理「可積分接続の局所水平枠」の逆向きの主張)。
$S$ 上の重さ $n$ の 偏極 Hodge 構造の変動 とは、局所系 $\mathbb{V}$、局所系の射として平坦な非退化形式 $Q\colon\mathbb{V}\times\mathbb{V}\to\mathbb{Z}$、$\mathcal{H}$ の正則な部分ベクトル束の減少列 $\mathcal{F}^p$ の組であって、
これは Gri70 §2(pp. 131–133)の定義 I)–VII) に整数の構造(局所系 $\mathbb{V}$)を加え、減少フィルトレーションで書き直したものである(同所は複素共役をもつ平坦なベクトル束で定義を述べ、幾何的な場合には原始コホモロジーをとる)。条件 2 は Hodge構造の変動 の核心であり、普遍的な族($D$ 上の各点にその点の Hodge 構造を置いたもの)は一般にはこれを満たさない(Gri70 p. 152)。
幾何的な場合:$f\colon X\to S$ を滑らかで固有な射影的な射とすると、各ファイバーの $n$ 次原始コホモロジーの整数部分がなす局所系 $\mathbb{V}$、カップ積と超平面切断の類から作る $Q$(Hodge構造 の定理「Hodge–Riemann の双線型関係」)、各ファイバーの Hodge フィルトレーション $\mathcal{F}^p$ が偏極 Hodge 構造の変動を与える(Gri70 §2 はこの形で述べている)。$\mathcal{F}^p$ が正則な部分ベクトル束であることは、ファイバーが Kähler であれば成り立ち、次の節の thm-pm-hodge-holomorphic で証明する(主張は Gri70 §2、p. 132、Wel08 Ch. V Theorem 6.7、p. 214)。射影的な射のファイバーは Fubini–Study 形式の制限を Kähler 形式にもつので、この仮定をみたす。横断性は Gauss–Manin 接続の性質であり、Gauss–Manin接続 の命題「Griffiths 横断性」で証明されている。
ファイバーの Hodge フィルトレーションは、ファイバーごとに Hodge 分解で定まるだけなので、それが底空間の上で正則に動くことは自明ではない。ここでは Kähler なファイバーの族について、それを証明する。全射・固有な正則沈め込み $\pi\colon\mathcal{X}\to S$ を、Hodge数の上半連続性 の定義「複素解析的族」のとおりコンパクト複素多様体の複素解析的族という。
$\pi\colon\mathcal{X}\to S$ をコンパクト複素多様体の複素解析的族とし、$S$ は連結、すべてのファイバー $X_s$ は Kähler 多様体で、その複素次元を $d$ とする。整数 $k$ を固定する。
射影的な族 $\mathcal{X}\subset\mathbb{P}^N\times S$ では、$\mathcal{O}(1)$ の第 1 Chern 類の制限が 3 の $\omega$ になる。したがって上の「幾何的な場合」の $\mathcal{F}^p$ は 3 により正則な部分ベクトル束である。
要点:底空間を座標球に縮め、Ehresmann の補題でファイバーを 1 つの多様体 $M$ に写して $H^k(X_s,\mathbb{C})$ を一定の空間 $H$ と同一視する。Bott–Chern の 4 階の Laplacian の核の滑らかな族をとると、$F^p_s$ は $s$ について滑らかに動く部分空間になる。正則性は Grassmann 多様体の座標の $\bar\partial$ 微分が $0$ になることと同じで、それは、型 $(0,1)$ の持ち上げ $W$ による Lie 微分 $L_W=[\partial,\iota_W]+[\bar\partial,\iota_W]$ が正則次数を下げないことから従う。
段 0:設定.主張は $S$ の上で局所的なので、$s_0\in S$ のまわりの座標球 $U$($\mathbb{C}^m$ の開球と双正則)の上で示す。Hodge数の上半連続性 の主定理の証明の段 1 のとおり、$M:=X_{s_0}$ とし、Ehresmannのファイブレーション定理 の定理「Ehresmann の補題」により、微分同相 $\Phi\colon U\times M\to\pi^{-1}(U)$ で $\pi\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$、$\Phi_{s_0}=\mathrm{id}_M$ となるものをとる($\Phi_s:=\Phi(s,\cdot)\colon M\to X_s$)。$U$ は可縮で $\pi^{-1}(U)\cong U\times M$ なので、制限 $H^k(\pi^{-1}(U),\mathbb{C})\to H^k(X_s,\mathbb{C})$ はすべての $s\in U$ で同型であり、$\mathbb{H}|_U$ は定数の局所系である。