Chern–Gauss–Bonnetの定理(Chern–Gauss–Bonnet theorem)とは、向き付けられた $2n$ 次元の閉 Riemann 多様体 $M$ について、正規直交枠での曲率形式の行列 $\Omega$ の Pfaffian の積分が $(2\pi)^n\chi(M)$ に等しいという定理で、$n=1$ では Gauss–Bonnet の定理になる。$\mathrm{Pf}(\Omega)$ は枠によらない形式で、その積分は計量によらない。$\mathbb{R}^{2n+1}$ の閉超曲面では、Gauss 写像の写像度と Poincaré–Hopf の定理から定理が従う(Hopf)。4 次元では、曲率テンソル・Ricci テンソル・スカラー曲率の 2 乗の組み合わせの積分が $32\pi^2\chi(M)$ になる。
前提知識: Riemann曲率テンソル, Euler標数, Gauss–Bonnetの定理, Poincaré–Hopfの定理
閉曲面の Gauss 曲率の積分は Euler 標数の $2\pi$ 倍に等しい(Gauss–Bonnetの定理)。Chern–Gauss–Bonnet の定理(Chern–Gauss–Bonnet theorem)はこれを偶数次元に一般化したもので、向き付けられた $2n$ 次元の閉 Riemann 多様体 $M$ について、曲率から作る $2n$ 形式 $\mathrm{Pf}(\Omega)$(曲率形式の Pfaffian)の積分が $(2\pi)^n\chi(M)$ に等しいと述べる。左辺は計量から局所的に決まる量、右辺は位相的な不変量である。
Lee18 p. 280 によれば、この定理は Hopf が 1925 年に Euclid 空間の超曲面について、Allendoerfer と Fenchel が 1940 年に Euclid 空間の部分多様体について示し、Chern が 1944 年に内在的な証明を与えた。この記事では、Pfaffian と $\mathrm{Pf}(\Omega)$ を定義して大域的な形式であることを示し、定理を述べる。一般の場合の証明は引用にとどめ、$\mathbb{R}^{2n+1}$ の閉超曲面の場合(Hopf)を完全に証明する。さらに $\mathrm{Pf}(\Omega)$ の積分が計量によらないことを示して、超曲面と微分同相な多様体ではどの計量でも定理が成り立つことを導く。4 次元では曲率の 2 乗の積分による公式を導き、仮定を外した反例を挙げる。
以下、$n\ge1$ とし、$S_{2n}$ を $\{1,\dots,2n\}$ の置換の群、$\operatorname{sgn}\sigma$ を置換 $\sigma$ の符号とする。
$\mathcal R$ を可換な $\mathbb{R}$ 代数、$A=(A_{ij})$ を成分が $\mathcal R$ の $2n$ 次の交代行列($A_{ji}=-A_{ij}$)とする。
$$
\mathrm{Pf}(A):=\frac{1}{2^nn!}\sum_{\sigma\in S_{2n}}\operatorname{sgn}\sigma\,\prod_{k=1}^nA_{\sigma(2k-1)\sigma(2k)}
$$
を $A$ の Pfaffian という。
$n=1$ では $\mathrm{Pf}\begin{pmatrix}0&a\\-a&0\end{pmatrix}=a$、$n=2$ では $\mathrm{Pf}(A)=A_{12}A_{34}-A_{13}A_{24}+A_{14}A_{23}$ である。和の各項は、$\{1,\dots,2n\}$ を $n$ 個の対に分けて対ごとの成分を掛けたもので、対の中の順序の入れ替え($2^n$ 通り)と対の並べ替え($n!$ 通り)で同じ値が出るので $2^nn!$ で割っている。実の交代行列では $\mathrm{Pf}(A)^2=\det A$ となる(MS74 Appendix C の Lemma 9、p. 309。この記事では使わない)。この記事では $\mathcal R$ として、多様体の 1 点での偶数次の微分形式の全体(外積について可換)を使う。
$A$ を def-cgb-pfaffian の交代行列とする。
要点:$\mathbb{R}^{2n}$ の基底 $\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_{2n}$ について $\omega_A:=\frac12\sum_{i,j}A_{ij}\varepsilon_i\wedge\varepsilon_j$ とおくと、$\omega_A^n=n!\,\mathrm{Pf}(A)\,\varepsilon_1\wedge\cdots\wedge\varepsilon_{2n}$ である。$B$ による変換は基底の取り替えにあたる。
