Hilbert変換

同義語:ヒルベルト変換Hilbert transform

概要

Hilbert変換(Hilbert transform)とは、実数直線上の関数 $f$ に、核 $1/(\pi y)$ との畳み込みを原点のまわりを対称に除いた主値積分で定めて対応させる作用素であり、Fourier 変換の側では正の周波数に $-i$、負の周波数に $i$ を掛ける作用素にあたる。$L^2$ ではユニタリで $H^2=-I$ を満たし、実数値の $f$ について $f+iHf$ は上半平面の正則関数の境界値になる。M. Riesz の定理により $1< p<\infty$ で $L^p$ 上の有界作用素に延びるが、$p=1$ と $p=\infty$ では有界でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Fourier変換, Plancherelの定理, Lp空間, Cauchyの主値

Hilbert 変換(Hilbert transform)は、実数直線の上の関数 $f$ に
$$ Hf(x)=\frac1\pi\,\mathrm{p.v.}\!\int_{-\infty}^{\infty}\frac{f(x-y)}{y}\,dy=\lim_{\varepsilon\downarrow0}\frac1\pi\int_{\lvert y\rvert>\varepsilon}\frac{f(x-y)}{y}\,dy $$
を対応させる作用素である。核 $1/(\pi y)$ は原点の近くでも無限遠でも可積分でないので、積分は原点のまわりを対称に除いた主値として定める。Fourier 変換の側で見ると、Hilbert 変換は正の周波数に $-i$ を、負の周波数に $i$ を掛ける作用素であり、各周波数の位相を $90^\circ$ ずらす。たとえば $\cos$ は形式的に $\sin$ に写る。
Hilbert 変換は、実数値の関数 $f$ を実部にもつ上半平面の正則関数の、虚部の境界値を与える。つまり $f$ に共役な調和関数の境界値である。また、平行移動と正の数による拡大の両方と可換で、反転とは反可換な $L^2$ 上の有界作用素は、定数倍を除いて Hilbert 変換に限られる。この意味で Hilbert 変換は、可積分でない核をもつ畳み込み作用素(特異積分作用素)のもっとも基本的な例である。
この記事では、Fourier 乗数としての定義から始めて、主値積分による表示を証明し、具体的な関数の Hilbert 変換を計算し、上半平面の正則関数との関係を示す。主定理は M. Riesz の定理($1< p<\infty$ での $L^p$ 有界性)で、Cotlar の恒等式による証明を与える。最後に、$p=1$ と $p=\infty$ では有界でないこと、主値の切り落としが対称でなければ別の作用素になることを示す。
以下、関数は $\mathbb R$ 上の複素数値の関数で、ほとんど至るところ等しいものを同一視する。Fourier 変換は Fourier変換 の規格化 $\widehat f(\xi)=\int f(x)e^{-2\pi ix\xi}\,dx$ に従い、Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」により $L^2(\mathbb R)$ 上のユニタリ作用素 $\mathcal F$ に延長したものを使う。$L^2$ の内積は $\langle f,g\rangle=\int f\overline g\,dx$ とする。$\operatorname{sgn}\xi$ は $\xi>0$ で $1$、$\xi<0$ で $-1$、$\xi=0$ で $0$ とする。

定義と基本的な性質

Hilbert 変換の定義

$f\in L^2(\mathbb R)$ について
$$ Hf:=\mathcal F^{-1}\bigl(m\,\mathcal Ff\bigr),\qquad m(\xi):=-i\operatorname{sgn}\xi $$
を $f$ の Hilbert 変換 という。$m$ を Hilbert 変換の 乗数(または表象)という。

$\lvert m\rvert=1$ がほとんど至るところ成り立つので、$H$ は $L^2(\mathbb R)$ 上の有界線形作用素である。これは 平行移動と可換な作用素 の例「Fourier 乗数作用素の例」の 4 と同じ定義である。

乗数から読める性質
  1. $H$ はユニタリで、$H^2=-I$、$H^*=-H$ である。
  2. $y\in\mathbb R$ による平行移動 $\tau_yf(x)=f(x-y)$、$\lambda>0$ による拡大 $\delta_\lambda f(x)=f(x/\lambda)$、反転 $Rf(x)=f(-x)$ について、$H\tau_y=\tau_yH$、$H\delta_\lambda=\delta_\lambda H$、$HR=-RH$ である。
  3. $f$ が実数値なら $Hf$ も実数値である。したがって $H\overline f=\overline{Hf}$ である。
  4. $L^2(\mathbb R)$ 上の有界作用素 $T$ がすべての $\tau_y$ と $\delta_\lambda$ と可換で、$TR=-RT$ を満たすなら、ある $b\in\mathbb C$ で $T=bH$ である。

