正規交叉因子(normal crossings divisor)とは、滑らかな多様体の因子で、各点の近傍で局所座標(正則パラメータ系)$t_1,\dots,t_n$ により $t_1\cdots t_r=0$ と書けるもののことである。局所的には滑らかな枝が互いに横断的に交わる因子であり、成分が大域的にも滑らかなものを強正規交叉因子(単純正規交叉因子)、エタール局所的または解析的局所的にその形になるものを正規交叉因子という(節点曲線は後者だが前者でない)。$D$ に沿って対数的極をもつ微分形式の層 $\Omega^p_X(\log D)$ は $dt_i/t_i$ を基底とする局所自由層で、その複体は補集合のコホモロジーを計算し(Deligne)、標数 $0$ では Hironaka の特異点解消により任意の閉部分集合がこの形に直る。尖点や 1 点で交わる 3 直線は正規交叉でない。
前提知識: スキーム, 正則局所環, Cartier因子, Kähler微分, 複素多様体
正規交叉因子は、滑らかな多様体の中の超曲面(因子)のうち、各点の近くで座標超平面の和 $t_1\cdots t_r=0$ の形をしているものである。因子がもちうる特異点のうち最も単純なものだけを許した因子であり、特異点解消によって任意の閉部分集合をこの形に直せること(Hironaka)と、補集合のde Rhamコホモロジーを「対数的な極」をもつ微分形式で計算できること(Deligne)が、この概念の重要性の源である。
まず代数的な定義を述べる。以下、局所環 $(A,\mathfrak{m})$ が正則局所環であるとは、Noether 局所環(Noether環)で $\dim A=\dim_{A/\mathfrak{m}}\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ が成り立つことをいい、$\mathfrak{m}$ を生成する $\dim A$ 個の元の組を正則パラメータ系という。元 $t_1,\dots,t_r\in\mathfrak{m}$ が正則パラメータ系の一部であることは、それらの像が $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ で一次独立であることと同値である(一次独立なら剰余体上の基底に延長し、その持ち上げが Nakayamaの補題により $\mathfrak{m}$ を生成する)。
$X$ を局所 Noether な正則スキーム(典型的には体 $k$ 上滑らか(滑らかな射)なスキーム)とし、$D\subset X$ を有効 Cartier 因子(Cartier因子)、すなわち各点の近傍で 1 個の非零因子 $f$ を方程式とする閉部分スキームとする。$D$ が点 $x\in D$ で強正規交叉(strict normal crossings)であるとは、$\mathcal{O}_{X,x}$ の正則パラメータ系 $t_1,\dots,t_n$($n=\dim\mathcal{O}_{X,x}$)と整数 $1\le r\le n$ が存在して、$D$ の $x$ における局所方程式が $t_1t_2\cdots t_r$ にとれる、すなわち $D$ のイデアル層の茎が $\mathcal{O}_{X,x}$ の単項イデアル $(t_1\cdots t_r)$ であることをいう。$D$ が強正規交叉因子(strict normal crossings divisor、単純正規交叉因子、simple normal crossings divisor、snc 因子)であるとは、$D$ のすべての点で強正規交叉であることをいう。$x\notin D$ のときは $r=0$ と約束する。
$r$ は $x$ を通る $D$ の枝の本数であり、prop-ncd-snc-criterion で見るように $x$ を通る $D$ の既約成分の個数に等しい。
$X$、$D$ を上と同じとする。$D$ が正規交叉因子(normal crossings divisor)であるとは、エタール局所的に強正規交叉因子であること、すなわち全射なエタール射 $\pi\colon X'\to X$ が存在して、引き戻し $\pi^{-1}(D)=D\times_XX'$(ファイバー積)が $X'$ の強正規交叉因子となることをいう。また $D$ が点 $x\in D$ で正規交叉であるとは、$x$ のあるエタール近傍 $(X',x')\to(X,x)$ 上で $\pi^{-1}(D)$ が $x'$ で強正規交叉であることをいう。各点のエタール近傍を $X\setminus D$ と合わせれば全射エタール射になるので、$D$ が正規交叉因子であることと $D$ のすべての点で正規交叉であることは同値である。
エタール射は正則パラメータ系を正則パラメータ系に送る($\pi(x')=x$ なら $\mathfrak{m}_x\mathcal{O}_{X',x'}=\mathfrak{m}_{x'}$)ので、強正規交叉因子のエタール引き戻しは強正規交叉因子であり、強正規交叉因子は正規交叉因子である。逆は成り立たない(ex-ncd-nodal-cubic)。両者の違いは、正規交叉因子では 1 つの既約成分が自分自身と交わる(局所的には 2 本の枝に分かれるが大域的には 1 つの成分である)ことが許される点にある。
複素解析的な設定では、エタール局所的という条件が「十分小さい開近傍で」に置き換わる。
$X$ を $n$ 次元複素多様体、$D\subset X$ を閉解析的部分集合とする。$D$ が正規交叉因子であるとは、各点 $x\in D$ の開近傍 $V$ 上の正則な局所座標 $z_1,\dots,z_n$($x$ で $0$)と整数 $1\le r\le n$ が存在して $D\cap V=\{z_1z_2\cdots z_r=0\}$ と書けることをいう。さらに $D$ の既約成分(大域的な解析的既約成分)がすべて滑らかな部分多様体であるとき、$D$ を強正規交叉因子(単純正規交叉因子)という。解析的な設定では $D$ は被約な因子として扱い、その $x$ での局所方程式とはイデアルの生成元 $z_1\cdots z_r$(単元倍を除く)をいう。
$k=\mathbb{C}$ 上の滑らかな多様体 $X$ とその有効因子 $D$ について、$D$ が def-ncd-nc の意味で正規交叉因子であることと、解析化 $D^{\mathrm{an}}\subset X^{\mathrm{an}}$ が def-ncd-analytic の意味で正規交叉因子であることは同値である(エタール近傍の解析化は局所的な双正則写像であり、逆向きには Artin の近似定理を用いる。Stacks の Divisors の章「Normal crossings divisors」を参照)。