$\mathcal R$ 係数の外積代数 $\mathcal R\otimes\Lambda(\mathbb{R}^{2n})$ で計算する($\mathcal R$ の元はすべてと可換)。1 次の元 $\varphi_1,\dots,\varphi_{2n}$ と $\omega:=\frac12\sum_{k,l}A_{kl}\varphi_k\wedge\varphi_l$ について
$$\omega^n=\frac1{2^n}\sum_{k_1,l_1,\dots,k_n,l_n}A_{k_1l_1}\cdots A_{k_nl_n}\,\varphi_{k_1}\wedge\varphi_{l_1}\wedge\cdots\wedge\varphi_{k_n}\wedge\varphi_{l_n}$$
であり、添字の列 $(k_1,l_1,\dots,k_n,l_n)$ が置換 $\sigma$ の値の列でなければ外積は $0$、置換なら $\operatorname{sgn}\sigma\,\varphi_1\wedge\cdots\wedge\varphi_{2n}$ である。よって $\omega^n=n!\,\mathrm{Pf}(A)\,\varphi_1\wedge\cdots\wedge\varphi_{2n}$ である(★)。
1:$\varphi_k:=\sum_iB_{ki}\varepsilon_i$ とおくと $\frac12\sum_{k,l}A_{kl}\varphi_k\wedge\varphi_l=\frac12\sum_{i,j}(B^{\mathsf T}AB)_{ij}\varepsilon_i\wedge\varepsilon_j=\omega_{B^{\mathsf T}AB}$ であり、$\varphi_1\wedge\cdots\wedge\varphi_{2n}=\det(B)\,\varepsilon_1\wedge\cdots\wedge\varepsilon_{2n}$ である。★を $\varphi$ と $\varepsilon$ の両方に当てて比べると $\mathrm{Pf}(B^{\mathsf T}AB)=\det(B)\mathrm{Pf}(A)$ である。$B\in\mathrm{SO}(2n)$ なら $B^{\mathsf T}=B^{-1}$、$\det B=1$ である。
2:$\omega_A=\omega_1+\omega_2$ で、$\omega_1$ は $\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_{2p}$ だけ、$\omega_2$ は残りだけを含む 2 次の元なので可換で、$\omega_1^{p+1}=0$、$\omega_2^{q+1}=0$ である。二項展開で残るのは $\binom np\omega_1^p\omega_2^q$ だけなので、★から $n!\,\mathrm{Pf}(A)=\binom np\,p!\,q!\,\mathrm{Pf}(A_1)\mathrm{Pf}(A_2)$ となる。$\square$
$(M,g)$ を $2n$ 次元の Riemann 多様体、$\nabla$ を Levi-Civita 接続、$R(X,Y)Z=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{[X,Y]}Z$ を曲率テンソル(Riemann曲率テンソル の定義と同じ符号)とし、$\langle\ ,\ \rangle=g$ と書く。開集合 $U$ の上の正規直交枠 $e_1,\dots,e_{2n}$ と双対枠 $e^1,\dots,e^{2n}$ をとり、
$$
\Omega_{ij}(X,Y):=\langle R(X,Y)e_j,e_i\rangle,\qquad R_{ijab}:=\Omega_{ij}(e_a,e_b)
$$
とおく。$\Omega=(\Omega_{ij})$ は 2 形式を成分とする行列で、接続 の命題「接続行列と曲率行列」の曲率行列 $F=dA+A\wedge A$ にあたる。$R_{ijab}$ は Riemann曲率テンソル の成分 $R_{ijkl}$ をこの枠で書いたものなので、同記事の命題「曲率テンソルの対称性」により
$$
R_{ijab}=-R_{jiab}=-R_{ijba}=R_{abij}
$$
であり、$\Omega$ は交代行列で $\Omega_{ij}=\frac12\sum_{a,b}R_{ijab}\,e^a\wedge e^b$ である。$R_{abab}$($a\ne b$)は $e_a,e_b$ の張る平面の 断面曲率 である。
$M$ が向き付けられているとき、向きと合う正規直交枠で作った $2n$ 形式 $\mathrm{Pf}(\Omega)$ は枠の選び方によらず、$M$ 全体の $2n$ 形式を定める。Riemann 体積形式を $dV$ として $\mathrm{Pf}(\Omega)=\mathfrak p\,dV$ と書くと、関数 $\mathfrak p$ は向きの選び方にもよらない。
