懸垂線の方程式(equation of the catenary)とは、両端を固定して垂らした一様な鎖の形 $y=y(x)$ が満たす微分方程式 $y''=\frac1a\sqrt{1+(y')^2}$ である。鎖は曲がりやすく張力が接線の向きにはたらき、単位長さあたりの重さ $w$ が一様で、鎖は静止していると仮定する。最下点を $y$ 軸の上にとり、そこでの張力を $T_0$、$a=T_0/w$ とすると、最下点から弧長 $s$ の点の傾きは $y'=s/a$ で、これを微分して方程式を得る。$y'(0)=0$ のもとで、解は $y=a\cosh\frac xa+C$ に限る。幅 $2b$ とたるみ $h>0$、または幅 $2b$ と長さ $L>2b$ から $a$ はただ 1 つに決まり、長さはいつも幅より長い。荷重が水平方向に一様な吊り橋のケーブルは放物線になる。
前提知識: 双曲線関数(高校数学), 変数分離形の微分方程式, 媒介変数表示と曲線の長さ
両端を持って鎖を垂らすと、鎖は下にふくらんだ曲線になる。この曲線は 双曲線関数(高校数学) の節「懸垂線:鎖がつくる曲線」で紹介した 懸垂線 $y=a\cosh\dfrac xa$ である。そこでは、この式が微分方程式 $y''=\dfrac1a\sqrt{1+(y')^2}$ を満たすことを代入で確かめたが、その微分方程式がどこから来るのか、解がほかにないのかは扱わなかった。この記事ではそれを扱う。
出発点は、鎖の一部分にはたらく力のつり合いである。鎖のいちばん低い点を B とし、B から鎖に沿って測った長さが $s$ の点を P とする。B から P までの部分には、3 つの力がはたらく(図 1)。
$T_0=10$、$w=2$ とする(単位は N と m)。
(1) B から長さ $s=3$ の点 P を考える。B から P までの部分の重さは $ws=6$ である。P での張力を水平成分 $T_x$ と鉛直成分 $T_y$ に分ける。水平方向の力がつり合うので $T_x=T_0=10$、鉛直方向の力がつり合うので $T_y=ws=6$ である。張力は接線の向きなので、P での接線の傾きは
$$
\frac{T_y}{T_x}=\frac{6}{10}=0.6
$$
である。張力の大きさは $\sqrt{10^2+6^2}=\sqrt{136}=11.66\ldots$ である。
(2) B から長さ $s=5$ の点では、同じ計算で鉛直成分は $ws=10$、水平成分は $10$ で、接線の傾きは $\dfrac{10}{10}=1$ である。鎖はこの点で $45^\circ$ 傾いている。
(1)(2) のどちらでも、傾きは $\dfrac{ws}{T_0}=\dfrac s5$ で、B からの長さ $s$ に比例している。
ex-cat-start の「傾きは長さに比例する」から微分方程式を立て、それを解くのがこの記事の筋である。答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 力を水平・鉛直に分けてつり合わせる | 傾き $y'=\dfrac sa$ | 釣り合いの方程式 |
| 曲線の長さ $\displaystyle\int\sqrt{1+(y')^2}\,dx$ | $\dfrac{ds}{dx}=\sqrt{1+(y')^2}$ | 弧長のパラメータ |
| 変数分離して積分する | $\sinh^{-1}y'=\dfrac xa$ | 2 階の自励系の常微分方程式の求積 |
| 方程式 $a\cosh\dfrac ba-a=h$ を解く | 端の条件で $a$ を決める | 境界値問題 |
鎖の最下点 B から点 P までの青い部分にはたらく 3 つの力。B での張力 T0 は水平、P での張力 T は接線の向きで、その水平成分は T0、鉛直成分は重さ ws に等しい
鎖の形を数式にするために、物理の前提を条件として書き出す。これらは力学の前提で、この記事では証明しない。
両端を固定して垂らした鎖について、次を仮定する。
(R1) 鎖は曲がりやすく、鎖のどの点でも、その点の両側の部分は互いに鎖の接線の向きの力(張力)で引き合う。
(R1) 鎖の単位長さあたりの重さ $w$($w>0$)は、鎖のどの部分でも同じである。
(R1) 鎖は静止していて、鎖のどの部分についても、その部分にはたらく力(両端での張力と重さ)の和は $\vec 0$ である。
