Brauer–鈴木の定理(Brauer–Suzuki theorem)とは、有限群 $G$ の Sylow $2$-部分群が一般化四元数群であるとき、そのただ 1 つの対合 $t$ について、$tO(G)$ が $G/O(G)$ の中心に属するという定理である。ここで $O(G)$ は $G$ の位数が奇数の最大の正規部分群を表し、$O(G)=1$ なら $G$ の中心は $\langle t\rangle$ で位数 $2$ になる。とくに、Sylow $2$-部分群が一般化四元数群である単純群は存在しない。一般の場合には指標の理論による証明が知られているが、可解群の場合は極小正規部分群から初等的に示され、一般の場合は Glauberman の $Z^*$ 定理からも従う。
Brauer–鈴木の定理(Brauer–Suzuki theorem)とは、有限群 $G$ の Sylow $2$-部分群 $S$ が一般化四元数群(位数 $8$ 以上で、位数 $2$ の元をただ 1 つしかもたない $2$-群の一つ)であるとき、$S$ のただ 1 つの対合 $t$ が、$G$ の位数が奇数の最大の正規部分群 $O(G)$ を法として $G$ の中心に入る、すなわち $tO(G)$ が $G/O(G)$ の中心の元になる、という定理である。とくに、Sylow $2$-部分群が一般化四元数群であるような単純群は存在しない。
Sylow $2$-部分群 $S$ が巡回群なら、$G=O(G)S$ となり、$G/O(G)$ は $S$ と同型になる。一般化四元数群は、巡回群のほかに対合が 1 つしかない唯一の系列の $2$-群で、Brauer–鈴木の定理は、この場合にも $G/O(G)$ の中で $t$ が中心に入ることまでは保たれると述べている。定理は Richard Brauer と鈴木通夫(Michio Suzuki)による(Sol01 p. 331)。一般の場合の証明には指標の理論(モジュラー表現論)を使うものが知られており、この記事では証明しない。代わりに、同値な言い換え、可解群の場合、巡回群の場合の対応する結果、Glauberman の $Z^*$ 定理からの導出を完全に証明する。
| 結果 | 内容 | 扱い |
|---|---|---|
| thm-bs-main | Brauer–鈴木の定理 | 主張と所在 |
| prop-bs-equivalent | 結論の 3 つの言い換え | 証明 |
| cor-bs-not-simple | 一般化四元数群を Sylow $2$-部分群にもつ単純群はない | 主定理から証明 |
| thm-bs-solvable | 可解群なら主定理の結論が成り立つ | 証明 |
| prop-bs-cyclic | Sylow $2$-部分群が巡回群なら $G/O(G)\cong S$ | 証明 |
| prop-bs-from-zstar | $Z^*$ 定理から主定理が従う | $Z^*$ 定理を引用して証明 |
群はすべて有限群とする。位数 $2$ の元を 対合 という。
$G$ を有限群とする。
1.$N_1,N_2$ が位数が奇数の正規部分群なら、$N_1N_2$ は正規部分群で、位数 $|N_1||N_2|/|N_1\cap N_2|$ は奇数である。有限群なので、すべての積も位数が奇数の正規部分群である。
2.$\overline G$ の位数が奇数の正規部分群の $G$ での逆像は、位数が $|O(G)|$ と奇数の積の正規部分群なので、1 により $O(G)$ に含まれる。よってその部分群は自明である。
3.$S\cap O(G)$ は $2$-群かつ位数が奇数の群なので自明で、$SO(G)/O(G)\cong S/(S\cap O(G))\cong S$ である。その位数は $|\overline G|=|G|/|O(G)|$ を割る $2$ の最大冪に等しいので、Sylow $2$-部分群である。$\square$
$O(G)$ は記号 $O_{2'}(G)$ でも表される。
$n\ge3$ とし、$\zeta$ を $1$ の原始 $2^{n-1}$ 乗根とする。複素行列
$$
a:=\begin{pmatrix}\zeta&0\\0&\zeta^{-1}\end{pmatrix},\qquad b:=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}
$$
が生成する $\mathrm{SL}_2(\mathbb C)$ の部分群を $Q_{2^n}$ と書き、これと同型な群を 一般化四元数群 という。
$n=3$ のとき $Q_8$ は四元数群である($a$ と $b$ は $a^4=1$、$b^2=a^2$、$bab^{-1}=a^{-1}$ を満たし、四元数群 の命題「生成元と関係式による表示」の生成元にあたる)。
$n\ge3$ とし、$t:=a^{2^{n-2}}=-I$ とおく。
