本稿では, 物理でもよく現れる2つのリー群, $SU(2)$と$SO(3)$の関係について述べる.
本稿では, 物理でもよく現れる2つのリー群, $SU(2)$と$SO(3)$について述べる.まず定義をおさらいしておく:
$$ SO(3):=\{\text{実}3\times 3\text{行列}R| R^T=R^{-1},\det R=1\}, $$
$$ SU(2):=\{\mathrm{複素}2\times 2\text{ユニタリ行列}U| \det U=1\}. $$
ここで $T$は転置の意味である.
これから,このふたつが二重被覆と呼ばれる関係にあることを見ていく.
群$G$が群$G^\prime$の二重被覆群であるとは, ある連続な準同型写像$f:G\rightarrow G^\prime$が存在して, $f$が全射であり,かつ 全ての$g^\prime\in G^\prime$に対し, $f(g)=f^\prime$となる $g\in G$が必ずちょうど2つ存在することをいう.
要するに, 連続性を保った$2:1$対応が作れるということである.
本稿では次を証明する:
$SU(2)$は$SO(3)$の二重被覆群である.
行列による具体的な表示を用いて証明する.
方針: まず準同型写像$\Lambda:SU(2)\rightarrow SO(3)$を具体的に作る. 次に, この写像の全射性と2:1対応を示す.
いくらか準備をする.
$SU(2)$の任意の元を
$$ U=\left(\begin{array}{ccc} a& b\\ -b^\ast&a^\ast \end{array}\right) ,~|a|^2+|b|^2=1$$
と表す.
3つの$2\times 2$行列を次で与える:
$$\sigma_{1}=\left(\begin{array}{ll}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{array}\right), \quad \sigma_{2}=\left(\begin{array}{cc}
0 & -i \\
i & 0
\end{array}\right), \quad \sigma_{3}=\left(\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}\right).$$
ここで,$(x^1,x^2,x^3)\in\mathbb{R}^3$から, 次のようにして$2\times2$行列を作る:
$$x\cdot \sigma := i\sum_{k=1}^3 x^k\sigma^k=\left( \begin{array}{ccc}
ix^3 & ix^1+x^2\\
ix^1-x^2& -ix^3\\
\end{array}\right).$$
次のような関係になっていることがわかる:
$$ \sum_{i=1}^3 x^i x_i=1 \Leftrightarrow \det x\cdot \sigma=1. $$
これを使うと,$U\in SU(2)$ に対し, $\Lambda_U\in SO(3)$が次のように定まる:
$$ U(x\cdot \sigma)U^{-1}=(\Lambda_U x)\cdot \sigma.
$$
つまり, $\det U(x\cdot \sigma)U^{-1}=\det x\cdot \sigma$ とすぐ上の関係から,この変換は長さを変えない変換なので, $SO(3)$の作用として書ける(それが右辺),ということである.
ただし,これだけではこの$\Lambda$が常に$2:1$対応を与えるかはまだわからない(3つ以上の異なる$U \in SU(2)$が同じ$SO(3)$の元を与えるかもしれない). また, 全ての $SO(3)$の元がこの形で表せるかどうかもまだわからない.
ひとまず$\Lambda_U$を具体的に行列で表すと次のようになる:
$$\Lambda_U=\left(\begin{array}{ccc}
\mathrm{Re}\left(a^2-b^2\right) & \mathrm{Im}\left(a^2+b^2\right) & -2 \mathrm{Re}(ab) \\
-\mathrm{Im}\left(a^2-b^2\right) & \mathrm{Re}\left(a^2+b^2\right) & 2 \mathrm{Im}(ab) \\
2 \mathrm{Re}(a \bar{b}) & 2 \mathrm{Im}(a \bar{b}) & |a|^2-|b|^2
\end{array}\right)$$
これは頑張って計算をする(この証明は,初等的である代わりにこういうところが面倒である).
また$\Lambda:SU(2)\rightarrow SO(3)$が連続であることの証明は省略する.
$U\mapsto \Lambda_U$の全射性は次でわかる:
$$
\begin{aligned}
\Lambda_{U(a=\cos \frac{\theta}{2},b=-i \sin \frac{\theta}{2}) }&=\left(\begin{array}{ccc}
1 & 0 & 0 \\
0 & \cos \theta & -\sin \theta \\
0 & \sin \theta & \cos \theta
\end{array}\right)=R_x(\theta), \\
\Lambda_{U(a=\cos \frac{\theta}{2},b=-\sin \frac{\theta}{2})} &=\left(\begin{array}{ccc}
\cos \theta & 0 & \sin \theta \\
0 & 1 & 0 \\
-\sin \theta & 0 & \cos \theta
\end{array}\right)=R_y(\theta), \\
\Lambda_{U(a=e^{-i \frac{\theta}{2}}, b=0)} &=\left(\begin{array}{ccc}
\cos \theta & -\sin \theta & 0 \\
\sin \theta & \cos \theta & 0 \\
0 & 0 & 1
\end{array}\right)=R_z(\theta).
\end{aligned}
$$
$SO(3)$の3つの独立な回転が再現できているから,これを組み合わせれば任意の$SO(3)$の元が$\Lambda_U$の形で表せるということである.
また$U\mapsto \Lambda_U$が2:1であることも
次のようにわかる.
$U(a,b),U^\prime(a^\prime,b^\prime)$に対し$\Lambda_U=\Lambda_{U^\prime}$が成り立つとする. $\Lambda_U$の表式から, $(a^\prime,b^\prime)=(-a,-b)$となることがわかる. 従って同じ$\Lambda\in SO(3)$を与える$SU(2)$の元は $U(a,b)$と$U(-a,-b)$の2つのみ.
というわけで,以上の議論により $SU(2)$は $SO(3)$の二重被覆群であることがわかった.