代数的整数論

同義語:代数的数論algebraic number theory

概要

代数的整数論(algebraic number theory)とは、有理数体の有限次拡大である代数体 $K$ と、その中の代数的整数のなす整数環 $\mathcal{O}_K$ の算術を研究する数論の分野である。$\mathcal{O}_K$ では元の素元分解は一意とは限らないが、イデアルは素イデアルの積に一意に分解し、そのずれを有限群であるイデアル類群が測る。単数群の構造(Dirichlet の単数定理)、素数が拡大した整数環でどう分かれるか(分岐と判別式)、Abel 拡大の記述(類体論)が主な問いである。整数の方程式を整数環の中で分解して解く議論が典型で、$y^2=x^3-2$ の整数解が $(3,\pm5)$ だけであることは $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ の一意分解から従う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 初等整数論, 代数体, 代数的整数, イデアル

代数的整数論(algebraic number theory)は、有理数体 $\mathbb{Q}$ の有限次拡大である代数体と、その中の「整数」のなす環(整数環)の算術を研究する数論の分野である。整数についての問いは、整数をより大きな環の中で考えると見通しがよくなることが多い。たとえば $x^2+y^2$ は Gauss 整数環 $\mathbb{Z}[i]$ で $(x+yi)(x-yi)$ と分解する。しかし一般の整数環では素元への分解が一意でなくなり、その代わりにイデアルの素イデアル分解が一意に成り立つ。分解の一意性がどれだけ崩れるか(イデアル類群)、単数がどれだけあるか(単数群)、素数が拡大した環でどう分かれるか、そしてそれらを Galois 群でどう記述するか(類体論)が、この分野の中心の問いである。
この記事は分野の入口として、基本の対象を定義し、主な問いと代表的な定理を記事とともに一覧にして、学ぶ順の目安を示す。この分野らしい議論の例として、方程式 $y^2=x^3-2$ の整数解が $(x,y)=(3,\pm5)$ だけであることを $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ の素元分解を使って証明し、同じ議論が $y^2=x^3-26$ では一意分解の欠如のために破綻することを示す。

定義

代数的整数論の基本の対象
  1. 代数体 とは、$\mathbb{Q}$ の有限次拡大体 $K$ のことであり、$n:=[K:\mathbb{Q}]$ をその次数という(代数体)。
  2. 複素数 $\alpha$ が、最高次の係数が $1$ の整数係数多項式の根であるとき 代数的整数 という。$K$ に含まれる代数的整数の全体 $\mathcal{O}_K$ は環をなし、$K$ の 整数環 という(代数的整数)。$\mathcal{O}_{\mathbb{Q}}=\mathbb{Z}$ である。
  3. $\mathcal{O}_K^\times$($\mathcal{O}_K$ の可逆元の群)を 単数群 という。
  4. $\mathcal{O}_K$ の $0$ でないイデアル $\mathfrak{a}$ について $\mathcal{O}_K/\mathfrak{a}$ は有限集合で、その元の個数 $N(\mathfrak{a})$ を $\mathfrak{a}$ の ノルム という。$K$ の分数イデアル全体のなす群を単項分数イデアル全体で割った群 $\operatorname{Cl}_K$ を イデアル類群、その位数 $h_K$ を 類数 という(イデアル類群)。
  5. $\alpha\in K$ の ノルム $N_{K/\mathbb{Q}}(\alpha)$ は、$\alpha$ を掛ける $\mathbb{Q}$ 線形写像 $K\to K$ の行列式である。2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ では $N(a+b\sqrt d)=a^2-db^2$ である。
代数的整数論

代数体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ の算術(元とイデアルの分解、単数群、イデアル類群)と、代数体の拡大 $L/K$ での素イデアルの分解とその Galois 群との関係を研究する数論の分野を 代数的整数論 という。

$\mathcal{O}_K$ は $\mathbb{Z}$ 上の階数 $n$ の自由加群で、Dedekind整域 である(代数的整数 の注意「整数環は Dedekind 整域である」)。2 次体では、平方因子をもたない整数 $d\ne0,1$ について、$d\equiv2,3\pmod4$ なら $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt d]$、$d\equiv1\pmod4$ なら $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[(1+\sqrt d)/2]$ である(代数的整数 の命題「2 次体の整数環の決定」)。