要点:乗数 $m$ の性質 $\lvert m\rvert=1$、$m^2=-1$、$\overline m=-m$、$m(\lambda\xi)=m(\xi)$、$m(-\xi)=-m(\xi)$ を Fourier 変換で移す。

詳しい証明を開く

1:$\mathcal F$ はユニタリなので、$H$ の性質は掛け算作用素 $M_m$ の性質と同じである。$\lvert m\rvert=1$、$m^2=-1$、$\overline m=-m$(いずれもほとんど至るところ)から、$M_m$ はユニタリで $M_m^2=-I$、$M_m^*=M_{\overline m}=-M_m$ である。

2:$\mathcal F\tau_y\mathcal F^{-1}$ は $e^{-2\pi iy\xi}$ を掛ける作用素で、これは $M_m$ と可換である。拡大については、平行移動と可換な作用素 の定理「平行移動と拡大の両方と可換な作用素」の証明の「拡大の変換」により $\mathcal F\delta_\lambda=\lambda E_\lambda\mathcal F$($E_\lambda g(\xi)=g(\lambda\xi)$)であり、$m(\lambda\xi)=m(\xi)$ から $M_mE_\lambda=E_\lambda M_m$ である。反転については、$L^1\cap L^2$ の上で $\mathcal FR=R\mathcal F$ であり、連続性から $L^2$ 全体で成り立つ。$m(-\xi)=-m(\xi)$ から $M_mR=-RM_m$ である。

3:$L^1\cap L^2$ の上で $\mathcal F\overline f(\xi)=\overline{\mathcal Ff(-\xi)}$ であり、連続性から $L^2$ 全体で成り立つ。よって $f$ が実数値であることと $\mathcal Ff(-\xi)=\overline{\mathcal Ff(\xi)}$(ほとんど至るところ)は同値である。$m(-\xi)=-m(\xi)=\overline{m(\xi)}$ なので、$f$ が実数値なら $\mathcal F(Hf)(-\xi)=\overline{m(\xi)}\,\overline{\mathcal Ff(\xi)}=\overline{\mathcal F(Hf)(\xi)}$ であり、$Hf$ も実数値である。$f=u+iv$($u,v$ は実数値)と分ければ $H\overline f=Hu-iHv=\overline{Hf}$ である。

4:平行移動と可換な作用素 の定理「平行移動と拡大の両方と可換な作用素」により $T=aI+bH$ と書ける。2 から $TR=aR+bHR$、$-RT=-aR-bRH=-aR+bHR$ なので、$TR=-RT$ は $2aR=0$、すなわち $a=0$ を意味する。$\square$

主値積分による表示

$0<\varepsilon< R$ について、切り落とした核 $K_{\varepsilon,R}(y):=\dfrac{\mathbf 1_{\{\varepsilon<\lvert y\rvert< R\}}(y)}{\pi y}$ は可積分なので、
$$ H_{\varepsilon,R}f(x):=(K_{\varepsilon,R}*f)(x)=\frac1\pi\int_{\varepsilon<\lvert y\rvert< R}\frac{f(x-y)}{y}\,dy $$
は $f\in L^2$ について各点で絶対収束する。特異積分作用素 の命題「切り落とした Hilbert 変換」とその証明により、$H_{\varepsilon,R}$ は $L^2$ 上の有界作用素で、乗数
$$ \widehat{K_{\varepsilon,R}}(\xi)=-\frac{2i}\pi\operatorname{sgn}(\xi)\int_{2\pi\lvert\xi\rvert\varepsilon}^{2\pi\lvert\xi\rvert R}\frac{\sin u}u\,du,\qquad\bigl\lvert\widehat{K_{\varepsilon,R}}(\xi)\bigr\rvert\le\frac6\pi $$
の Fourier 乗数作用素である(同じ命題の証明では $L^1\cap L^2$ の上で $\mathcal F(H_{\varepsilon,R}f)=\widehat{K_{\varepsilon,R}}\,\mathcal Ff$ を示しており、両辺は $f$ について $L^2$ で連続なので $L^2$ 全体で成り立つ)。

主値積分としての Hilbert 変換
  1. $f\in L^2(\mathbb R)$ なら、$\varepsilon\downarrow0$、$R\to\infty$ のとき $H_{\varepsilon,R}f\to Hf$ が $L^2$ で成り立つ。
  2. $f$ がコンパクトな台をもつ $C^1$ 級の関数なら、すべての $x$ で極限 $\lim_{\varepsilon\downarrow0}\frac1\pi\int_{\lvert y\rvert>\varepsilon}\frac{f(x-y)}y\,dy$ が存在し、ほとんどすべての $x$ で $Hf(x)$ に等しい。

