ホモトピー同値

同義語:homotopy equivalence

概要

ホモトピー同値(homotopy equivalence)とは、連続写像 $f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to X$ で、往復の合成 $g\circ f$ と $f\circ g$ がそれぞれ恒等写像にホモトピックになるものがあることをいい、同相写像の逆写像の等号をホモトピーに緩めた関係である。空間のホモトピー同値は同値関係で、同値写像はホモトピックな写像に取り替えてよく、変形レトラクトの包含はホモトピー同値を与えるが、同値な包含に必ずレトラクションがあるわけではない。道成分・基本群・ホモロジー群は同値写像のもとで同型に移るので、円周と円板が同値でないことを示せる。ただし不変量が同型でも同値とは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ホモトピー, 連続写像, 基本群, 特異ホモロジー

二つの空間が同じ「形」であるとは

円板と一点は同相写像で結べない。一方、円板の各点を中心へ直線に沿って動かすと、途中で切ったり貼ったりせずに円板を一点へ縮められる。この変形を許す立場では、両者は同じ形とみなす。逆に、円周には中心の穴があり、一点へ縮めることはできない。この「縮めた後に残る形」を比較する関係がホモトピー同値である(Hat02 Chapter 0)。
ホモトピー同値は見た目の似かよりではない。二つの連続写像を往復させ、その合成がそれぞれ恒等写像へ連続的に変形できることを要求する。同相写像の逆写像なら往復は正確に恒等写像になるが、ホモトピー同値では等号をホモトピーへ緩める。したがって円板と一点を比較でき、穴の個数のような位相的情報はなお保たれる。
ここでは定義そのものの構成はホモトピーに譲り、同値を実際に作る方法、変位レトラクトとの違い、同値でないことを示す方法を調べる。「群が偶然同型である」ことと「写像が群の同型を誘導する」ことも区別する。

定義と最初の判定

連続写像 $u,v\colon X\to Y$ がホモトピックであるとは、連続写像 $H\colon X\times[0,1]\to Y$ で $H(x,0)=u(x)$、$H(x,1)=v(x)$ を満たすものがあることをいい、$u\simeq v$ と記す。この関係は始点・終点の写像だけでなく、定義域と値域も固定して考える。

ホモトピー同値写像

連続写像 $f\colon X\to Y$ がホモトピー同値写像であるとは、連続写像 $g\colon Y\to X$ があり、
$$ g\circ f\simeq\operatorname{id}_X,\qquad f\circ g\simeq\operatorname{id}_Y $$
となることをいう。この $g$ を $f$ のホモトピー逆写像と呼ぶ。そのような $f$ があれば、$X$ と $Y$ はホモトピー同値で、$X\simeq Y$ と書く。

必要なのは往復の両方である。$g\circ f\simeq\operatorname{id}_X$ だけでは、$Y$ に $f(X)$ と関係ない成分が付いていても排除できない。たとえば一点 $X=\{*\}$ から離散二点空間 $Y=\{a,b\}$ への写像 $f(*)=a$ は、$g\colon Y\to X$ との合成 $gf=\operatorname{id}_X$ を満たす。しかし $fg$ は $Y$ 上の定数写像であり、恒等写像とホモトピックでない。離散空間への $[0,1]$ からの連続写像は定数で、$b$ を $a$ へ動かせないためである。
同相写像 $f$ は $g=f^{-1}$ を選べばホモトピー同値写像である。逆は成り立たない。区間と一点はホモトピー同値でも同相でなく、前者には複数の点がある。この区別は「厳密な逆」か「変形の後の逆」かという違いである。

合成と同値関係

$f\colon X\to Y$ と $h\colon Y\to Z$ がホモトピー同値写像なら、$h\circ f$ もホモトピー同値写像である。その結果、空間のホモトピー同値は反射的・対称的・推移的な関係である。

合成と同値関係

$g\colon Y\to X$ と $k\colon Z\to Y$ をホモトピー逆写像とする。$gf\simeq\operatorname{id}_X$、$fg\simeq\operatorname{id}_Y$、$kh\simeq\operatorname{id}_Y$、$hk\simeq\operatorname{id}_Z$ である。ホモトピー $H$ に連続写像を前後から合成すれば再びホモトピーになるので、$(gk)(hf)=g(kh)f\simeq g\operatorname{id}_Yf=gf\simeq\operatorname{id}_X$ である。同様に $(hf)(gk)=h(fg)k\simeq hk\simeq\operatorname{id}_Z$。よって $gk$ が $hf$ のホモトピー逆写像である。恒等写像自身が反射性を、$f$ と $g$ の役割を交換できることが対称性を、いま示した合成が推移性を与える。$\square$

