正則列(regular sequence)とは、環 $A$ の元の有限列 $x_1,\ldots,x_r$ で、$A$ 加群 $M$ について各 $i$ で $x_i$ の掛算が $M/(x_1,\ldots,x_{i-1})M$ 上で単射であり、最後の商 $M/(x_1,\ldots,x_r)M$ が非零となるものをいう。正則列のKoszul複体は正の次数でホモロジーが消え、Noether局所環 $(A,\mathfrak m)$ 上の非零有限生成加群では、$\mathfrak m$ に含まれる列が正則であることは一次Koszulホモロジーの消滅と同値になる。この判定から、局所の場合には正則列の任意の置換や各元の正整数冪も正則列となるが、局所でない環では順序を入れ替えると正則でなくなる例がある。
一つの元が零因子でないことと、複数の元が正則列をなすことは違う。列では最初の元で割った後に、次の元が零因子でなくなるかを調べる。最初の環で各元が非零因子でも、商での作用が単射になるとは限らない。正則列は、方程式を一つずつ課していく過程で単射性を失わない列である。
この定義には順序が含まれる。局所Noether環上の有限生成加群では、極大イデアルの中の正則列は順序を入れ替えても正則になる。しかし一般の非局所環では同じ結論は成立しない。本記事では局所の順序独立性をKoszul複体の一次ホモロジー判定から証明し、非局所の反例を積環で完全に計算する。
局所化にも注意が必要である。掛算写像の単射性は局所化で保たれるが、最後の商が非零であることは消える場合がある。正則列を局所化する際には、商がどの素イデアルで生き残るかを確認する。本記事は零加群や単元列を正則列に含めるかという規約も明示する。
環は単位元をもつ可換環とし、$M$ は単位的 $A$ 加群とする。有限列を $\boldsymbol x=(x_1,\ldots,x_r)$、初期部分の生成するイデアルを $I_i=(x_1,\ldots,x_i)$ と書く。$I_0=0$ とする。
列 $\boldsymbol x$ が $M$ 正則列であるとは、各 $1\le i\le r$ について $x_i$ の掛算
$$M/I_{i-1}M\xrightarrow{x_i}M/I_{i-1}M$$
が単射であり、最後の商 $M/I_rM$ が非零であることをいう。$M=A$ の場合は $A$ 正則列と呼ぶ。空列は $M\ne0$ の場合に正則とする。
各段の掛算の単射性だけを要求し、最後の商の非零を要求しない列を、ここでは弱い意味の正則列と呼んで区別する。単元を含む列はその段で商を零にするため、後の単射性が自動となってしまう。本記事の正則列はそのような列を含まない。
$M=0$ ではどの掛算も単射だが、最後の商は零なので正則列は存在しない。零環上の単位的加群は零であり、同じ端点となる。一元列では、非零加群に単射に作用する元で、商が非零となる元が正則である。環自身では非零因子かつ非単元という条件になる。
正則列とKoszul複体の議論は Mat89 §16 に対応する。以下では必要な複体とNakayamaの補題を本記事の中で展開する。
$\boldsymbol x$ が $M$ 正則なら、どの初期部分も $M$ 正則である。$0\le s\le r$ に対して、後の列 $(x_{s+1},\ldots,x_r)$ は $M/I_sM$ 正則である。逆に初期部分が正則で、後の列がこの商で正則なら、連結した列も $M$ 正則となる。
初期部分については掛算の単射性は定義からそのまま残る。$M/I_sM$ は最後の非零商 $M/I_rM$ に全射するので非零である。後の列の各商は $M/I_iM$ と同じであり、単射性と最後の非零性を引き継ぐ。逆向きも各段の商と作用が同じであるため、二つの列の単射性が連結のすべての段を覆う。最後の商は後の列の最後の商であり非零である。
この命題は任意の環と加群で成立し、Noether性を使わない。順番を変えず、最初の方程式を先に課した後の状況を正確に記述している。途中の商が零になる列を定義に含めなかったので、初期部分の非零性も得られる。
$E=A^r$ の基底を $e_i$ とし、$K_q(\boldsymbol x;M)=\bigwedge^qE\otimes_AM$ と置く。微分は基底の外積から一つの因子を順番に除き、$j$ 番目を除く項に $(-1)^{j-1}x_{i_j}$ を掛ける写像である。二つの因子を除く操作は二通りあり、符号が反対で係数の積が同じだから $d^2=0$ となる。外積の増加順の語が基底となり、各項は $M$ の有限個の直和になる。
