Hodge構造

同義語:Hodge structureホッジ構造純Hodge構造

概要

Hodge構造(Hodge structure)とは、有限生成アーベル群 $H_{\mathbb{Z}}$ と、その複素化の直和分解 $H_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p+q=n}H^{p,q}$ で複素共役について $\overline{H^{p,q}}=H^{q,p}$ を満たすものの組であり、コンパクト Kähler 多様体のコホモロジーがもつ Hodge 分解を線型代数の対象として公理化したものである。分解は Hodge フィルトレーション $F^p=\bigoplus_{p'\ge p}H^{p',n-p'}$ と同じ情報をもち、Deligne トーラスの表現とも言い換えられる。型を保つ準同型を射としてアーベル圏をなし、テンソル積・双対・Tate 捻りをもつ。複素トーラスは重さ $-1$ の Hodge 構造に対応し、偏極可能なものは半単純な圏をなす。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル空間, 有限生成アーベル群, テンソル積, 複素共役, アーベル圏, Hodge分解

定義

Hodge 構造は、コンパクト(コンパクト空間)な Kähler多様体 $X$ のコホモロジー $H^n(X,\mathbb{Z})$ がもつ構造、すなわち整数係数の格子と複素係数の Hodge分解 $H^n(X,\mathbb{C})=\bigoplus_{p+q=n}H^{p,q}(X)$ を、多様体から切り離して線型代数の対象として公理化したものである。以下、有限生成アーベル群 $H_{\mathbb{Z}}$ に対し $H_{\mathbb{Q}}:=H_{\mathbb{Z}}\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{Q}$、$H_{\mathbb{R}}:=H_{\mathbb{Z}}\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{R}$、$H_{\mathbb{C}}:=H_{\mathbb{Z}}\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{C}$ と書く(テンソル積。捩れ元は消える)。$H_{\mathbb{C}}$ には第 2 因子の複素共役から反線型な対合 $x\mapsto\bar{x}$ が定まり、その固定点は $H_{\mathbb{R}}$ である。$H_{\mathbb{C}}$ の部分空間 $V$ に対し $\overline{V}:=\{\bar{x}\mid x\in V\}$ と書く。

重さ $n$ の純 Hodge 構造

$n$ を整数とする。重さ $n$ の純 Hodge 構造(pure Hodge structure of weight $n$)とは、有限生成アーベル群 $H_{\mathbb{Z}}$ と、複素ベクトル空間 $H_{\mathbb{C}}$ の直和分解
$$ H_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p+q=n}H^{p,q}\qquad(p,q\in\mathbb{Z}) $$
の組 $(H_{\mathbb{Z}},\{H^{p,q}\})$ であって、Hodge 対称性
$$ \overline{H^{p,q}}=H^{q,p}\qquad(p+q=n) $$
を満たすものをいう。$H^{p,q}$ を型 $(p,q)$ の Hodge 成分、$h^{p,q}:=\dim_{\mathbb{C}}H^{p,q}$ を Hodge 数(Hodge数)という。$H_{\mathbb{Z}}$ を $\mathbb{Q}$ 上の有限次元ベクトル空間 $H_{\mathbb{Q}}$ に置き換えたものを有理 Hodge 構造、$\mathbb{R}$ 上のベクトル空間 $H_{\mathbb{R}}$ に置き換えたものを実 Hodge 構造という。重さを固定しないときは、$H_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p,q}H^{p,q}$ を Hodge 対称性を満たす 2 重次数付けとし、$H_n:=\bigoplus_{p+q=n}H^{p,q}$ が $H_{\mathbb{Q}}$ 上定義される(すなわち $H_{\mathbb{Q}}$ の部分空間 $W_n$ で $W_n\otimes\mathbb{C}=H_n$ となるものがある)ことを要求する。この記事では主に重さ $n$ の純 Hodge 構造を扱い、単に Hodge 構造と呼ぶ。

Hodge 対称性から $h^{p,q}=h^{q,p}$ であり、$n$ が奇数なら $\operatorname{rank}H_{\mathbb{Z}}=\sum_{p+q=n}h^{p,q}$ は偶数である。型 $(p,q)$ の成分は $p,q$ が負でもよい(Tate 構造 ex-hodge-structure-tate を見よ)。
Hodge 構造は、分解の代わりに 1 本のフィルトレーションで記述できる。この言い換えが、代数幾何で得られる Hodge フィルトレーション(Hodgeフィルトレーション)と結びつき、また混合 Hodge 構造(def-hodge-structure-mixed)の定義の土台になる。

分解から定まるフィルトレーション

重さ $n$ の Hodge 構造 $(H_{\mathbb{Z}},\{H^{p,q}\})$ に対し、
$$ F^pH_{\mathbb{C}}:=\bigoplus_{p'\ge p}H^{p',n-p'}\qquad(p\in\mathbb{Z}) $$
とおく。これは $H_{\mathbb{C}}$ の減少フィルトレーション $\cdots\supset F^p\supset F^{p+1}\supset\cdots$ であり、$p$ が十分小さければ $F^p=H_{\mathbb{C}}$、十分大きければ $F^p=0$ である。これを Hodge 構造の Hodge フィルトレーションという。

Hodge フィルトレーションによる特徴づけ

$H_{\mathbb{Z}}$ を有限生成アーベル群、$n$ を整数とする。$H_{\mathbb{C}}$ の有限な減少フィルトレーション $F^\bullet$(ある $p_0< p_1$ について $F^{p_0}=H_{\mathbb{C}}$、$F^{p_1}=0$)で、すべての $p$ について
$$ H_{\mathbb{C}}=F^p\oplus\overline{F^{\,n-p+1}} $$
を満たすものと、$H_{\mathbb{Z}}$ 上の重さ $n$ の Hodge 構造とは、次の対応で 1 対 1 に対応する。

  1. Hodge 構造 $\{H^{p,q}\}$ に対しては、その Hodge フィルトレーション $F^p=\bigoplus_{p'\ge p}H^{p',n-p'}$ を対応させる。
  2. フィルトレーション $F^\bullet$ に対しては、$H^{p,q}:=F^p\cap\overline{F^{\,q}}$($p+q=n$)を対応させる。
  1. Hodge 構造 $\{H^{p,q}\}$ から出発し、$F^p:=\bigoplus_{p'\ge p}H^{p',n-p'}$ とおく。Hodge 対称性により
    $$ \overline{F^{\,n-p+1}}=\bigoplus_{p'\ge n-p+1}\overline{H^{p',n-p'}}=\bigoplus_{p'\ge n-p+1}H^{n-p',p'}=\bigoplus_{q'\le p-1}H^{q',n-q'} $$
    である($q'=n-p'$ と置き換えた)。$F^p$ は添字 $p'\ge p$、$\overline{F^{n-p+1}}$ は添字 $q'\le p-1$ の成分の直和なので、$H_{\mathbb{C}}=F^p\oplus\overline{F^{n-p+1}}$ が成り立ち、有限性は明らかである。さらに $p+q=n$ のとき $\overline{F^{\,q}}=\bigoplus_{p'\le p}H^{p',n-p'}$ であるから、同じ直和分解の部分どうしの共通部分として
    $$ F^p\cap\overline{F^{\,q}}=\bigoplus_{p\le p'\le p}H^{p',n-p'}=H^{p,q} $$
    を得る。すなわち対応 1 のあとに対応 2 を施すともとの Hodge 構造に戻る。
  2. 条件を満たすフィルトレーション $F^\bullet$ から出発し、$H^{p,q}:=F^p\cap\overline{F^{\,q}}$($p+q=n$)とおく。まず Hodge 対称性は $\overline{H^{p,q}}=\overline{F^p}\cap F^q=H^{q,p}$ として直ちに従う。次に、各 $p$ について
    $$ F^p=H^{p,n-p}\oplus F^{p+1} $$
    を示す。$F^{p+1}\subset F^p$ かつ $H^{p,n-p}\subset F^p$ である。共通部分は $H^{p,n-p}\cap F^{p+1}\subset\overline{F^{\,n-p}}\cap F^{p+1}$ であり、仮定を $p+1$ に対して用いると $H_{\mathbb{C}}=F^{p+1}\oplus\overline{F^{\,n-(p+1)+1}}=F^{p+1}\oplus\overline{F^{\,n-p}}$ なので、この共通部分は $0$ である。和については、$x\in F^p$ をとり、同じ分解によって $x=y+z$($y\in F^{p+1}$、$z\in\overline{F^{\,n-p}}$)と書くと、$z=x-y\in F^p$ なので $z\in F^p\cap\overline{F^{\,n-p}}=H^{p,n-p}$ である。よって $F^p=H^{p,n-p}+F^{p+1}$ であり、直和である。
    この等式を $p=p_1-1,p_1-2,\dots$ と順に用いる($F^{p_1}=0$)と、数学的帰納法により
    $$ F^p=\bigoplus_{p'\ge p}H^{p',n-p'} $$
    がすべての $p$ について成り立ち、$p=p_0$ で $H_{\mathbb{C}}=F^{p_0}=\bigoplus_{p'}H^{p',n-p'}$ を得る。したがって $\{H^{p,q}\}$ は重さ $n$ の Hodge 構造であり、その Hodge フィルトレーションはもとの $F^\bullet$ に一致する。すなわち対応 2 のあとに対応 1 を施すともとのフィルトレーションに戻る。以上で 2 つの対応が互いに逆であることが示された。

