逆関数の微分(derivative of an inverse function)とは、開区間で連続かつ増加(または減少)する関数 $f$ が点 $a$ で微分可能で $f'(a)\ne0$ のとき、逆関数 $g$ が $b=f(a)$ で微分可能で $g'(b)=\frac{1}{f'(a)}$ となる、という定理である。$\frac{dx}{dy}=1\big/\frac{dy}{dx}$ と書け、グラフを直線 $y=x$ で折り返すと接線の傾きが逆数になることにあたる。$f'(a)=0$ なら逆関数は $b$ で微分可能でない($x^3$ の逆関数 $\sqrt[3]{x}$ の原点)。$(\log x)'=\frac1x$ や $(\arcsin x)'=\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}$ が得られる。多変数では Jacobi 行列の逆行列を与える逆関数定理になる。
前提知識: 連鎖律(高校数学), 微分係数と導関数の定義(高校数学), 逆関数と合成関数, 中間値の定理
数学 III では、関数 $y=f(x)$ の逆関数 $x=g(y)$ の導関数を
$$
\frac{dx}{dy}=\frac{1}{\dfrac{dy}{dx}}
$$
で求める、と習う。「$x$ と $y$ の役割を入れ替えると、変化率は逆数になる」という公式である。まず、逆関数を式で書ける例で、公式が正しいことを確かめる。
$f(x)=x^2$ を $x>0$ の範囲で考える。$y=x^2$ を $x$ について解くと $x=\sqrt y$ なので、逆関数は $g(y)=\sqrt y$($y>0$)である。
$x=3$、$y=9$ の点で比べる。
$f(x)=e^x$ の逆関数は $g(y)=\log y$($y>0$)である。$\log$ は自然対数である。
$y=e^x$(青)と $y=\log x$(赤)のグラフは直線 $y=x$(破線)について対称で、対応する点 $(1,\,e)$ と $(e,\,1)$ での接線(点線)の傾きが $e$ と $\frac1e$ という逆数になることを見る図。
逆関数のグラフは、もとの関数のグラフを直線 $y=x$ で折り返したものである。折り返すと、直線の傾きは逆数になる。
点 $(p,\,q)$ を通る傾き $m$($m\ne0$)の直線 $y-q=m(x-p)$ を、直線 $y=x$ で折り返す。折り返すと、点 $(x,\,y)$ は点 $(y,\,x)$ に移るので、折り返した直線の式は $x$ と $y$ を入れ替えた
$$
x-q=m(y-p)
$$
である。これを $y$ について解くと $y-p=\dfrac1m(x-q)$ で、点 $(q,\,p)$ を通る傾き $\dfrac1m$ の直線である。
たとえば、傾き $2$ の直線 $y=2x+1$ を折り返すと $x=2y+1$、つまり $y=\dfrac12x-\dfrac12$ で、傾きは $\dfrac12$ になる。
$m=0$(水平な直線 $y=q$)を折り返すと $x=q$ で、垂直な直線になる。垂直な直線には傾きがない。
例 3 から、接線を折り返したものが逆関数のグラフの接線になると考えれば、公式 $\frac{dx}{dy}=1\Big/\frac{dy}{dx}$ が出てくる。ただし、これは図による説明であって証明ではない。ここから、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| $\frac{dx}{dy}=1\Big/\frac{dy}{dx}$ | 逆関数の微分可能性と微分係数 | thm-dinv-derivative |
| グラフを $y=x$ で折り返す | 傾き $m$ が傾き $\frac1m$ に移る | ex-dinv-reflect |
| 分母が $0$ になる点 | 逆関数は微分できない(接線が垂直) | prop-dinv-zero |
| $(\log x)'$、$(\sqrt[n]x)'$、$(\arcsin x)'$ | 定理の使い方の例 | ex-dinv-log、ex-dinv-root、ex-dinv-arcsin |
| 「$f'(a)\ne0$ ならその近くで逆関数がある」 | 1 変数の逆関数定理($f'$ の連続性が要る) | cor-dinv-local、ex-dinv-wiggle |