左から $e_i$ を外積する写像 $h_i$ は $dh_i+h_id=x_i\operatorname{id}$ を満たす。従って各元はホモロジーを零化する。次数零のホモロジーは $M/I_rM$。一元の場合、複体は $M\xrightarrow{x_1}M$ で、一次ホモロジーは掛算の核である。この情報を一元ずつ追加することで、正則性とホモロジー消滅を結び付ける。
$\boldsymbol x'=(x_1,\ldots,x_{r-1})$、$x=x_r$ と置き、$K'=K(\boldsymbol x';M)$ とする。$E$ の外積を最後の基底を含まない部分と含む部分に分ければ、次数 $q$ の元は $u+e_r\wedge v$、$u\in K'_q$、$v\in K'_{q-1}$ と一意に書ける。この表示は通常の増加順基底と符号で変換される。
微分はこの対の表示で
$$d(u,v)=(d'u+xv,-d'v)$$
となる。従ってKoszul複体は、$K'$ の $x$ 倍写像のmapping coneである。包含 $u\mapsto(u,0)$ と射影 $(u,v)\mapsto v$ により、複体の短完全列 $0\to K'\to K\to K'[-1]\to0$ が得られる。最後の移動複体の微分は $-d'$ である。
すべての次数に対して自然な長完全列
$$\cdots\longrightarrow H_q(K')\xrightarrow{x}H_q(K')\longrightarrow H_q(K)\longrightarrow H_{q-1}(K')\xrightarrow{x}H_{q-1}(K')\longrightarrow\cdots$$
がある。
$K$ のサイクル $(u,v)$ は $d'v=0$、$d'u=-xv$ を満たす。射影は $[v]\in H_{q-1}(K')$ を与え、この類は $x$ で零になる。逆に $[v]$ が $x$ で零なら $xv=-d'u$ とする $u$ を選べるのでサイクル $(u,v)$ に戻る。これで射影の像と次の核の一致を得る。
射影した類が零なら $v=d'w$ と書ける。$K$ の境界 $d(0,-w)=(-xw,d'w)$ を引くことで、同じホモロジー類を $(u+xw,0)$ の形にできる。この第一成分はサイクルだから、$H_q(K')$ の像になる。
最後に、$K'$ のサイクル $u$ が $K$ で境界なら、$(u,0)=d(a,b)=(d'a+xb,-d'b)$ である。$b$ はサイクルで、$[u]=x[b]$。逆に $x$ 倍のサイクル $(xb,0)=d(0,b)$ は $K$ で境界になる。これで残る像と核も一致する。各次数で同じ計算ができるので長完全列全体を得る。記した接続写像はこのconeの符号規約で $x$ 倍である。
列 $\boldsymbol x$ が $M$ 正則であるとは、各 $x_i$ の掛算が $M/(x_1,\ldots,x_{i-1})M$ 上で単射であり、最後の商が非零であることとする。最後の商の非零を省くと単元列を含む別の規約になるので、本記事では区別する。空列は $M\ne0$ のとき正則とする。
任意の可換環 $R$、加群 $M$ について、列が各段で単射作用をもつなら $H_q(\boldsymbol x;M)=0$ がすべての $q>0$ で成立する。特に $M$ 正則列について成立する。
列の長さに関して帰納する。空列では $K_0=M$ だけなので正次数は零。一元の場合は上の核の計算で成立する。一般の場合、前の列の正次数ホモロジーは帰納によって零になる。長完全列から $q>1$ のホモロジーは零で、$H_1(K)$ は $x_r$ の $H_0(K')=M/(x_1,\ldots,x_{r-1})M$ 上の作用の核と同型になる。この作用は仮定から単射なので $H_1(K)=0$。これで全次数を得る。
この向きにはNoether性も加群の有限生成性も必要ない。必要なのは各段での掛算の単射性である。一方、正次数の消滅から各段の単射性を戻すには以下の有限性を使う。
$(R,\mathfrak m)$ をNoether局所環、$M$ を非零有限生成加群、$x_1,\ldots,x_r\in\mathfrak m$ とする。次は同値である。
1から2は前の定理、2から3は明らか。3から1を列の長さに関して帰納する。空列は定義から正則。一元なら $H_1$ は掛算の核だから単射性を得る。
一般の場合、長完全列の一部から $H_1(K')/x_rH_1(K')$ は $H_1(K)$ に単射する。右辺が零なので $H_1(K')=x_rH_1(K')$ となる。$K'$ の各項は有限生成で、環はNoetherだから核と商である $H_1(K')$ も有限生成。有限Nakayamaによりこれが零となる。
