核次元の上半連続性(upper semicontinuity of the kernel dimension)とは、コンパクトで境界のない多様体の上の微分作用素の族 $L_t$ で、係数がパラメータ $t$ について連続に動き $L_{t_0}$ が楕円型であるものについて、$t_0$ の近くで $\dim\ker L_t\le\dim\ker L_{t_0}$ が成り立つという定理である。核の補空間での下からの評価と、係数の差を Sobolev 空間 $W^m$ から $L^2$ への作用素ノルムで測る評価から従う。すべての $L_t$ が楕円型なら核の次元は上半連続関数で、増えることはないが跳ねて減ることはあり、Fredholm 作用素としての指数は局所的に一定である。複素多様体の族の Hodge 数の上半連続性の証明に使われる。
前提知識: 楕円型作用素, Green作用素, Sobolev空間, 半連続性, Fredholm作用素
核次元の上半連続性(upper semicontinuity of the kernel dimension)とは、コンパクトで境界のない多様体の上の微分作用素の族 $L_t$ で、係数がパラメータ $t$ について連続に動き、$L_{t_0}$ が楕円型であるものについて、$t_0$ に十分近いすべての $t$ で
$$
\dim\ker L_t\le\dim\ker L_{t_0}
$$
が成り立つという定理である。すべての $L_t$ が楕円型なら、核の次元 $t\mapsto\dim\ker L_t$ は上半連続関数になる。
核の次元は、作用素を少し動かしたときに減ることはあっても増えることはない。たとえば円周の上の $-d^2/dx^2+t$ の核は、$t=0$ では定数関数からなる 1 次元だが、$0$ に近い $t\neq0$ では $0$ になる。この非対称性は、核の補空間の上で作用素が下から評価され、その評価が小さな摂動で壊れないことから生じる。複素多様体の族の Hodge 数がファイバーを動かしても増えないこと(Hodge数の上半連続性)は、Dolbeault 複体の Laplace 作用素にこの定理を当てて示される。
この記事では、核の補空間での評価と、係数の差を $W^m\to L^2$ の作用素ノルムで測る評価を組み合わせて主定理を証明する。続いて Fredholm 作用素の言葉で指数が一定であることを導き、円周の上の例で核の次元が跳ねることを計算し、楕円性や係数の連続性を外した反例を挙げる。
記号は Green作用素 の節「設定」にそろえる。$M$ を $n$ 次元($n\ge1$)のコンパクトで境界のない $C^\infty$ 級多様体、$dV$ を $M$ 上の滑らかな正の密度、$E$ を Hermite 計量をもつ複素ベクトル束とし、切断の $L^2$ 内積を $\langle\!\langle\ ,\ \rangle\!\rangle$、ノルムを $\|\cdot\|$ と書く。$M$ を覆う有限個の座標近傍 $U_i$ と $E|_{U_i}$ の自明化を固定し、それに従う $C^\infty$ 級の 1 の分割 $\{\chi_i\}$($K_i:=\operatorname{supp}\chi_i\subset U_i$ はコンパクト)をとる。整数 $k\ge0$ について、Sobolev ノルムを
$$
\|u\|_k^2:=\sum_i\sum_{|\alpha|\le k}\|\partial^\alpha(\chi_iu)\|^2_{L^2(\mathbb R^n)}
$$
と定め($\chi_iu$ を自明化と座標で $\mathbb C^N$ 値関数とみる)、$W^k(M,E)$ をその Sobolev 空間とする。このノルムの同値類は、座標近傍と 1 の分割の選び方によらない(Wel08 Ch. IV §1、p. 110。この記事では証明しない)。次の事実は Green作用素 の注意「引用する解析的事実」にまとめられており、この記事では証明しない:$\|\cdot\|_0$ は $\|\cdot\|$ と同値で、$C^\infty(M,E)$ は $W^k(M,E)$ で稠密であり、$m$ 階の微分作用素は有界作用素 $W^m(M,E)\to L^2(M,E)$ に延びる。
$V\subset\mathbb R^\nu$ を開集合、$m\ge1$ を整数とする。各 $t\in V$ に $m$ 階の微分作用素 $L_t\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,E)$ が与えられ、各 $i$ について $U_i$ の上で
