Waringの問題(Waring's problem)とは、整数 $k\ge2$ を固定したとき、すべての正の整数が決まった個数以下の $k$ 乗数の和で表せるかを問い、その最小の個数 $g(k)$ と、十分大きい整数に限った最小の個数 $G(k)$ を求める問題である。$g(k)$ が有限であることは Hilbert が 1909 年に示し(Hilbert–Waring の定理)、$g(2)=4$、$g(3)=9$、$g(4)=19$ が知られている。初等的な議論から $g(k)\ge2^k+\lfloor(3/2)^k\rfloor-2$、$G(k)\ge k+1$、$G(4)\ge16$ が従い、Liouville の恒等式と四平方定理から $g(4)\le50$ が従う。$G(k)$ の上からの評価には円周法が使われ、$G(4)=16$ は Davenport が示した。
前提知識: Lagrangeの四平方定理, 合同式, 二項係数
Waringの問題(Waring's problem)は、整数 $k\ge2$ を固定したとき、すべての正の整数が決まった個数以下の $k$ 乗数の和で表せるかを問い、表せるならその最小の個数を求める問題である。Waring は 1770 年に、すべての正の整数は 4 個の平方数、9 個の立方数、19 個の 4 乗数などの和であると述べた。Lagrangeの四平方定理 は平方数の場合の答えであり、すべての $k$ について個数が有限であることは Hilbert が 1909 年に示した(HW60 §20.1, pp. 297–298 と Notes on Chapter XX, p. 315、VW02 p. 1)。
この記事では、問題を 2 つの数 $g(k)$・$G(k)$ として定式化し、初等的に示せる評価を証明する。下からは $g(k)\ge2^k+\lfloor(3/2)^k\rfloor-2$、$G(k)\ge k+1$、$G(4)\ge16$ を、上からは Liouville の恒等式による $g(4)\le50$ を示す。一般の $k$ での有限性と、知られている値は所在を示して述べる。
$k\ge2$、$s\ge1$ を整数とする。整数 $n\ge0$ が $s$ 個の $k$ 乗数の和で表せる とは、$0$ 以上の整数 $x_1,\dots,x_s$ で $n=x_1^k+\dots+x_s^k$ となるものがあることをいう($0$ を許すので、「$s$ 個以下の正の整数の $k$ 乗の和」と同じことである)。
$s$ 個で表せる数は $s+1$ 個でも表せる($0^k$ を足す)ので、条件を満たす $s$ は最小値から上がすべてである。どの正の整数にも通用する個数は十分大きい整数にも通用するから、$G(k)\le g(k)$ である。$g(k)$ は少数の小さい数の都合で大きくなることがあり、問題の本質は $G(k)$ の方にあると考えられている(HW60 p. 298)。
小さい数が多くの項を要することから $g(k)$ の下からの評価が、表せる数を数えることや合同式から $G(k)$ の下からの評価が得られる。
$k\ge2$ を整数とし、$q:=\lfloor(3/2)^k\rfloor$ とおく。$n:=2^kq-1$ を正の整数の $k$ 乗の和で表すと、項の数は必ず $2^k+q-2$ 以上である。したがって $g(k)\ge2^k+\lfloor(3/2)^k\rfloor-2$ である。
$q\le(3/2)^k$ なので $2^kq\le3^k$、つまり $n< 3^k$ であり、$n$ の表し方に使える正の $k$ 乗数は $1^k=1$ と $2^k$ だけである。$2^k$ を $a$ 個、$1$ を $b$ 個使うとすると $n=2^ka+b$ で、$2^ka\le n< 2^kq$ から $a\le q-1$ である。項の数は $a+b=n-(2^k-1)a$ で、$a$ について減少するから、$a=q-1$ のとき最小値
$$
n-(2^k-1)(q-1)=2^kq-1-2^kq+2^k+q-1=2^k+q-2
$$
をとる。$\square$
| $k$ | $2$ | $3$ | $4$ | $5$ | $6$ |
|---|---|---|---|---|---|
| $\lfloor(3/2)^k\rfloor$ | $2$ | $3$ | $5$ | $7$ | $11$ |
| $n=2^kq-1$ | $7$ | $23$ | $79$ | $223$ | $703$ |
| 下からの評価 $2^k+q-2$ | $4$ | $9$ | $19$ | $37$ | $73$ |
$k=2,3,4$ の数 $7$、$23$、$79$ は ex-wp-small の数そのものである。
$k\ge2$ なら $G(k)\ge k+1$ である。すなわち、$k$ 個の $k$ 乗数の和で表せない正の整数は無限にある。
$N\ge1$ とし、$M:=\lfloor N^{1/k}\rfloor$ とおく。$N$ 以下で $k$ 個の $k$ 乗数の和で表せる数 $n=x_1^k+\dots+x_k^k$ は、$0\le x_1\le\dots\le x_k\le M$ と並べた組で表せる。このような組は、$\{0,1,\dots,M\}$ から重複を許して $k$ 個選ぶ方法の数 $\binom{M+k}{k}$ だけあるので、表せる数の個数 $A(N)$ について