要点:1 は切り落とした核の乗数が有界のまま $m$ に各点収束することと優収束定理、2 は奇関数 $1/y$ を使って差を $f(x-y)-f(x)$ に替えること。

詳しい証明を開く

1:Cauchyの主値 の系「Dirichlet の正弦積分」により、$\xi\ne0$ では $\int_{2\pi\lvert\xi\rvert\varepsilon}^{2\pi\lvert\xi\rvert R}\frac{\sin u}u\,du\to\frac\pi2$ であり、$\widehat{K_{\varepsilon,R}}(\xi)\to-i\operatorname{sgn}\xi=m(\xi)$ である。Plancherelの定理 により$$\|H_{\varepsilon,R}f-Hf\|_2=\bigl\|(\widehat{K_{\varepsilon,R}}-m)\,\mathcal Ff\bigr\|_2$$で、被積分関数 $\lvert\widehat{K_{\varepsilon,R}}-m\rvert^2\lvert\mathcal Ff\rvert^2$ は $(6/\pi+1)^2\lvert\mathcal Ff\rvert^2$ で押さえられ、各点で $0$ に近づく。優収束定理 により右辺は $0$ に近づく。

2:$f$ の台が $[-A,A]$ に含まれるとする。$x$ を固定し、$R>\lvert x\rvert+A$ なら $\lvert y\rvert\ge R$ で $f(x-y)=0$ なので、$H_{\varepsilon,R}f(x)$ は $R$ によらない。$0<\varepsilon'<\varepsilon$ について、$1/y$ が奇関数であることから$$\int_{\varepsilon'<\lvert y\rvert<\varepsilon}\frac{f(x-y)}y\,dy=\int_{\varepsilon'<\lvert y\rvert<\varepsilon}\frac{f(x-y)-f(x)}y\,dy$$であり、平均値の定理により $\lvert f(x-y)-f(x)\rvert\le\|f'\|_\infty\lvert y\rvert$ なので、絶対値は $2\|f'\|_\infty(\varepsilon-\varepsilon')$ 以下である。よって $\varepsilon\downarrow0$ での極限 $L(x)$ が存在する。1 により、$\varepsilon_k\downarrow0$、$R_k\to\infty$ の列について $H_{\varepsilon_k,R_k}f\to Hf$ が $L^2$ で成り立ち、部分列はほとんど至るところ収束する(Lp空間)。その極限は $L(x)$ なので、ほとんどすべての $x$ で $Hf(x)=L(x)$ である。$\square$

Fourier 乗数 $-i\operatorname{sgn}\xi$ による定義と主値積分による定義が一致することは、Kna16 Theorem 8.24(p. 438)と Bass24 Proposition 24.10(p. 358)にもある。1 の極限は $\varepsilon$ と $R$ を独立に動かしてよい。ただし原点のまわりの切り落としは対称でなければならない(下の節「反例:条件を外すと成り立たない」の表の 3 行目)。

Hilbert 変換の計算

Hilbert 変換の計算例
  1. $f(x)=\dfrac1{1+x^2}$ なら $Hf(x)=\dfrac x{1+x^2}$ である。このとき $f+iHf=\dfrac{1+ix}{1+x^2}=\dfrac i{x+i}$ は、上半平面で正則な関数 $\dfrac i{z+i}$ の実軸での値である。
  2. $a< b$ とし、$f=\mathbf 1_{[a,b]}$ とする。ほとんどすべての $x$(実際には $x\ne a,b$ のすべて)で
    $$ Hf(x)=\frac1\pi\log\frac{\lvert x-a\rvert}{\lvert x-b\rvert} $$
    である。$Hf$ は $x\to a$ で $-\infty$ に、$x\to b$ で $+\infty$ に発散し、$\lvert x\rvert\to\infty$ では $Hf(x)=\frac{b-a}{\pi x}+O(x^{-2})$ である。
  3. Fourier 変換が $\xi>0$ に台をもつ $f\in L^2$($\mathcal Ff=0$ が $(-\infty,0)$ でほとんど至るところ成り立つもの)については $Hf=-if$ であり、$\xi<0$ に台をもつものについては $Hf=if$ である。周波数 $\xi_0>0$ の波 $e^{2\pi i\xi_0x}$ を $-ie^{2\pi i\xi_0x}$ に、$e^{-2\pi i\xi_0x}$ を $ie^{-2\pi i\xi_0x}$ に写すと考えれば、$\cos2\pi\xi_0x$ が $\sin2\pi\xi_0x$ に、$\sin2\pi\xi_0x$ が $-\cos2\pi\xi_0x$ に写る(これらは $L^2$ に属さないので形式的な計算である。Kna16 §VIII.7、p. 435)。
計算を開く

