閉グラフ定理(closed graph theorem)とは、Banach 空間 $X,Y$ の間で $X$ 全体に定義された線形写像 $T\colon X\to Y$ について、グラフ $\{(x,Tx):x\in X\}$ が $X\times Y$ の閉集合であることと $T$ が有界(連続)であることが同値だ、という定理である。連続性の代わりに「$x_n\to x$ かつ $Tx_n\to y$ なら $y=Tx$」を確かめればよく、座標や汎関数を通した極限の比較から有界性が得られる。線形性、$X$ と $Y$ の完備性、全域での定義のどれを外しても成り立たず($Y$ の完備性を外す反例は選択公理を使う)、微分作用素のように定義域が真部分空間の閉作用素は有界とは限らない。
閉グラフ定理(closed graph theorem)は、Banach 空間の間の全域で定義された線形写像について、グラフが閉集合であることと連続であることが同値だと述べる定理である。連続性を示すには「$x_n\to x$ なら $Tx_n\to Tx$」を確かめる必要があるが、グラフが閉であることを示すには「$x_n\to x$ かつ $Tx_n\to y$ なら $y=Tx$」を確かめればよい。後者では $Tx_n$ の収束を仮定してよいので、ノルムの評価を直接書き下さなくても連続性が得られる。
以下、係数体 $\mathbb K$ は $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とする。
$X,Y$ をノルム空間、$T\colon X\to Y$ を線形写像とする。
このノルムで $(x_n,y_n)\to(x,y)$ となることは、$x_n\to x$ かつ $y_n\to y$ となることと同じである。したがって $\Gamma(T)$ が閉集合であることは、次の条件と同値である。
$$ x_n\to x\ \text{かつ}\ Tx_n\to y\quad\Longrightarrow\quad y=Tx. $$
$X,Y$ が Banach 空間なら、$X\times Y$ は上のノルムについて Banach 空間である。
$(x_n,y_n)$ が Cauchy 列なら、$\|x_n-x_m\|_X\leq\|(x_n,y_n)-(x_m,y_m)\|$ より $(x_n)$ は $X$ の Cauchy 列であり、極限 $x$ をもつ。同様に $(y_n)$ も極限 $y$ をもつ。成分ごとの収束は直積での収束と同じだから、$(x_n,y_n)\to(x,y)$ である。$\square$
グラフが閉であることは、有界性からは完備性なしに従う。
$X,Y$ をノルム空間、$T\colon X\to Y$ を有界線形写像とする。このとき $\Gamma(T)$ は $X\times Y$ の閉集合である。
$x_n\to x$、$Tx_n\to y$ とする。$\|Tx_n-Tx\|_Y\leq C\|x_n-x\|_X\to0$ だから $Tx_n\to Tx$ である。ノルム空間の点列の極限はただ一つなので $y=Tx$ である。$\square$
$X,Y$ を Banach 空間、$T\colon X\to Y$ を $X$ 全体で定義された線形写像とする。このとき次は同値である。
証明の考え方は、グラフ $\Gamma(T)$ を一つの Banach 空間と見て、二つの射影で $X$ と $Y$ につなぐことである。$p(x,y):=x$、$q(x,y):=y$ とおくと、次の図式が可換になる。
$$ \xymatrix{ & \Gamma(T) \ar[dl]_{p} \ar[dr]^{q} & \\ X \ar[rr]_{T} & & Y } $$
図式が可換とは $T\circ p=q$、すなわちグラフの点 $(x,Tx)$ について $T(p(x,Tx))=q(x,Tx)$ ということである。$p$ が可逆なら $T=q\circ p^{-1}$ となり、$T$ の有界性は $p^{-1}$ の有界性に帰着する。
1 ⇒ 2 は prop-cgt-easy である。
2 ⇒ 1 を示す。$\Gamma(T)$ は Banach 空間 $X\times Y$(lem-cgt-product)の閉線形部分空間なので、それ自身 Banach 空間である。射影 $p\colon\Gamma(T)\to X$、$p(x,Tx)=x$ は線形で、