$$
L_t=\sum_{|\alpha|\le m}a^{(i)}_\alpha(x,t)\,\partial^\alpha
$$
と書いたときの行列値関数 $a^{(i)}_\alpha$ が $U_i\times V$ の上で $(x,t)$ について連続であるとき(各 $t$ では $x$ について $C^\infty$ 級)、$(L_t)_{t\in V}$ を $m$ 階の微分作用素の連続な族という。
座標と自明化を取り替えると、新しい係数は古い係数に $x$ だけの $C^\infty$ 級関数を掛けて足したものになるので、この条件は取り替えによらない。$\ker L_t:=\{u\in C^\infty(M,E)\mid L_tu=0\}$ とおく。整数値の関数 $f$ が $t_0$ で上半連続(半連続性 の定義「下半連続性と上半連続性」)であることは、$t_0$ の近傍があってその上で $f(t)\le f(t_0)$ となることと同値である($c=f(t_0)+\frac12$ とおけばよい)。
$(L_t)_{t\in V}$ を $m$ 階の微分作用素の連続な族とし、$t_0\in V$ とする。
2 は 1 を各点に当てたものである。Wel08 Ch. IV Theorem 4.13(pp. 142–144)は、すべての $L_t$ が楕円型である族について 2 を述べている。1 では楕円性を $t_0$ でしか仮定しない。
$t\in V$ に対し
$$
\varepsilon(t):=\sum_ic_i\sum_{|\alpha|\le m}\sup_{x\in K_i}\bigl|a^{(i)}_\alpha(x,t)-a^{(i)}_\alpha(x,t_0)\bigr|
$$
とおく($c_i$ は下の証明で定める $t$ によらない定数、$|\cdot|$ は行列の作用素ノルム)。このとき、すべての $u\in W^m(M,E)$ について $\|(L_t-L_{t_0})u\|\le\varepsilon(t)\|u\|_m$ であり、$t\to t_0$ のとき $\varepsilon(t)\to0$ である。
$u$ が滑らかな場合に示せば、両辺が $W^m$ ノルムについて連続なので、稠密性から一般の $u$ に延びる。$\sum_i\chi_i=1$ と線形性から $(L_t-L_{t_0})u=\sum_i(L_t-L_{t_0})(\chi_iu)$ である。微分作用素は台を広げないので、第 $i$ 項は $K_i$ に台をもち、$U_i$ の上で
$$
\sum_{|\alpha|\le m}\bigl(a^{(i)}_\alpha(x,t)-a^{(i)}_\alpha(x,t_0)\bigr)\partial^\alpha(\chi_iu)
$$
に等しい。コンパクト集合 $K_i$ の上では、$E$ の Hermite 計量と $dV$ は自明化と座標の標準のものと定数倍で比べられるので、定数 $c_i$ について第 $i$ 項の $L^2$ ノルムは
$$
c_i\sum_{|\alpha|\le m}\sup_{x\in K_i}\bigl|a^{(i)}_\alpha(x,t)-a^{(i)}_\alpha(x,t_0)\bigr|\,\|\partial^\alpha(\chi_iu)\|_{L^2(\mathbb R^n)}
$$
以下である。ノルムの定め方から $\|\partial^\alpha(\chi_iu)\|_{L^2(\mathbb R^n)}\le\|u\|_m$ なので、三角不等式で和をとれば評価を得る。次に、$t_0$ を中心とする閉球 $\bar D\subset V$ をとると、$a^{(i)}_\alpha$ はコンパクト集合 $K_i\times\bar D$ の上で一様連続なので、$t\to t_0$ で各 $\sup$ は $0$ に近づき、$\varepsilon(t)\to0$ である。$\square$
評価は係数の差の上限だけを使い、係数の $x$ についての導関数を使わない。$L_t-L_{t_0}$ を $W^m\to L^2$ の作用素とみたからである。
1.$\mathcal N:=\ker L_{t_0}$ とおく。Green作用素 の補題「楕円型作用素の核と核の補空間での評価」により、$\mathcal N$ は有限次元であり、定数 $C>0$ があって
$$