1:$g(\xi)=\pi e^{-2\pi\lvert\xi\rvert}$ は $L^1\cap L^2$ に属し、$$\int g(\xi)e^{2\pi ix\xi}\,d\xi=\pi\Bigl(\frac1{2\pi(1-ix)}+\frac1{2\pi(1+ix)}\Bigr)=\frac1{1+x^2}$$である。Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」の 3 により、左辺は $\mathcal F^{-1}g$ なので $\mathcal Ff=g$ である。同様に $mg=-i\pi\operatorname{sgn}(\xi)e^{-2\pi\lvert\xi\rvert}$ も $L^1\cap L^2$ に属し、$$\int m(\xi)g(\xi)e^{2\pi ix\xi}\,d\xi=-i\pi\Bigl(\frac1{2\pi(1-ix)}-\frac1{2\pi(1+ix)}\Bigr)=-i\pi\cdot\frac{2ix}{2\pi(1+x^2)}=\frac x{1+x^2}$$なので $Hf=\mathcal F^{-1}(mg)=x/(1+x^2)$ である。

2:$x\ne a,b$ を固定し、$\varepsilon<\min\{\lvert x-a\rvert,\lvert x-b\rvert\}$、$R>\lvert x\rvert+\lvert a\rvert+\lvert b\rvert$ とする。変数を $t=x-y$ に替えると $H_{\varepsilon,R}f(x)=\frac1\pi\int_{[a,b]\cap\{\lvert x-t\rvert>\varepsilon\}}\frac{dt}{x-t}$ である。$x\notin[a,b]$ なら積分範囲は $[a,b]$ 全体で、値は $\frac1\pi\bigl[-\log\lvert x-t\rvert\bigr]_a^b=\frac1\pi\log\frac{\lvert x-a\rvert}{\lvert x-b\rvert}$ である。$a< x< b$ なら値は$$\frac1\pi\Bigl(\int_a^{x-\varepsilon}+\int_{x+\varepsilon}^b\Bigr)\frac{dt}{x-t}=\frac1\pi\Bigl(\log\frac{x-a}\varepsilon+\log\frac\varepsilon{b-x}\Bigr)=\frac1\pi\log\frac{x-a}{b-x}$$である。どちらも $\varepsilon,R$ によらないので $H_{\varepsilon,R}f(x)$ はこの値に収束し、thm-ht-pv の 1 と部分列のほとんど至るところの収束により、ほとんどすべての $x$ で $Hf(x)$ はこの値に等しい。漸近形は $\log\frac{\lvert x-a\rvert}{\lvert x-b\rvert}=\log\bigl(1+\frac{b-a}{x-b}\bigr)$($x>b$)の展開による($x< a$ も同様)。

3:$\mathcal Ff$ が $(-\infty,0)$ でほとんど至るところ $0$ なら、$m\,\mathcal Ff=-i\,\mathcal Ff$ がほとんど至るところ成り立つので $Hf=-if$ である。負の側も同様である。$\square$

2 の例は、$f\in L^1\cap L^\infty$ でも $Hf$ が $L^1$ にも $L^\infty$ にも属さないことを示している(ex-ht-counterexamples)。

上半平面の正則関数の境界値

例の 1 と 3 が示すように、$f+iHf$ は Fourier 変換が正の周波数だけをもつ関数である。実際、乗数で書くと $1+i\,m(\xi)=1+\operatorname{sgn}\xi$ なので
$$ \mathcal F(f+iHf)=2\cdot\mathbf 1_{(0,\infty)}\,\mathcal Ff $$
である。正の周波数だけをもつ関数は上半平面 $\mathbb H:=\{z\in\mathbb C:\operatorname{Im}z>0\}$ に正則に延びる。

上半平面への正則な延長

$f\in L^2(\mathbb R)$ について、$z\in\mathbb H$ に対して
$$ F(z):=2\int_0^\infty\mathcal Ff(\xi)\,e^{2\pi iz\xi}\,d\xi $$
とおく。積分は絶対収束し、$F$ は $\mathbb H$ で正則であり、$y\downarrow0$ のとき $F(\cdot+iy)\to f+iHf$ が $L^2(\mathbb R)$ で成り立つ。とくに $f$ が実数値なら、$\operatorname{Re}F$ と $\operatorname{Im}F$ は互いに共役な 調和関数 で、境界値はそれぞれ $f$ と $Hf$ である($L^2$ の意味で)。

要点:正の周波数だけの反転積分は $e^{-2\pi y\xi}$ で収束がよくなり、$y\downarrow0$ の極限は Plancherel の定理で測る。

