2次体

同義語:二次体虚2次体quadratic field

概要

2次体(quadratic field)とは、有理数体 $\mathbb{Q}$ 上の拡大次数が 2 の体のことであり、平方因子をもたない整数 $d\neq0,1$ によって $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ と書け、$d>0$ なら実 2 次体、$d<0$ なら虚 2 次体という。整数環は判別式 $d_K$ を使って $\mathbb{Z}[(d_K+\sqrt{d_K})/2]$ と書け、素数 $p$ が整数環で 2 つの素イデアルに分解するか、素のままか、素イデアルの平方になるかは、記号 $(d_K/p)$ が $1,-1,0$ のどれかで決まる。この分解法則から、類数 1 の虚 2 次体で素数がノルムの形 $x^2+2y^2$ などに書ける条件が従い、ノルムで余りのある割り算ができる虚 2 次体は $d=-1,-2,-3,-7,-11$ の 5 つに限られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数体, 代数的整数, 平方剰余, Dedekind整域

$\mathbb{Q}$ に $\sqrt2$ や $\sqrt{-5}$ のような平方根を 1 つ添加した体を 2 次体 という。2 次体は $\mathbb{Q}$ のつぎに簡単な代数体であり、整数環・単数・素イデアルの分解・類数といった代数的整数論の基本の対象を、すべて具体的に計算できる。たとえば $\mathbb{Z}[i]$(Gauss整数)では $5=(2+i)(2-i)$ と素数 $5$ が分かれるが、$3$ は分かれない。どの素数が分かれるかは、$-1$ が法 $p$ の平方剰余かどうかで決まる。この記事では、整数環を判別式 $d_K$ でまとめて書き、素数 $p$ が 2 次体でどう分解するかが平方剰余記号 $\left(\frac{d_K}p\right)$ だけで決まること(thm-qf-decomposition)を証明する。その応用として、素数が $x^2+2y^2$ の形に書ける条件を導き、ノルムで割り算ができる虚 2 次体がちょうど 5 つであること(thm-qf-norm-euclidean)を示す。

定義

2次体

$\mathbb{Q}$ 上の拡大次数が $2$ の体を 2 次体(quadratic field)という。2 次体 $K$ は、$0,1$ でない平方因子をもたない整数 $d$ によって $K=\mathbb{Q}(\sqrt d)=\{a+b\sqrt d\mid a,b\in\mathbb{Q}\}$ と書け、$d$ は $K$ からただ 1 つに決まる(代数体 の記事の定理「2 次体の分類」)。$d>0$ のとき $K$ を 実 2 次体、$d<0$ のとき 虚 2 次体(imaginary quadratic field)という。

以下、$K=\mathbb{Q}(\sqrt d)$ とし、$d<0$ のときは $\sqrt d=i\sqrt{\lvert d\rvert}$ として $K\subset\mathbb{C}$ とみなす。$K$ の $\mathbb{Q}$ 上の自己同型 $\sigma$ を $\sigma(a+b\sqrt d)=a-b\sqrt d$ で定め、$\alpha':=\sigma(\alpha)$ を $\alpha$ の 共役 という。

ノルムとトレース

$\alpha=a+b\sqrt d\in K$($a,b\in\mathbb{Q}$)について
$$ N(\alpha):=\alpha\alpha'=a^2-db^2,\qquad \operatorname{Tr}(\alpha):=\alpha+\alpha'=2a $$
をそれぞれ $\alpha$ の ノルム、トレース という。$\sigma$ は環準同型なので $N(\alpha\beta)=N(\alpha)N(\beta)$ である。虚 2 次体では $N(\alpha)=\lvert\alpha\rvert^2\ge0$ である。

これは $K/\mathbb{Q}$ の一般のノルムとトレース(代数体 の記事の定義「ノルムとトレース」)の 2 次体の場合である。

判別式

$K=\mathbb{Q}(\sqrt d)$ の 判別式 を
$$ d_K:=\begin{cases}d&(d\equiv1\pmod4),\\4d&(d\equiv2,3\pmod4)\end{cases} $$
で定める。$d_K\equiv0$ または $1\pmod4$ であり、$d_K$ から $d$ が決まり、$\mathbb{Q}(\sqrt{d_K})=K$ である。さらに $\omega_K:=\dfrac{d_K+\sqrt{d_K}}2$ とおく。

