Archimedesの折れ弦の定理

同義語:折れ弦の定理broken chord theorem

概要

Archimedesの折れ弦の定理(broken chord theorem)とは、円周上の 2 点 $A$、$B$ と、一方の弧の上の点 $C$($AC>CB$)について、$C$ を含む弧 $ACB$ の中点 $M$ から長い方の弦 $AC$ に下ろした垂線の足 $F$ が $AF=FC+CB$ を満たす、つまり $F$ が折れ線 $ACB$ の長さを 2 等分するという定理である。$AC$ の上に $AG=CB$ となる点 $G$ をとると三角形 $MAG$ と $MBC$ が合同になり、$MG=MC$ から $F$ が $GC$ の中点になることで証明できる。弦の長さを $2R\sin$ で書くと、この定理は $0^\circ<q<p<90^\circ$ での正弦の差の公式 $\sin(p-q)=\sin p\cos q-\cos p\sin q$ と同じ内容になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 円周角の定理(高校数学), 三角形の合同条件, 正弦定理(高校数学), Ptolemyの定理

高校での出発点:折れ曲がった弦の中点

円周上に 2 点 $A$、$B$ をとり、その間の弧の上に点 $C$ をとる。線分 $AC$ と $CB$ をつないだ折れ線 $ACB$ を 折れ弦 と呼ぶ。折れ弦の長さ $AC+CB$ のちょうど半分の位置にある点(折れ弦の中点)は、どうやって見つければよいだろうか。
$C$ が弧の真ん中にあれば、折れ弦の中点は $C$ そのものである。$C$ が真ん中からずれると、中点は長い方の弦 $AC$ の上のどこかにくる。その位置は、円と弧の中点だけで決まる、というのがこの記事の主題である。まず座標で確かめる。

直径の上の折れ弦

円 $x^2+y^2=25$ の上に $A(-5,0)$、$B(5,0)$、$C(4,3)$ をとる。$C$ は上半分の弧 $AB$ の上にある。この弧の中点は $M(0,5)$ である。
(1) 弦の長さ。
$$ AC=\sqrt{(4+5)^2+3^2}=\sqrt{90}=3\sqrt{10},\qquad CB=\sqrt{(5-4)^2+3^2}=\sqrt{10} $$
で、$AC>CB$ である。折れ弦の長さは $4\sqrt{10}$、その半分は $2\sqrt{10}$ である。
(2) $M$ から直線 $AC$ に下ろした垂線の足 $F$。直線 $AC$ の向きは $\overrightarrow{AC}=(9,3)$、つまり $(3,1)$ の向きである。$\overrightarrow{AM}=(5,5)$ を $(3,1)$ の向きへ正射影すると、長さは
$$ AF=\frac{(5,5)\cdot(3,1)}{\sqrt{3^2+1^2}}=\frac{15+5}{\sqrt{10}}=\frac{20}{\sqrt{10}}=2\sqrt{10} $$
である。$F=A+\dfrac{2\sqrt{10}}{3\sqrt{10}}\overrightarrow{AC}=(-5,0)+\dfrac23(9,3)=(1,2)$ である。
(3) 比べる。$FC=AC-AF=3\sqrt{10}-2\sqrt{10}=\sqrt{10}$ なので
$$ FC+CB=\sqrt{10}+\sqrt{10}=2\sqrt{10}=AF $$
である。足 $F$ は、折れ弦 $ACB$ の中点になっている。

小さい弧の上の折れ弦

同じ円 $x^2+y^2=25$ の上に $A(-4,3)$、$B(4,3)$、$C(3,4)$ をとる。$C$ は $A$ と $B$ を結ぶ上側の短い弧の上にあり、この弧の中点は $M(0,5)$ である。三角形 $ACB$ は $C$ の角が鈍角である($\overrightarrow{CA}\cdot\overrightarrow{CB}=(-7)\cdot1+(-1)\cdot(-1)=-6<0$)。
(1) 弦の長さ。$AC=\sqrt{7^2+1^2}=5\sqrt2$、$CB=\sqrt{1^2+1^2}=\sqrt2$ で、$AC>CB$ である。
(2) 足 $F$。$\overrightarrow{AC}=(7,1)$、$\overrightarrow{AM}=(4,2)$ なので
$$ AF=\frac{(4,2)\cdot(7,1)}{\sqrt{50}}=\frac{30}{5\sqrt2}=3\sqrt2 $$
である。
(3) 比べる。$FC=5\sqrt2-3\sqrt2=2\sqrt2$ で、$FC+CB=2\sqrt2+\sqrt2=3\sqrt2=AF$ である。ここでも $F$ は折れ弦の中点である。