詳しい証明を開く

$\hat f:=\mathcal Ff$ と書く。$z=x+iy$、$y>0$ なら $\lvert e^{2\pi iz\xi}\rvert=e^{-2\pi y\xi}$ であり、Hölderの不等式 により $\int_0^\infty\lvert\hat f(\xi)\rvert e^{-2\pi y\xi}\,d\xi\le\|\hat f\|_2(4\pi y)^{-1/2}$ なので積分は絶対収束する。$y_0>0$ を固定すると、$\operatorname{Im}z\ge y_0$ で被積分関数とその $z$ についての導関数 $2\pi i\xi\hat f(\xi)e^{2\pi iz\xi}$ は、それぞれ $\lvert\hat f(\xi)\rvert e^{-2\pi y_0\xi}$、$2\pi\xi\lvert\hat f(\xi)\rvert e^{-2\pi y_0\xi}$ で押さえられ、どちらも $(0,\infty)$ で可積分である。優収束定理 により差分商の極限を積分の中でとってよく、$F$ は $\operatorname{Im}z>y_0$ で複素微分可能である。$y_0$ は任意なので $F$ は $\mathbb H$ で 正則関数 である。

$y>0$ を固定し $g_y(\xi):=2\cdot\mathbf 1_{(0,\infty)}(\xi)\hat f(\xi)e^{-2\pi y\xi}$ とおくと、$g_y\in L^1\cap L^2$ で、$F(x+iy)=\int g_y(\xi)e^{2\pi ix\xi}\,d\xi$ である。Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」の 3 により右辺は $\mathcal F^{-1}g_y$ なので、$$\|F(\cdot+iy)-(f+iHf)\|_2=\bigl\|2\cdot\mathbf 1_{(0,\infty)}\,(e^{-2\pi y\xi}-1)\,\hat f\bigr\|_2$$である。被積分関数は $4\lvert\hat f\rvert^2$ で押さえられ、各点で $0$ に近づくので、優収束定理 により右辺は $0$ に近づく。$f$ が実数値なら prop-ht-basic の 3 により $Hf$ も実数値で、$\operatorname{Re}F(\cdot+iy)\to f$、$\operatorname{Im}F(\cdot+iy)\to Hf$ が $L^2$ で成り立つ。正則関数の実部と虚部は Cauchy–Riemann の方程式を満たす共役な調和関数である。$\square$

一般に $F(x+iy)=(P_y*f)(x)+i(Q_y*f)(x)$ であり、$f$ が実数値なら $\operatorname{Re}F(x+iy)$ と $\operatorname{Im}F(x+iy)$ は、それぞれ Poisson 核 $P_y(x)=\frac1\pi\frac y{x^2+y^2}$ と共役 Poisson 核 $Q_y(x)=\frac1\pi\frac x{x^2+y^2}$ との畳み込み $P_y*f$、$Q_y*f$ に等しい(Kna16 Theorem 8.22、pp. 437–438)。$y\downarrow0$ で $Q_y$ は形式的に $\frac1{\pi x}$ に近づき、これが主値積分の核である。例の 1 の $f=\frac1{1+x^2}$ は $\pi P_1$ で、$Hf=\pi Q_1$ である。

主定理:M. Riesz の定理

$H$ は $L^2$ ではユニタリだが、核が可積分でないので、$L^p$($p\ne2$)で有界かどうかは自明でない。M. Riesz はこれを $1< p<\infty$ で肯定的に解いた。ここでは、$f+iHf$ の 2 乗がふたたび正の周波数だけをもつことから得られる恒等式で $p=2,4,8,\dots$ へ順に上げ、補間と双対性で残りの $p$ を得る。
以下 $C_c^\infty$ はコンパクトな台をもつ $C^\infty$ 級の関数の全体を表す。

滑らかな関数の Hilbert 変換

$f\in C_c^\infty$ の台が $[-A,A]$ に含まれるとする。$Hf$ は(ほとんど至るところ等しい関数を選べば)有界な $C^\infty$ 級の関数であり、$\lvert x\rvert>A$ では
$$ Hf(x)=\frac1\pi\int_{-A}^{A}\frac{f(t)}{x-t}\,dt,\qquad\lvert Hf(x)\rvert\le\frac{\|f\|_1}{\pi(\lvert x\rvert-A)} $$
である。とくに $1< q\le\infty$ のすべてで $Hf\in L^q$ であり、$f$ が実数値なら $Hf$ も実数値である。

証明を開く

$f$ は Schwartz空間 に属するので $\hat f=\mathcal Ff$ も Schwartz 関数であり、各 $k\ge0$ で $\xi^k m(\xi)\hat f(\xi)$ は可積分である。$m\hat f\in L^1\cap L^2$ なので、Plancherelの定理 の定理「Plancherelの定理($\mathbb{R}^n$)」の 3 により $Hf(x)=\int m(\xi)\hat f(\xi)e^{2\pi ix\xi}\,d\xi$ がほとんど至るところ成り立つ。右辺は $x$ について微分を積分の中でとってよく(被積分関数の $x$ 微分は $(2\pi i\xi)^km\hat f$ で押さえられる)、$C^\infty$ 級で、絶対値は $\|\hat f\|_1$ 以下である。以下この右辺を $Hf$ とする。