| 多変数の座標変換 | Jacobi 行列の逆行列 | rem-dinv-multivariable |
$I$ を区間とし、$f$ を $I$ で定義された関数とする。$I$ の異なる 2 点 $x_1\ne x_2$ でいつも $f(x_1)\ne f(x_2)$ となるとき、$f$ は 1 対 1 であるという。
$f$ が 1 対 1 のとき、$f$ の値全体の集合を $J=f(I)$ と書くと、$J$ の各 $y$ に対して $f(x)=y$ となる $x\in I$ がただ 1 つある。$y$ にその $x$ を対応させる関数を $f$ の逆関数といい、$f^{-1}$ と書く。$g=f^{-1}$ とすると
$$
g(f(x))=x\quad(x\in I),\qquad f(g(y))=y\quad(y\in J)
$$
である。$y=f(x)$ のグラフ上の点 $(x,\,y)$ を $(y,\,x)$ に移すと、$y=g(x)$ のグラフ上の点になる。つまり、逆関数のグラフは、もとのグラフを直線 $y=x$ で折り返したものである。
1 対 1 であることを確かめるには、増加・減少を使うのが便利である。関数の増減と極値 と同じく、区間 $I$ のどの 2 点 $x_1< x_2$ でも $f(x_1)< f(x_2)$ となるとき、$f$ は $I$ で増加するといい、どの 2 点 $x_1< x_2$ でも $f(x_1)>f(x_2)$ となるとき、減少するという。増加する関数は、$x_1\ne x_2$ なら(小さいほうを $x_1$ と呼び直せば)$f(x_1)< f(x_2)$ なので、1 対 1 である。減少する関数も同様である。
逆関数の微分可能性を示すには、まず逆関数が連続であることが要る。この記事では次の事実を前提にする。
$I$ を開区間とし、$f$ は $I$ で連続で増加するとする。$J=f(I)$、$g=f^{-1}$ とし、$a\in I$、$b=f(a)$ とする。このとき次が成り立つ。
方針:「$f$ が増加する」を逆向きに読むと 1 が出る。2 は 1 と中間値の定理から出る。3 は 2 を言いかえたものである。
段 1(1 を示す)。$y_1< y_2$ を $J$ の 2 点とし、$x_1=g(y_1)$、$x_2=g(y_2)$ とおく。仮に $x_1\ge x_2$ だとする。$x_1=x_2$ なら $y_1=f(x_1)=f(x_2)=y_2$ となり、$y_1< y_2$ に反する。$x_1>x_2$ なら、$f$ は増加するので $y_1=f(x_1)>f(x_2)=y_2$ となり、これも $y_1< y_2$ に反する。よって $x_1< x_2$、つまり $g(y_1)< g(y_2)$ である。
段 2(2 の前半:$y$ は $J$ に入る)。$f$ は閉区間 $[a-\varepsilon,\,a+\varepsilon]$ で連続である。$f(a-\varepsilon)< y< f(a+\varepsilon)$ なら、中間値の定理(rem-dinv-premises の 1)により $f(x)=y$ となる $x$ がこの閉区間にある。よって $y\in J$ である。
段 3(2 の後半)。$f(a-\varepsilon)< y< f(a+\varepsilon)$ に、段 1 で増加すると分かった $g$ を施すと
$$
g(f(a-\varepsilon))< g(y)< g(f(a+\varepsilon))
$$
で、$g(f(x))=x$ なので $a-\varepsilon< g(y)< a+\varepsilon$ である。
段 4(3 を示す)。正の数 $\varepsilon$ を任意にとる。$\varepsilon$ を小さくとり直しても「$|g(y)-a|<\varepsilon$」という結論は強くなるだけなので、$a\pm\varepsilon$ が $I$ に入るとしてよい($I$ は開区間なので、そのような $\varepsilon$ がある)。$f$ は増加するので $f(a-\varepsilon)< b< f(a+\varepsilon)$ である。そこで
$$
\delta=\min\{\,b-f(a-\varepsilon),\ f(a+\varepsilon)-b\,\}
$$