2 つの例で、弧の中点 $M$ から長い方の弦に下ろした垂線の足が、折れ弦の中点になった。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. いつでも足 $F$ は折れ弦の中点になるか。→ thm-bct-main
  2. 条件(弧の中点、長い方の弦)を変えると、どう崩れるか。→ ex-bct-cx-other、ex-bct-cx-short
  3. 弦の長さを正弦で書くと、この定理は何を言っているか。→ cor-bct-addition
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    $AC+CB$ の半分の位置折れ弦の中点—
    弦の長さ $2R\sin\theta$(正弦定理)弦を角の関数で表す弦の関数 $\mathrm{crd}$
    足までの長さ $MA\cos\theta$直角三角形で長さを測る正射影
    正弦の加法定理折れ弦の定理と同じ内容三角関数の加法定理を幾何の定理として持つ
    弧 ACB の中点 M から長い方の弦 AC に下ろした垂線の足 F は、青の AF と赤の FC+CB を等しく分ける 弧 ACB の中点 M から長い方の弦 AC に下ろした垂線の足 F は、青の AF と赤の FC+CB を等しく分ける
    図 1 は ex-bct-start の図である。青い線分 $AF$ と赤い折れ線 $FCB$ の長さが等しい。

言葉の準備:折れ弦と弧の中点

弧の大きさは、その弧に対する中心角で測る。円周角の定理(円周角の定理(高校数学))により、弧に対する円周角は中心角の半分である。

折れ弦とその中点

円周上の異なる 2 点 $A$、$B$ と、$A$、$B$ を端とする 2 つの弧の一方の上の点 $C$($C\ne A$、$C\ne B$)をとる。2 本の弦 $AC$、$CB$ をつないだ折れ線を 折れ弦 $ACB$ といい、$AC+CB$ をその長さという。折れ線の上の点 $F$ で、$A$ から折れ線に沿って測った長さが $\dfrac{AC+CB}2$ になるものを、折れ弦の 中点 という。$C$ を含む方の弧を弧 $ACB$ と書き、その中点($A$ と $B$ から弧に沿って等しい距離にある点)を 弧 $ACB$ の中点 という。

$AC>CB$ のとき、折れ弦の中点 $F$ は弦 $AC$ の上にあり、「$F$ が中点」は等式 $AF=FC+CB$ と同じである($AF+FC=AC$ なので、$AF=FC+CB$ は $AF=\dfrac{AC+CB}2$ と同値)。

折れ弦の中点の例
  1. $C$ が弧 $ACB$ の中点のとき、$AC=CB$ で、折れ弦の中点は $C$ である。
  2. ex-bct-start では折れ弦の長さが $3\sqrt{10}+\sqrt{10}=4\sqrt{10}$ で、中点は $AC$ の上の $A$ から $2\sqrt{10}$ の点 $F(1,2)$ である。
  3. ex-bct-second では長さが $5\sqrt2+\sqrt2=6\sqrt2$ で、中点は $AC$ の上の $A$ から $3\sqrt2$ の点である。

以下、三角形 $ABC$ の角を $x=\angle ABC$、$y=\angle BAC$ と書く。$B$ は弧 $AC$($B$ を含まない方)の上にないので、円周角の定理により弧 $AC$ の中心角は $2x$、同じように弧 $CB$ の中心角は $2y$ である。弧 $ACB$ の中心角は $2x+2y$ で、その中点 $M$ までの弧 $AM$、$MB$ の中心角はどちらも $x+y$ である。

