代数的整数

同義語:algebraic integer

概要

代数的整数(algebraic integer)とは、整数係数のモニックな多項式 $x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0$ の根になる複素数のことである。$\sqrt2$、$i$、黄金比 $(1+\sqrt5)/2$ は代数的整数であり、$1/2$ や $(1+\sqrt3)/2$ はそうでない。代数的整数全体は $\mathbb{C}$ の部分環をなし、有理数である代数的整数は整数に限る。代数的数が代数的整数であることは、その最小多項式が整数係数であることと同値である。代数体 $K$ に属する代数的整数全体は整数環 $\mathcal{O}_K$ をなし、2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ では $d\bmod4$ に応じて $\mathbb{Z}[\sqrt d]$ または $\mathbb{Z}[(1+\sqrt d)/2]$ となる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 整数, 有理数, 複素数, 多項式環, 体の拡大, 加群

定義

複素数 $\alpha$ が有理数体 $\mathbb{Q}$ 上代数的であるとは、$f(\alpha)=0$ となる $0$ でない多項式 $f\in\mathbb{Q}[x]$ が存在することをいい、このような複素数を代数的数という(体の拡大 の記事の定義「代数的元と超越的元」)。分母を払えば、$f$ は整数係数にとれる。代数的整数は、この多項式に「最高次の係数が $1$」という条件を課して得られる。
多項式 $f$ の最高次の係数が $1$ であるとき、$f$ をモニック(monic)という。

代数的整数

複素数 $\alpha$ が代数的整数(algebraic integer)であるとは、整数係数のモニックな多項式
$$ f(x)=x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_1x+c_0\qquad(n\ge1,\ c_0,\dots,c_{n-1}\in\mathbb{Z}) $$
で $f(\alpha)=0$ を満たすものが存在することをいう。代数的整数全体の集合を $\overline{\mathbb{Z}}$ と書く。

代数的整数は代数的数である。整数 $m$ は $x-m$ の根なので代数的整数である。$\overline{\mathbb{Z}}$ は $\mathbb{C}$ の部分環であり(thm-algebraic-integer-ring)、$\overline{\mathbb{Z}}\cap\mathbb{Q}=\mathbb{Z}$ である(prop-algebraic-integer-rational)。

代数体の整数環

$\mathbb{Q}$ の有限次拡大である $\mathbb{C}$ の部分体 $K$ を代数体という。$K$ に属する代数的整数全体
$$ \mathcal{O}_K:=K\cap\overline{\mathbb{Z}} $$
を $K$ の整数環(ring of integers)という。

$\mathcal{O}_K$ は $K$ の部分環であり(thm-algebraic-integer-ring)、$\mathcal{O}_{\mathbb{Q}}=\mathbb{Z}$ である。本記事では代数的整数の定義と基本性質、および 2 次体の整数環の決定(prop-algebraic-integer-quadratic)を扱い、整数環の一般論は rem-algebraic-integer-dedekind で概観する。
より一般に、可換環の拡大 $A\subset B$ で、$b\in B$ が $A$ 係数のモニックな多項式の根になるとき、$b$ は $A$ 上整であるという(整元)。代数的整数とは、$\mathbb{C}$ の元で $\mathbb{Z}$ 上整なものにほかならない。

直感

有理数の中で整数を特徴づけるには「分母が $1$」と言えばよいが、$\sqrt2$ や $(1+\sqrt5)/2$ のような数には「分母」がそのままでは定まらない。代数的整数は、分母の代わりに「満たす方程式の最高次の係数」を見る。$x^2-2$ の根 $\sqrt2$ は代数的整数であり、$2x-1$ の根 $1/2$ はそうでない。こうして定めた「整数」は足し算と掛け算で閉じ(thm-algebraic-integer-ring)、有理数に制限すると通常の整数に戻る(prop-algebraic-integer-rational)。

