多項係数(multinomial coefficient)とは、和が $n$ の非負整数 $k_1,\dots,k_m$ に対する $\frac{n!}{k_1!\cdots k_m!}$ のことで、$n$ 個のものを大きさ $k_1,\dots,k_m$ の名前付きの組に分ける方法の数であり、$m=2$ のとき二項係数になる。同じ数が、各文字の個数を指定した語の個数、$(x_1+\cdots+x_m)^n$ の展開係数、対称群の Young 部分群 $S_{k_1}\times\cdots\times S_{k_m}$ の指数として現れる。素数 $p$ で割り切れる回数は $k_1,\dots,k_m$ を $p$ 進表示で足すときの繰り上がりの総数に等しい。多項分布の確率、ラベル付き木の数え上げ、Fermat の小定理の証明などに使われる。
多項係数は、$n$ 個のものを大きさ $k_1,\dots,k_m$ の $m$ 組に名前付きで分ける方法の数
$$
\binom{n}{k_1,\dots,k_m}=\frac{n!}{k_1!\,k_2!\cdots k_m!}\qquad(k_1+\cdots+k_m=n)
$$
である。$m=2$ のときが二項係数 $\binom nk=\binom{n}{k,\,n-k}$ であり、多項係数は二項係数を「2 色の塗り分け」から「$m$ 色の塗り分け」へ広げたものである。
同じ数は、同じ文字を含む語の並べ方の数、$(x_1+\cdots+x_m)^n$ を展開したときの係数、対称群 $S_n$ の部分群 $S_{k_1}\times\cdots\times S_{k_m}$ の指数、$m$ 通りの結果をもつ独立な試行を $n$ 回行ったときの結果の出方の数としても現れる。これらがすべて同じ数になることがこの記事の中心であり、そこから展開の公式、漸化式、素数で割り切れるかどうかの判定($p$ 進表示での繰り上がり)、確率の公式が順に従う。
以下、正の整数 $n$ について $[n]:=\{1,2,\dots,n\}$ とし、$[0]:=\emptyset$ とする。
整数 $m\ge1$ と $0$ 以上の整数 $k_1,\dots,k_m$ に対し、$n:=k_1+\cdots+k_m$ とおいて
$$
\binom{n}{k_1,\dots,k_m}:=\frac{n!}{k_1!\,k_2!\cdots k_m!}
$$
を多項係数(multinomial coefficient)という。整数 $n$ と整数の組 $(k_1,\dots,k_m)$ が「すべての $k_i\ge0$ かつ $k_1+\cdots+k_m=n$」を満たさないときは、$\binom{n}{k_1,\dots,k_m}:=0$ と約束する。
記号 $\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ の上段の $n$ は下段の和で決まるが、和が $n$ であることを目で確かめられるように書いておく。次のことは定義からすぐに分かる。
$k_1,\dots,k_m$ を $0$ 以上の整数、$n:=k_1+\cdots+k_m$ とし、部分和を $s_0:=0$、$s_i:=k_1+\cdots+k_i$($1\le i\le m$)と書く。$s_m=n$ である。
上の記号のもとで、次の 4 つの集合の元の個数はどれも $\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ に等しい。
$H_k$ は、$[n]$ を左から長さ $k_1,\dots,k_m$ の区間(ブロック)に切り、各ブロックの中だけで並べ替える置換の全体である。ブロックごとの並べ替えを組にする対応で $H_k\cong S_{k_1}\times\cdots\times S_{k_m}$ となり、$\lvert H_k\rvert=k_1!\cdots k_m!$ である。この形の部分群を Young 部分群とよぶ。2 の「$m$ 色の塗り分け」として多項係数を導入し、積の公式で数える説明は KT17 §2.7 にある。
1 と 2 と 3 の対応。 $f\in W(k)$ に $(f^{-1}(1),\dots,f^{-1}(m))$ を対応させると、2 の集合への写像になる。逆に 2 の組 $(B_1,\dots,B_m)$ が与えられると、各 $j\in[n]$ を含む $B_i$ はただ 1 つなので、$f(j):=i$ で $f\in W(k)$ が定まる。この 2 つの対応は互いに逆であり、1 と 2 の集合は全単射で結ばれる。また $f\in W(k)$ に語 $a_{f(1)}a_{f(2)}\cdots a_{f(n)}$ を対応させると、$a_i$ の個数は $\lvert f^{-1}(i)\rvert=k_i$ であり、語の $j$ 文字目が $a_i$ のとき $f(j)=i$ とおけば逆の対応になる。よって 1 と 3 も全単射で結ばれる。