1.$b^2=-I=a^{2^{n-2}}$、$bab^{-1}=a^{-1}$ なので、$a^ib\,a^j=a^{i-j}b$、$a^ib\,a^jb=a^{i-j}b^2=a^{i-j+2^{n-2}}$ となり、右辺の集合は積で閉じる。$a$ の位数は $2^{n-1}$ である。$a^i$ は対角行列、$a^ib$ は対角成分が $0$ の行列なので、$2^n$ 個の元は相異なる。
2.$(a^ib)^2=a^i(ba^ib^{-1})b^2=a^ia^{-i}b^2=-I\ne I$ なので $a^ib$ の位数は $4$ である。$a^i$ が位数 $2$ になるのは $i=2^{n-2}$ のときだけである。
3.$a^i$ が $b$ と可換であることは $a^i=a^{-i}$、すなわち $i\in\{0,2^{n-2}\}$ と同値である。$a^ib$ は $a$ と可換でない。実際 $a\cdot a^ib=a^{i+1}b$、$a^ib\cdot a=a^{i-1}b$ で、$n\ge3$ なので $a^2\ne1$ である。$-I$ は中心にある。
4.$\{1\}$ でない部分群は $1$ でない元 $x$ を含み、$x$ の位数は $2^k$($k\ge1$)なので $x^{2^{k-1}}$ は対合であり、2 により $t$ に等しい。$\square$
位数 $p$ の部分群をただ 1 つしかもたない有限 $p$-群は、巡回群か一般化四元数群に限る(四元数群 の注意「二重巡回群と一般化四元数群」)。この意味で、一般化四元数群は対合をただ 1 つしかもたない巡回群でない $2$-群のすべてである。
有限群 $G$ の Sylow $2$-部分群 $S$ が一般化四元数群であるとし、$t$ を $S$ のただ 1 つの対合とする。このとき $tO(G)$ は $G/O(G)$ の中心に属する。とくに $O(G)=1$ なら、$G$ の中心は $\langle t\rangle$ で位数は $2$ である。
この記事では証明しない。Sol01 p. 331 は、Brauer と鈴木が Sylow $2$-部分群が四元数群である単純群が存在しないことを示したと述べ、その論文として Proc. Natl. Acad. Sci. USA 45 (1959), 1757–1759 を挙げている(同 p. 349 の文献表)。KL19 §4(p. 7)は、$O(G)=1$ で Sylow $2$-部分群が位数 $8$ 以上の一般化四元数群なら $G$ の中心が位数 $2$ の巡回群であるという形を Brauer–鈴木の定理として使い、その出典に R. Brauer, J. Algebra 1 (1964) の Theorem 2 を挙げている。これを $G/O(G)$ に当てはめると、prop-bs-equivalent により主定理の形になる。この Brauer の論文は、有限群の指標のブロックの理論の応用を主題としている。
「とくに」の部分は、次の言い換えの (1)⇒(2) による。
有限群 $G$ の Sylow $2$-部分群 $S$ が一般化四元数群で、$t$ がその対合のとき、次は同値である。
$\overline G:=G/O(G)$ とし、像に上線を付ける。prop-bs-odd-core の 3 により $\overline S\cong S$ である。
1⇔2. $Z:=Z(\overline G)$ は可換なので、位数が奇数の元の全体 $Z_{\mathrm{odd}}$ は部分群で、$Z$ の自己同型で保たれるので $\overline G$ の正規部分群になる。prop-bs-odd-core の 2 により $Z_{\mathrm{odd}}=1$ で、$Z$ は $2$-群である。一般に、正規な $2$-部分群 $N$ は任意の Sylow $2$-部分群 $P$ に含まれる($NP$ は位数 $|N||P|/|N\cap P|$ の $2$-群で $P$ を含むので $NP=P$)。よって $Z\subset\overline S$ で、$Z$ は $\overline S$ の元と可換なので $Z\subset Z(\overline S)=\langle\overline t\rangle$(prop-bs-quaternion の 3)である。したがって 1、すなわち $\overline t\in Z$ は、$Z=\langle\overline t\rangle$ と同値である。
3⇒1. $g=xc$($x\in O(G)$、$c\in C_G(t)$)なら $gtg^{-1}t^{-1}=xtx^{-1}t^{-1}\in O(G)$ なので、$\overline t$ は $\overline g$ と可換である。