弧の中点の位置と角

$AC>CB$ とし、弧 $ACB$ の中点を $M$ とする。このとき次が成り立つ。
(1) $x>y$ であり、$M$ は弧 $AC$ の上($A$ と $C$ の間)にある。弧 $MC$ の中心角は $x-y$ である。
(2) $\angle MAC=\angle MBC=\dfrac{x-y}2$、$\angle MCA=\angle MAB=\angle MBA=\dfrac{x+y}2$ である。
(3) $MA=MB$ である。

円周角を数える

方針:辺と角の大小の関係で $x>y$ を出し、弧の中心角を足し引きして $M$ の位置を決める。角はすべて円周角の定理で求める。
段 1($x>y$)。三角形 $ABC$ で、辺 $AC$ の向かいの角は $\angle ABC=x$、辺 $CB$ の向かいの角は $\angle BAC=y$ である。三角形では長い辺の向かいの角の方が大きい(三角形の辺と角の大小)。$AC>CB$ なので $x>y$ である。
段 2($M$ の位置)。$A$ から弧 $ACB$ に沿って進むと、中心角 $2x$ のところに $C$ があり、中心角 $x+y$ のところに $M$ がある。段 1 より $x+y<2x$ なので、$M$ は $A$ と $C$ の間にある。弧 $MC$ の中心角は $2x-(x+y)=x-y$ である。
段 3(角)。円周上の 4 点は $A$、$M$、$C$、$B$ の順に並ぶ。$\angle MAC$ と $\angle MBC$ は、どちらも弧 $MC$($A$、$B$ を含まない方)に対する円周角なので、中心角 $x-y$ の半分 $\dfrac{x-y}2$ である。$\angle MCA$ と $\angle MBA$ は弧 $MA$($C$、$B$ を含まない方、中心角 $x+y$)に対する円周角、$\angle MAB$ は弧 $MB$($A$ を含まない方、中心角 $x+y$)に対する円周角なので、どれも $\dfrac{x+y}2$ である。
段 4($MA=MB$)。段 3 より三角形 $MAB$ の 2 つの角 $\angle MAB$ と $\angle MBA$ が等しいので、三角形 $MAB$ は $MA=MB$ の二等辺三角形である。$\square$

角を数値で確かめる

ex-bct-second の $A(-4,3)$、$B(4,3)$、$C(3,4)$、$M(0,5)$ で、余弦から角を求めると $x=\angle ABC=45^\circ$、$y=\angle BAC\fallingdotseq8.13^\circ$ である。lem-bct-position の (2) によれば
$$ \angle MAC=\frac{x-y}2\fallingdotseq18.43^\circ,\qquad \angle MCA=\frac{x+y}2\fallingdotseq26.57^\circ $$
で、座標から直接求めた値 $\angle MAC\fallingdotseq18.43^\circ$、$\angle MCA\fallingdotseq26.57^\circ$ と合う。$MA=\sqrt{4^2+2^2}=2\sqrt5$、$MB=\sqrt{4^2+2^2}=2\sqrt5$ で、(3) も成り立っている。

主定理:弧の中点からの垂線の足は折れ弦の中点

Archimedes の折れ弦の定理

円周上の 2 点 $A$、$B$ と、$A$、$B$ を端とする一方の弧の上の点 $C$ を、$AC>CB$ となるようにとる。弧 $ACB$ の中点を $M$、$M$ から弦 $AC$ に下ろした垂線の足を $F$ とすると
$$ AF=FC+CB $$
である。つまり $F$ は折れ弦 $ACB$ の中点である。