別の向きと合う正規直交枠を $e'_j=\sum_ke_k\,h_{kj}$($h\colon U\to\mathrm{SO}(2n)$)とすると、$R(X,Y)$ は $e_j$ について線形なので
$$
\Omega'_{ij}(X,Y)=\sum_{k,l}h_{ki}h_{lj}\langle R(X,Y)e_l,e_k\rangle=(h^{\mathsf T}\Omega h)_{ij}(X,Y)
$$
である。lem-cgb-pfaffian の 1 により $\mathrm{Pf}(\Omega')=\det(h)\mathrm{Pf}(\Omega)=\mathrm{Pf}(\Omega)$ なので、局所的な形式は重なりで一致して大域的な形式になる。向きを逆にすると、向きと合う枠は $\det h=-1$ の $h$ で移り合うので $\mathrm{Pf}(\Omega)$ の符号が変わり、$dV$ の符号も変わる。よって $\mathfrak p$ は変わらない。$\square$
$\mathfrak p$ は局所的に向きを選べば定まるので、向き付け不可能な多様体の上でも関数として定まる。$\Omega_{ij}$ を $R_{ijab}$ で展開して def-cgb-pfaffian に代入すると、$e^{a_1}\wedge\cdots\wedge e^{a_{2n}}$ は $(a_1,\dots,a_{2n})$ が置換 $\tau$ のとき $\operatorname{sgn}\tau\,dV$ になるので
$$
\mathfrak p=\frac{1}{2^{2n}n!}\sum_{\sigma,\tau\in S_{2n}}\operatorname{sgn}\sigma\operatorname{sgn}\tau\prod_{k=1}^nR_{\sigma(2k-1)\sigma(2k)\tau(2k-1)\tau(2k)}
$$
である。$n=1$ では $\mathrm{Pf}(\Omega)=\Omega_{12}=R_{1212}\,e^1\wedge e^2=K\,dA$($K$ は Gauss 曲率)である。
$(M,g)$ を向き付けられた $2n$ 次元の閉 Riemann 多様体(コンパクトで境界のない多様体)とする。このとき
$$
\int_M\mathrm{Pf}\Bigl(\frac{\Omega}{2\pi}\Bigr)=\frac{1}{(2\pi)^n}\int_M\mathrm{Pf}(\Omega)=\chi(M)
$$
が成り立つ。
一般の場合はこの記事では証明しない。向き付けられた階数 $2n$ の実ベクトル束に計量と両立する接続をとると、その曲率の $\mathrm{Pf}(\Omega/2\pi)$ が Euler 類の実係数での像を表すこと(一般化された Gauss–Bonnet の定理、MS74 Appendix C、p. 311)と、接束の Euler 数が $\chi(M)$ に等しいこと(Euler類 の定理「接束の Euler 数と Euler 標数」)を合わせると従う。曲率と向きの符号の約束は文献によって異なる(MS74 p. 304 の注意)。この記事の約束では単位球面で $\mathrm{Pf}(\Omega)$ は体積形式の正の倍数で(ex-cgb-sphere)、積分は $\chi(S^{2n})=2$ に一致する(thm-cgb-hypersurface)。Lee18 p. 280 も同じ形で定理を述べている。
$n=1$ では、$\mathrm{Pf}(\Omega)=K\,dA$ なので $\int_MK\,dA=2\pi\chi(M)$ となり、Gauss–Bonnetの定理 にほかならない。$2n$ 次元でも、左辺は各点の曲率から決まる量の積分で、右辺は計量によらない位相不変量である。奇数次元の閉多様体では Euler 標数はつねに $0$ であり(Poincaré–Hopfの定理 の系「奇数次元の閉多様体の Euler 標数」)、Pfaffian も偶数次の交代行列にしか定まらない。
$\mathbb{R}^{2n+1}$ の 閉超曲面 とは、$\mathbb{R}^{2n+1}$ のコンパクトで境界のない $2n$ 次元の部分多様体のことである。連結な閉超曲面 $M$ は向き付け可能で、単位法ベクトル場 $\nu\colon M\to S^{2n}$(Gauss 写像)をもつ(単連結多様体の閉超曲面の分離 の系「単連結な多様体の中の連結な閉超曲面」)。$M$ には $\mathbb{R}^{2n+1}$ の内積から誘導される計量を入れ、$(\nu(p),e_1,\dots,e_{2n})$ が $\mathbb{R}^{2n+1}$ の正の基底になるような $(e_1,\dots,e_{2n})$ を正とする向きを入れる。$T_pM=\nu(p)^\perp=T_{\nu(p)}S^{2n}$ なので、$\nu$ の微分 $d\nu_p$ は $T_pM$ の線形変換であり、