$\lvert x\rvert>A$ とし、$\varepsilon<\lvert x\rvert-A$、$R>\lvert x\rvert+A$ をとると、$H_{\varepsilon,R}f(x)=\frac1\pi\int_{-A}^{A}\frac{f(t)}{x-t}\,dt$ である。右辺は $\lvert x\rvert>A$ で連続であり、thm-ht-pv の 1 から $Hf$ とほとんど至るところ等しい。両方とも連続なので $\lvert x\rvert>A$ のすべてで等しい。評価は $\lvert x-t\rvert\ge\lvert x\rvert-A$ による。$Hf$ は有界で、$\lvert x\rvert\ge A+1$ で $\lvert x\rvert^{-1}$ の定数倍で押さえられるので、$q>1$ なら $\lvert Hf\rvert^q$ は可積分である。実数値であることは prop-ht-basic の 3 による。$\square$

Cotlar の恒等式

$f\in C_c^\infty$ が実数値なら、$f\cdot Hf$ は実数値の $C_c^\infty$ の関数であり、
$$ (Hf)^2=f^2+2H(f\cdot Hf) $$
がほとんど至るところ成り立つ。

正の周波数の関数の 2 乗

要点:$G=f+iHf$ の Fourier 変換は $[0,\infty)$ に台をもつので $G^2$ もそうで、$H(G^2)=-iG^2$ の虚部を比べる。

詳しい証明を開く

$f\cdot Hf$ は $C^\infty$ 級で台が $f$ の台に含まれるので $C_c^\infty$ に属し、lem-ht-smooth により実数値である。

$G:=f+iHf$ とおく。lem-ht-smooth により $G$ は有界連続で $L^2$ に属し、$\hat G:=\mathcal FG=2\cdot\mathbf 1_{(0,\infty)}\hat f$ は可積分で $G(x)=\int\hat G(\xi)e^{2\pi ix\xi}\,d\xi$ がすべての $x$ で成り立つ。$h:=\hat G*\hat G$ は可積分であり(畳み込み)、$\xi<0$ では $h(\xi)=\int\hat G(\eta)\hat G(\xi-\eta)\,d\eta=0$ である($\eta$ と $\xi-\eta$ の少なくとも一方が負になるため)。Fubiniの定理 により$$G(x)^2=\iint\hat G(\eta)\hat G(\zeta)e^{2\pi ix(\eta+\zeta)}\,d\eta\,d\zeta=\int h(\xi)e^{2\pi ix\xi}\,d\xi$$である。$\lvert G\rvert^2\le\|G\|_\infty\lvert G\rvert$ なので $G^2\in L^2$ である。

$\mathcal F(G^2)=h$ を示す。Schwartz 関数 $\psi$ について、上の表示と Fubiniの定理 から $\int G^2\overline\psi\,dx=\int h(\xi)\overline{\hat\psi(\xi)}\,d\xi$ であり、Plancherel の定理から左辺は $\langle\mathcal F(G^2),\hat\psi\rangle$ に等しい。$\hat\psi$ は Schwartz 関数全体を動くので、局所可積分関数 $\mathcal F(G^2)-h$ はすべての $C_c^\infty$ の関数と積分して $0$ になり、ほとんど至るところ $0$ である(軟化子)。

よって $\mathcal F(G^2)$ は $(-\infty,0)$ でほとんど至るところ $0$ であり、ex-ht-examples の 3 から $H(G^2)=-iG^2$ である。$G^2=a+ib$、$a:=f^2-(Hf)^2$、$b:=2f\cdot Hf$ と分けると、$a,b$ は実数値の $L^2$ の関数で、prop-ht-basic の 3 により $Ha,Hb$ も実数値である。$Ha+iHb=-ia+b$ の虚部を比べると $Hb=-a$、すなわち $2H(f\cdot Hf)=(Hf)^2-f^2$ である。$\square$

M. Riesz の定理

$1< p<\infty$ とする。定数 $C_p$ があり、すべての $f\in L^2(\mathbb R)\cap L^p(\mathbb R)$ について
$$ \|Hf\|_p\le C_p\|f\|_p $$
が成り立つ。したがって $H$ は $L^p(\mathbb R)$ 上の有界作用素にただ一通りに延長される。