同値写像を作り替える

一度同値写像を得た後は、その写像をホモトピーで変形しても同値である。これは具体的な式を扱いやすくするために有用である。たとえば、ある図形を円周へ送る写像が厳密な半径方向の射影ではなくても、半径方向の射影とホモトピックであれば、同じホモトピー型を示す写像として使える。ただしこの言い方には、二つの写像の定義域と値域が同じという条件が入っている。

ホモトピックな写像への置換

$f,f'\colon X\to Y$ がホモトピックで、$f$ がホモトピー同値写像なら、$f'$ もホモトピー同値写像である。

ホモトピックな写像への置換

$f$ のホモトピー逆写像を $g\colon Y\to X$ とする。$f\simeq f'$ というホモトピーに $g$ を後から合成して $gf\simeq gf'$、前から合成して $fg\simeq f'g$ を得る。一方 $gf\simeq\operatorname{id}_X$、$fg\simeq\operatorname{id}_Y$。ホモトピーの推移性から $gf'\simeq\operatorname{id}_X$、$f'g\simeq\operatorname{id}_Y$ である。同じ $g$ が $f'$ のホモトピー逆写像になる。$\square$

この命題は、空間の同値を一つの特別な式だけに結びつけない。ただし写像をホモトピーで動かせることは、対象の空間を勝手に取り替えてよいことではない。対象を変えるなら別の同値写像を合成し、prop-he-transitive を使う。

変形レトラクトから作る

空間 $X$ の部分空間 $A$ への変形レトラクションとは、$H\colon X\times[0,1]\to X$ で $H(x,0)=x$、$H(x,1)\in A$、すべての $a\in A$ と $t$ で $H(a,t)=a$ を満たすものをいう。最終時刻の写像を $r\colon X\to A$ と見れば $r(a)=a$ である。包含写像を $i\colon A\hookrightarrow X$ とすると、正確な等式 $ri=\operatorname{id}_A$ とホモトピー $ir\simeq\operatorname{id}_X$ が得られる(Hat02 Chapter 0)。

変形レトラクションは同値を与える

$A$ が $X$ の変形レトラクトなら、包含写像 $i\colon A\hookrightarrow X$ はホモトピー同値写像である。したがって $A\simeq X$ である。

変形レトラクションが同値を与える

変形レトラクションの終点を $r\colon X\to A$ とする。$A$ の点は全時刻で止まっているから $ri(a)=a$、すなわち $ri=\operatorname{id}_A$。一方 $ir(x)=H(x,1)$ であり、$H(x,0)=x$ だから $H$ 自身が $\operatorname{id}_X\simeq ir$ を与える。def-he-equivalence の両条件を満たすので $r$ が $i$ のホモトピー逆写像となる。$\square$

円板と穴あき平面

単位閉円板 $D^2=\{x\in\mathbb R^2:\| x\|\le1\}$ は、$H(x,t)=(1-t)x$ により中心 $\{0\}$ へ変形レトラクトする。各時刻で中心は動かず、終点は $0$ である。よって $D^2\simeq\{0\}$。より一般に凸集合 $C$ は、点 $c\in C$ を選べば $H(x,t)=(1-t)x+tc$ が $C$ 内にあるので可縮である。
穴あき平面 $\mathbb R^2\setminus\{0\}$ では、各点を正規化して単位円周 $S^1$ に送る $r(x)=x/\| x\|$ を使う。$H(x,t)=((1-t)+t/\| x\|)x$ は常に原点を避け、円周上では全時刻で $x$ に等しい。したがって $S^1$ は穴あき平面の変形レトラクトで、$\mathbb R^2\setminus\{0\}\simeq S^1$ である。円周は一点と同値ではないことを後で基本群から示す。

積 $X\times[0,1]$ から $X\times\{0\}$ へは $(x,s)$ を $(x,(1-t)s)$ に動かせばよい。この例は $X$ が任意の位相空間でも成立する。したがって空間に「厚みとしての区間」を付けてもホモトピー型は変わらない。射影 $p\colon X\times[0,1]\to X$ と $x\mapsto(x,0)$ がホモトピー逆写像になる。
穴あき平面の式では、係数 $(1-t)+t/\| x\|$ は正である。このため、原点を除いた定義域から途中で抜け出さない。さらに $\| x\|=1$ なら係数は常に $1$ だから、終点だけでなく変形の全過程で円周の各点が止まる。単なる「各半直線上を動く」という絵だけでは後者の条件は確認できず、式が変形レトラクションの三つの条件を同時に保証している。