Deligne Del71 は Hodge 構造を実代数群(代数群)の表現として言い直した。この見方は Mumford–Tate 群(Mumford–Tate群)や Shimura 多様体(Shimura多様体)で基本的である。

Deligne トーラスと Hodge 構造

$\mathbb{S}:=\operatorname{Res}_{\mathbb{C}/\mathbb{R}}\mathbb{G}_m$(乗法群 $\mathbb{G}_m$ の Weil制限)を Deligne トーラスという。これは $\mathbb{R}$ 上の代数群で、$\mathbb{S}(\mathbb{R})=\mathbb{C}^\times$、$\mathbb{S}(\mathbb{C})\cong\mathbb{C}^\times\times\mathbb{C}^\times$ である。有限次元実ベクトル空間 $H_{\mathbb{R}}$ 上の実 Hodge 構造 $\{H^{p,q}\}$ に対し、$z\in\mathbb{C}^\times$ が $H^{p,q}$ 上で $z^{-p}\bar{z}^{-q}$ 倍として作用するように定めると、代数群の準同型 $h\colon\mathbb{S}\to\mathrm{GL}(H_{\mathbb{R}})$ が得られる。

表現としての特徴づけ

逆に、代数群の準同型 $h\colon\mathbb{S}\to\mathrm{GL}(H_{\mathbb{R}})$ が与えられると、$\mathbb{S}(\mathbb{C})\cong\mathbb{C}^\times\times\mathbb{C}^\times$ の指標 $(z_1,z_2)\mapsto z_1^{-p}z_2^{-q}$ に属する固有空間を $H^{p,q}$ とおくことで $H_{\mathbb{C}}$ の 2 重次数付けが得られ、$h$ が $\mathbb{R}$ 上定義されていることから Hodge 対称性が従う。この対応により、実 Hodge 構造は $\mathbb{S}$ の有限次元実表現と同じものである。重さが $n$ であることは、$t\in\mathbb{R}^\times\subset\mathbb{C}^\times$ に対し $h(t)=t^{-n}\cdot\mathrm{id}$ となることと同値である。整数(有理)Hodge 構造は、$H_{\mathbb{Z}}$($H_{\mathbb{Q}}$)と $H_{\mathbb{R}}$ 上のこのような $h$ の組である。証明と符号の約束($z^{-p}\bar{z}^{-q}$ とするか $z^{p}\bar{z}^{q}$ とするか)については Del71 2.1.5 以下および PS08 第 2 章に譲る。

直感

コンパクト Kähler 多様体 $X$ のコホモロジー $H^n(X,\mathbb{C})$ は、位相だけで決まる格子 $H^n(X,\mathbb{Z})$ を含む一方で、複素構造(複素構造)を反映して型 $(p,q)$ の成分に分かれる。格子と分解は互いに無関係な位置にあり、その「ずれ」が複素構造の情報を運ぶ。楕円曲線(楕円曲線)の場合、格子 $\mathbb{Z}^2\subset\mathbb{C}^2$ に対して直線 $H^{1,0}$ がどこにあるかがちょうど上半平面の点 $\tau$ にあたる(ex-hodge-structure-elliptic-curve)。Hodge 構造とは、この「格子と、それに対して一般の位置にある複素部分空間の分解」を抽象化した線型代数的な対象であり、多様体の族に沿ってこれがどう動くか(Hodge構造の変動、周期写像)、どの類が代数的サイクル(代数的サイクル)から来るか(Hodge予想)を問うための言葉である。

例と反例

コンパクト Kähler 多様体のコホモロジー

$X$ をコンパクト Kähler 多様体(たとえば $\mathbb{C}$ 上の滑らかな射影多様体の解析化)とする。Hodge分解の定理により、特異コホモロジー $H^n(X,\mathbb{Z})$ と分解 $H^n(X,\mathbb{C})=\bigoplus_{p+q=n}H^{p,q}(X)$、$H^{p,q}(X)\cong H^q(X,\Omega_X^p)$(Dolbeaultコホモロジー)は重さ $n$ の Hodge 構造をなす。Hodge 対称性は、型 $(p,q)$ の閉形式の複素共役が型 $(q,p)$ の閉形式であることから来る。その Hodge フィルトレーションは、正則な微分形式の複体 $\Omega_X^{\bullet}$ の次数 $p$ 未満を切り捨てた部分複体 $\Omega_X^{\ge p}$ から定まるフィルトレーションに一致する(Hodgeフィルトレーション、Voi02 第 8 章)。正則写像 $f\colon X\to Y$ による引き戻し $f^*$ は型 $(p,q)$ を保つので Hodge 構造の射(def-hodge-structure-morphism)である。射影空間 $\mathbb{P}^n$ では $H^{2k}(\mathbb{P}^n,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}$ が型 $(k,k)$ のみからなり(Hodge分解の記事の例)、奇数次は $0$ である。

純 Hodge 構造では、重さを固定して非零の型を並べる。楕円曲線 $E$ の各次数と Tate 構造を比べると、次のようになる(Hodge分解。楕円曲線の具体的な直線は ex-hodge-structure-elliptic-curve、Tate 構造は ex-hodge-structure-tate)。

対象重さ非零の Hodge 成分Hodge 数
$H^0(E,\mathbb{Z})$$0$$H^{0,0}$$h^{0,0}=1$
$H^1(E,\mathbb{Z})$$1$$H^{1,0},H^{0,1}$$h^{1,0}=h^{0,1}=1$
$H^2(E,\mathbb{Z})$$2$$H^{1,1}$$h^{1,1}=1$
$\mathbb{Z}(1)$$-2$$H^{-1,-1}$$h^{-1,-1}=1$

最初の 3 行を Hodge ダイヤモンド(Hodge数)に配置すると、
$$ \begin{array}{ccc} & h^{0,0}=1 &\\ h^{1,0}=1 && h^{0,1}=1\\ & h^{1,1}=1 & \end{array} $$
となる。各段は別々の重さの純 Hodge 構造を表し、表の最後の行は幾何学的コホモロジーに限らなければ負の型も許されることを示す。