(R1) 座標を、鎖のいちばん低い点 B が $y$ 軸の上にくるようにとる。鎖の形は、B を含む開区間 $I$ で 2 回微分可能な関数 $y=y(x)$ のグラフで、$y'(0)=0$ である。
B での張力の大きさを $T_0$($T_0>0$)とし、$a=\dfrac{T_0}w$ とおく。$a$ は長さの単位をもつ正の数である。$x\in I$ に対し、B からグラフの点 $\bigl(x,y(x)\bigr)$ まで鎖に沿って測った長さに、$x<0$ のときは負の符号を付けたものを $s(x)$ と書く(符号つきの弧長)。
条件 (iv) の $y'(0)=0$ は、B が最も低い点で、そこでの接線が水平であることを表す。媒介変数表示と曲線の長さ の定理「曲線の長さの公式」により、$y$ が $C^1$ 級のとき
$$
s(x)=\int_0^x\sqrt{1+y'(t)^2}\,dt
$$
である($x<0$ では積分の向きが逆になり、自動的に負の符号が付く)。微分積分学の基本定理により
$$
\frac{ds}{dx}=\sqrt{1+y'(x)^2}
$$
である。
ex-cat-start で数を使って行った計算を、一般の点で行う。
def-cat-setting の仮定のもとで、区間 $I$ のすべての $x$ で
$$
y'(x)=\frac{s(x)}a
$$
が成り立つ。したがって、鎖の形 $y=y(x)$ は微分方程式
$$
y''=\frac1a\sqrt{1+(y')^2}\qquad\left(a=\frac{T_0}w\right)
$$
を満たす。
方針:B から P までの部分について、力を水平成分と鉛直成分に分けてつり合いの式を書く。2 つの式の比から $y'=\dfrac sa$ が出る。これを $x$ で微分する。
段 1($x>0$ のとき)。$x\in I$、$x>0$ とし、P を点 $\bigl(x,y(x)\bigr)$ とする。B から P までの鎖の部分にはたらく力を、成分で書く。
$x<0$ のとき、P から B までの部分を考える。B では右側の鎖が右へ引くので張力は $(T_0,\,0)$、P では左側の鎖が左へ($x$ が減る向きへ)引くので張力は $\dfrac{T}{\sqrt{1+y'^2}}\bigl(-1,\,-y'\bigr)$ である。この部分の長さは $-s(x)>0$ なので、重さは $\bigl(0,\,ws(x)\bigr)$ である($s(x)<0$ に注意)。和が $\vec 0$ なので、水平成分から $\dfrac{T}{\sqrt{1+y'^2}}=T_0$、鉛直成分から $-T_0\,y'+ws=0$ で、$y'=\dfrac{ws}{T_0}=\dfrac sa$ である。
段 1 の水平成分の式 $\dfrac{T}{\sqrt{1+y'^2}}=T_0$ は、張力の水平成分が鎖のどこでも $T_0$ で一定であることを言っている。鎖にはたらく外からの力は重さだけで、重さは鉛直なので、水平方向には何も加わらないからである。図 1 の橙の破線がこの分解を表している。
微分方程式 $y''=\dfrac1a\sqrt{1+(y')^2}$ の右辺には $y$ が現れず、$y'$ だけが現れる。そこで $u=y'$ とおくと、$u$ についての 1 階の微分方程式
$$
u'=\frac1a\sqrt{1+u^2}
$$
になる。これは 変数分離形の微分方程式 の形(右辺が $x$ の関数と $u$ の関数の積)で、$\sqrt{1+u^2}$ は $0$ にならない。次の節でこれを解く。
使う道具は、双曲線関数(高校数学) の命題「双曲線関数の逆関数」である。どの実数 $v$ に対しても $\sinh w=v$ となる実数 $w$ はただ 1 つで、それを
$$
\sinh^{-1}v=\log\bigl(v+\sqrt{v^2+1}\bigr)
$$
と書く。この関数の導関数は、合成関数の微分で直接計算できる。
$$
\bigl(\sinh^{-1}v\bigr)'=\frac{1}{v+\sqrt{v^2+1}}\left(1+\frac{v}{\sqrt{v^2+1}}\right)=\frac{1}{v+\sqrt{v^2+1}}\cdot\frac{\sqrt{v^2+1}+v}{\sqrt{v^2+1}}=\frac1{\sqrt{v^2+1}}
$$
$a>0$ とし、$I$ を $0$ を含む開区間とする。$I$ で 2 回微分可能な関数 $y$ が