ここで使ったNakayamaを確認する。有限加群 $Q=x_rQ$ の生成元を $q_i$ とし、$q_i=\sum_jb_{ij}q_j$、$b_{ij}\in(x_r)$ と書く。行列 $E-B$ の余因子行列を掛けると、その行列式が全生成元を零化する。行列式は $1-a$、$a\in(x_r)\subset\mathfrak m$ で、局所環では単元だから $Q=0$。これで必要な有限性を含めて零化を得た。
帰納により前の列は正則。長完全列で $H_1(K)=0$ を使うと、$x_r$ の $H_0(K')$ 上の作用の核も零となる。最後に $M/(\boldsymbol x)M$ が零なら $M=(\boldsymbol x)M$ となり、同じ有限Nakayamaを $M$ に適用して $M=0$ となるが仮定に反する。従って最後の商は非零で、列は正則である。
この逆向きはNoether局所、有限 $M$、非零 $M$、列が極大イデアル内という条件を使った。ホモロジーの有限性とNakayamaが適用できること、最後の商が非零であることをそれぞれ保証している。条件を省いて同じ判定を述べない。
Noether局所環 $(A,\mathfrak m)$ 上の非零有限生成加群 $M$ について、極大イデアル内の $M$ 正則列の任意の置換は再び $M$ 正則列である。
列を置換すると、自由加群の基底を同じ置換で送る写像が外積の同型を誘導する。増加順へ並べ直す際の符号を含めれば、この写像はKoszul微分を保つ。係数 $x_i$ の対応が同じで、因子を除く微分が基底の対応と交換するからである。従って二つの複体は同型である。
元の列は正則だから、先の消滅定理によって正次数ホモロジーは零になる。置換した列にも同じ消滅が成立する。各元は依然として極大イデアルに属し、加群の非零性と有限性、環のNoether局所性も変わらない。一次ホモロジー判定の逆向きによって、置換した列は正則となる。
この証明では複体の置換同型は一般の環で成立する。しかしホモロジーから正則性を戻す部分で局所有限加群の条件を使った。複体が置換できることだけから、一般の環の正則列が置換できると結論することはできない。
体 $k$ に対して $A=k\times k[x,y]$ とし、$a=(1,x)$、$b=(0,y)$ を取る。$M=A$ とする。この環はNoetherだが局所ではない。
$a$ の掛算は両成分で単射である。第一成分では $1$ の掛算、第二成分では整域の非零元 $x$ の掛算だからである。$A/aA$ は第一成分が零、第二成分が $k[y]$ となる。この商上で $b$ は $y$ の掛算として作用し単射である。最後の商は $k$ で非零。従って $(a,b)$ は $A$ 正則列である。
一方、$b$ は非零元 $(1,0)$ を零化する。従って順序を変えた $(b,a)$ は最初の単射性を満たさず正則でない。最後の生成イデアルと商は順序を変えても同じだが、途中の零因子性が変わる。これが正則列の定義に順序が含まれる具体的な例である。
この例ではKoszul複体はどちらの順序でも同型で、正次数ホモロジーは消える。非局所環では、その消滅を掛算の段階的単射性へ戻す逆向きが失敗する。有限性だけを残して局所性を省くことはできない。
$\boldsymbol x$ が $M$ 正則列、$S$ が乗法的集合なら、局所化後の各段の掛算は単射である。局所化した列が $S^{-1}M$ 正則となるための追加条件は
$$S^{-1}(M/I_rM)\ne0$$
である。特に素イデアル $\mathfrak p$ で局所化する場合、この条件は $\mathfrak p\in\operatorname{Supp}(M/I_rM)$ である。
局所化した商は $S^{-1}M/(S^{-1}I_i)(S^{-1}M)$ と同型である。これは分数の代表から直接確認できる。単射写像の局所化も単射である。像が零の分数なら、ある分母を掛けた元の像が零で、元の単射性から同じ分母を掛けた元が零になるからである。従って各段の単射性は保たれる。正則列の定義で残る条件は最後の商の非零だけなので、表示した条件が必要十分となる。素局所化で非零となることは台の定義そのものである。
Noether環上の有限生成加群なら、台は零化イデアルを含む素イデアルの集合と一致する。実際、零化イデアルに属し、その素イデアルの外にある元を反転すれば加群は零になる。逆に局所化で加群が零なら、有限個の生成元を同時に零化する分母の積を選べるので、零化イデアルに属しその素イデアルを避ける元が存在する。