逆は成り立たない

変形レトラクションは、部分空間への連続なレトラクションがあり、しかもその部分空間を動かさないという強い条件である。包含写像がホモトピー同値でも、レトラクションが存在するとは限らない。

同値な包含だがレトラクションでない

$A=(0,1)\subset X=\mathbb R$ とする。$A$ も $X$ も可縮なので、包含 $i\colon A\hookrightarrow X$ はホモトピー同値である。実際 $g\colon X\to A$ を定数写像 $g(x)=1/2$ とすれば、$gi$ は $A$ 上の定数写像、$ig$ は $X$ 上の定数写像である。両区間の直線ホモトピー $(x,t)\mapsto(1-t)x+t/2$ が各恒等写像とこれらの定数写像を結ぶ。
しかし $A$ は $X$ のレトラクトですらない。もし $r\colon\mathbb R\to(0,1)$ が $r(a)=a$ をすべての $a\in(0,1)$ で満たせば、$a\downarrow0$ とした連続性から $r(0)=0$ となる。これは $r(0)\in(0,1)$ に矛盾する。したがってこの包含は変形レトラクションからは得られない。空間 $A$ と $X$ 自体は同相であるが、その事実もこの包含写像にレトラクションを与えない。

この反例は「二つの空間が同じホモトピー型である」ことと、「与えられた部分空間を固定したまま周囲をそこへ縮められる」ことを分ける。同値写像では空間の点を一斉に動かしてよいが、変形レトラクションでは $A$ の点をすべて止める必要がある。
別の見方をすると、$A$ へのレトラクション $r$ があれば $r|_A=\operatorname{id}_A$ という境界条件が課される。ex-he-open-interval では、$A$ に近づく $X$ の点 $0$ がこの境界条件と連続性を両立させない。$A$ と $X$ が同相という事実は、このような指定された包含の振る舞いを決めない。同相写像そのものと、包含写像は別の写像だからである。

同値でないことをどう証明するか

同値を示すには往復の写像と二つのホモトピーを具体的に作ればよい。非同値を示すときは、そのような写像が存在しないことを直接調べるより、ホモトピー同値で保存される量を比較するほうがよい。

道成分は保存される

$f\colon X\to Y$ がホモトピー同値写像なら、$f$ は道成分の集合の間に全単射を誘導する。とくに、$X$ が道連結なら $Y$ も道連結である。

道成分の保存

$u\simeq v\colon X\to Y$ なら、各 $x\in X$ に対して $t\mapsto H(x,t)$ は $u(x)$ と $v(x)$ を結ぶ道だから、$u(x)$ と $v(x)$ は同じ道成分に入る。連続写像は道を道に送るので道成分の集合への写像を誘導し、ホモトピックな写像は同じ写像を誘導する。$f$ のホモトピー逆写像を $g$ とすれば、$gf\simeq\operatorname{id}_X$ と $fg\simeq\operatorname{id}_Y$ から、道成分に誘導する写像は互いに逆になる。$\square$

これだけで、離散二点空間と一点はホモトピー同値でないと分かる。一方、道連結性だけでは円周と円板は区別できない。次の段階では穴を一周する閉路を記録する基本群を使う。

基本群・ホモロジーへの帰結

$f\colon X\to Y$ がホモトピー同値写像なら、各 $x_0\in X$ について $f_*\colon\pi_1(X,x_0)\to\pi_1(Y,f(x_0))$ は同型である。また任意の整数係数の特異ホモロジー次数 $n\ge0$ について $f_*\colon H_n(X;\mathbb Z)\to H_n(Y;\mathbb Z)$ は同型である。一般の係数群による特異ホモロジーにも同じ結論が成り立つ(Hat02 Chapter 1、Corollary 2.11)。

後半のホモロジーの主張は、ホモトピックな写像が同じホモロジー準同型を誘導するというホモトピー不変性から従う。実際 $g$ を逆写像とすれば $(gf)_*=g_*f_*=(\operatorname{id}_X)_*$、$(fg)_*=f_*g_*=(\operatorname{id}_Y)_*$ である。ホモトピー不変性自体の鎖レベルの証明は特異ホモロジーに譲る。
基本群では基点の扱いが少し違う。$gf\simeq\operatorname{id}_X$ の途中で $x_0$ が動くと、$gf(x_0)$ と $x_0$ は一致しない可能性がある。よって $g_*f_*$ を何も補わずに恒等準同型と書いてはいけない。途中で基点がたどる道に沿った基点移送の同型を入れると、逆が得られる。Hat02 §1.1 はその可換図式を使って $f_*$ が同型であることを証明している。