$$
y''=\frac1a\sqrt{1+(y')^2}\quad(x\in I),\qquad y'(0)=0
$$
を満たすための必要十分条件は、ある定数 $C$ があって
$$
y=a\cosh\frac xa+C\quad(x\in I)
$$
となることである。
方針:$u=y'$ とおき、$\sinh^{-1}u$ の導関数が定数 $\dfrac1a$ になることを示す。導関数が等しい 2 つの関数の差は定数であること(平均値の定理から従う。平均値の定理)を 2 回使う。
段 1($u$ の式)。$y$ が方程式を満たすとし、$u=y'$ とおく。$u$ は $I$ で微分可能で、$u'=\dfrac1a\sqrt{1+u^2}$、$u(0)=0$ である。関数 $\sinh^{-1}u(x)$ を合成関数の微分で微分すると
$$
\frac{d}{dx}\sinh^{-1}u(x)=\frac{u'(x)}{\sqrt{u(x)^2+1}}=\frac{\frac1a\sqrt{1+u(x)^2}}{\sqrt{u(x)^2+1}}=\frac1a
$$
である。関数 $\dfrac xa$ の導関数も $\dfrac1a$ なので、差 $\sinh^{-1}u(x)-\dfrac xa$ の導関数は $I$ で $0$ である。区間の上で導関数が $0$ の関数は定数なので、ある定数 $C_1$ があって
$$
\sinh^{-1}u(x)=\frac xa+C_1\quad(x\in I)
$$
となる。$x=0$ を代入すると、$u(0)=0$ と ex-cat-asinh (1) から $0=0+C_1$、つまり $C_1=0$ である。
段 2($u$ を求める)。段 1 から $\sinh^{-1}u(x)=\dfrac xa$ である。$\sinh^{-1}u(x)$ は $\sinh w=u(x)$ となるただ 1 つの $w$ なので、$w=\dfrac xa$ を入れて
$$
y'(x)=u(x)=\sinh\frac xa
$$
である。
段 3($y$ を求める)。$\left(a\cosh\dfrac xa\right)'=a\cdot\sinh\dfrac xa\cdot\dfrac1a=\sinh\dfrac xa$ なので、$y(x)-a\cosh\dfrac xa$ の導関数は $I$ で $0$ である。よってある定数 $C$ があって $y=a\cosh\dfrac xa+C$ である。
段 4(逆)。$y=a\cosh\dfrac xa+C$ ならば $y'=\sinh\dfrac xa$、$y'(0)=\sinh0=0$ で、$y''=\dfrac1a\cosh\dfrac xa$ である。$1+\sinh^2\dfrac xa=\cosh^2\dfrac xa$、$\cosh\dfrac xa>0$ から $\sqrt{1+(y')^2}=\cosh\dfrac xa$ なので、$y''=\dfrac1a\sqrt{1+(y')^2}$ が成り立つ(この確認は 双曲線関数(高校数学) の例「$y=a\cosh\frac{x}{a}$ が微分方程式を満たすこと」と同じ計算である)。$\square$
段 1 の計算は、変数分離形の微分方程式 の定理「変数分離形の解」で $f(x)=\dfrac1a$、$g(u)=\sqrt{1+u^2}$ とした場合にあたる。$\dfrac1g$ の原始関数が $\sinh^{-1}u$ で、「$\dfrac{du}{\sqrt{1+u^2}}=\dfrac{dx}a$ の両辺を積分する」という教科書の手順と同じことをしている。
thm-cat-ode と thm-cat-solution を合わせると、def-cat-setting の仮定のもとで鎖の形は $y=a\cosh\dfrac xa+C$ である。最下点 B を点 $(0,a)$ にとれば $C=0$ で、$y=a\cosh\dfrac xa$ になる。以下、懸垂線といえばこの形を指す。
def-cat-setting の鎖で、最下点 B を $(0,a)$ にとり $y=a\cosh\dfrac xa$ とする。
2 の $T=w\,y$ は、張力が点の高さ(B より $a$ だけ下の $x$ 軸から測った高さ)に比例するという意味である。高い所ほど、その下にぶら下がっている鎖が長く、張力も大きい。
ex-cat-start の鎖($T_0=10$、$w=2$、$a=5$)で考える。
