アフィン部分空間(affine subspace)とは、ベクトル空間 $V$ の部分空間 $W$ をあるベクトル $a$ だけ平行移動した集合 $a+W$ のことで、原点を通らない直線や平面、連立一次方程式 $Ax=b$ の解の全体がその例である。方向 $W$ は集合から一意に決まり、空でない部分集合がアフィン部分空間であることは、係数の和が $1$ のアフィン結合で閉じていることと同値である(係数体の元が $3$ 個以上なら、2 点を通る直線を含めば十分)。有限次元では、どのアフィン部分空間も一次方程式の連立の解の全体として書け、2 つのアフィン部分空間が交わるかどうかと、両方を含む最小のアフィン部分空間の次元は、方向の和と 2 点の差で決まる。
原点を通らない直線や平面は、ベクトル空間の部分空間ではない。しかし、そこに含まれる 2 点の差をとると、原点を通る直線や平面の元になる。このように、部分空間をあるベクトルだけ平行移動した集合を アフィン部分空間 という。連立一次方程式 $Ax=b$ の解の全体は、解があれば、1 つの解 $x_0$ と同次方程式の解の全体 $\ker A$ を使って $x_0+\ker A$ と書け、アフィン部分空間の代表例になる。
アフィン部分空間では、原点を基準にした線形結合の代わりに、係数の和が $1$ の アフィン結合 が基本の操作になる。この記事では、アフィン部分空間の方向が一意に決まること、アフィン結合で閉じていることによる特徴づけ(係数体の元が $3$ 個以上なら 2 点を通る直線で閉じていれば十分であること)、連立一次方程式の解の全体として表せること、2 つのアフィン部分空間の交わりと、両方を含む最小のアフィン部分空間の次元を証明する。
以下、$K$ は体、$V$ は $K$ 上のベクトル空間とする。$a\in V$ と部分集合 $S\subset V$ について $a+S:=\{a+s\mid s\in S\}$ と書く。
$V$ の空でない部分集合 $A$ が アフィン部分空間(affine subspace)であるとは、あるベクトル $a\in V$ と部分空間 $W\subset V$ によって
$$
A=a+W=\{a+w\mid w\in W\}
$$
と書けることをいう。$W$ を $A$ の 方向(方向空間)といい、$W$ の次元を $A$ の 次元 という。$0$ 次元のアフィン部分空間は 1 点 $\{a\}$、$1$ 次元のものを直線、$2$ 次元のものを平面という。$V$ が $n$ 次元のとき、$n-1$ 次元のアフィン部分空間をアフィン超平面という(超平面 の記事の定義「アフィン超平面」)。
アフィン部分空間を「部分空間の平行移動」「線形多様体」「アフィン部分集合」と呼ぶ本もある。空集合をアフィン部分空間に含める流儀もあるが、この記事では含めない。そのかわり、2 つのアフィン部分空間の共通部分は空になりうることに注意する(thm-as-meet-join)。
$x_1,\dots,x_m\in V$ と $\lambda_1,\dots,\lambda_m\in K$ が $\lambda_1+\dots+\lambda_m=1$ を満たすとき、$\lambda_1x_1+\dots+\lambda_mx_m$ を $x_1,\dots,x_m$ の アフィン結合 という。ベクトル空間の間の写像 $f\colon V\to V'$ が、ある線形写像 $T\colon V\to V'$ と $b\in V'$ によって $f(x)=T(x)+b$ と書けるとき、$f$ を アフィン写像 という。
アフィン結合は、原点を動かしても意味が変わらない。実際、すべての $x_i$ を $x_i+c$ に替えると、$\sum\lambda_i(x_i+c)=\sum\lambda_ix_i+c$ となり、結果も $c$ だけ平行移動するだけである(線形結合 の記事の節「線形結合、アフィン結合、凸結合」)。2 点 $x\ne y$ のアフィン結合の全体 $\{\lambda x+(1-\lambda)y\mid\lambda\in K\}=y+K(x-y)$ は、$x$ と $y$ を通る直線である。
$A=a+W$ をアフィン部分空間とする。
(i) $W=\{x-y\mid x,y\in A\}$ である。とくに方向 $W$ は $A$ だけで決まる。
(ii) すべての $a'\in A$ について $A=a'+W$ である。
(iii) $A$ が部分空間であることと $0\in A$ は同値である。
(iv) 方向が同じ 2 つのアフィン部分空間は、一致するか交わらないかのどちらかである。方向が $W$ のアフィン部分空間の全体は、商ベクトル空間 $V/W$ の元(剰余類)の全体に等しい。
(i):$x=a+w$、$y=a+w'$($w,w'\in W$)なら $x-y=w-w'\in W$ である。逆に $w\in W$ なら $w=(a+w)-(a+0)$ で、$a+w,a\in A$ である。
