普遍包絡環(universal enveloping algebra)とは、体上の Lie 環 $\mathfrak{g}$ のテンソル代数を $x\otimes y-y\otimes x-[x,y]$ で生成される両側イデアルで割った結合代数 $U(\mathfrak{g})$ で、$\mathfrak{g}$ から結合代数への Lie 環の準同型はこれを一意に経由する。この普遍性により、$\mathfrak{g}$ の表現と $U(\mathfrak{g})$ 加群は同じものになる。Poincaré–Birkhoff–Witt の定理により順序付き単項式は基底をなし、$\mathfrak{g}$ の埋め込み、次数付き化と対称代数の同型、零因子のなさが従う。また余積 $x\otimes1+1\otimes x$ で余可換な Hopf 代数になる。
結合代数 $A$ は交換子 $[a,b]=ab-ba$ によって Lie 環になる(Lie環 の命題「交換子の Lie 環」)。普遍包絡環(universal enveloping algebra)はこの逆向きの構成で、Lie 環 $\mathfrak{g}$ から「括弧積が交換子になる」最も自由な結合代数 $U(\mathfrak{g})$ を作る。群に対する群環と同じように、$\mathfrak{g}$ の表現と $U(\mathfrak{g})$ 上の加群は同じものになり、Lie 環の表現論を環と加群の言葉で扱えるようになる。
$U(\mathfrak{g})$ の大きさを決めるのが Poincaré–Birkhoff–Witt の定理(PBW の定理)である。$\mathfrak{g}$ の基底に順序を入れると、順に並べた単項式が $U(\mathfrak{g})$ の基底になる。とくに $\mathfrak{g}$ は $U(\mathfrak{g})$ に埋め込まれ、$U(\mathfrak{g})$ は「多項式環を非可換に変形したもの」とみなせる。この記事では、定義と普遍性、表現との対応、可換な場合・Heisenberg Lie 環・$\mathfrak{sl}_2$ の例を述べたあと、PBW の定理を多項式環への作用を作って証明し、その帰結($\mathfrak{g}$ の埋め込み、次数付き化が対称代数になること、零因子がないこと、部分 Lie 環の包絡環の上で自由であること)を導く。
この記事では $K$ を体とし、テンソル積は $K$ 上でとる。$K$ 代数は単位元をもつ結合代数(多元環)とし、$K$ 代数 $A$ に交換子を括弧積として入れた Lie 環を $A_{\mathrm{Lie}}$ と書く。$K$ 上のベクトル空間 $M$ のテンソル代数 $T(M)=\bigoplus_{k\ge0}M^{\otimes k}$ は 対称代数 の定義「テンソル代数」に従う。
$\mathfrak{g}$ を $K$ 上の Lie 環とする。テンソル代数 $T(\mathfrak{g})$ の元
$$
x\otimes y-y\otimes x-[x,y]\qquad(x,y\in\mathfrak{g})
$$
全体で生成される両側イデアルを $J(\mathfrak{g})$ とし、
$$
U(\mathfrak{g}):=T(\mathfrak{g})/J(\mathfrak{g})
$$
を $\mathfrak{g}$ の普遍包絡環という。合成 $\mathfrak{g}=T^1(\mathfrak{g})\to T(\mathfrak{g})\to U(\mathfrak{g})$ を $\iota$ と書く。
$J(\mathfrak{g})$ の生成元 $x\otimes y-y\otimes x-[x,y]$ は次数 $2$ と $1$ の部分が混ざっているので、$J(\mathfrak{g})$ は斉次なイデアルではなく、$U(\mathfrak{g})$ は次数付き環にならない。代わりに次数の上限によるフィルトレーションをもつ(def-uea-filtration)。定義から $\iota(x)\iota(y)-\iota(y)\iota(x)=\iota([x,y])$ であり、$\iota\colon\mathfrak{g}\to U(\mathfrak{g})_{\mathrm{Lie}}$ は Lie 環の準同型である。
$A$ を $K$ 代数、$f\colon\mathfrak{g}\to A_{\mathrm{Lie}}$ を Lie 環の準同型とする。このとき $K$ 代数の準同型 $\tilde f\colon U(\mathfrak{g})\to A$ で $\tilde f\circ\iota=f$ となるものがただ 1 つある。
