最小公倍数(least common multiple)とは、0 でない整数 $a,b$ の正の公倍数のうち最小のものであり、$\operatorname{lcm}(a,b)$ と書く($a$ か $b$ が $0$ なら $0$ とする)。たとえば $\operatorname{lcm}(12,18)=36$ である。公倍数はちょうど最小公倍数の倍数であり、最大公約数と $\gcd(a,b)\operatorname{lcm}(a,b)=|ab|$ が成り立つので Euclid の互除法で計算できる。積 $|ab|$ が最小公倍数になるのは $a,b$ が互いに素なときに限る。置換の位数は巡回の長さの最小公倍数であり、$1$ から $n$ までの最小公倍数は $n\ge7$ で $2^n$ 以上で素数の個数の下からの評価を与え、その対数が $n$ に漸近することは素数定理と同値である。
前提知識: 整数, 約数, 最大公約数, 除法の原理
12 分おきに出るバスと 18 分おきに出るバスが、朝 7 時ちょうどに同時に出発した。次に 2 本が同時に出るのは何分後か。1 本目が出るのは $12,24,36,48,60,72,\dots$ 分後、2 本目は $18,36,54,72,\dots$ 分後なので、初めてそろうのは $36$ 分後であり、その後は $72,108,\dots$ 分後と、ちょうど $36$ 分ごとにそろう。この $36$ が $12$ と $18$ の 最小公倍数 であり、$\operatorname{lcm}(12,18)=36$ と書く。分数の足し算 $\frac1{12}+\frac1{18}$ で分母をそろえるときにも、$12\cdot18=216$ ではなく $36$ を使えば $\frac3{36}+\frac2{36}=\frac5{36}$ と最小の手間で済む。$12$ と $18$ の最大公約数は $6$ であり、$6\cdot36=216=12\cdot18$ が成り立つ。
最小公倍数は「共通の倍数のうち最小のもの」として定義されるが、実はそれ以上の性質をもつ。上のバスの例のように、共通の倍数はすべて最小公倍数の倍数になっている。この性質によって、最小公倍数は周期の同期、分数の通分、置換の位数、連立合同式の周期などを一つの数にまとめる。また $1$ から $n$ までのすべての整数の最小公倍数は、$n$ 以下の素数の分布と直接に結びついており、その大きさの評価から素数の個数の下からの評価が得られる。
整数 $d,a$ について、$a=dk$ となる整数 $k$ があるとき $d\mid a$ と書き、$a$ は $d$ の 倍数 であるという。$a$ と $b$ がともに割り切る整数、すなわち $a$ の倍数でも $b$ の倍数でもある整数を $a,b$ の 公倍数(common multiple)という。$0$ はすべての整数の公倍数であり、$ab$ も $a,b$ の公倍数である。
$a,b$ を $0$ でない整数とする。$a,b$ の正の公倍数のうち最小のものを $a,b$ の 最小公倍数(least common multiple)といい、$\operatorname{lcm}(a,b)$ と書く。$a$ か $b$ が $0$ のときは $\operatorname{lcm}(a,b):=0$ と約束する。3 個以上の整数 $a_1,\dots,a_k$ についても、すべての $a_i$ が割り切る整数を公倍数と呼び、すべてが $0$ でなければ正の公倍数の最小のものを $\operatorname{lcm}(a_1,\dots,a_k)$、どれかが $0$ なら $\operatorname{lcm}(a_1,\dots,a_k):=0$ とする。
$a,b\neq0$ なら $|ab|$ は正の公倍数なので、正の公倍数全体は空でない自然数の集合であり、最小元がただ 1 つある。したがって最小公倍数はつねに存在して $|ab|$ 以下である。$a$ の倍数と $-a$ の倍数は同じなので、$\operatorname{lcm}(a,b)=\operatorname{lcm}(|a|,|b|)$ である。$0$ を割り切る整数は任意であるが、$0$ が割り切る整数は $0$ だけなので、$a$ と $0$ の公倍数は $0$ だけであり、$\operatorname{lcm}(a,0)=0$ の約束はこれと整合する(thm-lcm-common-multiples)。古い文献(たとえば Mos11)では $\operatorname{lcm}(a,b)$ を $[a,b]$ と書く。