$$
\|p(x,Tx)\|_X=\|x\|_X\leq\max(\|x\|_X,\|Tx\|_Y)=\|(x,Tx)\|
$$
だから有界である。$p$ は単射である($p(x,Tx)=0$ なら $x=0$、したがって $Tx=0$)。さらに $T$ が $X$ 全体で定義されているので、どの $x\in X$ も $p(x,Tx)$ として現れ、$p$ は全射である。
Banach 空間の間の有界な線形全単射の逆写像は有界である(有界逆写像定理)。よって $p^{-1}\colon X\to\Gamma(T)$、$p^{-1}(x)=(x,Tx)$ は有界で、ある $C$ について
$$
\|Tx\|_Y\leq\max(\|x\|_X,\|Tx\|_Y)=\|p^{-1}(x)\|\leq C\|x\|_X\qquad(x\in X)
$$
が成り立つ。すなわち $T$ は有界である。$\square$
仮定の使われ方を確かめておく。$X,Y$ の完備性は $\Gamma(T)$ と $X$ を Banach 空間にして有界逆写像定理を使うため、$T$ が全域で定義されていることは $p$ の全射性のため、線形性は $\Gamma(T)$ が線形部分空間で $p$ が線形写像であるために使った。どれか一つを外すと結論は成り立たない($Y$ の完備性を外す反例は選択公理を使う。後の節「仮定を外すと成り立たなくなること」の表)。
閉グラフ定理を使うときは、$x_n\to x$ と $Tx_n\to y$ を仮定し、何らかの連続な量を通して $y=Tx$ を確かめる。この形を一般的に述べると次のようになる。
$X,Y$ を Banach 空間、$T\colon X\to Y$ を線形写像とする。$Y$ 上の連続線形汎関数の族 $\Phi$ が $Y$ の点を分離する($y\neq0$ ならある $\varphi\in\Phi$ で $\varphi(y)\neq0$)とし、各 $\varphi\in\Phi$ について $\varphi\circ T\colon X\to\mathbb K$ が連続であるとする。このとき $T$ は有界である。
$x_n\to x$、$Tx_n\to y$ とする。各 $\varphi\in\Phi$ について、$\varphi$ の連続性から $\varphi(Tx_n)\to\varphi(y)$、$\varphi\circ T$ の連続性から $\varphi(Tx_n)\to\varphi(Tx)$ である。極限は一つなので $\varphi(y-Tx)=0$ がすべての $\varphi\in\Phi$ で成り立ち、分離性から $y=Tx$ となる。よって $\Gamma(T)$ は閉であり、thm-cgt-main により $T$ は有界である。$\square$
$\Phi$ として $Y$ 上の連続線形汎関数全体をとった場合は Axl20 演習 6E.19 にあたる。内積空間の内積 $\langle\cdot,z\rangle$ を汎関数にとると、Hilbert 空間上の対称な作用素が有界になるという結果(開写像定理 の「対称な作用素の有界性」)もこの形で得られる。
複素数列 $a=(a_n)_{n\geq1}$ が、すべての $x\in\ell^2$ について $ax:=(a_nx_n)_n\in\ell^2$ を満たすとする。このとき $a$ は有界列であり、$M_a\colon x\mapsto ax$ は $\ell^2$ 上の有界作用素で $\|M_a\|=\sup_n\lvert a_n\rvert$ となる。
確認。 $M_a$ は線形である。第 $n$ 座標をとる汎関数 $\varphi_n(y)=y_n$ は $\lvert y_n\rvert\leq\|y\|_2$ より連続で、$\{\varphi_n\}$ は $\ell^2$ の点を分離する。$\varphi_n\circ M_a(x)=a_nx_n$ は連続だから、prop-cgt-separating により $M_a$ は有界である。第 $n$ 単位ベクトル $e_n$ について $\lvert a_n\rvert=\|M_ae_n\|_2\leq\|M_a\|$ だから $\sup_n\lvert a_n\rvert\leq\|M_a\|<\infty$ である。逆に $\|ax\|_2^2=\sum\lvert a_n\rvert^2\lvert x_n\rvert^2\leq(\sup_n\lvert a_n\rvert)^2\|x\|_2^2$ より $\|M_a\|\leq\sup_n\lvert a_n\rvert$ である。
