距離空間の位相の基本的性質

同義語:basic topological properties of metric spaces

概要

距離空間の位相の基本的性質(basic topological properties of metric spaces)とは、距離が誘導する位相が一般の位相空間より強く備える性質の総称である。距離空間は完全正規空間かつ第1可算で、第2可算・可分・Lindelöf が同値になり、コンパクト性は点列コンパクト性および全有界かつ完備であることと同値である。さらに、コンパクト距離空間上の連続写像は一様連続であり、連続写像列の一様極限は連続で、完備な値域では一様Cauchy条件から一様収束が従う。これらは解析学で距離空間を扱う際の基礎となる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 距離空間, 位相空間, 連続写像, コンパクト空間, 点列, 全有界, Cauchy列
距離が誘導する位相には、一般の位相空間より強い性質がある。本記事は、距離空間が完全正規空間であること、コンパクト距離空間上の連続写像が 一様連続 であること、写像列の 一様収束 と一様Cauchy条件の関係を証明し、距離空間の位相に関するその他の基本性質については所有する記事へ案内する。距離と 開球 そのものは 距離空間 が所有する。
本記事が証明を所有せず、他の記事に委ねる性質は次の通りである。距離空間が Hausdorff かつ第1可算であることは 第1可算公理 の記事の例(距離空間は第1可算)が、第2可算・可分・Lindelöf の同値は 第2可算公理 の記事の定理(距離空間での第2可算・可分・Lindelöf の同値)が扱う。距離空間が $T_4$ であることは 分離公理 の記事の系(距離空間は $T_4$)が扱う。点列による閉集合の判定は 閉集合、ε-δ 条件と連続性の同値は 連続写像、開球が開集合であることと開集合の各点が開球を含むことは 距離空間 の記事の系(開球と開集合)が扱う。全有界性と可分性の関係は 全有界、Cauchy列と完備性は Cauchy列 が扱う。

分離性と可算性

距離空間が第1可算であること、および第2可算性・可分性・Lindelöf 性が同値であることは、上に述べた通り 第1可算公理 と 第2可算公理 の記事が扱う。本記事が所有する分離性の結果は次の命題である。

距離空間は完全正規空間

距離空間は完全正規空間、すなわち $T_6$ 空間である。ここで完全正規空間とは、$T_1$(T1空間)かつ正規(正規空間)であって、任意の閉集合が $G_\delta$-集合(G_δ-集合)、すなわち可算個の開集合の共通部分として書ける空間をいう。

閉集合を距離で近似する

距離空間が $T_1$ かつ正規、すなわち $T_4$ であることは 分離公理 の記事の系(距離空間は $T_4$)とその証明による。したがって、任意の閉集合が $G_\delta$-集合であることを示せばよい。
$F$ を空でない閉集合とし、
$$ d(x,F)=\inf\{d(x,y)\mid y\in F\},\qquad U_n=\{x\in X\mid d(x,F)<1/n\} $$
と置く。三角不等式から
$$ |d(x,F)-d(x',F)|\leq d(x,x') $$
が従う。ゆえに $x\in U_n$ なら、$0< r<1/n-d(x,F)$ を満たす $r$ に対して開球について $B(x,r)\subset U_n$ となり、距離空間 の記事の系(開球と開集合)により $U_n$ は開である。$F\subset U_n$ は明らかである。逆に $x\notin F$ なら、$F$ が閉なので、ある $r>0$ について $B(x,r)\cap F=\emptyset$ であり、$d(x,F)\geq r$ となる。$1/n< r$ となる $n$ を取れば $x\notin U_n$ である。したがって
$$ F=\bigcap_{n\geq1}U_n $$
である。$F=\emptyset$ の場合はすべての $U_n$ を空集合とすればよい。この証明は 選択公理 を使わない。

ここでいう完全正規(perfectly normal)は、正規(normal)、遺伝正規(hereditarily normal)、全体正規(fully normal)と同じ語ではない。各定義の関係は 分離公理 が扱い、全体正規空間に固有の定理は 全体正規空間 が扱う。