「正規交叉」という語の使い方は文献により異なる。曲面上の曲線について Hartshorne(Har77 第 V 章 §3)は「各成分が非特異で互いに横断的に交わる」因子を normal crossings と呼ぶが、これは本記事の強正規交叉に当たる。Deligne(Del71 §3.1)は複素多様体上で def-ncd-analytic の意味の正規交叉因子を扱い、成分が滑らかなときに「単純」と断る。Kollár(Kol07 第 3 章)と特異点解消の文献では、強正規交叉(snc)と正規交叉(nc)を本記事のように区別するのが普通である。また双有理幾何では、有効因子 $\sum a_iD_i$ の台 $\sum D_i$ が強正規交叉因子であるとき、係数付きの因子そのものを snc 因子と呼ぶことがある。
正規交叉因子は「座標超平面の和」を局所モデルとする因子である。$n$ 次元の空間で $x$ を通る $D$ の枝が $r$ 本あるとき、それらは互いに独立な $r$ 方向にまっすぐ交わっており、$x$ のまわりの $D$ の様子は $r$ という数だけで決まる。補集合 $U=X\setminus D$ は $x$ の近くで $(\Delta^*)^r\times\Delta^{n-r}$($\Delta$ は開円板、$\Delta^*$ は原点を除いた円板)の形をしており、そのコホモロジーは $dz_1/z_1,\dots,dz_r/z_r$ の外積で張られる。$D$ に沿って高々 1 位の極をもち、外微分もそうである微分形式(対数的微分形式)が、この局所的な位相をすべて捉える。これに対し、尖点や 3 本以上の枝が 1 点で交わる状況は、枝が独立な方向をもたないので正規交叉でなく、そこでは局所座標による明示計算が使えない。Hironaka の定理は、ブローアップを繰り返せばどんな閉部分集合も正規交叉因子に直せることを保証し、正規交叉の場合の局所計算を一般の場合に移す道を開く。
以下の反例で「正規交叉でない」ことを示すには、prop-ncd-tangent-cone(正規交叉なら局所方程式の最低次部分が互いに独立な $r\le n$ 個の一次形式の積である)を用いる。
アフィン空間 $\mathbb{A}^n_k=\operatorname{Spec}k[t_1,\dots,t_n]$ の座標超平面の和 $D=V(t_1t_2\cdots t_n)$ は強正規交叉因子である。実際、点 $x\in D$ で $t_i(x)=0$ となる添字の集合を $S$ とすると、$i\notin S$ の $t_i$ は $\mathcal{O}_{X,x}$ の単元なので $D$ の局所方程式は $\prod_{i\in S}t_i$ にとれ、$\{t_i\}_{i\in S}$ は $\mathcal{O}_{X,x}$ の正則パラメータ系の一部である($\mathcal{O}_{X,x}/(t_i)_{i\in S}$ は $\mathbb{A}^{n-|S|}_k$ の局所環だから正則で、次元は $|S|$ だけ下がる。Mat89 Theorem 14.2)。より一般に、$t_1,\dots,t_m$($m\le n$)のうち任意個の積が定める因子も強正規交叉因子である。複素多様体では、多重円板 $\Delta^n$ の中の $\{z_1\cdots z_r=0\}$ がそのまま定義の局所モデルである。
射影空間 $\mathbb{P}^2_k$ の 3 本の座標直線 $x=0$、$y=0$、$z=0$ の和 $D=V(xyz)$ は強正規交叉因子である。各点では 3 本のうち高々 2 本しか通らず、たとえば点 $[0:0:1]$ の近傍 $\{z\ne0\}\cong\mathbb{A}^2_k$ では $D$ は座標軸の和 $uv=0$($u=x/z$、$v=y/z$)になる。同様に、$\mathbb{P}^n_k$ の $n+1$ 個の座標超平面の和 $V(x_0x_1\cdots x_n)$ も強正規交叉因子である。一般に、$\mathbb{P}^2_k$ の相異なる 3 直線の和は、3 直線が 1 点で交わらないとき、かつそのときに限り正規交叉因子である(1 点で交わる場合は ex-ncd-three-lines)。
$k$ を標数 $2$ でない代数閉体とし、$D=V(y^2-x^2(x+1))\subset\mathbb{A}^2_k$ を原点に節点をもつ 3 次曲線とする。$D$ は正規交叉因子だが強正規交叉因子ではない。
強正規交叉でないこと:$D$ は既約であり($y^2-x^2(x+1)$ は $k[x][y]$ の 2 次式で、$x^2(x+1)$ が $k[x]$ の平方でないから既約)、原点で特異点をもつ。prop-ncd-snc-criterion により、強正規交叉因子の各既約成分はその上のすべての点で正則でなければならないので、$D$ は原点で強正規交叉でない。
正規交叉であること:原点以外で $D$ は滑らかなので、開部分スキーム $X'_1=\mathbb{A}^2_k\setminus\{0\}$ 上では $D$ は強正規交叉因子である。原点の近くでは、$X'_2=\operatorname{Spec}k[x,y,u,u^{-1}]/(u^2-x-1)$ から $\{x\ne-1\}\subset\mathbb{A}^2_k$ への射 $\pi_2$ を考える。$u$ が可逆で標数が $2$ でないので $2u$ は単元であり、$\pi_2$ は全射エタールである。$X'_2$ 上で $y^2-x^2(x+1)=y^2-x^2u^2=(y-xu)(y+xu)$ と分解し、$\pi_2^{-1}(D)$ は 2 つの成分 $y=xu$、$y=-xu$ の和になる。各成分の座標環は $k[x,u,u^{-1}]/(u^2-x-1)\cong k[u,u^{-1}]$ なので、どちらも滑らかな曲線であり、$\pi_2^{-1}(D)$ の方程式 $(y-xu)(y+xu)$ は一意分解整域 $k[y,u,u^{-1}]$ の同伴でない 2 つの素元の積だから $\pi_2^{-1}(D)$ は被約である。2 成分の共通点は $x=y=0$、$u=\pm1$ の 2 点で、そこでは $x,y$ が正則パラメータ系をなし、$y-xu$ と $y+xu$ の $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ での像は $y\mp x$ と $y\pm x$ であって一次独立である。1 つの成分だけを通る点では、その成分が滑らかなので prop-ncd-snc-criterion の条件 2 は自動的に成り立つ。よって $\pi_2^{-1}(D)$ は強正規交叉因子であり、$X'_1\sqcup X'_2\to\mathbb{A}^2_k$ を全射エタール射にとれば $D$ は正規交叉因子である。複素解析的には、原点の小さな近傍で $D$ は 2 本の滑らかな枝 $y=\pm x\sqrt{x+1}$ に分かれるということである。