この例では、仮定は「$ax$ が $\ell^2$ に入る」という集合の条件だけで、ノルムの評価は何も仮定していない。閉グラフ定理が、集合としての条件から量的な評価を引き出している。
微分のように、よく使われる線形写像には全域で定義されないものが多い。そのような写像にはグラフの閉性が有界性の代わりの基本条件になる。
$X,Y$ を Banach 空間、$D(T)\subseteq X$ を線形部分空間、$T\colon D(T)\to Y$ を線形写像とする。グラフ $\Gamma(T)=\{(x,Tx) : x\in D(T)\}$ が $X\times Y$ の閉集合であるとき、$T$ を閉作用素という。$D(T)$ 上のグラフノルムを $\|x\|_T:=\|x\|_X+\|Tx\|_Y$ と定める。
$T$ が閉作用素なら、$(D(T),\|\cdot\|_T)$ は Banach 空間であり、$T\colon(D(T),\|\cdot\|_T)\to Y$ は有界である。
$(x_n)$ がグラフノルムの Cauchy 列なら、$(x_n)$ は $X$ で、$(Tx_n)$ は $Y$ で Cauchy 列であり、それぞれ極限 $x,y$ をもつ。$\Gamma(T)$ は閉だから $x\in D(T)$ かつ $y=Tx$ であり、$\|x_n-x\|_T=\|x_n-x\|_X+\|Tx_n-Tx\|_Y\to0$ となる。有界性は $\|Tx\|_Y\leq\|x\|_T$ から従う。$\square$
$X=Y=C([0,1])$ に上限ノルム $\|\cdot\|_\infty$ を入れ、$D(T)=C^1([0,1])$、$Tf=f'$ とする。$T$ は閉作用素だが、$\|\cdot\|_\infty$ について有界でない。
閉であること。 $f_n\to f$、$f_n'\to g$ がともに一様収束するとする。微分積分学の基本定理から $f_n(t)=f_n(0)+\int_0^tf_n'(s)\,ds$ であり、一様収束のもとで積分と極限を交換すると $f(t)=f(0)+\int_0^tg(s)\,ds$ となる。$g$ は連続なので $f\in C^1([0,1])$ かつ $f'=g$ である。
有界でないこと。 $f_n(t)=t^n$ とすると $\|f_n\|_\infty=1$、$\|Tf_n\|_\infty=\sup_t nt^{n-1}=n$ である。
この例のグラフノルムは $\|f\|_\infty+\|f'\|_\infty$ であり、$C^1([0,1])$ はこのノルムで Banach 空間になる(prop-cgt-graph-norm)。一方、上限ノルムだけでは完備でない。定義域の閉性については次が成り立つ。
$T\colon D(T)\to Y$ を閉作用素とする。$D(T)$ が $X$ の閉部分空間なら、$T$ は $\|\cdot\|_X$ について有界である。
閉部分空間 $D(T)$ は $X$ のノルムで Banach 空間であり、$\Gamma(T)$ は $D(T)\times Y$ の中でも閉集合である。thm-cgt-main を $D(T)$ と $Y$ に適用すればよい。$\square$
したがって、閉で有界でない作用素の定義域は閉部分空間ではない。微分の例の $C^1([0,1])$ は $C([0,1])$ の中で稠密で(多項式を含むので、Weierstrass の近似定理による)、閉ではない。
グラフが閉でない作用素でも、グラフの閉包が再びあるグラフになるなら扱いやすい。
$T\colon D(T)\to Y$ を線形写像とする。$\Gamma(T)$ の閉包 $\overline{\Gamma(T)}$ がある線形写像 $\overline T$ のグラフになるための必要十分条件は、
$$
x_n\in D(T),\quad x_n\to0,\quad Tx_n\to y\quad\Longrightarrow\quad y=0
$$
が成り立つことである。このとき $T$ は閉包をもつ(可閉である)といい、$\overline T$ は $T$ を延長する閉作用素である。