全有界性・完備性・コンパクト性

全有界(任意の $\varepsilon>0$ に対して半径 $\varepsilon$ の有限個の開球で全体を覆える性質)の定義、無限集合上の離散距離が 直径 1 の 有界 な距離空間でありながら全有界でない例、および全有界な距離空間が可分(可分空間)である、すなわち可算な 稠密 部分集合を持つこと(証明に 可算選択公理 を用いる)は、全有界 の記事が扱う。
Cauchy列 の定義、すべてのCauchy列が 収束 するという完備性の定義、収束する点列がCauchy列であること、および有理数の範囲では収束しないCauchy列の例は、Cauchy列 の記事が扱う。完備性は距離そのものに依存し、位相だけでは決まらない。同じ位相を誘導する二つの距離のうち一方だけが完備であることがありうるので、位相同値と一様同値を一括りにしてはならない。

コンパクト距離空間の特徴づけ

距離空間 $X$ について次の三条件は互いに同値である。

  1. $X$ はコンパクトである。すなわち、$X$ の任意の 開被覆 は 有限部分被覆 を持つ。
  2. $X$ は点列コンパクト(点列コンパクト)である。すなわち、$X$ の任意の点列は収束する 部分列 を持つ。
  3. $X$ は全有界かつ完備である。
コンパクト性の特徴づけの証明の所在

1から2は、距離空間が第1可算であることと、第1可算空間ではコンパクト性から点列コンパクト性が従うことによる(第1可算公理 の記事の例と系)。2から3は、点列コンパクトな距離空間が全有界であること(半径 $\varepsilon$ の有限個の開球で覆えないなら互いに距離 $\varepsilon$ 以上離れた点列が作れる。構成に 従属選択公理 を用いる)と完備であること(Cauchy列の収束部分列の極限にCauchy列全体が収束する)による。3から1は、有限部分被覆を持たない開被覆があれば、全有界性により有限個の 閉球 との共通部分で覆えないものを次々に選んで直径が $0$ に近づく空でない閉集合の入れ子列を作り、完備性によりその極限点を得て矛盾を導く。これらの証明は 全有界 および 点列コンパクト の記事に譲る(Mun00 §28 Thm 28.2、§45 Thm 45.1)。

一様連続性

一様連続性の定義と、点ごとの連続性との量化子の違いは 一様連続 が扱う。

コンパクト距離空間上の連続写像

空でないコンパクト距離空間 $(X,d_X)$ から距離空間 $(Y,d_Y)$ への連続写像 $f\colon X\to Y$ は一様連続である。すなわち、任意の $\varepsilon>0$ に対してある $\delta>0$ が存在し、$d_X(u,v)<\delta$ を満たすすべての $u,v\in X$ について $d_Y(f(u),f(v))<\varepsilon$ となる。

有限部分被覆から一つの半径を取る

$\varepsilon>0$ を固定する。各 $x\in X$ について、$f$ の $x$ における連続性(連続写像 の記事の ε-δ 判定)により、$d_X(u,x)< r$ なら $d_Y(f(u),f(x))<\varepsilon/2$ となる正数 $r$ が存在する。そのようなすべての組 $(x,r)$ に対する開球 $B(x,r/2)$ は $X$ の開被覆である。コンパクト性により有限部分被覆
$$ X=\bigcup_{i=1}^{N}B(x_i,r_i/2) $$
を取れる。$X\ne\emptyset$ なので $N\geq1$ であり、$\delta=\min_i(r_i/2)>0$ と置ける。$d_X(u,v)<\delta$ なら、ある $i$ について $u\in B(x_i,r_i/2)$ である。このとき $d_X(v,x_i)\leq d_X(v,u)+d_X(u,x_i)< r_i/2+r_i/2=r_i$ なので $v\in B(x_i,r_i)$ でもあるから、
$$ d_Y(f(u),f(v))\leq d_Y(f(u),f(x_i))+d_Y(f(x_i),f(v))<\varepsilon. $$
$\delta$ は $u,v$ に依存しない。存在するすべての組からなる被覆を使い、選択するのは有限部分被覆だけなので、この証明は選択公理を使わない。$X=\emptyset$ の場合は条件が空虚に成り立つので、空でないという仮定は $\delta$ を最小値として定めるためだけに置いた。