$H:=H^k_{dR}(M;\mathbb{C})$ とおくと、$\Phi_s^*\colon H^k(X_s,\mathbb{C})\to H$ はこの定数の構造と両立する同型である($\Phi_s$ と $\Phi_{s'}$ は $\pi^{-1}(U)$ の中でホモトピックな写像 $M\to\pi^{-1}(U)$ である)。よって $\mathcal{H}|_U=\mathcal{O}_U\otimes H$ であり、2 を示すには、$F(s):=\Phi_s^*F^p_s\subset H$ が定める写像 $U\to\mathrm{Gr}(f^p,H)$ が正則であることを示せばよい。Hodge 数が一定であることは Hodge数の上半連続性 の定理「Hodge 数の上半連続性」の 2 であり、1 が従う。
段 1:$F^p$ の言い換え.コンパクト Kähler 多様体 $Y$(複素次元 $d$)の閉 $k$ 形式 $\gamma$ で、各成分の正則次数が $p$ 以上のもの($\gamma\in\bigoplus_{a\ge p}A^{a,k-a}(Y)$)の類は $F^pH^k(Y)$ に属する。実際、Hodge分解 の定理「Hodge 分解定理」により $[\gamma]=\sum_ac_a$($c_a\in H^{a,k-a}(Y)$)と書く。$a< p$ と、型 $(d-a,d-k+a)$ の閉形式 $\eta$ について、$\gamma\wedge\eta$ の各成分の正則次数は $d$ より大きいので $\int_Y\gamma\wedge\eta=0$ であり、型の理由で $c_{a'}$($a'\ne a$)と $[\eta]$ の積分も $0$ である。よって $c_a$ は $H^{d-a,d-k+a}(Y)$ のすべての元と積分が $0$ になる。de Rham コホモロジーの Poincaré 双対(Poincaré双対性 の定理「de Rham コホモロジーの双対」)は完全対で、型の理由で $H^{a,b}$ は $H^{d-a,d-b}$ 以外の Hodge 成分と積分が $0$ になるので、$H^{a,b}\times H^{d-a,d-b}\to\mathbb{C}$ は完全対である。したがって $c_a=0$ である。逆に $F^pH^k(Y)$ の元はそのような閉形式で代表される。
段 2:滑らかな枠.$\pi^{-1}(U)$ に Hermite 計量を 1 つとり、$X_s$ に制限したものを $g_s$ とする。$a+b=k$ について、$X_s$ 上の型 $(a,b)$ の形式に作用する 4 階の作用素 $$B_s:=(\partial\bar\partial)(\partial\bar\partial)^*+(\partial\bar\partial)^*(\partial\bar\partial)+(\bar\partial^*\partial)(\bar\partial^*\partial)^*+(\bar\partial^*\partial)^*(\bar\partial^*\partial)+\bar\partial^*\bar\partial+\partial^*\partial$$ を考える(随伴は $g_s$ に関するもの。各項はそれぞれの次数の間の作用素として読む)。(i) $B_s$ は形式的に自己随伴で、$\langle\!\langle B_su,u\rangle\!\rangle$ は 6 項の像の $L^2$ ノルムの 2 乗の和なので、$B_su=0$ は $\partial u=\bar\partial u=0$ かつ $(\partial\bar\partial)^*u=0$ と同値である(このとき残りの項も $0$)。とくに $\ker B_s$ の元は $d$ 閉で型 $(a,b)$ である。(ii) $B_s$ は楕円型である:$0$ でない実余接ベクトル $\xi$ の $(1,0)$ 成分 $\xi'$ と $(0,1)$ 成分 $\xi''$ による外積を $x,y$ と書くと、$x^2=y^2=0$、$xx^*+x^*x=|\xi'|^2$、$yy^*+y^*y=|\xi''|^2$、$xy^*+y^*x=0$ であり、主表象は 4 階の項から $(xy)(xy)^*+(xy)^*(xy)+(y^*x)(y^*x)^*+(y^*x)^*(y^*x)$(定数倍の位相因子は打ち消し合う)となる。$\xi',\xi''$ の方向の外積代数の 4 つの基底 $1,\xi',\xi'',\xi'\wedge\xi''$ の上で直接計算すると(残りの方向の外積の因子には恒等的に作用する)、この作用素は $|\xi'|^2|\xi''|^2$ 倍であり、$|\xi'|=|\xi''|>0$ なので可逆である。