例と反例

代数的整数の例

次の数はいずれも代数的整数である(右に満たすモニックな整数係数多項式を示す)。

  1. $\sqrt2$:$x^2-2$。より一般に、整数 $m$ と $n\ge1$ について $\sqrt[n]{m}$($x^n=m$ の任意の複素数の根):$x^n-m$。
  2. 虚数単位 $i$:$x^2+1$。Gauss整数 $a+bi$($a,b\in\mathbb{Z}$)は $x^2-2ax+(a^2+b^2)$ の根である。
  3. 1 の $n$ 乗根 $\zeta$($\zeta^n=1$):$x^n-1$。
  4. 黄金比 $\varphi=(1+\sqrt5)/2$:$x^2-x-1$。実際 $\varphi^2=(6+2\sqrt5)/4=(3+\sqrt5)/2=\varphi+1$ である。
  5. $\sqrt2+\sqrt3$:$x^4-10x^2+1$。実際 $(\sqrt2+\sqrt3)^2=5+2\sqrt6$、$(\sqrt2+\sqrt3)^4=49+20\sqrt6$ なので、$49+20\sqrt6-10(5+2\sqrt6)+1=0$ である。
    4 の $\varphi$ は、係数に分母 $2$ が見えていても代数的整数でありうることを示す。5 は、代数的整数の和が代数的整数になる(thm-algebraic-integer-ring)ことの具体例であり、和の満たす多項式を実際に求めるには計算が要る。
反例:モニックでない多項式の根

$1/2$ は整数係数の多項式 $2x-1$ の根なので代数的数であるが、代数的整数でない。$1/2$ は有理数で整数でないから、prop-algebraic-integer-rational による。この例は「整数係数の $0$ でない多項式の根は代数的整数」という含意を破り、定義の「モニック」の条件が省けないことを示す。整数係数の多項式の根であることだけを課すと、代数的数全体が得られる。

反例:分母 2 の数が代数的整数にならない場合

$\alpha=(1+\sqrt3)/2$ は代数的整数でない。$\alpha^2=(4+2\sqrt3)/4=(2+\sqrt3)/2$ なので $\alpha^2-\alpha=1/2$、すなわち $\alpha$ は $x^2-x-\tfrac12$ の根である。$\sqrt3\notin\mathbb{Q}$ なので $\alpha\notin\mathbb{Q}$ であり、この 2 次式が $\alpha$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式である。その係数 $-\tfrac12$ が整数でないので、prop-algebraic-integer-minimal-polynomial により $\alpha$ は代数的整数でない。
$(1+\sqrt5)/2$ は代数的整数で $(1+\sqrt3)/2$ はそうでない、という違いは、$5\equiv1$、$3\equiv3\pmod4$ という違いから来る(prop-algebraic-integer-quadratic)。また $\sqrt2/2=1/\sqrt2$ は $x^2-\tfrac12$ を最小多項式にもつので代数的整数でなく、代数的整数 $\sqrt2$ を整数 $2$ で割った商は代数的整数とは限らない。$\overline{\mathbb{Z}}$ は体ではない。

反例:超越数

超越数($\mathbb{Q}$ 上代数的でない複素数)は、どんな $0$ でない多項式の根にもならないので代数的整数でない。たとえば円周率 $\pi$ や $e$ は超越数である(Lan02 Appendix 1)。代数的整数はすべて代数的数であり、$\mathbb{C}$ の中では可算個しかない(整数係数のモニックな多項式は可算個で、各多項式の根は有限個)。

性質

有理数である代数的整数

有理数である代数的整数は整数

有理数 $\alpha$ が代数的整数ならば、$\alpha\in\mathbb{Z}$ である。すなわち $\overline{\mathbb{Z}}\cap\mathbb{Q}=\mathbb{Z}$ である。

分母の素因数を追う

$\alpha=p/q$($p,q\in\mathbb{Z}$、$q\ge1$、$p$ と $q$ は互いに素)と既約分数で書き、$\alpha$ が $f(x)=x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0$($c_i\in\mathbb{Z}$)の根であるとする。$f(p/q)=0$ の両辺に $q^n$ を掛けると
$$ p^n=-\bigl(c_{n-1}p^{n-1}q+c_{n-2}p^{n-2}q^2+\cdots+c_0q^n\bigr) $$
となり、右辺は $q$ の倍数である。$q>1$ と仮定すると、$q$ を割り切る素数 $\ell$ があり、$\ell\mid p^n$ である。素数 の記事の補題「Euclidの補題」により $\ell\mid p$ となり、$p$ と $q$ が互いに素であることに反する。よって $q=1$、すなわち $\alpha=p\in\mathbb{Z}$ である。逆に整数は代数的整数である。$\square$