$D=V(y^2-x^3)\subset\mathbb{A}^2_k$($k$ は代数閉体)は原点で正規交叉でない。$f=y^2-x^3$ の原点における最低次部分は $y^2$ であり、これは同じ一次形式 $y$ の 2 乗であって、互いに独立な一次形式の積ではない。したがって prop-ncd-tangent-cone の必要条件を破る。$D$ は原点以外では滑らかなので、原点だけが障害である。$D$ を含む有効因子 $D+D'$ も、原点で $D'$ の方程式を掛けると最低次部分が $y^2$ で割り切れるので、正規交叉でない。この曲線を正規交叉因子に直すには原点で 3 回のブローアップが要る(Har77 第 V 章 §3)。
$D=V(xy(x+y))\subset\mathbb{A}^2_k$ は原点で正規交叉でない。各成分は滑らかで、どの 2 本も原点で横断的に交わるのに、正規交叉でないのは、枝の本数 $3$ が空間の次元 $2$ を超えるからである。実際 $f=xy(x+y)$ の最低次部分は $f$ 自身で 3 個の一次形式の積であり、prop-ncd-tangent-cone の $r\le n=2$ を破る。原点を 1 回ブローアップすると、例外曲線と 3 直線の固有変換は例外曲線上の相異なる 3 点で横断的に交わり、総変換は強正規交叉因子になる。
$D=V(y(y-x^2))\subset\mathbb{A}^2_k$ は原点で正規交叉でない。2 つの成分 $y=0$、$y=x^2$ はどちらも滑らかで、枝の本数 $2$ は次元を超えないが、原点で接している。$f=y^2-x^2y$ の最低次部分は $y^2$ であり、独立な 2 個の一次形式の積ではないので、prop-ncd-tangent-cone の必要条件を破る。正規交叉因子であるためには、成分が滑らかで本数が足りているだけでなく、交わりが横断的でなければならない。この例が破る含意は「成分がすべて滑らかで各点を通る成分の個数が次元以下ならば正規交叉」である。
強正規交叉の定義は正則パラメータ系の言葉で述べたが、それは「各成分が正則で、互いに横断的に交わる」という幾何的な条件と同値である。以下で $A=\mathcal{O}_{X,x}$ が一意分解整域であること(正則局所環は一意分解整域である。Mat89 Theorem 20.3)を繰り返し使う。一意分解整域では高さ $1$ の素イデアルは素元で生成される単項イデアルである。
$X$ を局所 Noether な正則スキーム、$D\subset X$ を有効 Cartier 因子、$x\in D$、$A=\mathcal{O}_{X,x}$、$n=\dim A$ とし、$x$ を通る $D$ の既約成分(被約な構造を入れたもの)を $D_1,\dots,D_r$ とする。各 $D_i$ の $x$ でのイデアルは $A$ の高さ $1$ の素イデアルだから素元 $f_i$ で生成される。このとき次は同値である。
$f$ を $D$ の $x$ での局所方程式とする。$(f)$ の極小素イデアルは Krullの単項イデアル定理により高さ $1$ で、それらは $x$ を通る $D$ の既約成分に対応するから、$(f_1),\dots,(f_r)$ がそのすべてである。$A$ が一意分解整域なので、$f=u\,f_1^{a_1}\cdots f_r^{a_r}$($u$ は単元、$a_i\ge1$)と一意に分解する。$D$ が $x$ で被約であることは $(f)$ が根基イデアルであること、すなわちすべての $a_i$ が $1$ であることと同値である。
1 ⇒ 2:$f=t_1\cdots t_r$($t_1,\dots,t_n$ は正則パラメータ系)とする。各 $i\le r$ について $A/(t_i)$ は正則局所環であり(Mat89 Theorem 14.2)、正則局所環は整域なので(同 Theorem 14.3)$t_i$ は素元である。$i\ne j$ なら $t_i$ と $t_j$ は同伴でない。同伴なら $\mathfrak{m}_x/\mathfrak{m}_x^2$ での像が比例するが、それらは正則パラメータ系の一部だから一次独立だからである。よって $f=t_1\cdots t_r$ は相異なる素元の積であり、素因数分解の一意性から、$D$ の既約成分は $V(t_1),\dots,V(t_r)$ で、単元倍を除いて $f_i=t_i$、$a_i=1$ である。したがって $D$ は $x$ で被約で、$f_i$ の像は一次独立である。
2 ⇒ 1:被約性から $f=u\,f_1\cdots f_r$ である。$f_1,\dots,f_r$ の像は一次独立だから、それらは正則パラメータ系 $t_1=uf_1,\ t_2=f_2,\dots,t_r=f_r,\ t_{r+1},\dots,t_n$ に延びる($u$ は単元なので $uf_1$ の像は $f_1$ の像の非零倍である)。このとき $f=t_1\cdots t_r$ であり、$D$ は $x$ で強正規交叉である。
残りの主張のうち $r\le n$ は一次独立性から、$D_i$ の正則性は $\mathcal{O}_{D_i,x}=A/(t_i)$ が正則局所環であることから従う。
強正規交叉因子の各既約成分 $D_i$ は、その上の各点で正則だから、正則スキームである。また $x$ を通る成分 $D_{i_1},\dots,D_{i_s}$ の交わり $D_{i_1}\cap\cdots\cap D_{i_s}$ は $x$ の近傍で $V(t_{i_1},\dots,t_{i_s})$ であり、余次元 $s$ の正則な閉部分スキームである。これが「横断的に交わる」の正確な意味である。
