捩率テンソル(torsion tensor)とは、多様体のアフィン接続 $\nabla$ に対し $T(X,Y)=\nabla_XY-\nabla_YX-[X,Y]$ で定まる反対称な $(1,2)$ 型テンソル場のことであり、成分は接続係数の反対称部分 $\Gamma^k_{ij}-\Gamma^k_{ji}$ である。二つの接続の測地線が一致することは差テンソルが反対称であることと同値で、測地線を変えずに捩率だけを除いた接続 $\nabla-\frac12T$ がある。捩率は外微分・Hesse 形式・Lie 微分を共変微分で表すときの補正項であり、Cartan の第 1 構造方程式や第 1 Bianchi 恒等式にも現れる。Riemann 多様体では、反対称なテンソル場ごとにそれを捩率とする計量的な接続がただ一つ存在し、捩率 $0$ の場合が Riemann 接続である。
捩率テンソルは、多様体の接ベクトル束の接続について、二つのベクトル場を互いの方向へ共変微分した差が Lie 括弧からどれだけずれるかを測る $(1,2)$ 型テンソル場である。捩率が $0$ の接続(捩れのない接続)では接続係数が下の添字について対称になり、Riemann 多様体ではこの条件と計量条件とで Riemann接続 がただ一つに決まる。捩率は測地線からは見えない量であり、接続の測地線を変えずに捩率だけを取り除くことができる。一方、捩率は外微分・Lie 微分・Hesse 形式を共変微分で書くときの補正項として現れ、曲率の Bianchi 恒等式にも入り込む。
この記事では、捩率の基本的な言い換え(prop-tor-commuting、prop-tor-symmetry)、接続の差と捩率の関係(prop-tor-difference)、測地線が同じ接続の決定(thm-tor-geodesics)、外微分と Cartan の第 1 構造方程式(thm-tor-exterior、cor-tor-cartan)、捩率を指定した計量的な接続の存在と一意性(thm-tor-metric)、捩率を含む第 1 Bianchi 恒等式(thm-tor-bianchi)を証明する。
以下、多様体は $C^\infty$ 級とし、$M$ 上の滑らかな関数全体を $C^\infty(M)$、ベクトル場全体を $\mathfrak{X}(M)$、ベクトル場 $X,Y$ の Lie括弧 を $[X,Y]$ と書く。局所座標 $(x^i)$ の座標ベクトル場を $\partial_i$ とし、添字の和には総和規約を用いる。
$M$ 上のアフィン接続(affine connection)とは、接ベクトル束 $TM$ の接続、すなわち写像 $\nabla\colon\mathfrak{X}(M)\times\mathfrak{X}(M)\to\mathfrak{X}(M)$、$(X,Y)\mapsto\nabla_XY$ で、$X$ について $C^\infty(M)$-線形、$Y$ について $\mathbb{R}$-線形で Leibniz 則 $\nabla_X(fY)=X(f)Y+f\nabla_XY$ を満たすものをいう。局所座標で $\nabla_{\partial_i}\partial_j=\Gamma^k_{ij}\partial_k$ と書いた関数 $\Gamma^k_{ij}$ を接続係数という(Riemann接続の記事の定義「接続と接続係数」)。
アフィン接続 $\nabla$ の捩率テンソル(torsion tensor)を
$$T(X,Y):=\nabla_XY-\nabla_YX-[X,Y]\qquad(X,Y\in\mathfrak{X}(M))$$
で定める。$T$ は $X,Y$ について反対称で、各変数について $C^\infty(M)$-線形であり、したがって $(1,2)$ 型テンソル場を定める(Riemann接続の記事の命題「捩率のテンソル性」)。成分を $T(\partial_i,\partial_j)=T^k_{ij}\partial_k$ と書くと、$[\partial_i,\partial_j]=0$ より
$$T^k_{ij}=\Gamma^k_{ij}-\Gamma^k_{ji}$$
である。$T=0$ のとき $\nabla$ は捩れがない(torsion-free)、または対称(symmetric)であるという。