有限 $M$、$I_r\subset\mathfrak p$ の場合は、$M_{\mathfrak p}\ne0$ なら有限Nakayamaによって $M_{\mathfrak p}/I_rM_{\mathfrak p}\ne0$ である。従ってこの場合は $\mathfrak p\in\operatorname{Supp}M$ と $I_r\subset\mathfrak p$ を確認すればよい。有限性なしではこのNakayamaへの移行を使わず、最後の商の台を直接検査する。
体 $k$ 上の $A=k[t]$ と一元列 $(t)$ は正則である。しかし $t$ を反転した $k[t,t^{-1}]$ では $t$ が単元になり、最後の商が零となるので、本記事の規約では正則でない。局所化で単射性が失われたのではなく、商の生存が失われた例である。
Noether局所環上の非零有限生成加群で正則列の各元を任意の正整数冪へ置き換えても正則になる。この事実は単射性だけの形式的言い換えではなく、商が変わることを扱う必要がある。
まず短完全列 $0\to L\to N\to P\to0$ で、一つの元 $y$ が $L,P$ 上で単射に作用するなら $N$ 上でも単射である。$yn=0$ なら $P$ での像は零、従って $n\in L$ となり、$L$ の単射性から零になる。また $yN\cap L=yL$ である。$yn\in L$ なら $P$ での単射性により $n\in L$ だからである。従って $y$ で割った後にも短完全列が保たれる。この議論を列の各元について繰り返せば、列が両端で各段単射なら中央でも各段単射となる。
正則列 $(x,\boldsymbol y)$ を取り、$x^n$ で割った加群を考える。$x$ は $M$ 上で単射なので、$x^jM/x^{j+1}M$ は $M/xM$ と同型である。従って $M/x^nM$ は $n$ 個の $M/xM$ を因子にもつ有限フィルトレーションをもつ。$\boldsymbol y$ は $M/xM$ 上で各段単射だから、前の短完全列の議論をフィルトレーションに反復して、$M/x^nM$ 上でも各段単射となる。$x^n$ 自身も $M$ 上で単射である。
局所の有限加群で列が極大イデアル内なら、最後の商は有限Nakayamaで非零となる。従って最初の元を冪にした列も正則である。置換可能性で任意の元を最初へ移し、この操作を有限回行って元の順序へ戻せば、全元の指定された正整数冪への置換を得る。正整数という条件を零乗へ変えると単元になり、非零商の条件を失うので、この結論には含めない。
体 $k$ に対して多項式環 $k[x_1,\ldots,x_r]$ の座標列は正則である。各段の商は残りの変数の多項式環で、次の変数の掛算は単射。最後の商は非零の $k$ である。この例は任意の有限変数数で成り立ち、空列では $k$ 自身が残る。
同じ多項式環 $k[x,y]$ で $(x,xy)$ は正則でない。最初の $x$ は非零因子だが、商 $k[y]$ では $xy$ は零なので非零の商に単射に作用しない。二つの元はもとの整域内ではともに非零因子である。従って個別に非零因子であることは、正則列の十分条件ではない。
体 $k$ 上の二重数環 $k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ では、非零元 $\varepsilon$ の一元列も正則でない。$\varepsilon$ は自身を零化する。非零という条件と非零因子という条件を区別する必要がある。
局所環の単元を列に入れると、掛算はその段で単射でも商が零になる。例えば体上の一元列 $(1)$ はKoszulホモロジーがすべて消えるが、本記事の正則列ではない。局所の逆向きで元が極大イデアル内という条件は、この単元による見かけの消滅を排除する。
最後の商の非零性は、単に生成イデアルが環の真のイデアルであることと一般には同じではない。加群には零化イデアルがあり、真のイデアルでもその加群全体を生成する場合がある。局所有限加群ではNakayamaがこの違いを制御するが、一般の加群では商自身を計算する必要がある。
定義、初期部分と商、局所化による単射性の保存にはNoether条件は不要である。Koszulの正則列から消滅への向きも、任意の加群の各段での単射性から証明できる。逆向きでは前のホモロジーの有限性とNakayamaを使うため、Noether局所と有限生成を課した。置換可能性はこの逆向きを通るので、同じ条件を伴う。
正則列の長さと次元や深さとの関係はさらに進んだ主題である。列の構成と順序を扱う基本段階では、各商での単射と最後の非零商を別々に確認するとよい。特に局所化後に商が消える点を取り除くことと、列を最初から単元を含む規約で定義することは同じではない。
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