2 の個数と積の公式。 2 の組を $B_1,B_2,\dots$ の順に選ぶ。$B_1,\dots,B_{i-1}$ を選んだあと、残りの集合 $R_i:=[n]\setminus(B_1\cup\cdots\cup B_{i-1})$ は $n-s_{i-1}$ 個の元をもち、$B_i$ は $R_i$ の $k_i$ 元部分集合であればよい。その選び方は、それまでの選び方によらず $\binom{n-s_{i-1}}{k_i}$ 通りある。最後の $B_m$ は $\lvert R_m\rvert=n-s_{m-1}=k_m$ なので $B_m=R_m$ に限られ、このとき和集合は $[n]$ になる。逆に 2 の組はどれもこの手順で得られる。$m$ についての帰納法でこの数え方を正確にすると、2 の集合の元の個数は $\prod_{i=1}^m\binom{n-s_{i-1}}{k_i}$ である。ここで
$$
\binom{n-s_{i-1}}{k_i}=\frac{(n-s_{i-1})!}{k_i!\,(n-s_{i-1}-k_i)!}=\frac{(n-s_{i-1})!}{k_i!\,(n-s_i)!}
$$
なので、積をとると分子と分母の $(n-s_1)!,\dots,(n-s_{m-1})!$ が打ち消し合い、
$$
\prod_{i=1}^m\binom{n-s_{i-1}}{k_i}=\frac{(n-s_0)!}{k_1!\cdots k_m!\,(n-s_m)!}=\frac{n!}{k_1!\cdots k_m!}
$$
を得る($s_0=0$、$(n-s_m)!=0!=1$)。
4 の個数。 $S_n$ は $W(k)$ に $\sigma\cdot f:=f\circ\sigma^{-1}$ で(左から)作用する。実際 $(\sigma\tau)\cdot f=f\circ\tau^{-1}\circ\sigma^{-1}=\sigma\cdot(\tau\cdot f)$ であり、$(f\circ\sigma^{-1})^{-1}(i)=\sigma(f^{-1}(i))$ は $f^{-1}(i)$ と同じ個数の元をもつので $\sigma\cdot f\in W(k)$ である。
この作用は推移的である。$f,g\in W(k)$ をとる。各 $i$ について $\lvert f^{-1}(i)\rvert=\lvert g^{-1}(i)\rvert=k_i$ なので、全単射 $f^{-1}(i)\to g^{-1}(i)$ がとれる。$[n]$ は $f^{-1}(1),\dots,f^{-1}(m)$ に分かれ、$g^{-1}(1),\dots,g^{-1}(m)$ にも分かれるので、これらをつなぐと $\sigma\in S_n$ で $\sigma(f^{-1}(i))=g^{-1}(i)$(すべての $i$)となるものが得られる。$f(j)=i$ なら $\sigma(j)\in g^{-1}(i)$ なので $g(\sigma(j))=f(j)$、すなわち $g\circ\sigma=f$ であり、$g=f\circ\sigma^{-1}=\sigma\cdot f$ となる。
$f_0\in W(k)$ を、$s_{i-1}< j\le s_i$ のとき $f_0(j):=i$ で定める。$\sigma\cdot f_0=f_0$ は $f_0\circ\sigma^{-1}=f_0$、すなわち $\sigma^{-1}$(したがって $\sigma$)が各ブロック $f_0^{-1}(i)=\{s_{i-1}+1,\dots,s_i\}$ をそれ自身に写すことと同値である。よって $f_0$ の安定化群は $H_k$ である。群の作用 の系「推移的な作用と剰余類」により、$\sigma H_k\mapsto\sigma\cdot f_0$ は $S_n/H_k$ から $W(k)$ への全単射である。
以上で 4 つの集合の元の個数がすべて等しく、その値が $n!/(k_1!\cdots k_m!)$ であることが示された。個数は正の整数である($f_0\in W(k)$ なので $W(k)$ は空でない)。$\square$
4 の数え方からは、群の作用 の定理「軌道・安定化群定理」の等式 $\lvert S_n\rvert=\lvert W(k)\rvert\cdot\lvert H_k\rvert$ により、2 の数え方とは独立に $\lvert W(k)\rvert=n!/(k_1!\cdots k_m!)$ が出る。「$n$ 個を全部並べる $n!$ 通りのうち、同じ組に入るもの同士の並べ替え $k_1!\cdots k_m!$ 通りは区別しない」という、よく使われる説明を正確にしたものである。
写像の数え方(thm-mc-count の 1)から、多項係数が冪の展開の係数であることがすぐに出る。
環 $A$ の元 $x_1,\dots,x_m$ がどの 2 つも可換であるとする。$0$ 以上の整数 $n$ について
$$