直感

$\mathbb{Z}$ では、$0$ でも $\pm1$ でもない整数は素数の積に一意に分解する。$\mathcal{O}_K$ では素元(の役をする既約元)への分解が一意とは限らないが、Kummer は「理想数」を導入して一意分解を回復しようとし、Dedekind はそれをイデアルとして定式化した(Neu99 Chapter I §3、pp. 16–17)。$\mathcal{O}_K$ では、$0$ でないイデアルが素イデアルの積に順序を除いて一意に分解する。元の分解とイデアルの分解のずれを測るのがイデアル類群で、類数が $1$ であることと $\mathcal{O}_K$ が一意分解整域であることは同値である(Dedekind整域 の命題「イデアル類群が自明な条件」)。

$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ での 2 通りの分解

$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ では
$$ 6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}) $$
で、$2,3,1\pm\sqrt{-5}$ はどれも既約元であり、互いに単数倍でない(代数体 の例「$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ での分解の非一意性」)。イデアルでは $\mathfrak{p}_2:=(2,1+\sqrt{-5})$、$\mathfrak{p}_3:=(3,1+\sqrt{-5})$、$\mathfrak{p}_3':=(3,1-\sqrt{-5})$ について
$$ (2)=\mathfrak{p}_2^2,\quad(3)=\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_3',\quad(1+\sqrt{-5})=\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_3,\quad(1-\sqrt{-5})=\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_3' $$
となり、$(6)=\mathfrak{p}_2^2\mathfrak{p}_3\mathfrak{p}_3'$ の分解は一意である($(2)$ と $(3)$ の分解は 代数体における素イデアルの分解 の例「$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ における分解」。$1+\sqrt{-5}$ は相異なる極大イデアル $\mathfrak{p}_2,\mathfrak{p}_3$ の両方に入るので $(1+\sqrt{-5})\subset\mathfrak{p}_2\cap\mathfrak{p}_3=\mathfrak{p}_2\mathfrak{p}_3$ で、ノルムがともに $6$ なので等しい。$1-\sqrt{-5}$ も同様)。類数は $2$ である。

素数の分かれ方

$\mathbb{Z}[i]$ では、$2=-i(1+i)^2$ は素元の平方の単数倍(分岐)、$p\equiv1\pmod4$ の素数は $p=(a+bi)(a-bi)$ と 2 つの素元に分かれ(分解)、$p\equiv3\pmod4$ の素数は素元のまま(惰性)である(代数体における素イデアルの分解 の例「Gauss 整数 $\mathbb{Z}[i]$ における素数の分解」)。とくに、奇素数 $p$ が $x^2+y^2$ と書けることと $p\equiv1\pmod4$ は同値になる(Gauss整数)。素数がどう分かれるかが合同条件で決まることは、2 次体では平方剰余の相互法則と同じ内容であり(2次体 の定理「2 次体における素数の分解法則」)、一般の Abel 拡大では類体論の主張になる。

代数的整数論の主な問い

  1. 一意分解はどこまで成り立つか。 $\mathcal{O}_K$ は Dedekind 整域で、イデアルは素イデアルに一意に分解する。元の分解の一意性は類数 $h_K=1$ と同値で、$h_K$ を求めること、$h_K=1$ となる $K$ を決めることが問題になる(イデアル類群、Dedekind整域)。
  2. 単数はどれだけあるか。 実 2 次体の単数は Pell方程式 の解に対応する。一般の $K$ では単数群は有限群と階数 $r_1+r_2-1$ の自由アーベル群の積である(Dirichletの単数定理。$r_1,r_2$ は実と複素の埋め込みの個数)。
  3. 素数はどう分かれるか。 素数 $p$ について $p\mathcal{O}_K=\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_g^{e_g}$ と分解したときの分岐指数 $e_i$ と剰余次数 $f_i$ の関係、どの $p$ が分岐するか、分解の型を合同条件で記述できるか(代数体における素イデアルの分解、差積と分岐、分解群と惰性群、Frobenius元)。
  4. Abel 拡大はどう記述されるか。 $K$ の Abel 拡大と、$K$ のイデアルの群の商との対応が 類体論 で、$\mathbb{Q}$ の場合が Kronecker–Weberの定理 である。拡大を具体的な数の添加で作る問題は Hilbertの第12問題 として残っている。
  5. 局所と大域の関係。 素数 $p$ ごとに $p$ 進数体とその有限次拡大(局所体)で考え、その情報から大域的な問いに答える(p進数、Henselの補題)。
  6. 解析的な量との関係。 類数や単数は Dedekindゼータ関数 の $s=1$ での留数に現れ(類数公式)、解析的整数論と結びつく。