開集合 $U\subset M$ 上の局所枠 $E_1,\dots,E_n$ と双対な 1 形式 $\theta^1,\dots,\theta^n$($\theta^i(E_j)=\delta^i_j$)をとる。$\nabla_XE_j=\omega^i{}_j(X)E_i$ で定まる 1 形式 $\omega^i{}_j$ を接続形式、$T=\Theta^i\otimes E_i$、すなわち $\Theta^i(X,Y):=\theta^i(T(X,Y))$ で定まる 2 形式 $\Theta^i$ を捩率形式という。
平面の座標ベクトル場 $\partial_x,\partial_y$ のように可換な二つの方向があるとき、「$X$ 方向に $Y$ を微分する」ことと「$Y$ 方向に $X$ を微分する」ことは、捩れのない接続では同じ結果を与える(prop-tor-commuting)。曲面を二つのパラメータ $(s,t)$ で動かしたときも、$s$ 方向の速度を $t$ 方向に共変微分したものと、$t$ 方向の速度を $s$ 方向に共変微分したものが一致する(prop-tor-symmetry)。捩率は、この「微分の順序の対称性」が接続によってどれだけ破られるかを測る。
捩率は曲率とは別の量である。ex-tor-lie-group の Lie 群の接続の族では(例えば $\mathrm{SU}(2)$ で)、捩率がなく曲率がある接続と、曲率がなく捩率がある接続が、同じ測地線をもつ。測地線は接続係数の対称部分だけで決まり、捩率は反対称部分にあたるからである(thm-tor-geodesics)。
アフィン接続 $\nabla$ について次は同値である。
1 ⇒ 2 は定義から明らかである。2 ⇒ 3:座標ベクトル場は可換なので $\Gamma^k_{ij}\partial_k=\nabla_{\partial_i}\partial_j=\nabla_{\partial_j}\partial_i=\Gamma^k_{ji}\partial_k$ である。3 ⇒ 1:$T^k_{ij}=\Gamma^k_{ij}-\Gamma^k_{ji}=0$ なので、$T$ の成分がすべての座標で $0$ となり、$T=0$ である。$\square$
Warped積多様体の記事で、持ち上げたベクトル場 $\tilde X,\tilde V$ について $[\tilde X,\tilde V]=0$ から $\nabla_{\tilde V}\tilde X=\nabla_{\tilde X}\tilde V$ を導いているのは、この命題の 1 ⇒ 2 である。
滑らかな写像 $\Gamma\colon(-\varepsilon,\varepsilon)^2\to M$、$(s,t)\mapsto\Gamma(s,t)$ に対し、$\partial_s\Gamma,\partial_t\Gamma$ を $\Gamma$ に沿うベクトル場とし、曲線 $s\mapsto\Gamma(s,t)$ に沿う共変微分を $D_s$、曲線 $t\mapsto\Gamma(s,t)$ に沿う共変微分を $D_t$ と書く。局所座標で $\Gamma=(x^1,\dots,x^n)$、ベクトル場 $V=V^k\partial_k$ と書くと
$$D_tV=\bigl(\partial_tV^k+\Gamma^k_{ij}\,\partial_tx^i\,V^j\bigr)\partial_k$$
である(Lee18 Theorem 4.24 と式 (4.15)、pp. 101–102)。
$D_s\partial_t\Gamma-D_t\partial_s\Gamma=T(\partial_s\Gamma,\partial_t\Gamma)$ が成り立つ。とくに $\nabla$ に捩れがなければ $D_s\partial_t\Gamma=D_t\partial_s\Gamma$ である。