$p=2^k$ へ上げ、補間と双対性で埋める

段 1(実数値の $C_c^\infty$、$p=2^k$)。 $c_2:=1$、$c_{2p}:=c_p+\sqrt{c_p^2+1}$ とおく。$p=2^k$($k\ge1$)と実数値の $f\in C_c^\infty$ について $\|Hf\|_p\le c_p\|f\|_p$ を $k$ についての帰納法で示す。$k=1$ は $H$ がユニタリであることによる。$p$ で成り立つとし、$f\in C_c^\infty$ を実数値として $\alpha:=\|Hf\|_{2p}$、$\beta:=\|f\|_{2p}$ とおく。lem-ht-smooth により $\alpha<\infty$ である。lem-ht-cotlar と $L^p$ ノルムの三角不等式、帰納法の仮定($f\cdot Hf$ は実数値の $C_c^\infty$ の関数)と Hölderの不等式 により
$$ \alpha^2=\|(Hf)^2\|_p\le\|f^2\|_p+2\|H(f\cdot Hf)\|_p\le\beta^2+2c_p\|f\cdot Hf\|_p\le\beta^2+2c_p\,\alpha\beta $$
である。$\alpha$ についての 2 次不等式 $\alpha^2-2c_p\beta\alpha-\beta^2\le0$ を解いて $\alpha\le(c_p+\sqrt{c_p^2+1})\beta=c_{2p}\beta$ を得る。
段 2(複素数値と $L^2\cap L^p$、$p=2^k$)。 $f\in C_c^\infty$ を $f=u+iv$($u,v$ は実数値)と分けると $\|Hf\|_p\le c_p(\|u\|_p+\|v\|_p)\le2c_p\|f\|_p$ である。$f\in L^2\cap L^p$ について、軟化子 による平滑化と台の切り落としにより、$C_c^\infty$ の列 $f_n$ で $L^2$ と $L^p$ の両方で $f_n\to f$ となるものがある。$Hf_n$ は $L^2$ で $Hf$ に収束し、$L^p$ で Cauchy 列なので $L^p$ でも収束し、部分列のほとんど至るところの収束から極限は一致する。よって $\|Hf\|_p\le2c_p\|f\|_p$ である。
段 3($2< p<\infty$)。 $q=2^k\ge p$ をとる。段 2 から $H$ は $L^q$ 上の有界作用素 $\tilde H$ に延長され、$L^2\cap L^q$ の上で $H$ と一致する。$T(g+h):=Hg+\tilde Hh$($g\in L^2$、$h\in L^q$)は、$g+h=g'+h'$ なら $g-g'=h'-h\in L^2\cap L^q$ なので well-defined な $L^2+L^q$ 上の線形写像である。$T$ は $L^2$ で定数 $1$、$L^q$ で定数 $2c_q$ の有界性をもつので、Riesz–Thorinの補間定理 により $\|Hf\|_p\le(2c_q)^\theta\|f\|_p$($\frac1p=\frac{1-\theta}2+\frac\theta q$)が $f\in L^2\cap L^p$ について成り立つ。
段 4($1< p<2$)。 $p'=p/(p-1)>2$ とする。$f,g\in C_c^\infty$ について、prop-ht-basic の 1 と 3 から
$$ \int(Hf)g\,dx=\langle Hf,\overline g\rangle=-\langle f,H\overline g\rangle=-\langle f,\overline{Hg}\rangle=-\int f\,(Hg)\,dx $$
であり、段 3 から $\bigl\lvert\int(Hf)g\,dx\bigr\rvert\le C_{p'}\|f\|_p\|g\|_{p'}$ である。$Hf\in L^p$(lem-ht-smooth)なので、$\|Hf\|_p$ は $\|g\|_{p'}\le1$ の $g\in C_c^\infty$ にわたる $\bigl\lvert\int(Hf)g\,dx\bigr\rvert$ の上限に等しい(Hölder の不等式の等号を与える $\lvert Hf\rvert^{p-1}$ の定数倍に $\overline{\operatorname{sgn}Hf}$ を掛けた関数を $C_c^\infty$ で $L^{p'}$ 近似する)。よって $\|Hf\|_p\le C_{p'}\|f\|_p$ であり、段 2 と同じ近似で $L^2\cap L^p$ に広がる。
最後に、$L^2\cap L^p$ は $L^p$ で稠密なので、$H$ は $L^p$ 上の有界作用素にただ一通りに延長される。$\square$