対称代数 の補題「テンソル代数の普遍性」により、線形写像 $f$ は $K$ 代数の準同型 $F\colon T(\mathfrak{g})\to A$($F|_{\mathfrak{g}}=f$)に一意に延びる。$F(x\otimes y-y\otimes x-[x,y])=f(x)f(y)-f(y)f(x)-f([x,y])=0$ なので、$F$ は $J(\mathfrak{g})$ の生成元を $0$ に送り、$J(\mathfrak{g})$ 全体を $0$ に送る。よって $F$ は $\tilde f\colon U(\mathfrak{g})\to A$ を引き起こす。$U(\mathfrak{g})$ は $K$ 代数として $\iota(\mathfrak{g})$ で生成されるので、$\tilde f$ は $\iota(\mathfrak{g})$ での値で決まり、一意である。$\square$
普遍性から、$U(\mathfrak{g})$ は「$\mathfrak{g}$ からの Lie 環の準同型を受けて普遍性を満たす $K$ 代数」として同型を除いて一意に決まる。また Lie 環の準同型 $\varphi\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}'$ は $\iota'\circ\varphi$ を通じて $K$ 代数の準同型 $U(\varphi)\colon U(\mathfrak{g})\to U(\mathfrak{g}')$ を引き起こし、$U$ は Lie 環の圏から $K$ 代数の圏への関手になる。Wei94 は Definition 7.3.2(p. 224)で同じ定義を与え、普遍性を Exercise 7.3.3(p. 224)としている。
$K$ 上のベクトル空間 $V$ について、$\mathfrak{g}$ の表現 $\rho\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(V)$ と、$V$ 上の左 $U(\mathfrak{g})$ 加群の構造とは、$\rho(x)=(\iota(x)\text{ の作用})$ によって 1 対 1 に対応する。この対応で、$\mathfrak{g}$ の表現の準同型($\mathfrak{g}$ の作用と可換な線形写像)と $U(\mathfrak{g})$ 加群の準同型は一致し、$\mathfrak{g}$ で保たれる部分空間と $U(\mathfrak{g})$ 部分加群も一致する。
$\mathfrak{gl}(V)=\operatorname{End}_K(V)_{\mathrm{Lie}}$ である。prop-uea-universal を $A=\operatorname{End}_K(V)$ に当てると、Lie 環の準同型 $\rho$ と $K$ 代数の準同型 $U(\mathfrak{g})\to\operatorname{End}_K(V)$(すなわち左加群の構造)が $\tilde\rho\circ\iota=\rho$ で 1 対 1 に対応する。線形写像や部分空間が $\iota(\mathfrak{g})$ の作用と両立することと、それらが生成する $U(\mathfrak{g})$ の作用と両立することは同じである。$\square$
この対応は Wei94 Theorem 7.3.3(p. 224)である。以後、$\iota(x)$ を単に $x$ と書くことがある($\iota$ が単射であることは cor-uea-consequences で示す)。
$\mathfrak{g}$ が可換(括弧積が $0$)なら、$J(\mathfrak{g})$ は $x\otimes y-y\otimes x$ で生成されるので $U(\mathfrak{g})=\operatorname{Sym}(\mathfrak{g})$ である(対称代数 の定義「対称代数」)。$\mathfrak{g}$ の基底 $x_1,\dots,x_n$ をとれば、これは多項式環 $K[x_1,\dots,x_n]$ に同型である(対称代数 の定理「自由加群の対称代数」)。とくに $1$ 次元の Lie 環 $Kx$ の普遍包絡環は $1$ 変数の多項式環 $K[x]$ である。
$\mathfrak{h}$ を基底 $x,y,c$ と $[y,x]=c$、$[x,c]=[y,c]=0$ で定まる $3$ 次元の Lie 環とする($c$ は中心元)。$c$ は $U(\mathfrak{h})$ の中心にあり($\iota(c)$ は生成元 $\iota(x),\iota(y),\iota(c)$ と可換)、商 $U(\mathfrak{h})/(c-1)$ は $1$ 変数の Weyl 代数 $A_1(K)$ に同型である(Weyl代数 の定義「Weyl 代数の定義」の $x_1=x$、$\partial_1=\partial$)。