$$
K(p):=\det(d\nu_p)
$$
を $M$ の Gauss–Kronecker 曲率 という。次元が偶数なので、$\nu$ を $-\nu$ に替えても $K$ は変わらない。$2$ 次元では Gauss曲率 である。
$M\subset\mathbb{R}^{2n+1}$ を連結な閉超曲面とし、上のように計量・向き・Gauss 写像 $\nu$ をとる。
要点:Gauss の方程式から $\Omega_{ij}=\theta_i\wedge\theta_j$ と 1 形式の外積に分解し、$\mathrm{Pf}(\Omega)$ が $d\nu$ の行列式になる(1)。2 は、定ベクトル $a$ の接方向の成分をベクトル場とし、その零点が $\nu^{-1}(\pm a)$ であることから、Poincaré–Hopf の定理で数える。3 は 1、Gauss 写像の写像度の積分公式、2 と球面の体積から従う。
段 1(1 の証明)。接ベクトル場 $X,Y$ について $h(X,Y):=\langle D_XY,\nu\rangle=-\langle Y,d\nu(X)\rangle$($D$ は $\mathbb{R}^{2n+1}$ の通常の微分、右の等式は $\langle Y,\nu\rangle=0$ を微分して得る)とおく。Gauss の方程式(Gauss–Codazzi方程式 の系「超曲面の Gauss–Codazzi 方程式」で周りの空間が $\mathbb{R}^{2n+1}$ の場合。Lee18 Theorem 8.5、p. 230)は
$$\langle R(X,Y)Z,W\rangle=h(X,W)h(Y,Z)-h(X,Z)h(Y,W)$$
である。$\theta_i(X):=h(X,e_i)$ とおくと $\Omega_{ij}(X,Y)=\theta_i(X)\theta_j(Y)-\theta_j(X)\theta_i(Y)=(\theta_i\wedge\theta_j)(X,Y)$ である。1 形式どうしは反可換なので
$$\mathrm{Pf}(\Omega)=\frac{1}{2^nn!}\sum_{\sigma}\operatorname{sgn}\sigma\,\theta_{\sigma(1)}\wedge\cdots\wedge\theta_{\sigma(2n)}=\frac{(2n)!}{2^nn!}\,\theta_1\wedge\cdots\wedge\theta_{2n}$$
であり、$(2n)!/(2^nn!)=(2n-1)!!$ である。$\theta_i(e_a)=-\langle e_i,d\nu(e_a)\rangle$ は $-d\nu_p$ の行列の成分なので、$\theta_1\wedge\cdots\wedge\theta_{2n}=\det(-d\nu_p)\,dV=K\,dV$ である。
段 2($\nu^*dV_S=K\,dV$)。$S:=S^{2n}$ の点 $y$ での向きは $(y,w_1,\dots,w_{2n})$ が正の基底となる $(w_i)$ を正とするものなので、$y=\nu(p)$ では $T_pM$ と $T_yS$ は同じ部分空間に同じ向きが入っている。よって正の正規直交基底 $e_a$ について $(\nu^*dV_S)(e_1,\dots,e_{2n})=dV_S(d\nu e_1,\dots,d\nu e_{2n})=\det d\nu_p$ であり、$\nu^*dV_S=K\,dV$ である。とくに正則点 $p$ での $\nu$ の局所的な符号は $\operatorname{sign}K(p)$ である。
段 3(2 の証明)。Sardの定理 により $\nu$ の臨界値の集合 $C$ は測度 $0$ なので、$a\in S\setminus(C\cup(-C))$ がとれる。$a$ と $-a$ はともに正則値である。$v(q):=a-\langle a,\nu(q)\rangle\nu(q)$ は $a$ の $T_qM$ への射影で、$M$ の上の滑らかなベクトル場である。$v(q)=0$ は $a$ が $\nu(q)$ の実数倍であること、すなわち $\nu(q)=\pm a$ と同値である。正則値の逆像は離散的でコンパクトな $M$ の中で有限なので、零点は有限個である。$\nu(p)=\varepsilon a$($\varepsilon=\pm1$)となる零点 $p$ で、$v$ を $\mathbb{R}^{2n+1}$ に値をとる写像とみて微分すると、$\langle a,d\nu_pX\rangle=\varepsilon\langle\nu(p),d\nu_pX\rangle=0$($\lvert\nu\rvert=1$ の微分)より $dv_p=-\varepsilon\,d\nu_p$ である。