相加平均と調和平均を繰り返す数列(iterated arithmetic-harmonic mean)とは、正の数 $a>b$ から $a_0=a$、$b_0=b$、$a_{n+1}=\frac{a_n+b_n}2$、$b_{n+1}=\frac{2a_nb_n}{a_n+b_n}$ で定める2つの数列のことである。積 $a_nb_n=ab$ が変わらず、$b_n<\sqrt{ab}< a_n$ を保ち差が毎回半分以下になるので、どちらも相乗平均 $\sqrt{ab}$ に収束する。差は $a_{n+1}-b_{n+1}\le\frac{(a_n-b_n)^2}{4\sqrt{ab}}$ を満たし、正しい桁数がほぼ2倍ずつ増える。$ab=c$ とすると $\sqrt c$ を求める漸化式 $a_{n+1}=\frac12\left(a_n+\frac c{a_n}\right)$ になる。
前提知識: 平均の大小関係, 縮小写像と漸化式, はさみうちと評価の技法
2つの正の数 $2$ と $1$ から出発する。相加平均は $\frac{2+1}2=1.5$、調和平均は $\frac{2\cdot2\cdot1}{2+1}=\frac43=1.333\ldots$ である。この2つの数から、また相加平均と調和平均をとる。これを繰り返すと、2つの数はどんどん近づき、ある数に落ち着く。その数は $\sqrt2=1.41421356\ldots$ である。なぜ $\sqrt2$ なのか、どのくらい速く近づくのかを、数学 B の連立漸化式と数学 III の極限で調べる。
$a_0=2$、$b_0=1$ とし、$a_{n+1}$ を $a_n,b_n$ の相加平均、$b_{n+1}$ を調和平均とする。
$$
a_1=\frac{2+1}2=\frac32,\qquad b_1=\frac{2\cdot2\cdot1}{2+1}=\frac43,
$$
$$
a_2=\frac12\left(\frac32+\frac43\right)=\frac{17}{12},\qquad b_2=\frac{2\cdot\frac32\cdot\frac43}{\frac32+\frac43}=\frac{4}{\frac{17}6}=\frac{24}{17}.
$$
$\frac{17}{12}=1.41666\ldots$、$\frac{24}{17}=1.41176\ldots$ で、$\sqrt2=1.41421\ldots$ を両側から挟んでいる。どの段でも $a_nb_n=2$ になっていることにも注意する($\frac32\cdot\frac43=2$、$\frac{17}{12}\cdot\frac{24}{17}=2$)。
$a_0=9$、$b_0=1$ とすると
$$
a_1=5,\quad b_1=\frac{18}{10}=1.8,\qquad a_2=3.4,\quad b_2=\frac{2\cdot5\cdot1.8}{6.8}=\frac{18}{6.8}=2.647\ldots
$$
で、$a_nb_n=9$ がいつも成り立つ。$a_3=3.0235\ldots$、$b_3=2.9766\ldots$ と、$3=\sqrt9$ に近づく(図1の左)。
この記事の問いは次の2つである。
| 高校の計算 | この記事の見方 | つながる先 |
|---|---|---|
| 相加平均と調和平均の大小 | 2つの数列が互いを挟む | 単調で有界な数列 |
| 連立漸化式 | 積 $a_nb_n$ が変わらない | 保存量から極限を決める |
| $\sqrt c$ の近似 | $a_{n+1}=\frac12\left(a_n+\frac c{a_n}\right)$ | Newton 法 |
正の数 $x,y$ の 相加平均 を $\frac{x+y}2$、相乗平均 を $\sqrt{xy}$、調和平均 を $\frac{2xy}{x+y}$ とする。調和平均は、逆数の相加平均の逆数 $\left(\frac{1}{2}\left(\frac1x+\frac1y\right)\right)^{-1}$ である。
$a>b>0$ に対し、数列 $(a_n)$、$(b_n)$ を
$$
a_0=a,\quad b_0=b,\qquad a_{n+1}=\frac{a_n+b_n}2,\quad b_{n+1}=\frac{2a_nb_n}{a_n+b_n}\qquad(n\ge0)
$$
で定める。
$a_n,b_n$ が正なら $a_{n+1},b_{n+1}$ も正なので、帰納法により、すべての $n$ で $a_n,b_n>0$ であり、分母 $a_n+b_n$ は $0$ にならない。
正の数 $x,y$ について
$$
\frac{x+y}2-\frac{2xy}{x+y}=\frac{(x-y)^2}{2(x+y)}
$$
が成り立つ。とくに相加平均は調和平均以上で、等号は $x=y$ のときに限る。
通分すると
$$
\frac{x+y}2-\frac{2xy}{x+y}=\frac{(x+y)^2-4xy}{2(x+y)}=\frac{x^2+2xy+y^2-4xy}{2(x+y)}=\frac{(x-y)^2}{2(x+y)}.