正規交叉でないことを示すには、次の必要条件が便利である。局所方程式の最低次部分(接錐の方程式)を見るだけでよい。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上滑らかな $n$ 次元代数多様体(分離的(分離射)で有限型(有限型射)の整スキーム)、$x\in X$ を閉点、$A=\mathcal{O}_{X,x}$、$\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_x$ とする(または $X$ を $n$ 次元複素多様体、$x\in X$ を任意の点、$A=\mathcal{O}_{X,x}$ とする)。随伴次数環 $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A=\bigoplus_{i\ge0}\mathfrak{m}^i/\mathfrak{m}^{i+1}$ は $k$ 上の $n$ 変数多項式環に同型である。$f\in\mathfrak{m}^d\setminus\mathfrak{m}^{d+1}$ に対し、$f$ の像 $\operatorname{in}(f)\in\mathfrak{m}^d/\mathfrak{m}^{d+1}$ を $f$ の最低次部分という。$D$ を $x$ における局所方程式が $f$ である有効因子とする。$D$ が $x$ で正規交叉ならば、$\operatorname{in}(f)$ は互いに一次独立な $r$ 個の一次形式の積の $k^\times$ 倍である。とくに $D$ の $x$ における重複度 $d$ は枝の本数 $r$ に等しく、$n$ 以下である。
段 1(次数環).$A$ は剰余体 $k$ をもつ $n$ 次元正則局所環であり、正則パラメータ系 $t_1,\dots,t_n$ の像 $T_i\in\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ について $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\cong k[T_1,\dots,T_n]$ である(Mat89 Theorem 14.4)。とくに $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A$ は整域だから、$g,h\in A$ に対し $\operatorname{in}(gh)=\operatorname{in}(g)\operatorname{in}(h)$ が成り立つ。
段 2(強正規交叉の場合).$D$ が $x$ で強正規交叉なら $f=u\,t_1\cdots t_r$($u$ は単元、$t_1,\dots,t_n$ は正則パラメータ系)と書ける。$\operatorname{in}(u)=u(x)\in k^\times$、$\operatorname{in}(t_i)=T_i$ なので、段 1 により $\operatorname{in}(f)=u(x)\,T_1\cdots T_r$ である。$T_1,\dots,T_r$ は多項式環の変数の一部だから一次独立で、$d=r\le n$ である。複素多様体の場合は定義が局所的なのでこれで終わる。
段 3(エタール局所的な場合).スキームの場合、全射エタール射 $\pi\colon X'\to X$ で $\pi^{-1}(D)$ が強正規交叉因子となるものをとり、$x'\in X'$ を $x$ の上の点、$A'=\mathcal{O}_{X',x'}$ とする。$k(x')$ は $k(x)=k$ の有限次拡大(体の拡大)で $k$ は代数閉だから $k(x')=k$ である。$\pi$ がエタールなので $A\to A'$ は平坦(平坦加群)な局所準同型で $\mathfrak{m}A'=\mathfrak{m}'$ を満たし、したがって $\mathfrak{m}^iA'=\mathfrak{m}'^i$ である。平坦性から $\mathfrak{m}^i/\mathfrak{m}^{i+1}\otimes_AA'\cong\mathfrak{m}'^i/\mathfrak{m}'^{i+1}$ であり、左辺は $\mathfrak{m}$ で消える $A$ 加群のテンソル積だから $\mathfrak{m}^i/\mathfrak{m}^{i+1}\otimes_kk(x')=\mathfrak{m}^i/\mathfrak{m}^{i+1}$ に等しい。ゆえに $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}A\to\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}'}A'$ は次数付き $k$ 代数の同型で、$f$ の像 $f'\in A'$(これは $\pi^{-1}(D)$ の $x'$ での局所方程式である)について $\operatorname{in}(f)\mapsto\operatorname{in}(f')$ である。$\pi^{-1}(D)$ は $x'$ で強正規交叉だから、段 2 により $\operatorname{in}(f')$ は一次独立な $r$ 個の一次形式の積の $k^\times$ 倍であり、同型で引き戻して $\operatorname{in}(f)$ も同じ形である。
この命題の逆は $n\ge3$ では成り立たない。$\mathbb{A}^3_k$ の $f=xy+z^3$ は、最低次部分 $xy$ が独立な 2 個の一次形式の積だが、$V(f)$ は原点で正規交叉でない。まず $f$ が形式的冪級数環(形式的冪級数)$\widehat{A}=k[\![x,y,z]\!]$ で既約であることを示す。$f=gh$($g,h$ は単元でない)と分解したとすると、$\operatorname{in}(f)=xy=\operatorname{in}(g)\operatorname{in}(h)$ だから、定数倍を除いて $\operatorname{in}(g)=x$、$\operatorname{in}(h)=y$ としてよく、$g=x+g_2$、$h=y+h_2$($g_2,h_2\in\widehat{\mathfrak{m}}^2$)と書ける。$x=y=0$ を代入すると $g(0,0,z)h(0,0,z)=z^3$ であるが、左辺の各因子は $z^2$ で割り切れるので右辺は $z^4$ で割り切れることになり矛盾する。