とおくと $\delta>0$ で、$|y-b|<\delta$ なら $f(a-\varepsilon)< y< f(a+\varepsilon)$ となる。段 3 から $|g(y)-a|<\varepsilon$ である。どの $\varepsilon>0$ にもこのような $\delta>0$ があるので、$y\to b$ のとき $g(y)\to a$ である(極限とε-δ の定義)。
$f$ が減少するときは、$-f$ が増加することを使うか、上の不等式の向きをすべて入れ替えれば、同じように示せる。$\square$
ex-dinv-inverse-examples の 3 の $f(x)=x^3+x$ で、$a=1$、$b=f(1)=2$ とする。
補題の 2 から、$J$ は $b$ のまわりの開区間 $\bigl(f(a-\varepsilon),\,f(a+\varepsilon)\bigr)$ を含む。したがって、$b$ で $g$ の差分商 $\dfrac{g(b+k)-g(b)}{k}$ を考えるとき、$k$ は $0$ の両側の小さい値をとれる。
$I$ を開区間とし、$f$ は $I$ で連続で、増加するか減少するとする。$g=f^{-1}$ とする。$a\in I$ で $f$ が微分可能で、$f'(a)\ne0$ ならば、$g$ は $b=f(a)$ で微分可能で
$$
g'(b)=\frac{1}{f'(a)}=\frac{1}{f'(g(b))}
$$
である。
方針:$g$ の差分商の $y$ の変化 $k$ と、それに対応する $x$ の変化 $h$ を組にする。$g$ の差分商は $f$ の差分商の逆数になるので、$h\to0$ を示せば $f$ の微分係数の定義が使える。$h\to0$ は lem-dinv-continuous の 3($g$ の連続性)から出る。大学の教科書でも同じ方針で証明される(Leb26 Lemma 4.4.1、p. 176)。
段 1($h$ を定める)。lem-dinv-continuous の 2 により、$0$ に十分近い $k$ では $b+k\in J$ である。そのような $k\ne0$ に対して
$$
h=g(b+k)-g(b)=g(b+k)-a
$$
とおく。$g(b+k)=a+h$ なので、両辺に $f$ を施すと $f(a+h)=b+k$、つまり
$$
k=f(a+h)-f(a)
$$
である。
段 2($h\ne0$)。$k\ne0$ なので $b+k\ne b$ である。$g$ は 1 対 1(増加か減少)なので $g(b+k)\ne g(b)$、つまり $h\ne0$ である。
段 3(差分商を書きかえる)。段 1 と段 2 から、$h\ne0$、$k\ne0$ で
$$
\frac{g(b+k)-g(b)}{k}=\frac{h}{f(a+h)-f(a)}=\frac{1}{\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}}
$$
である。最後の変形では、分子と分母を $h\ne0$ で割った。
段 4($k\to0$ のとき $h\to0$)。lem-dinv-continuous の 3 により、$k\to0$ のとき $g(b+k)\to g(b)=a$、つまり $h\to0$ である。しかも段 2 により、$h$ は $0$ にならない。
段 5(分母の極限)。連鎖律(高校数学) の補題「差分商を補った関数」と同じく、
$$
\varphi(h)=\begin{cases}\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}&(h\ne0)\\ f'(a)&(h=0)\end{cases}
$$
とおく。$f$ は $a$ で微分可能なので、$\varphi$ は $h=0$ で連続である。段 3 の分母は $\varphi(h)$ で、段 4 により $k\to0$ のとき $h=g(b+k)-a\to0$ なので、連続関数の合成の性質(Leb26 Proposition 3.2.7、p. 125)により $\varphi(h)\to\varphi(0)=f'(a)$ である。
段 6(逆数の極限)。$f'(a)\ne0$ で、段 3 の分母 $\varphi(h)$ は $0$ でない($h\ne0$ のとき $f(a+h)\ne f(a)$)ので、逆数の極限は極限の逆数になり(Leb26 Corollary 3.1.12、p. 118)、
$$