円周と円板は同値でない

$D^2$ は一点へ変形レトラクトするから $\pi_1(D^2,0)$ は自明群である。他方 $\pi_1(S^1,1)\cong\mathbb Z$ である(基本群)。もし両者がホモトピー同値なら prop-he-invariants によってこれらが同型となるはずだが、自明群と $\mathbb Z$ は同型でない。したがって $S^1\not\simeq D^2$。同じ理由で穴あき平面も円板と同値でない。

ホモロジーでも $H_1(S^1;\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ と $H_1(D^2;\mathbb Z)=0$ を比較できる。ただし不変量が同じなら必ず同値になるわけではない。たとえば二つの空間のホモロジー群が各次数で同型でも、コホモロジーの積という追加構造が違う場合がある(カップ積)。また特定の $f$ が各ホモロジー群に同型を誘導しても、一般の位相空間の間ではそれだけで $f$ がホモトピー同値とは結論できない。

ホモトピー群を使う範囲

高次のホモトピー群も同値で保存される。基点を保つホモトピー逆写像と基点付きホモトピーが与えられていれば、$\pi_n$ の関手性だけで $f_*$ と $g_*$ が逆になる。基点を動かす同値では、基本群の場合と同じく道による基点移送を挟む。したがって「すべてのホモトピー群が同型」というときは、対応する基点と、同型を誘導する写像を明示するのが安全である。
CW 複体の間の写像については強い逆向きの定理がある。各基点で $\pi_n$($n\ge1$)に同型を誘導し、道成分にも全単射を誘導する写像はホモトピー同値である。これは Whitehead の定理で、Hat02 Theorem 4.5 による。CW 複体という仮定と、同型を誘導する一つの写像があることを落とせない。二つの空間の抽象的な群の一覧が同じというだけの判定法ではない。ここでは Whitehead の定理そのものは証明しない。

写像としての同値と不変量の読み方

ホモトピー同値な空間に同型な不変量が付くという文は、実際には写像 $f$ が誘導する同型を意味する。同じ群が二つ見つかっただけでは、どの写像がそれらを結ぶかも、空間のほかの構造が保たれるかも分からない。たとえば $S^1\vee S^1\vee S^2$ と二次元トーラスは各次数の整数係数ホモロジー群が同型だが、コホモロジーの積が異なりホモトピー同値ではない(カップ積 の系「コホモロジー群が同じで環が異なる空間」)。
同値を探す実務では、まず部分空間への明示的な変形レトラクションを探す。厚い領域を骨格へ押し込む、積の区間因子を潰す、円環の各半径方向の線分を円周へ送る、といった構成である。次に、より柔軟な二つの写像と往復のホモトピーを探す。いずれも見つからなければ、道成分、基本群、高次ホモトピー群、ホモロジー、コホモロジー環などを比較する。この順序は計算の方針であって、どれか一つの不変量が全空間を分類するという意味ではない。
「可縮」を例にすると、空間 $X$ が一点とホモトピー同値であることは、$\operatorname{id}_X$ が定数写像とホモトピックであることと同値である。前向きには一点との往復からそのホモトピーを得る。後向きには任意の点 $x_0\in X$ を選び、$X\to\{*\}$ と $\{*\}\to X$($*\mapsto x_0$)を使えばよい。ここではホモトピー中に $x_0$ を止める条件はない。したがって可縮性の定義を「必ず一点への変形レトラクションがある」と読み替えることは一般にはできない(Hat02 Chapter 0)。
最後に、位相空間の同値と、鎖複体の鎖ホモトピー同値は似た形の定義をもつが、扱う写像とホモトピーが異なる。後者では連続写像の代わりに複体の射、空間のホモトピーの代わりに鎖ホモトピーを使う(擬同型)。用語が同じ「同値」でも、対象を確認してから使う。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, 1st edition, Cambridge University Press, 2002, Chapter 0 pp. 1–4(変形レトラクション・ホモトピー同値・可縮性)、Chapter 1 §1.1(基点移送と基本群)、Corollary 2.11(ホモロジーの同型)、Theorem 4.5(CW 複体に対する Whitehead の定理)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する