次に、もし $V(f)$ が原点で正規交叉なら、エタール近傍 $(X',x')$ で $f=u\,t_1\cdots t_r$($u$ は単元、$t_i$ は正則パラメータ系の一部)と書け、$k(x')=k$ だから完備化の同型 $\widehat{\mathcal{O}}_{X,x}\cong\widehat{\mathcal{O}}_{X',x'}$ があり、その中で各 $t_i$ は単元でないから、既約性により $r=1$、したがって $f=ut_1\notin\widehat{\mathfrak{m}}^2$ となる。これは $f\in\mathfrak{m}^2$ に反する。一方 $n=2$ のときは逆が成り立つ。$\operatorname{in}(f)$ が相異なる一次形式の積なら $k[\![x,y]\!]$ の中で $f$ は $r$ 個の滑らかで互いに横断的な枝に分かれ(Henselの補題の形の議論。Har77 演習 I.5.14)、Artinの近似定理によりエタール局所的にも分かれる(形式的局所とエタール局所の同値は Stacks の Divisors の章「Normal crossings divisors」)。この $n=2$ の場合の証明は本記事では省く。
正規交叉因子の最も重要な応用は、補集合 $U=X\setminus D$ の微分形式のうち $D$ に沿って「対数的な極」だけをもつものが局所自由層をなし、$U$ のコホモロジーを計算することである。以下、次の 2 つの設定を並行して扱う。
上の設定で、$\Omega^p_X(\log D)$ を $\Omega^p_X(D)$ の部分層であって、切断 $\omega$ が $d\omega\in\Omega^{p+1}_X(D)$ を満たすもの全体からなるものとする。局所方程式 $f$ を使えば、$\omega\in\Omega^p_X(*D)$ が $\Omega^p_X(\log D)$ に属することは、$f\omega$ と $f\,d\omega$ がともに正則であることと同値である。$\Omega^p_X(\log D)$ の切断を、$D$ に沿って対数的極をもつ $p$ 形式、または対数的微分形式という。$\omega$ が対数的なら $d\omega\in\Omega^{p+1}_X(D)$ かつ $d(d\omega)=0$ なので $d\omega$ も対数的であり、$(\Omega^\bullet_X(\log D),d)$ は $\Omega^\bullet_X(*D)$ の部分複体(複体とホモロジー)になる。これを $(X,D)$ の対数的 de Rham 複体という。
$g$ を正則関数、$\omega\in\Omega^p_X(D)$ とすると $d(g\omega)=dg\wedge\omega+g\,d\omega$ で、$dg\wedge\omega\in\Omega^{p+1}_X(D)$ である。したがって $\omega\mapsto d\omega\bmod\Omega^{p+1}_X(D)$ は $\mathcal{O}_X$ 線型な射 $\Omega^p_X(D)\to\Omega^{p+1}_X(2D)/\Omega^{p+1}_X(D)$ を定め、$\Omega^p_X(\log D)$ はその核である。ゆえに $\Omega^p_X(\log D)$ は連接層の間の $\mathcal{O}_X$ 線型射の核として連接層である。
設定 (a) または (b) で、$y\in X$((b) では閉点)をとり、$\mathcal{O}_{X,y}$ の正則パラメータ系 $t_1,\dots,t_n$((a) では $y$ を中心とする正則局所座標)を、$D$ が $y$ の近傍で $V(t_1\cdots t_r)$ となるようにとる($y\notin D$ なら $r=0$)。$p$ 個の添字の集合 $K=\{k_1<\dots< k_p\}\subset\{1,\dots,n\}$ に対し
$$
e_K:=\frac{dt_{k_1}}{t_{k_1}^{\epsilon_1}}\wedge\cdots\wedge\frac{dt_{k_p}}{t_{k_p}^{\epsilon_p}},\qquad \epsilon_i=\begin{cases}1&(k_i\le r)\\0&(k_i>r)\end{cases}
$$
とおく。このとき茎 $\Omega^p_X(\log D)_y$ は $\mathcal{O}_{X,y}$ 上 $\{e_K\}_{|K|=p}$ を基底とする自由加群である。したがって $\Omega^1_X(\log D)$ は階数 $n$ の局所自由層で、外積が定める射 $\bigwedge^p\Omega^1_X(\log D)\to\Omega^p_X(*D)$ は $\Omega^p_X(\log D)$ の上への同型である。とくに $\Omega^p_X(\log D)$ は階数 $\binom{n}{p}$ の局所自由層である。
段 1(設定).$A=\mathcal{O}_{X,y}$、$\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_y$、$f=t_1\cdots t_r$、$A_f=A[1/f]$ とおく。$A$ は正則局所環だから一意分解整域であり、prop-ncd-snc-criterion の証明で見たように $t_1,\dots,t_r$ は互いに同伴でない素元である。$dt_1,\dots,dt_n$ は $\Omega^1_{X,y}$ の基底である。(a) では座標の微分だから明らかである。(b) では $k(y)=k$ なので $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2\to\Omega^1_{X,y}\otimes k(y)$ が同型で(Har77 II.8.7)、$t_i$ の像が左辺の基底だから $dt_i$ の像は右辺の基底であり、Nakayama の補題により $dt_1,\dots,dt_n$ は $\Omega^1_{X,y}$ を生成し、$\Omega^1_{X,y}$ は階数 $n$ の自由加群だから(Har77 II.8.15)これは基底である。よって $\Omega^p_{X,y}$ は $\{dt_K:=dt_{k_1}\wedge\cdots\wedge dt_{k_p}\}$ を基底とする自由 $A$ 加群、$\Omega^p_X(*D)_y=\Omega^p_{X,y}\otimes_AA_f$ は同じ $\{dt_K\}$ を基底とする自由 $A_f$ 加群である。$g\in A$ に対し $dg=\sum_i\partial_i(g)\,dt_i$ で $A$ の導分 $\partial_1,\dots,\partial_n$ を定めると、$\partial_it_j=\delta_{ij}$ であり、商の微分法則で $\partial_i$ は $A_f$ に延びる。とくに $i\le r$ なら $\partial_if=f/t_i$、$i>r$ なら $\partial_if=0$ である。
