筆算と分配法則

同義語:long arithmetic and the distributive law

概要

筆算と分配法則は、四則演算の筆算が、数を $10$ の累乗のまとまりに分けて書く位取り記数法と、分配法則 $a(b+c)=ab+ac$ とを組み合わせた計算の手順であることを示し、筆算を扱う 4 本の記事へ案内する記事である。掛け算の 2 段目をずらすのは $47\times36=47\times6+47\times30$ だからで、整数の掛け算の筆算は、$10$ を文字 $x$ に替えた多項式の掛け算の筆算に繰り上がりを加えたものになる。① 整数の筆算の仕組みでは 10 進法の一意性と割り算の各段の商が 1 桁になる理由を、② 多項式の筆算と組立除法では多項式への移し方と組立除法の正しさを、③ 掛け算の筆算と畳み込みでは繰り上がりの後回しと Karatsuba の方法を、④ 開平法:平方根の筆算では $(10a+d)^2=100a^2+(20a+d)d$ による平方根の筆算を扱う。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 整数, 分配法則, 多項式
掛け算の筆算で 2 段目を 1 桁ずらして書くのはなぜか。答えは「$36=6+30$ だから、$47\times36=47\times6+47\times30$」という 分配法則 である。筆算は、数を $1,10,100,\dots$ のまとまりに分けて書く 位取り記数法 と、分配法則とを組み合わせた計算の手順である。このことを意識すると、同じ筆算で多項式の掛け算・割り算ができること、平方根も筆算で求められること、大きな数の掛け算を速くする工夫があることが見えてくる。この記事は、筆算を扱う 4 本の記事への案内である。位取り記数法と分配法則を短く述べたあと、筆算の操作と数学の言葉の対応を表にし、どの順番で何を読めばよいかを示す。

筆算を支える 2 つのこと

10 進法の位取り

正の整数 $N$ を
$$ N=d_m\cdot10^m+\dots+d_1\cdot10+d_0\qquad(0\le d_k\le9,\ d_m\ne0) $$
と書き、数字 $d_k$ を上の位から並べて $d_m\cdots d_1d_0$ と表す方法を 10 進法の位取り記数法 という。$d_k$ を $10^k$ の位の数字という。この表し方はどの正の整数にもあり、ただ 1 通りである(証明は 整数の筆算の仕組み)。

足し算と掛け算の分配法則

すべての数 $a,b,c$ について
$$ a(b+c)=ab+ac,\qquad (a+b)c=ac+bc $$
が成り立つことを 分配法則 という。和の積は、積の和に分けて計算してよい。

23×45 を分配法則で分ける

$23=20+3$、$45=40+5$ と位ごとに分け、分配法則を 2 回使うと
$$ 23\times45=(20+3)(40+5)=20\cdot40+20\cdot5+3\cdot40+3\cdot5=800+100+120+15=1035 $$
である。使った掛け算は $2\cdot4$、$2\cdot5$、$3\cdot4$、$3\cdot5$ という 1 桁どうしの積(九九)と、$10$ の累乗を掛けること($0$ をつけること)だけである。筆算の 1 段目 $23\times5=115$ は $100+15$、2 段目 $23\times40=920$ は $800+120$ にあたる。

同じ形の多項式の計算

$10$ を文字 $x$ に置きかえて $(2x+3)(4x+5)$ を同じように分けると
$$ (2x+3)(4x+5)=8x^2+10x+12x+15=8x^2+22x+15 $$
である。$x=10$ を入れると $800+220+15=1035$ となり、ex-hsd-23x45 の答えに一致する。多項式の $x$ の係数 $22$ は $10$ 以上だが、多項式のままなら繰り上げない。整数の筆算では、$22\cdot10=2\cdot100+2\cdot10$ と繰り上げて、$1035$ の数字にそろえる。掛け算では、整数の筆算と多項式の筆算の違いはこの繰り上がりだけである。割り算での違いは ex-hsd-caution で述べる。

2 つの例から分かるように、筆算は次の 3 つの操作でできている。

  1. 数を位ごとに分ける(位取り記数法)。
  2. 分配法則で、1 桁どうしの積と足し算に分ける。
  3. $10$ 以上になった位を、上の位へ送る(繰り上がり)。
    多項式の掛け算の筆算は、このうち 3 がないものである。

筆算の操作と数学の言葉

筆算のそれぞれの操作は、数学の言葉では次のように言いかえられる。右の列は、その内容を扱う記事である。

筆算の操作数学の言葉記事
各位の数字で数を書く位取り記数法(存在と一意性)整数の筆算の仕組み
10 を超えたら上の位へ送る繰り上がり:$10\cdot10^k=10^{k+1}$整数の筆算の仕組み
2 段目を 1 桁ずらす分配法則と $10$ 倍整数の筆算の仕組み
割り算で上の桁から商を立てる$10^i\times$(割る数)を引けるだけ引く整数の筆算の仕組み
10 を $x$ に替える多項式の掛け算・割り算多項式の筆算と組立除法
$x-a$ で割る筆算を短く書く組立除法・Horner の方法多項式の筆算と組立除法
位ごとの積を集めてから繰り上げる数列の畳み込み掛け算の筆算と畳み込み
大きな数を 2 つに分けて掛けるKaratsuba の方法掛け算の筆算と畳み込み
2 桁ずつ区切って平方根を求める$(10a+d)^2=100a^2+(20a+d)d$開平法:平方根の筆算