(ii):$a'=a+w_0$($w_0\in W$)とする。$a'+w=a+(w_0+w)\in A$ であり、$a+w=a'+(w-w_0)\in a'+W$ なので $A=a'+W$ である。
(iii):$A$ が部分空間なら $0\in A$ である。$0\in A$ なら (ii) により $A=0+W=W$ で、$A$ は部分空間である。
(iv):$a+W$ と $b+W$ が点 $c$ を共有すれば、(ii) によりどちらも $c+W$ に等しい。方向が $W$ のアフィン部分空間は $a+W$($a\in V$)の形の集合であり、これは $V/W$ の元そのものである。$\square$
(i) により、アフィン部分空間の次元は表し方によらずに定まる。方向が等しい 2 つのアフィン部分空間は 平行 であるという(直線と平面のように次元が違う場合にも、一方の方向が他方の方向に含まれるとき平行と呼ぶ流儀がある)。(iv) は「平行な 2 つのアフィン部分空間は一致するか交わらない」と言い換えられる。逆に、交わらない 2 つのアフィン部分空間が平行とは限らない(ex-as-counterexamples の 5 行目)。
アフィン部分空間は「原点を忘れた部分空間」である。原点を通る平面 $W$ の上では、ベクトルの和やスカラー倍がそのまま平面の中に留まる。平面を $a$ だけずらした $a+W$ では、和 $x+y$ は一般に $a+W$ から外れるが、差 $x-y$ は $W$ に入り、係数の和が $1$ の結合 $\lambda x+(1-\lambda)y$ は $a+W$ に留まる。「点どうしの差はベクトル、点とベクトルの和は点、点の重み付き平均は点」という区別が、アフィン部分空間の上で意味をもつ計算である。
$\mathbb{R}^3$ で、点 $a$ を通り方向ベクトル $d\ne0$ をもつ直線は $a+\mathbb{R}d$、点 $a$ を通り線形独立な $d_1,d_2$ で張られる平面は $a+\mathbb{R}d_1+\mathbb{R}d_2$ である。たとえば平面 $P=\{(x,y,z)\mid x+y+z=1\}$ は $P=(1,0,0)+W$、$W=\{(x,y,z)\mid x+y+z=0\}$ と書ける。$P$ の点 $(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(0,0,1)$ の差 $(-1,1,0)$、$(-1,0,1)$ は $W$ の基底で、$P$ は $2$ 次元である。$0\notin P$ なので $P$ は部分空間ではない。
$V$ を次数 $n$ 以下の実係数多項式の全体とする。$A:=\{p\in V\mid p(0)=1\}$ は、$1\in A$ と $W:=\{p\in V\mid p(0)=0\}$ によって $A=1+W$ と書ける。$W$ は $x,x^2,\dots,x^n$ を基底にもつので、$A$ は $n+1$ 次元の空間 $V$ の $n$ 次元のアフィン部分空間、すなわちアフィン超平面である。条件を $p(t_1)=c_1,\dots,p(t_k)=c_k$($t_i$ は相異なる、$k\le n+1$)に増やしても、解の全体はアフィン部分空間になる(thm-as-equations の (i))。
$C^1(\mathbb{R})$ を $\mathbb{R}$ 上の連続微分可能な実数値関数の全体、$C(\mathbb{R})$ を連続関数の全体とし、微分 $D\colon C^1(\mathbb{R})\to C(\mathbb{R})$、$D(f)=f'$ を考える。$D$ は線形で、$g\in C(\mathbb{R})$ の原始関数 $F(x)=\int_0^xg(t)\,dt$ は $D(F)=g$ を満たす(微分積分学の基本定理)。導関数が恒等的に $0$ の関数は定数なので(平均値の定理)、$\ker D$ は定数関数の全体である。thm-as-equations の (i) により、$g$ の原始関数の全体 $D^{-1}(g)=F+\{\text{定数関数}\}$ は $1$ 次元のアフィン部分空間である。「原始関数は定数の差を除いて決まる」という事実は、このアフィン部分空間の方向が定数関数の全体であることの言い換えである。