\frac{g(b+k)-g(b)}{k}=\frac1{\varphi(h)}\to\frac1{f'(a)}
$$
である。よって $g$ は $b$ で微分可能で、$g'(b)=\dfrac1{f'(a)}$ である。$a=g(b)$ なので、これは $\dfrac1{f'(g(b))}$ とも書ける。$\square$
証明の段 3 は、「$\frac{\Delta x}{\Delta y}=1\Big/\frac{\Delta y}{\Delta x}$」という分数の計算そのものである。連鎖律(高校数学) の約分による説明では $\Delta u=0$ となる点が問題になったが、ここでは $g$ が 1 対 1 なので $\Delta x=h$ が $0$ にならず(段 2)、分数の計算がそのまま使える。
$f$ が区間 $I$ のすべての点で微分可能で、$f'(x)\ne0$ のときは、定理をすべての点で使えて、導関数の等式
$$
g'(y)=\frac1{f'(g(y))}\qquad(y\in J)
$$
が得られる。$y=f(x)$、$x=g(y)$ と書けば $\dfrac{dx}{dy}=1\Big/\dfrac{dy}{dx}$ である。
ex-dinv-inverse-examples の 3 の $f(x)=x^3+x$ の逆関数 $g$ を考える。$f$ は実数全体で連続で増加し、$f'(x)=3x^2+1>0$ である。
定理の仮定 $f'(a)\ne0$ は、外すと結論が崩れる。
$I$ を開区間とし、$f$ は $I$ で連続で、増加するか減少するとする。$a\in I$ で $f$ が微分可能で $f'(a)=0$ ならば、逆関数 $g$ は $b=f(a)$ で微分可能でない。
方針:$g$ が $b$ で微分可能だと仮定する。恒等式 $g(f(x))=x$ の両辺を $x=a$ で微分すると、左辺は $0$、右辺は $1$ になって矛盾する。
段 1。$g$ が $b$ で微分可能だと仮定する。
段 2(連鎖律を使う)。$f$ は $a$ で微分可能で、$g$ は $f(a)=b$ で微分可能である。また $I$ のすべての $x$ で $f(x)\in J$ なので、合成 $g(f(x))$ が $I$ で定義される。連鎖律(高校数学) の定理により、$g\circ f$ は $a$ で微分可能で
$$
(g\circ f)'(a)=g'(b)\,f'(a)=g'(b)\cdot0=0
$$
である。
段 3(直接計算する)。$I$ のすべての $x$ で $g(f(x))=x$ なので、$g\circ f$ は関数 $x$ であり、その微分係数は $1$ である。
段 4。段 2 と段 3 から $0=1$ となり、矛盾する。よって $g$ は $b$ で微分可能でない。$\square$
$f(x)=x^3$ は実数全体で増加し($x_1< x_2$ なら $x_2^3-x_1^3=(x_2-x_1)\{(x_2+\frac{x_1}2)^2+\frac34x_1^2\}$ で、$x_1$ と $x_2$ が両方 $0$ になることはないので 2 つ目の因数は正)、逆関数は $g(y)=\sqrt[3]{y}$ である(負の $y$ にも実数の 3 乗根を考える)。
$y=x^3$(青)は原点で水平な接線をもち、それを直線 $y=x$ で折り返した $y=\sqrt[3]{x}$(赤)は原点で垂直な接線をもつことを見る図。点 $(1,1)$ では 2 つの傾きは $3$ と $\frac13$ で、逆数になっている。
prop-dinv-zero と thm-dinv-derivative を合わせると、$f$ が $a$ で微分可能なとき、逆関数が $b=f(a)$ で微分可能であることと、$f'(a)\ne0$ であることは同じである。
逆関数の微分の定理を使うと、もとの関数の導関数から、逆関数の導関数が求まる。定理の仮定(連続で増加・減少、$f'(a)\ne0$)を 1 つずつ確かめてから使う。
$f(x)=e^x$ は実数全体で連続で増加し、$f'(x)=e^x>0$ である($(e^x)'=e^x$ は 指数関数の微分 で示す)。逆関数は $g(y)=\log y$($y>0$)である。
thm-dinv-derivative により、$y>0$ で
$$
(\log y)'=\frac1{f'(g(y))}=\frac1{e^{\log y}}=\frac1y
$$