実際、$A_1(K)$ では $\partial x-x\partial=1$ なので、$x\mapsto x$、$y\mapsto\partial$、$c\mapsto1$ は Lie 環の準同型 $\mathfrak{h}\to A_1(K)_{\mathrm{Lie}}$ であり、prop-uea-universal により $K$ 代数の準同型 $U(\mathfrak{h})\to A_1(K)$ を与え、$c-1$ を $0$ に送る。逆に $U(\mathfrak{h})/(c-1)$ の中で $x,y$ の像は $yx-xy=c=1$ を満たすので、Weyl代数 の普遍性から $x\mapsto x$、$\partial\mapsto y$ となる準同型 $A_1(K)\to U(\mathfrak{h})/(c-1)$ がある。2 つの合成はどちらも生成元を固定するので恒等写像であり、同型が得られる。Weyl代数 の例「Weyl 代数の例」の 2 をこの形で確かめたことになる。
$\mathfrak{sl}_2(K)$ の基底 $e,f,h$($[h,e]=2e$、$[h,f]=-2f$、$[e,f]=h$。Lie環 の命題「$\mathfrak{sl}_2$ の構造」)をとり、$K$ の標数が $2$ でないとして
$$
C:=ef+fe+\tfrac12h^2\in U(\mathfrak{sl}_2)
$$
とおく。$C$ は $U(\mathfrak{sl}_2)$ の中心に入る。生成元 $e,f,h$ との交換子が $0$ であればよい。$U$ の中では $[a,bc]=[a,b]c+b[a,c]$ が成り立つので
$$
[e,ef+fe]=e[e,f]+[e,f]e=eh+he,\qquad [e,h^2]=[e,h]h+h[e,h]=-2(eh+he)
$$
となり、$[e,C]=0$ である。同様に $[f,ef+fe]=-(fh+hf)$、$[f,h^2]=2(fh+hf)$ から $[f,C]=0$ である。$[h,ef]=[h,e]f+e[h,f]=2ef-2ef=0$、$[h,fe]=0$、$[h,h^2]=0$ なので $[h,C]=0$ である。$U(\mathfrak{sl}_2)$ は $e,f,h$ で生成されるので、$C$ はすべての元と可換である。$C$ はスカラーではない(順序 $f< h< e$ について $C=2fe+h+\frac12h^2$ と順序付き単項式で書くと、thm-uea-pbw によりこれは $1$ の定数倍でない)。
$p\ge0$ について、$U_p\subset U(\mathfrak{g})$ を $\iota(y_1)\cdots\iota(y_k)$($k\le p$、$y_i\in\mathfrak{g}$。$k=0$ は $1$)が張る部分空間とする。$K=U_0\subset U_1\subset U_2\subset\cdots$、$U_pU_q\subset U_{p+q}$、$\bigcup_pU_p=U(\mathfrak{g})$ である。
以下、$\mathfrak{g}$ の基底 $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を固定し、添字集合 $\Lambda$ に全順序を入れる($\mathfrak{g}$ は無限次元でもよい)。添字の有限列 $\Sigma=(\lambda_1,\dots,\lambda_p)$ が $\lambda_1\le\cdots\le\lambda_p$ を満たすとき順序付きといい、その長さを $p$ とする(長さ $0$ の空列も順序付きとする)。$U(\mathfrak{g})$ の元 $x_\Sigma:=\iota(x_{\lambda_1})\cdots\iota(x_{\lambda_p})$($x_\emptyset=1$)を順序付き単項式という。
各 $p$ について、長さ $p$ 以下の順序付き単項式は $U_p$ を張る。さらに $U_p$ の元 $\iota(x_{\mu_1})\cdots\iota(x_{\mu_p})$ は、添字を並べ替えた順序付き単項式と $U_{p-1}$ の元の和に等しい。
$U_p$ は $\iota(x_{\mu_1})\cdots\iota(x_{\mu_p})$($k\le p$ 個の積も含む)で張られるので、後半を $p$ についての帰納法で示せばよい(前半は後半と帰納法の仮定から従う)。隣り合う 2 つの因子を入れ替えると
$$
\cdots\iota(x_\mu)\iota(x_\nu)\cdots=\cdots\iota(x_\nu)\iota(x_\mu)\cdots+\cdots\iota([x_\mu,x_\nu])\cdots
$$