Tate 構造

整数 $n$ に対し、$\mathbb{Z}(n)$ を、格子 $(2\pi i)^n\mathbb{Z}\subset\mathbb{C}$ と、$\mathbb{C}$ 全体を型 $(-n,-n)$ の 1 つの成分とする分解の組とする。これは重さ $-2n$ の階数 $1$ の Hodge 構造で、Tate 構造(Tate Hodge structure)という。$\mathbb{Z}(0)=\mathbb{Z}$ は型 $(0,0)$ の自明な構造であり、$\mathbb{Z}(n)\otimes\mathbb{Z}(m)\cong\mathbb{Z}(n+m)$、$\mathbb{Z}(n)^\vee\cong\mathbb{Z}(-n)$ である(prop-hodge-structure-tensor-dual)。格子を $(2\pi i)^n\mathbb{Z}$ にとるのは、$H^{2k}(\mathbb{P}^k,\mathbb{Z})$ や $H^1(\mathbb{C}^\times,\mathbb{Z})$ との比較で $2\pi i$ の冪が現れるためである(周期(代数多様体))。Hodge 構造 $H$ に対し $H(n):=H\otimes\mathbb{Z}(n)$ を Tate 捻り(Tate捻り)といい、$H(n)^{p,q}=H^{p+n,q+n}$、重さは $2n$ だけ下がる。型 $(k,k)$ の成分だけからなる階数 $1$ の Hodge 構造は、格子の生成元の選び方を除いて $\mathbb{Z}(-k)$ に同型である。

楕円曲線と上半平面

$\Lambda=\mathbb{Z}\omega_1+\mathbb{Z}\omega_2\subset\mathbb{C}$ を格子とし、$\tau:=\omega_2/\omega_1$ が上半平面 $\mathfrak{H}=\{\tau\in\mathbb{C}\mid\operatorname{Im}\tau>0\}$ に入るように番号をつける。楕円曲線 $E=\mathbb{C}/\Lambda$ の $H^1(E,\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(\Lambda,\mathbb{Z})$ は $\omega_1,\omega_2$ の双対基底 $\gamma_1^*,\gamma_2^*$ をもち、$H^{1,0}$ は正則 1 形式 $dz$ の類で張られる。$dz$ の $\omega_j$ に沿った積分(周期)は $\omega_j$ なので、$[dz]=\omega_1\gamma_1^*+\omega_2\gamma_2^*$、すなわち
$$ H^{1,0}=\mathbb{C}\cdot(\omega_1,\omega_2)=\mathbb{C}\cdot(1,\tau),\qquad H^{0,1}=\overline{H^{1,0}}=\mathbb{C}\cdot(1,\bar{\tau}) $$
であり、$\tau\notin\mathbb{R}$ からこの 2 直線は $H^1(E,\mathbb{C})=\mathbb{C}^2$ を張る。逆に、$H_{\mathbb{Z}}=\mathbb{Z}^2$、$h^{1,0}=h^{0,1}=1$ の重さ $1$ の Hodge 構造は、直線 $L=H^{1,0}\subset\mathbb{C}^2$ で $L\cap\overline{L}=0$ を満たすもの、すなわち実ベクトルに比例しない $(u,v)$ による $L=\mathbb{C}(u,v)$ で定まる。$u\ne0$($(0,v)$ は実ベクトル $(0,1)$ に比例する)なので $L=\mathbb{C}(1,\tau)$、$\tau=v/u\notin\mathbb{R}$ と正規化でき、$\tau\in\mathfrak{H}$ か $\bar{\tau}\in\mathfrak{H}$ である。格子の基底の取り替え $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$ は $\tau$ を $(a\tau+b)/(c\tau+d)$ に写し、行列式 $-1$ の元は上半平面と下半平面を入れ替えるので、このような Hodge 構造の同型類は $\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z})\backslash\mathfrak{H}$ と 1 対 1 に対応する。これは楕円曲線の同型類(j不変量)の一覧と同じであり、双対をとれば prop-hodge-structure-torus の 1 次元の場合である。

楕円曲線の例を高次元にすると、次の対応が得られる。ここで複素トーラス(複素トーラス)とは、$g$ 次元複素ベクトル空間 $V$ とその格子 $\Lambda$($\mathbb{R}$ 上 $V$ を張る階数 $2g$ の離散部分群)による商 $T=V/\Lambda$ である。

複素トーラスと重さ $-1$ の Hodge 構造

複素トーラス $T=V/\Lambda$ に対し、$H_1(T,\mathbb{Z})=\Lambda$ 上に、$H^{0,-1}$ を $\mathbb{C}$ 線型な全射
$$ \varphi\colon\Lambda\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{C}=V\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}\to V,\qquad v\otimes z\mapsto zv $$
の核、$H^{-1,0}$ をその複素共役 $\overline{H^{0,-1}}$ とする重さ $-1$ の Hodge 構造が定まり、$\varphi$ は同型 $H_1(T,\mathbb{C})/H^{0,-1}\cong V$ を誘導する。逆に、$H_{\mathbb{Z}}$ が捩れ元をもたず $H_{\mathbb{C}}=H^{-1,0}\oplus H^{0,-1}$ である重さ $-1$ の Hodge 構造 $H$ に対し、$V_H:=H_{\mathbb{C}}/H^{0,-1}$ とおくと、合成 $\iota\colon H_{\mathbb{R}}\hookrightarrow H_{\mathbb{C}}\to V_H$ は $\mathbb{R}$ 線型同型で、$T_H:=V_H/\iota(H_{\mathbb{Z}})$ は複素トーラスである。2 つの構成は互いに逆であり、複素トーラスの圏(射は正則な群準同型)は、この型の Hodge 構造の圏(射は def-hodge-structure-morphism)と圏同値(圏同値)である。

要点:複素化の第2因子の共役を使うと二つの核は共役で、交わりは0になる。逆向きには実部分空間から商への写像で格子を得る。

詳しい証明を開く

$T=V/\Lambda$ から始める。$V$ は可縮なので $H_1(T,\mathbb{Z})=\pi_1(T)=\Lambda$ であり(基本群)、$\Lambda\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{R}=V$ から $\Lambda\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{C}=V\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}$ である。$\varphi$ は $\mathbb{C}$ 線型で全射($v\otimes1\mapsto v$)なので $\dim_{\mathbb{C}}\ker\varphi=2g-g=g$ である。$\sigma(v\otimes z):=v\otimes\bar z$ を第2因子の共役から定まる反線型な対合とし、$\psi:=\varphi\circ\sigma$、すなわち $\psi(v\otimes z)=\bar z v$ とおくと $\ker\psi=\sigma(\ker\varphi)$ である。$x=\sum_jv_j\otimes z_j\in\ker\varphi\cap\ker\psi$ をとり $z_j=a_j+ib_j$($a_j,b_j\in\mathbb{R}$)と書くと、$\sum_jz_jv_j=0$ と $\sum_j\bar{z}_jv_j=0$ の和と差から $\sum_ja_jv_j=0$、$\sum_jb_jv_j=0$ であり、$\otimes_{\mathbb{R}}$ の双線型性から $x=\Big(\sum_ja_jv_j\Big)\otimes1+\Big(\sum_jb_jv_j\Big)\otimes i=0$ となる。よって次元を数えて $H_1(T,\mathbb{C})=\ker\psi\oplus\ker\varphi$ であり、$H^{-1,0}:=\ker\psi$、$H^{0,-1}:=\ker\varphi$ は Hodge 対称性を満たす重さ $-1$ の Hodge 構造を与える。$\varphi$ が同型 $H_1(T,\mathbb{C})/H^{0,-1}\cong V$ を誘導することは全射性と核の定義による。