である。$y=2$ では $\frac12$ で、差分商 $\dfrac{\log2.001-\log2}{0.001}=0.499875\ldots$ と近い。
指数関数の微分 では、$(\log x)'=\frac1x$ を、$u=\log(x+h)-\log x$ とおいて指数関数の極限に帰着させて示している。その $u$ は、thm-dinv-derivative の証明の $h$($x$ の変化)にあたり、2 つの証明は同じ考え方である。
$n$ を 2 以上の整数とする。$f(x)=x^n$ は $x>0$ で連続で増加し(ex-dinv-inverse-examples の 1 と同じく、$x_2^n-x_1^n$ を $x_2-x_1$ でくくると、残りの因数は正の項の和である)、$f'(x)=nx^{n-1}>0$ である。逆関数は $g(y)=\sqrt[n]{y}$($y>0$)である。
thm-dinv-derivative により
$$
(\sqrt[n]{y})'=\frac1{n(\sqrt[n]{y})^{n-1}}=\frac1n\,y^{-\frac{n-1}n}=\frac1n\,y^{\frac1n-1}
$$
である。これは 連鎖律(高校数学) の実数乗の公式 $(x^r)'=rx^{r-1}$ の $r=\frac1n$ の場合と一致する。
ex-dinv-arcsin の 1 で、$y=\pm1$ は除いた。$x=\pm\dfrac\pi2$ では $\cos x=0$ で公式の分母が $0$ になり、$\arcsin$ のグラフは $y=\pm1$ で垂直に立つ。ただし $x=\pm\frac\pi2$ は区間の端なので、prop-dinv-zero(開区間の内部の点についての命題)はそのままは使えない。そこで、片側の差分商を直接調べる。
$y=1$ で、左側の差分商 $\dfrac{\arcsin1-\arcsin(1-k)}{k}$($0< k<1$)を調べる。$\arcsin1=\dfrac\pi2$ である。
段 1(置き換え)。$t=\dfrac\pi2-\arcsin(1-k)$ とおく。$\arcsin(1-k)$ は $0$ と $\frac\pi2$ の間にあるので $0< t<\dfrac\pi2$ で、$1-k=\sin\left(\dfrac\pi2-t\right)=\cos t$、つまり $k=1-\cos t$ である。
段 2($k$ を上から押さえる)。半角の公式から $1-\cos t=2\sin^2\dfrac t2$ である。$0< s<\dfrac\pi2$ で $\sin s< s$ であり(sin x/xの極限)、$s=\dfrac t2$ はこの範囲にあるので、$k=2\sin^2\dfrac t2<2\left(\dfrac t2\right)^2=\dfrac{t^2}2$ である。
段 3($k\to0$ のとき $t\to0$ を示す)。lem-dinv-continuous は区間の内部の点での連続性しか述べていないので、ここでは使わずに直接示す。$k$ を下から押さえる。$0< s<\dfrac\pi2$ で $\tan s>s$ であり(sin x/xの極限)、両辺に $\cos s>0$ を掛けると $\sin s>s\cos s$ である。$0< s<\dfrac\pi4$ では $\cos s>\cos\dfrac\pi4=\dfrac1{\sqrt2}$ なので、$\sin s>\dfrac{s}{\sqrt2}$ である。$0< t<\dfrac\pi2$ から $s=\dfrac t2$ は $0< s<\dfrac\pi4$ にあるので、
$$
k=2\sin^2\frac t2>2\cdot\frac12\left(\frac t2\right)^2=\frac{t^2}4
$$
である。つまり $0< t<2\sqrt k$ で、$k\to0$ のとき $2\sqrt k\to0$ なので、はさみうちで $t\to0$ である。
段 4(差分商を下から押さえる)。差分商は $\dfrac tk$ で、段 2 から $\dfrac tk>\dfrac t{t^2/2}=\dfrac2t$ である。段 3 から $k\to0$ のとき $t\to0$ なので、$\dfrac2t$ は限りなく大きくなり、差分商も限りなく大きくなる。