代表的な定理の地図

定理主張記事(見出し)
イデアルの素イデアル分解$\mathcal{O}_K$ の $0,(1)$ でないイデアルは素イデアルの積に順序を除いて一意に書けるDedekind整域(定理「Dedekind整域のイデアル論的特徴づけ」)、代数的整数(注意「整数環は Dedekind 整域である」)
類数の有限性$\operatorname{Cl}_K$ は有限群イデアル類群(定理「類数の有限性」)
Minkowski の限界どの類もノルムが $M_K$ 以下の整イデアルを含むイデアル類群(定理「Minkowskiの限界」)
Dirichlet の単数定理$\mathcal{O}_K^\times\cong\mu_K\times\mathbb{Z}^{r_1+r_2-1}$Dirichletの単数定理(定理「Dirichletの単数定理」)
基本等式$\sum_ie_if_i=[L:K]$代数体における素イデアルの分解(定理「基本等式」)
Kummer–Dedekind の定理最小多項式の法 $p$ での因数分解から $p$ の分解が読める(条件つき)代数体における素イデアルの分解(定理「Kummer–Dedekindの定理」)
Dedekind の判別式定理$p$ が $K$ で分岐することと $p\mid d_K$ は同値差積と分岐(系「Dedekindの判別式定理」)
Minkowski の判別式定理$K\ne\mathbb{Q}$ なら $\lvert d_K\rvert>1$判別式(代数体)(定理「Minkowskiの判別式定理」)
Kronecker–Weber の定理$\mathbb{Q}$ の有限次 Abel 拡大は円分体に含まれるKronecker–Weberの定理
Artin 相互法則Abel 拡大の Galois 群はイデアルの群の商と Artin 写像で同型Artin写像とArtin相互法則(定理「Artin相互法則」)
類数公式$\zeta_K$ の $s=1$ での留数は $h_K$・単数規準・判別式で書けるDedekindゼータ関数(定理「類数公式」)

学ぶ順の目安

  1. 出発点:初等整数論、Gauss整数、2次体。具体的な環で、分解・単数・素数の分かれ方を計算する。
  2. 基礎の理論:代数的整数、代数体、Dedekind整域、イデアル類群、判別式(代数体)、Dirichletの単数定理。
  3. 素イデアルの分解と Galois 群:代数体における素イデアルの分解、差積と分岐、分解群と惰性群、Frobenius元、円分体。
  4. 局所的な方法:p進数、Henselの補題、局所体。
  5. 類体論:Kronecker–Weberの定理、Artin写像とArtin相互法則、Hilbert類体、類体論。
  6. 発展:Dedekindゼータ関数、岩澤理論、虚数乗法、Hilbertの第12問題、Fermatの最終定理。

議論の例:$y^2=x^3-2$ の整数解

整数の方程式を、それを分解できる整数環の中で考える議論の典型例を示す。$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-2})$ では $-2\equiv2\pmod4$ なので $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ であり、$N(a+b\sqrt{-2})=a^2+2b^2$ である。次の 2 つの事実を使う。

  • $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ はノルムで Euclid な整域である(2次体 の定理「ノルムで Euclid な虚 2 次体」)。よって単項イデアル整域であり、一意分解整域 である(Euclid整域)。
  • $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ の単数は $\pm1$ だけである(2次体 の命題「2 次体の単数群」)。
互いに素な積が立方数なら各因子も立方数