となり、最後の項は $p-1$ 個の $\mathfrak{g}$ の元の積なので $U_{p-1}$ に入る。隣り合う入れ替えを有限回くり返せば添字は小さい順に並ぶので、$\iota(x_{\mu_1})\cdots\iota(x_{\mu_p})$ は並べ替えた順序付き単項式と $U_{p-1}$ の元の和である。$\square$
主定理は「順序付き単項式が基底になる」ことである(thm-uea-pbw)。lem-uea-span により張ることは分かっているので、一次独立性を示せばよい。そのために、$x_\Sigma$ が多項式環の単項式に作用する表現を作る。$S:=K[z_\lambda\mid\lambda\in\Lambda]$ を多項式環とし、順序付き列 $\Sigma$ に単項式 $z_\Sigma:=z_{\lambda_1}\cdots z_{\lambda_p}$ を対応させる($z_\Sigma$ は $S$ の単項式を重複なく尽くす)。$S_p$ を次数 $p$ 以下の多項式の空間とし、$\lambda\le\Sigma$ は「$\lambda\le\lambda_i$(すべての $i$)」を表す。
双線形写像 $\mathfrak{g}\times S\to S$、$(x,s)\mapsto x\cdot s$ で、すべての $\lambda,\mu\in\Lambda$ と順序付き列 $\Sigma,T$ について次を満たすものがある。
要点:1 は作用を「小さい添字を前から掛ける」と決め、それ以外の $x_\lambda\cdot z_\Sigma$ は 3 が成り立つように一通りに決まる。3 が残りの場合にも成り立つことは、Jacobi 恒等式で確かめる。
$p\ge0$ について次の主張 $(P_p)$ を帰納法で示す:双線形写像 $\mathfrak{g}\times S_p\to S$ で、1 と 2 を $z_\Sigma\in S_p$($q\le p$)について、3 を $z_T\in S_{p-1}$ について満たすものがただ 1 つあり、$p\ge1$ ならその $S_{p-1}$ への制限は $(P_{p-1})$ の写像である。3 の左辺は 2 により $x_\mu\cdot z_T\in S_p$ なので意味をもつ。すべての $p$ の写像をつなげば補題の作用が得られる。
$p=0$:$x_\lambda\cdot1:=z_\lambda$ とおく。1・2 が成り立ち、3 は条件がない。
$p\ge1$:$(P_{p-1})$ の写像を $S_{p-1}$ 上の作用とし、長さ $p$ の順序付き列 $\Sigma$ について $x_\lambda\cdot z_\Sigma$ を定める。$\lambda\le\Sigma$ なら 1 に従い $z_\lambda z_\Sigma$ とする。そうでなければ $\Sigma=(\mu,T)$($\mu<\lambda$、$\mu\le T$、$T$ は長さ $p-1$)と書ける。1 により $z_\Sigma=x_\mu\cdot z_T$ であり、2 により $x_\lambda\cdot z_T=z_\lambda z_T+w$($w\in S_{p-1}$)である。3 が成り立つためには
$$x_\lambda\cdot z_\Sigma=x_\mu\cdot(x_\lambda\cdot z_T)+[x_\lambda,x_\mu]\cdot z_T=z_\mu z_\lambda z_T+x_\mu\cdot w+[x_\lambda,x_\mu]\cdot z_T$$
でなければならない($\mu\le\lambda$ かつ $\mu\le T$ なので、$z_\lambda z_T$ の添字を並べ替えた列にも $\mu\le$ が成り立ち、1 から $x_\mu\cdot(z_\lambda z_T)=z_\mu z_\lambda z_T$)。右辺の第 2・第 3 項は $S_{p-1}$ 上の作用で定まっているので、これを定義とする。一意性はこの議論から従う。$z_\mu z_\lambda z_T=z_\lambda z_\Sigma$ と第 2・3 項が $S_p$ に入ることから 2 が成り立つ。
3 の確認:$z_T\in S_{p-1}$ の長さが $p-2$ 以下なら $(P_{p-1})$ の 3 である。長さが $p-1$ のとき、$\lambda=\mu$ なら両辺は $0$ である。$\mu<\lambda$ かつ $\mu\le T$ なら、上の定義そのものである。$\lambda<\mu$ かつ $\lambda\le T$ なら、$\lambda,\mu$ を入れ替えた式に $[x_\mu,x_\lambda]=-[x_\lambda,x_\mu]$ を使えばよい。残るのは $\lambda\le T$ も $\mu\le T$ も成り立たない場合で、このとき $T=(\nu,\Psi)$、$\nu<\lambda$、$\nu<\mu$、$\nu\le\Psi$ と書ける。以下 $a\cdot b\cdot s$ は $a\cdot(b\cdot s)$ を表す。$z_T=x_\nu\cdot z_\Psi$ であり、$z_\Psi\in S_{p-2}$ なので $(P_{p-1})$ の 3 から