段 1 の定数は $c_{2^k}=\cot\frac\pi{2^{k+1}}$ である。実際 $c_2=\cot\frac\pi4=1$ であり、半角の公式 $\cot\frac x2=\frac{1+\cos x}{\sin x}=\cot x+\sqrt{\cot^2x+1}$($0< x< \frac\pi2$)が漸化式にあたる。したがって実数値の関数について $p=2^k$ では $\|Hf\|_p\le\cot\frac\pi{2p}\|f\|_p$ である。
別の証明として、切り落とした作用素 $H_{\varepsilon,R}$ が弱 $(1,1)$ 型であることを Calderón–Zygmund 分解で示し、Marcinkiewicz の補間と双対性を使う方法がある(特異積分作用素 の系「切り落とした Hilbert 変換の一様な $L^p$ 評価」、Kna16 Theorem 9.23(p. 481)、Bass24 Theorem 24.12(pp. 360–365))。こちらは $\mathbb R^n$ の特異積分作用素にそのまま一般化される。上の証明は Hilbert 変換に固有の、正則関数の積が正則であることを使う。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
$p>1$$f=\mathbf 1_{[0,1]}\in L^1$$Hf\notin L^1$
$p<\infty$$f=\mathbf 1_{[0,1]}\in L^\infty$$Hf\notin L^\infty$
切り落としが原点について対称台がコンパクトな $C^1$ 級の $f$ と $\{y>\varepsilon\}\cup\{y<-2\varepsilon\}$ での積分極限が $Hf(x)+\frac{\log2}\pi f(x)$ になり、$f(x)\ne0$ の点で $Hf(x)$ と異なる
反例:表の各行の確かめ

1 行目と 2 行目は ex-ht-examples の 2($a=0$、$b=1$)による。$Hf(x)=\frac1\pi\log\frac{\lvert x\rvert}{\lvert x-1\rvert}$ は $x\to0$ で $-\infty$、$x\to1$ で $+\infty$ に発散するので本質的に有界でなく、$x\to\pm\infty$ で $\frac1{\pi x}$ と同程度なので可積分でない。したがって $H$ は $L^1\cap L^2$ から $L^1$ への有界作用素にも、$L^\infty\cap L^2$ から $L^\infty$ への有界作用素にもならない。
より一般に、$f\in L^1\cap L^2$ で $\int f\,dx\ne0$ なら $Hf\notin L^1$ である。$Hf\in L^1$ なら $\mathcal F(Hf)$ は Fourier変換 の命題「有界性・連続性・無限遠での減衰」により連続な関数に等しいが、$\mathcal F(Hf)=-i\operatorname{sgn}(\xi)\hat f(\xi)$ で $\hat f$ は連続、$\hat f(0)=\int f\ne0$ なので、$\xi=0$ で $-i\hat f(0)$ から $i\hat f(0)$ へ跳ぶ(Kna16 pp. 438–439 の注意と同じ議論)。
3 行目:$x$ を固定し、thm-ht-pv の 2 の証明と同じく $R$ は十分大きいとしてよい。
$$ \frac1\pi\int_{\{y>\varepsilon\}\cup\{y<-2\varepsilon\}}\frac{f(x-y)}y\,dy=\frac1\pi\int_{\lvert y\rvert>\varepsilon}\frac{f(x-y)}y\,dy-\frac1\pi\int_{-2\varepsilon}^{-\varepsilon}\frac{f(x-y)}y\,dy $$
で、右辺の第 1 項は $\varepsilon\downarrow0$ でほとんどすべての $x$ について $Hf(x)$ に近づく。第 2 項の積分は $f(x)\int_{-2\varepsilon}^{-\varepsilon}\frac{dy}y=-f(x)\log2$ との差が $\|f'\|_\infty\varepsilon$ 以下である。よって左辺は $Hf(x)+\frac{\log2}\pi f(x)$ に近づく。

弱い形の評価は $p=1$ でも残る。$H_{\varepsilon,R}$ は $\varepsilon,R$ によらない定数で弱 $(1,1)$ 型である(特異積分作用素 の定理「特異積分作用素の有界性(Calderón–Zygmund)」と命題「切り落とした Hilbert 変換」)。

補足

  • Hilbert 変換は $\mathbb R^n$ では Riesz 変換 $R_jf=\mathcal F^{-1}\bigl(-i\frac{\xi_j}{\lvert\xi\rvert}\mathcal Ff\bigr)$ に一般化され、乗数の微分の評価から $L^p$ 有界性を得る一般論が Mikhlinの乗数定理 である。乗数 $-i\operatorname{sgn}\xi$ はその条件を満たす例として、その記事に挙がっている。
  • Hilbert 変換は Fourier 級数の部分和の収束とも結びつく。周波数 $[-N,N]$ への切り落としは $e^{\pm2\pi iNx}$ による変調と Riesz 射影 $P_\pm=\frac12(I\pm iH)$ の組み合わせで書ける。各点収束の問題(Carlesonの定理)では、Hilbert 変換に変調を組み合わせた作用素の評価が中心になる。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する