(iii) $\ker B_s\cong H^{a,b}_{BC}(X_s)$:$Z:=\{z\mid\partial z=\bar\partial z=0\}$ とし、$B_s$ の Green 作用素 $G$ と調和射影 $\Pi$(Green作用素 の定理「Green 作用素の存在と性質」)により $z\in Z$ を $z=\Pi z+B_sGz$ と書く。$B_sGz$ から $(\partial\bar\partial)(\partial\bar\partial)^*Gz$ を除いた残り $R$ は、$z-\Pi z-\partial\bar\partial\bigl((\partial\bar\partial)^*Gz\bigr)$ に等しいので $Z$ に属し、部分積分によりすべての $v\in Z$ と直交する。よって $R=0$、$z=\Pi z+\partial\bar\partial\bigl((\partial\bar\partial)^*Gz\bigr)$ である。また $\partial\bar\partial\beta\in\ker B_s$ なら $\|\partial\bar\partial\beta\|^2=\langle\!\langle\beta,(\partial\bar\partial)^*\partial\bar\partial\beta\rangle\!\rangle=0$ である。よって $\ker B_s\to Z/\partial\bar\partial A^{a-1,b-1}=H^{a,b}_{BC}(X_s)$(∂∂̄-補題 の定義「Bott–Chern コホモロジー」)は同型である。(iv) $X_s$ は Kähler なので、∂∂̄-補題 の定理「Bott–Chern コホモロジーとの比較」の 2 により、$\ker B_s$ の元の de Rham 類をとる写像は $H^{a,b}(X_s)$ への同型であり、$\dim\ker B_s=h^{a,b}$ は $s$ によらない。
Hodge数の上半連続性 の主定理の証明の段 2 のとおり、$\Phi_s$ で $M$ に引き戻した複素構造 $J_s$ の型 $(a,b)$ の束を、型の射影 $\mu_s$ により固定した束 $E:=\Lambda^{a,b}_{s_0}$ と同一視する。$B_s$ を $\Phi_s$ で引き戻して $\mu_s$ で $E$ 上の作用素に移したものの係数は、$J_s$ と計量の引き戻しの $x$ 微分の多項式なので $(s,x)$ について $C^\infty$ 級で、各 $B_s$ は楕円型で、$s$ について滑らかに動く計量について形式的に自己随伴であり、核の次元は一定である。下の補題により、$s_0$ の近傍で $(s,x)$ について $C^\infty$ 級の切断の族で、各 $s$ で $\ker B_s$ の基底になるものがある。$a\ge p$ のすべての $(a,b)$ についてこれを並べ、$\Phi_s$ で引き戻した $M$ 上の閉形式を $\alpha_1(s),\dots,\alpha_f(s)$($f=f^p$)とすると、段 1 と (iv) により類 $\sigma_j(s):=[\alpha_j(s)]$ は $F(s)$ の基底である。周期 $\int_c\alpha_j(s)$($c$ は $H_k(M)$ の基底の輪体)は積分記号下の微分により $s$ について $C^\infty$ 級なので、$\sigma_j$ は $H$ に値をとる $C^\infty$ 級写像である。
補題(核の滑らかな枠).$L_t$($t\in V\subset\mathbb{R}^\nu$)を $E$ に作用する $m$ 階の楕円型作用素で、係数が $(t,x)$ について $C^\infty$ 級、各 $L_t$ は $t$ について $C^\infty$ 級に動く Hermite 計量と密度に関して形式的に自己随伴で、$\dim\ker L_t=h$ が一定であるとする。このとき各 $t_0$ の近傍で、$(t,x)$ について $C^\infty$ 級の切断 $u_1(t),\dots,u_h(t)$ で各 $t$ で $\ker L_t$ の基底になるものがある。証明:$t$ についての計量を固定した計量と比べる正定値自己準同型 $S_t$ をとり、$L_t$ を $S_t^{1/2}L_tS_t^{-1/2}$ に替えると、核は $S_t^{1/2}$ で移るだけなので、すべての $L_t$ が固定した内積で自己随伴としてよい。$\mathcal{N}:=\ker L_{t_0}$、その上への直交射影を $\Pi_0$、$Q_0:=I-\Pi_0$、Green 作用素を $G_0$ とする。Green作用素 の定理「Green 作用素の存在と性質」により、$A_t:=Q_0L_t$ は $Q_0W^{k+m}\to Q_0W^k$($W^k$ は Sobolev 空間)の有界作用素で、$A_{t_0}$ は逆 $G_0$ をもつ。