\|u\|_m\le C\|L_{t_0}u\|\qquad(u\in W^m(M,E),\ u\perp\mathcal N)
$$
が成り立つ($\perp$ は $L^2$ 内積での直交)。lem-kd-coefficient により、$t_0$ の近傍 $W$ で、$t\in W$ ならば $C\varepsilon(t)<1$ となるものがある。
$t\in W$ とし、$u\in\ker L_t$ が $\mathcal N$ に直交するとする。$u$ は滑らかなので $W^m$ に属し、
$$
\|u\|_m\le C\|L_{t_0}u\|=C\|(L_{t_0}-L_t)u\|\le C\varepsilon(t)\|u\|_m
$$
である。$C\varepsilon(t)<1$ なので $u=0$ である。$\mathcal N$ への $L^2$ 直交射影を $P$ とすると、$u\in\ker L_t$ が $Pu=0$ を満たせば $u\perp\mathcal N$ なので $u=0$ であり、$P$ を $\ker L_t$ に制限した線形写像 $\ker L_t\to\mathcal N$ は単射である。よって $\dim\ker L_t\le\dim\mathcal N$ である。
2.各 $t_0\in V$ に 1 を当てれば、$t_0$ の近傍の上で $\dim\ker L_t\le\dim\ker L_{t_0}$ となる。これは $t_0$ での上半連続性である。$\square$
1 の証明は $L_t$($t\neq t_0$)の楕円性を使わない。その場合でも $\ker L_t$ は有限次元になる。
$L_t$ を有界作用素 $W^m(M,E)\to L^2(M,E)$ とみると、主定理は Fredholm 作用素の摂動の理論の特別な場合として読める。
$(L_t)_{t\in V}$ を $m$ 階の微分作用素の連続な族とし、$L_{t_0}$ が楕円型であるとする。$t_0$ の近傍 $W$ があって、$t\in W$ について有界作用素 $L_t\colon W^m(M,E)\to L^2(M,E)$ は Fredholm 作用素であり、その指数は $L_{t_0}$ の指数に等しい。さらに $L_t$ が楕円型なら、この指数は $\dim\ker L_t-\dim\ker L_t^*$($L_t^*$ は形式的随伴)に等しい。
$L_{t_0}\colon W^m\to L^2$ は Fredholm 作用素で、核は滑らかな切断からなり、余核は $\ker L_{t_0}^*$ と同一視される(Fredholm作用素 の節「楕円型作用素への応用」。この記事では証明しない)。lem-kd-coefficient により $L_t$ は作用素ノルムで $L_{t_0}$ に収束するので、Fredholm作用素 の定理「指数の安定性」から、$t_0$ の近傍で $L_t$ は Fredholm 作用素で、指数は $L_{t_0}$ と等しい。$L_t$ が楕円型なら、同じ節により指数は $\dim\ker L_t-\dim\ker L_t^*$ である。$\square$
指数の安定性の定理は $\dim\ker L_t\le\dim\ker L_{t_0}$(ここでの核は $W^m$ の中の核)も与えるので、主定理の 1 の別証明にもなる。すべての $L_t$ が楕円型なら $\dim\ker L_t^*$ も上半連続であり、核と余核は同じだけ増減する。Hodge数の上半連続性 で Hodge 数の交代和が一定になるのも、楕円型作用素の指数の一定性による(そこでは異なる束の間の作用素を使う)。
$M=S^1=\mathbb R/2\pi\mathbb Z$、$E$ を自明な複素直線束とし、$t\in\mathbb R$ について $L_t:=-\frac{d^2}{dx^2}+t$ とおく。これは 2 階の楕円型作用素の連続な族で、
$$
\dim\ker L_t=\begin{cases}1&(t=0)\\2&(t=-k^2,\ k=1,2,3,\dots)\\0&(\text{それ以外})\end{cases}
$$
である。$t\mapsto\dim\ker L_t$ は上半連続だが、$t=0,-1,-4,\dots$ で連続でなく、その点で値が跳ね上がる。$L_t$ は形式的に自己随伴なので、指数はつねに $0$ である。
$S^1$ 上の滑らかな関数は $\mathbb R$ 上の周期 $2\pi$ の滑らかな関数と同じであり、$L_tu=0$ は常微分方程式 $u''=tu$ である。その複素数値の解の全体は 2 次元である。