上の式により $D_s\partial_t\Gamma=(\partial_s\partial_tx^k+\Gamma^k_{ij}\partial_sx^i\partial_tx^j)\partial_k$、$D_t\partial_s\Gamma=(\partial_t\partial_sx^k+\Gamma^k_{ij}\partial_tx^i\partial_sx^j)\partial_k$ である。2 階偏微分は順序によらないので、後者の和で $i,j$ を入れ替えて差をとると $(\Gamma^k_{ij}-\Gamma^k_{ji})\partial_sx^i\partial_tx^j\partial_k=T^k_{ij}\partial_sx^i\partial_tx^j\partial_k=T(\partial_s\Gamma,\partial_t\Gamma)$ となる。$\square$
捩れのない場合は Lee18 Lemma 6.2(Symmetry Lemma、p. 154)にあたり、同書では曲線の族の変分を調べるために使われている。
$\nabla$ をアフィン接続とする。
したがってアフィン接続全体は、一つの接続を原点にとるとテンソル場 $A$ の空間と同じだけの広がりをもつ(Lee18 Theorem 4.14、pp. 94–95)。2 により、差テンソルが対称($A=A^\tau$)な二つの接続は同じ捩率をもつ(Lee18 Problem 4-9 (a)、p. 113)。
滑らかな曲線 $\gamma\colon J\to M$ が $\nabla$ の測地線であるとは、$D_t\dot\gamma=0$、局所座標では $\ddot x^k+\Gamma^k_{ij}\dot x^i\dot x^j=0$ が成り立つことをいう(Riemann 接続の場合が測地線の記事の定義「測地線」である)。任意の $p\in M$、$v\in T_pM$ に対し、$\gamma(0)=p$、$\dot\gamma(0)=v$ となる測地線が存在する(Lee18 Theorem 4.27, p. 103)。
$\nabla$ と $\nabla'=\nabla+A$ をアフィン接続とする。
1:局所座標で $A(\partial_i,\partial_j)=A^k_{ij}\partial_k$ と書くと $\nabla'$ の接続係数は $\Gamma^k_{ij}+A^k_{ij}$ なので、曲線 $\gamma$ について
$$D'_t\dot\gamma-D_t\dot\gamma=A^k_{ij}\dot x^i\dot x^j\partial_k=A(\dot\gamma,\dot\gamma)$$
である。$A$ が反対称なら $A(\dot\gamma,\dot\gamma)=0$ なので、二つの測地線の方程式は一致する。逆に測地線が一致するとし、$p\in M$、$v\in T_pM$ をとる。$\gamma(0)=p$、$\dot\gamma(0)=v$ となる $\nabla$ の測地線 $\gamma$ は $\nabla'$ の測地線でもあるので、$t=0$ で $A(v,v)=0$ である。$v,w\in T_pM$ について
$$A(v,w)+A(w,v)=A(v+w,v+w)-A(v,v)-A(w,w)=0$$
となり、$A$ は反対称である。
2:$T$ は反対称なので、1 により $\bar\nabla=\nabla+(-\tfrac12T)$ は $\nabla$ と同じ測地線をもつ。prop-tor-difference の 2 により $\bar\nabla$ の捩率は $T+(-\tfrac12T)-(-\tfrac12T)^\tau=T-\tfrac12T-\tfrac12T=0$ である($T^\tau=-T$ による)。一意性:$\nabla+A$ が捩れがなく $\nabla$ と測地線が一致するなら、1 により $A^\tau=-A$ であり、$0=T+A-A^\tau=T+2A$ から $A=-\tfrac12T$ である。$\square$
測地線の方程式に効くのは接続係数の対称部分 $\tfrac12(\Gamma^k_{ij}+\Gamma^k_{ji})$ だけで、反対称部分 $\tfrac12T^k_{ij}$ は効かない。2 は、測地線の族を変えずに捩率だけを取り除けることを述べている(Lee18 Problem 4-9 (b)、p. 113。Mic08 22.10 にも同じ観察がある)。