数値では、$k=0.01$ で差分商は $14.15\ldots$、$k=0.0001$ で $141.42\ldots$ である(どちらも $\sqrt{2/k}$ に近い)。$\arcsin$ は $y=1$ で左側の微分係数をもたない。$y=-1$ でも、$\arcsin(-y)=-\arcsin y$ を使って同様である。
$f$ が区間で 2 回微分可能で $f'(x)\ne0$ のとき、$g'(y)=\dfrac1{f'(g(y))}$ の両辺を $y$ で微分する。右辺は $\dfrac1u$ と $u=f'(g(y))$ の合成なので、連鎖律(高校数学) を 2 回使うと
$$
g''(y)=-\frac{1}{f'(g(y))^2}\cdot f''(g(y))\,g'(y)=-\frac{f''(g(y))}{f'(g(y))^3}
$$
である(最後に $g'(y)=\frac1{f'(g(y))}$ を代入した)。
thm-dinv-derivative の仮定と、その周りの主張について、外すと何が崩れるかをまとめる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $f'(a)\ne0$ | 逆関数が $b=f(a)$ で微分可能 | ex-dinv-cube の 1 |
| 1 対 1(増加か減少) | 逆関数がただ 1 つに決まる | ex-dinv-not-injective |
| $a$ が区間の内部の点 | 公式 $g'(b)=\frac1{f'(a)}$ が使える | ex-dinv-arcsin-end |
| 増加($f'(a)>0$ という 1 点の条件だけでは足りない) | $a$ の近くで 1 対 1 | ex-dinv-wiggle |
$f(x)=x^2$ を実数全体で考えると、$f(2)=f(-2)=4$ で、1 対 1 でない。$y=4$ に対して $f(x)=4$ となる $x$ が $2$ と $-2$ の 2 つあり、逆関数は 1 つに決まらない。
定義域を分けると、それぞれで逆関数が決まる。
次の反例は、「$f'(a)\ne0$ なら、$a$ の近くで $f$ は増加か減少で、逆関数がある」とは限らないことを示す。thm-dinv-derivative が「$f$ は増加するか減少する」を別の仮定として置いているのは、このためである。
$$
f(x)=\begin{cases}x+2x^2\sin\dfrac1x&(x\ne0)\\ 0&(x=0)\end{cases}
$$
とする(Leb26 Exercise 4.4.6、p. 179)。
段 1($f'(0)=1$)。$h\ne0$ で $\dfrac{f(h)-f(0)}h=1+2h\sin\dfrac1h$ であり、$\left|2h\sin\dfrac1h\right|\le2|h|$ なので、はさみうちの原理により $h\to0$ で $1$ に近づく。よって $f'(0)=1>0$ である。
段 2(2 つの点を選ぶ)。正の整数 $n$ について
$$
x_n=\frac1{2n\pi+\frac\pi2},\qquad x_n'=\frac1{2n\pi-\frac\pi2}
$$
とおく。$0< x_n< x_n'$ で、$n$ を大きくすると 2 つとも $0$ に近づく。$\sin\left(2n\pi+\frac\pi2\right)=1$、$\sin\left(2n\pi-\frac\pi2\right)=-1$ なので
$$
f(x_n)=x_n+2x_n^2,\qquad f(x_n')=x_n'-2x_n'^2
$$
である。
段 3($f(x_n)>f(x_n')$)。$u=2n\pi$ とおくと、$x_n'-x_n=\dfrac{\pi}{u^2-\frac{\pi^2}4}$、$x_n^2+x_n'^2=\dfrac{2u^2+\frac{\pi^2}2}{\left(u^2-\frac{\pi^2}4\right)^2}$ である。$f(x_n)-f(x_n')=2(x_n^2+x_n'^2)-(x_n'-x_n)$ に正の数 $\left(u^2-\frac{\pi^2}4\right)^2$ を掛けると
$$
2\left(2u^2+\frac{\pi^2}2\right)-\pi\left(u^2-\frac{\pi^2}4\right)=(4-\pi)u^2+\pi^2+\frac{\pi^3}4>0
$$