$d_K$ は $K$ の整数環の判別式(判別式(代数体))と一致する。実際、prop-qf-integral-basis の整数底 $1,\omega_K$ について、判別式(代数体) の記事の命題「共役による表示」から、判別式は $\det\begin{pmatrix}1&1\\\omega_K&\omega_K'\end{pmatrix}^2=(\omega_K'-\omega_K)^2=(-\sqrt{d_K})^2=d_K$ である($\omega_K'=\frac{d_K-\sqrt{d_K}}2$ は $\omega_K$ の共役)。$\omega_K$ を使うと、整数環は場合分けなしに書ける。

整数環の整数底

$K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ は $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\omega_K=\mathbb{Z}[\omega_K]$ である。$\omega_K$ は
$$ f_K(x):=x^2-d_Kx+\frac{d_K^2-d_K}4 $$
の根であり、$f_K$ は整数係数で、その判別式は $d_K$ である。$x,y\in\mathbb{Z}$ について
$$ N(x+y\omega_K)=x^2+d_Kxy+\frac{d_K^2-d_K}4y^2 $$
である。

要点:$\omega_K$ は $\frac{1+\sqrt d}2$ または $\sqrt d$ と整数の差しかないので、既知の整数環の決定に帰着し、$\omega_K+\omega_K'=d_K$、$\omega_K\omega_K'=\frac{d_K^2-d_K}4$ を計算する。

詳細

$d\equiv1\pmod4$ なら $\omega_K=\frac{d-1}2+\frac{1+\sqrt d}2$ で、$\frac{d-1}2\in\mathbb{Z}$ である。$d\equiv2,3\pmod4$ なら $\omega_K=\frac{4d+2\sqrt d}2=2d+\sqrt d$ である。どちらの場合も、$\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\omega_K$ は 代数的整数 の記事の命題「2 次体の整数環の決定」が与える $\mathcal{O}_K$($\mathbb{Z}[\frac{1+\sqrt d}2]$ または $\mathbb{Z}[\sqrt d]$)と同じ集合である。$\omega_K+\omega_K'=d_K$、$\omega_K\omega_K'=\frac{d_K^2-d_K}4$ なので $\omega_K$ は $f_K$ の根であり、$d_K\equiv0,1\pmod4$ から $d_K^2-d_K=d_K(d_K-1)$ は $4$ で割り切れる。$f_K$ の判別式は $d_K^2-(d_K^2-d_K)=d_K$ である。最後の式は $(x+y\omega_K)(x+y\omega_K')$ を展開すれば得られる。$\square$

ノルムの式の右辺は判別式 $d_K$ の二元二次形式であり、2 次体の整数論は二元二次形式の理論と重なる(rem-qf-forms)。

単数

$\mathcal{O}_K$ の元 $\varepsilon$ が単元(単元)であることは $N(\varepsilon)=\pm1$ と同値である(代数体 の系「単数とノルム」)。2 次体の単数群は次のとおりである。

2 次体の単数群
  1. $K$ が虚 2 次体なら $\mathcal{O}_K^\times$ は有限群で、$d=-1$ なら $\{\pm1,\pm i\}$、$d=-3$ なら 1 の 6 乗根全体、それ以外なら $\{\pm1\}$ である。
  2. $K$ が実 2 次体なら、$1$ より大きい最小の単数 $\varepsilon_K$(基本単数)があり、$\mathcal{O}_K^\times=\{\pm\varepsilon_K^n\mid n\in\mathbb{Z}\}$ である。
単数群の命題の所在