段 2($e_K$ は対数的).$t_K:=\prod_{k\in K,\,k\le r}t_k$ とおくと $e_K=t_K^{-1}dt_K$ である。$f e_K=(f/t_K)\,dt_K$ は正則で、$d e_K=d(t_K^{-1})\wedge dt_K=-t_K^{-2}\sum_{k\in K,\,k\le r}(t_K/t_k)\,dt_k\wedge dt_K=0$($k\in K$ だから $dt_k\wedge dt_K=0$)である。よって $e_K\in\Omega^p_X(\log D)_y$ である。
段 3($e_K$ が生成する).$\omega\in\Omega^p_X(\log D)_y$ をとり、$\omega=\sum_Kg_K\,dt_K$($g_K\in A_f$)と一意に書く。$f\omega$ が正則だから $h_K:=fg_K\in A$ である。次を主張する:$i\le r$ かつ $i\notin K$ ならば $t_i$ は $h_K$ を割る。これが示されれば、$\{t_i\mid i\le r,\ i\notin K\}$ は互いに同伴でない素元だから、その積 $f/t_K$ が $h_K$ を割り、$c_K:=h_K/(f/t_K)=t_Kg_K\in A$ で $\omega=\sum_Kc_Ke_K$ となる。
主張の証明.$K$ と $i\le r$、$i\notin K$ を固定し、$L:=K\cup\{i\}$ とおく。$j\in L$ に対し $dt_j\wedge dt_{L\setminus\{j\}}=\varepsilon_j\,dt_L$($\varepsilon_j=\pm1$)とする。$d\omega=\sum_M\sum_j\partial_j(g_M)\,dt_j\wedge dt_M$ における $dt_L$ の係数は $\sum_{j\in L}\varepsilon_j\,\partial_j(g_{L\setminus\{j\}})$ であり、$f\,d\omega$ が正則だから
$$
\sum_{j\in L}\varepsilon_j\,f\,\partial_j(g_{L\setminus\{j\}})\in A
$$
である。$g_M=h_M/f$ と段 1 の $\partial_jf$ の値から、$f\,\partial_j(g_M)=\partial_j(h_M)-h_M\,\partial_j(f)/f$ は $j\le r$ なら $\partial_j(h_M)-h_M/t_j$、$j>r$ なら $\partial_j(h_M)$ である。$\partial_j(h_M)\in A$ なので、
$$
\sum_{j\in L,\ j\le r}\varepsilon_j\,\frac{h_{L\setminus\{j\}}}{t_j}\in A
$$
を得る。$T:=\prod_{j\in L,\,j\le r}t_j$ を掛けると $\sum_{j\in L,\,j\le r}\varepsilon_j\,h_{L\setminus\{j\}}\,(T/t_j)\in TA\subset t_iA$ である。$j\ne i$ の項では $T/t_j$ が $t_i$ で割り切れる($i\in L$、$i\le r$、$i\ne j$)ので $t_iA$ に属する。したがって $j=i$ の項 $\varepsilon_i\,h_K\,(T/t_i)=\varepsilon_i\,h_K\prod_{j\in K,\,j\le r}t_j$ も $t_iA$ に属する。$t_i$ は素元で、$j\in K$ の $t_j$ は $t_i$ と同伴でない素元だから $t_i$ で割れず、ゆえに $t_i$ は $h_K$ を割る。
段 4(一次独立性と結論).$e_K=t_K^{-1}dt_K$ で $t_K^{-1}$ は $A_f$ の単元だから、$\{e_K\}$ は $\Omega^p_X(*D)_y$ の $A_f$ 上の基底であり、とくに $A$ 上一次独立である。段 2・3 と合わせて $\Omega^p_X(\log D)_y$ は $\{e_K\}$ を基底とする自由 $A$ 加群である。$p=1$ の場合、基底は $dt_1/t_1,\dots,dt_r/t_r,dt_{r+1},\dots,dt_n$ で階数 $n$ である。一般の $p$ では $e_K$ はこれら $p$ 個の外積だから、$\bigwedge^p\Omega^1_X(\log D)_y\to\Omega^p_X(*D)_y$ は基底を基底に送り、$\Omega^p_X(\log D)_y$ の上への同型である。
段 5(局所自由性).(a) では、$y$ の座標近傍 $V$ の任意の点 $y'$ で $t_i-t_i(y')$ が座標をなし、$D$ は $y'$ の近傍で $\prod_{i\in S}t_i=0$($S=\{i\le r\mid t_i(y')=0\}$)と書けるので、上の計算を $y'$ に当てれば、$i\le r$、$i\notin S$ の $t_i$ が $y'$ で単元であることから、同じ $\{e_K\}$ が $\Omega^p_X(\log D)_{y'}$ の基底になる。よって $\Omega^p_X(\log D)|_V$ は $\{e_K\}$ を基底とする自由層である。(b) では、$\Omega^p_X(\log D)$ は連接層で閉点 $y$ での茎が自由だから $y$ のある開近傍で自由であり(Har77 演習 II.5.7)、$X$ の空でない閉集合は閉点を含むので、そのような開近傍が $X$ を覆う。$\bigwedge^p\Omega^1_X(\log D)\to\Omega^p_X(\log D)$ はすべての閉点で同型な連接層の射だから同型である。
$\Omega^0_X(\log D)=\mathcal{O}_X$ であること($p=0$ の場合)も上の証明に含まれている。$D$ に沿って高々 1 位の極をもつ関数で微分も高々 1 位の極しかもたないものは正則である。対数的微分形式の定義は $D$ が正規交叉因子でなくても意味をもつが、局所自由性は正規交叉のときに限って保証される。