この命題は、$x^2-2$ の根 $\sqrt2$ が有理数でないことも含む($\sqrt2$ が有理数なら整数になるが、$1<\sqrt2<2$)。同じ議論は「整数係数のモニックな多項式の有理数の根は整数」という有理根の判定(既約多項式)にほかならない。

有限生成加群による特徴づけ

加法について $\mathbb{C}$ はアーベル群、すなわち $\mathbb{Z}$ 上の加群である。有限個の元 $m_1,\dots,m_r$ の整数係数の 1 次結合全体を $\mathbb{Z}m_1+\cdots+\mathbb{Z}m_r$ と書き、この形に書ける $\mathbb{C}$ の加法部分群を有限生成という(有限生成加群)。部分集合 $S\subset\mathbb{C}$ に対し、$S$ の元の整数係数の多項式として書ける複素数全体を $\mathbb{Z}[S]$ と書く。これは $S$ を含む $\mathbb{C}$ の最小の部分環である。

有限生成加群による特徴づけ

$\alpha\in\mathbb{C}$ について、次の 3 条件は同値である。

  1. $\alpha$ は代数的整数である。
  2. $\mathbb{Z}[\alpha]$ は $\mathbb{C}$ の有限生成な加法部分群である。
  3. $\mathbb{C}$ の有限生成な加法部分群 $M\neq\{0\}$ で、$\alpha M\subset M$ を満たすものが存在する。
固有多項式による

1 ⇒ 2:$\alpha$ が $x^n+c_{n-1}x^{n-1}+\cdots+c_0$($c_i\in\mathbb{Z}$)の根であるとし、$M=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\alpha+\cdots+\mathbb{Z}\alpha^{n-1}$ とおく。$k$ に関する帰納法で $\alpha^k\in M$($k\ge0$)を示す。$k< n$ なら明らかである。$k\ge n$ で $\alpha^j\in M$($j< k$)とすると、
$$ \alpha^k=\alpha^{k-n}\alpha^n=-\bigl(c_{n-1}\alpha^{k-1}+c_{n-2}\alpha^{k-2}+\cdots+c_0\alpha^{k-n}\bigr) $$
は $\alpha^{k-1},\dots,\alpha^{k-n}$ の整数係数の 1 次結合なので $M$ に属する。$\mathbb{Z}[\alpha]$ の元は $\alpha$ の冪の整数係数の 1 次結合なので、$\mathbb{Z}[\alpha]=M$ は有限生成である。
2 ⇒ 3:$M=\mathbb{Z}[\alpha]$ とすればよい。$1\in M$ なので $M\neq\{0\}$ であり、$M$ は環なので $\alpha M\subset M$ である。
3 ⇒ 1:$M=\mathbb{Z}m_1+\cdots+\mathbb{Z}m_r$ とする。$\alpha m_i\in M$ なので、整数 $a_{ij}$ によって
$$ \alpha m_i=\sum_{j=1}^ra_{ij}m_j\qquad(i=1,\dots,r) $$
と書ける。$A=(a_{ij})$ を整数を成分とする $r\times r$ 行列、$v={}^t(m_1,\dots,m_r)\in\mathbb{C}^r$ とすると、$(\alpha I_r-A)v=0$ である。$M\neq\{0\}$ なので $v\neq0$ であり、複素数を成分とする行列 $\alpha I_r-A$ は $0$ でないベクトルを $0$ に写す。よって 行列式 の記事の定理「正則性の判定」により $\det(\alpha I_r-A)=0$ である。$\chi(x):=\det(xI_r-A)$ は、Leibniz の公式で展開すると、対角成分の積 $\prod_i(x-a_{ii})$ から $x^r$ が 1 回だけ現れ、他の項は $x$ について $r-2$ 次以下なので、整数係数のモニックな $r$ 次多項式である。$\chi(\alpha)=0$ なので $\alpha$ は代数的整数である。$\square$