この記事では証明を繰り返さない。1 は Dirichletの単数定理 の記事の例「虚 2 次体の単数」で $x^2+\lvert d\rvert y^2=1$(または $=4$)の整数解を数えて確かめられ、2 は同記事の定理「Dirichletの単数定理」の $r_1+r_2-1=1$ の場合である。たとえば $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の基本単数は $1+\sqrt2$、$\mathbb{Q}(\sqrt5)$ の基本単数は黄金比 $\varphi=\frac{1+\sqrt5}2$ である(同記事の例「実 2 次体の基本単数」)。$d\equiv2,3\pmod4$ のとき、Pell方程式 $x^2-dy^2=1$ の整数解 $(x,y)$ はノルム $1$ の単数 $x+y\sqrt d\in\mathbb{Z}[\sqrt d]$ と一対一に対応する。2 から、ノルム $1$ の単数は $\pm\eta^n$($\eta$ は $1$ より大きい最小のノルム $1$ の単数で、$\varepsilon_K$ または $\varepsilon_K^2$)と書けるので、正の解が 1 つの解の冪から得られること(Pell方程式 の定理「解の構造」)が従う。

素数の分解

素数 $p$ が生成する $\mathcal{O}_K$ のイデアル $p\mathcal{O}_K$ は、素イデアルの積に一意に分解する(Dedekind整域)。2 次体ではその型は 3 通りしかなく、どれになるかは次の記号で決まる。

2 次体の判別式に対する平方剰余記号

素数 $p$ について、$\left(\frac{d_K}p\right)\in\{1,-1,0\}$ を次で定める。$p$ が奇素数なら Legendre記号 とする($p\mid d_K$ なら $0$)。$p=2$ なら
$$ \left(\frac{d_K}2\right):=\begin{cases}0&(d_K\equiv0\pmod 4),\\1&(d_K\equiv1\pmod8),\\-1&(d_K\equiv5\pmod8)\end{cases} $$
とする。

素イデアル $\mathfrak{p}$ のノルム $N\mathfrak{p}:=\lvert\mathcal{O}_K/\mathfrak{p}\rvert$ はイデアル類群 の記事の定義「イデアルのノルム」の意味である。

2 次体における素数の分解法則

$K$ を判別式 $d_K$ の 2 次体、$p$ を素数とする。

  1. $\left(\frac{d_K}p\right)=1$ なら、$p\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}\mathfrak{p}'$ と相異なる 2 つの素イデアルの積に分解し(分解する)、$\mathfrak{p}'=\sigma(\mathfrak{p})$、$N\mathfrak{p}=N\mathfrak{p}'=p$ である。
  2. $\left(\frac{d_K}p\right)=-1$ なら、$p\mathcal{O}_K$ は素イデアルで(惰性)、$N(p\mathcal{O}_K)=p^2$ である。
  3. $\left(\frac{d_K}p\right)=0$ なら、$p\mathcal{O}_K=\mathfrak{p}^2$(分岐)で、$N\mathfrak{p}=p$ である。
    1 と 3 の素イデアルは、$f_K$ の法 $p$ での根 $a\in\mathbb{Z}$ を使って $\mathfrak{p}=p\mathcal{O}_K+(\omega_K-a)\mathcal{O}_K$ と書ける。
$f_K$ を法 $p$ で分解する

prop-qf-integral-basis により $\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\omega_K]$ であり、$\omega_K$ の最小多項式は $f_K$ である。したがって 代数体における素イデアルの分解 の定理「Kummer–Dedekindの定理」の条件 (KD) は満たされ、$p\mathcal{O}_K$ の分解は $f_K$ の $\mathbb{F}_p[x]$ での既約分解 $\bar f_K=\bar g_1^{e_1}\cdots\bar g_r^{e_r}$ と対応する。すなわち $\mathfrak{P}_i:=p\mathcal{O}_K+g_i(\omega_K)\mathcal{O}_K$ が $p$ の上にある相異なる素イデアルのすべてで、$p\mathcal{O}_K=\mathfrak{P}_1^{e_1}\cdots\mathfrak{P}_r^{e_r}$、剰余次数は $\deg\bar g_i$ である。素イデアル $\mathfrak{P}$ の剰余体は $\mathbb{F}_p$ 上 $\deg\bar g_i$ 次なので $N\mathfrak{P}_i=p^{\deg\bar g_i}$ である。よって、$\bar f_K$ が