$p$ のまわりの局所的なパラメータ表示 $\psi$($\psi(0)=p$)で $v$ を座標で表した写像を $f$ とすると $v\circ\psi=D\psi\cdot f$ で、$f(0)=0$ だから微分して $D\psi_0\,df_0=dv_p\,D\psi_0$ となり、$df_0$ は $-\varepsilon\,d\nu_p$ と相似で正則である。Poincaré–Hopfの定理 の補題「非退化な零点の指数」により $\operatorname{ind}_pv=\operatorname{sign}\det(-\varepsilon\,d\nu_p)=\operatorname{sign}K(p)$ である(次元が偶数)。同記事の定理「Poincaré–Hopf の定理」と、正則値での符号つきの数え上げ(固有写像の写像度 の定理「正則値での符号つきの数え上げ」)により
$$\chi(M)=\sum_{\nu(p)=a}\operatorname{sign}K(p)+\sum_{\nu(p)=-a}\operatorname{sign}K(p)=\deg\nu+\deg\nu$$
である。
段 4(3 の証明)。写像度の積分公式(Lee13 Theorem 17.35、pp. 457–458)と段 2 により $\int_MK\,dV=\int_M\nu^*dV_S=\deg\nu\cdot\lvert S^{2n}\rvert$ である。n次元球面の体積 の定理により $\lvert S^{2n}\rvert=2\pi^{n+1/2}/\Gamma(n+\frac12)$ で、$\Gamma(s+1)=s\Gamma(s)$ と $\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$(ガンマ関数)から $\Gamma(n+\frac12)=(2n-1)!!\sqrt\pi/2^n$、したがって $\lvert S^{2n}\rvert=2^{n+1}\pi^n/(2n-1)!!$ である。1 と 2 を合わせると
$$\int_M\mathrm{Pf}\Bigl(\frac\Omega{2\pi}\Bigr)=\frac{(2n-1)!!}{(2\pi)^n}\deg\nu\cdot\frac{2^{n+1}\pi^n}{(2n-1)!!}=2\deg\nu=\chi(M)$$
である。$\square$
2 から、$\mathbb{R}^{2n+1}$ の連結な閉超曲面の Euler 標数は偶数である。たとえば Euler 標数が $1$ の実射影平面 $\mathbb{RP}^2$ や、Euler 標数が $3$ の複素射影平面 $\mathbb{CP}^2$ は、それぞれ $\mathbb{R}^3$、$\mathbb{R}^5$ の閉超曲面と微分同相でない。球面 $S^{2n}$ では $\nu$ は恒等写像で $\deg\nu=1$、$\chi=2$ であり、ex-cgb-sphere の $\int\mathrm{Pf}(\Omega)=(2n-1)!!\lvert S^{2n}\rvert=2(2\pi)^n$ に合う。
向き付けられた $2n$ 次元の閉多様体 $M$ の上の 2 つの Riemann 計量 $g_0$、$g_1$ について、それぞれの曲率形式を $\Omega^{(0)}$、$\Omega^{(1)}$ とすると $\displaystyle\int_M\mathrm{Pf}(\Omega^{(0)})=\int_M\mathrm{Pf}(\Omega^{(1)})$ である。
要点:$g_1$ の正規直交枠を $g_0$ の正規直交枠に移す束の同型 $\Phi$ で $g_1$ の Levi-Civita 接続を運ぶと、$g_0$ と両立する接続で Pfaffian 形式が同じものが得られる。$g_0$ と両立する 2 つの接続には Chern–Weil 理論が使える。
$g_1(X,Y)=g_0(GX,Y)$ で $g_0$ について自己随伴で正定値な束の自己準同型 $G$ を定め、その正の平方根 $\Phi:=G^{1/2}$ をとる($G$ は滑らかで固有値が正なので、$\Phi$ も滑らかである)。すると $g_1(X,Y)=g_0(\Phi X,\Phi Y)$ であり、$\Phi$ は $(TM,g_1)$ から $(TM,g_0)$ への計量を保つ束の同型で、$\det\Phi>0$ なので向きを保つ。$\nabla':=\Phi\circ\nabla^{(1)}\circ\Phi^{-1}$ は $TM$ の接続で、$g_0$ と両立する。$e_1,\dots,e_{2n}$ を $g_1$ の向きと合う正規直交枠とすると $\Phi e_1,\dots,\Phi e_{2n}$ は $g_0$ の向きと合う正規直交枠で、$\nabla'$ のこの枠での接続行列と曲率行列は $\nabla^{(1)}$ の $e$ での接続行列と曲率行列に等しい。よって $\nabla'$ の Pfaffian 形式は $\mathrm{Pf}(\Omega^{(1)})$ に等しい。