$a$ の倍数全体 $a\mathbb{Z}=\{\dots,-2a,-a,0,a,2a,\dots\}$ は数直線上に間隔 $|a|$ で並ぶ目盛りである。$a$ の目盛りと $b$ の目盛りが重なる点が公倍数であり、重なる点もまた等間隔に並ぶ。その間隔が最小公倍数である。式で書けば $a\mathbb{Z}\cap b\mathbb{Z}=\operatorname{lcm}(a,b)\mathbb{Z}$ である(thm-lcm-common-multiples)。
最大公約数が「$a$ と $b$ を共通に測れる最大の単位」であるのに対し、最小公倍数は「$a$ でも $b$ でも測りきれる最小の長さ」である。素因数分解で言えば、最大公約数は $a,b$ に共通に含まれる素因数を少ないほうの個数だけ集めたもの、最小公倍数は多いほうの個数だけ集めたものである。$12=2^2\cdot3$、$18=2\cdot3^2$ なら、$\operatorname{lcm}(12,18)=2^2\cdot3^2=36$ である。
割り切る関係 $\mid$ で正の整数を並べると、$\operatorname{lcm}(a,b)$ は「$a$ と $b$ の両方で割り切れるもののうち、割り切る関係で一番下にあるもの」、つまり半順序集合としての最小上界になる。最大公約数は最大下界であり、正の整数はこの 2 つの演算で束をなす。
$4$ の正の倍数は $4,8,12,16,\dots$、$6$ の正の倍数は $6,12,18,\dots$ なので $\operatorname{lcm}(4,6)=12$ である。$12$ の倍数と $10$ の倍数が初めて重なるのは $60$ なので $\operatorname{lcm}(12,10)=60$ であり、prop-lcm-rules の 3 により $\operatorname{lcm}(4,6,10)=60$ である。素因数分解 $4=2^2$、$6=2\cdot3$、$10=2\cdot5$ の各素数の指数の最大値をとっても $2^2\cdot3\cdot5=60$ となる。$4\cdot6\cdot10=240$ は公倍数だが最小ではない。
$4\cdot6=24$ は $4,6$ の公倍数だが、$\operatorname{lcm}(4,6)=12<24$ である。一般に $0$ でない $a,b$ について $\operatorname{lcm}(a,b)=|ab|$ となるのは、$a,b$ が互いに素であるとき、かつそのときに限る。実際 最大公約数 の記事の系「最大公約数と最小公倍数の積」により $\gcd(a,b)\operatorname{lcm}(a,b)=|ab|$ なので、$\operatorname{lcm}(a,b)=|ab|$ は $\gcd(a,b)=1$ と同値である。$4$ と $6$ は公約数 $2$ をもち、仮定「互いに素」を破っている。この例は、含意「積 $ab$ はいつも最小の公倍数である」を破る。3 個以上の数については、$\gcd\cdot\operatorname{lcm}$ と積の関係そのものが崩れる(最大公約数 の記事の例「反例:3 個の数では積の公式が成り立たない」)。
$\operatorname{lcm}(4,2)=4=\operatorname{lcm}(4,1)$ であるが $2\neq1$ である。同様に $\operatorname{lcm}(6,4)=12=\operatorname{lcm}(6,12)$ であるが $4\neq12$ である。したがって「$\operatorname{lcm}(a,b)=\operatorname{lcm}(a,c)$ ならば $b=c$」という含意は成り立たない。$b$ と $c$ のうち $a$ と共通する素因数の部分は、最小公倍数をとると $a$ の側に吸収されて見えなくなるからである。一方、$b$ と $c$ がどちらも $a$ と互いに素なら、$\operatorname{lcm}(a,b)=|ab|$、$\operatorname{lcm}(a,c)=|ac|$ なので、$a\neq0$ のもとで $|b|=|c|$ が従う。上の例はこの「$a$ と互いに素」という仮定を破っている。
次の定理は、最小公倍数が大きさだけでなく割り切る関係についても最小であることを述べる。最大公約数 の記事の定理「素因数分解による最大公約数と最小公倍数」の 3 は同じことを素因数分解から示しているが、ここでは割り算だけを使う。
$a,b$ を整数とし、$L:=\operatorname{lcm}(a,b)$ とする。
1 の証明は Euclid『原論』第 VII 巻の命題 35 の証明と同じ筋である(rem-lcm-history)。1 から、連立した周期の条件はひとつの周期にまとめられる。たとえば「$4$ でも $6$ でも割り切れる」は「$12$ で割り切れる」と同値である。中国剰余定理 の記事の命題「2 つの合同式の可解条件」で、解が $\operatorname{lcm}(m_1,m_2)$ を法としてただ 1 つに定まるのはこのためである。