対数的微分形式の $D$ に沿う「極の係数」を取り出すのが留数である。$D$ が滑らかな場合に完全列の形で述べる。
設定 (a) または (b) で、$D$ は滑らか、すなわちすべての点で $r\le1$ であるとし、$\iota\colon D\hookrightarrow X$ を包含とする。各 $p\ge1$ について、$\mathcal{O}_X$ 加群の完全列
$$
0\longrightarrow\Omega^p_X\longrightarrow\Omega^p_X(\log D)\xrightarrow{\ \operatorname{Res}\ }\iota_*\Omega^{p-1}_D\longrightarrow0
$$
が存在する。ここで $\operatorname{Res}$ は、$D$ の局所方程式 $t$ を用いて $\omega=\dfrac{dt}{t}\wedge\alpha+\beta$($\alpha\in\Omega^{p-1}_X$、$\beta\in\Omega^p_X$)と書いたとき $\operatorname{Res}(\omega)=\alpha|_D$ で定まる射である。
段 1(局所表示).$y\in D$ とし、$t=t_1,t_2,\dots,t_n$ を thm-ncd-log-locally-free のようにとる($r=1$)。同定理により $\Omega^p_X(\log D)_y$ の基底は、$1\in K$ のとき $e_K=\dfrac{dt}{t}\wedge dt_{K\setminus\{1\}}$、$1\notin K$ のとき $e_K=dt_K$ だから、任意の $\omega\in\Omega^p_X(\log D)_y$ は $\omega=\dfrac{dt}{t}\wedge\alpha+\beta$($\alpha\in\Omega^{p-1}_{X,y}$、$\beta\in\Omega^p_{X,y}$)と書ける。$D$ は滑らかなので $\Omega^1_D=\iota^*\Omega^1_X/\mathcal{O}_D\,dt$ であり(Har77 II.8.12、II.8.17)、$(\iota_*\Omega^{p-1}_D)_y=\Omega^{p-1}_{X,y}\big/\bigl(t\,\Omega^{p-1}_{X,y}+dt\wedge\Omega^{p-2}_{X,y}\bigr)$ である。
段 2($\operatorname{Res}$ の定義可能性).$\dfrac{dt}{t}\wedge\alpha+\beta=\dfrac{dt}{t}\wedge\alpha'+\beta'$ とする。$dt\wedge(\alpha-\alpha')=t(\beta'-\beta)\in t\,\Omega^p_{X,y}$ である。$\alpha-\alpha'=dt\wedge\gamma+\delta$、$\delta=\sum_{J\not\ni1}\delta_J\,dt_J$ と分けると $dt\wedge\delta=\sum_{J\not\ni1}\delta_J\,dt\wedge dt_J$ で、$\{dt\wedge dt_J\}_{J\not\ni1}$ は基底 $\{dt_L\}$ の一部だから、各 $\delta_J\in tA$ である。よって $\alpha-\alpha'\in dt\wedge\Omega^{p-2}_{X,y}+t\,\Omega^{p-1}_{X,y}$ であり、$\alpha|_D=\alpha'|_D$ である。次に局所方程式を $t'=ut$($u$ は単元)に取り替えると $\dfrac{dt'}{t'}=\dfrac{dt}{t}+\dfrac{du}{u}$ なので、$\dfrac{dt'}{t'}\wedge\alpha+\beta=\dfrac{dt}{t}\wedge\alpha+\Bigl(\dfrac{du}{u}\wedge\alpha+\beta\Bigr)$ となり、$\dfrac{du}{u}\wedge\alpha$ は正則だから留数は変わらない。したがって $\operatorname{Res}$ は局所的な取り方によらず、$\mathcal{O}_X$ 線型な層の射 $\Omega^p_X(\log D)\to\iota_*\Omega^{p-1}_D$ として貼り合う。
段 3(完全性).$D$ の外では $\Omega^p_X(\log D)=\Omega^p_X$、$\iota_*\Omega^{p-1}_D=0$ で完全である。$y\in D$ で、$\operatorname{Res}(\omega)=0$ なら $\alpha=t\alpha_1+dt\wedge\gamma$ と書けて $\dfrac{dt}{t}\wedge\alpha=dt\wedge\alpha_1$ は正則、よって $\omega\in\Omega^p_{X,y}$ である。逆に $\omega\in\Omega^p_{X,y}$ なら $\alpha=0$ ととれて $\operatorname{Res}(\omega)=0$ である。全射性は、$(\iota_*\Omega^{p-1}_D)_y$ の元を $\alpha\in\Omega^{p-1}_{X,y}$ に持ち上げ、$\operatorname{Res}\bigl(\dfrac{dt}{t}\wedge\alpha\bigr)=\alpha|_D$ とすればよい。
$D=\sum_iD_i$ が一般の強正規交叉因子のときは、各成分 $D_i$ に沿う留数 $\operatorname{Res}_i\colon\Omega^p_X(\log D)\to\Omega^{p-1}_{D_i}\bigl(\log(D-D_i)|_{D_i}\bigr)$ が同様に定まり、極の本数で $\Omega^\bullet_X(\log D)$ を濾過する重みフィルトレーション $W_m$($W_m\Omega^p_X(\log D)=\Omega^{p-m}_X\wedge\Omega^m_X(\log D)$)の次数商 $\operatorname{gr}^W_m$ が $\bigoplus_{|I|=m}\iota_{I*}\Omega^{\bullet}_{D_I}[-m]$($D_I$ は $m$ 個の成分の交わり、$\iota_I$ はその包含)に同型になる(Del71 (3.1.5))。これが $U$ のコホモロジーの混合Hodge構造の重みフィルトレーションの源である。