  • 相異なる 1 次式の積なら 1 の型($N\mathfrak{p}=N\mathfrak{p}'=p$)、
  • 既約なら 2 の型(剰余次数 $2$ でノルム $p^2$)、
  • 1 次式の平方なら 3 の型($N\mathfrak{p}=p$)
    になる。$\bar f_K$ がどれになるかを、$\left(\frac{d_K}p\right)$ で調べればよい。
    $p$ が奇素数のとき。$4f_K(x)=(2x-d_K)^2-d_K$ であり、$2$ は $\mathbb{F}_p$ で可逆なので、$x\mapsto u=2x-d_K$ によって $\bar f_K$ の根と $u^2=d_K$ の $\mathbb{F}_p$ での解は一対一に対応する。$p\mid d_K$ なら $u^2=0$ の解は $u=0$ だけで、$\bar f_K=(x-a)^2$($2a\equiv d_K$)である。$d_K\equiv s^2\not\equiv0\pmod p$ なら $u=\pm s$ は相異なる 2 つの解で、$\bar f_K$ は相異なる 1 次式の積である。$d_K$ が法 $p$ の平方非剰余なら $\bar f_K$ は $\mathbb{F}_p$ に根をもたない 2 次式なので既約である。これは順に $\left(\frac{d_K}p\right)=0,1,-1$ の場合である。
    $p=2$ のとき。$d_K=4d$ なら $f_K(x)=x^2-4dx+4d^2-d\equiv x^2+d\equiv(x+d)^2\pmod2$ である。$d_K=d\equiv1\pmod4$ なら $f_K(x)=x^2-dx+d\cdot\frac{d-1}4\equiv x^2+x+\frac{d-1}4\pmod 2$ である($d$ は奇数)。$d\equiv1\pmod8$ なら $\frac{d-1}4$ は偶数で $\bar f_K=x(x+1)$、$d\equiv5\pmod8$ なら奇数で $\bar f_K=x^2+x+1$ となり、後者は $\mathbb{F}_2$ に根をもたないので既約である。これは順に $\left(\frac{d_K}2\right)=0,1,-1$ の場合である。
    最後に 1 の $\mathfrak{p}'=\sigma(\mathfrak{p})$ を示す。$\bar f_K$ の 2 根を $a,b$ とすると、根の和は $d_K$ なので $b\equiv d_K-a$ である。$\sigma$ は $\mathcal{O}_K$ の環自己同型で $\sigma(\omega_K)=\omega_K'=d_K-\omega_K$ なので
    $$ \sigma\bigl(p\mathcal{O}_K+(\omega_K-a)\mathcal{O}_K\bigr)=p\mathcal{O}_K+(\omega_K-(d_K-a))\mathcal{O}_K $$
    であり、これは根 $b$ に対応する素イデアルである。1 では $a\not\equiv b$ なので、これはもう一方の素イデアル $\mathfrak{p}'$ である。$\square$

$\left(\frac{d_K}p\right)=0$ は $p\mid d_K$ と同じなので、次が従う。

分岐する素数

素数 $p$ が $K$ で分岐する($p\mathcal{O}_K$ が素イデアルの平方になる)のは、$p$ が判別式 $d_K$ を割り切るときに限る。分岐する素数は有限個である。

奇素数 $p\nmid d_K$ についての 1 の部分は Neu99 Chapter I, Proposition (8.5)(p. 50)にあり、そこでは $\mathbb{Z}[\sqrt d]$ の導手が $2$ の約数であることを使って Kummer–Dedekind の定理(同 (8.3))を当てている。この記事では $\omega_K$ を使って $p=2$ も同じ形で扱った。
平方剰余の相互法則 を使うと、$\left(\frac{d_K}p\right)$ は $p$ を $\lvert d_K\rvert$ で割った余りだけで決まる形に書き直せる。たとえば $\left(\frac{-4}p\right)=\left(\frac{-1}p\right)$ は $p\equiv1\pmod4$ で $1$、$p\equiv3\pmod4$ で $-1$ であり、Gauss整数 の記事の定理「Gauss 素数の分類」と一致する。$K=\mathbb{Q}(\sqrt5)$ では $p\ne2,5$ について $\left(\frac5p\right)=\left(\frac p5\right)$ なので、$p$ が分解するのは $p\equiv\pm1\pmod5$ のとき、惰性なのは $p\equiv\pm2\pmod5$ のときである。$p=2$ は $5\equiv5\pmod8$ により惰性である。