$G$ を Lie群、$\mathfrak{g}$ を左不変ベクトル場のなす Lie環 とし、$E_1,\dots,E_n$ を $\mathfrak{g}$ の基底、$[E_i,E_j]=c^k_{ij}E_k$($c^k_{ij}$ は定数)とする。$\lambda\in\mathbb{R}$ について、$G$ 上の大域的な枠 $(E_i)$ に関して
$$\nabla^\lambda_X\bigl(f^jE_j\bigr):=X(f^j)E_j+\lambda\,X^if^jc^k_{ij}E_k\qquad(X=X^iE_i,\ f^j\in C^\infty(G))$$
と定めると $\nabla^\lambda$ はアフィン接続で、左不変な $X,Y$ について $\nabla^\lambda_XY=\lambda[X,Y]$ である。
接続 $\nabla$ は 1 形式 $\eta$ に $(\nabla_X\eta)(Y):=X(\eta(Y))-\eta(\nabla_XY)$ で作用する。関数 $u$ の Hesse 形式を $\nabla^2u(X,Y):=(\nabla_X du)(Y)=X(Yu)-(\nabla_XY)u$ で定める。
任意の 1 形式 $\eta$ とベクトル場 $X,Y$ について
$$d\eta(X,Y)=(\nabla_X\eta)(Y)-(\nabla_Y\eta)(X)+\eta\bigl(T(X,Y)\bigr)$$
が成り立つ。とくに、関数 $u$ について $\nabla^2u(X,Y)-\nabla^2u(Y,X)=-T(X,Y)u$ であり、$\nabla$ に捩れがないことと、すべての関数の Hesse 形式が対称であることは同値である。
外微分の記事の定理「座標によらない公式」により $d\eta(X,Y)=X(\eta(Y))-Y(\eta(X))-\eta([X,Y])$ である。右辺に $X(\eta(Y))=(\nabla_X\eta)(Y)+\eta(\nabla_XY)$ と $Y(\eta(X))=(\nabla_Y\eta)(X)+\eta(\nabla_YX)$ を代入すると
$$d\eta(X,Y)=(\nabla_X\eta)(Y)-(\nabla_Y\eta)(X)+\eta\bigl(\nabla_XY-\nabla_YX-[X,Y]\bigr)$$
となる。$\eta=du$ とおくと $d\eta=0$ なので、Hesse 形式の式が得られる。捩れがなければ Hesse 形式は対称である。逆に、ある点 $p$ と $v,w\in T_pM$ で $T_p(v,w)\neq0$ なら、$p$ のまわりの局所座標の一次結合と隆起関数で $du_p(T_p(v,w))\neq0$ となる関数 $u$ を作り、$v,w$ を延長したベクトル場 $X,Y$ をとると、$\nabla^2u(X,Y)-\nabla^2u(Y,X)$ は $p$ で $0$ でない。$\square$
Hesse 形式の式は、Ricciの恒等式と可積分条件の記事の命題「捩れがある場合のリッチの恒等式」の関数についての式と同じものである(Lee18 Problem 4-6 (c)、p. 112)。
def-tor-forms の記号で
$$\Theta^i=d\theta^i+\omega^i{}_j\wedge\theta^j$$
が成り立つ。ここで 1 形式の外積は $(\alpha\wedge\beta)(X,Y)=\alpha(X)\beta(Y)-\alpha(Y)\beta(X)$ である。
$Y=\theta^j(Y)E_j$ より $\nabla_XY=X(\theta^j(Y))E_j+\theta^j(Y)\omega^k{}_j(X)E_k$ なので、$\theta^i(\nabla_XY)=X(\theta^i(Y))+\omega^i{}_j(X)\theta^j(Y)$、すなわち $(\nabla_X\theta^i)(Y)=-\omega^i{}_j(X)\theta^j(Y)$ である。これを thm-tor-exterior に $\eta=\theta^i$ として代入すると