逆に $H$ から始める。$x\in H_{\mathbb{R}}\cap H^{0,-1}$ なら $x=\bar{x}\in H^{-1,0}\cap H^{0,-1}=0$ なので $\iota$ は単射であり、$g:=h^{-1,0}=h^{0,-1}$ とおくと $\dim_{\mathbb{R}}H_{\mathbb{R}}=\operatorname{rank}H_{\mathbb{Z}}=2g=2\dim_{\mathbb{C}}H^{-1,0}=\dim_{\mathbb{R}}V_H$ なので $\iota$ は $\mathbb{R}$ 線型同型で、$\iota(H_{\mathbb{Z}})$ は $V_H$ を $\mathbb{R}$ 上張る階数 $2g$ の離散部分群、すなわち格子である。

2 つの構成が互いに逆であること:$T=V/\Lambda$ から作った Hodge 構造では $\varphi$ が $V_H=H_1(T,\mathbb{C})/H^{0,-1}\cong V$ を与え、この同型のもとで $\iota$ は包含 $\Lambda\otimes\mathbb{R}=V$ に一致するので $T_H\cong T$ である。逆に $H$ から作った $T_H$ に対し、$\iota$ による同一視 $H_{\mathbb{C}}=V_H\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}$ のもとで $\varphi(y\otimes1+w\otimes i)=\iota(y)+i\iota(w)$($y,w\in H_{\mathbb{R}}$)は、$\mathbb{C}$ 線型な商写像 $H_{\mathbb{C}}\to H_{\mathbb{C}}/H^{0,-1}=V_H$ に一致する。したがって $\ker\varphi=H^{0,-1}$ であり、もとの Hodge 構造に戻る。

射について。複素トーラスの正則な群準同型 $f\colon V/\Lambda\to V'/\Lambda'$ は、$F(\Lambda)\subset\Lambda'$ を満たす $\mathbb{C}$ 線型写像 $F\colon V\to V'$ にただ 1 通りに持ち上がる(BL04 Proposition 1.2.1)。$\varphi'\circ(F\otimes\mathrm{id}_{\mathbb{C}})=F\circ\varphi$ から $F\otimes\mathrm{id}$ は $\ker\varphi$ を $\ker\varphi'$ に写し、複素共役をとって $\ker\psi$ を $\ker\psi'$ に写すので、$F|_{\Lambda}\colon\Lambda\to\Lambda'$ は Hodge 構造の射である。逆に Hodge 構造の射 $u\colon H_{\mathbb{Z}}\to H'_{\mathbb{Z}}$ は $u_{\mathbb{C}}(H^{0,-1})\subset H'^{0,-1}$ を満たすので $\mathbb{C}$ 線型写像 $V_H\to V_{H'}$ を誘導し、それは $\iota(H_{\mathbb{Z}})$ を $\iota'(H'_{\mathbb{Z}})$ に写すから複素トーラスの準同型 $T_H\to T_{H'}$ を定める。2 つの対応は互いに逆なので関手は充満忠実であり、上で示した本質的全射性と合わせて圏同値である。

重さ $1$ の言い換えと双対トーラス

$H^1(T,\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(\Lambda,\mathbb{Z})$ は $H_1(T,\mathbb{Z})$ の双対(prop-hodge-structure-tensor-dual)で重さ $1$、$H^{1,0}=\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(V,\mathbb{C})$ は正則 1 形式 $dz_1,\dots,dz_g$ の類で張られる。したがって捩れのない重さ $1$、型 $(1,0),(0,1)$ の Hodge 構造も複素トーラスと 1 対 1 に対応するが、$H\mapsto T_{H^\vee}$ と $H\mapsto T_{H(1)}$(ex-hodge-structure-tate)とでは対応するトーラスが互いに双対(双対アーベル多様体(双対アーベル多様体)の複素解析的な記述)であり、どちらを標準とするかは文献により異なる。

反例:Hodge 対称性を満たさない分解

$H_{\mathbb{Z}}=\mathbb{Z}^2$ の標準基底を $e_1,e_2$ とし、$H^{1,0}:=\mathbb{C}e_1$、$H^{0,1}:=\mathbb{C}e_2$ とおく。

  • 満たす性質:$H_{\mathbb{Z}}$ は有限生成アーベル群で、$H_{\mathbb{C}}=\mathbb{C}^2=H^{1,0}\oplus H^{0,1}$ は $p+q=1$ の型で添字づけられた直和分解である。
  • 満たさない性質:$e_1$ は実ベクトルなので $\overline{H^{1,0}}=\mathbb{C}e_1\ne H^{0,1}$ であり、Hodge 対称性が成り立たない。フィルトレーションの側では $F^1:=\mathbb{C}e_1$ が $F^1\oplus\overline{F^{1}}=H_{\mathbb{C}}$ を満たさず、prop-hodge-structure-filtration-equivalence の条件が破れている。
  • 破る含意:「格子と、重さ $n$ の型で添字づけられた直和分解の組は Hodge 構造である」。分解が実構造と噛み合う条件(Hodge 対称性)は落とせない。
    階数 $2$、重さ $1$ の場合、直線 $L\subset\mathbb{C}^2$ が Hodge 構造 $H^{1,0}=L$ を定めることと $L$ が実部分空間の複素化でないこととは同値であり、これが ex-hodge-structure-elliptic-curve で $\tau\notin\mathbb{R}$ を要求した理由である。
反例:偏極をもたない重さ $1$ の Hodge 構造

$g\ge2$ とし、$V=\mathbb{C}^g$ の格子 $\Lambda$ を一般の位置にとる。複素トーラス $T=V/\Lambda$ がアーベル多様体であること(射影空間に埋め込めること)は、$H_1(T,\mathbb{Z})=\Lambda$ 上の重さ $-1$ の Hodge 構造が偏極(def-hodge-structure-polarization)をもつことと同値である(Riemann の条件、BL04 第 4 章、GH78 第 2 章 §6)。この偏極は、$\Lambda$ 上の整数値交代形式 $E$ で、$E(ix,iy)=E(x,y)$ かつ Hermite形式 $(x,y)\mapsto E(ix,y)+iE(x,y)$ が正定値(正定値)となるものにほかならない(符号の約束を適切にとれば def-hodge-structure-polarization の条件と一致する)。$\Lambda\cong\mathbb{Z}^{2g}$ を固定すると、$\Lambda_{\mathbb{R}}$ 上の複素構造の全体は次元 $2g^2$ の実多様体であり、非退化な $E$ を固定したとき $E$ と両立する複素構造の全体は次元 $g(g+1)$ の部分多様体(Siegel 上半空間)である(退化した $E$ は正定値条件を満たせない)。$g\ge2$ なら $g(g+1)<2g^2$ であり、$E$ の候補は可算個しかないので、Baire の範疇定理(Baireの範疇定理)により、どの $E$ とも両立しない複素構造が存在する(実際には「ほとんどすべて」がそうである)。この複素構造による $T$ の $H_1(T,\mathbb{Z})$(双対をとれば重さ $1$ の $H^1(T,\mathbb{Z})$)が求める例である。

  • 満たす性質:def-hodge-structure-pure の条件(格子と Hodge 対称な分解)をすべて満たし、prop-hodge-structure-torus により複素トーラス $T$ に対応する。
  • 満たさない性質:偏極をもたない。したがって $T$ はアーベル多様体でない。
  • 破る含意:「Hodge 構造は偏極可能である」「複素トーラスはアーベル多様体である」。偏極可能性は Hodge 構造の公理から従わず、「Hodge 構造の圏」と「偏極可能な Hodge 構造の圏」(prop-hodge-structure-semisimple)は区別しなければならない。$g=1$ ではすべての複素トーラスが楕円曲線であり、この現象は起きない。