$$
$x+y>0$ なので右辺は $0$ 以上で、$0$ になるのは $x=y$ のときだけである。$\square$
相乗平均がこの2つの間にあること(相加平均 ≧ 相乗平均 ≧ 調和平均)は 平均の大小関係 で扱っている。この記事では、相乗平均は極限として現れる。
$x=2$、$y=1$ なら、左辺は $\frac32-\frac43=\frac16$、右辺は $\frac{1}{2\cdot3}=\frac16$ で一致する。$x=9$、$y=1$ なら、左辺は $5-1.8=3.2$、右辺は $\frac{64}{20}=3.2$ である。
$a>b>0$ とし、$(a_n)$、$(b_n)$ を def-iah で定める。このとき、すべての $n\ge0$ で次が成り立つ。
(R1) $a_nb_n=ab$。
(R1) $b_n< b_{n+1}<\sqrt{ab}< a_{n+1}< a_n$。
(R1) $0< a_{n+1}-b_{n+1}<\frac12(a_n-b_n)$。
さらに、$(a_n)$ と $(b_n)$ はどちらも $\sqrt{ab}$ に収束する。
方針:積が変わらないことを代入で示し、差が毎回半分以下になることから、はさみうちで極限を求める。
段1(積が変わらない)。
$$
a_{n+1}b_{n+1}=\frac{a_n+b_n}2\cdot\frac{2a_nb_n}{a_n+b_n}=a_nb_n.
$$
これを $n=0,1,2,\ldots$ と順に使うと $a_nb_n=a_0b_0=ab$ である。これで条件 (i) が示された。
段2(大小)。$a_n>b_n>0$ と仮定する($n=0$ では $a>b$ による)。lem-iah-gap により
$$
a_{n+1}-b_{n+1}=\frac{(a_n-b_n)^2}{2(a_n+b_n)}>0
$$
なので $a_{n+1}>b_{n+1}$ である。また $a_{n+1}=\frac{a_n+b_n}2< \frac{a_n+a_n}2=a_n$ である。段1から $b_{n+1}=\frac{ab}{a_{n+1}}>\frac{ab}{a_n}=b_n$ である。最後に、$a_{n+1}>b_{n+1}>0$ と $a_{n+1}b_{n+1}=ab$ から $a_{n+1}^2>a_{n+1}b_{n+1}=ab$、$b_{n+1}^2< ab$ なので、$b_{n+1}<\sqrt{ab}< a_{n+1}$ である。帰納法により、条件 (ii) がすべての $n$ で成り立つ。
段3(差は半分以下)。段2の式で、$\frac{a_n-b_n}{a_n+b_n}< 1$ だから
$$
a_{n+1}-b_{n+1}=\frac{a_n-b_n}2\cdot\frac{a_n-b_n}{a_n+b_n}<\frac{a_n-b_n}2.
$$
これで条件 (iii) が示された。繰り返し使うと $0< a_n-b_n\le\dfrac{a-b}{2^n}$ である。
段4(はさみうち)。条件 (ii) から $b_n<\sqrt{ab}< a_n$ なので
$$
0< a_n-\sqrt{ab}< a_n-b_n\le\frac{a-b}{2^n},\qquad 0<\sqrt{ab}-b_n< a_n-b_n\le\frac{a-b}{2^n}.