代数的整数全体は環をなす

代数的整数全体のなす環

$\alpha,\beta$ が代数的整数ならば、$\alpha+\beta$、$\alpha-\beta$、$\alpha\beta$ も代数的整数である。したがって $\overline{\mathbb{Z}}$ は $\mathbb{C}$ の部分環であり、代数体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K=K\cap\overline{\mathbb{Z}}$ は $K$ の部分環である。

2 元で生成される環の有限生成性

$\alpha$ が $n$ 次、$\beta$ が $m$ 次の整数係数のモニックな多項式の根であるとし、
$$ M=\sum_{0\le i< n,\ 0\le j< m}\mathbb{Z}\alpha^i\beta^j $$
とおく。prf-algebraic-integer-module の 1 ⇒ 2 と同じ議論により、すべての $a\ge0$ について $\alpha^a$ は $1,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}$ の整数係数の 1 次結合であり、$\beta^b$ も $1,\beta,\dots,\beta^{m-1}$ の整数係数の 1 次結合である。したがって $\alpha^a\beta^b\in M$ であり、$\mathbb{Z}[\alpha,\beta]$ の元はこれらの整数係数の 1 次結合なので $\mathbb{Z}[\alpha,\beta]=M$ である。$M$ は有限生成で $1\in M$、しかも環である。$\gamma$ を $\alpha+\beta$、$\alpha-\beta$、$\alpha\beta$ のいずれかとすると $\gamma\in M$ なので $\gamma M\subset M$ であり、thm-algebraic-integer-module の 3 ⇒ 1 により $\gamma$ は代数的整数である。
$0,1\in\overline{\mathbb{Z}}$ なので、$\overline{\mathbb{Z}}$ は $\mathbb{C}$ の部分環である。$K$ も $\mathbb{C}$ の部分環なので、共通部分 $\mathcal{O}_K$ は $K$ の部分環である。$\square$

この有限生成加群による議論は標準的なもので、IR90 Chapter 6、Neu99 Chapter I §2 にある。この証明は、和や積が満たす多項式を具体的に与えない。実際に求めるには、prf-algebraic-integer-module の 3 ⇒ 1 の行列 $A$ を書き下して固有多項式を計算するか、対称多項式の基本定理を使う(対称多項式 の記事の定理「対称多項式の基本定理」)。たとえば $\alpha=\sqrt2$、$\beta=\sqrt3$ では $M$ の基底 $1,\sqrt2,\sqrt3,\sqrt6$ に関する $\sqrt2+\sqrt3$ 倍の行列の固有多項式が $x^4-10x^2+1$ になる(ex-algebraic-integer-examples の 5)。

最小多項式による判定

最小多項式による判定

代数的数 $\alpha$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式を $m_\alpha\in\mathbb{Q}[x]$ とする。$\alpha$ が代数的整数であることと、$m_\alpha$ の係数がすべて整数であることは同値である。

共役も代数的整数であることによる

$m_\alpha\in\mathbb{Z}[x]$ なら、$m_\alpha$ はモニックなので $\alpha$ は代数的整数である。
逆に $\alpha$ が整数係数のモニックな多項式 $f$ の根であるとする。$f\in\mathbb{Q}[x]$ は $\alpha$ を根にもつので、$m_\alpha$ は $\mathbb{Q}[x]$ で $f$ を割り切る(体の拡大 の記事の命題「最小多項式の存在と一意性」の 1)。代数学の基本定理により $\mathbb{C}$ は代数閉体なので、$m_\alpha=(x-\alpha_1)\cdots(x-\alpha_d)$($\alpha_i\in\mathbb{C}$)と 1 次式の積に分解する(代数閉体 の記事の命題「代数閉体の同値条件」)。各 $\alpha_i$ は $m_\alpha$ の根なので $f$ の根でもあり、代数的整数である。根と係数の関係(対称多項式 の記事の命題「根と係数の関係」)により、$m_\alpha$ の $x^{d-k}$ の係数は $(-1)^ke_k(\alpha_1,\dots,\alpha_d)$($e_k$ は $k$ 次の基本対称多項式)であり、thm-algebraic-integer-ring によりこれは代数的整数である。この係数は有理数でもあるので、prop-algebraic-integer-rational により整数である。$\square$