(x_1+x_2+\cdots+x_m)^n=\sum_{\substack{k_1+\cdots+k_m=n\\k_i\ge0}}\binom{n}{k_1,\dots,k_m}x_1^{k_1}x_2^{k_2}\cdots x_m^{k_m}
$$
が成り立つ。
同じ主張は 二項定理 の定理「多項定理」にあり、そこでは $m$ についての帰納法で二項定理に帰着して示している。ここでは数え上げから直接示す。
分配法則を $n$ 回使うと、$n$ についての帰納法により
$$
(x_1+\cdots+x_m)^n=\sum_{f\colon[n]\to[m]}x_{f(1)}x_{f(2)}\cdots x_{f(n)}
$$
となる($n=0$ では右辺は空写像だけの和で、空の積 $1$ に等しい。$n$ から $n+1$ へは、両辺に右から $x_1+\cdots+x_m$ を掛け、$f$ を $f(n+1)$ の値で延ばす)。$x_i$ はどの 2 つも可換なので、積 $x_{f(1)}\cdots x_{f(n)}$ の因子を並べ替えて $x_1^{k_1}\cdots x_m^{k_m}$($k_i:=\lvert f^{-1}(i)\rvert$)にできる。$k_1+\cdots+k_m=n$ である。写像 $f$ を $(k_1,\dots,k_m)$ ごとにまとめると、同じ組 $k$ を与える $f$ の全体は $W(k)$ であり、その個数は thm-mc-count により $\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ である。$\square$
$0$ 以上の整数 $n$ と $m\ge1$ について
$$
\sum_{\substack{k_1+\cdots+k_m=n\\k_i\ge0}}\binom{n}{k_1,\dots,k_m}=m^n
$$
であり、和に現れる組 $(k_1,\dots,k_m)$ の個数は $\binom{n+m-1}{m-1}$ である。
要点:前半は cor-mc-multinomial-theorem で $x_1=\cdots=x_m=1$ とおけばよい。後半は、組 $(k_1,\dots,k_m)$ を $n$ 個の「$\circ$」と $m-1$ 個の仕切りの列に対応させて数える。
cor-mc-multinomial-theorem を整数環 $\mathbb{Z}$ で $x_1=\cdots=x_m=1$ として使えば前半を得る(写像 $[n]\to[m]$ の総数 $m^n$ を、各値の逆像の大きさごとに分けて数えた等式とも読める)。後半について、組 $(k_1,\dots,k_m)$ に、$n$ 個の「$\circ$」と $m-1$ 個の仕切り「$|$」を並べた列 $\circ^{k_1}|\circ^{k_2}|\cdots|\circ^{k_m}$ を対応させる。これは、長さ $n+m-1$ の列で仕切りの位置を $m-1$ か所選んだものとの全単射であり、個数は $\binom{n+m-1}{m-1}$ である。$\square$
二項係数の Pascal の関係式 $\binom nk=\binom{n-1}{k-1}+\binom{n-1}{k}$ は、多項係数では $m$ 項の和になる。$e_i$ で第 $i$ 成分だけが $1$ の組を表す。
$n\ge1$ とし、$k=(k_1,\dots,k_m)$ を和が $n$ の $0$ 以上の整数の組とする。このとき
$$
\binom{n}{k_1,\dots,k_m}=\sum_{i=1}^m\binom{n-1}{k_1,\dots,k_i-1,\dots,k_m}
$$
が成り立つ。ここで $k_i=0$ の項は、def-mc の約束により $0$ である。
要点:$k_i\ge1$ なら $\binom{n-1}{k_1,\dots,k_i-1,\dots,k_m}=\frac{k_i}{n}\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ であり、$i$ について足すと $k_1+\cdots+k_m=n$ から主張が出る。
$k_i\ge1$ のとき、組 $k-e_i$ の和は $n-1$ で、$$\binom{n-1}{k_1,\dots,k_i-1,\dots,k_m}=\frac{(n-1)!}{k_1!\cdots(k_i-1)!\cdots k_m!}=\frac{(n-1)!\,k_i}{k_1!\cdots k_m!}=\frac{k_i}{n}\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$$である。$k_i=0$ のときは左辺も右辺も $0$ なので、この等式はすべての $i$ で成り立つ。$i=1,\dots,m$ について足すと、$k_1+\cdots+k_m=n$ より右辺の和は $\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ になる。$\square$