$$
$n\to\infty$ で右端は $0$ に近づくので、はさみうちの原理(はさみうちと評価の技法)により $a_n\to\sqrt{ab}$、$b_n\to\sqrt{ab}$ である。$\square$
極限が $\sqrt{ab}$ になる理由は、段1の「積が変わらない」ことに尽きる。2つの数列が同じ値 $\alpha$ に近づくなら、積 $a_nb_n=ab$ は $\alpha^2$ に近づくはずなので、$\alpha=\sqrt{ab}$ しかありえない。
左はaを9、bを1としたとき、区間が3を挟んで縮む様子。右はaを2、bを1としたときの差を対数目盛りで描いた図
段3の評価「半分以下」は、実際の減り方よりずっと粗い。ex-iah-start では差が $1,\ \frac16,\ \frac1{204},\ldots$ と減り、図1の右では差の桁数がほぼ2倍ずつ増えている。
thm-iah-limit の状況で、すべての $n\ge0$ について
$$
a_{n+1}-b_{n+1}=\frac{(a_n-b_n)^2}{2(a_n+b_n)}\le\frac{(a_n-b_n)^2}{4\sqrt{ab}}
$$
が成り立つ。したがって $e_n=\dfrac{a_n-b_n}{4\sqrt{ab}}$ とおくと $e_{n+1}\le e_n^2$、$e_n\le e_0^{\,2^n}$ である。
方針:等式は lem-iah-gap そのもので、不等号は分母の評価から出る。
段1(等式)。lem-iah-gap を $x=a_n$、$y=b_n$ として使えばよい。
段2(分母の評価)。相加平均 ≧ 相乗平均により $a_n+b_n\ge2\sqrt{a_nb_n}$ で、thm-iah-limit の条件 (i) から $a_nb_n=ab$ なので $a_n+b_n\ge2\sqrt{ab}$ である。よって $2(a_n+b_n)\ge4\sqrt{ab}$ で、
$$
\frac{(a_n-b_n)^2}{2(a_n+b_n)}\le\frac{(a_n-b_n)^2}{4\sqrt{ab}}.
$$
段3($e_n$ で書く)。両辺を $4\sqrt{ab}$ で割ると
$$
e_{n+1}=\frac{a_{n+1}-b_{n+1}}{4\sqrt{ab}}\le\frac{(a_n-b_n)^2}{(4\sqrt{ab})^2}=e_n^2.
$$
これを繰り返すと $e_1\le e_0^2$、$e_2\le e_1^2\le e_0^4$、…で、帰納法により $e_n\le e_0^{\,2^n}$ である。$\square$
$e_0< 1$ なら、$e_0^{\,2^n}$ は指数が倍々になるので非常に速く $0$ に近づく。$e_n$ が $10^{-k}$ 程度なら $e_{n+1}$ は $10^{-2k}$ 程度以下で、正しい桁数がほぼ2倍ずつ増える。このような近づき方を 2次の収束 という。
$a=2$、$b=1$ では $4\sqrt{ab}=4\sqrt2=5.656\ldots$ で、$e_0=\frac1{5.656\ldots}=0.1767\ldots$ である。
| $n$ | $a_n$ | $b_n$ | $a_n-b_n$ |
|---|---|---|---|
| $0$ | $2$ | $1$ | $1$ |
| $1$ | $1.5$ | $1.33333\ldots$ | $0.16667$ |
| $2$ | $1.41666\ldots$ | $1.41176\ldots$ | $4.90\times10^{-3}$ |
| $3$ | $1.4142156862\ldots$ | $1.4142114384\ldots$ | $4.25\times10^{-6}$ |
| $4$ | $1.41421356237468\ldots$ | $1.41421356237150\ldots$ | $3.19\times10^{-12}$ |
| $5$ | $1.41421356237309\ldots$ | $1.41421356237309\ldots$ | $1.80\times10^{-24}$ |
$n=2$ から $n=3$ では、評価の右辺は $\frac{(4.90\times10^{-3})^2}{5.656\ldots}=4.25\times10^{-6}$ で、実際の差とほぼ等しい。分母の $a_n+b_n$ がすぐに $2\sqrt{ab}$ に近づくので、評価はほとんど等号になっていく。$n=5$ では差が $10^{-24}$ 程度で、$a_5$ は $\sqrt2$ と小数第23位まで一致する。
$c>0$、$a_0>\sqrt c$ とし、$b_0=\frac c{a_0}$ とする。このとき def-iah の $a_n$ は