(1) B から長さ $s=3$ の点の $x$ 座標は、$5\sinh\dfrac x5=3$ から $\dfrac x5=\sinh^{-1}0.6=\log\bigl(0.6+\sqrt{1.36}\bigr)=0.5688\ldots$、つまり $x=2.844\ldots$ である。
(2) その点での張力は $T=10\cosh(0.5688\ldots)=10\sqrt{1+0.6^2}=11.66\ldots$ で、ex-cat-start (1) の $\sqrt{136}$ と一致する($\cosh w=\sqrt{1+\sinh^2w}$ を使った)。
(3) 長さ $s=5$ の点では $\sinh\dfrac x5=1$ で、張力は $10\sqrt2=14.14\ldots$ である。
実際の電線では、$T_0$ や $w$ よりも、両端の間の距離(幅)と、両端から最下点までの高さの差(たるみ)が分かっていることが多い。両端が同じ高さにあるとき、両端は最下点 B について左右対称な位置 $x=\pm b$ にある($\cosh\dfrac xa$ は偶関数で、$x\ge0$ で増加するので、同じ高さになる 2 点は $x$ 座標の符号だけが違う)。このとき
$b>0$ とする。
要点:$t=\dfrac ba$ とおくと、たるみは $b\,p(t)$、$p(t)=\dfrac{\cosh t-1}t$、長さは $2b\,m(t)$、$m(t)=\dfrac{\sinh t}t$ と書ける。$p$ と $m$ は $t>0$ で増加し(分子を微分すると $t\cosh t>0$、$t\sinh t>0$)、$t\to+0$ で $p\to0$、$m\to1$、$t\to\infty$ で $p$ も $m$ も $\infty$ に発散する。中間値の定理 により、$p(t)=\dfrac hb$、$m(t)=\dfrac L{2b}$($>1$)となる $t>0$ がただ 1 つずつある。$m(t)>1$ が 2 の前半である。
方針:$t=\dfrac ba$ とおくと、$a>0$ と $t>0$ は 1 対 1 に対応する($a$ が増えると $t$ は減る)。たるみと長さを $t$ の関数として書き、単調に増加して、とる値の範囲が $(0,\infty)$、$(1,\infty)$ であることを示す。あとは 中間値の定理 を使う。
段 1(たるみを $t$ で書く)。$a=\dfrac bt$ なので $a\cosh\dfrac ba-a=b\,p(t)$、$p(t)=\dfrac{\cosh t-1}t$ である。
$$p'(t)=\frac{t\sinh t-(\cosh t-1)}{t^2}$$
の分子を $q(t)=t\sinh t-\cosh t+1$ とおくと、$q(0)=0$、$q'(t)=\sinh t+t\cosh t-\sinh t=t\cosh t>0$($t>0$)なので、$t>0$ で $q(t)>0$ である。よって $p$ は $t>0$ で増加する。
段 2($p$ のとる値)。$t\to+0$ のとき $p(t)=\dfrac{\cosh t-\cosh0}{t-0}\to(\cosh)'(0)=\sinh0=0$ である。$t\to\infty$ のときは、$r(t)=\cosh t-1-\dfrac{t^2}2$ が $r(0)=0$、$r'(t)=\sinh t-t\ge0$($(\sinh t-t)'=\cosh t-1\ge0$ と $\sinh0-0=0$ から)を満たすので $\cosh t-1\ge\dfrac{t^2}2$、したがって $p(t)\ge\dfrac t2\to\infty$ である。$p$ は $t>0$ で連続なので、中間値の定理と段 1 の単調性により、$p(t)=\dfrac hb$ となる $t>0$ はただ 1 つある。$a=\dfrac bt$ として 1 が示された。
段 3(長さを $t$ で書く)。$2a\sinh\dfrac ba=2b\,m(t)$、$m(t)=\dfrac{\sinh t}t$ である。
$$m'(t)=\frac{t\cosh t-\sinh t}{t^2}$$