$a,b,c,m$ を整数とする。
thm-lcm-common-multiples の 2 により、公倍数全体がちょうど $M$ の倍数全体となる $0$ 以上の整数 $M$ は最小公倍数に等しい。これを使って各項を示す。
3 により、多くの数の最小公倍数は 2 個ずつ順に求めればよい。2 個の最小公倍数は、最大公約数 の記事の系「最大公約数と最小公倍数の積」から
$$
\operatorname{lcm}(a,b)=\frac{|ab|}{\gcd(a,b)}\qquad(a,b\neq0)
$$
であり、$\gcd(a,b)$ はEuclidの互除法で素因数分解なしに計算できる。たとえば $252=2\cdot105+42$、$105=2\cdot42+21$、$42=2\cdot21$ から $\gcd(252,105)=21$ なので、$\operatorname{lcm}(252,105)=252\cdot105/21=1260$ である。素因数分解 $252=2^2\cdot3^2\cdot7$、$105=3\cdot5\cdot7$ から指数の最大値をとっても $2^2\cdot3^2\cdot5\cdot7=1260$ となる。
正の整数 $a,b,c$ について
$$
\gcd\bigl(a,\operatorname{lcm}(b,c)\bigr)=\operatorname{lcm}\bigl(\gcd(a,b),\gcd(a,c)\bigr),\qquad
\operatorname{lcm}\bigl(a,\gcd(b,c)\bigr)=\gcd\bigl(\operatorname{lcm}(a,b),\operatorname{lcm}(a,c)\bigr)
$$
が成り立つ。
最大公約数 の記事の定理「素因数分解による最大公約数と最小公倍数」により、両辺の各素数 $p$ の指数は、$a,b,c$ の $p$ の指数を $x,y,z$ として、1 つ目の等式では $\min(x,\max(y,z))$ と $\max(\min(x,y),\min(x,z))$、2 つ目では $\max(x,\min(y,z))$ と $\min(\max(x,y),\max(x,z))$ である。両辺は $y,z$ の入れ替えで変わらないので $y\le z$ としてよい。1 つ目の左辺は $\min(x,z)$ であり、右辺は $\min(x,y)\le\min(x,z)$ なので $\min(x,z)$ で、等しい。2 つ目の左辺は $\max(x,y)$ であり、右辺は $\max(x,y)\le\max(x,z)$ なので $\max(x,y)$ で、等しい。すべての素数で指数が一致するので、素因数分解の一意性により両辺は等しい。$\square$
たとえば $a=12$、$b=8$、$c=18$ では $\operatorname{lcm}(8,18)=72$、$\gcd(12,72)=12$ であり、$\gcd(12,8)=4$、$\gcd(12,18)=6$、$\operatorname{lcm}(4,6)=12$ で一致する。この命題は、割り切る関係による正の整数の束が分配束であることを述べている。
$a_1,\dots,a_k$ を $0$ でない整数とする。$\operatorname{lcm}(a_1,\dots,a_k)$ は $|a_1a_2\cdots a_k|$ を割り切り、両者が等しいのは $a_1,\dots,a_k$ が対ごとに互いに素($i\neq j$ ならば $\gcd(a_i,a_j)=1$)であるとき、かつそのときに限る。
$|a_1\cdots a_k|$ は公倍数なので、thm-lcm-common-multiples により $\operatorname{lcm}(a_1,\dots,a_k)$ で割り切れる。符号によらないので $a_i>0$ としてよい。素数 $p$ について $a_i$ の $p$ の指数を $x_i\ge0$ とすると、最小公倍数の $p$ の指数は $\max_ix_i$、積の $p$ の指数は $\sum_ix_i$ である(2 個の場合は 最大公約数 の記事の定理「素因数分解による最大公約数と最小公倍数」、3 個以上は prop-lcm-rules の 3 により 2 個の場合を繰り返す)。$x_i\ge0$ なので $\max_ix_i\le\sum_ix_i$ であり、等号は $x_i$ のうち正のものが高々 1 つのときに限る。したがって最小公倍数と積が等しいことは、どの素数も 2 つ以上の $a_i$ を割り切らないこと、すなわち $a_1,\dots,a_k$ が対ごとに互いに素であることと同値である。$\square$