証明は、長い方の弦 $AC$ の上に短い方の弦 $CB$ と同じ長さを写しとり、合同な三角形を作る。

長さを写して合同な三角形を作る

方針:$AC$ の上に $AG=CB$ となる点 $G$ をとり、三角形 $MAG$ と $MBC$ が合同であることを示す。すると $MG=MC$ となり、二等辺三角形 $MGC$ の頂点 $M$ からの垂線の足 $F$ が底辺 $GC$ の中点になる。
段 1(点 $G$)。$CB< AC$ なので、線分 $AC$ の上に $AG=CB$ となる点 $G$ がとれる。$G$ は $C$ と異なり、$A$、$G$、$C$ はこの順に並ぶ。
段 2(合同)。三角形 $MAG$ と三角形 $MBC$ で、lem-bct-position の (3) より $MA=MB$、段 1 より $AG=BC$ である。$G$ は線分 $AC$ の上にあるので $\angle MAG=\angle MAC$ で、lem-bct-position の (2) より $\angle MAC=\angle MBC$ である。よって 2 辺とその間の角がそれぞれ等しいので、三角形 $MAG$ と三角形 $MBC$ は合同である(三角形の合同条件)。対応する辺として
$$ MG=MC $$
である。
段 3(二等辺三角形の足)。段 2 より三角形 $MGC$ は $MG=MC$ の二等辺三角形である。$F$ は $M$ から直線 $GC$(直線 $AC$ と同じ直線)に下ろした垂線の足である。直角三角形 $MFG$ と $MFC$ は、斜辺 $MG=MC$ と共通の辺 $MF$ が等しいので合同で(直角三角形の斜辺と他の 1 辺)、$GF=FC$ である。つまり $F$ は線分 $GC$ の中点である。
段 4(足し合わせる)。$A$、$G$、$F$、$C$ はこの順に直線 $AC$ の上に並ぶ($F$ は線分 $GC$ の中点)。よって
$$ AF=AG+GF=CB+FC $$
である。1 つ目の等号は $G$ が線分 $AF$ の上にあること、2 つ目は段 1 の $AG=CB$ と段 3 の $GF=FC$ による。$\square$

長い方の弦 AC の上に AG=CB をとると、三角形 MAG と MBC が合同になり、MG=MC から F が GC の中点になる 長い方の弦 AC の上に AG=CB をとると、三角形 MAG と MBC が合同になり、MG=MC から F が GC の中点になる

証明の点 $G$ を座標で追う

ex-bct-start の $A(-5,0)$、$B(5,0)$、$C(4,3)$、$M(0,5)$ で、証明の各段を数値で追う(図 2)。
(1) 点 $G$。$AG=CB=\sqrt{10}$ は $AC=3\sqrt{10}$ の $\dfrac13$ なので、
$$ G=A+\frac13\overrightarrow{AC}=(-5,0)+\frac13(9,3)=(-2,1) $$
である。
(2) $MG=MC$。$MG=\sqrt{(-2)^2+(1-5)^2}=\sqrt{20}=2\sqrt5$、$MC=\sqrt{4^2+(3-5)^2}=\sqrt{20}=2\sqrt5$ で、等しい。
(3) 中点。線分 $GC$ の中点は $\left(\dfrac{-2+4}2,\dfrac{1+3}2\right)=(1,2)$ で、ex-bct-start で求めた足 $F(1,2)$ と一致する。
(4) $AG=\sqrt{10}$、$GF=\sqrt{3^2+1^2}=\sqrt{10}$ で、$AF=AG+GF=2\sqrt{10}$ である。

同じ追跡を ex-bct-second の鈍角の場合で開く

$A(-4,3)$、$B(4,3)$、$C(3,4)$、$M(0,5)$ では $AG=CB=\sqrt2$ は $AC=5\sqrt2$ の $\dfrac15$ なので、$G=(-4,3)+\dfrac15(7,1)=\left(-\dfrac{13}5,\dfrac{16}5\right)$ である。$MG^2=\left(\dfrac{13}5\right)^2+\left(\dfrac95\right)^2=\dfrac{169+81}{25}=10$、$MC^2=3^2+1^2=10$ で等しい。$GC$ の中点は $\left(\dfrac15,\dfrac{18}5\right)$ で、$M$ から直線 $AC$ に下ろした垂線の足と一致する。

証明で使ったのは、円周角の定理、二等辺三角形、合同条件だけである。三角関数も座標も使っていない。
4 点 $A$、$M$、$C$、$B$ は円周上にこの順に並ぶので、Ptolemyの定理 を使っても証明できる。