対数的 de Rham 複体が補集合のコホモロジーを計算することが、Deligne による次の定理である。
$X$ を複素多様体、$D\subset X$ を正規交叉因子、$U=X\setminus D$、$j\colon U\hookrightarrow X$ を包含とする。包含
$$
\Omega^\bullet_X(\log D)\hookrightarrow\Omega^\bullet_X(*D)\hookrightarrow j_*\Omega^\bullet_U
$$
はどちらも擬同型であり、さらに $j_*\Omega^\bullet_U\to\mathbf{R}j_*\Omega^\bullet_U$(導来関手)と $\mathbf{R}j_*\mathbb{C}_U\to\mathbf{R}j_*\Omega^\bullet_U$ も擬同型である。したがって導来圏(導来圏)で $\Omega^\bullet_X(\log D)\cong\mathbf{R}j_*\mathbb{C}_U$ である。ゆえに超コホモロジーの同型
$$
H^q(U,\mathbb{C})\cong\mathbf{H}^q\bigl(X,\Omega^\bullet_X(\log D)\bigr)\cong\mathbf{H}^q\bigl(X,\Omega^\bullet_X(*D)\bigr)
$$
が成り立つ。$X$ が $\mathbb{C}$ 上滑らかで固有(固有射)な代数多様体、$D$ が強正規交叉因子のとき、代数的な対数的 de Rham 複体についても $H^q(U^{\mathrm{an}},\mathbb{C})\cong\mathbf{H}^q(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb{C}}(\log D))$ が成り立ち、スペクトル系列 $E_1^{p,q}=H^q(X,\Omega^p_X(\log D))\Rightarrow H^{p+q}(U,\mathbb{C})$ は $E_1$ で退化する。
証明は Del70 第 II 章 §3 と Del71 (3.1.8)、(3.2.13)–(3.2.14) に譲る。$r$ 本の枝が通る点 $x$ での $\Omega^\bullet_X(*D)$ のコホモロジー層の茎は $\bigwedge^q\bigl(\bigoplus_{i\le r}\mathbb{C}\,dz_i/z_i\bigr)$ に等しく、これは Laurent 級数(Laurent展開)の項別積分で作るホモトピーにより変数を 1 つずつ落として示される。一方 $(\mathbf{R}^qj_*\mathbb{C}_U)_x$ は $(\Delta^*)^r\times\Delta^{n-r}$ のコホモロジー $\bigwedge^q(\mathbb{C}^r)$ で、両者は $dz_i/z_i$ の類の対応で一致する。$j_*\Omega^\bullet_U\to\mathbf{R}j_*\Omega^\bullet_U$ が擬同型であるのは、$x$ の小さな近傍 $V$ に対し $V\cap U\cong(\Delta^*)^r\times\Delta^{n-r}$ が Stein(Stein空間)で連接層の高次コホモロジーが消えるからであり、$\mathbb{C}_U\to\Omega^\bullet_U$ が擬同型であるのは正則な Poincaréの補題による。$\Omega^\bullet_X(\log D)$ の茎のコホモロジーも同じ基底で張られ、thm-ncd-log-locally-free の基底 $e_K$ が閉形式であることがその理由である。有理型(有理型関数)形式の複体 $\Omega^\bullet_X(*D)$ による同型は、$D$ が正規交叉でない一般の閉部分集合についても、Hironaka の解消に帰着して成り立つ(Gro66 Theorem 2)。$X$ が固有のとき代数的な複体に移れるのは、連接層の GAGA により $\mathbf{H}^q(X,\Omega^\bullet_{X/\mathbb{C}}(\log D))\cong\mathbf{H}^q(X^{\mathrm{an}},\Omega^\bullet_{X^{\mathrm{an}}}(\log D^{\mathrm{an}}))$ となるからである。$E_1$ 退化は、$X$ が固有なときの Hodge 理論(Hodge分解)と重みフィルトレーションを組み合わせて示される(Del71 (3.2.13))。
一般の閉部分集合を正規交叉因子に直すのが埋め込み解消である。
$k$ を標数 $0$ の体、$X$ を $k$ 上滑らかな多様体、$Z\subset X$ を閉部分スキームとする。滑らかな中心に沿うブローアップの有限列の合成 $\pi\colon X'\to X$ で、$X'$ が滑らか、$\pi$ が $X\setminus Z$ の上で同型、かつ全逆像 $\pi^{-1}(Z)$(被約構造を入れたもの)が $X'$ の強正規交叉因子となるものが存在する。また $X$ が $k$ 上の任意の多様体のときも、固有な双有理射 $\pi\colon X'\to X$ で $X'$ が滑らかで、$\pi$ が $X$ の滑らかな点の上で同型、例外集合が強正規交叉因子となるものが存在する。
これは Hironaka の主定理 II(Hir64)であり、現代的な証明は Kol07 第 3 章にある。特異点解消の記事も参照。標数 $p>0$ では、3 次元以下を除き、本記事執筆時点(2026 年 9 月)で未解決である。この定理により、標数 $0$ の滑らかな多様体 $U$ は、$U$ が開稠密に入る滑らかな固有多様体 $X$ で $X\setminus U$ が強正規交叉因子となるものをもつ(Nagataのコンパクト化に埋め込み解消を施す)。thm-ncd-log-de-rham と合わせると、$U$ のコホモロジーは固有な $X$ 上の連接層の複体 $\Omega^\bullet_X(\log D)$ の超コホモロジーとして代数的に計算でき、これが $U$ の代数的 de Rham コホモロジーと混合 Hodge 構造の出発点になる。
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