自然変換

概要

自然変換(natural transformation)とは、同じ始域・終域を持つ二つの関手を、元の圏のすべての射と両立する成分の族で比較するものである。成分がすべて同型なら自然同型となる。各対象で同型を選べることと、自然同型が存在することは異なる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 圏, 関手

定義

二つの関手を比較するとき、各対象上に射を選ぶだけでは足りない。その比較が、元の圏のすべての射と両立することを求める。以下で関手とは、対象と射を移し、射の始域・終域、恒等射、合成を保つ対応である。Rie16 §1.4

自然変換

関手 $F,G\colon\mathcal C\to\mathcal D$ の間の自然変換(natural transformation)$\eta\colon F\Rightarrow G$ は、各対象 $X$ に射 $\eta_X\colon FX\to GX$ を与え、任意の射 $f\colon X\to Y$ について
$$ G(f)\circ\eta_X=\eta_Y\circ F(f) $$
を満たすものをいう。$\eta_X$ を成分、上の条件を自然性という。

自然性は「$F$ 側で移してから比較する」と「比較してから $G$ 側で移す」が一致するという条件である。
$$ \begin{array}{ccc} FX&\xrightarrow{Ff}&FY\\ {\scriptstyle\eta_X}\downarrow&&\downarrow{\scriptstyle\eta_Y}\\ GX&\xrightarrow{Gf}&GY \end{array} $$

例と反例

恒等変換と積の射影

$\eta_X=\operatorname{id}_{FX}$ は $F\Rightarrow F$ の自然変換である。自然性の両辺はともに $Ff$ になる。
集合 $A$ を固定し、$P_A(X)=X\times A$(直積)、$P_A(f)=f\times\operatorname{id}_A$ とすると、射影 $\pi_X\colon X\times A\to X$ は $P_A\Rightarrow\operatorname{Id}_{\mathbf{Set}}$(恒等関手)の自然変換である。実際、任意の $(x,a)$ で
$f(\pi_X(x,a))=f(x)=\pi_Y(f(x),a)$ となる。

二重双対への評価

体 $k$ 上のベクトル空間 $V$ に対し、$V^*=\operatorname{Hom}_k(V,k)$ を双対空間、$V^{**}=(V^*)^*$ とする。線形写像 $f\colon V\to W$ は $f^*(\lambda)=\lambda\circ f$ を定め、その双対 $f^{**}\colon V^{**}\to W^{**}$ により二重双対は共変関手になる。
線形写像 $j_V\colon V\to V^{**}$ を $j_V(v)(\lambda)=\lambda(v)$ と定めると、
$$ \bigl(f^{**}j_V(v)\bigr)(\mu) =j_V(v)(\mu\circ f) =\mu(fv) =j_W(fv)(\mu) $$
なので $j\colon\operatorname{Id}\Rightarrow(-)^{**}$ は自然変換である。$V$ が有限次元なら、基底 $e_i$ と双対基底 $e_i^*$ に対して $j_V(e_i)$ は $e_i^*$ の双対基底になるため同型である。式 $j_V(v)(\lambda)=\lambda(v)$ 自体は基底を選んでいない。

表現の間の射

群 $H$ を、対象が一つ、射が $H$ の元、合成が群の積である圏とみなす。ベクトル空間の圏への関手は、ベクトル空間 $V$ と線形同型 $\rho(h)$ の族で $\rho(gh)=\rho(g)\rho(h)$ を満たす群の表現を与える。逆に群表現からこの関手を作れる。
二つの表現 $\rho,\sigma$ の間の自然変換(絡み作用素)は、線形写像 $T\colon V\to W$ で
$$ \sigma(h)T=T\rho(h)\qquad(h\in H) $$
を満たすものにほかならない。自然性は、表現を比較する際の作用との両立条件になっている。

反例:同型の選択は自然とは限らない

有限次元実ベクトル空間 $V$ と $V^*$ は同型だが、そのことだけから自然同型は得られない。まず通常の双対は反変なので、全線形写像の圏で $\operatorname{Id}\Rightarrow(-)^*$ と書くこと自体が型に合わない。
そこで射を線形同型だけに制限し、$D(V)=V^*$、$D(f)=(f^{-1})^*$ として共変関手に直す。合成について $(gf)^{-1}=f^{-1}g^{-1}$ と双対の反変性から $D(gf)=D(g)D(f)$ である。それでも $\operatorname{Id}\Rightarrow D$ の自然同型は存在しない。$V=\mathbb R,\ f=2\operatorname{id}$ に自然性を課すと、成分 $a\colon\mathbb R\to\mathbb R^*$ は
$$ \tfrac12 a=2a $$
を満たさなければならず、$a=0$ になって同型ではない。

合成と自然同型

自然変換の垂直合成

自然変換 $\eta\colon F\Rightarrow G,\ \theta\colon G\Rightarrow H$ は、$(\theta\circ\eta)_X=\theta_X\circ\eta_X$ によって垂直合成できる。この合成は結合的で、恒等変換を単位元に持つ。$\mathcal C$ が小さく、$\mathcal D$ の各 Hom が集合であるとき、関手と自然変換は局所小圏をなす。その構成は関手圏の記事が扱う。