Ptolemy の定理による別の証明を開く

$MA=MB=m$ とおく。四角形 $AMCB$ は円に内接し、対角線は $AC$ と $MB$、向かい合う辺の組は $AM$ と $CB$、$MC$ と $BA$ である。Ptolemy の定理により $AC\cdot MB=AM\cdot CB+MC\cdot BA$、つまり $m\,AC=m\,CB+MC\cdot AB$ で、

$$AC-CB=\frac{MC\cdot AB}m$$

である。一方、lem-bct-position の (2) より $\angle MCA=\angle MAB=\dfrac{x+y}2$ で、これは $90^\circ$ より小さい。$M$ から $AB$ に下ろした垂線の足は、二等辺三角形 $MAB$ の底辺 $AB$ の中点なので、$\cos\angle MAB=\dfrac{AB/2}m$ である。直角三角形 $MFC$ で $FC=MC\cos\angle MCA=MC\cos\angle MAB=\dfrac{MC\cdot AB}{2m}$ となり、上の式と合わせて $FC=\dfrac{AC-CB}2$ である。よって $AF=AC-FC=\dfrac{AC+CB}2$ で、$AF=FC+CB$ が成り立つ。$\square$

ex-bct-start の数値では $AC\cdot MB=3\sqrt{10}\cdot5\sqrt2=30\sqrt5$、$AM\cdot CB+MC\cdot AB=5\sqrt2\cdot\sqrt{10}+2\sqrt5\cdot10=10\sqrt5+20\sqrt5=30\sqrt5$ で、$AC-CB=2\sqrt{10}=\dfrac{2\sqrt5\cdot10}{5\sqrt2}$ である。

折れ弦の定理と正弦の加法定理

弦の長さは、円周角の正弦で書ける。半径 $R$ の円で、弦 $PQ$ に対する円周角が $\theta$ なら、正弦定理(高校数学) により $PQ=2R\sin\theta$ である。この書き方で折れ弦の定理を読み直すと、三角関数の公式が出てくる。

直径 $1$ の円で弦を正弦に読む

直径 $1$($2R=1$)の円では、円周角 $\theta$ の弦の長さは $\sin\theta$ である。
(1) 円周角 $30^\circ$ の弦は $\sin30^\circ=\dfrac12$、円周角 $90^\circ$ の弦(直径)は $\sin90^\circ=1$ である。
(2) ex-bct-start の円は半径 $5$ で、$\angle ABC=x$ に対して $AC=10\sin x$ である。$AC=3\sqrt{10}$ なので $\sin x=\dfrac{3\sqrt{10}}{10}=\dfrac3{\sqrt{10}}$ で、$x\fallingdotseq71.57^\circ$ である。

折れ弦の定理と加法定理

$0^\circ< q< p<90^\circ$ とする。
(1) 折れ弦の定理(thm-bct-main)から、正弦の差の公式
$$ \sin(p-q)=\sin p\cos q-\cos p\sin q $$
が導かれる。同じ図から、正弦の和の公式 $\sin(p+q)=\sin p\cos q+\cos p\sin q$ も導かれる。
(2) 逆に、正弦の差の公式を認めると、折れ弦の定理が導かれる。
つまり、弦を $2R\sin$ で書くとき、折れ弦の定理は $0^\circ< q< p<90^\circ$ の範囲の正弦の差の公式と同じ内容である。