数え上げで読むと、$W(k)$ の写像 $f$ を最後の値 $f(n)=i$ で分け、$[n-1]$ への制限をとる対応 $\{f\in W(k): f(n)=i\}\to W(k-e_i)$ が全単射である、ということになる。$m=2$ では Pascal の関係式そのものであり、$m=3$ では「Pascal の三角錐」の各段が上の段の 3 つの数の和になることを表す。
二項係数では、素数 $p$ で何回割り切れるかが $p$ 進表示での足し算の繰り上がりの回数で決まる(二項係数 の定理「Kummer の定理」)。多項係数でも同じことが、$m$ 個の数の足し算について成り立つ。
素数 $p$ を固定する。$0$ 以上の整数 $a$ を $p$ 進表示で $a=\sum_{j\ge0}a_{(j)}p^j$($0\le a_{(j)}\le p-1$、有限個を除いて $0$)と書き、桁の和を $s_p(a):=\sum_ja_{(j)}$ とする。$v_p$ は p進付値 である。
$m$ 個の数 $k_1,\dots,k_m$ を筆算で足すときの繰り上がり $c_0,c_1,\dots$ を、$c_{-1}:=0$ とし、$j=0,1,2,\dots$ の順に
$$
\sum_{i=1}^mk_{i,(j)}+c_{j-1}=d_j+p\,c_j\qquad(0\le d_j\le p-1)
$$
(左辺を $p$ で割った商が $c_j$、余りが $d_j$)で定める。$m\ge3$ では 1 つの桁から $2$ 以上の繰り上がりが出ることもある。
素数 $p$ と $0$ 以上の整数 $k_1,\dots,k_m$、$n:=k_1+\cdots+k_m$ について、次が成り立つ。
要点:1 は $n!=\binom{n}{k_1,\dots,k_m}\prod_ik_i!$ の両辺の付値に Legendre の公式の桁の和の形を使う。2 は、繰り上がりがやがて $0$ になることを確かめたうえで、筆算の各桁の等式を足し合わせると $\sum_is_p(k_i)-s_p(n)=(p-1)\sum_jc_j$ になることによる。
1。 $n!=\binom{n}{k_1,\dots,k_m}\cdot k_1!\cdots k_m!$ はどれも $0$ でない整数の積なので(thm-mc-count により多項係数は整数)、p進付値 の命題「付値の基本性質」の 1 により $v_p(n!)=v_p\binom{n}{k_1,\dots,k_m}+\sum_iv_p(k_i!)$ である。p進付値 の命題「Legendre の公式の桁の和による形」$v_p(a!)=\frac{a-s_p(a)}{p-1}$ を $n$ と各 $k_i$ に使うと、$n=\sum_ik_i$ より$$v_p\binom{n}{k_1,\dots,k_m}=\frac{n-s_p(n)}{p-1}-\sum_{i=1}^m\frac{k_i-s_p(k_i)}{p-1}=\frac{\sum_is_p(k_i)-s_p(n)}{p-1}.$$
2。 $J_0$ を、すべての $i$ と $j>J_0$ で $k_{i,(j)}=0$ となる整数とする。$j>J_0$ では定義式が $c_{j-1}=d_j+pc_j$ となるので、$c_{j-1}\ge1$ なら $c_j\le c_{j-1}/p< c_{j-1}$、$c_{j-1}=0$ なら $c_j=0$ である。よって $c_j$ はある所から先 $0$ になる。$c_J=0$ となる $J\ge J_0$ をとり、定義式に $p^j$ を掛けて $j=0,\dots,J$ について足すと、左辺の $\sum_jc_{j-1}p^j$ と右辺の $\sum_jc_jp^{j+1}$ は $c_{-1}=c_J=0$ により打ち消し合い、$$\sum_{i=1}^mk_i=\sum_{j=0}^Jd_jp^j$$を得る。$0\le d_j\le p-1$ なので、右辺は $n$ の $p$ 進表示であり、表示の一意性から $d_j=n_{(j)}$ である。次に定義式そのものを $j=0,\dots,J$ について足すと$$\sum_{i=1}^ms_p(k_i)+\sum_{j=0}^{J}c_{j-1}=s_p(n)+p\sum_{j=0}^{J}c_j,$$すなわち $\sum_is_p(k_i)-s_p(n)=(p-1)\sum_jc_j$ である。1 と合わせて主張を得る。$\square$
$m=2$ の場合が 二項係数 の定理「Kummer の定理」である。2 から、割り切れないための条件が桁ごとの条件として読める。
素数 $p$ について、$p\nmid\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ であるための必要十分条件は、すべての桁 $j$ について $k_{1,(j)}+\cdots+k_{m,(j)}\le p-1$ が成り立つことである。