の分子 $n(t)=t\cosh t-\sinh t$ は $n(0)=0$、$n'(t)=t\sinh t>0$($t>0$)なので、$t>0$ で正である。よって $m$ は $t>0$ で増加する。$t\to+0$ のとき $m(t)=\dfrac{\sinh t-\sinh0}{t-0}\to\cosh0=1$ なので、$t>0$ で $m(t)>1$、つまり $2a\sinh\dfrac ba>2b$ である。$t\to\infty$ のときは、$e^t>\dfrac{t^2}2$($t>0$。関数の近似とテイラー展開)から $\sinh t=\dfrac{e^t-e^{-t}}2>\dfrac{t^2}4-\dfrac12$ で、$m(t)>\dfrac t4-\dfrac1{2t}\to\infty$ である。段 2 と同じく、$m(t)=\dfrac L{2b}>1$ となる $t>0$ はただ 1 つある。$\square$
2 の前半は、鎖の長さがいつも幅より長いことを言っている。長さがちょうど幅に等しい鎖は、ぴんと張ってまっすぐになるしかなく、重さのある鎖ではつり合えない(ex-cat-cx-short)。
方程式 $p(t)=\dfrac hb$ は、式の変形だけで $t$ を求めることができない。Newton法(高校数学) で数値的に解く。
$b=50$、$h=10$ なので、$p(t)=\dfrac{10}{50}=0.2$、つまり
$$
\varphi(t)=\cosh t-1-0.2t=0
$$
の正の解を求める。$\varphi'(t)=\sinh t-0.2$、$\varphi''(t)=\cosh t>0$ で、グラフは下に凸である。Newton 法 $t_{n+1}=t_n-\dfrac{\varphi(t_n)}{\varphi'(t_n)}$ を $t_0=1$ から始めると
$$
t_1=0.6481\ldots,\quad t_2=0.4704\ldots,\quad t_3=0.4057\ldots,\quad t_4=0.3951\ldots,\quad t_5=0.39484\ldots
$$
と単調に減って、$t=0.394843\ldots$ に近づく(図 2)。
1 回目は $\varphi(1)=\cosh1-1-0.2=0.34308\ldots$、$\varphi'(1)=\sinh1-0.2=0.97520\ldots$ から $t_1=1-\dfrac{0.34308\ldots}{0.97520\ldots}=0.64819\ldots$ である。解 $\alpha=0.3948\ldots$ から $1$ までの区間では $\varphi'(t)\ge\sinh\alpha-0.2>0$、$\varphi''(t)>0$ なので、Newton法(高校数学) の定理「下に凸な関数での Newton 法の収束」により、数列は単調に減って $\alpha$ に収束する。
Newton 法で cosh t − 1 − 0.2t = 0 の正の解を求める。t0 = 1 から接線と横軸の交点をたどると、t1、t2 と単調に減って解 0.3948… に近づく
Newton 法の代わりに、二分法でも解ける。区間 $[0.1,1]$ から始めて区間の中点で $\varphi$ の符号を調べると、$[0.1,0.55]$、$[0.325,0.55]$、$[0.325,0.4375]$、$[0.38125,0.4375]$ と解を挟む区間が半分ずつ縮む。Newton 法の方が速く近づく。
$b=1$、$L=3$ とする。prop-cat-param の 2 により、$m(t)=\dfrac{\sinh t}t=\dfrac32$ の正の解 $t$ がただ 1 つある。数値的に解くと $t=1.6221\ldots$、$a=\dfrac1t=0.6164\ldots$ で、たるみは
$$
h=a\cosh\frac1a-a=1.0052\ldots
$$
である。幅 $2$ の鎖を長さ $3$ にすると、たるみはほぼ $1$ になる。
幅 $2$、たるみ $1$ の鎖について、$a$ と鎖の長さ $L$ を小数第 3 位まで求めよ(Newton 法か二分法を使う)。