弧を角で決めて図を作る

方針:(1) では、与えられた $p$、$q$ から、弦の長さが $\sin p$、$\sin q$、$\sin(p\pm q)$ になる折れ弦の図を作り、thm-bct-main の $AF$、$FC$、$CB$ を正弦と余弦で書く。(2) では、lem-bct-position の角を $p$、$q$ と名づけて同じ書き方をする。
段 1(図を作る)。直径 $1$ の円の上に点 $M$ をとる。$M$ から一方の向きに中心角 $2p$ だけ進んだ点を $A$ とし、反対の向きに中心角 $2q$ 進んだ点を $C$、中心角 $2p$ 進んだ点を $B$ とする。$4p<360^\circ$ なので、円周上には $A$、$M$、$C$、$B$ がこの順に並び、弧 $AM$ と弧 $MB$ の中心角はどちらも $2p$ なので、$M$ は弧 $ACB$ の中点である。
段 2(角と弦)。円周角は中心角の半分なので、$\angle ABC$ は弧 $AC$(中心角 $2p+2q$)に対して $p+q$、$\angle BAC$ は弧 $CB$(中心角 $2p-2q$)に対して $p-q$、$\angle MAC$ は弧 $MC$ に対して $q$、$\angle MCA$ は弧 $MA$ に対して $p$ である。$p+q>p-q$ なので、三角形 $ABC$ で長い辺の向かいの角が大きいことの逆(大きい角の向かいの辺が長い、三角形の辺と角の大小)から $AC>CB$ である。直径 $1$ の円なので、弦の長さは
$$ MA=\sin p,\qquad MC=\sin q,\qquad CB=\sin(p-q),\qquad AC=\sin(p+q) $$
である。
段 3(足までの長さ)。$\angle MAC=q$ と $\angle MCA=p$ はどちらも $90^\circ$ より小さいので、$M$ から直線 $AC$ に下ろした垂線の足 $F$ は線分 $AC$ の上にある。直角三角形 $MAF$ と $MCF$ で
$$ AF=MA\cos q=\sin p\cos q,\qquad FC=MC\cos p=\cos p\sin q $$
である。
段 4((1) の差の公式)。thm-bct-main により $AF=FC+CB$ なので、$\sin p\cos q=\cos p\sin q+\sin(p-q)$ で、移項すると差の公式になる。
段 5((1) の和の公式)。$F$ は線分 $AC$ の上にあるので $AF+FC=AC$ で、段 2・段 3 から $\sin p\cos q+\cos p\sin q=\sin(p+q)$ である。これは折れ弦の定理を使わず、三角形 $MAC$ を足 $F$ で 2 つの直角三角形に分けただけで出る(三角形の射影定理 と同じ考え方)。
段 6((2))。半径 $R$ の円の一般の折れ弦で、lem-bct-position の角を $p=\dfrac{x+y}2$、$q=\dfrac{x-y}2$ とおくと、$0^\circ< q< p<90^\circ$、$p-q=y$ である。正弦定理により、$MA=2R\sin\angle MCA=2R\sin p$、$MC=2R\sin\angle MAC=2R\sin q$、$CB=2R\sin\angle CAB=2R\sin(p-q)$ である。段 3 と同じく $AF=MA\cos q$、$FC=MC\cos p$ なので、差の公式を使うと
$$ FC+CB=2R\bigl(\cos p\sin q+\sin p\cos q-\cos p\sin q\bigr)=2R\sin p\cos q=AF $$
である。$\square$

  1. は折れ弦の定理の、三角関数を使う 2 つ目の証明にもなっている。
差の公式で $\sin15^\circ$ を求める

$p=45^\circ$、$q=30^\circ$ とする。cor-bct-addition の図は、直径 $1$ の円で $MA=\sin45^\circ=\dfrac{\sqrt2}2$、$MC=\sin30^\circ=\dfrac12$、$CB=\sin15^\circ$ の折れ弦である。
$$ AF=\sin45^\circ\cos30^\circ=\frac{\sqrt2}2\cdot\frac{\sqrt3}2=\frac{\sqrt6}4,\qquad FC=\cos45^\circ\sin30^\circ=\frac{\sqrt2}2\cdot\frac12=\frac{\sqrt2}4 $$
で、折れ弦の定理 $CB=AF-FC$ から
$$ \sin15^\circ=\frac{\sqrt6-\sqrt2}4\fallingdotseq0.2588 $$
である。

差の公式で $\sin30^\circ$ を確かめる

$p=60^\circ$、$q=30^\circ$ とすると、$AF=\sin60^\circ\cos30^\circ=\dfrac34$、$FC=\cos60^\circ\sin30^\circ=\dfrac14$ で、$CB=AF-FC=\dfrac12=\sin30^\circ$ である。このとき $AC=AF+FC=1=\sin90^\circ$ で、$AC$ は直径になっている。