係数が $(t,x)$ について $C^\infty$ 級なので、Leibniz の規則と Taylor の定理により $t\mapsto L_t$ は $W^{k+m}\to W^k$ の有界作用素の空間への $C^\infty$ 級写像である。可逆な作用素の逆をとる写像は解析的なので、$t_0$ の近傍 $W_k$ で $A_t$ は可逆で $A_t^{-1}$ は $t$ について $C^\infty$ 級である。$v\in\mathcal{N}$ について $u_t(v):=v-A_t^{-1}Q_0L_tv$ とおくと、$\Pi_0u_t(v)=v$、$Q_0L_tu_t(v)=0$ である。$Q_0L_tu=0$ となる $u\in W^{k+m}$ は $\Pi_0u$ で決まる($\Pi_0u=0$ なら $A_tu=0$ で $u=0$)ので、その全体は $h$ 次元で、$\ker L_t$ を含み、次元が等しいので $\ker L_t$ に一致する。よって $u_t(v)$ は $\Pi_0u=v$ となる $\ker L_t$ のただ 1 つの元で、$k$ によらない。$t_1\in W_0$ のまわりで同じ構成をすると、2 つの枠は $\Pi_0$ で読んだ $t$ について $C^\infty$ 級の可逆行列で移り合うので、$u_t(v)$ は $W_0$ の上で、すべての $k$ について $W^{k+m}$ に値をとる $C^\infty$ 級写像である。Sobolev の埋め込み(Wel08 Ch. IV Proposition 1.1)により $(t,x)$ について $C^\infty$ 級である。
段 3:$\bar\partial$ 方向の微分.$\alpha(s)$ を段 2 の $\alpha_j(s)$ の 1 つとし、$\alpha_s:=(\Phi_s^{-1})^*\alpha(s)$ とおく。$\pi^{-1}(U)$ を覆う座標近傍で、$\pi(z,s)=s$ となる正則な座標 $(z,s)$(正則な陰関数定理による)をとり、その上で $\alpha_s=\sum_{|I|\ge p}a_{IJ}(z,s)\,dz_I\wedge d\bar z_J$ と書き、同じ係数で全空間の形式 $\sum a_{IJ}\,dz_I\wedge d\bar z_J$ を作って 1 の分割で貼り合わせると、$\pi^{-1}(U)$ 上の形式 $\tilde\beta$ で、各成分の正則次数が $p$ 以上で、$X_s$ への制限が $\alpha_s$ のものを得る。$\partial/\partial\bar s_\nu$ の持ち上げとして、$V:=\Phi_*(\partial/\partial\bar s_\nu)$ と、座標 $(z,s)$ の $\partial/\partial\bar s_\nu$ を 1 の分割で貼り合わせた型 $(0,1)$ のベクトル場 $W$ をとる。$\Phi^*\tilde\beta$ の $\{s\}\times M$ への制限は $\alpha(s)$ なので、$\partial\alpha/\partial\bar s_\nu=\Phi_s^*\bigl((L_V\tilde\beta)|_{X_s}\bigr)$ であり、これは閉形式(閉形式の族の微分)である。$Y:=V-W$ はファイバーに接するので、$d\tilde\beta|_{X_s}=d\alpha_s=0$ から $(\iota_Yd\tilde\beta)|_{X_s}=0$、よって $(L_Y\tilde\beta)|_{X_s}=d\bigl((\iota_Y\tilde\beta)|_{X_s}\bigr)$ は完全である。一方 $W$ は型 $(0,1)$ なので $\iota_W$ は型 $(a,b)$ を $(a,b-1)$ に写し、$L_W=(\partial\iota_W+\iota_W\partial)+(\bar\partial\iota_W+\iota_W\bar\partial)$ の 2 つの部分は型をそれぞれ $(1,-1)$、$(0,0)$ だけずらす。よって $(L_W\tilde\beta)|_{X_s}$ は、$(L_V\tilde\beta)|_{X_s}$ と完全形式だけ違うので閉で同じ類をもち、正則次数が $p$ 以上の形式であるから、段 1 によりその類は $F^p_s$ に属する。以上から $\partial\sigma_j/\partial\bar s_\nu(s)\in F(s)$ である。