この判定により、2 次の代数的数 $\alpha$ については、その最小多項式 $x^2+bx+c$ の $b,c$ が整数かどうかを見れば代数的整数かどうかが分かる。ex-algebraic-integer-sqrt3 はこの使い方である。

分母を払うこと

代数的数の整数倍

$\alpha$ を代数的数とする。$0$ でない整数 $d$ で、$d\alpha$ が代数的整数となるものが存在する。とくに代数体 $K$ の任意の元は、$\mathcal{O}_K$ の元を $0$ でない整数で割ったものとして書ける。

最高次係数を掛ける

$\alpha$ は整数係数の多項式 $f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0$($a_n\neq0$、$n\ge1$)の根である($\mathbb{Q}$ 係数の多項式の分母を払えばよい)。$f(\alpha)=0$ の両辺に $a_n^{n-1}$ を掛けると
$$ (a_n\alpha)^n+a_{n-1}(a_n\alpha)^{n-1}+a_{n-2}a_n(a_n\alpha)^{n-2}+\cdots+a_0a_n^{n-1}=0 $$
となる($x^k$ の項 $a_k\alpha^k$ に $a_n^{n-1}=a_n^{k}\cdot a_n^{n-1-k}$ を掛けると $a_ka_n^{n-1-k}(a_n\alpha)^k$ になる)。よって $a_n\alpha$ は整数係数のモニックな多項式 $x^n+\sum_{k< n}a_ka_n^{n-1-k}x^k$ の根であり、$d=a_n$ とすればよい。$\alpha\in K$ なら $d\alpha\in K\cap\overline{\mathbb{Z}}=\mathcal{O}_K$ で、$\alpha=(d\alpha)/d$ である。$\square$

整閉性

代数的整数を係数とする方程式の根

$\alpha\in\mathbb{C}$ が、代数的整数を係数とするモニックな多項式 $x^n+b_{n-1}x^{n-1}+\cdots+b_0$($b_i\in\overline{\mathbb{Z}}$)の根ならば、$\alpha$ は代数的整数である。

係数を添加した環の有限生成性

各 $b_i$ が $d_i$ 次の整数係数のモニックな多項式の根であるとする。prf-algebraic-integer-ring と同じ議論により、$b_i$ の冪は $1,b_i,\dots,b_i^{d_i-1}$ の整数係数の 1 次結合であり、$\alpha$ の冪は $1,\alpha,\dots,\alpha^{n-1}$ の、$\mathbb{Z}[b_0,\dots,b_{n-1}]$ の元を係数とする 1 次結合である($\alpha^n=-\sum_ib_i\alpha^i$ を繰り返し使う)。したがって
$$ M=\sum\mathbb{Z}\,b_0^{e_0}\cdots b_{n-1}^{e_{n-1}}\alpha^j\qquad(0\le e_i< d_i,\ 0\le j< n) $$
は環 $\mathbb{Z}[b_0,\dots,b_{n-1},\alpha]$ に等しく、有限生成で $1$ を含む。$\alpha M\subset M$ なので、thm-algebraic-integer-module の 3 ⇒ 1 により $\alpha$ は代数的整数である。$\square$

たとえば $\varphi=(1+\sqrt5)/2$ は代数的整数なので、$x^2-\varphi$ の根 $\sqrt{\varphi}$ も代数的整数である。この命題は、$\overline{\mathbb{Q}}$($\mathbb{C}$ の中の代数的数全体)が、prop-algebraic-integer-denominator により $\overline{\mathbb{Z}}$ の商体であり、$\overline{\mathbb{Z}}$ がその中で整閉整域であることを意味する($\overline{\mathbb{Q}}$ の元で $\overline{\mathbb{Z}}$ 上整なものは $\overline{\mathbb{Z}}$ に属する)。また prop-algebraic-integer-rational は、$\mathbb{Z}$ が $\mathbb{Q}$ の中で整閉であることを述べている。

2 次体の整数環

$d$ を $0,1$ でない整数で、$1$ より大きい平方数で割り切れないもの(平方因子をもたない整数)とする。$\sqrt d$ は $x^2=d$ の複素数の根の 1 つ($d<0$ なら $i\sqrt{|d|}$)を表す。$\sqrt d\notin\mathbb{Q}$ であり(有理数なら prop-algebraic-integer-rational により整数で、$d$ は平方数になる)、$K=\mathbb{Q}(\sqrt d)=\{a+b\sqrt d\mid a,b\in\mathbb{Q}\}$ は $\mathbb{Q}$ の 2 次拡大である。このような $K$ を 2 次体という。