$\overline{\Gamma(T)}$ は $X\times Y$ の閉線形部分空間である。線形部分空間 $G\subseteq X\times Y$ があるグラフになるのは、各 $x$ について $(x,y)\in G$ となる $y$ が高々一つのときであり、線形性からこれは「$(0,y)\in G$ なら $y=0$」と同値である($(x,y),(x,y')\in G$ なら $(0,y-y')\in G$)。$(0,y)\in\overline{\Gamma(T)}$ とは、$x_n\to0$、$Tx_n\to y$ となる $x_n\in D(T)$ があることにほかならない。$\overline T$ のグラフは $\Gamma(T)$ を含む閉集合なので、$\overline T$ は $T$ の延長で閉作用素である。$\square$
$X=Y=\ell^2$、$D(T)$ を有限個の項を除いて $0$ である数列全体とし、$Tx:=\bigl(\sum_nx_n\bigr)e_1$ とおく。$x^{(N)}:=\frac1N(e_1+\dots+e_N)$ とすると、$\|x^{(N)}\|_2=\sqrt{N\cdot N^{-2}}=N^{-1/2}\to0$ だが、$Tx^{(N)}=e_1$ である。prop-cgt-closable の条件が $y=e_1\neq0$ で破れるので、$T$ は閉包をもたない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $T$ が線形 | $f(x)=1/x$($x\neq0$)、$f(0)=0$ の $f\colon\mathbb R\to\mathbb R$ | グラフが閉なら連続 |
| $X$ が完備 | $X=(C^1([0,1]),\Vert \cdot\Vert _\infty)$、$Y=C([0,1])$、$Tf=f'$ | グラフが閉なら有界 |
| $T$ が $X$ 全体で定義 | $D(T)=C^1([0,1])\subsetneq C([0,1])$ の微分(ex-cgt-derivative) | グラフが閉なら有界 |
| $Y$ が完備 | 恒等写像 $(X,\Vert \cdot\Vert )\to(X,\Vert \cdot\Vert _\varphi)$(ex-cgt-y-incomplete、選択公理を使う) | グラフが閉なら有界 |
1 行目では、グラフ $\{(x,1/x) : x\neq0\}\cup\{(0,0)\}$ は双曲線の 2 本の枝と原点からなり、$\mathbb R^2$ の閉集合である(双曲線 $xy=1$ は連続関数の零点集合なので閉)。しかし $1/n\to0$ で $f(1/n)=n$ は発散し、$f$ は $0$ で連続でない。
2 行目と 3 行目は同じ微分作用素を二通りに見たものである。定義域を $C^1([0,1])$ に上限ノルムを入れた空間と見れば全域で定義されているが、その空間は完備でない。$C([0,1])$ の部分空間上の作用素と見れば空間は完備だが、全域では定義されていない。グラフの閉性は ex-cgt-derivative で示した。
$X$ を無限次元 Banach 空間とし、$\varphi\colon X\to\mathbb K$ を連続でない線形汎関数とする(選択公理を使えば、Hamel 基底をとって作れる。Axl20 6.62、p. 177)。$X$ 上に別のノルム $\|x\|_\varphi:=\|x\|+\lvert\varphi(x)\rvert$ を入れ、$T\colon(X,\|\cdot\|)\to(X,\|\cdot\|_\varphi)$ を恒等写像とする。
$(X,\|\cdot\|)$ は Banach 空間なので、thm-cgt-main と合わせると、$(X,\|\cdot\|_\varphi)$ は完備でないことが分かる(Axl20 演習 6E.16)。
逆に、全域で定義された有界でない線形写像 $T\colon X\to Y$($X,Y$ は Banach 空間)は、定理によりグラフが閉でない。上の $\varphi$ はその例である。
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