1⇒3. $g\in G$ をとり $t':=gtg^{-1}$ とおく。1 により $t'\in tO(G)$ なので、$t$ と $t'$ はどちらも部分群 $M:=O(G)\langle t\rangle$ に属する。$|M|=2|O(G)|$ なので $\langle t\rangle$ と $\langle t'\rangle$ は $M$ の Sylow $2$-部分群であり、Sylowの定理 によりある $y\in M$ で $y\langle t\rangle y^{-1}=\langle t'\rangle$、すなわち $yty^{-1}=t'$ となる。$y=xt^{\varepsilon}$($x\in O(G)$、$\varepsilon\in\{0,1\}$)と書くと $xtx^{-1}=t'$ である。すると $x^{-1}g$ は $t$ と可換なので、$g=x\cdot x^{-1}g\in O(G)C_G(t)$ である。$\square$
Sylow $2$-部分群が一般化四元数群である単純群は存在しない。
$G$ をそのような単純群とする。$|G|$ は $8$ で割り切れるので $O(G)\ne G$ で、単純性から $O(G)=1$ である。thm-bs-main により $G$ の中心 $\langle t\rangle$ は位数 $2$ の正規部分群なので、$G=\langle t\rangle$ となり、Sylow $2$-部分群の位数が $2$ であることに反する。$\square$
この系から次のことがわかる。$G$ を可換でない有限単純群、$S$ をその Sylow $2$-部分群とする。Feit–Thompsonの定理 の系「位数は 4 で割り切れる」により $S$ は自明でも巡回群でもなく、この系により一般化四元数群でもない。巡回群でも一般化四元数群でもない $2$-群は位数 $2$ の部分群を 2 つ以上もつ(四元数群 の注意「二重巡回群と一般化四元数群」の分類)。$S$ の中心は自明でないので対合 $z$ を含み、$z$ と別の対合 $y$ をとると、$z$ は中心にあるので $\langle z,y\rangle$ は Kleinの四元群 と同型である。よって、可換でない有限単純群は Klein の四元群と同型な部分群をもつ。
$G$ を $\{1\}$ でない可解群、$N$ をその極小正規部分群($\{1\}$ でない正規部分群で、それより真に小さい $\{1\}$ でない正規部分群を含まないもの)とする。このとき、ある素数 $p$ について $N$ のすべての $1$ でない元の位数は $p$ で、$N$ は可換である。
交換子群 $[N,N]$ は $N$ の自己同型で保たれるので、$G$ の元による共役でも保たれ、$G$ の正規部分群である。$N$ は可解群 $G$ の部分群なので可解であり(可解群)、$N\ne1$ だから $[N,N]\ne N$ である。極小性から $[N,N]=1$ で、$N$ は可換である。$|N|$ を割る素数 $p$ をとると、$x^p=1$ となる $x\in N$ の全体 $N[p]$ は($N$ が可換なので)部分群で、$N$ の自己同型で保たれるので $G$ の正規部分群であり、Cauchy の定理により $\{1\}$ でない。極小性から $N=N[p]$ である。$\square$
thm-bs-main の仮定の下で、さらに $G$ が可解群なら、$tO(G)$ は $G/O(G)$ の中心に属する。より一般に、$G/O(G)$ が $\{1\}$ でない正規な $2$-部分群をもてば同じ結論が成り立つ。
$\overline G:=G/O(G)$ とする。prop-bs-odd-core の 3 により $\overline S\cong S$ は $\overline G$ の Sylow $2$-部分群で、$\overline t$ はそのただ 1 つの対合である。
まず後半を示す。$N\ne1$ を $\overline G$ の正規な $2$-部分群とする。prf-bs-equivalent で見たように $N\subset\overline S$ であり、prop-bs-quaternion の 4 により $\overline t\in N$ である。$N$ の中の対合は $\overline t$ だけなので、$\langle\overline t\rangle$ は $N$ の位数 $2$ の部分群としてただ 1 つであり、$\overline g\in\overline G$ による共役は $N$ を保つので $\overline g\,\overline t\,\overline g^{-1}=\overline t$ である。よって $\overline t$ は中心にある。
$G$ が可解なら $\overline G$ も可解で、$|\overline G|$ は $|\overline S|\ge8$ で割り切れるので $\overline G\ne1$ である。極小正規部分群 $N$ をとると、lem-bs-minimal-normal により $1$ でない元の位数がすべて素数 $p$ である。$p$ が奇数なら $N$ は位数が奇数の正規部分群で、prop-bs-odd-core の 2 に反する。よって $p=2$ で、$N$ は正規な $2$-部分群であり、後半に帰着する。$\square$