段 4:Grassmann 多様体の座標.$F(s_0)$ の補空間 $K$ をとると、$s_0$ の近くで $F(s)$ は線形写像 $Z(s)\colon F(s_0)\to K$ のグラフであり、$Z$ は Grassmann 多様体の正則な座標である(thm-pm-derivative の証明と同じ)。グラフの枠 $e_i+Z(s)e_i$ は $\sigma_j(s)$ の $C^\infty$ 級の係数の 1 次結合なので、段 3 によりその $\bar s_\nu$ 微分 $(\partial Z/\partial\bar s_\nu)e_i$ は $F(s)$ に属し、同時に $K$ に属する。グラフと $K$ は $0$ でしか交わらないので $\partial Z/\partial\bar s_\nu=0$ であり、$C^\infty$ 級の $Z$ は正則である(複素多様体 の定義「多変数関数の正則性」)。これで 2 が示された。
段 5:原始部分.$\omega$ は平坦なので、$\Phi_s^*\omega_s$ は $H^2_{dR}(M)$ の一定の類 $[\omega]$ であり、$L:=[\omega]\cup$ は $H$ の一定の線形写像、$\Phi_s^*P^k(X_s)=\ker L^{d-k+1}$ は一定の部分空間である。よって $\mathbb{P}$ は部分局所系である。Hard Lefschetz定理 の定理「Hard Lefschetz 定理」の 3 により $F^p_s\cap P^k(X_s)=\bigoplus_{a\ge p}P^{a,k-a}(X_s)$、$H^{a,b}=P^{a,b}\oplus LH^{a-1,b-1}$ であり、同定理の 1 により $L^{d-k+2}$ は $H^{k-2}$ の上で同型なので $L$ は $H^{a-1,b-1}$ の上で単射である。よって$\dim P^{a,b}(X_s)=h^{a,b}-h^{a-1,b-1}$ は $s$ によらない。$\mathcal{F}^p\cap(\mathcal{O}_S\otimes\mathbb{P})$ は、正則なベクトル束の写像 $\mathcal{F}^p\to\mathcal{H}/(\mathcal{O}_S\otimes\mathbb{P})$ の核で、この写像の階数は一定なので、正則な枠の行列の $0$ でない小行列式を固定して連立 1 次方程式を解けば、核は正則な枠をもつ。$\square$
基点 $s_0\in S$ を固定し、$H_{\mathbb{Z}}:=\mathbb{V}_{s_0}$、$Q:=Q_{s_0}$ とおいて、def-pm-domain の周期領域 $D$ を作る。$s_0$ から $s$ への道 $c$ に沿う局所系の平行移動(局所系 の定義「平行移動とモノドロミー作用」)を $T_c\colon\mathbb{V}_{s_0}\to\mathbb{V}_s$ と書く。$T_c$ は $Q$ を保つ $\mathbb{Z}$ 加群の同型である。モノドロミー作用の像を $\Gamma\subset G_{\mathbb{Z}}:=\operatorname{Aut}(H_{\mathbb{Z}},Q)$ と書き、モノドロミー群 という。
$s\in S$ に対し、$s_0$ から $s$ への道 $c$ をとって
$$
\Phi(s):=T_c^{-1}\bigl(\mathcal{F}^\bullet_s\bigr)\ \bmod\ \Gamma\ \in\ \Gamma\backslash D
$$
とおく($T_c$ を $\mathbb{C}$ 係数に延ばしたもので $\mathcal{F}^p_s\subset\mathcal{H}_s=\mathbb{V}_s\otimes\mathbb{C}$ を $H_{\mathbb{C}}$ に移す)。$\Phi\colon S\to\Gamma\backslash D$ を変動の 周期写像(period map)という。$S$ の普遍被覆 $\tilde S$ の上では、$\Phi$ は $D$ への写像 $\tilde\Phi$ に持ち上がる。
$T_c$ は $Q$ と実構造を保つので、$T_c^{-1}(\mathcal{F}^\bullet_s)$ は def-pm-domain の条件を満たし $D$ に入る。別の道 $c'$ をとると $T_{c'}^{-1}T_c$ はループ $c\cdot\overline{c'}$ のモノドロミーで $\Gamma$ に属するので、$\Phi(s)$ は $\Gamma$ の作用を除いて道によらない。$\tilde S$ の点は $s$ と道のホモトピー類の組なので、$\tilde\Phi(s,[c]):=T_c^{-1}(\mathcal{F}^\bullet_s)$ は $D$ への写像として定まる。とくに単連結な開集合 $U\subset S$ の上では、$\mathbb{V}|_U$ を $H_{\mathbb{Z}}$ の定数層と同一視して、$\Phi$ を $U\to D$ の写像として扱える。