$t>0$ のとき、解は $u=ae^{\sqrt t\,x}+be^{-\sqrt t\,x}$ で、$u(x+2\pi)=ae^{2\pi\sqrt t}e^{\sqrt t\,x}+be^{-2\pi\sqrt t}e^{-\sqrt t\,x}$ が $u(x)$ に等しいのは、2 つの指数関数の線形独立性から $a(e^{2\pi\sqrt t}-1)=0$ かつ $b(e^{-2\pi\sqrt t}-1)=0$、すなわち $a=b=0$ のときである。$t=0$ のとき、解は $a+bx$ で、周期的なのは $b=0$ のときだから核は定数関数の 1 次元である。$t=-\omega^2$($\omega>0$)のとき、解は $u=ae^{i\omega x}+be^{-i\omega x}$ で、同様に周期的であることは $a(e^{2\pi i\omega}-1)=0$ かつ $b(e^{-2\pi i\omega}-1)=0$ と同値である。$\omega$ が整数なら $a,b$ は任意で核は 2 次元、整数でなければ $a=b=0$ である。
$L_t$ の主表象は $-\xi^2$ で $\xi\neq0$ なら $0$ でないので楕円型であり、係数 $-1,0,t$ は $t$ について連続である。部分積分を 2 回行えば $\langle\!\langle L_tu,v\rangle\!\rangle=\langle\!\langle u,L_tv\rangle\!\rangle$ なので $L_t^*=L_t$ であり、指数 $\dim\ker L_t-\dim\ker L_t^*$ は $0$ である。$\square$
$t=0$ の近くでは核は $0$ に落ち、$t=-1$ の近くでは 2 次元から $0$ に落ちる。どちらでも、近くの $t$ での核の次元は跳ねた点での値を超えない。
主定理の 1 の仮定のうち 1 つを外すと、結論が成り立たない族がある。どちらも $M=S^1$、$E$ は自明な複素直線束である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $L_{t_0}$ の楕円性 | 1 階の族 $L_t:=-it\frac{d}{dx}-1$、$t_0=0$ | $t_0$ の近くで $\dim\ker L_t\le\dim\ker L_{t_0}$ |
| 係数の $t$ についての連続性 | 2 階の族 $L_s:=-\frac{d^2}{dx^2}+c(s)$、$c(0)=0$、$c(s)=-1$($s\neq0$)、$s_0=0$ | $s_0$ の近くで $\dim\ker L_s\le\dim\ker L_{s_0}$ |
1 行目:係数 $-it$ と $-1$ は $t$ について連続である。1 階の作用素とみたときの $L_0=-1$ の主表象は $0$ なので(楕円型作用素 の定義「微分作用素と主表象」のあとの注意)、$L_0$ は楕円型でない($t\neq0$ では主表象 $-it\xi$ が $0$ でないので楕円型である)。$L_0u=-u$ なので $\ker L_0=0$ である。$t\neq0$ では $L_tu=0$ は $u'=\frac{i}{t}u$ と同値で、解は $u=ae^{ix/t}$ であり、周期 $2\pi$ をもつのは $a=0$ か $e^{2\pi i/t}=1$、すなわち $1/t$ が整数のときである。よって $t=1/k$($k=1,2,\dots$)では $\dim\ker L_t=1>0=\dim\ker L_0$ であり、$1/k\to0$ だから $t_0=0$ のどの近傍にもそのような $t$ がある。
2 行目:各 $L_s$ は 2 階の楕円型作用素で、係数 $c(s)$ だけが $s=0$ で連続でない。ex-kd-circle により $\dim\ker L_0=1$、$s\neq0$ では $L_s=-\frac{d^2}{dx^2}-1$ で $\dim\ker L_s=2$ である。
1 行目の族は、$t\neq0$ では楕円型で、核が跳ね上がる点 $t=1/k$ が楕円性の失われる $t=0$ に集積している。2 行目は、楕円型作用素の族でも、係数が不連続なら作用素ノルムの近さが失われることを示す。
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