$g_0$ と両立する接続は、向きと合う正規直交枠での接続行列が $\mathfrak{so}(2n)$ に値をとり、枠の取り替えで Chern–Weil理論 の変換則を満たすので、$g_0$ の向きと合う正規直交枠の主 $\mathrm{SO}(2n)$ 束の接続を定める。$\mathrm{Pf}$ は $\mathrm{SO}(2n)$ の不変多項式である(同記事の例「代表的な不変多項式」の 2、lem-cgb-pfaffian の 1)。同記事の定理「Chern–Weil の基本定理」の 1・2 により、Levi-Civita 接続 $\nabla^{(0)}$ と $\nabla'$ の Pfaffian 形式はどちらも閉形式で、差は完全形式 $d\eta$ である。Stokes の定理により閉多様体の上で $\int_Md\eta=0$ なので、2 つの積分は等しい。$\square$
向き付けられた閉多様体 $M$ が $\mathbb{R}^{2n+1}$ の連結な閉超曲面と微分同相なら、$M$ の上のどの Riemann 計量についても thm-cgb-main の等式が成り立つ。
微分同相 $\phi\colon M\to M'$($M'$ は閉超曲面)で、$M'$ の誘導計量を引き戻した計量 $g_0:=\phi^*g'$ を考える。$\phi$ は $(M,g_0)$ から $(M',g')$ への等長写像なので曲率も Pfaffian 形式も対応する。$\nu$ を $-\nu$ に替えると $M'$ の向きは逆になり、thm-cgb-hypersurface はどちらの $\nu$ にも当てはまるので、$\phi$ が向きを保つように $\nu$ を選ぶと、同定理の 3 により $\int_M\mathrm{Pf}(\Omega^{(0)}/2\pi)=\chi(M')=\chi(M)$ である。prop-cgb-metric により任意の計量 $g$ でも積分は同じである。$\square$
たとえば $S^{2n}$、および $p+q=2n$($p,q\ge1$)の $S^p\times S^q$ はこの形である。後者は $\{(x,y)\in\mathbb{R}^{p+1}\times\mathbb{R}^q\mid(\lvert x\rvert-2)^2+\lvert y\rvert^2=1\}$ と微分同相である(この集合の上で $x\ne0$ であり、左辺の関数の勾配は $0$ にならないので閉超曲面である。$(u,w_0,w')\mapsto((2+w_0)u,\,w')$、$u\in S^p$、$(w_0,w')\in S^q$ が微分同相で、逆写像は $(x,y)\mapsto(x/\lvert x\rvert,\,\lvert x\rvert-2,\,y)$)。一方、$\mathbb{CP}^2$ はこの形でないので、この記事の議論だけでは定理を証明できない。
$(M,g)$ を向き付け不可能な $2n$ 次元の閉 Riemann 多様体とすると、prop-cgb-global の関数 $\mathfrak p$ と Riemann 測度 $\mu$ について $\displaystyle\frac{1}{(2\pi)^n}\int_M\mathfrak p\,d\mu=\chi(M)$ である(thm-cgb-main を認めたうえで)。
向き付けの 2 重被覆 $\pi\colon\tilde M\to M$(向き付け二重被覆)に計量 $\pi^*g$ を入れると、$\pi$ は局所等長で、$\tilde M$ の関数 $\tilde{\mathfrak p}$ は $\mathfrak p\circ\pi$ に等しい。各点の逆像はちょうど 2 点なので $\int_{\tilde M}\tilde{\mathfrak p}\,d\tilde\mu=2\int_M\mathfrak p\,d\mu$ であり、Euler 標数は 2 重被覆で 2 倍になる(Euler標数)。$\tilde M$ は向き付けられた閉多様体なので thm-cgb-main により左辺は $2(2\pi)^n\chi(M)$ に等しい。$\square$
たとえば $\mathbb{RP}^{2n}=S^{2n}/\{\pm1\}$ の標準計量では $\int\mathfrak p\,d\mu$ は球面の半分 $(2\pi)^n$ で、$\chi(\mathbb{RP}^{2n})=1$ に合う。