thm-mc-valuation の 2 により、$p\nmid\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ はすべての $c_j=0$ と同値である。すべての $c_j=0$ なら定義式から $\sum_ik_{i,(j)}=d_j\le p-1$ である。逆にすべての桁で $\sum_ik_{i,(j)}\le p-1$ なら、$c_{-1}=0$ から始めて、$c_{j-1}=0$ ならば左辺が $p-1$ 以下なので $c_j=0$ となり、帰納法ですべての $c_j=0$ である。$\square$
とくに $n=p$ が素数で、どの $k_i$ も $p$ より小さいとき、各 $k_i$ は 1 桁で $\sum_ik_{i,(0)}=p$ となるので $p\mid\binom{p}{k_1,\dots,k_m}$ である。和が $p$ の組で $p\nmid\binom{p}{k_1,\dots,k_m}$ となるのは、ある $k_i$ が $p$ で残りが $0$ の $m$ 通りだけである。
$m$ 通りの結果 $1,\dots,m$ が確率 $p_1,\dots,p_m$($p_i\ge0$、$p_1+\cdots+p_m=1$)で起こる試行を、独立に $n$ 回行う。これを、$\Omega:=[m]^n$ に $P(\{\omega\}):=p_{\omega_1}p_{\omega_2}\cdots p_{\omega_n}$ を与えた有限確率空間で表す(独立性(確率論) の定理「積の確率空間の座標は互いに独立」)。結果 $i$ の出た回数を $N_i(\omega):=\lvert\{t\in[n]:\omega_t=i\}\rvert$ とする。
$0$ 以上の整数 $k_1,\dots,k_m$ で和が $n$ のものについて
$$
P(N_1=k_1,\dots,N_m=k_m)=\binom{n}{k_1,\dots,k_m}p_1^{k_1}p_2^{k_2}\cdots p_m^{k_m}
$$
が成り立つ($0^0=1$ と約束する)。これらの確率の総和は $1$ である。
$\omega=(\omega_1,\dots,\omega_n)\in\Omega$ を写像 $[n]\to[m]$、$t\mapsto\omega_t$ と見ると、事象 $\{N_1=k_1,\dots,N_m=k_m\}$ はちょうど $W(k)$ である。$\omega\in W(k)$ では、積 $p_{\omega_1}\cdots p_{\omega_n}$ に $p_i$ がちょうど $k_i$ 回現れるので $P(\{\omega\})=p_1^{k_1}\cdots p_m^{k_m}$ であり、どの $\omega\in W(k)$ でも同じ値である。thm-mc-count により $\lvert W(k)\rvert=\binom{n}{k_1,\dots,k_m}$ なので主張を得る。総和は cor-mc-multinomial-theorem により $(p_1+\cdots+p_m)^n=1$ である。$\square$
この $(N_1,\dots,N_m)$ の分布を多項分布という(多項分布)。$m=2$ では成功の回数 $N_1$ が二項分布に従うことになる。独立な Poisson分布 に従う確率変数を、和の値を固定した条件のもとで見ると多項分布が現れる(Poisson分布 の定理「Poisson 分布の色分け」)。
語 MISSISSIPPI の 11 文字を並べ替えてできる語の個数を数える。文字の内訳は M が 1 個、I が 4 個、S が 4 個、P が 2 個なので、thm-mc-count の 3 により
$$
\binom{11}{1,4,4,2}=\frac{11!}{1!\,4!\,4!\,2!}=\frac{39916800}{1152}=34650
$$
である。積の公式で数えると、M の位置を選ぶ $\binom{11}{1}=11$ 通り、残り 10 か所から I の位置を選ぶ $\binom{10}{4}=210$ 通り、残り 6 か所から S の位置を選ぶ $\binom64=15$ 通り、P は残り 2 か所に決まるので、$11\cdot210\cdot15\cdot1=34650$ となり一致する。
$(x+y+z)^4$ を展開したときの $x^2yz$ の係数は $\binom{4}{2,1,1}=\frac{24}{2}=12$、$x^2y^2$ の係数は $\binom{4}{2,2,0}=6$、$x^4$ の係数は $1$ である。cor-mc-sum により、現れる単項式は $\binom{6}{2}=15$ 種類で、係数の和は $3^4=81$ である。実際、型ごとにまとめると $(4,0,0)$ 型が 3 個(係数 $1$)、$(3,1,0)$ 型が 6 個(係数 $4$)、$(2,2,0)$ 型が 3 個(係数 $6$)、$(2,1,1)$ 型が 3 個(係数 $12$)で、個数は $3+6+3+3=15$、係数の和は $3+24+18+36=81$ である。