$U\subset S$ を単連結な開集合とし、$\mathbb{V}|_U$ を定数層 $H_{\mathbb{Z}}$ と同一視する。このとき $\mathcal{H}|_U=\mathcal{O}_U\otimes H_{\mathbb{C}}$、$\nabla=d$ であり、周期写像 $\tilde\Phi\colon U\to\check D\subset\prod_p\mathrm{Gr}(f^p,H_{\mathbb{C}})$ は正則である。$s\in U$、$v\in T_sU$ について、その微分の第 $p$ 成分は
$$
d\tilde\Phi(v)_p\colon\ \mathcal{F}^p_s\to H_{\mathbb{C}}/\mathcal{F}^p_s,\qquad\sigma(s)\longmapsto\nabla_v\sigma\ \bmod\ \mathcal{F}^p_s
$$
である。ここで $\sigma$ は $\sigma(s)$ を値にもつ $\mathcal{F}^p$ の任意の局所正則切断である。したがって Griffiths 横断性は、$d\tilde\Phi(v)_p$ が $\mathcal{F}^p_s$ を $\mathcal{F}^{p-1}_s/\mathcal{F}^p_s$ に写す($\tilde\Phi$ が 水平 である)ことと同値である。
$F:=\mathcal{F}^p_s$($k:=f^p$ 次元)の補空間 $K$ を 1 つ選ぶ。$F$ の近くの $k$ 次元部分空間は、線形写像 $\phi\colon F\to K$ のグラフ $\{a+\phi(a)\mid a\in F\}$ としてただ 1 通りに書け、$\phi\mapsto(\text{グラフ})$ が $\mathrm{Gr}(k,H_{\mathbb{C}})$ の正則な座標であり、$s$ での接空間は $\operatorname{Hom}(F,K)\cong\operatorname{Hom}(F,H_{\mathbb{C}}/F)$ と同一視される。$\mathcal{F}^p$ の $s$ の近くの正則な枠 $\sigma_1,\dots,\sigma_k$ をとり、$H_{\mathbb{C}}=F\oplus K$ に沿って $\sigma_i(t)=\alpha_i(t)+\kappa_i(t)$ と分解する。$\alpha_i(s)=\sigma_i(s)$ は $F$ の基底なので、$t$ が $s$ に近ければ $\alpha_1(t),\dots,\alpha_k(t)$ も $F$ の基底であり、$\mathcal{F}^p_t$ は $\phi_t(\alpha_i(t))=\kappa_i(t)$ で定まる $\phi_t$ のグラフである。$\phi_t$ の行列は $(\kappa_i(t))$ の行列に $(\alpha_i(t))$ の逆行列を掛けたものなので、$t$ について正則であり、$\tilde\Phi$ は正則である。$\kappa_i(s)=0$ なので、$\phi_t(\alpha_i(t))=\kappa_i(t)$ を $v$ 方向に微分すると $d\phi(v)(\sigma_i(s))=v(\kappa_i)$ である。$v(\kappa_i)$ は $v(\sigma_i)=\nabla_v\sigma_i$ の $K$ 成分、すなわち $\nabla_v\sigma_i\bmod F$ である。別の局所切断 $\sigma=\sum_ia_i\sigma_i$ では $\nabla_v\sigma=\sum_iv(a_i)\sigma_i(s)+\sum_ia_i(s)\nabla_v\sigma_i$ で、第 1 項は $F$ に入るので、値は $\sigma(s)$ だけで決まり線形である。横断性 $\nabla\mathcal{F}^p\subset\Omega^1\otimes\mathcal{F}^{p-1}$ は、すべての $v$ と $\sigma$ について $\nabla_v\sigma\in\mathcal{F}^{p-1}_s$ となることなので、最後の主張が従う。$\square$
逆に、局所的に $D$ へ持ち上がる正則で水平な写像 $S\to\Gamma\backslash D$ を与えることは、モノドロミー群 $\Gamma$ の偏極 Hodge 構造の変動を与えることと同値である(Gri70 Proposition 9.3、p. 156。この記事の「水平」は同論文の infinitesimal period relation (9.1) にあたり、同論文が horizontal と呼ぶ (9.9) は一般にはより弱い条件である)。
重さ $1$ では $\mathcal{F}^0=\mathcal{H}$ なので、横断性の条件 $\nabla\mathcal{F}^1\subset\Omega^1\otimes\mathcal{F}^0$ は何も課さず、$\mathfrak{H}_g$ への任意の正則写像が水平である。重さ $2$ でも $h^{2,0}=1$ なら同じことが起きる。