性質

射と Hodge 構造の圏

Hodge 構造の射と部分 Hodge 構造

Hodge 構造 $H=(H_{\mathbb{Z}},\{H^{p,q}\})$、$H'=(H'_{\mathbb{Z}},\{H'^{p,q}\})$ の間の射(morphism of Hodge structures)とは、群準同型 $f\colon H_{\mathbb{Z}}\to H'_{\mathbb{Z}}$ であって、その複素化 $f_{\mathbb{C}}:=f\otimes\mathrm{id}_{\mathbb{C}}$ がすべての $(p,q)$ について $f_{\mathbb{C}}(H^{p,q})\subset H'^{p,q}$ を満たすものをいう。$H$ の部分 Hodge 構造とは、部分群 $H'_{\mathbb{Z}}\subset H_{\mathbb{Z}}$ で $H'_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p,q}(H'_{\mathbb{C}}\cap H^{p,q})$ を満たすものをいう(このとき $H'^{p,q}:=H'_{\mathbb{C}}\cap H^{p,q}$ が Hodge 構造を定め、包含が射になる)。有理・実 Hodge 構造についても同様に定める。Hodge 構造の全体と射のなす圏を $\mathrm{HS}_{\mathbb{Z}}$(有理係数なら $\mathrm{HS}_{\mathbb{Q}}$)と書く。

射は型を保つので、重さ $n$ と重さ $n'\ne n$ の純 Hodge 構造の間の射は $0$ に限る。型を $(r,r)$ だけずらす写像($f_{\mathbb{C}}(H^{p,q})\subset H'^{p+r,q+r}$)は $H\to H'(r)$ の射(同じことだが $H(-r)\to H'$ の射)と同じものであり($H'(r)^{p,q}=H'^{p+r,q+r}$)、Tate 捻り(ex-hodge-structure-tate)はこの形の写像を扱うための道具である。

Hodge 構造の圏はアーベル圏

$\mathrm{HS}_{\mathbb{Z}}$ はアーベル圏である。射 $f\colon H\to H'$ の核・余核・像(写像)は、下にあるアーベル群の核・余核・像に、$H_{\mathbb{C}}$、$H'_{\mathbb{C}}$ から誘導される分解を入れたものである。さらに射は Hodge フィルトレーションに関して強い(strict)、すなわちすべての $p$ について
$$ f_{\mathbb{C}}(F^pH_{\mathbb{C}})=F^pH'_{\mathbb{C}}\cap f_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}}) $$
が成り立つ。$\mathrm{HS}_{\mathbb{Q}}$ についても同様である。

要点:射を型ごとの写像に分解すると核・余核・像も型ごとに計算できる。像と余像が一致し、フィルトレーションの強さも従う。

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射の合成は射であり、$\operatorname{Hom}(H,H')$ は $\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(H_{\mathbb{Z}},H'_{\mathbb{Z}})$ の部分群で合成は双線型、零対象は $H_{\mathbb{Z}}=0$、直和 $H\oplus H'$ は $(H\oplus H')_{\mathbb{Z}}=H_{\mathbb{Z}}\oplus H'_{\mathbb{Z}}$、$(H\oplus H')^{p,q}=H^{p,q}\oplus H'^{p,q}$ で定まる双積である。よって $\mathrm{HS}_{\mathbb{Z}}$ は加法圏である。

$f\colon H\to H'$ を射とする。$f_{\mathbb{C}}$ は $H^{p,q}$ を $H'^{p,q}$ に写すので、制限 $f^{p,q}\colon H^{p,q}\to H'^{p,q}$ により $f_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p,q}f^{p,q}$ と直和に分解し、また $f_{\mathbb{C}}=f\otimes\mathrm{id}$ は複素共役と可換である。

核:$K_{\mathbb{Z}}:=\ker f$ とおく。$\mathbb{C}$ は $\mathbb{Z}$ 上平坦(平坦加群)なので $K_{\mathbb{Z}}\otimes\mathbb{C}=\ker f_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p,q}\ker f^{p,q}$ であり、$K^{p,q}:=\ker f^{p,q}$ とおくと、$f_{\mathbb{C}}$ が複素共役と可換なことから $\overline{K^{p,q}}=K^{q,p}$ である(重さごとの部分が $\mathbb{Q}$ 上定義されることは、$f_{\mathbb{Q}}$ が各 $W_n$ を $W'_n$ に写すことから同様に従う)。よって $K$ は $H$ の部分 Hodge 構造であり、$g\colon H''\to H$ が $f\circ g=0$ を満たせば $g$ は群として $K_{\mathbb{Z}}$ を通り、$g_{\mathbb{C}}$ が型を保つので $K$ への射になる。すなわち包含 $K\to H$ は圏論的な核である。

余核:$C_{\mathbb{Z}}:=H'_{\mathbb{Z}}/f(H_{\mathbb{Z}})$ とおくと、テンソル積の右完全性から $C_{\mathbb{Z}}\otimes\mathbb{C}=H'_{\mathbb{C}}/f_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}})=\bigoplus_{p,q}H'^{p,q}/f^{p,q}(H^{p,q})$ であり、$C^{p,q}:=H'^{p,q}/f^{p,q}(H^{p,q})$ が Hodge 対称性と重さの条件を満たすことは核の場合と同様である。商写像 $H'\to C$ が圏論的な余核であることも同様に確かめられる。

像と余像:$f(H_{\mathbb{Z}})\subset H'_{\mathbb{Z}}$ は $f(H_{\mathbb{Z}})\otimes\mathbb{C}=f_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}})=\bigoplus f^{p,q}(H^{p,q})$(平坦性)により $H'$ の部分 Hodge 構造であり、$H_{\mathbb{Z}}/K_{\mathbb{Z}}$ は $K\to H$ の余核である。群の準同型定理による全単射 $u\colon H_{\mathbb{Z}}/K_{\mathbb{Z}}\to f(H_{\mathbb{Z}})$ は型を保つ射で、$(u^{-1})_{\mathbb{C}}=(u_{\mathbb{C}})^{-1}=\bigoplus(u^{p,q})^{-1}$ も型を保つので $u^{-1}$ も射である。よって余像から像への標準的な射は同型であり、$\mathrm{HS}_{\mathbb{Z}}$ はアーベル圏である。

強さ:$f^{p,q}(H^{p,q})\subset H'^{p,q}$ なので $f_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}})\cap H'^{p,q}=f^{p,q}(H^{p,q})$ であり、 $F^pH'_{\mathbb{C}}\cap f_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}})=\bigoplus_{p'\ge p}f^{p',q'}(H^{p',q'})=f_{\mathbb{C}}\Big(\bigoplus_{p'\ge p}H^{p',q'}\Big)=f_{\mathbb{C}}(F^pH_{\mathbb{C}})$ である。$\mathrm{HS}_{\mathbb{Q}}$ の場合は $\mathbb{Z}$ を $\mathbb{Q}$ に置き換えれば同じ議論が通る。

テンソル積・双対・内部 Hom

テンソル積と双対

$H$ を重さ $n$、$H'$ を重さ $m$ の Hodge 構造とする。

  1. $(H\otimes H')_{\mathbb{Z}}:=H_{\mathbb{Z}}\otimes_{\mathbb{Z}}H'_{\mathbb{Z}}$ と
    $$ (H\otimes H')^{p,q}:=\bigoplus_{p_1+p_2=p,\ q_1+q_2=q}H^{p_1,q_1}\otimes_{\mathbb{C}}H'^{p_2,q_2} $$
    は重さ $n+m$ の Hodge 構造 $H\otimes H'$ を定める。
  2. $(H^\vee)_{\mathbb{Z}}:=\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(H_{\mathbb{Z}},\mathbb{Z})$ と、$(H^\vee)^{p,q}:=\{\lambda\in\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}},\mathbb{C})\mid(p',q')\ne(-p,-q)\text{ なら }\lambda(H^{p',q'})=0\}\cong(H^{-p,-q})^*$ は重さ $-n$ の Hodge 構造 $H^\vee$(双対 Hodge 構造)を定める。
  3. $\operatorname{\underline{Hom}}(H,H'):=H^\vee\otimes H'$ は重さ $m-n$ の Hodge 構造で、その型 $(0,0)$ の成分に属する $\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(H_{\mathbb{Z}},H'_{\mathbb{Z}})$ の元がちょうど Hodge 構造の射である。また $\mathbb{Z}(n)\otimes\mathbb{Z}(m)\cong\mathbb{Z}(n+m)$、$\mathbb{Z}(n)^\vee\cong\mathbb{Z}(-n)$ である。