$$x_\mu\cdot z_T=x_\nu\cdot x_\mu\cdot z_\Psi+[x_\mu,x_\nu]\cdot z_\Psi$$
である。$x_\mu\cdot z_\Psi=z_\mu z_\Psi+w'$($w'\in S_{p-2}$)と書くと、$\nu$ は $z_\mu z_\Psi$ の添字すべて以下で $\nu<\lambda$ なので、すでに確かめた場合により $x_\lambda\cdot x_\nu\cdot(z_\mu z_\Psi)=x_\nu\cdot x_\lambda\cdot(z_\mu z_\Psi)+[x_\lambda,x_\nu]\cdot(z_\mu z_\Psi)$ であり、$w'$ には $(P_{p-1})$ の 3 が使える。足し合わせて
$$x_\lambda\cdot x_\mu\cdot z_T=x_\nu\cdot x_\lambda\cdot x_\mu\cdot z_\Psi+[x_\lambda,x_\nu]\cdot x_\mu\cdot z_\Psi+x_\lambda\cdot[x_\mu,x_\nu]\cdot z_\Psi$$
を得る。$\lambda,\mu$ を入れ替えた式を引き、$S_{p-1}$ 以下での 3($(P_{p-1})$)を各項に当てると、差は
$$x_\nu\cdot[x_\lambda,x_\mu]\cdot z_\Psi+\bigl([{[x_\lambda,x_\nu]},x_\mu]+[x_\lambda,{[x_\mu,x_\nu]}]\bigr)\cdot z_\Psi$$
である。もう一度 3 を使って $x_\nu\cdot[x_\lambda,x_\mu]\cdot z_\Psi=[x_\lambda,x_\mu]\cdot x_\nu\cdot z_\Psi+[x_\nu,{[x_\lambda,x_\mu]}]\cdot z_\Psi$ とすると、Jacobi 恒等式 $[x_\nu,{[x_\lambda,x_\mu]}]+[x_\lambda,{[x_\mu,x_\nu]}]+[x_\mu,{[x_\nu,x_\lambda]}]=0$ により $z_\Psi$ の項は消え、差は $[x_\lambda,x_\mu]\cdot x_\nu\cdot z_\Psi=[x_\lambda,x_\mu]\cdot z_T$ になる。これで $(P_p)$ が示された。$\square$
順序付き単項式 $x_\Sigma$($\Sigma$ はすべての順序付き列)は $U(\mathfrak{g})$ の $K$ 上の基底である。さらに長さ $p$ 以下の順序付き単項式は $U_p$ の基底である。
lem-uea-pbw-action の 3 は、$\rho(x)s:=x\cdot s$ が $\mathfrak{g}$ の表現 $\rho\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(S)$ であることを意味する(3 は基底について成り立てば双線形性からすべての元について成り立つ)。prop-uea-modules により $S$ は左 $U(\mathfrak{g})$ 加群になる。順序付き列 $\Sigma=(\lambda_1,\dots,\lambda_p)$ について、1 をくり返し使うと
$$
x_\Sigma\cdot1=x_{\lambda_1}\cdot\bigl(x_{\lambda_2}\cdot(\cdots(x_{\lambda_p}\cdot1)\cdots)\bigr)=z_{\lambda_1}z_{\lambda_2}\cdots z_{\lambda_p}=z_\Sigma
$$
である(内側から順に、掛ける添字は既にある添字以下である)。異なる順序付き列の $z_\Sigma$ は $S$ の異なる単項式で一次独立なので、$\sum_\Sigma c_\Sigma x_\Sigma=0$ なら $\sum c_\Sigma z_\Sigma=0$ となり、すべての $c_\Sigma=0$ である。張ることは lem-uea-span による。後半は、lem-uea-span の前半と一次独立性から従う。$\square$