$$d\theta^i(X,Y)=-\omega^i{}_j(X)\theta^j(Y)+\omega^i{}_j(Y)\theta^j(X)+\Theta^i(X,Y)=-(\omega^i{}_j\wedge\theta^j)(X,Y)+\Theta^i(X,Y)$$
となる。$\square$
Lee18 Problem 4-14(p. 113)は同じ式を、添字の付け方の異なる接続形式で述べている。
ベクトル場 $X,Y$ と 1 形式 $\eta$ について
$$\mathcal{L}_XY=\nabla_XY-\nabla_YX-T(X,Y),\qquad(\mathcal{L}_X\eta)(Y)=(\nabla_X\eta)(Y)+\eta(\nabla_YX)+\eta\bigl(T(X,Y)\bigr)$$
が成り立つ。
Lie微分の記事の命題「ベクトル場の Lie 微分は Lie 括弧」と命題「テンソル場の Lie 微分の公式」により $\mathcal{L}_XY=[X,Y]$、$(\mathcal{L}_X\eta)(Y)=X(\eta(Y))-\eta([X,Y])$ である。第 1 式は捩率の定義の書き換えである。第 2 式は $X(\eta(Y))=(\nabla_X\eta)(Y)+\eta(\nabla_XY)$ と第 1 式を代入して得られる。$\square$
Lie微分の記事の命題「ベクトル場と 1-形式の Lie 微分の共変微分表示」は $T=0$ の場合で、そこでは $\mathcal{L}_XY=\nabla_XY-\nabla_YX$ となる。捩率があると $\mathcal{L}_XY$ と $\nabla_XY-\nabla_YX$ の差がちょうど $T(X,Y)$ になる。
$(M,g)$ を リーマン多様体(または各点で非退化な対称 $(0,2)$ 型テンソル場 $g$ をもつ擬 Riemann 多様体)とし、$\nabla^g$ をその Riemann接続 とする。$\nabla$ が計量的であるとは $Xg(Y,Z)=g(\nabla_XY,Z)+g(Y,\nabla_XZ)$ が成り立つことをいう(Riemann接続の記事の定義「計量的な接続」)。反対称な $(1,2)$ 型テンソル場 $\tau$ に対し、$\tau(X,Y,Z):=g(\tau(X,Y),Z)$ と書く。
反対称な $(1,2)$ 型テンソル場 $\tau$ に対し、捩率が $\tau$ である計量的な接続がただ一つ存在する。それは $\nabla=\nabla^g+K$ で、$K$ は
$$g\bigl(K(X,Y),Z\bigr)=\tfrac12\bigl(\tau(X,Y,Z)-\tau(Y,Z,X)+\tau(Z,X,Y)\bigr)$$
で定まる $(1,2)$ 型テンソル場である。$\tau=0$ のとき、これは Riemann 接続の存在と一意性(Riemann接続の記事の定理「リーマン幾何学の基本定理」)に戻る。
$g$ は非退化なので、右辺の $Z$ について線形な式から $K(X,Y)$ が一つに定まり、$K$ は滑らかな $(1,2)$ 型テンソル場である。任意の接続は $\nabla^g+A$ と書け(prop-tor-difference)、$\nabla^g$ が計量的なので、$\nabla^g+A$ が計量的であることは
$$g\bigl(A(X,Y),Z\bigr)+g\bigl(Y,A(X,Z)\bigr)=0\qquad(\ast)$$
と同値である。捩率は $\nabla^g$ が捩れをもたないので $A-A^\tau$ である。よって、$(\ast)$ を満たし $A-A^\tau=\tau$ となる $A$ がただ一つ $A=K$ であることを示せばよい。
存在は $\tau$ の反対称性を使う直接の計算、一意性は対称性と反対称性を交互に使う議論である。
存在:$k(X,Y,Z):=g(K(X,Y),Z)$ の $Y,Z$ を入れ替えて足すと、$\tau$ が最初の 2 変数について反対称なので $$\tfrac12\bigl(\tau(X,Y,Z)+\tau(Y,X,Z)\bigr)-\tfrac12\bigl(\tau(Y,Z,X)+\tau(Z,Y,X)\bigr)+\tfrac12\bigl(\tau(Z,X,Y)+\tau(X,Z,Y)\bigr)=0$$ となり $(\ast)$ が成り立つ。$X,Y$ を入れ替えて引くと、同じ理由で $k(X,Y,Z)-k(Y,X,Z)=\tau(X,Y,Z)$ となり、$K-K^\tau=\tau$ である。