$\binom{6}{2,2,2}=\frac{720}{8}=90=2\cdot3^2\cdot5$ である。$p=3$ では $2=(2)_3$、$6=(20)_3$ で、筆算は 1 の位が $2+2+2=6=0+3\cdot2$ で繰り上がり $c_0=2$、3 の位が $0+2=2$ で繰り上がりなしなので、繰り上がりの総数は $2=v_3(90)$ である。桁の和の式でも $(2+2+2-2)/2=2$ となる。$p=2$ では $2=(10)_2$、$6=(110)_2$ で、$(1+1+1-2)/1=1=v_2(90)$、$p=5$ では $(2+2+2-2)/4=1=v_5(90)$、$p=7$ では $2+2+2=6\le6$ で繰り上がりがなく $7\nmid90$ である。
Cayleyの公式 の系「次数を指定した木の個数」により、頂点 $\{1,\dots,n\}$ 上のラベル付き木で頂点 $i$ の次数が $d_i$($d_i\ge1$、$\sum_id_i=2n-2$)であるものの個数は $\binom{n-2}{d_1-1,\dots,d_n-1}$ である。$n=5$ で次数の組が $(3,2,1,1,1)$ なら $\binom{3}{2,1,0,0,0}=3$ 個である。cor-mc-sum によりすべての次数の組について足すと $n^{n-2}$ となり、ラベル付き木の総数を表す Cayley の公式が戻る。
素数 $p$ と正の整数 $m$ について、cor-mc-sum により $m^p=\sum\binom{p}{k_1,\dots,k_m}$ である。cor-mc-no-carry の後で見たとおり、和のうち $p$ で割り切れない項はある $k_i$ が $p$ の $m$ 項だけで、その値はどれも $1$ である。よって $m^p\equiv m\pmod p$ であり、これは Fermatの小定理 の一つの証明になる。任意の整数 $a$ については、$a$ と $p$ を法として合同な正の整数 $m$ をとれば $a^p\equiv m^p\equiv m\equiv a\pmod p$ となる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $x_1,\dots,x_m$ がどの 2 つも可換(cor-mc-multinomial-theorem) | $2$ 次正方行列 $x=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$、$y=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ | $(x+y)^2=\binom{2}{2,0}x^2+\binom{2}{1,1}xy+\binom{2}{0,2}y^2$ |
| $k_1+\cdots+k_m=n$(thm-mc-count の個数の式) | $n=2$、$(k_1,k_2)=(1,0)$ | 逆像の大きさが $1,0$ の写像 $[2]\to[2]$ の個数が $\frac{2!}{1!\,0!}=2$ に等しい |
| $p$ が素数(cor-mc-no-carry) | $6$ 進表示で $k=(2,2)$、$n=4$ | 繰り上がりがなければ $6\nmid\binom{4}{2,2}$ |
1 行目:$x^2=y^2=0$、$xy=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$、$yx=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}$ なので、$(x+y)^2=x^2+xy+yx+y^2$ は単位行列だが、$x^2+2xy+y^2=\begin{pmatrix}2&0\\0&0\end{pmatrix}$ である。展開の各項 $x_{f(1)}x_{f(2)}$ を並べ替えられないので、同じ単項式にまとめる段が成り立たない。
2 行目:写像 $[2]\to[2]$ の逆像の大きさの和は必ず $2$ なので、逆像の大きさが $(1,0)$ の写像は存在せず、個数は $0$ である。式 $n!/(k_1!\cdots k_m!)$ は和の条件がないと個数を表さない。def-mc で和が $n$ でない組の値を $0$ と約束したのはこのためである。
3 行目:$2+2=4< 6$ なので $6$ 進表示で繰り上がりはないが、$\binom{4}{2,2}=6$ は $6$ で割り切れる。素数でない底では、thm-mc-valuation の証明で使った Legendre の公式も、付値の積の性質($6$ で割り切れる回数を $v_6$ と書くと $v_6(4)=v_6(9)=0$ だが $v_6(36)=2$)も成り立たない。
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