$n=2$、$h^{2,0}=h^{0,2}=1$、$h^{1,1}=N-2$ とし、$Q$(対称)の $H_{\mathbb{R}}$ 上の符号を(正の個数, 負の個数)$=(N-2,2)$ とする。$F^\bullet\mapsto F^2$ は、$D$ から
$$
\Omega:=\{[\omega]\in\mathbb{P}(H_{\mathbb{C}})\mid Q(\omega,\omega)=0,\ Q(\omega,\bar\omega)< 0\}
$$
への全単射であり、逆写像は $F^1:=\omega^\perp$($Q$ に関する直交)で与えられる。$\Omega$ は 2 次超曲面の開集合で、複素次元は $h^{1,1}$ である。$D$ に値をとる任意の正則写像は水平である。
要点:$F^1$ は条件 1 から $(F^2)^\perp$ に決まり、正値性は $\omega$ の実部と虚部が張る平面の上で $Q$ が負定値、その直交補空間で正定値になることに言い換わる。水平性は $Q(\omega,\omega)=0$ の微分から従う。
$F\in D$ なら、条件 1($p=2$)から $Q(F^2,F^1)=0$ で、$\dim F^1=N-1=\dim(F^2)^\perp$ なので $F^1=(F^2)^\perp$ であり、$F^2\subset F^1$ から $Q(\omega,\omega)=0$、$H^{2,0}=F^2$ の正値性 $i^2Q(\omega,\bar\omega)>0$ から $Q(\omega,\bar\omega)< 0$ である。よって写像は $\Omega$ に入り単射である。逆に $[\omega]\in\Omega$ に対し $F^2=\mathbb{C}\omega$、$F^1=\omega^\perp$ とおく。条件 1 は $Q(\omega,\omega)=0$ による。$Q(\omega,\bar\omega)\ne0$ なので $\omega\notin\overline{F^1}=\bar\omega^\perp$、次元から $H_{\mathbb{C}}=F^2\oplus\overline{F^1}=F^1\oplus\overline{F^2}$ である。$H^{2,0}$・$H^{0,2}$ での正値性は $Q(\omega,\bar\omega)< 0$ そのものである。$\omega=a+ib$($a,b\in H_{\mathbb{R}}$)とすると $Q(\omega,\omega)=0$ から $Q(a,a)=Q(b,b)$、$Q(a,b)=0$、$Q(\omega,\bar\omega)=2Q(a,a)< 0$ なので、$Q$ は実平面 $P:=\langle a,b\rangle$ で負定値である。$H^{1,1}=F^1\cap\overline{F^1}=(P^\perp)\otimes\mathbb{C}$ であり、符号が $(N-2,2)$ なので $Q$ は $P^\perp$ で正定値、よって $0\ne x=c+id\in H^{1,1}$ について $Q(x,\bar x)=Q(c,c)+Q(d,d)>0$ である。$\Omega$ は $\mathbb{P}^{N-1}$ の 2 次超曲面の開集合なので次元 $N-2=h^{1,1}$ である。水平性:正則な $\omega(t)$ について $Q(\omega,\omega)=0$ を微分すると $2Q(\omega',\omega)=0$、すなわち $\omega'\in\omega^\perp=F^1$ なので $\nabla\mathcal{F}^2\subset\Omega^1\otimes\mathcal{F}^1$ であり、$\mathcal{F}^0=\mathcal{H}$ なので $p=1$ の条件は空である。$\square$
$\tau\in\mathfrak{H}_1$ に楕円曲線 $E_\tau:=\mathbb{C}/(\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau)$ を対応させる族を考える。$z=s+t\tau$($s,t$ は実数)と書き、$H^1(E_\tau,\mathbb{Z})$ の基底を $e:=[ds]$、$f:=[dt]$(格子の生成元 $1,\tau$ に沿う積分が $(1,0)$、$(0,1)$)とする。$\operatorname{Im}\tau>0$ なので $(s,t)$ は複素数の向きと同じ向きの座標であり、$Q(e,f)=\int_{E_\tau}ds\wedge dt=1$ である。正則 1 形式 $dz=ds+\tau\,dt$ の類は $e+\tau f$、すなわち行ベクトル $(1,\tau)$ なので、thm-pm-siegel の座標で $Z=\tau$ である。$\mathfrak{H}_1$ は単連結なので、この族の周期写像は恒等写像 $\mathfrak{H}_1\to\mathfrak{H}_1=D$ である。$dz$ の 2 つの周期の比が $\tau$ であることが、周期写像の名の由来の最も簡単な場合である(Hodge構造 の例「楕円曲線と上半平面」)。