加法定理の導き方はほかにもある。Ptolemyの定理 の例では、直径を 1 辺とする円に内接する四角形から正弦の和の公式を導いている。回転と複素数で三角関数の公式を導く では、回転を 2 回続けることから和の公式を導く。3 つを比べる。

折れ弦(この記事)Ptolemy の定理回転(複素数)
使う図形弧の中点と折れ弦直径を 1 辺とする内接四角形単位円の上の点の回転
使う道具合同と二等辺三角形Ptolemy の定理(相似な三角形)回転の合成
直接出る公式差の公式(同じ図で和も)和の公式和の公式($\cos$ と $\sin$ を同時に)
角の範囲$0^\circ< q< p<90^\circ$2 つの角が鋭角一般の角

加法定理から 2 倍角・半角などの公式を導く流れは 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く で扱う。

例と反例

thm-bct-main の条件は「$M$ は $C$ を含む方の弧の中点」「垂線は長い方の弦に下ろす」の 2 つである。$AC< CB$ のときは、$A$ と $B$ の名前を入れかえれば定理がそのまま使える。

$AC< CB$ のときは $CB$ に下ろす

円 $x^2+y^2=25$ の上に $A(-4,3)$、$B(4,3)$、$C(-3,4)$ をとる。$AC=\sqrt2$、$CB=\sqrt{7^2+1^2}=5\sqrt2$ で、今度は $CB$ の方が長い。弧 $ACB$ の中点はやはり $M(0,5)$ で、$M$ は弧 $CB$ の上にある。
$A$ と $B$ の名前を入れかえて thm-bct-main を使うと、$M$ から長い方の弦 $CB$ に下ろした垂線の足 $F'$ について $BF'=F'C+CA$ である。実際、$\overrightarrow{BC}=(-7,1)$、$\overrightarrow{BM}=(-4,2)$ から
$$ BF'=\frac{(-4,2)\cdot(-7,1)}{\sqrt{50}}=\frac{30}{5\sqrt2}=3\sqrt2 $$
で、$F'C=5\sqrt2-3\sqrt2=2\sqrt2$、$F'C+CA=2\sqrt2+\sqrt2=3\sqrt2$ である。$F'=\left(-\dfrac15,\dfrac{18}5\right)$ である。

AC が長いとき、M から AC に下ろした足 F が折れ弦の中点になる AC が長いとき、M から AC に下ろした足 F が折れ弦の中点になる
CB が長いとき、M から CB に下ろした足 F' が折れ弦の中点になる CB が長いとき、M から CB に下ろした足 F' が折れ弦の中点になる

図 3 は ex-bct-second、図 4 は ex-bct-swap である。$C$ が弧の中点 $M$ のどちら側にあるかで、垂線を下ろす弦が変わる。どちらの場合も、足は長い方の弦の上にくる。
条件を外した反例を表にする。

外す条件反例成り立たなくなること
$M$ は $C$ を含む方の弧の中点$C$ を含まない弧の中点 $M'(0,-5)$$AF=FC+CB$($AF=2\sqrt2$、$FC+CB=4\sqrt2$)
垂線は長い方の弦に下ろす$AC< CB$ のときに $AC$ へ下ろす足が線分 $AC$ の外にきて、$AF=FC+CB$ も崩れる
$M$ は弧の中点弧の上の別の点 $N(-3,4)$$AF=FC+CB$($AF=\sqrt{10}$、$FC+CB=3\sqrt{10}$)
反例:$C$ を含まない方の弧の中点

ex-bct-second の $A(-4,3)$、$B(4,3)$、$C(3,4)$ で、$C$ を含まない方の弧(下側の長い弧)の中点は $M'(0,-5)$ である。$M'$ から直線 $AC$ に下ろした垂線の足 $F$ は、$\overrightarrow{AM'}=(4,-8)$ を $\overrightarrow{AC}=(7,1)$ の向きに正射影して
$$ AF=\frac{(4,-8)\cdot(7,1)}{\sqrt{50}}=\frac{28-8}{5\sqrt2}=2\sqrt2 $$
である。$FC=5\sqrt2-2\sqrt2=3\sqrt2$ なので $FC+CB=4\sqrt2\ne2\sqrt2=AF$ で、$F$ は折れ弦の中点ではない(図 5)。この例では $FC=AF+CB$ になっているが、この記事ではこの形の一般の主張は証明しない。