$b=1$、$h=1$ なので $p(t)=\dfrac{\cosh t-1}t=\dfrac hb=1$、つまり $\psi(t)=\cosh t-1-t=0$ の正の解を求める。$\psi(1)=-0.456\ldots<0$、$\psi(2)=0.762\ldots>0$ なので解は $1$ と $2$ の間にある。$\psi''(t)=\cosh t>0$ で、$t_0=2$ から Newton 法を使うと $t_1=1.7098\ldots$、$t_2=1.6234\ldots$、$t_3=1.61618\ldots$、$t_4=1.616137\ldots$ で、$t=1.616137\ldots$ である。$a=\dfrac1t=0.6187\ldots$、$L=2a\sinh\dfrac1a=2\cdot\dfrac{\sinh t}t=2\cdot\dfrac{2.4174\ldots}{1.6161\ldots}=2.9916\ldots$ である。小数第 3 位までで $a=0.619$、$L=2.992$ である。ex-cat-length(長さ $3$ でたるみ $1.005\ldots$)とほぼ同じ鎖である。
鎖の形は放物線に似ている。実際、橋の床をケーブルで吊る吊り橋では、ケーブルの形は放物線になる。違いは「重さがどう分布しているか」である。
def-cat-setting の条件 (ii) を次の条件に取り替える:ケーブルの最下点 B から点 $\bigl(x,y(x)\bigr)$ までの部分が支える重さは $w\lvert x\rvert$ である(床の重さが水平方向に一様で、ケーブル自身の重さは無視できる)。ほかの条件はそのままとする。このとき $y'=\dfrac xa$($a=\dfrac{T_0}w$)で、形は放物線
$$
y=\frac{x^2}{2a}+C
$$
である。
thm-cat-ode の証明の段 1・段 2 で、重さ $ws$ を $w\lvert x\rvert$ に($x<0$ では $ws$ の代わりに $wx$ を)替えると、同じ計算で $T_0\,y'=wx$、つまり $y'=\dfrac xa$ となる。$y-\dfrac{x^2}{2a}$ の導関数は $0$ なので、ある定数 $C$ があって $y=\dfrac{x^2}{2a}+C$ である。$\square$
| 鎖(懸垂線) | 吊り橋のケーブル(放物線) | |
|---|---|---|
| 重さの分布 | 鎖の長さに沿って一様 | 水平方向に一様 |
| B から点までの重さ | $ws$($s$ は弧長) | $w\lvert x\rvert$ |
| 傾き $y'$ | $\dfrac sa$ | $\dfrac xa$ |
| 微分方程式 | $y''=\dfrac1a\sqrt{1+(y')^2}$ | $y''=\dfrac1a$ |
| 形 | $y=a\cosh\dfrac xa+C$ | $y=\dfrac{x^2}{2a}+C$ |
| 張力の水平成分 | どこでも $T_0$ | どこでも $T_0$ |
$\lvert s\rvert\ge\lvert x\rvert$(曲線は弦より長い)なので、同じ $a$ なら懸垂線の傾きの方が大きい。ただし、幅とたるみを同じにそろえると $a$ の値が変わるので、比べ方に注意がいる。
ex-cat-powerline の懸垂線(幅 $100$、たるみ $10$、$a=126.63\ldots$)と、同じ幅とたるみの放物線 $y=10\left(\dfrac x{50}\right)^2=\dfrac{x^2}{250}$ を、最下点を原点にそろえて比べる。懸垂線は $y=a\cosh\dfrac xa-a$ である。
| $x$ | $0$ | $10$ | $20$ | $30$ | $40$ | $50$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 懸垂線 | $0$ | $0.3950$ | $1.5827$ | $3.5702$ | $6.3702$ | $10$ |
| 放物線 | $0$ | $0.4$ | $1.6$ | $3.6$ | $6.4$ | $10$ |
両端と最下点では一致し、その間では懸垂線の方がわずかに低い。差が最大になるのは $x=\pm35.37\ldots$ で、差は $0.0323\ldots$ である。幅 $100$ m の電線で約 $3$ cm の違いで、目で見て区別するのは難しい(図 3)。長さも、放物線は $102.606\ldots$、懸垂線は $102.618\ldots$ で、ほとんど同じである。
同じ幅 $100$ でたるみを $40$ にすると、$a\cosh\dfrac{50}a-a=40$ の解は $a=36.46\ldots$、長さは $134.41\ldots$ である。放物線 $y=40\left(\dfrac x{50}\right)^2$ との差の最大は $x=\pm35.62\ldots$ で $1.47\ldots$ になり、図 4 のように形の違いが見える。