2 次体の整数環の決定

上の $d$ と $K=\mathbb{Q}(\sqrt d)$ について
$$ \mathcal{O}_K=\begin{cases}\mathbb{Z}[\sqrt d]=\{a+b\sqrt d\mid a,b\in\mathbb{Z}\}&(d\equiv2,3\pmod 4),\\[4pt]\mathbb{Z}\Bigl[\dfrac{1+\sqrt d}2\Bigr]=\Bigl\{\dfrac{m+n\sqrt d}2\ \Bigm|\ m,n\in\mathbb{Z},\ m\equiv n\pmod 2\Bigr\}&(d\equiv1\pmod 4)\end{cases} $$
である。

最小多項式の係数の条件を解く

$\alpha=a+b\sqrt d$($a,b\in\mathbb{Q}$)とする。$b=0$ なら $\alpha\in\mathbb{Q}$ であり、prop-algebraic-integer-rational により $\alpha\in\mathcal{O}_K$ と $a\in\mathbb{Z}$ は同値で、これは右辺の元で $b=0$($n=0$)のものと一致する。以下 $b\neq0$ とする。$\alpha\notin\mathbb{Q}$ であり、$\alpha$ は
$$ (x-a)^2-db^2=x^2-2ax+(a^2-db^2)\in\mathbb{Q}[x] $$
の根なので、これが $\alpha$ の最小多項式である。prop-algebraic-integer-minimal-polynomial により、$\alpha\in\mathcal{O}_K$ であることは
$$ m:=2a\in\mathbb{Z}\quad\text{かつ}\quad a^2-db^2\in\mathbb{Z} $$
と同値である。この条件の下で $n:=2b$ も整数であることを示す。$4(a^2-db^2)=m^2-dn^2$ は整数なので $dn^2\in\mathbb{Z}$ である。$n=p/q$($q\ge1$、$p,q$ は互いに素)と既約分数で書くと $q^2\mid dp^2$ であり、$q$ と $p$ は互いに素なので $q^2\mid d$ である(素数 の記事の補題「Euclidの補題」を $q$ の素因数ごとに使う)。$d$ は平方因子をもたないので $q=1$、すなわち $n\in\mathbb{Z}$ である。
よって $\alpha\in\mathcal{O}_K$ は、「$\alpha=(m+n\sqrt d)/2$ で $m,n\in\mathbb{Z}$、かつ $m^2-dn^2\equiv0\pmod4$」と同値である。整数の平方は $4$ を法として $0$ か $1$(偶数なら $0$、奇数なら $1$)であることを使う。