素数をノルムで表す

類数 1 の虚 2 次体で素数を表す

$K$ を類数 $1$ の虚 2 次体とする。素数 $p$ について、次は同値である。

  1. ある $\alpha\in\mathcal{O}_K$ で $p=N(\alpha)$ となる。すなわち $p=x^2+d_Kxy+\frac{d_K^2-d_K}4y^2$ となる整数 $x,y$ がある。
  2. $\left(\frac{d_K}p\right)\ne-1$ である($p$ は惰性でない)。
単項イデアルのノルムを見る

2 ⇒ 1:thm-qf-decomposition の 1 または 3 により、ノルム $p$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ がある。類数が $1$ なので $\mathfrak{p}=\alpha\mathcal{O}_K$ と単項であり、単項イデアルのノルムは $\lvert N(\alpha)\rvert$ である(イデアル類群 の記事の命題「単項イデアルのノルム」)。虚 2 次体では $N(\alpha)\ge0$ なので $N(\alpha)=p$ である。
1 ⇒ 2:$p=\alpha\alpha'$ で $\alpha'\in\mathcal{O}_K$ なので $p\mathcal{O}_K\subset\alpha\mathcal{O}_K$ であり、$N(\alpha\mathcal{O}_K)=N(\alpha)=p$ である。$p$ が惰性なら、$p\mathcal{O}_K$ は素イデアルで、それを含むイデアルは $\mathcal{O}_K$ と $p\mathcal{O}_K$ だけで(Dedekind 整域では含むことと割り切ることが同じで、Dedekind整域)、ノルムは $1$ と $p^2$ である。ノルム $p$ のイデアル $\alpha\mathcal{O}_K$ がこれを含むことと矛盾する。2 番目の言い換えは prop-qf-integral-basis のノルムの式による。$\square$

$x^2+2y^2$ と $x^2+xy+y^2$ で表される素数

$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-2})$ は $d_K=-8$、類数 $1$ であり(代数体 の例「小さい 2 次体」)、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt{-2}]$、$N(x+y\sqrt{-2})=x^2+2y^2$ である。奇素数 $p$ について $\left(\frac{-8}p\right)=\left(\frac{-2}p\right)=\left(\frac{-1}p\right)\left(\frac2p\right)$ は、補充法則(平方剰余の相互法則 の定理「補充法則」)により $p\equiv1,3\pmod8$ で $1$、$p\equiv5,7\pmod8$ で $-1$ である。よって cor-qf-norm-representation から
$$ p=x^2+2y^2\ \text{となる整数 }x,y\text{ がある}\iff p=2\ \text{または}\ p\equiv1,3\pmod 8 $$
である。たとえば $3=1+2$、$11=9+2$、$17=9+8$ であり、$5,7,13$ は表せない。
$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-3})$ は $d_K=-3$、類数 $1$ で、ノルムの式は $x^2-3xy+3y^2$ であり、$x\mapsto x+y$ と置き換えると $x^2-xy+y^2$、さらに $y\mapsto-y$ で $x^2+xy+y^2$ になる。$p\ne3$ について $\left(\frac{-3}p\right)=1$ は相互法則により $p\equiv1\pmod3$ と同値なので、$p=x^2+xy+y^2$ となるのは $p=3$ または $p\equiv1\pmod 3$ のときである($7=4+2+1$、$13=9+3+1$)。

ノルムによる割り算

Gauss整数 $\mathbb{Z}[i]$ では、ノルムを大きさとして余りのある割り算ができる(同記事の定理「Gauss整数環における余りのある割り算」)。同じことができる虚 2 次体は限られる。

ノルムで Euclid

$K$ を虚 2 次体とする。$a,b\in\mathcal{O}_K$、$b\ne0$ に対して、$a=qb+r$ かつ $N(r)< N(b)$ となる $q,r\in\mathcal{O}_K$ が常にとれるとき、$\mathcal{O}_K$ は ノルムで Euclid であるという。このとき $\mathcal{O}_K$ は $N$ を大きさとする Euclid整域 である。