一意性:$A,A'$ がともに条件を満たすとし、$b(X,Y,Z):=g(A(X,Y)-A'(X,Y),Z)$ とおく。$b$ は $X,Y$ について対称($A-A^\tau=A'-A'^\tau$)で、$Y,Z$ について反対称($(\ast)$)である。対称と反対称を交互に使うと $$b(X,Y,Z)=b(Y,X,Z)=-b(Y,Z,X)=-b(Z,Y,X)=b(Z,X,Y)=b(X,Z,Y)=-b(X,Y,Z)$$ となり $b=0$、すなわち $A=A'$ である。$\square$
$K$ はコントーションテンソル(contorsion tensor)とよばれることがある。$M=\mathbb{R}^3$ に標準計量を入れ $\tau(X,Y)=2X\times Y$($\times$ はベクトルの外積)とすると、$\tau(X,Y,Z)=2\det(X,Y,Z)$ は 3 変数について交代的なので $g(K(X,Y),Z)=\det(X,Y,Z)$、すなわち $K(X,Y)=X\times Y$ であり、Riemann接続の記事の注意「反例:計量条件・捩れなし条件の一方だけでは一意でない」の 1 の接続が得られる。
接続 $\nabla$ の曲率を $R(X,Y)Z:=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{[X,Y]}Z$ とし、捩率の共変微分を $(\nabla_XT)(Y,Z):=\nabla_X(T(Y,Z))-T(\nabla_XY,Z)-T(Y,\nabla_XZ)$ で定める。$X,Y,Z$ の巡回和を $\mathfrak{S}$ で表す(例えば $\mathfrak{S}\,R(X,Y)Z=R(X,Y)Z+R(Y,Z)X+R(Z,X)Y$)。
任意のアフィン接続と $X,Y,Z\in\mathfrak{X}(M)$ について
$$\mathfrak{S}\,R(X,Y)Z=\mathfrak{S}\Bigl((\nabla_XT)(Y,Z)+T\bigl(T(X,Y),Z\bigr)\Bigr)$$
が成り立つ。とくに捩れのない接続では $\mathfrak{S}\,R(X,Y)Z=0$ である。
要点:右辺を展開すると、$\nabla_XY$ を含む項が巡回和で打ち消し合い、残りが曲率の巡回和と Jacobi 恒等式の項になる。
捩率の定義から $T(T(X,Y),Z)=T(\nabla_XY,Z)-T(\nabla_YX,Z)-T([X,Y],Z)$ である。これと $(\nabla_XT)(Y,Z)$ の定義を足すと、$\nabla_X(T(Y,Z))-T([X,Y],Z)$ のほかに $-T(Y,\nabla_XZ)-T(\nabla_YX,Z)=T(\nabla_XZ,Y)-T(\nabla_YX,Z)$ が残る。巡回置換 $(X,Y,Z)\mapsto(Z,X,Y)$ で $T(\nabla_YX,Z)$ は $T(\nabla_XZ,Y)$ に移るので、この二つは巡回和で打ち消し合う。よって右辺は $\mathfrak{S}\bigl(\nabla_X(T(Y,Z))-T([X,Y],Z)\bigr)$ に等しい。ここで $$\nabla_X(T(Y,Z))=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_X\nabla_ZY-\nabla_X[Y,Z],\qquad T([X,Y],Z)=\nabla_{[X,Y]}Z-\nabla_Z[X,Y]-[\,[X,Y],Z]$$ である。巡回和では $\mathfrak{S}\,\nabla_Z[X,Y]=\mathfrak{S}\,\nabla_X[Y,Z]$、$\mathfrak{S}\,\nabla_X\nabla_ZY=\mathfrak{S}\,\nabla_Y\nabla_XZ$ であり、Jacobi 恒等式により $\mathfrak{S}\,[\,[X,Y],Z]=0$ である。よって右辺は $\mathfrak{S}\bigl(\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{[X,Y]}Z\bigr)=\mathfrak{S}\,R(X,Y)Z$ となる。$\square$