  • $d\equiv2,3\pmod4$ のとき:$n$ が奇数なら $dn^2\equiv d\equiv2,3$ で、$m^2\equiv dn^2$ となる $m$ はない。よって $n$ は偶数で、$m^2\equiv0$ から $m$ も偶数である。すなわち $a=m/2$、$b=n/2$ はともに整数である。逆に $a,b\in\mathbb{Z}$ なら $2a\in\mathbb{Z}$、$a^2-db^2\in\mathbb{Z}$ である。
  • $d\equiv1\pmod4$ のとき:$m^2-dn^2\equiv m^2-n^2\pmod4$ であり、これが $0$ になるのは $m,n$ の偶奇が一致するときに限る。
    最後に、$d\equiv1\pmod4$ のとき右辺の集合が $\mathbb{Z}[(1+\sqrt d)/2]$ に等しいことを確かめる。$\omega=(1+\sqrt d)/2$ は $\omega^2=\omega+\frac{d-1}4$ を満たし、$\frac{d-1}4\in\mathbb{Z}$ なので、$\mathbb{Z}[\omega]=\{x+y\omega\mid x,y\in\mathbb{Z}\}$ である。$x+y\omega=\frac{(2x+y)+y\sqrt d}2$ で $2x+y\equiv y\pmod2$、逆に $m\equiv n\pmod 2$ なら $\frac{m+n\sqrt d}2=\frac{m-n}2+n\omega$ である。$d\equiv2,3\pmod4$ のときも同様に $\mathbb{Z}[\sqrt d]=\{a+b\sqrt d\mid a,b\in\mathbb{Z}\}$ である($(\sqrt d)^2=d$)。$\square$
2 次体の整数環の例
  1. $d=-1$:$-1\equiv3\pmod4$ なので $\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(i)}=\mathbb{Z}[i]$、すなわち Gauss整数 全体である。
  2. $d=5$:$5\equiv1\pmod4$ なので $\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt5)}=\mathbb{Z}[\varphi]$($\varphi=(1+\sqrt5)/2$)であり、$\mathbb{Z}[\sqrt5]$ はその真部分環である。とくに $\mathbb{Z}[\alpha]$ は $\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\alpha)}$ に一致するとは限らない($\alpha=\sqrt5$ が反例で、$\varphi\in\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt5)}\setminus\mathbb{Z}[\sqrt5]$)。
  3. $d=-3$:$-3\equiv1\pmod4$ なので整数環は $\mathbb{Z}[(1+\sqrt{-3})/2]$ である。$\rho=(-1+\sqrt{-3})/2$ は 1 の原始 3 乗根で、$\mathbb{Z}[\rho]$ は同じ環である($(1+\sqrt{-3})/2=1+\rho$)。$\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ は整数環でない。
  4. $d=-5$:$-5\equiv3\pmod4$ なので整数環は $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ である。ここでは $6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$ と、元の既約元への分解が一意でない(Gauss整数 の記事の例「反例:素因数分解が一意でない $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$」。したがって $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ は一意分解整域でない)。イデアルに移ると分解は一意になる(Dedekind整域 の記事の例「2次体の整数環」)。
  5. $d=3$:$3\equiv3\pmod4$ なので整数環は $\mathbb{Z}[\sqrt3]$ であり、ex-algebraic-integer-sqrt3 の $(1+\sqrt3)/2$ はこれに属さない。

整数環の構造

整数環は Dedekind 整域である

$K$ を $[K:\mathbb{Q}]=n$ の代数体とする。$\mathcal{O}_K$ は階数 $n$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群であり($\mathbb{Z}$ 上の基底を整数底という)、$K$ の $\mathbb{Q}$ 上の基底にもなる。さらに $\mathcal{O}_K$ は Dedekind整域 であり、$0$ でないイデアルは素イデアルの積に一意に分解する(Dedekind整域 の記事の定理「整閉包へのDedekind性の遺伝」、Neu99 Chapter I §2・§3、IR90 Chapter 12)。ex-algebraic-integer-quadratic-examples の 4 のように元の分解が一意でなくても、イデアルの分解は一意である。2 次体では prop-algebraic-integer-quadratic が整数底 $\{1,\sqrt d\}$ または $\{1,(1+\sqrt d)/2\}$ を具体的に与えている。
一方、代数的整数全体 $\overline{\mathbb{Z}}$ は整閉整域だが Noether環 でない。$2^{1/2^k}$($k\ge0$)はすべて代数的整数で、単項イデアルの列 $(2)\subsetneq(2^{1/2})\subsetneq(2^{1/4})\subsetneq\cdots$ が止まらないからである。包含が真であるのは、$b=2^{1/2^{k+1}}$ について $1/b$ の $2^{k+1}$ 乗が $1/2$ で、$1/b$ が代数的整数でない(代数的整数なら thm-algebraic-integer-ring と prop-algebraic-integer-rational により $1/2$ が整数になる)ため、$b$ が $b^2$ の倍元でないことによる(Dedekind整域 の記事の注意「反例:Dedekind整域でない整域」の 3)。

関連項目

参考文献

[1]
Kenneth Ireland and Michael Rosen, A Classical Introduction to Modern Number Theory, 2nd ed., Springer-Verlag, 1990, Chapter 6(代数的数と代数的整数、代数的整数全体が環をなすこと)、Chapter 12(代数体の整数環とイデアルの一意分解)、Chapter 13(2 次体)
[2]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, 1999, Chapter I §2(整性、整数底)、§3(Dedekind 整域とイデアルの分解)

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