4 つの記事と読む順番

4 本は、前の記事の結果を後の記事で使うように並んでいる。はじめて読むときは ① → ② → ④ → ③ の順に読むとよい(図 1。番号は下の紹介の順で、読む順では ③ と ④ が入れ替わる)。② の前に、多項式の割り算の定理を証明している 剰余の定理と因数定理 を読んでおくと、② が読みやすい。各記事は、使う前の記事の結果を短く言い直してあるので、必要な記事だけを読むこともできる。
図1:4 本の記事の読む順番。① 整数 → 剰余の定理と因数定理 → ② 多項式 → ④ 開平法 → ③ 畳み込み 図1:4 本の記事の読む順番。① 整数 → 剰余の定理と因数定理 → ② 多項式 → ④ 開平法 → ③ 畳み込み

  1. 整数の筆算の仕組み:10 進法の表し方がただ 1 通りであることを、繰り上がりの補題から証明する。足し算・掛け算の筆算が「位ごとの計算+繰り上がり」であること、割り算の筆算で各段の商がいつも $0$〜$9$ の 1 桁に収まり、最後に正しい余りが出ることを示す。2 進法では掛け算が「ずらして足す」だけになることも分かる。
  2. 多項式の筆算と組立除法:整数の筆算の $10$ を $x$ に置きかえると、多項式の掛け算・割り算の筆算になる。代入が和と積を保つので、整数の掛け算の筆算は $x=10$ での多項式の掛け算の筆算に繰り上がりを加えたものである。多項式の割り算では仮の商を試さなくてよいこと、$x=10$ で整数の割り算に戻る条件、$x-a$ で割る筆算を短くした組立除法の正しさと、くり返して $x-a$ の冪で書き直す方法が分かる。
  3. 掛け算の筆算と畳み込み:掛け算の繰り上がりは最後まで後回しにしてよく、積の各位は数字の並びの畳み込みになる。$11^4=14641$ のように積に二項係数が現れる理由(二項係数そのものは 二項定理と組合せの恒等式 で扱う)、多項式の積を整数の掛け算 1 回で求める Kronecker の置き換え、掛け算の回数を $4^k$ 回から $3^k$ 回に減らす Karatsuba の方法を扱う。
  4. 開平法:平方根の筆算:分配法則の式 $(10a+d)^2=100a^2+(20a+d)d$ から、平方根を 1 桁ずつ求める筆算(開平法)が出てくることを証明する。各段の数字が $0$〜$9$ に収まり、最後に平方根の整数部分と余りが得られる。同じ手順で多項式の平方根も求められる。
どの疑問にどの記事が答えるか
疑問答える記事
筆算は右端から計算するのに、割り算だけ左から計算するのはなぜか① 整数の筆算の仕組み
割り算の筆算で、商の各位がいつも 1 桁で済むのはなぜか①
多項式も筆算で掛けたり割ったりできるか② 多項式の筆算と組立除法
組立除法はなぜ正しいか②
繰り上がりを最後にまとめてしてもよいか③ 掛け算の筆算と畳み込み
$111111111^2=12345678987654321$ になるのはなぜか③
2 桁どうしの掛け算で、掛け算の回数を $4$ 回から $3$ 回に減らせるか③
平方根も筆算で求められるか④ 開平法:平方根の筆算

筆算を分配法則で見るときの注意

分配法則で見ると、整数・多項式・平方根の筆算が 1 つの考えでつながる。ただし、整数と多項式には違いもある。

多項式の計算に x=10 を入れても整数の筆算にならない場合
  • 掛け算では、係数が $10$ 以上になると繰り上がりが起きる。ex-hsd-poly の $22$ がその例である。多項式の係数 $(8,22,15)$ と整数の数字 $(1,0,3,5)$ は違うが、値は同じ $1035$ である。
  • 割り算では、多項式の余りを $x=10$ に入れても整数の余りになるとは限らない。$x^2=(x-3)(x+3)+9$ に $x=10$ を入れると $100=7\times13+9$ だが、$9$ は $7$ 以上なので $100$ を $7$ で割った余りではない(正しくは $100=7\times14+2$)。いつ整数の余りになるかは 多項式の筆算と組立除法 で扱う。

割り算にはもう 1 つ違いがある。整数の割り算では、商の数字を上の桁から見積もり、大きすぎたら 1 ずつ減らして直すことがある(仮の商)。多項式の割り算では、商の各項が最高次の係数どうしの割り算だけで決まり、試して直す必要がない。この理由も 多項式の筆算と組立除法 で扱う。

さらに先へ

関連項目

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する