$$
A(N)\le\binom{M+k}{k}=\frac{(M+1)(M+2)\cdots(M+k)}{k!}\le\frac{(N^{1/k}+k)^k}{k!}
$$
である。$(N^{1/k}+k)^k/N=(1+kN^{-1/k})^k\to1$($N\to\infty$)であり、$k!\ge2$ なので、$N$ が大きいと $A(N)\le\frac23N$ である。もし $G(k)\le k$ なら、ある $n_0$ より大きい整数はすべて表せるので $A(N)\ge N-n_0$ となり、$N$ が大きいと矛盾する。$\square$
$k=4$ では、合同式を使うとこれよりずっと強い評価が得られる。
整数 $m\ge0$ について、$16^m\cdot31$ は 15 個の 4 乗数の和で表せない。したがって $G(4)\ge16$ である。
4 乗数を 16 で割った余り。 $x$ が偶数なら $16\mid x^4$ である。$x$ が奇数なら $x^2=8j+1$($j$ は整数。奇数の平方は 8 で割って 1 余る)なので $x^4=64j^2+16j+1\equiv1\pmod{16}$ である。
降下。 $16n$($n\ge1$)が 15 個の 4 乗数の和 $x_1^4+\dots+x_{15}^4$ なら、16 で割った余りを比べて、奇数の $x_i$ の個数は 16 の倍数である。15 以下なので $0$ であり、すべての $x_i$ は偶数である。$x_i=2y_i$ とおくと $16n=16(y_1^4+\dots+y_{15}^4)$ で、$n$ も 15 個の 4 乗数の和である。
$m=0$。 $31< 3^4$ なので使える正の 4 乗数は $1$ と $16$ だけで、$31=16a+b$($a\le1$)の項の数は $a+b=31-15a\ge16$ である。よって $31$ は 15 個の 4 乗数の和で表せない。降下により、$16^m\cdot31$ が 15 個で表せれば $16^{m-1}\cdot31,\dots,31$ も表せることになるので、どの $m$ でも表せない。これらは無限にあるので $G(4)\ge16$ である。$\square$
4 乗数の個数が有限で足りることは、平方数の場合に帰着できる。鍵は次の恒等式である。
実数 $x_1,x_2,x_3,x_4$ について
$$
6(x_1^2+x_2^2+x_3^2+x_4^2)^2=\sum_{1\le i< j\le4}\bigl((x_i+x_j)^4+(x_i-x_j)^4\bigr)
$$
が成り立つ。右辺は 12 個の 4 乗の和である。
二項定理から $(x+y)^4+(x-y)^4=2x^4+12x^2y^2+2y^4$ である。右辺の 6 組 $(i,j)$ について足すと、各 $x_i^4$ は $x_i$ を含む 3 組から $2x_i^4$ ずつ現れて $6x_i^4$ になり、$x_i^2x_j^2$($i< j$)は 1 組から $12x_i^2x_j^2$ 現れる。左辺は $6\sum_ix_i^4+12\sum_{i< j}x_i^2x_j^2$ なので一致する。$\square$
すべての正の整数は 50 個の 4 乗数の和で表せる。したがって $g(4)\le50$ である。
$6x^2$ の形。 整数 $x\ge0$ は Lagrangeの四平方定理 により $x=a^2+b^2+c^2+d^2$($a,b,c,d\ge0$)と書けるので、lem-wp-liouville から $6x^2$ は 12 個の 4 乗数の和である($x_i-x_j$ が負でも 4 乗は同じ)。
$6N$ の形。 整数 $N\ge0$ をふたたび $N=y_1^2+y_2^2+y_3^2+y_4^2$ と書くと、$6N=6y_1^2+\dots+6y_4^2$ は $4\times12=48$ 個の 4 乗数の和である。
$n\ge81$ の場合。 $n$ を 6 で割った余りが $0,1,2,3,4,5$ のとき、それぞれ $t:=0,1,2,81,16,17$ とおく($81=3^4\equiv3$、$16=2^4\equiv4$、$17\equiv5\pmod 6$)。$t\le81\le n$ なので $n-t=6N$($N\ge0$)と書け、$t$ は $0$、$1^4$、$1^4+1^4$、$3^4$、$2^4$、$2^4+1^4$ のとおり 2 個以下の 4 乗数の和である。よって $n$ は $48+2=50$ 個以下の 4 乗数の和である。
$n\le80$ の場合。 使える正の 4 乗数は $1$ と $16$ で、$n=16a+b$($a=\lfloor n/16\rfloor\le5$、$0\le b\le15$)と書くと $a+b$ 個の和になる。$a=5$ なら $n=80$、$b=0$ で 5 個であり、$a\le4$ なら $a+b\le19$ である。$\square$