逆に結論が成り立てば $\langle\overline t\rangle$ が $\overline G$ の正規な $2$-部分群なので、後半の条件は主定理の結論と同値である。つまり主定理の内容は「$G/O(G)$ は $\{1\}$ でない正規な $2$-部分群をもつ」ことにある。可解群ではそれが極小正規部分群としてただちに得られるが、一般の $G$ ではこの議論は使えず、rem-bs-source の証明では指標の理論が使われる。
有限群 $G$ の Sylow $2$-部分群 $S$ が $\{1\}$ でない巡回群なら、$|G:O(G)|=|S|$ であり、$G=O(G)\rtimes S$、$G/O(G)\cong S$ である。とくに $S$ の対合 $t$ について $tO(G)$ は $G/O(G)$ の中心に属する。
$|S|=2^k$ についての帰納法で $|G:O(G)|=2^k$ を示す。Feit–Thompsonの定理 の命題「巡回な Sylow 2-部分群」により、$G$ は指数 $2$ の正規部分群 $G_1$ をもつ。$S\cap G_1$ は $G_1$ の Sylow $2$-部分群で、位数 $2^{k-1}$ の巡回群である($|G_1|$ の $2$ の冪の部分は $2^{k-1}$ で、$|S:S\cap G_1|\le2$)。$k=1$ なら $G_1$ は位数が奇数の正規部分群で指数 $2$ なので、$O(G)=G_1$ である。$k\ge2$ なら、帰納法の仮定により $|G_1:O(G_1)|=2^{k-1}$ である。$O(G_1)$ は $G_1$ の自己同型で保たれるので $G$ の正規部分群で、位数は奇数、$|G:O(G_1)|=2^k$ である。$O(G)/O(G_1)$ は $2$-群 $G/O(G_1)$ の位数が奇数の部分群なので自明で、$O(G)=O(G_1)$ となる。
$|G:O(G)|=|S|$ と $S\cap O(G)=1$ から $G=O(G)S$ で、$O(G)$ は正規なので半直積であり、$G/O(G)\cong S$ は可換群である。$\square$
巡回群の場合は $G/O(G)$ 自身が $S$ になるが、一般化四元数群の場合はそこまでは言えない。下の $\mathrm{SL}_2(\mathbb F_3)$ がその例で、Brauer–鈴木の定理の結論は「$G/O(G)$ の中で $t$ が中心に入る」という弱い形にとどまる。
有限群 $G$ が $O(G)=1$ を満たすとし、$z$ を $G$ の対合とする。このとき $z$ は $G$ の中心に属するか、$z$ と異なる共役 $gzg^{-1}$ で $z$ と可換なものがある。
この記事では証明しない。主張は Sol01 p. 331 にあり、Glauberman によるモジュラー指標の理論の応用として紹介されている。
thm-bs-zstar を認めると、thm-bs-main が成り立つ。
$\overline G:=G/O(G)$ とすると $O(\overline G)=1$ で、$\overline t$ は $\overline G$ の Sylow $2$-部分群 $\overline S\cong S$ の対合である。$u:=\overline g\,\overline t\,\overline g^{-1}\ne\overline t$ が $\overline t$ と可換だとすると、$\langle\overline t,u\rangle$ は位数 $4$ の $2$-部分群で、Sylowの定理 によりある Sylow $2$-部分群 $\overline h\,\overline S\,\overline h^{-1}$ に含まれる。この群は $\overline S$ と同型で対合を 1 つしかもたないが、$\overline t$ と $u$ は異なる対合なので矛盾する。よって thm-bs-zstar により $\overline t$ は $\overline G$ の中心に属する。$\square$
この証明は、Brauer–鈴木の定理で効いているのが「$t$ と可換な $t$ の共役は $t$ 自身しかない」という性質であることを示している。
$G=\mathrm{SL}_2(\mathbb F_3)$ は位数 $3\cdot(3^2-1)=24$ の群である。
$$
i:=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},\qquad j:=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}
$$