$\mathbb{R}^n$ の標準基底 $e_1,\dots,e_n$ のアフィン結合の全体は $H:=\{x\in\mathbb{R}^n\mid x_1+\dots+x_n=1\}$ である。実際 $\sum\lambda_ie_i=(\lambda_1,\dots,\lambda_n)$ で、係数の和が $1$ という条件は座標の和が $1$ という条件そのものである。$H$ は $n-1$ 次元のアフィン超平面で、成分が非負の点の全体(確率ベクトルの全体、標準単体)は $H$ に含まれる凸集合である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $0\in A$ | 直線 $\{(x,y)\mid y=x+1\}\subset\mathbb{R}^2$ | $A$ が部分空間であること |
| 係数体の元が $3$ 個以上 | $\{(0,0),(1,0),(0,1)\}\subset\mathbb{F}_2^{\,2}$ | 「2 点を通る直線で閉じていればアフィン部分空間」 |
| 係数の符号を制限しない | 区間 $[0,1]\subset\mathbb{R}$ | 「2 点の凸結合で閉じていればアフィン部分空間」 |
| 和集合でなく共通部分をとる | 2 本の座標軸の和集合 $\subset\mathbb{R}^2$ | アフィン部分空間であること |
| 全体の空間が $2$ 次元(2 直線が同じ平面にある) | $\mathbb{R}^3$ の直線 $\mathbb{R}e_1$ と $e_3+\mathbb{R}e_2$ | 「交わらない 2 直線は平行」 |
1 行目:$L=(0,1)+\mathbb{R}(1,1)$ はアフィン部分空間だが、$(0,0)\notin L$ なので prop-as-direction の (iii) により部分空間ではない(部分空間 の記事の注意「反例とよくある誤解:原点を通らないアフィン直線」)。
2 行目:$\mathbb{F}_2=\{0,1\}$ では、2 点 $x,y$ の結合 $\lambda x+(1-\lambda)y$ は $\lambda=0,1$ に対する $y,x$ だけなので、どんな部分集合も「2 点を通る直線」で閉じている。しかし $S=\{(0,0),(1,0),(0,1)\}$ は 3 点からなり、$\mathbb{F}_2^{\,2}$ のアフィン部分空間の元の個数は $2^{\dim}$ なので $1,2,4$ のどれかであり、$S$ はアフィン部分空間ではない。実際、アフィン結合 $(1,0)+(0,1)-(0,0)=(1,1)$(係数 $1,1,-1$ の和は $1$)は $S$ に入らない。
3 行目:$[0,1]$ は 2 点の凸結合 $\lambda x+(1-\lambda)y$($0\le\lambda\le1$)で閉じている(凸集合)。しかしアフィン結合 $2\cdot1+(-1)\cdot0=2$ は $[0,1]$ に入らず、$[0,1]$ は $\mathbb{R}$ のアフィン部分空間($1$ 点か $\mathbb{R}$ 全体)ではない。
4 行目:$X=\mathbb{R}(1,0)\cup\mathbb{R}(0,1)$ は 2 つのアフィン部分空間の和集合だが、$(1,0),(0,1)\in X$ を通る直線上の点 $\frac12(1,0)+\frac12(0,1)=(\frac12,\frac12)$ は $X$ に入らないので、thm-as-characterization によりアフィン部分空間ではない。共通部分なら prop-as-hull のとおり空かアフィン部分空間になる。
5 行目:$\ell_1=\mathbb{R}e_1$、$\ell_2=e_3+\mathbb{R}e_2$ とする。共通部分の点は $(s,0,0)=(0,t,1)$ を満たすが、第 3 成分が合わないので $\ell_1\cap\ell_2=\emptyset$ である。方向 $\mathbb{R}e_1$ と $\mathbb{R}e_2$ は異なるので平行でない。これがねじれの位置である。平面の中では、交わらない 2 直線は平行になる(ex-as-two-lines)。
$A\subset V$ を空でない部分集合とし、次の条件を考える。
(i) $A$ はアフィン部分空間である。
(ii) $A$ は有限個の点のアフィン結合で閉じている。すなわち $x_1,\dots,x_m\in A$、$\lambda_1+\dots+\lambda_m=1$ なら $\lambda_1x_1+\dots+\lambda_mx_m\in A$ である。
(iii) $A$ は 2 点を通る直線を含む。すなわち $x,y\in A$、$\lambda\in K$ なら $\lambda x+(1-\lambda)y\in A$ である。
このとき (i)⇔(ii)⇒(iii) である。さらに $K$ の元が $3$ 個以上なら (iii)⇒(i) も成り立ち、3 条件は同値である。
段 1((i)⇒(ii)):$A=a+W$ とし、$x_i=a+w_i$($w_i\in W$)、$\sum_i\lambda_i=1$ とする。
$$
