強極限基数(strong limit cardinal)とは、無限基数 $\kappa$ で、どの基数 $\lambda<\kappa$ についても $2^\lambda<\kappa$ となるものである。強極限基数は極限基数であり、一般化連続体仮説(GCH)のもとでは極限基数はすべて強極限基数になる。冪集合演算を繰り返して得る $\beth_\omega$ は強極限基数だが、共終数が $\omega$ なので特異である。非可算で正則な強極限基数が到達不能基数である。
強極限基数(strong limit cardinal)とは、自分より小さいどの基数の冪集合を作っても、その濃度がまだ自分に届かない無限基数である。基数 $\lambda$ の集合の冪集合の濃度を $2^\lambda$ と書けば、無限基数 $\kappa$ について
$$
(\forall\lambda<\kappa)\quad 2^\lambda<\kappa
$$
が定義である。ここで $\lambda$ は基数を動く。任意の $\lambda<\kappa$ という量化が核心で、一つの小さい基数について不等式が成り立つだけでは強極限とはいえない(Jec03 Chapter 5, p. 58)。
強極限性は冪集合演算に対する大きさの条件であり、正則基数であることとは別である。たとえば $\beth_\omega$ は ZFC で存在する特異な強極限基数だが、非可算で正則な強極限基数の存在は到達不能基数の存在を意味する。本記事は、定義の検査方法、小さい基数の演算に対する閉性、beth 数による例、極限基数・到達不能基数との境界、強制拡大での変化を説明する。到達不能基数から作る累積階層の模型論的性質は到達不能基数に譲る。
基数の冪 $2^\lambda$ は、濃度 $\lambda$ の集合の部分集合全体の濃度である。Cantor の定理により $2^\lambda>\lambda$ は常に成り立つ。強極限性は、この増大が $\kappa$ 未満の範囲にとどまることをすべての $\lambda<\kappa$ について要求する。
無限基数 $\kappa$ が強極限基数であるとは、すべての基数 $\lambda<\kappa$ に対して $2^\lambda<\kappa$ が成り立つことをいう。
定義に「非可算」は含めない。有限基数 $n<\aleph_0$ について $2^n$ は有限だから、$\aleph_0$ 自身は強極限基数である。これに対し、到達不能基数は非可算・正則・強極限という三条件をすべて満たすものとする。したがって「最小の強極限基数」と「最小の到達不能基数」は同じ意味ではない。
$2^\lambda$ は集合の個数を数える記号であって、$\lambda$ の次の基数 $\lambda^+$ と一般に等しいわけではない。ZFC では $\lambda^+\le 2^\lambda$ までが常にいえる。等号 $2^\lambda=\lambda^+$ はその $\lambda$ における一般化連続体仮説の主張である。強極限の定義はこの等号を仮定せず、$2^\lambda$ がどの値でも $\kappa$ 未満に収まることを要求する。
無限基数 $\mu$ の後続基数 $\mu^+$ は強極限基数ではない。したがって、非可算な強極限基数は極限基数である。
$\mu<\mu^+$ なので、もし $\mu^+$ が強極限なら $2^\mu<\mu^+$ が必要である。しかし Cantor の定理から $2^\mu>\mu$ であり、$\mu^+$ は $\mu$ より大きい最小の基数だから $\mu^+\le2^\mu$ である。矛盾する。非可算な無限基数で後続基数でないものは極限基数なので、後半も従う。$\square$
逆は一般には成り立たない。極限基数は「後続基数でない」という基数列上の位置を表すだけであり、連続体関数 $\lambda\mapsto2^\lambda$ がそこを飛び越えないことまでは保証しない。たとえば $2^{\aleph_0}\ge\aleph_\omega$ である状況なら、$\aleph_\omega$ は極限基数であっても強極限でない。この不等式が実際に成り立つ模型を作れることは後で述べる。
強極限という名前は、冪集合に限らず小さい基数同士の指数演算にも閉じることに由来する。有限の和・積が $\kappa$ 未満にとどまるだけでは、指数演算についての結論は出ない。冪集合の大きさを上から使うことが要点である(Jec03 Chapter 5, p. 58)。
$\kappa$ が強極限基数なら、任意の基数 $\mu,\nu<\kappa$ に対して $\mu^\nu<\kappa$ である。
$\mu=0$ または $\nu=0$ の場合は値が $0$ または $1$ であり、$\kappa$ 未満である。$\mu,\nu$ が有限の場合も結論は明らかである。少なくとも一方が無限の場合、$\theta=\max(\mu,\nu,\aleph_0)$ と置く。ただし $\kappa=\aleph_0$ の場合は $\mu,\nu$ がともに有限なので既に処理した。以下 $\kappa>\aleph_0$ とする。
関数 $f:\nu\to\mu$ はそのグラフ $G_f\subseteq\nu\times\mu$ によって一意に決まる。$\mu,\nu\le\theta$ で $\theta$ は無限基数だから $|\nu\times\mu|\le\theta$ である。従って
$$
\mu^\nu\le 2^{|\nu\times\mu|}\le2^\theta<\kappa.