要点:テンソル積では型の添字を足し、双対では符号を反転する。内部Homの型(0,0)は型を保つ射に対応する。

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1. $(H_{\mathbb{Z}}\otimes_{\mathbb{Z}}H'_{\mathbb{Z}})\otimes_{\mathbb{Z}}\mathbb{C}\cong H_{\mathbb{C}}\otimes_{\mathbb{C}}H'_{\mathbb{C}}$ であり、この同一視のもとで複素共役は $x\otimes y\mapsto\bar{x}\otimes\bar{y}$ である(両辺とも $(a\otimes b)\otimes z\mapsto(a\otimes b)\otimes\bar{z}$ を与える)。テンソル積は直和と交換するので $H_{\mathbb{C}}\otimes H'_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p_1,q_1,p_2,q_2}H^{p_1,q_1}\otimes H'^{p_2,q_2}$ であり、これを $(p,q)=(p_1+p_2,q_1+q_2)$ でまとめたものが定義の分解である。$p_1+q_1=n$、$p_2+q_2=m$ から $p+q=n+m$ である。Hodge 対称性は $\overline{H^{p_1,q_1}\otimes H'^{p_2,q_2}}=H^{q_1,p_1}\otimes H'^{q_2,p_2}$ から従う。

2. $H_{\mathbb{Z}}$ の捩れ部分を $T$ とすると $\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(H_{\mathbb{Z}},\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(H_{\mathbb{Z}}/T,\mathbb{Z})$ で $H_{\mathbb{Z}}/T$ は有限階数の自由アーベル群、$H_{\mathbb{C}}=(H_{\mathbb{Z}}/T)\otimes\mathbb{C}$ なので $(H^\vee)_{\mathbb{C}}=\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}},\mathbb{C})$ であり、複素共役は $\bar{\lambda}(x)=\overline{\lambda(\bar{x})}$ である。直和の双対は双対の直和なので $\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}},\mathbb{C})=\bigoplus_{p,q}(H^\vee)^{p,q}$ であり、$(H^\vee)^{p,q}\cong(H^{-p,-q})^*$ が $0$ でないのは $-p-q=n$ のときだけなので重さは $-n$ である。$\lambda\in(H^\vee)^{p,q}$ なら、$\bar{\lambda}$ が $H^{p',q'}$ 上で $0$ でないのは $\overline{H^{p',q'}}=H^{q',p'}$ が $H^{-p,-q}$ のとき、すなわち $(p',q')=(-q,-p)$ のときに限るので $\bar{\lambda}\in(H^\vee)^{q,p}$ であり、Hodge 対称性が成り立つ。

3. 重さは 1 と 2 から $m-n$ である。$\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(H_{\mathbb{Z}},H'_{\mathbb{Z}})\otimes\mathbb{C}=\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(H_{\mathbb{C}},H'_{\mathbb{C}})=(H^\vee\otimes H')_{\mathbb{C}}$ の型 $(0,0)$ の成分は、1 と 2 により $\bigoplus_{p,q}\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(H^{p,q},H'^{p,q})$、すなわち型を保つ線型写像の全体である。よって $f\in\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(H_{\mathbb{Z}},H'_{\mathbb{Z}})$ が型 $(0,0)$ であることと $f$ が射であることは同値である。Tate 構造については、$(2\pi i)^n\mathbb{Z}\otimes(2\pi i)^m\mathbb{Z}\to(2\pi i)^{n+m}\mathbb{Z}$、$x\otimes y\mapsto xy$ が格子の同型で、型 $(-n,-n)\otimes(-m,-m)=(-n-m,-n-m)$ であり、$\operatorname{Hom}((2\pi i)^n\mathbb{Z},\mathbb{Z})\cong(2\pi i)^{-n}\mathbb{Z}$($\lambda\mapsto\lambda((2\pi i)^n)(2\pi i)^{-n}$)が型 $(n,n)$ であることから従う。

$f\colon H_1\to H_2$、$g\colon H'_1\to H'_2$ が射なら $f\otimes g$ と $f^\vee$ も射であり、評価写像 $H^\vee\otimes H\to\mathbb{Z}(0)$ も射である(型の計算は上と同じ)。したがって $\mathrm{HS}_{\mathbb{Q}}$ は双対をもつテンソル圏である(Del71 2.1、Mumford–Tate群)。

Hodge 類

Hodge 類

$H$ を重さ $2p$ の Hodge 構造とする。$H_{\mathbb{Z}}$ の元 $x$ で、$H_{\mathbb{C}}$ における像が $H^{p,p}$ に属するものを $H$ の(整数)Hodge 類(Hodge class)といい、その全体を $\operatorname{Hdg}^p(H)_{\mathbb{Z}}:=H_{\mathbb{Z}}\cap H^{p,p}$ と書く。同様に $\operatorname{Hdg}^p(H)_{\mathbb{Q}}:=H_{\mathbb{Q}}\cap H^{p,p}$ を有理 Hodge 類の空間という。

Hodge 類の特徴づけ

$H$ を重さ $2p$ の Hodge 構造、$x\in H_{\mathbb{Q}}$ とする。次は同値である。

  1. $x\in H^{p,p}$。
  2. $x\in F^pH_{\mathbb{C}}$。
  3. $\mathbb{Q}(-p)\to H$、$(2\pi i)^{-p}\mapsto x$ が有理 Hodge 構造の射である。

1 から 2 は $H^{p,p}\subset F^p$ による。2 から 1:$x$ は $H_{\mathbb{Q}}\subset H_{\mathbb{R}}$ の元なので $\bar{x}=x$ であり、$x\in F^p$ から $x=\bar{x}\in\overline{F^p}$ である。よって $x\in F^p\cap\overline{F^p}=\bigoplus_{p'\ge p,\ q'\ge p,\ p'+q'=2p}H^{p',q'}=H^{p,p}$ である(prop-hodge-structure-filtration-equivalence の証明の計算)。1 と 3 の同値:$\mathbb{Q}(-p)$ は型 $(p,p)$ の階数 $1$ の有理 Hodge 構造なので、$\mathbb{Q}$ 線型写像 $u\colon(2\pi i)^{-p}\mathbb{Q}\to H_{\mathbb{Q}}$ が射であることは $u_{\mathbb{C}}$ が型 $(p,p)$ の成分を $H^{p,p}$ に写すこと、すなわち $x=u((2\pi i)^{-p})\in H^{p,p}$ と同値である。

$X$ を $\mathbb{C}$ 上の滑らかな射影多様体とすると、余次元 $p$ の代数的サイクル(代数的サイクル)の類 $\mathrm{cl}(Z)\in H^{2p}(X,\mathbb{Z})$ は型 $(p,p)$ であり(サイクル類写像、Voi02 第 11 章)、したがって Hodge 類である。Hodge 予想(Hodge予想)は、$H^{2p}(X,\mathbb{Q})$ の有理 Hodge 類がすべて代数的サイクルの類の $\mathbb{Q}$ 線型結合であるという主張であり、$p=1$ では Lefschetz の $(1,1)$ 定理として整数係数でも正しい(Hodge分解の記事の定理、GH78 第 1 章 §2)。$p\ge2$ の整数係数版は反例がある(Atiyah–Hirzebruch。Voi02 第 11 章の注意)。