$n=2$ のとき、正規直交枠で $\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2:=\sum_{i,j,a,b}R_{ijab}^2$、$\mathrm{Ric}_{jk}:=\sum_iR_{ijik}$、$\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2:=\sum_{j,k}\mathrm{Ric}_{jk}^2$、$S:=\sum_j\mathrm{Ric}_{jj}$ とおくと
$$
\mathrm{Pf}(\Omega)=\frac18\bigl(\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2-4\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2+S^2\bigr)\,dV
$$
である。したがって thm-cgb-main により、向き付けられた 4 次元の閉 Riemann 多様体について $\displaystyle\int_M\bigl(\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2-4\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2+S^2\bigr)dV=32\pi^2\chi(M)$ である。
$\mathrm{Ric}$ と $S$ は リッチテンソル と スカラー曲率 をこの枠で書いたものである。この積分の形は Lee18 p. 280 の式 (9.14) と同じである。
要点:$\varepsilon_{ijkl}$ を交代記号として $\mathfrak p=\frac1{32}T$、$T:=\sum\varepsilon_{ijkl}\varepsilon_{abcd}R_{ijab}R_{klcd}$ である。$\varepsilon_{ijkl}\varepsilon_{abcd}$ を置換の和に展開し、6 通りの組み分けを曲率の対称性で整理すると $T=4(\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2-4\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2+S^2)$ となる。
prop-cgb-global の後の式で $n=2$ とすると、$\sigma,\tau\in S_4$ の和は $\varepsilon$ による和に書き直せて $\mathfrak p=\frac1{32}T$ である。$x=(x_1,x_2,x_3,x_4):=(i,j,k,l)$ とすると、行列式の展開により $\varepsilon_{ijkl}\varepsilon_{abcd}=\sum_{\pi\in S_4}\operatorname{sgn}\pi\,\delta_{a x_{\pi(1)}}\delta_{b x_{\pi(2)}}\delta_{c x_{\pi(3)}}\delta_{d x_{\pi(4)}}$ が($i,j,k,l$ に重複がある場合も両辺 $0$ として)成り立つので
$$T=\sum_{i,j,k,l}\sum_{\pi\in S_4}\operatorname{sgn}\pi\,R_{ij\,x_{\pi(1)}x_{\pi(2)}}R_{kl\,x_{\pi(3)}x_{\pi(4)}}$$
である。$\pi(1)$ と $\pi(2)$ を入れ替えると符号も $R$ の後の 2 つの添字の順序も変わるので項は変わらず、$\pi(3)$ と $\pi(4)$ も同じである。よって $\{\pi(1),\pi(2)\}=\{p< q\}$、$\{\pi(3),\pi(4)\}=\{r< s\}$ の 6 通りについて $4\operatorname{sgn}(p,q,r,s)R_{ij x_px_q}R_{kl x_rx_s}$ を足せばよい。$\mathrm{Ric}_{jk}=\sum_iR_{ijik}$ と対称性 $R_{ijab}=-R_{jiab}=-R_{ijba}=R_{abij}$ を使うと、$i,j,k,l$ について和をとったものは次のとおりである。