垂直合成と単位

自然性は
$$ Hf\circ\theta_X\circ\eta_X =\theta_Y\circ Gf\circ\eta_X =\theta_Y\circ\eta_Y\circ Ff $$
による。結合律と単位律は成分ごとの射の法則から従う。

水平合成と交換法則

自然変換 $\eta\colon F\Rightarrow G$($F,G\colon\mathcal C\to\mathcal D$)と $\theta\colon F'\Rightarrow G'$($F',G'\colon\mathcal D\to\mathcal E$)をとる。ホイスカリング $F'\eta,G'\eta\colon F'F\Rightarrow F'G,\ G'F\Rightarrow G'G$ を対象ごとに $(F'\eta)_X=F'(\eta_X)$、$(G'\eta)_X=G'(\eta_X)$ で、$\theta_F,\theta_G\colon F'F\Rightarrow G'F,\ F'G\Rightarrow G'G$ を $(\theta_F)_X=\theta_{FX}$、$(\theta_G)_X=\theta_{GX}$ で定める。このとき
$$ \theta_G\circ F'\eta=G'\eta\circ\theta_F $$
が成り立ち、この共通の自然変換を $\theta\ast\eta\colon F'F\Rightarrow G'G$ という水平合成とよぶ。さらに $\eta'\colon G\Rightarrow H,\ \theta'\colon G'\Rightarrow H'$ に対して垂直合成と水平合成は交換法則
$$ (\theta'\circ\theta)\ast(\eta'\circ\eta)=(\theta'\ast\eta')\circ(\theta\ast\eta) $$
を満たす。

水平合成と交換法則の証明

等式 $\theta_G\circ F'\eta=G'\eta\circ\theta_F$ は、$\theta$ の自然性の四角を射 $\eta_X\colon FX\to GX$ に適用したものにほかならない。交換法則の証明を含め、詳細は Rie16 §1.7 を参照する。

自然同型

関手圏の同型射を自然同型(natural isomorphism)という。すなわち、自然変換 $\eta\colon F\Rightarrow G$ に対して自然変換 $\xi\colon G\Rightarrow F$ が存在し、$\xi\eta=\operatorname{id}_F,\ \eta\xi=\operatorname{id}_G$ を満たすことである。

自然同型の成分による判定

自然変換が自然同型であることと、そのすべての成分が同型射であることは同値である。

逆変換の自然性

自然な逆変換があれば、各成分が逆射を持つ。逆にすべての $\eta_X$ が同型なら、自然性 $Gf\eta_X=\eta_YFf$ の左右に逆射を合成して
$$ Ff\circ\eta_X^{-1}=\eta_Y^{-1}\circ Gf $$
を得る。したがって $\eta_X^{-1}$ は自然変換の成分となり、成分ごとの二つの合成が恒等射なので逆変換である。

これらは Rie16 §§1.4, 1.7 の基本構成である。証明から分かるのは「各点で逆を選べばよい」というだけでなく、逆射の自然性が元の自然性から強制されることである。

別の見方と補足

一本の区間を付けて表す

$[1]$ を対象 $0,1$ と一本の非恒等射 $0\to1$ を持つ圏とする。自然変換 $F\Rightarrow G$ は、両端への制限が $F,G$ である、積圏 $\mathcal C\times[1]$ からの関手 $H\colon\mathcal C\times[1]\to\mathcal D$ と同じデータである。

区間による記述との相互変換

$H(X,0)=FX,\ H(X,1)=GX$ とし、同じ端にある射には $Ff,Gf$ を、混合する射 $(f,0\to1)$ には $Gf\eta_X=\eta_YFf$ を割り当てる。混合射を含む合成の確認はこの自然性の式と $F,G$ の合成則に帰着し、それ以外は $F,G$ の法則である。逆に $H$ から $\eta_X=H(\operatorname{id}_X,0\to1)$ を取り出すと、積圏の可換な四角形を移すことで自然性を得る。両構成は互いに逆である。

豊穣圏での自然変換

モノイダル圏 $(\mathcal V,\otimes,I)$ 上の豊穣圏では、Hom は $\mathcal V$ の対象であり、合成はテンソル積からの射である。豊穣関手 $F,G$ の自然変換の成分は $I\to\mathcal D(FX,GX)$ で与え、$\mathcal C(X,Y)$ から $\mathcal D(FX,GY)$ への二通りの合成が $\mathcal V$ の射として等しいことを要求する。単に元の集合で可換性を見るより強い条件になり得る。$\mathcal V=\mathbf{Set}$ なら通常の自然性と同じである。Kel82 §§1.2–1.3

∞圏での自然変換

準圏モデルでは、関手 $F,G\colon\mathcal C\to\mathcal D$ の自然変換を、関手準圏
$\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal D)=\mathcal D^{\mathcal C}$ の辺、すなわち指定端点を持つ単体的写像 $\mathcal C\times\Delta^1\to\mathcal D$ と定義する。関手準圏が準圏になる定理は HTT09 Proposition 1.2.7.3 を参照する。各対象上の辺だけでなく、各射に対する整合性とその高次の整合性がデータに含まれる。自然変換は一般に可逆ではなく、関手準圏で同値となる場合を自然同値という。
通常の圏の脈体は対象間の合成可能な射の列からなる。上の区間による記述を脈体に移すと、通常の自然変換がこの定義の特別な場合になる。詳説は自然変換(∞圏)で扱う。

関連項目

参考文献

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