幅 100、たるみ 10 の懸垂線(青)と同じ幅・たるみの放物線(赤の破線)。2 本はほとんど重なる
幅 100、たるみ 40 の懸垂線(青)と同じ幅・たるみの放物線(赤の破線)。間では懸垂線の方が低い
def-cat-setting の条件と prop-cat-param の条件を外すと何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 重さが鎖の長さに沿って一様(条件 (ii)) | 荷重が水平方向に一様な吊り橋のケーブル | 形が懸垂線になる |
| 最下点で $y'(0)=0$(条件 (iv)) | $y=\cosh(x-1)$ | 解が $a\cosh\dfrac xa+C$ の形に限る |
| 長さ $L$ が幅 $2b$ より長い | $L=2b$ の鎖 | 端の条件を満たす懸垂線がある |
prop-cat-bridge により、吊り橋のケーブルは $y''=\dfrac1a$ を満たし、放物線 $y=\dfrac{x^2}{2a}+C$ になる。これは懸垂線 $a'\cosh\dfrac x{a'}+C'$ のどれとも一致しない。一致したとすると、両辺を 4 回微分して $0=\dfrac1{a'^3}\cosh\dfrac x{a'}$ となるが、右辺は正だからである。
$y=\cosh(x-1)$ は $y'=\sinh(x-1)$、$y''=\cosh(x-1)=\sqrt{1+\sinh^2(x-1)}=\sqrt{1+(y')^2}$ なので、$a=1$ の微分方程式 $y''=\sqrt{1+(y')^2}$ を満たす。しかし $y'(0)=\sinh(-1)=-1.1752\ldots\ne0$ で、$y=\cosh x+C$ の形ではない($x=1$ で $\cosh0=1$、$x=-1$ で $\cosh(-2)=3.76\ldots$ となり左右対称でない)。これは最下点が $x=1$ にある懸垂線である。
一般に、条件 $y'(0)=0$ を外すと、thm-cat-solution の証明の段 1 で $C_1$ が $0$ に決まらず、解は $y=a\cosh\dfrac{x-x_0}a+C$($x_0=-aC_1$)の形になる。最下点の $x$ 座標 $x_0$ という定数が 1 つ増える。
長さ $L=2b$ の鎖は、両端を結ぶ線分そのものになるしかない(両端を結ぶ曲線のうち、長さが $2b$ のものは線分だけである)。線分は水平なので、thm-cat-ode が成り立つなら $0=y'=\dfrac sa$ となるが、$x\ne0$ では $s(x)\ne0$ なので矛盾する。力で言えば、B から P までの部分の重さ $ws>0$ を支える鉛直方向の力がない。prop-cat-param の 2 のとおり、$2a\sinh\dfrac ba=2b$ となる $a>0$ はない。
この記事では、鎖の各部分の力のつり合いから微分方程式を立てた。大学では、同じ曲線を別の見方で導く。長さ $L$ の鎖を、端を固定したままいろいろな形に垂らしたとき、実際の形は、重さによる位置エネルギー $\displaystyle\int wy\,ds$ が最も小さくなる形である。「長さが一定という条件のもとで、積分で書かれた量を最小にする曲線を求める」問題を扱うのが 変分法 で、その方程式(Euler–Lagrange 方程式)を解くと、やはり懸垂線が得られる(この記事では証明しない)。
懸垂線を回転させてできる曲面を 懸垂面 という。Wei26 によれば、与えられた縁の円に対して面積が最小の回転面を与える曲線が懸垂線であることを、Euler が 1744 年に示した。曲線の長さや曲面の面積を最小にする問題も、変分法で扱う(この記事では証明しない)。
Wei26 によれば、垂らした鎖の形が放物線であるという Galileo の主張を、1669 年に Jungius が否定した。懸垂線の式は、Jakob Bernoulli の出した問題に答えて、1691 年に Leibniz、Huygens、Johann Bernoulli が得た。catenary という語は、鎖を意味するラテン語から来ている。
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