Mic08 24.4 の Theorem (2)(p. 304)は同じ恒等式を述べ、同じ箇所の (3) で捩率を含む第 2 Bianchi 恒等式 $\mathfrak{S}\bigl((\nabla_XR)(Y,Z)+R(T(X,Y),Z)\bigr)=0$ を与えている(この記事では証明しない)。捩れのない場合が Riemann曲率テンソルの記事の命題「曲率テンソルの対称性」の 3 である。ex-tor-lie-group の $\nabla^0$ では $R=0$、左不変な場について $\nabla^0T=0$ かつ $T(T(X,Y),Z)=[\,[X,Y],Z]$ なので、thm-tor-bianchi はちょうど Jacobi 恒等式になる。
捩れがないことを仮定する主張は、捩率があると次のように崩れる。各行は捩れのなさだけを外している。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 捩れがないこと(第 1 Bianchi 恒等式 $\mathfrak{S}\,R(X,Y)Z=0$) | $\mathbb{R}^3$ で $\nabla_{\partial_2}\partial_3:=x^1\partial_1$、ほかの接続係数を $0$ とした接続 | $\mathfrak{S}\,R(\partial_1,\partial_2)\partial_3=\partial_1\neq0$ |
| 捩れがないこと(Hesse 形式の対称性) | $\mathbb{R}^3$ の計量的な接続 $\nabla^g+X\times Y$ | $\nabla^2u(\partial_1,\partial_2)=\nabla^2u(\partial_2,\partial_1)$($u=x^3$) |
| 捩れがないこと($\mathcal{L}_XY=\nabla_XY-\nabla_YX$) | 可換でない Lie 群の $\nabla^0$ | 左不変な $X,Y$ で $\nabla^0_XY-\nabla^0_YX=0\neq[X,Y]=\mathcal{L}_XY$ |
| 捩れがないこと(計量から接続が一つに決まること) | $\mathbb{R}^3$ の $\nabla^g$ と $\nabla^g+X\times Y$ | どちらも計量的で、捩率だけが異なる |
表の各行の確かめ:
1 行目:座標ベクトル場は可換なので $R(\partial_i,\partial_j)=\nabla_i\nabla_j-\nabla_j\nabla_i$ である。$R(\partial_1,\partial_2)\partial_3=\nabla_1(x^1\partial_1)-\nabla_2(0)=\partial_1$、$R(\partial_2,\partial_3)\partial_1=0$、$R(\partial_3,\partial_1)\partial_2=0$ となる。捩率は $T(\partial_2,\partial_3)=x^1\partial_1$ で、thm-tor-bianchi の右辺も $(\nabla_1T)(\partial_2,\partial_3)=\partial_1$ だけが残って一致する。
2 行目:thm-tor-exterior により差は $-T(\partial_1,\partial_2)u=-2(\partial_1\times\partial_2)x^3=-2\neq0$ である。
3 行目:ex-tor-lie-group の 1 と、$\nabla^0$ が左不変な場を平行にすることによる。prop-tor-lie の補正項は $-T^0(X,Y)=[X,Y]$ である。
4 行目:thm-tor-metric で $\tau=0$ と $\tau=2X\times Y$ をとったものである。
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