となる($4-\pi>0$)。よって $f(x_n)>f(x_n')$ で、$x_n< x_n'$ なのに値は小さくなっている。$n=1$ では $x_1=0.1273\ldots$、$x_1'=0.2122\ldots$、$f(x_1)=0.1597\ldots$、$f(x_1')=0.1221\ldots$ である(図3)。
段 4(1 対 1 でない)。$0< x<\frac12$ では $f(x)\ge x-2x^2=x(1-2x)>0$ なので、$f(x_n')>0=f(0)$ である。$f$ は閉区間 $[0,\,x_n]$ で連続で、$f(0)=0< f(x_n')< f(x_n)$ なので、中間値の定理により $f(c)=f(x_n')$ となる $c$ が $0< c< x_n$ にある。$c< x_n< x_n'$ なので $c\ne x_n'$ で、$f(c)=f(x_n')$ である。
段 5(まとめ)。$0$ を含むどんな開区間も、$n$ を大きくとれば $0,\,c,\,x_n'$ を含むので、その区間で $f$ は 1 対 1 でない。$f'(0)=1\ne0$ なのに、$0$ の近くで逆関数はない。原因は、$f'(x)=1+4x\sin\dfrac1x-2\cos\dfrac1x$($x\ne0$)が $x=0$ で連続でないことにある。実際 $x=\dfrac1{2n\pi}$ では $f'(x)=1+0-2=-1$ で、$0$ のいくらでも近くに $f'<0$ の点がある。
$y=x+2x^2\sin\frac1x$(青)のグラフは原点で直線 $y=x$(破線)に接するが、原点の右側で上り下りをくり返す。赤い点 $x_n$ より右の緑の点 $x_n'$ のほうが値が小さく、原点の近くで 1 対 1 でないことを見る図。グラフは $y=x\pm2x^2$(点線)の間にある。
ex-dinv-wiggle の原因は、導関数が連続でないことだった。導関数が連続なら、$f'(a)\ne0$ という 1 点の条件から、$a$ の近くで逆関数があることまで出る。
$f$ は開区間 $I$ で微分可能で、導関数 $f'$ が $I$ で連続とする。$a\in I$ で $f'(a)\ne0$ ならば、$a$ を含む開区間 $I_0$ があって、$f$ は $I_0$ で増加するか減少し、その逆関数 $g$ は $J_0=f(I_0)$ のすべての点で微分可能で、$g'(y)=\dfrac1{f'(g(y))}$ である。
方針:$f'$ の連続性から、$a$ の近くで $f'$ の符号が変わらないことを示し、rem-dinv-premises の 4 と thm-dinv-derivative に帰着する。$f'(a)>0$ の場合を示す($f'(a)<0$ なら $-f$ を考えればよい)。
段 1(符号が変わらない範囲)。$f'$ は $a$ で連続なので、$\varepsilon=\dfrac{f'(a)}2>0$ に対して、ある $\delta>0$ があり、$|x-a|<\delta$ なら $|f'(x)-f'(a)|<\dfrac{f'(a)}2$ となる。このとき $f'(x)>f'(a)-\dfrac{f'(a)}2=\dfrac{f'(a)}2>0$ である。$\delta$ を小さくとって、$I_0=(a-\delta,\,a+\delta)$ が $I$ に入るようにする。
段 2(増加する)。$I_0$ で $f'>0$ なので、rem-dinv-premises の 4 により $f$ は $I_0$ で増加する。$f$ は微分可能なので連続である(rem-dinv-premises の 2)。
段 3(逆関数の微分)。$I_0$ のすべての点 $x$ で $f'(x)>0$、特に $f'(x)\ne0$ なので、thm-dinv-derivative を $I_0$ の各点で使うと、$g$ は $J_0$ のすべての点で微分可能で $g'(y)=\dfrac1{f'(g(y))}$ である。$\square$
ex-dinv-wiggle の $f$ は、$f'$ が $0$ で連続でないので、この系の仮定を満たさない。大学では、この系を逆関数定理と呼ぶ(Leb26 Theorem 4.4.2、p. 177)。逆関数定理が本当に力を発揮するのは、変数が 2 つ以上の場合である。