一様収束と一様Cauchy条件

写像列の一様収束

$S$ を集合、$(Y,d)$ を距離空間とする。写像列 $f_n\colon S\to Y$ が写像 $f\colon S\to Y$ に 一様収束するとは、任意の $\varepsilon>0$ に対してある正整数 $N$ が存在し、$n\geq N$ とすべての $x\in S$ に対して
$$ d(f_n(x),f(x))<\varepsilon $$
となることをいう。

連続写像の一様極限は連続

$S$ を位相空間、$(Y,d)$ を距離空間とする。連続写像 $f_n\colon S\to Y$ が $f\colon S\to Y$ に一様収束するなら、$f$ は連続である。

誤差を三等分する

$V\subset Y$ を開集合とし、$x_0\in f^{-1}(V)$ を取る。$x_0$ を含む開集合 $U$ で $U\subset f^{-1}(V)$ を満たすものを見つければ、$f^{-1}(V)$ はそのような $U$ 全体の和集合となり開集合であるから、$f$ は連続である。
$V$ は開なので、距離空間 の記事の系(開球と開集合)により $B(f(x_0),\varepsilon)\subset V$ となる $\varepsilon>0$ がある。一様収束により、すべての $x\in S$ について $d(f_N(x),f(x))<\varepsilon/3$ となる $N$ を取る。$f_N$ は連続で開球 $B(f_N(x_0),\varepsilon/3)$ は開なので、
$$ U=f_N^{-1}\bigl(B(f_N(x_0),\varepsilon/3)\bigr) $$
は $x_0$ を含む開集合、すなわち $x_0$ の開 近傍 である。$x\in U$ なら三角不等式により
$$ d(f(x),f(x_0))\leq d(f(x),f_N(x))+d(f_N(x),f_N(x_0))+d(f_N(x_0),f(x_0))<\varepsilon $$
であるから $f(x)\in B(f(x_0),\varepsilon)\subset V$ であり、$U\subset f^{-1}(V)$ である。この証明は選択公理を使わない。

一様Cauchy条件

$S$ を集合、$(Y,d)$ を距離空間とする。写像列 $f_n\colon S\to Y$ が 一様Cauchy条件を満たすとは、任意の $\varepsilon>0$ に対してある正整数 $N$ が存在し、$m,n\geq N$ とすべての $x\in S$ に対して
$$ d(f_m(x),f_n(x))<\varepsilon $$
となることをいう。

一様Cauchy条件と一様収束

完備距離空間 $(Y,d)$ を値域とする写像列が一様Cauchy条件を満たすなら、ある写像へ一様収束する。

点ごとの極限と一様評価

各 $x\in S$ について $(f_n(x))$ は $Y$ のCauchy列なので、完備性により極限 $f(x)\in Y$ を持つ。距離空間は Hausdorff なので極限は一意であり、これで写像 $f\colon S\to Y$ が定まる。
$\varepsilon>0$ に対し、$m,n\geq N$ ならすべての $x\in S$ について $d(f_m(x),f_n(x))<\varepsilon/2$ となる $N$ を取る。$n\geq N$ と $x\in S$ を固定する。三角不等式から $d(f_n(x),f(x))\leq d(f_n(x),f_m(x))+d(f_m(x),f(x))<\varepsilon/2+d(f_m(x),f(x))$ であり、$m\to\infty$ で $d(f_m(x),f(x))\to0$ なので
$$ d(f_n(x),f(x))\leq\varepsilon/2<\varepsilon $$
である。$N$ は $x$ に依存しないので一様収束である。極限は一意に定まるため、この証明は選択公理を使わない。

値域の完備性は省けない。たとえば、有理数の範囲では収束しないCauchy列 $(q_n)$(Cauchy列 の記事の例)を取り、一点集合 $S$ 上で $f_n(*)=q_n$ と置く。この写像列は有理数値で一様Cauchy条件を満たすが、有理数値写像へ一様収束しない。この例が破る含意は「値域が完備でなくても一様Cauchy条件から一様収束が従う」である。
本記事の用語と基本定理は Mun00 §20・§21・§27・§28・§45 を参照した。

関連項目

参考文献

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