$\xi:=a/b\in K$ とおくと、$a-qb=b(\xi-q)$ で $N(a-qb)=N(b)N(\xi-q)$ なので、ノルムで Euclid であることは「どの $\xi\in K$ にも $N(\xi-\kappa)<1$ となる $\kappa\in\mathcal{O}_K$ がある」ことと同値である(逆向きは、$\xi=a/b$ の形で $K$ のすべての元が表せることによる)。虚 2 次体では $N(\xi-\kappa)=\lvert\xi-\kappa\rvert^2$ なので、これは「複素平面で格子 $\mathcal{O}_K$ の点を中心とする半径 $1$ の開円板が $K$ を覆う」ことを意味する。

ノルムで Euclid な虚 2 次体

虚 2 次体 $K=\mathbb{Q}(\sqrt d)$($d<0$)の整数環がノルムで Euclid であるのは、$d=-1,-2,-3,-7,-11$ のときに限る。

格子から最も遠い点を調べる

要点:$\xi=x+y\sqrt d$ に、係数を四捨五入して近い $\kappa\in\mathcal{O}_K$ をとると、$N(\xi-\kappa)$ は $d\equiv2,3\pmod4$ なら $\frac14+\frac{\lvert d\rvert}4$ 以下、$d\equiv1\pmod4$ なら $\frac14+\frac{\lvert d\rvert}{16}$ 以下になり、5 つの $d$ では $1$ 未満である。それ以外の $d$ では、格子の 3 点から等距離の点 $\xi$($d\equiv2,3$ なら $\frac12+\frac12\sqrt d$、$d\equiv1$ なら $\frac12+\frac{\lvert d\rvert-1}{4\lvert d\rvert}\sqrt d$)がどの $\kappa$ からもノルム $1$ 以上離れている。

詳しい証明を開く

$\xi\in K$ を $\xi=x+y\sqrt d$($x,y\in\mathbb{Q}$)と書く。$e:=\lvert d\rvert$ とおくと $N(u+v\sqrt d)=u^2+ev^2$ である。

$d\equiv2,3\pmod4$ のとき:$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt d]$ である。$x,y$ に最も近い整数 $a,b$ をとれば $\lvert x-a\rvert,\lvert y-b\rvert\le\frac12$ なので $N(\xi-(a+b\sqrt d))\le\frac14+\frac e4$ であり、$e<3$、すなわち $d=-1,-2$ なら $1$ 未満である。逆に $e\ge3$($d=-5,-6,-10,\dots$)なら $\xi=\frac12+\frac12\sqrt d$ をとると、どの $a,b\in\mathbb{Z}$ でも $\lvert\frac12-a\rvert,\lvert\frac12-b\rvert\ge\frac12$ なので $N(\xi-(a+b\sqrt d))\ge\frac14+\frac e4\ge1$ であり、ノルムで Euclid でない。

$d\equiv1\pmod4$ のとき:$\mathcal{O}_K$ の元は $\kappa=a+b\frac{1+\sqrt d}2$($a,b\in\mathbb{Z}$)で、$\xi-\kappa=\bigl(x-a-\frac b2\bigr)+\bigl(y-\frac b2\bigr)\sqrt d$ である。まず $\lvert 2y-b\rvert\le\frac12$ となる整数 $b$ をとり、次に $\lvert x-\frac b2-a\rvert\le\frac12$ となる整数 $a$ をとれば

$$N(\xi-\kappa)\le\frac14+e\Bigl(\frac14\Bigr)^2=\frac14+\frac e{16}$$

であり、$e<12$、すなわち $d=-3,-7,-11$ なら $1$ 未満である。

逆に $e\ge15$($d=-15,-19,-23,\dots$)とし、

$$\xi:=\frac12+t\sqrt d,\qquad t:=\frac{e-1}{4e}$$

とおく。$\kappa=a+b\frac{1+\sqrt d}2$ について $\xi-\kappa=\bigl(\frac12-a-\frac b2\bigr)+\bigl(t-\frac b2\bigr)\sqrt d$ である。