$R$ を一意分解整域、$\alpha,\beta\in R$ を $0$ でない元とし、$\alpha$ と $\beta$ を共に割る素元はないとする。$\alpha\beta=c^3$($c\in R$)なら、単数 $u$ と $\gamma\in R$ で $\alpha=u\gamma^3$ となるものがある。

$\alpha$ を割る素元 $\pi$ をとり、$\pi$ が $\alpha$ をちょうど $e$ 回割るとする。仮定から $\pi\nmid\beta$ なので、$\alpha\beta$ の素元分解で $\pi$(と単数倍で等しい素元)の指数は $e$ である。一方 $c^3$ の素元分解では、どの素元の指数も $c$ での指数の $3$ 倍である。分解の一意性から $e$ は $3$ の倍数である。$\alpha$ の素元分解 $\alpha=u\prod_j\pi_j^{e_j}$($\pi_j$ は単数倍で異なる素元)で各 $e_j$ が $3$ の倍数なので、$\gamma:=\prod_j\pi_j^{e_j/3}$ とおけば $\alpha=u\gamma^3$ である($\alpha$ が単数なら $\gamma=1$)。$\square$

$y^2=x^3-2$ の整数解

方程式 $y^2=x^3-2$ の整数解は $(x,y)=(3,5),(3,-5)$ だけである。

$(3,\pm5)$ が解であることは $27-2=25$ による。整数解 $(x,y)$ をとる。
1. $x,y$ は奇数である。 $y$ が偶数なら $x^3=y^2+2\equiv2\pmod4$ なので $x$ は偶数で、$x^3\equiv0\pmod8$ となり矛盾する。よって $y$ は奇数で、$x^3=y^2+2$ も奇数なので $x$ も奇数である。
2. $\alpha:=y+\sqrt{-2}$ と $\bar\alpha:=y-\sqrt{-2}$ を共に割る素元はない。 $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ で
$$ \alpha\bar\alpha=y^2+2=x^3 $$
である。素元 $\pi$ が $\alpha$ と $\bar\alpha$ を割るとすると、$\pi$ は $\alpha-\bar\alpha=2\sqrt{-2}=-(\sqrt{-2})^3$ を割る。$N(\sqrt{-2})=2$ は素数なので、$\sqrt{-2}=\sigma\tau$ なら $N(\sigma)N(\tau)=2$ からどちらかのノルムが $1$、すなわち単数であり、$\sqrt{-2}$ は既約元、一意分解整域なので素元である。よって $\pi$ は $\sqrt{-2}$ の単数倍で、$\sqrt{-2}\mid\alpha$ となる。ノルムをとると $2=N(\sqrt{-2})$ が $N(\alpha)=y^2+2$ を割るが、1 により $y^2+2$ は奇数なので矛盾する。
3. $\alpha$ は立方数である。 2 と lem-algnt-cube により、単数 $u$ と $\gamma\in\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ で $\alpha=u\gamma^3$ となる。$u=\pm1=(\pm1)^3$ なので、$u$ を $\gamma$ に繰り込んで $\alpha=\gamma^3$ としてよい。
4. 係数を比べる。 $\gamma=a+b\sqrt{-2}$($a,b\in\mathbb{Z}$)とすると
$$ \gamma^3=(a^3-6ab^2)+(3a^2b-2b^3)\sqrt{-2} $$
なので、$y=a^3-6ab^2$ かつ $1=b(3a^2-2b^2)$ である。後者から $b=\pm1$ で、$b=1$ なら $3a^2-2=1$ から $a=\pm1$、$b=-1$ なら $3a^2-2=-1$ となり整数解はない。よって $b=1$、$a=\pm1$ で、$y=a(a^2-6)=\mp5$、$x^3=y^2+2=27$ から $x=3$ である。$\square$

この証明の要は、整数の方程式 $y^2+2=x^3$ を $\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$ の積の等式 $(y+\sqrt{-2})(y-\sqrt{-2})=x^3$ に書き換え、一意分解から各因子が立方数であることを導く 3 の段にある。