$$
a_{n+1}=\frac12\left(a_n+\frac c{a_n}\right)
$$
を満たし、$\sqrt c$ に上から2次の収束で近づく。
thm-iah-limit の条件 (i) から $b_n=\frac{c}{a_n}$ で、これを $a_{n+1}=\frac{a_n+b_n}2$ に入れればよい($a_0>\sqrt c$ なら $a_0>b_0$ である)。この漸化式は、$y=x^2-c$ の接線を使う Newton 法の式と同じで、Newton法(高校数学) でも $\sqrt2$ の例として扱っている。この記事の見方では、$a_n$ と $\frac c{a_n}$ は積が $c$ の2数で、一方が $\sqrt c$ より大きければ他方は小さく、その相加平均をとり直すことが、相加平均と調和平均を交互にとることと同じなのである。
$c=2$、$a_0=2$ とすると $a_1=\frac32$、$a_2=\frac{17}{12}$、$a_3=\frac12\left(\frac{17}{12}+\frac{24}{17}\right)=\frac{577}{408}=1.4142156\ldots$ である。ex-iah-start と同じ数が出る。$b_3=\frac{2}{a_3}=\frac{816}{577}$ で、$\frac{816}{577}<\sqrt2<\frac{577}{408}$ が保証される。
平方根を手で求める別の方法は 開平法:平方根の筆算 にある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $a,b>0$(正の数) | $a=3$、$b=-1$ | $(a_n,b_n)$ が $(1,-3)$、$(-1,3)$、$(1,-3)$、…と繰り返し、収束しない |
| $a,b>0$(正の数) | $a=1$、$b=-1$ | $a_0+b_0=0$ で $b_1$ が定まらない |
| 組み合わせる平均が相加平均と調和平均 | 相加平均と相乗平均、$a=2$、$b=1$ | 積が保たれず、極限は $1.45679\ldots$ で $\sqrt2$ でない |
| $b_{n+1}$ に古い $a_n$ を使う | $b_{n+1}=\frac{2a_{n+1}b_n}{a_{n+1}+b_n}$、$a=2$、$b=1$ | 積が保たれず、極限は $1.29684\ldots$ で $\sqrt2$ でない |
$a=3$、$b=-1$ では $a_1=\frac{3-1}2=1$、$b_1=\frac{2\cdot3\cdot(-1)}{3-1}=-3$、$a_2=\frac{1-3}2=-1$、$b_2=\frac{2\cdot1\cdot(-3)}{1-3}=3$、$a_3=1$、$b_3=-3$ と、周期2で繰り返す。積はいつも $-3$ で、thm-iah-limit の条件 (i) は成り立っているが、$\sqrt{ab}=\sqrt{-3}$ は実数でなく、近づく先がない。
相加平均と相乗平均を組み合わせると、$a_1=1.5$、$b_1=\sqrt2=1.41421\ldots$ で、積は $2.1213\ldots$ となり、$ab=2$ から変わってしまう。この組み合わせは次の記事の算術幾何平均になる。古い $a_n$ の代わりに新しい $a_{n+1}$ を使う変種でも、$a_1=1.5$、$b_1=\frac{2\cdot1.5\cdot1}{2.5}=1.2$ で積は $1.8$ となり、極限は $\sqrt2$ と違う値になる(計算で確かめると $1.29684\ldots$)。
1つ目と2つ目の反例では、正の数という仮定を外したことで、lem-iah-gap の分母 $x+y$ が正であることも同時に崩れている。3つ目と4つ目では、$a_n,b_n$ は正のままで収束もするが、段1の積の保存が崩れるので、極限が $\sqrt{ab}$ にならない。
この記事の証明の要は、反復で変わらない量(保存量)$a_nb_n$ を見つけたことである。2つの平均 $M_1,M_2$ を交互にとる反復では、$M_1(x,y)M_2(x,y)=xy$ のような関係があれば、極限が閉じた式で求まる。相加平均と相乗平均の組では積も和も保たれない。その代わりに、ある積分の値が反復で変わらないことが、算術幾何平均と積分 で示される。反復で変わらない量を探すことは、縮小写像と漸化式 で扱う不動点の考え方とも結びついている。
相加平均と相乗平均を繰り返す数列は、算術幾何平均(高校数学) で扱う。そこでも「2つの数列が互いを挟んで近づく」「差がほぼ前の差の2乗になる」という、この記事と同じ2つの評価が成り立つ。
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