$$
最後の不等式は $\theta<\kappa$ と強極限性による。$\square$
この命題は「$\kappa^\nu<\kappa$」を意味しない。左の底まで $\kappa$ 未満であることが必要である。実際、$\kappa^\nu\ge\kappa$ は $\nu>0$ で自明であり、特異な強極限基数では $\kappa^{\operatorname{cf}(\kappa)}$ が $\kappa$ を超える。定義の中で小さいのは指数 $\nu$ だけでなく、底 $\mu$ もである。
同じ理由で、濃度 $\mu<\kappa$ の集合 $X$ の冪集合 $\mathcal P(X)$ は濃度 $2^\mu<\kappa$ をもつ。しかし、$\kappa$ 個の小さい集合の合併や、$\kappa$ 自身の冪集合が小さいとは主張しない。特に $2^\kappa>\kappa$ は Cantor の定理により常に成り立つ。どの段階を「小さい」と呼んでいるかを明示する必要がある。
冪集合を順に反復して得る基数がbeth 数である。$\beth_0=\aleph_0$ とし、$\beth_{\alpha+1}=2^{\beth_\alpha}$、極限順序数 $\delta$ では $\beth_\delta=\sup_{\alpha<\delta}\beth_\alpha$ と定める。後続段階では直前の冪集合を取り、極限段階ではそれまでの基数の上限を取る(Jec03 Chapter 5, p. 55)。
最初の数段は
$$
\beth_0=\aleph_0,\quad
\beth_1=2^{\aleph_0},\quad
\beth_2=2^{2^{\aleph_0}},\quad
\beth_\omega=\sup_{n<\omega}\beth_n
$$
となる。$\beth_1$ や $\beth_2$ は、それぞれ直前の基数の冪集合の濃度そのものなので強極限ではない。しかし極限段階の $\beth_\omega$ は異なる。
$\delta$ を非零の極限順序数とすると、$\beth_\delta$ は強極限基数である。特に $\beth_\omega$ は ZFC で存在する非可算な強極限基数である。
$\lambda<\beth_\delta$ を任意の基数とする。$\beth_\delta=\sup_{\alpha<\delta}\beth_\alpha$ なので、ある $\alpha<\delta$ について $\lambda<\beth_\alpha$ である。$\delta$ は極限順序数だから $\alpha+1<\delta$ である。指数関数の単調性から
$$
2^\lambda\le2^{\beth_\alpha}
=\beth_{\alpha+1}
<\beth_\delta.
$$
これはすべての $\lambda<\beth_\delta$ について成り立つので、$\beth_\delta$ は強極限である。$\delta=\omega$ を取れば非可算の具体例が得られる。$\square$
この命題から強極限基数は任意に大きく存在する。どの基数 $\mu$ より大きい beth 数から始めても、その先の極限段階に強極限基数を取れる。ただし、そこから到達不能基数が存在するとはいえない。強極限性に正則性は含まれず、上の構成はしばしば特異な基数を与える。
$\operatorname{cf}(\beth_\omega)=\omega$ である。従って $\beth_\omega$ は強極限だが正則でなく、到達不能基数ではない。
定義により列 $(\beth_n)_{n<\omega}$ は $\beth_\omega$ に共終だから、$\operatorname{cf}(\beth_\omega)\le\omega$ である。$\beth_\omega$ は無限基数で極限順序数なので有限個の順序数では共終にできない。よって $\operatorname{cf}(\beth_\omega)=\omega$ となる。$\beth_\omega>\omega$ だから正則性の等式 $\operatorname{cf}(\beth_\omega)=\beth_\omega$ は成り立たない。$\square$
ここで「特異」は強極限性の否定ではなく、共終数が自分より小さいことを指す。強極限で特異な基数の上で $2^\kappa$ がどれほど大きくなれるかは、特異基数算術の深い問題である。$\beth_\omega$ という例は、強極限という語を巨大基数の存在仮定と直結させてはならないことを示す。
一般化連続体仮説(GCH)は、すべての無限基数 $\lambda$ に対して $2^\lambda=\lambda^+$ と主張する。この仮説の下では、無限の極限基数と強極限基数が一致する(Jec03 Chapter 5, p. 58)。だが、この同一視は GCH なしには正当化できない。
GCH を仮定する。無限基数 $\kappa$ が強極限であることと、$\kappa$ が後続基数でないことは同値である。