\sum_i\lambda_ix_i=\Bigl(\sum_i\lambda_i\Bigr)a+\sum_i\lambda_iw_i=a+\sum_i\lambda_iw_i\in a+W
$$
である。(ii)⇒(iii) は $m=2$ の場合である。
段 2(2 種類の結合で閉じていれば (i)):$A$ が次の 2 つを満たすとする。(a) $x,y\in A$、$c\in K$ なら $cx+(1-c)y\in A$。(b) $x,y,z\in A$ なら $x+y-z\in A$。$a\in A$ を 1 つ固定し、$W:=\{x-a\mid x\in A\}$ とおく。$0=a-a\in W$ である。$x-a,\ y-a\in W$ と $c\in K$ について、
$$
(x-a)+(y-a)=(x+y-a)-a,\qquad c(x-a)=\bigl(cx+(1-c)a\bigr)-a
$$
であり、(b) により $x+y-a\in A$、(a) により $cx+(1-c)a\in A$ なので、どちらも $W$ に入る。よって $W$ は部分空間で、$A=a+W$ はアフィン部分空間である。(ii) を仮定すれば (a)(b) はどちらもアフィン結合(係数の和は $c+(1-c)=1$ と $1+1-1=1$)なので成り立ち、(ii)⇒(i) が示された。
段 3($K$ の元が $3$ 個以上なら (iii)⇒(b)):$\lambda\in K$ を $\lambda\ne0,1$ にとる($K$ の元が $3$ 個以上なのでとれる)。$x,y,z\in A$ について、(iii) により
$$
p:=\lambda x+(1-\lambda)z\in A,\qquad r:=\mu y+(1-\mu)z\in A\qquad\Bigl(\mu:=\frac{\lambda}{\lambda-1}\Bigr)
$$
である。さらに $\nu:=1/\lambda$ として $\nu p+(1-\nu)r\in A$ である。この点を展開すると、$x$ の係数は $\nu\lambda=1$、$y$ の係数は $(1-\nu)\mu=\frac{\lambda-1}{\lambda}\cdot\frac{\lambda}{\lambda-1}=1$、$z$ の係数は
$$
\nu(1-\lambda)+(1-\nu)(1-\mu)=\frac{1-\lambda}{\lambda}+\frac{\lambda-1}{\lambda}\cdot\frac{-1}{\lambda-1}=\frac{1-\lambda-1}{\lambda}=-1
$$
である。よって $x+y-z=\nu p+(1-\nu)r\in A$ となり (b) が成り立つ。(a) は (iii) そのものなので、段 2 により (i) が従う。$\square$
$K=\mathbb{F}_2$ では段 3 の $\lambda$ がとれず、実際に (iii)⇒(i) は成り立たない(ex-as-counterexamples の 2 行目)。$\mathbb{R}$ や $\mathbb{C}$ の上では、(iii)「2 点を通る直線を含む」をアフィン部分空間の定義として採ることができる。
(i) アフィン部分空間の族 $A_j=a_j+W_j$($j\in J$)の共通部分が空でなければ、それはアフィン部分空間で、方向は $\bigcap_jW_j$ である。
(ii) 空でない部分集合 $S\subset V$ について、$S$ の有限個の点のアフィン結合の全体を $\operatorname{aff}S$ と書き、$S$ の アフィン包 という。$s_0\in S$ を 1 つとると
$$
\operatorname{aff}S=s_0+\operatorname{span}\{s-s_0\mid s\in S\}
$$
であり、$\operatorname{aff}S$ は $S$ を含むアフィン部分空間のうち最小のものである。
(i):共通部分の点 $c$ をとると、prop-as-direction の (ii) により $A_j=c+W_j$ なので、$\bigcap_jA_j=\bigcap_j(c+W_j)=c+\bigcap_jW_j$ である。部分空間の共通部分は部分空間である。
(ii):$U:=\operatorname{span}\{s-s_0\mid s\in S\}$ とする。$\sum_i\lambda_i=1$ なら $\sum_i\lambda_is_i=s_0+\sum_i\lambda_i(s_i-s_0)\in s_0+U$ である。逆に $s_0+\sum_ic_i(s_i-s_0)=\bigl(1-\sum_ic_i\bigr)s_0+\sum_ic_is_i$ は係数の和が $1$ のアフィン結合である。よって $\operatorname{aff}S=s_0+U$ はアフィン部分空間で、$s=1\cdot s$ なので $S$ を含む。$S$ を含むアフィン部分空間は thm-as-characterization の (ii) によりアフィン結合で閉じているので、$\operatorname{aff}S$ を含む。$\square$