$6,10,15$ は全体としては互いに素($\gcd(6,10,15)=1$)だが対ごとには互いに素でなく、$\operatorname{lcm}(6,10,15)=30\neq900=6\cdot10\cdot15$ である。「全体として互いに素」では積に等しくならない。
対称群 $S_n$ の元(置換)$\sigma$ について、$\sigma^m$ が恒等置換となる最小の正の整数 $m$ を $\sigma$ の位数という(元の位数)。
置換 $\sigma$ が、互いに共通の文字をもたない長さ $l_1,\dots,l_k$ の巡回の積に分解されるとする(長さ $1$ の巡回も含めてすべての文字を覆う)。このとき $\sigma$ の位数は $\operatorname{lcm}(l_1,\dots,l_k)$ である。
長さ $l$ の巡回 $\gamma=(x_0\ x_1\ \cdots\ x_{l-1})$ は $x_j$ を $x_{j+1}$(添字は $l$ を法として読む)へ移すので、$\gamma^m$ は $x_j$ を $x_{j+m}$ へ移す。よって $\gamma^m$ がこの $l$ 文字を動かさないことは $l\mid m$ と同値である。共通の文字をもたない巡回どうしは可換であり、$\sigma^m$ は各巡回の $m$ 乗の積である。各巡回の $m$ 乗はそれぞれ別々の文字の上でしか動かないので、$\sigma^m$ が恒等置換であることは、すべての $i$ について $l_i\mid m$ であること、すなわち $m$ が $l_1,\dots,l_k$ の公倍数であることと同値である。そのような正の $m$ の最小のものが $\operatorname{lcm}(l_1,\dots,l_k)$ である。$\square$
たとえば $S_9$ の $\sigma=(1\ 2)(3\ 4\ 5)(6\ 7\ 8\ 9)$ の位数は $\operatorname{lcm}(2,3,4)=12$ である。$\sigma^6$ は長さ $2$ と $3$ の巡回をもとに戻すが、長さ $4$ の巡回を 2 つずらした $(6\ 8)(7\ 9)$ が残る。一般に、群の可換な 2 つの元 $x,y$ の位数が $m,n$ なら、$l:=\operatorname{lcm}(m,n)$ について $(xy)^l=x^ly^l$ は単位元になるので、$xy$ の位数は $l$ を割り切る(元の位数を参照)。
正の整数 $n$ について
$$
L_n:=\operatorname{lcm}(1,2,\dots,n)
$$
とおく。$L_1,\dots,L_{12}$ は $1,2,6,12,60,60,420,840,2520,2520,27720,27720$ であり、$L_n$ が増えるのは $n$ が素数の冪 $p^e$($e\ge1$)のときだけで、そのとき $p$ 倍になる。
prop-lcm-rules の 3 を繰り返し使うと、prop-lcm-pairwise-coprime の証明と同じく、$L_n$ の素数 $p$ の指数は $1,\dots,n$ の $p$ の指数の最大値である。$p>n$ ならどの $j\le n$ も $p$ で割り切れないので指数は $0$ である。$p\le n$ とし、$p^e\le n< p^{e+1}$ となる $e\ge1$ をとる。$j=p^e$ の指数は $e$ であり、$p^{e+1}$ で割り切れる正の整数は $p^{e+1}>n$ 以上なので、$n$ 以下のどの $j$ の指数も $e$ 以下である。よって $L_n$ の $p$ の指数は $e$ である。$p^e\le n< p^{e+1}$ は $e\le\log n/\log p< e+1$ と同値なので $e=\lfloor\log n/\log p\rfloor$ であり、1 つ目の式を得る。$e$ は $p^j\le n$ となる $j\ge1$ の個数でもあるので、対数をとると 2 つ目の式になる。$\square$
たとえば $L_{12}=2^3\cdot3^2\cdot5\cdot7\cdot11=27720$ である($8\le12<16$、$9\le12<27$)。右の和 $\psi(n):=\sum_{p^e\le n}\log p$ を Chebyshev の第 2 関数という。
$L_n$ はどのくらいの大きさか。$L_n\le n!$ は明らかだが、実際ははるかに小さい。一方で下からは、二項係数を使った次の評価がある。
$1\le m\le n$ について、$m\binom nm$ は $L_n$ を割り切る。