$\{1,2\}$:$+R_{ijij}R_{klkl}$ で $S^2$。$\{3,4\}$:$+R_{ijkl}R_{klij}=R_{ijkl}^2$ で $\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2$。$\{1,3\}$:$-R_{ijik}R_{kljl}$ で、$\sum_iR_{ijik}=\mathrm{Ric}_{jk}$、$\sum_lR_{kljl}=\sum_lR_{lklj}=\mathrm{Ric}_{kj}$ より $-\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2$。$\{1,4\}$:$+R_{ijil}R_{kljk}$ で、$\sum_kR_{kljk}=-\mathrm{Ric}_{lj}$ より $-\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2$。$\{2,3\}$:$+R_{ijjk}R_{klil}$ で、$\sum_jR_{ijjk}=-\mathrm{Ric}_{ik}$、$\sum_lR_{klil}=\mathrm{Ric}_{ki}$ より $-\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2$。$\{2,4\}$:$-R_{ijjl}R_{klik}$ で、$\sum_jR_{ijjl}=-\mathrm{Ric}_{il}$、$\sum_kR_{klik}=-\mathrm{Ric}_{li}$ より $-\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2$。
ここで $\mathrm{Ric}$ が対称であること($\mathrm{Ric}_{jk}=\sum_iR_{ijik}=\sum_iR_{ikij}=\mathrm{Ric}_{kj}$、対の入れ替えの対称性)を使った。合計して $T=4(S^2+\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2-4\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2)$、$\mathfrak p=\frac18(\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2-4\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2+S^2)$ である。$\square$
向き付けられた 4 次元の閉 Riemann 多様体で、定数 $\lambda$ について $\mathrm{Ric}=\lambda g$ となるもの(Einstein 計量)の Euler 標数は $0$ 以上であり、$0$ になるのは平坦なとき($R=0$)に限る。
$\mathrm{Ric}=\lambda g$ なら $S=4\lambda$、$\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2=4\lambda^2=S^2/4$ なので、被積分関数は $\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2-S^2+S^2=\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2\ge0$ である。prop-cgb-dim4 により $32\pi^2\chi(M)=\int_M\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2dV\ge0$ で、等号は連続関数 $\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2$ が恒等的に $0$ のときに限る。$\square$
$\lvert\mathrm{Rm}\rvert^2-4\lvert\mathrm{Ric}\rvert^2+S^2$ は負にもなりうる(ex-cgb-dim4 の 3)ので、一般の計量では被積分関数の符号から $\chi$ の符号はわからない。断面曲率がいたるところ正の偶数次元の閉多様体の Euler 標数は正であろうという Hopf の予想は、2 次元と 4 次元では正しい(Lee18 p. 280。この記事では証明しない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 境界がないこと | 単位球面の帽子 $\{x\in S^2\mid x_3\ge\frac12\}$(閉円板と同相) | $\frac1{2\pi}\int K\,dA=\chi$ |
| コンパクトであること | 平坦な $\mathbb{R}^{2n}$ | $\frac1{(2\pi)^n}\int\mathrm{Pf}(\Omega)=\chi$ |
| 曲率が接束の Levi-Civita 接続のものであること | $S^{2n}$ の上の自明束 $S^{2n}\times\mathbb{R}^{2n}$ と自明な接続 | $\frac1{(2\pi)^n}\int\mathrm{Pf}(\Omega)=\chi$ |
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