とくに $k+1$ 個の点 $s_0,\dots,s_k$ のアフィン包の次元は $k$ 以下で、ちょうど $k$ になるのは $s_1-s_0,\dots,s_k-s_0$ が線形独立なときである。このとき $s_0,\dots,s_k$ は アフィン独立 であるといい、アフィン包の各点は $s_0,\dots,s_k$ のアフィン結合としてただ 1 通りに書ける。その係数が重心座標である。
(i) 線形写像 $T\colon V\to U$ と $c\in U$ について、$T^{-1}(c)=\{x\in V\mid T(x)=c\}$ は空集合であるか、ある $x_0$ について $x_0+\ker T$ に等しいアフィン部分空間である。
(ii) $V$ を $n$ 次元、$A\subset V$ を $d$ 次元のアフィン部分空間とする。全射な線形写像 $S\colon V\to K^{n-d}$ と $c\in K^{n-d}$ で $A=S^{-1}(c)$ となるものがある。$V=K^n$ なら、$A$ は係数の行ベクトルが線形独立な $n-d$ 本の一次方程式の連立の解の全体である。
(i):$T(x_0)=c$ となる $x_0$ があれば、$T(x)=c$ は $T(x-x_0)=0$、すなわち $x-x_0\in\ker T$ と同値なので、$T^{-1}(c)=x_0+\ker T$ である。
(ii):$A=a+W$、$\dim W=d$ とする。商ベクトル空間 $V/W$ の次元は $n-d$ である(次元 の記事の命題「商と直和の次元」)ので、線形同型 $\varphi\colon V/W\to K^{n-d}$ がある。標準射影 $\pi\colon V\to V/W$ との合成 $S:=\varphi\circ\pi$ は全射な線形写像で、$c:=S(a)$ とおくと
$$
S(x)=c\iff\pi(x)=\pi(a)\iff x-a\in W\iff x\in A
$$
である(2 つ目の同値は 商ベクトル空間 の記事の命題「剰余類が等しくなる条件」)。$V=K^n$ なら $S$ は $(n-d)\times n$ 行列 $M$ による写像 $x\mapsto Mx$ で、$S$ が全射なので $M$ の階数は $n-d$、すなわち $M$ の $n-d$ 本の行は線形独立である。$A=\{x\mid Mx=c\}$ は、$M$ の各行を係数とする $n-d$ 本の方程式の連立の解の全体である。$\square$
$\mathbb{R}^n$ の $d$ 次元のアフィン部分空間は、媒介変数 $d$ 個の表示 $a+t_1d_1+\dots+t_dd_d$ と、$n-d$ 本の方程式による表示の両方をもつ。たとえば $\mathbb{R}^3$ の直線は媒介変数 1 個・方程式 2 本、平面は媒介変数 2 個・方程式 1 本で表される(空間の直線の方程式)。
$A=a+U$、$B=b+W$ をアフィン部分空間とする。
(i) $A\cap B\ne\emptyset$ であることと $b-a\in U+W$ は同値である。このとき $c\in A\cap B$ について $A\cap B=c+(U\cap W)$ である。
(ii) $A\cup B$ を含む最小のアフィン部分空間は $\operatorname{aff}(A\cup B)=a+\bigl(U+W+K(b-a)\bigr)$ である。
(iii) $V$ が有限次元なら
$$
\dim\operatorname{aff}(A\cup B)=\begin{cases}\dim(U+W)&(A\cap B\ne\emptyset)\\ \dim(U+W)+1&(A\cap B=\emptyset)\end{cases}
$$
であり、$\dim(U+W)=\dim U+\dim W-\dim(U\cap W)$ である。
(i):$c\in A\cap B$ なら $c=a+u=b+w$($u\in U$、$w\in W$)と書けて、$b-a=u-w\in U+W$ である。逆に $b-a=u-w$($u\in U$、$w\in W$)なら $c:=a+u=b+w$ は $A\cap B$ に入る。このとき prop-as-direction の (ii) により $A=c+U$、$B=c+W$ なので、prop-as-hull の (i) により $A\cap B=c+(U\cap W)$ である。