偏極

偏極 Hodge 構造

$H$ を重さ $n$ の Hodge 構造とする。$H$ の偏極(polarization)とは、双線型形式 $Q\colon H_{\mathbb{Z}}\times H_{\mathbb{Z}}\to\mathbb{Z}$ で $Q(y,x)=(-1)^nQ(x,y)$ を満たし、その $\mathbb{C}$ 双線型な拡張が次の 2 条件(Hodge–Riemann の双線型関係)を満たすものをいう。

  1. $(p',q')\ne(q,p)$ ならば $Q(H^{p,q},H^{p',q'})=0$。
  2. $0\ne x\in H^{p,q}$ ならば $i^{\,p-q}Q(x,\bar{x})>0$。
    偏極をもつ Hodge 構造を偏極 Hodge 構造、偏極が存在する Hodge 構造を偏極可能という。有理 Hodge 構造の偏極は $Q\colon H_{\mathbb{Q}}\times H_{\mathbb{Q}}\to\mathbb{Q}$ について同じ条件で定める。
双線型関係の言い換え

$Q$ は $H_{\mathbb{R}}$ 上実数値なので $Q(\bar{x},\bar{y})=\overline{Q(x,y)}$ である。これを使うと、条件 1 はすべての $p$ について $Q(F^pH_{\mathbb{C}},F^{\,n-p+1}H_{\mathbb{C}})=0$ となることと同値である。実際、条件 1 から $Q(F^p,F^{n-p+1})=0$ は $p'\ge n-p+1>n-p=q$ から従い、逆に $x\in H^{p,q}$、$y\in H^{p',q'}$、$p'\ne q$ のとき、$p'>q$ なら $y\in F^{n-p+1}$ により $Q(x,y)=0$、$p'< q$ なら $q'>p$ なので $\bar{y}\in F^{q'}\subset F^{n-q+1}$、$\bar{x}\in F^q$ により $Q(\bar{x},\bar{y})=0$、よって $Q(x,y)=0$ である。$H^{p,q}$ 上 $i^{p-q}$ 倍として作用する $H_{\mathbb{C}}$ の線型変換 $C$ を Weil 作用素といい、条件 1 と 2 は、$(x,y)\mapsto Q(Cx,\bar{y})$ が $H_{\mathbb{C}}$ 上の正定値 Hermite 形式であって、Hodge 分解 $\bigoplus H^{p,q}$ がこの形式に関する直交分解となることと同値である(正定値 Hermite 形式であることだけからは条件 1 は従わない)。符号の約束($i^{p-q}$ か $(-1)^{n(n-1)/2}i^{p-q}$ か)は文献により異なる(Voi02 第 7 章 §7.1、PS08 第 2 章 §2.1)。

Hodge–Riemann の双線型関係

$X$ を $d$ 次元コンパクト Kähler 多様体、$\omega\in H^2(X,\mathbb{R})$ を Kähler 類、$L\colon H^k(X,\mathbb{R})\to H^{k+2}(X,\mathbb{R})$ を $\omega$ とのカップ積とし、$k\le d$ に対して原始コホモロジー $P^k(X):=\ker(L^{d-k+1}\colon H^k(X,\mathbb{C})\to H^{2d-k+2}(X,\mathbb{C}))$ を考える。$P^k(X)$ は $H^k(X)$ の Hodge 分解と両立し、
$$ Q(\alpha,\beta):=(-1)^{k(k-1)/2}\int_X\omega^{d-k}\wedge\alpha\wedge\beta $$
は $P^k(X)\cap H^k(X,\mathbb{R})$ 上の実数値形式で、def-hodge-structure-polarization の直交性と正値性の 2 条件を満たす。一般の実 Kähler 類では $P^k(X)$ が有理数体上定義されるとは限らず、$Q$ が整数値や有理数値になるとも限らない。$X$ が射影多様体で $\omega$ が豊富な可逆層(豊富な可逆層)の第 1 Chern 類(第1Chern類)なら $L$ と $P^k(X)$ は有理数体上定義され、$Q$ は $P^k(X)\cap H^k(X,\mathbb{Q})$ 上有理数値である。この場合、Lefschetz 分解 $H^k(X,\mathbb{Q})=\bigoplus_{r}L^rP^{k-2r}(X)_{\mathbb{Q}}$ により $H^k(X,\mathbb{Q})$ は偏極可能な有理 Hodge 構造である。

出典

証明は Kähler 恒等式と調和形式の理論による。Voi02 第 6 章 §6.2(Lefschetz 分解)・§6.3(双線型関係)、GH78 第 0 章 §7、Huy05 3.3 を見よ。Lefschetz 分解の各項 $L^rP^{k-2r}$ 上の偏極は $Q$ の符号を $(-1)^r$ 倍して合わせる。

偏極可能な Hodge 構造の圏は半単純

$H$ を偏極 $Q$ をもつ重さ $n$ の有理 Hodge 構造、$W\subset H$ を部分 Hodge 構造とする。$Q$ に関する直交補空間 $W^\perp:=\{y\in H_{\mathbb{Q}}\mid\text{すべての }w\in W_{\mathbb{Q}}\text{ について }Q(w,y)=0\}$ は部分 Hodge 構造であり、$H=W\oplus W^\perp$ である。したがって、偏極可能な重さ $n$ の有理 Hodge 構造の圏($\mathrm{HS}_{\mathbb{Q}}$ の充満部分圏)は半単純であり、すべての対象は単純な対象の有限直和である。

要点:偏極の正定値性により部分 Hodge 構造とその直交補は交わらず、全体を直和分解する。これを繰り返して半単純性を得る。

詳しい証明を開く

$C$ を Weil 作用素とし、$x\in H_{\mathbb{C}}$ を $x=\sum x^{p,q}$ と分解する。条件 1 から $Q(Cx,\bar{x})=\sum_{p,q}i^{p-q}Q(x^{p,q},\overline{x^{p,q}})$ であり($\overline{x^{p',q'}}\in H^{q',p'}$ と $x^{p,q}$ の組は $(q',p')=(q,p)$ のときだけ寄与する)、条件 2 から $x\ne0$ なら $Q(Cx,\bar{x})>0$ である。

$W^\perp$ が部分 Hodge 構造であること:$W_{\mathbb{Q}}$ の基底を選ぶと $W^\perp$ は $H_{\mathbb{Q}}\to\mathbb{Q}^m$ の核なので、$(W^\perp)_{\mathbb{C}}=\{y\in H_{\mathbb{C}}\mid Q(W_{\mathbb{C}},y)=0\}$ である。$W_{\mathbb{C}}=\bigoplus W^{p,q}$($W^{p,q}=W_{\mathbb{C}}\cap H^{p,q}$)なので、$y=\sum y^{p',q'}$ が $(W^\perp)_{\mathbb{C}}$ に属することは、すべての $(p,q)$ について $Q(W^{p,q},y)=0$ となることと同値であり、条件 1 により $Q(W^{p,q},y)=Q(W^{p,q},y^{q,p})$ である。一方、条件 1 により $Q(W^{p',q'},y^{q,p})=0$ が $(p',q')\ne(p,q)$ について自動的に成り立つので、$y\in(W^\perp)_{\mathbb{C}}$ ならば各成分 $y^{q,p}$ も $(W^\perp)_{\mathbb{C}}$ に属する。よって $(W^\perp)_{\mathbb{C}}=\bigoplus_{p,q}((W^\perp)_{\mathbb{C}}\cap H^{p,q})$ である。