PBW の定理の主張は Wei94 Theorem 7.3.7(p. 226)にある(そこでは $\mathfrak{g}$ が可換環上の自由加群の場合に述べている)。同書は証明を他書に任せており、上の証明は「多項式環に作用させて独立性を見る」という標準的な筋による。
2 は Wei94 Exercise 7.3.6(p. 226)、4 は同書 Corollary 7.3.9(p. 226)の主張である。2 により、$U(\mathfrak{g})$ は多項式環 $\operatorname{Sym}(\mathfrak{g})$ と同じ「大きさ」をもち、括弧積の分だけ積が変形された環とみなせる。$\mathfrak{g}=\mathfrak{sl}_2$ の Casimir 元 $C$(ex-uea-casimir)の $\operatorname{gr}$ での類は、$2$ 次の多項式 $2fe+\frac12h^2$ である。
$\mathfrak{g}\to\mathfrak{g}\times\mathfrak{g}$ の対角写像や $x\mapsto-x$ から、$U(\mathfrak{g})$ には
$$
\Delta(x)=x\otimes1+1\otimes x,\qquad\varepsilon(x)=0,\qquad S(x)=-x\qquad(x\in\mathfrak{g})
$$
で決まる余積・余単位・対蹠射が入り、$U(\mathfrak{g})$ は余可換な Hopf代数 になる(Hopf代数 の例「Lie代数の普遍包絡環」、Wei94 Exercise 7.3.7、pp. 226–227)。余積は表現のテンソル積 $x(v\otimes w)=xv\otimes w+v\otimes xw$ を、対蹠射は双対表現 $(x\varphi)(v)=-\varphi(xv)$ を与える。この余積を可換でない形に変形したものが 量子群 の量子包絡環である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 単項式の因子を順序どおりに並べる | $\mathfrak{sl}_2$ の $ef$、$fe$、$h$ | $ef-fe-h=0$ なので、順序を問わない単項式は一次独立でない |
| 括弧積を交換子として課す($T(\mathfrak{g})$ をそのまま使う) | $\mathfrak{g}$ が可換でないときの $\mathfrak{g}\to T(\mathfrak{g})_{\mathrm{Lie}}$ | 包含が Lie 環の準同型にならず、表現と加群の対応が崩れる |
| 割るのは $J(\mathfrak{g})$ だけにする | 標数 $p$ の体の上の $1$ 次元 Lie 環 $Kx$ と $K[x]/(x^p-x)$ | 有限次元になり、零因子が現れる(cor-uea-consequences の 3 が崩れる) |
1 行目:$U(\mathfrak{sl}_2)$ で $\iota(e)\iota(f)-\iota(f)\iota(e)=\iota(h)$ である。3 つの単項式 $ef,fe,h$ の間に自明でない一次関係があるので、因子の順序を問わずに単項式を集めても基底にならない。thm-uea-pbw は $f< h< e$ などと順序を決めたときの $fe$、$h$ だけを基底に含める。
2 行目:$x,y\in\mathfrak{g}$ で $[x,y]\neq0$ とする。$T(\mathfrak{g})$ では $x\otimes y-y\otimes x\in T^2(\mathfrak{g})$ で、$[x,y]\in T^1(\mathfrak{g})$ とは次数が違うので、両者が等しいのは $x\otimes y=y\otimes x$ かつ $[x,y]=0$ のときだけである。よって $\mathfrak{g}=T^1(\mathfrak{g})\subset T(\mathfrak{g})$ は Lie 環の準同型でない。
3 行目:$K$ を標数 $p$ の体、$\mathfrak{g}=Kx$ とすると $U(\mathfrak{g})=K[x]$(ex-uea-abelian)は無限次元の整域である。さらに $x^p-x$ で割った $K[x]/(x^p-x)$ は $p$ 次元で、$K\supset\mathbb{F}_p$ のとき $x^p-x=\prod_{a\in\mathbb{F}_p}(x-a)$ の因子の像どうしの積が $0$ になるので零因子をもつ($p\ge2$ だから因子は 2 つ以上ある)。この商は、$Kx$ に $x^{[p]}=x$ という制限 Lie 環の構造を入れたときの制限普遍包絡環(Wei94 Exercise 7.3.9、p. 227)にあたる。
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