同じ考え方で、立方数・6 乗数・8 乗数についても個数の有限性が恒等式から示せる(HW60 §21.2–21.4, Theorems 388–392, pp. 318–321。立方数では $g(3)\le13$)。ただし得られる個数は真の値よりずっと大きい。
$G(k)< \infty$ なら $g(k)< \infty$ である。より詳しく、$n_0$ より大きい整数がすべて $G(k)$ 個の $k$ 乗数の和で表せるなら、$g(k)\le\max\{G(k),n_0\}$ である。
$n\le n_0$ は $n$ 個の $1^k$ の和であり、$n>n_0$ は $G(k)$ 個の $k$ 乗数の和である。$\square$
この命題は粗いが、$G(k)$ の上からの評価と、ある範囲までの数値計算を合わせると $g(k)$ が決まるという道筋を示している(HW60 Notes on Chapter XXI, pp. 336–337)。
すべての整数 $k\ge2$ について $g(k)$ は有限である。
Hilbert が 1909 年に証明した(HW60 p. 298 と Notes on Chapter XX, p. 315、VW02 p. 1)。それ以前には $k=3,4,5,6,7,8,10$ についてだけ知られていた。この記事では一般の $k$ での証明をしない。円周法 の節「主弧と漸近式」で述べたとおり、$k\ge3$ では十分大きい整数はすべて $2^k+1$ 個の $k$ 乗数の和で表せる、つまり $G(k)\le2^k+1$ である(Hardy–Littlewood の方法と Hua の補題による。VW02 pp. 9–11)。これと prop-wp-big-g-to-g から $g(k)< \infty$ が従う。$k=2$ は Lagrangeの四平方定理、$k=4$ は thm-wp-g4-upper による。
$g(k)$ はほとんど決定されている。$\{x\}:=x-\lfloor x\rfloor$ とおくと、条件
$$
2^k\{(3/2)^k\}+\lfloor(3/2)^k\rfloor\le2^k
$$
を満たす $k$ では $g(k)=2^k+\lfloor(3/2)^k\rfloor-2$、すなわち thm-wp-g-lower の評価が真の値である。この条件は $k\le471{,}600{,}000$ では成り立ち(Kubina と Wunderlich)、成り立たない $k$ は高々有限個である(Mahler)。条件が成り立たない場合の値の式も知られている(以上 VW02 pp. 1–2)。
| $k$ | $g(k)$ | $G(k)$ について分かっていること |
|---|---|---|
| $2$ | $4$(Lagrange) | $G(2)=4$(ex-wp-small) |
| $3$ | $9$(Wieferich、Kempner) | $4\le G(3)\le7$(Linnik) |
| $4$ | $19$(Balasubramanian、Deshouillers、Dress) | $G(4)=16$(Davenport) |
| $5$ | $37$(Chen Jing-run) | $6\le G(5)$ |
$g(3)=9$ は HW60 p. 335、$g(4)=19$ は Dre86 §1–2, pp. 7-01–7-04、$g(5)=37$ は HW60 p. 337 による。$G(3)\le7$ は VW02 p. 4 と HW60 p. 335、$G(4)=16$ は VW02 p. 2 と HW60 p. 336 による。$G(4)\ge16$ は thm-wp-big-g4-lower、$G(3)\ge4$ と $G(5)\ge6$ は thm-wp-big-g-lower である。$G(k)$ の値が分かっているのは $k=2,4$ だけで、$G(3)=4$ と予想されている(VW02 pp. 2, 5)。$k$ が大きいとき、$G(k)\le k(\log k+\log\log k+2+o(1))$ が知られている(Wooley、VW02 p. 4)。thm-wp-big-g-lower と合わせると、$G(k)$ は $k+1$ 以上で、$k\log k$ 程度以下である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 加える数を $k$ 乗数に限る($1,2,4,8,\dots$ に替える) | $2^{m+1}-1$ | $m+1$ 個未満では表せず、どの固定した個数でも足りない |
| $G$ の定義の「十分大きい」(すべての $n$ を求める) | $k=3$、$n=23$ | 8 個の立方数では表せず、$g(3)=9$ は大きい数に必要な個数を超える |
| thm-wp-big-g4-lower の降下の「15 個」 | 16 個、$16=16\cdot1^4$ | 奇数の 4 乗 16 個で 16 の倍数になり、すべてが偶数とはいえない |
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