$W\cap W^\perp=0$ であること:$x\in W_{\mathbb{C}}\cap(W^\perp)_{\mathbb{C}}$ とする。$W_{\mathbb{C}}$ と $(W^\perp)_{\mathbb{C}}$ は $\mathbb{Q}$ 上定義されるので複素共役で保たれ、Hodge 成分の直和なので $C$ で保たれる。よって $Cx\in W_{\mathbb{C}}$、$\bar{x}\in(W^\perp)_{\mathbb{C}}$ であり、$Q(Cx,\bar{x})=0$ である。上の正値性から $x=0$ である。

直和であること:$W^\perp$ は $H_{\mathbb{Q}}\to\operatorname{Hom}(W_{\mathbb{Q}},\mathbb{Q})$ の核なので $\dim W^\perp\ge\dim H_{\mathbb{Q}}-\dim W_{\mathbb{Q}}$ であり、$W\cap W^\perp=0$ と合わせて $H_{\mathbb{Q}}=W_{\mathbb{Q}}\oplus(W^\perp)_{\mathbb{Q}}$ である。両者は部分 Hodge 構造なので $W^{p,q}\oplus(W^\perp)^{p,q}\subset H^{p,q}$ であり、すべての $(p,q)$ について和をとると $H_{\mathbb{C}}$ 全体になるから、次元を比べて各 $(p,q)$ で等号が成り立ち、$H=W\oplus W^\perp$ は Hodge 構造の直和である。$Q$ を $W$、$W^\perp$ に制限したものは再び偏極である(条件 1・2 は部分空間に遺伝する)。

半単純性:$\dim H_{\mathbb{Q}}$ に関する帰納法で、偏極可能な $H\ne0$ が単純対象の有限直和であることを示す。$H$ が $0$ と $H$ 以外の部分 Hodge 構造をもたなければ $H$ は単純である。そうでなければ $0\ne W\ne H$ をとり、$H=W\oplus W^\perp$ で両者は次元がより小さい偏極可能な Hodge 構造なので帰納法の仮定が使える。また、偏極可能な Hodge 構造の部分 Hodge 構造と商(直和因子に同型)は偏極可能なので、この充満部分圏は核と余核で閉じたアーベル圏である。

混合 Hodge 構造

特異な多様体や非コンパクトな多様体のコホモロジーは純 Hodge 構造をもたないが、重さの異なる純 Hodge 構造を「拡大」した構造をもつ。これが Deligne の混合 Hodge 構造(混合Hodge構造)である。

混合 Hodge 構造の定義

混合 Hodge 構造(mixed Hodge structure)とは、有限生成アーベル群 $H_{\mathbb{Z}}$、$H_{\mathbb{Q}}$ の有限な増大フィルトレーション $W_\bullet$(重さフィルトレーション、重さフィルトレーション)、$H_{\mathbb{C}}$ の有限な減少フィルトレーション $F^\bullet$(Hodge フィルトレーション)の組 $(H_{\mathbb{Z}},W_\bullet,F^\bullet)$ であって、各 $n$ について、$F^\bullet$ が $\operatorname{gr}^W_nH_{\mathbb{C}}:=(W_n/W_{n-1})\otimes\mathbb{C}$ に誘導するフィルトレーション $F^p\operatorname{gr}^W_n:=(F^p\cap(W_n)_{\mathbb{C}}+(W_{n-1})_{\mathbb{C}})/(W_{n-1})_{\mathbb{C}}$ が、prop-hodge-structure-filtration-equivalence の意味で $W_n/W_{n-1}$ 上の重さ $n$ の有理 Hodge 構造を定めるものをいう。射は $W_\bullet$ と $F^\bullet$ を保つ群準同型である。純 Hodge 構造は $\operatorname{gr}^W_n$ が 1 つの $n$ 以外で $0$ である混合 Hodge 構造にほかならない。

代数多様体のコホモロジーの混合 Hodge 構造

$X$ を $\mathbb{C}$ 上の(分離的で有限型の)任意の代数多様体とする。各 $n$ について $H^n(X,\mathbb{Z})$ は混合 Hodge 構造をもち、この構造は $X$ について関手的で、カップ積と両立し、重さは $0$ 以上 $2n$ 以下である。$X$ が滑らかなら重さは $n$ 以上、$X$ が固有なら重さは $n$ 以下であり、$X$ が滑らかで固有なら重さ $n$ の純 Hodge 構造である。さらに $X$ が射影的なら、その解析化はコンパクト Kähler 多様体であり、ex-hodge-structure-kahler で述べた構造に一致する。混合 Hodge 構造の圏はアーベル圏であり、射は $W_\bullet$、$F^\bullet$ の両方に関して強い。

出典と例

滑らかな $X$ については Del71(正規交叉因子(正規交叉因子)による滑らかなコンパクト化と対数的 de Rham 複体を用いる)、一般の $X$ については Del74(特異点解消(特異点解消)と単体的スキームによる)。圏がアーベル圏で射が強いことは Del71 Théorème 2.3.5 である。教科書としては PS08 第 3〜5 章。例:$H^1(\mathbb{C}^\times,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}(-1)$ は重さ $2$ の純 Hodge 構造で、滑らかだが固有でないため重さが次数 $1$ より大きい。節点(節点)を 1 つもつ既約な 3 次曲線 $X$ では $H^1(X,\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}(0)$ が重さ $0$ で、固有だが滑らかでないため重さが次数より小さい。滑らかな射影曲線 $C$ から $m\ge1$ 個の点を除いた $U$ では、$H^1(U,\mathbb{Z})$ は重さ $1$ の部分 $W_1=H^1(C,\mathbb{Z})$ と重さ $2$ の商 $\operatorname{gr}^W_2\cong\mathbb{Z}(-1)^{m-1}$(除いた各点の $\mathbb{Z}(-1)$ の直和のうち留数の和が $0$ の部分)をもつ混合 Hodge 構造であり、その拡大類が周期(周期(代数多様体))を記憶する。

関連項目

参考文献

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Claire Voisin, Hodge Theory and Complex Algebraic Geometry I, Cambridge University Press, 2002, 第 6 章 §6.2–6.3(Lefschetz 分解、Hodge–Riemann の双線型関係)、第 7 章 §7.1(Hodge 構造と偏極)、第 8 章(Hodge フィルトレーション)、第 11 章(Hodge 類とサイクル類)
[2]
Pierre Deligne, Théorie de Hodge : II, Publications Mathématiques de l'IHÉS 40, pp. 5–57, 1971, §2.1(Hodge 構造と Deligne トーラス)、§2.3(混合 Hodge 構造、Théorème 2.3.5)、§3(滑らかな多様体の混合 Hodge 構造)
[3]
Pierre Deligne, Théorie de Hodge : III, Publications Mathématiques de l'IHÉS 44, pp. 5–77, 1974, §8(任意の代数多様体のコホモロジーの混合 Hodge 構造)
[4]
Chris A. M. Peters, Joseph H. M. Steenbrink, Mixed Hodge Structures, Springer, 2008, 第 2 章(純 Hodge 構造、偏極、Deligne トーラス)、第 3〜5 章(混合 Hodge 構造)
[5]
Phillip Griffiths, Joseph Harris, Principles of Algebraic Geometry, Wiley, 1978, 第 0 章 §7(Hodge–Riemann の双線型関係)、第 1 章 §2(Lefschetz の (1,1) 定理)、第 2 章 §6(複素トーラスとアーベル多様体、Riemann の条件)
[6]
Daniel Huybrechts, Complex Geometry: An Introduction, Springer, 2005, §3.3(Kähler 多様体の Hodge 理論、双線型関係)
[7]
Christina Birkenhake, Herbert Lange, Complex Abelian Varieties, Springer, 2004, §1.2(複素トーラスの準同型の持ち上げ、Proposition 1.2.1)、第 4 章(Riemann の条件とアーベル多様体)

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