$I(m,n):=\int_0^1x^{m-1}(1-x)^{n-m}\,dx$ とおく。二項定理で $(1-x)^{n-m}$ を展開して項ごとに積分すると
$$
I(m,n)=\sum_{j=0}^{n-m}(-1)^j\binom{n-m}{j}\int_0^1x^{m+j-1}\,dx=\sum_{j=0}^{n-m}(-1)^j\binom{n-m}{j}\frac1{m+j}
$$
である。分母 $m+j$ は $m$ 以上 $n$ 以下の整数なので $L_n$ を割り切り、$L_n\cdot I(m,n)$ は整数である。
一方、$I(m,n)=\dfrac1{m\binom nm}$ であることを $m$ についての下向きの帰納法で示す。$m=n$ では $I(n,n)=\int_0^1x^{n-1}dx=\frac1n=\frac1{n\binom nn}$ である。$m< n$ のとき部分積分により
$$
I(m,n)=\Bigl[\frac{x^m}m(1-x)^{n-m}\Bigr]_0^1+\frac{n-m}m\int_0^1x^m(1-x)^{n-m-1}\,dx=\frac{n-m}m\,I(m+1,n)
$$
であり(境界項は $x=0,1$ で $0$)、帰納法の仮定と $(m+1)\binom n{m+1}=\frac{n!}{m!\,(n-m-1)!}=(n-m)\binom nm$ から
$$
I(m,n)=\frac{n-m}m\cdot\frac1{(m+1)\binom n{m+1}}=\frac{n-m}m\cdot\frac1{(n-m)\binom nm}=\frac1{m\binom nm}
$$
を得る。以上から $L_n/\bigl(m\binom nm\bigr)=L_n\cdot I(m,n)$ は整数である。$\square$
$n\ge7$ ならば $L_n\ge2^n$ である。
$k\ge1$ とする。lem-lcm-binomial を $(m,n)=(k+1,2k+1)$ と $(k,2k)$ に使う。$(k+1)\binom{2k+1}{k+1}=\frac{(2k+1)!}{k!\,k!}=(2k+1)\binom{2k}k$ なので、$(2k+1)\binom{2k}k$ は $L_{2k+1}$ を割り切り、$k\binom{2k}k$ は $L_{2k}$ を、したがって $L_{2k+1}$ を割り切る。$\gcd(k,2k+1)=\gcd(k,1)=1$ なので $\operatorname{lcm}(k,2k+1)=k(2k+1)$ であり、prop-lcm-rules の 2 から $(2k+1)\binom{2k}k$ と $k\binom{2k}k$ の最小公倍数は $k(2k+1)\binom{2k}k$ である。thm-lcm-common-multiples により、これが $L_{2k+1}$ を割り切る。
次に $\binom{2k}{j}\le\binom{2k}k$($0\le j\le2k$)である。実際 $\binom{2k}{j+1}\big/\binom{2k}{j}=\frac{2k-j}{j+1}$ は $j\le k-1$ で $1$ 以上、$j\ge k$ で $1$ 未満である。$2k+1$ 個の項の和は $\sum_j\binom{2k}j=2^{2k}=4^k$ なので $(2k+1)\binom{2k}k\ge4^k$ であり、
$$
L_{2k+1}\ge k(2k+1)\binom{2k}k\ge k\cdot4^k
$$
となる。$k\ge2$ なら $k\cdot4^k\ge2\cdot4^k=2^{2k+1}$ なので、奇数 $n=2k+1\ge5$ で $L_n\ge2^n$ である。$k\ge4$ なら $L_{2k+2}\ge L_{2k+1}\ge k\cdot4^k\ge4^{k+1}=2^{2k+2}$ なので、偶数 $n\ge10$ で $L_n\ge2^n$ である。残る $n=8$ では $L_8=840\ge256=2^8$ である。$\square$
$n\le6$ では $L_6=60<64=2^6$ のように成り立たないことがあり、仮定 $n\ge7$ は外せない(成り立たないのは $n=1,2,3,4,6$)。
$n\ge7$ ならば、$n$ 以下の素数の個数 $\pi(n)$ は $\pi(n)\ge\dfrac{n\log2}{\log n}$ を満たす。
prop-lcm-first-n により $L_n$ は $\pi(n)$ 個の因子 $p^{\lfloor\log n/\log p\rfloor}$ の積で、各因子は $n$ 以下である。よって $L_n\le n^{\pi(n)}$ であり、thm-lcm-lower-bound と合わせて $2^n\le n^{\pi(n)}$ である。対数をとれば主張を得る。$\square$