強極限なら後続基数でないことは既に示した。逆に $\kappa$ が無限で後続基数でないとする。$\lambda<\kappa$ が無限基数なら、$\lambda^+$ は $\kappa$ 以下である。もし $\lambda^+=\kappa$ なら $\kappa$ は後続基数となって矛盾するから、$\lambda^+<\kappa$ である。GCH から $2^\lambda=\lambda^+<\kappa$ が従う。$\lambda$ が有限なら $2^\lambda$ は有限で $\kappa$ 未満である。従って $\kappa$ は強極限である。$\square$
非可算で正則な極限基数は弱到達不能基数、非可算で正則な強極限基数は到達不能基数である。GCH の下ではこの二概念は一致する。一方、一般の ZFC では極限基数という条件は冪集合の値を制御しない。弱到達不能の正則性と強極限性の差を評価するには、連続体関数について追加の情報が要る。
正則性の役割を逆から見てもよい。$\beth_\omega$ は強極限でも共終数が $\omega$ だから到達不能ではない。$\aleph_1$ は ZFC で正則だが、$\aleph_0^+$ という後続基数なので強極限ではない。到達不能基数には、この両方の例に欠けている条件を同時に要求する。巨大基数記事で「正則」「強極限」が並んで書かれるのは、それぞれ独立した障害を除くためである。
到達不能基数 $\kappa$ が存在すると仮定すると、その下には強極限基数が際限なく現れる。さらに、それらは $\kappa$ の閉非有界集合をなす(Jec03 Chapter 8, p. 95)。この事実はMahlo基数を考えるときにも使うが、本稿では強極限性の閉性を中心に証明する。
$\kappa$ が到達不能基数なら、$\kappa$ 未満の強極限基数全体は $\kappa$ の閉非有界集合である。
まず非有界性を示す。任意の $\gamma<\kappa$ を取り、$\gamma$ より大きい無限基数 $\mu_0<\kappa$ を選ぶ。帰納的に $\mu_{n+1}=2^{\mu_n}$ と置く。$\kappa$ が強極限なので各 $\mu_n<\kappa$ であり、$\kappa$ が正則非可算なので $\mu=\sup_{n<\omega}\mu_n<\kappa$ である。$\mu$ は $\gamma$ より大きく、前節の beth の極限段階と同じ議論で強極限である。
次に閉性を示す。$\kappa$ 未満の強極限基数の非空な増加列が $\delta<\kappa$ に共終であるとする。任意の基数 $\lambda<\delta$ は列のある項 $\mu$ より小さい。$\mu$ の強極限性から $2^\lambda<\mu\le\delta$ である。従って $\delta$ も強極限である。これは順序位相での閉性を示す。$\square$
この命題は「強極限基数は到達不能基数の下で club になる」と述べるだけで、強極限基数全体が一般に正則であるとは述べていない。構成した $\mu$ は可算列の上限なので共終数 $\omega$ の特異基数である。一方、Mahlo 性では定常集合とこの club の交わりを利用して、正則でもある強極限基数を見つける。そこで初めて到達不能基数が現れる。
強極限性は、ある基数 $\lambda<\kappa$ に対する $2^\lambda$ がどこまで達するかに依存する。強制法で新しい部分集合が加わると、この値は変わりうる。基数 $\kappa$ 自体を保存しても、強極限性まで保存するとは限らない。
具体的に、GCH が成り立つ基礎モデルを考える。このモデルの $\aleph_\omega$ は極限基数なので強極限である。$\theta=\aleph_{\omega+1}$ 個の Cohen 実数を加える強制概念 $\operatorname{Add}(\omega,\theta)$ を用いる。条件は $\theta\times\omega$ 上の有限部分関数で、拡張するほど強い。この強制概念は可算鎖条件を満たし、基数と共終数を保つ。同時に、互いに異なる $\theta$ 個の実数を加える(Jec03 Chapter 15)。
上の強制拡大では、基礎モデルの $\aleph_\omega$ は同じ基数として残るが、強極限基数ではなくなる。
可算鎖条件によって基数は保存されるので、拡大後も基礎モデルの $\aleph_\omega$ と $\theta=\aleph_{\omega+1}$ はそれぞれ同じ順位の基数であり、$\aleph_\omega<\theta$ である。新たに加えた実数は $\theta$ 個相異なるので、拡大後の連続体濃度は $2^{\aleph_0}\ge\theta>\aleph_\omega$ となる。ところが $\aleph_0<\aleph_\omega$ である。強極限性の定義を $\lambda=\aleph_0$ に適用すると $2^{\aleph_0}<\aleph_\omega$ が必要だから、それは成り立たない。$\square$
この例は「基数が保存される」と「その基数の性質が保存される」が別の主張であることを示す。強制拡大では同じ順序数が同じ基数であっても、その下の冪集合の濃度が変わることがある。逆に、どの強制法でも必ず強極限性が失われるという意味ではない。保存を論じるには強制概念と対象の基数を具体的に指定しなければならない。