(ii):$X:=U+W+K(b-a)$、$J:=a+X$ とおく。$a+u\in J$、$b+w=a+\bigl((b-a)+w\bigr)\in J$ なので $J\supset A\cup B$ である。逆に $C$ を $A\cup B$ を含むアフィン部分空間とし、方向を $Y$ とすると、$a\in C$ なので $C=a+Y$ である。$a+u\in C$ から $u\in Y$、$b\in C$ から $b-a\in Y$、$b+w\in C$ から $(b-a)+w\in Y$、よって $w\in Y$ である。したがって $Y\supset X$ で、$C\supset J$ である。
(iii):$A\cap B\ne\emptyset$ なら (i) により $b-a\in U+W$ なので $X=U+W$ である。$A\cap B=\emptyset$ なら $b-a\notin U+W$ なので、$U+W$ の基底に $b-a$ を加えたものは線形独立で $X$ の基底になり、$\dim X=\dim(U+W)+1$ である。最後の等式は 次元 の記事の命題「部分空間の和の次元」である。$\square$
相異なる 2 直線 $A=a+Kd_1$、$B=b+Kd_2$($d_1,d_2\ne0$)について、thm-as-meet-join から次の 3 つの場合に分かれる。
| 場合 | $\dim(Kd_1+Kd_2)$ | $A\cap B$ | $\dim\operatorname{aff}(A\cup B)$ |
|---|---|---|---|
| 交わる | $2$ | 1 点 | $2$ |
| 平行($Kd_1=Kd_2$) | $1$ | 空 | $2$ |
| ねじれの位置 | $2$ | 空 | $3$ |
平行で相異なる 2 直線は prop-as-direction の (iv) により交わらない。方向が異なれば $Kd_1\cap Kd_2=\{0\}$ なので、交わる場合の共通部分は (i) により 1 点である。3 つ目の場合は 2 直線を含む平面がないので、$2$ 次元の空間の中では起こらない。したがって平面の中では、交わらない相異なる 2 直線は平行である。
(i) アフィン写像 $f(x)=T(x)+b$ はアフィン結合を保つ。アフィン部分空間 $A=a+W$ の像 $f(A)$ は方向 $T(W)$ のアフィン部分空間 $f(a)+T(W)$ であり、アフィン部分空間 $B=b'+W'$ の逆像 $f^{-1}(B)$ は空集合か、方向 $T^{-1}(W')$ のアフィン部分空間である。
(ii) 逆に、写像 $f\colon V\to V'$ がアフィン結合を保つなら、$T(x):=f(x)-f(0)$ は線形で、$f(x)=T(x)+f(0)$ はアフィン写像である。
(i):$\sum\lambda_i=1$ なら $f(\sum\lambda_ix_i)=\sum\lambda_iT(x_i)+(\sum\lambda_i)b=\sum\lambda_if(x_i)$ である。$f(a+w)=f(a)+T(w)$ なので $f(A)=f(a)+T(W)$ である。$f(x_0)\in B$ となる $x_0$ があれば、$f(x)\in B$ は $f(x)-f(x_0)=T(x-x_0)\in W'$、すなわち $x-x_0\in T^{-1}(W')$ と同値なので、$f^{-1}(B)=x_0+T^{-1}(W')$ である。
(ii):$x+y=1\cdot x+1\cdot y+(-1)\cdot0$ と $cx=c\cdot x+(1-c)\cdot0$ はアフィン結合なので、$f(x+y)=f(x)+f(y)-f(0)$、$f(cx)=cf(x)+(1-c)f(0)$ である。両辺から $f(0)$ を引くと $T(x+y)=T(x)+T(y)$、$T(cx)=cT(x)$ となる。$\square$
thm-as-equations の (i) は、(i) の逆像の主張を 1 点 $B=\{c\}$ に使ったものである。アフィン写像は凸結合も保つので、凸集合の像と逆像は凸集合になる(凸集合 の記事の命題「アフィン写像による像と逆像」)。
アフィン幾何では、集合 $E$ とベクトル空間 $W$ があって、「$E$ の 2 点の差が $W$ のベクトル、$E$ の点と $W$ のベクトルの和が $E$ の点」となる構造($W$ の $E$ への作用で、任意の 2 点を一方から他方へただ 1 通りに移すもの)を、原点のない空間として扱う。ベクトル空間 $V$ のアフィン部分空間 $a+W$ は、$W$ の平行移動による作用でこの構造をもつ。代数幾何学で多項式環から作るアフィン空間は別の対象であり、アフィン空間 の記事で扱う。
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