2 変数の関数 $F(r,\theta)$ で、$\theta$ を定数とみて $r$ で微分したものを $\dfrac{\partial F}{\partial r}$ と書き、$r$ を定数とみて $\theta$ で微分したものを $\dfrac{\partial F}{\partial\theta}$ と書く。これを偏微分という(偏微分)。
平面の点を極座標で $x=r\cos\theta$、$y=r\sin\theta$($r>0$)と表す。$(r,\,\theta)$ から $(x,\,y)$ への対応の偏微分を並べた行列(Jacobi 行列)は
$$
A=\begin{pmatrix}\dfrac{\partial x}{\partial r}&\dfrac{\partial x}{\partial\theta}\\ \dfrac{\partial y}{\partial r}&\dfrac{\partial y}{\partial\theta}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\theta&-r\sin\theta\\ \sin\theta&r\cos\theta\end{pmatrix}
$$
で、行列式は $r\cos^2\theta+r\sin^2\theta=r>0$ である。逆行列は
$$
A^{-1}=\frac1r\begin{pmatrix}r\cos\theta&r\sin\theta\\ -\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\theta&\sin\theta\\ -\dfrac{\sin\theta}r&\dfrac{\cos\theta}r\end{pmatrix}
$$
である。
逆向きの対応は、$x>0$ の範囲では $r=\sqrt{x^2+y^2}$、$\theta=\arctan\dfrac yx$ で、その偏微分を直接計算すると
$$
\frac{\partial r}{\partial x}=\frac xr=\cos\theta,\quad \frac{\partial r}{\partial y}=\frac yr=\sin\theta,\quad \frac{\partial\theta}{\partial x}=-\frac{y}{x^2+y^2}=-\frac{\sin\theta}r,\quad \frac{\partial\theta}{\partial y}=\frac{x}{x^2+y^2}=\frac{\cos\theta}r
$$
である($\theta$ の偏微分では ex-dinv-arcsin の 2 の $(\arctan u)'=\frac1{1+u^2}$ と連鎖律を使う)。これは $A^{-1}$ の成分と一致する。たとえば $(r,\,\theta)=\left(2,\,\dfrac\pi3\right)$、つまり $(x,\,y)=(1,\,\sqrt3)$ では、4 つの値は $\dfrac12$、$\dfrac{\sqrt3}2$、$-\dfrac{\sqrt3}4$、$\dfrac14$ である。
ex-dinv-polar で見たように、変数が 2 つ以上のときも「逆関数の微分は、もとの微分の逆」が成り立つ。ただし「逆」は、数の逆数ではなく、Jacobi行列 の逆行列である。大学の解析学では、次の形で述べる(Leb26b Theorem 8.5.1、p. 51。本記事では証明しない)。
$n$ 変数から $n$ 変数への関数 $F$ の偏導関数がすべて連続で、点 $p$ で Jacobi 行列 $F'(p)$ が逆行列をもつ(行列式が $0$ でない)ならば、$p$ の近くで $F$ は 1 対 1 で、逆関数 $G$ があり、$G$ の Jacobi 行列は $F$ の Jacobi 行列の逆行列 $F'(x)^{-1}$ である。
$n=1$ では、Jacobi 行列は $1\times1$ 行列 $\bigl(f'(a)\bigr)$ で、逆行列をもつ条件は $f'(a)\ne0$、逆行列は $\bigl(\frac1{f'(a)}\bigr)$ である。これが cor-dinv-local である。1 変数では「増加か減少か」で 1 対 1 を確かめられたが、2 変数以上では「増加」という考え方が使えないので、証明には別の道具(縮小写像の原理)を使う。詳しくは 逆関数定理 の記事にある。
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