$(z,\tau)\mapsto(z+m+k\tau,\tau)$($m,k\in\mathbb{Z}$)と $(z,\tau)\mapsto(z,\tau+1)$ は $\mathbb{C}\times\mathfrak{H}_1$ に自由かつ真性不連続に作用する(後者は格子 $\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\tau$ を $\mathbb{Z}+\mathbb{Z}(\tau+1)$、つまり同じ格子に写す)。商を $q=e^{2\pi i\tau}\in\Delta^*$ 上の族とみると、ファイバーは $E_\tau$ である。$q$ を $0$ のまわりに 1 周させると $\tau$ は $\tau+1$ に変わり、ex-pm-elliptic の周期 $Z=\tau$ も $\tau+1$ に変わる。したがって周期写像は $\Delta^*$ から $D=\mathfrak{H}_1$ への 1 価な写像にならず、モノドロミー群 $\Gamma$($\tau\mapsto\tau+1$ が生成する無限巡回群)で割った $\Phi\colon\Delta^*\to\Gamma\backslash\mathfrak{H}_1$、$q\mapsto[\log q/2\pi i]$ になる。さらに $q\to0$ のとき $\operatorname{Im}\tau=-\log|q|/2\pi\to\infty$ であり、$\operatorname{Im}\tau$ は $\Gamma$ の作用で変わらないので、$\Phi(q)$ は $\Gamma\backslash\mathfrak{H}_1$ のどのコンパクト集合からも出ていき、$\Phi$ は $q=0$ に連続に延びない。
この記事では証明しない。$\bar S$ を滑らかなコンパクト化で $\bar S\setminus S$ が正規交叉因子のものとする。境界成分のまわりの局所モノドロミーが有限位数なら、周期写像は有限被覆を経て境界を越えて正則に延びる(Gri70 Theorem 9.5、p. 156)。この記事の設定では $\Gamma\subset G_{\mathbb{Z}}$ は $G_{\mathbb{R}}$ の離散部分群なので $\Gamma\backslash D$ は解析空間であり、延ばした周期写像の像は $\Gamma\backslash D$ の解析的部分集合である(同 Theorem 9.6、p. 156)。幾何的な場合(または境界のまわりの局所モノドロミーがすべて有限位数の場合)には、$\Gamma$ が有限であることと変動が自明であることは同値である(同 Theorem 9.8、p. 157)。ex-pm-tate は局所モノドロミーが無限位数のときに延長が起きない例である。幾何的な場合の局所モノドロミーの固有値が 1 の冪根であることは Gauss–Manin接続 の定理「正則特異点とモノドロミー定理」にある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 偏極の正値性(def-pm-domain の 2) | $g=1$ のコンパクト双対 $\check D=\mathbb{P}^1$ の点 $(1:\tau)$、$\operatorname{Im}\tau\le0$ | 条件 1 は満たすが、$\operatorname{Im}\tau< 0$ では $iQ(x,\bar x)=2\operatorname{Im}\tau< 0$、$\tau\in\mathbb{R}$ では $F^1=\overline{F^1}$ となり、Hodge 構造にならない |
| 底空間の単連結性(def-pm-map の $\tilde\Phi$) | 穴あき円板上の族(ex-pm-tate) | 周期 $\tau=\log q/2\pi i$ が 1 価に定まらず、$D$ への写像にならない |
| 局所モノドロミーが有限位数(rem-pm-global) | 同じ族の $q=0$ | $\operatorname{Im}\tau\to\infty$ となり、周期写像が境界に延びない |
1 行目は、$D$ がコンパクト双対の中の真の開集合であること(thm-pm-homogeneous)の最小の例であり、$\check D=\mathbb{P}^1$ は $\mathfrak{H}_1$、実軸と $\infty$、下半平面に分かれる($(0:1)$ は $\tau=\infty$ にあたる)。
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