ある無限基数 $\kappa$ が強極限か調べるとき、まず後続基数なら直ちに否定できる。極限基数なら、各 $\lambda<\kappa$ に対して $2^\lambda<\kappa$ を確かめる必要がある。beth 数の極限段階では、$\lambda$ を一つ手前の $\beth_\alpha$ 以下に押し込むことで証明できる。GCH が使える状況なら、極限基数という位置だけで判定できる。
強極限性と正則性は別々に確認する。$\beth_\omega$ のような特異強極限が ZFC で構成できる一方、正則な後続基数は強極限でない。非可算性を加えて両条件がそろった場合が到達不能基数である。したがって「強極限」と聞いただけで巨大基数仮説を仮定したことにはならない。
また、$2^\lambda<\kappa$ に現れる不等号は厳密である。$2^\lambda=\kappa$ でも強極限性は失敗する。$\lambda^+\le2^\lambda$ なので、後続基数に対しては等号かそれ以上という障害が必ずある。連続体仮説・GCH・強制法を使う議論では、どの模型で指数を計算しているかも明記する。
本文の命題の仮定を外した例と、強極限・極限・正則の間の含意が成り立たない例をまとめる。$\beth_\omega$ と $\aleph_1$ の例は ZFC だけで示せる。$\aleph_\omega$ の例は、GCH が成り立つ基礎モデルからの強制拡大(「強制拡大で変わる性質」の節)で示す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 底 $\mu<\kappa$(prop-strong-limit-cardinal-exponent) | $\kappa=\beth_\omega$、$\mu=\kappa$、$\nu=\aleph_0$ | $\mu^\nu<\kappa$ |
| GCH(prop-strong-limit-cardinal-gch) | 本文の強制拡大での $\aleph_\omega$ | 極限基数なら強極限 |
| 正則性を強極限で代える | $\beth_\omega$ | 到達不能であること(prop-strong-limit-cardinal-singular) |
| 強極限性を正則性で代える | $\aleph_1$ | 強極限であること(prop-strong-limit-cardinal-successor) |
| 不等号の厳密さ($2^\lambda\le\kappa$ に弱める) | $\kappa=\beth_1=2^{\aleph_0}$ | 強極限であること |
$\kappa=\beth_\omega$ は強極限だが、$\kappa^{\aleph_0}>\kappa$ である。$\kappa$ 個の関数 $f_\xi:\omega\to\kappa$($\xi<\kappa$)を任意に与えて、どれとも異なる関数 $h:\omega\to\kappa$ を作る。各 $n$ について集合 $\{f_\xi(n)\mid\xi<\beth_n\}$ の濃度は $\beth_n$ 以下で $\kappa$ 未満だから、そこに属さない最小の順序数 $h(n)<\kappa$ がある。任意の $\xi<\kappa$ はある $n$ について $\xi<\beth_n$ を満たし、そのとき $h(n)\ne f_\xi(n)$ である。したがって $\omega$ から $\kappa$ への関数全体は $\kappa$ 個の関数で尽くせず、$\kappa^{\aleph_0}>\kappa$ となる。破るのは「底 $\mu$ も $\kappa$ 未満」という仮定であり、指数 $\nu=\aleph_0$ は $\kappa$ 未満のままでも結論が崩れる。この議論は $\beth_n$ という可算な共終列を使っており、$\kappa$ が特異であることが効いている。
prop-strong-limit-cardinal-forcing の拡大では、$\aleph_\omega$ は後続基数でない基数として残るが、$2^{\aleph_0}\ge\aleph_{\omega+1}>\aleph_\omega$ なので強極限でない。この拡大では GCH が $\lambda=\aleph_0$ で破れている。破るのは GCH であり、prop-strong-limit-cardinal-gch の同値の「後続基数でないなら強極限」の向きが崩れる。
$\beth_1=2^{\aleph_0}$ は $\lambda=\aleph_0$ で $2^\lambda=\kappa$ となり、定義の厳密な不等号を満たさないので強極限でない。$\beth_\omega$ と $\aleph_1$ の行は本文の命題で確かめた。
強極限基数の定義、小さい指数演算、beth 数、GCH および到達不能基数との関係は Jec03 Chapter 5, pp. 55–59 に基づく。Cohen 実数を加える強制概念、その可算鎖条件と基数保存は同書 Chapter 15 を参照した。到達不能基数の下の強極限基数が閉非有界であることは同書 Chapter 8, p. 95 にも現れる。
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