(1)$b=0$ なら $\lvert\frac12-a\rvert\ge\frac12$ なので $N(\xi-\kappa)\ge\frac14+et^2$。 (2)$b=1$ なら $t-\frac12=-\frac{e+1}{4e}$ なので $N(\xi-\kappa)\ge e\cdot\frac{(e+1)^2}{16e^2}=\frac{(e+1)^2}{16e}$。 (3)$b\le-1$ なら $t-\frac b2\ge\frac12$ なので $N(\xi-\kappa)\ge\frac e4$。 (4)$b\ge2$ なら $\frac b2-t\ge1-\frac14=\frac34$ なので $N(\xi-\kappa)\ge\frac{9e}{16}$。

$\frac14+et^2=\frac{4e+(e-1)^2}{16e}=\frac{(e+1)^2}{16e}$ なので、4 つの下界はどれも $\frac{(e+1)^2}{16e}$ 以上である($\frac e4\ge\frac{(e+1)^2}{16e}$ は $4e^2\ge(e+1)^2$、すなわち $e\ge1$ と同値)。$\frac{(e+1)^2}{16e}\ge1$ は $e^2-14e+1\ge0$ と同値で、$e\ge15$ なら $e^2-14e+1=e(e-14)+1>0$ である。よってどの $\kappa$ でも $N(\xi-\kappa)\ge1$ であり、ノルムで Euclid でない。

$d<0$ で平方因子をもたない整数は、$d\equiv2,3\pmod4$ なら $-1,-2,-5,-6,\dots$、$d\equiv1\pmod4$ なら $-3,-7,-11,-15,\dots$ なので、すべての場合を尽くしている。$\square$

点 $\xi=\frac12+t\sqrt d$ は、格子の 3 点 $0,1,\frac{1+\sqrt d}2$ からの距離が等しい点(3 点を通る円の中心)である。
5 つの場合に割り算ができることは DF04 §8.1 の演習 8 (a)(p. 278)にもある。ノルムで Euclid なら $\mathcal{O}_K$ は単項イデアル整域で、類数は $1$ である。逆は成り立たない。$d=-19$ では類数が $1$ だが(イデアル類群 の記事の注意「類数 1 の 2 次体」)、thm-qf-norm-euclidean によりノルムで Euclid でなく、さらにどのような大きさの関数をとっても Euclid 整域でない(Euclid整域 の記事の命題「Euclid整域でない単項イデアル整域」)。

二元二次形式との関係

整数環のイデアルと二元二次形式

prop-qf-integral-basis のノルムの式 $x^2+d_Kxy+\frac{d_K^2-d_K}4y^2$ は判別式 $d_K$ の二元二次形式である。一般に、$\mathcal{O}_K$ の $0$ でないイデアル $\mathfrak{a}$ に $\mathbb{Z}$ 基底 $\alpha,\beta$ をとり、$N(x\alpha+y\beta)/N\mathfrak{a}$ を考えると判別式 $d_K$ の整数係数の二元二次形式が得られ、虚 2 次体ではイデアル類と正定値形式の固有同値類が一対一に対応する(二元二次形式 の記事の注意「2 次整環のイデアル類群との対応」)。cor-qf-norm-representation は、類数が $1$ でイデアル類が 1 つしかない場合に、この対応を素数の表現に使ったものである。

例

$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$ での素数の分解

$d=-5$ では $d_K=-20$、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で、類数は $2$ である。$2,5$ は $d_K$ を割り切るので分岐する。奇素数 $p\ne5$ について $\left(\frac{-20}p\right)=\left(\frac{-5}p\right)$ であり、小さい素数では次のようになる。

$p$$2$$3$$5$$7$$11$$13$$17$$19$$23$$29$
$\left(\frac{-20}p\right)$$0$$1$$0$$1$$-1$$-1$$-1$$-1$$1$$1$
型分岐分解分岐分解惰性惰性惰性惰性分解分解

$3$ は分解し、$f_K=x^2+20x+105\equiv x^2+2x\pmod 3$ の根 $0,1$ から $3\mathcal{O}_K=\mathfrak{q}\mathfrak{q}'$ となる。ノルム $3$ の元はない($a^2+5b^2=3$ は整数解をもたない)ので $\mathfrak{q}$ は単項でなく、類数 $1$ の仮定を外すと cor-qf-norm-representation の 2 ⇒ 1 が成り立たないことがわかる。$29=3^2+5\cdot2^2$ は表せる。