$\log2\approx0.693$ なので、これは 素数定理 の記事の定理「Chebyshevの評価」の下からの評価(定数 $\frac{\log2}4$)より強い形である。上からは、Hanson が $L_n<3^n$(すべての $n\ge1$)を示している(Han72)。さらに $\log L_n$ の本当の大きさは素数定理と同値である。
素数定理 $\pi(x)\sim x/\log x$ が成り立つことと、$n\to\infty$ で $\log L_n/n\to1$(すなわち $L_n^{1/n}\to e$)となることは同値である。
$\theta(x):=\sum_{p\le x}\log p$(Chebyshev の(第 1)関数)とおく。prop-lcm-first-n の和を指数 $e$ ごとに分けると、$p^e\le n$ は $p\le n^{1/e}$ と同値なので
$$
\log L_n=\sum_{e\ge1}\theta(n^{1/e})
$$
である。$n^{1/e}<2$ となる $e$ の項は $0$ なので、$e\ge2$ の項は $e\le\log n/\log2$ の範囲の高々 $\log n/\log2$ 個であり、各項は $\theta(n^{1/2})$ 以下である。素数定理 の記事の定理「Chebyshevの評価」の 1 により $\theta(n^{1/2})<(4\log2)\sqrt n$ なので
$$
0\le\log L_n-\theta(n)<\frac{\log n}{\log2}\cdot(4\log2)\sqrt n=4\sqrt n\log n
$$
である。$4\sqrt n\log n/n\to0$ なので、$\log L_n/n\to1$ は $\theta(n)/n\to1$ と同値である。$\theta$ は $[n,n+1)$ で一定で $n/x\to1$ なので、$\theta(n)/n\to1$ は $\theta(x)/x\to1$(実数 $x\to\infty$)と同値であり、素数定理 の記事の命題「素数定理の Chebyshev の関数による言い換え」によりこれは素数定理と同値である。$\square$
実際の値は $L_{10}^{1/10}\approx2.188$、$L_{20}^{1/20}\approx2.620$、$L_{100}^{1/100}\approx2.561$ であり、ゆっくりと $e=2.718\ldots$ に近づく。
可換環 $A$ の元 $a,b$ について、$a,b$ で割り切れ、$a,b$ で割り切れる任意の元を割り切る元を最小公倍元という。thm-lcm-common-multiples の 1 は、$\mathbb{Z}$ のイデアルの言葉で $a\mathbb{Z}\cap b\mathbb{Z}=\operatorname{lcm}(a,b)\mathbb{Z}$ と書ける。同じく単項イデアル整域では、共通部分 $aA\cap bA$ の生成元が最小公倍元である。一意分解整域では素元分解の指数の最大値をとって最小公倍元が作れ、体 $K$ 上の多項式環 $K[x]$ ではモニックな最小公倍元を最小公倍多項式という。最大公約元との関係 $\gcd\cdot\operatorname{lcm}=ab$ は、一意分解整域では単元倍を除いて成り立つ。
Euclid『原論』第 VII 巻の命題 34 は 2 数の最小公倍数を求める方法を、命題 35 は「2 数の公倍数は最小公倍数で割り切れる」ことを、余りが最小公倍数より小さい公倍数になるという thm-lcm-common-multiples と同じ論法で示し、命題 36 は 3 数の場合を扱う(Hea08 第 VII 巻 命題 34–36、Heath 訳 Vol. II pp. 336–341)。素因数の指数の最大値による表示と $\gcd\cdot\operatorname{lcm}=ab$ は Mos11 第 5 章、p. 43 にある。定義と積の公式は Cri24 の Exercise 2.5.9(PDF p. 41)と第 6 章の演習(PDF p. 107)、$\operatorname{lcm}(1,\dots,B)$ の素因数分解による計算は Ste17 の PDF 版 Algorithm 6.3.2(PDF p. 136、Pollard の $p-1$ 法の準備)にある。lem-lcm-binomial の積分による証明と thm-lcm-lower-bound の型の評価は Nair による(Nai82)。
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