とおくと、$\det j=-2=1$、$i^2=j^2=-I$、$ji=-ij$ であり、$jij^{-1}=-i=i^{-1}$ なので、$i,j$ は def-bs-quaternion の $a,b$($n=3$)と同じ関係式を満たし、$\langle i,j\rangle=\{\pm I,\pm i,\pm j,\pm ij\}$ は $Q_8$ と同型な位数 $8$ の部分群、すなわち Sylow $2$-部分群である。
$O(G)$ の位数は $1$ か $3$ である。位数 $3$ の正規部分群 $N$ があれば、それはただ 1 つの Sylow $3$-部分群で、位数 $3$ の元をすべて含む。ところが $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}$ はどちらも位数 $3$ で、異なる部分群を生成する。よって $O(G)=1$ で、thm-bs-main の結論は $Z(G)=\{\pm I\}$ となり、実際 $-I$ はスカラー行列なので中心にある。一方 $O(G)S\ne G$ で、$G/O(G)=G$ は $S$ と同型でない。巡回群の場合の prop-bs-cyclic のような強い結論は成り立たない。
$G=\mathrm{SL}_2(\mathbb F_5)$ は位数 $5\cdot24=120=8\cdot15$ の群である。$i':=\begin{pmatrix}2&0\\0&3\end{pmatrix}$ と上の $i$ を $b$ の役に使うと、$\det i'=6=1$、$i'^2=-I$、$i\,i'\,i^{-1}=\begin{pmatrix}3&0\\0&2\end{pmatrix}=i'^{-1}$ なので、$\langle i',i\rangle$ は $Q_8$ と同型な Sylow $2$-部分群である。$O(G)$ の $\mathrm{PSL}_2(\mathbb F_5)=G/\{\pm I\}$ での像は位数が奇数の正規部分群で、古典群 の定理「射影特殊線形群の単純性」により自明なので、$O(G)\subset\{\pm I\}$、したがって $O(G)=1$ である。主定理の結論 $Z(G)=\{\pm I\}$ はここでも成り立つ。$G$ は単純な可換でない商をもつので可解でなく、thm-bs-solvable の範囲の外にある。
$K:=\mathbb F_3^2$ に、ex-bs-sl23 の $Q:=\langle i,j\rangle\subset\mathrm{SL}_2(\mathbb F_3)$ を行列の積で作用させ、半直積 $G:=K\rtimes Q$(位数 $72$)を作る。$Q$ は位数 $8$ なので Sylow $2$-部分群で、$Q_8$ と同型である。$K$ は位数 $9$ の正規部分群で、$G/K\cong Q$ は $2$-群なので $O(G)=K$ である。$Q$ の対合 $t=-I$ は $K$ に $v\mapsto-v$ で作用するので、$K$ の $0$ でない元と可換でなく、$G$ の中心に属さない。それでも $G/O(G)\cong Q_8$ の中では $tO(G)$ は中心にある。主定理の「$O(G)$ を法として」は省けない。
thm-bs-main の仮定「Sylow $2$-部分群が一般化四元数群」を別の $2$-群に替えると結論は崩れる。次の表の初めの 2 行で外れているのは「対合がただ 1 つ」という条件である。
| 群 $G$ | Sylow $2$-部分群 | $O(G)$ | $G/O(G)$ の中心 |
|---|---|---|---|
| 交代群 $A_5$ | Klein の四元群(対合 3 個) | $1$ | $1$ |
| 対称群 $S_4$ | 位数 $8$ の二面体群(対合 5 個) | $1$ | $1$ |
| $\mathrm{SL}_2(\mathbb F_3)$(比較) | $Q_8$(対合 1 個) | $1$ | $\{\pm I\}$ |
$A_5$ は単純群(交代群)なので $O(A_5)=1$、$Z(A_5)=1$ で、Sylow $2$-部分群 $\{e,(1\,2)(3\,4),(1\,3)(2\,4),(1\,4)(2\,3)\}$ は対合を 3 つもつ。$S_4$ の Sylow $2$-部分群は正方形の頂点の置換として実現される二面体群 $\langle(1\,2\,3\,4),(1\,3)\rangle$ で、対合は $(1\,3)$、$(2\,4)$、$(1\,2)(3\,4)$、$(1\,4)(2\,3)$、$(1\,3)(2\,4)$ の 5 つである。$S_4$ の位数 $3$ の元は 8 個あって互いに共役なので、位数 $3$ の正規部分群(位数 $3$ の元を 2 個しか含まない)はなく、$O(S_4)=1$ である。$S_4$ の中心は自明である($\sigma\ne e$ が $\sigma(a)=b\ne a$ を満たすとき、$a$ と $b$ と別の $c$ をとった互換 $(b\,c)$ と $\sigma$ は可換でない)。
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