C を含まない弧の中点 M' から下ろした足 F では、AF と FC+CB が等しくならない C を含まない弧の中点 M' から下ろした足 F では、AF と FC+CB が等しくならない

反例:短い方の弦に下ろす

ex-bct-swap の $A(-4,3)$、$B(4,3)$、$C(-3,4)$、$M(0,5)$ で、$M$ から短い方の弦 $AC$ を延ばした直線 $y=x+7$ に下ろした垂線の足は $F(-1,6)$ である。$\overrightarrow{AF}=(3,3)$ は $\overrightarrow{AC}=(1,1)$ の $3$ 倍なので、$F$ は線分 $AC$ の外($C$ の先)にある。$AF=3\sqrt2$、$FC=2\sqrt2$、$CB=5\sqrt2$ で、$FC+CB=7\sqrt2\ne3\sqrt2=AF$ である。

反例:弧の中点でない点から下ろす

ex-bct-start の $A(-5,0)$、$B(5,0)$、$C(4,3)$ で、$M(0,5)$ の代わりに弧の上の点 $N(-3,4)$ から直線 $AC$ に下ろした垂線の足は $F(-2,1)$ である($\overrightarrow{AN}=(2,4)$ を $(3,1)$ の向きに正射影した長さは $\dfrac{6+4}{\sqrt{10}}=\sqrt{10}$)。$AF=\sqrt{10}$、$FC=2\sqrt{10}$ で、$FC+CB=3\sqrt{10}\ne\sqrt{10}=AF$ である。$NA=\sqrt{2^2+4^2}=2\sqrt5$、$NB=\sqrt{8^2+4^2}=4\sqrt5$ で $NA\ne NB$ となり、証明の段 2 の合同が使えない。

大学数学で見る:弦の関数と和積の公式

正弦の代わりに、弦の長さを角の関数として扱う書き方がある(Ptolemaios が Ptolemy の定理から弦の長さの加法公式を導いたことは Ptolemyの定理 で紹介している)。半径 $R$ の円で、中心角 $\theta$ の弧に対する弦の長さを
$$ \mathrm{crd}\,\theta=2R\sin\frac\theta2 $$
と書く(円周角は $\dfrac\theta2$ なので、正弦定理の $2R\sin$ と同じ式である)。弦の関数で書くと、折れ弦の定理は和積の公式になる。

弦の関数での言い直しを開く

弧 $AC$ の中心角を $a$、弧 $CB$ の中心角を $b$ とする($a>b$、$a+b<360^\circ$)。thm-bct-main は $AF=\dfrac{AC+CB}2=\dfrac{\mathrm{crd}\,a+\mathrm{crd}\,b}2$ と言っている。一方、弧 $MA$ の中心角は $\dfrac{a+b}2$、弧 $MC$ の中心角は $\dfrac{a-b}2$ なので、$MA=\mathrm{crd}\dfrac{a+b}2$、$\angle MAC=\dfrac{a-b}4$ で、$AF=MA\cos\angle MAC$ である。2 つを等しいとおいて $2R\sin$ で書き、$P=\dfrac a2$、$Q=\dfrac b2$ とおくと

$$\sin P+\sin Q=2\sin\frac{P+Q}2\cos\frac{P-Q}2$$

となる。これは和積の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)である。この恒等式で $P=p+q$、$Q=p-q$ とおけば $\sin(p+q)+\sin(p-q)=2\sin p\cos q$ で、cor-bct-addition の和の公式と差の公式を足した式になる。


加法定理を「計算の規則」ではなく「円の図形の定理」として持っておくと、公式の成り立つ理由が図で見える。一方で、図形から出る公式には角の範囲の制限(cor-bct-addition では $0^\circ< q< p<90^\circ$)がつく。一般の角への拡張は、一般角の三角関数の定義と回転の合成で行う(回転と複素数で三角関数の公式を導く)。

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関連項目

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