反例:一意分解を外すと議論が破綻する

外す条件反例成り立たなくなること
$R$ が一意分解整域(lem-algnt-cube)$R=\mathbb{Z}[\sqrt{-26}]$、$\alpha=1+\sqrt{-26}$、$\beta=1-\sqrt{-26}$、$\alpha\beta=3^3$$\alpha$ は単数と立方数の積
$\alpha,\beta$ を共に割る素元がない(lem-algnt-cube)$R=\mathbb{Z}$、$\alpha=2$、$\beta=4$、$\alpha\beta=2^3$$\alpha$ は単数と立方数の積
反例の確認
各反例の確認を開く
  1. $-26\equiv2\pmod4$ なので $\mathbb{Z}[\sqrt{-26}]$ は $\mathbb{Q}(\sqrt{-26})$ の整数環で、単数は $\pm1$ だけである(2次体 の命題「2 次体の単数群」)。$\alpha$ と $\beta$ を共に割る元 $\delta$ は $\alpha-\beta=2\sqrt{-26}$ も割るので、$N(\delta)$ は $N(\alpha)=27$ と $N(2\sqrt{-26})=104$ の両方を割り、$\gcd(27,104)=1$ から $N(\delta)=1$、すなわち $\delta$ は単数である。$(a+b\sqrt{-26})^3=(a^3-78ab^2)+(3a^2b-26b^3)\sqrt{-26}$ が $\pm(1+\sqrt{-26})$ に等しいとすると、$b(3a^2-26b^2)=\pm1$ から $b=\pm1$、$3a^2=26\pm1$ から $a^2=9$ で、実部は $a(a^2-78)=\pm3\cdot(-69)=\mp207\ne\pm1$ となり矛盾する。よって $\alpha$ は単数と立方数の積でなく、$\mathbb{Z}[\sqrt{-26}]$ は一意分解整域でない($a^2+26b^2=3$ は整数解をもたないので $3$ は既約元だが、$3$ は $(1+\sqrt{-26})(1-\sqrt{-26})=27$ を割りつつどちらの因子も割らないので素元でない)。
  2. $\mathbb{Z}$ は一意分解整域で $2\cdot4=8=2^3$ だが、$2$ も $-2$ も立方数でない。$2$ は $\alpha$ と $\beta$ を共に割る素元である。

1 の反例は、$y^2=x^3-26$ の解 $(x,y)=(3,\pm1)$ から来ている。$\mathbb{Z}[\sqrt{-26}]$ で thm-algnt-mordell-2 と同じ議論を形式的に行うと、$y+\sqrt{-26}=(a+b\sqrt{-26})^3$ から $b=1$、$a=\pm3$、$y=\mp207$、$x=a^2+26b^2=35$ となり、解 $(35,\pm207)$ は得られるが、解 $(3,\pm1)$ は見落とされる($35^3-26=42849=207^2$)。イデアル $(1+\sqrt{-26})$ と $(1-\sqrt{-26})$ は共通の素イデアルをもたず(もてばそれは $27$ と $(2\sqrt{-26})(-2\sqrt{-26})=104$ を含み、$1$ を含んでしまう)、積が $(3)^3$ なので、イデアルの分解の一意性から $(1+\sqrt{-26})$ はあるイデアル $\mathfrak{a}$ の 3 乗になる。しかし $\mathfrak{a}$ は単項でなく(単項なら $\alpha$ が単数と立方数の積になる)、元の立方には戻らない。

歴史

Kummer は、一意分解が成り立たない整数環で「理想数」を導入して分解の一意性を回復しようとし、Dedekind はこれを整数環のイデアルとして定式化した(Neu99 Chapter I §3、pp. 16–17)。Hilbert は 1897 年に代数体の理論の報告(Zahlbericht)をまとめ(Hil02 p. 458 の脚注)、1900 年の講演で類体の理論にかかわる問題を挙げた。高木貞治(Teiji Takagi)は 1920 年と 1922 年の論文で、代数体の Abel 拡大を合同条件で定まるイデアルの群で記述する類体論を確立した(Edw08)。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch, Algebraic Number Theory, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, Springer, 1999, Chapter I, §3, pp. 16–17(Kummer の理想数と Dedekind のイデアル)
[2]
David Hilbert (translated by Mary Winston Newson), Mathematical Problems, Bull. Amer. Math. Soc., 1902, p. 458 の脚注(代数体の理論の報告、Jahresbericht der DMV 4, 1897)

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