黄金比と $\mathbb{Q}(\sqrt5)$

$d=5$ では $d_K=5$、$\omega_K=\frac{5+\sqrt5}2=2+\varphi$($\varphi=\frac{1+\sqrt5}2$)で、$\mathcal{O}_K=\mathbb{Z}[\varphi]$ である。$N(x+y\varphi)=x^2+xy-y^2$ であり、$\varphi^2=\varphi+1$、$N(\varphi)=-1$ である。基本単数は $\varphi$ で、$\varphi^n=F_{n-1}+F_n\varphi$($F_n$ は Fibonacci数)から $N(\varphi^n)=(-1)^n$ を書き直すと Cassini の恒等式 $F_{n-1}^2+F_{n-1}F_n-F_n^2=(-1)^n$ が得られる。素数 $11\equiv1\pmod5$ は分解し、$11=N(3+\varphi)=9+3-1$ である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
整数環 $\mathcal{O}_K$ で考える(部分環に替える)$\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]\subsetneq\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-3})}$ノルムによる割り算(thm-qf-norm-euclidean の $d=-3$)
判別式 $d_K$ で判定する($d$ で判定する)$d=5$、$p=2$「$d$ が法 $p$ の平方なら $p$ は分解する」
虚 2 次体である実 2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt2)$単数群が有限であること(prop-qf-units の 1)
類数が $1$$\mathbb{Q}(\sqrt{-5})$、$p=3$cor-qf-norm-representation の 2 ⇒ 1
$d\in\{-1,-2,-3,-7,-11\}$$d=-19$(類数 $1$)ノルムで Euclid であること
反例の確認

1 行目:$\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ で $a=1+\sqrt{-3}$、$b=2$ を割ると、$a/b=\frac12+\frac12\sqrt{-3}$ と $q=x+y\sqrt{-3}$($x,y\in\mathbb{Z}$)の差のノルムは $(\frac12-x)^2+3(\frac12-y)^2\ge\frac14+\frac34=1$ なので、$N(a-qb)=4N(a/b-q)\ge4=N(b)$ となり、余りのある割り算ができない。実際 $\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ では $4=2\cdot2=(1+\sqrt{-3})(1-\sqrt{-3})$ と分解が一意でない($2,1\pm\sqrt{-3}$ はノルム $4$ で、ノルム $2$ の元がないので既約)。2 行目:$5\equiv1=1^2\pmod 2$ だが、$5\equiv5\pmod8$ なので $\left(\frac{5}{2}\right)=-1$ で、$2$ は $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ で惰性である(thm-qf-decomposition の証明の $p=2$ の場合)。3 行目:$(1+\sqrt2)(-1+\sqrt2)=1$ で、$1+\sqrt2>1$ の冪はすべて相異なる単数である。4 行目:ex-qf-minus-five。5 行目:thm-qf-norm-euclidean の証明で $e=19$。

補足

用語と記法

「2 次体」は「二次体」とも書く。判別式 $d_K$ になりうる整数($1$ でなく、$d_K\equiv1\pmod4$ で平方因子をもたないか、$d_K=4m$ で $m\equiv2,3\pmod4$ が平方因子をもたない整数)を 基本判別式 という。def-qf-kronecker の記号は、$p=2$ の場合も含めて Kronecker 記号とも呼ばれる。$\mathcal{O}_K$ の指数有限の部分環(たとえば $\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ や $\mathbb{Z}[\sqrt5]$)は 2 次体の 整環 といい、楕円曲線の虚数乗法では虚 2 次体の整環が自己準同型環として現れる。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter I, §8:Proposition (8.3)(導手と素な素イデアルの分解、pp. 47–48)、Proposition (8.5) と直前の例(2 次体での奇素数の分解と Legendre 記号、p. 50)
[2]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §8.1:$\mathbb{Z}[i]$ の割り算と $D=-2,-3,-7,-11$ への言及(p. 272)、Exercise 8 (a)($D=-1,-2,-3,-7,-11$ でノルムについて Euclid、p. 278)

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