Gelfandの三つ組(Gelfand triple)とは、実 Banach 空間 $V$ が実 Hilbert 空間 $H$ に連続な単射で稠密に埋め込まれているとき、$H$ を Riesz の表現定理で双対空間 $H^*$ と同一視して得られる埋め込みの列 $V\subset H\subset V^*$ のことで、$H$ をピボット空間という。$H\to V^*$ は $f$ を $v\mapsto(f,v)$ に送る連続な単射で、$V$ が反射的なら像は稠密だが、一般に全射ではない。$V$ が Hilbert 空間でも、$i$ が全射でなければ $V$ を $V^*$ と同一視することとは両立しない。偏微分方程式の弱い定式化に現れる $H^1_0(\Omega)\subset L^2(\Omega)\subset H^{-1}(\Omega)$ が典型例である。
前提知識: Hilbert空間, Rieszの表現定理, 反射的Banach空間, Hahn–Banachの定理
Gelfand の三つ組(Gelfand triple)とは、Banach 空間 $V$ が Hilbert 空間 $H$ に連続かつ稠密に埋め込まれているとき、$H$ をその双対空間 $H^*$ と同一視して得られる埋め込みの列
$$
V\subset H\cong H^*\subset V^*
$$
のことである。このとき $H$ を ピボット空間(pivot space)という。Hilbert 空間は Rieszの表現定理 によって自分の双対空間と同一視できる。その同一視を中央の $H$ でだけ行い、$V$ の上の連続線形汎関数を $H$ の元より広いものとして扱うのが、この三つ組の考え方である。
典型例は、偏微分方程式の弱い定式化に現れる $H^1_0(\Omega)\subset L^2(\Omega)\subset H^{-1}(\Omega)$ である。2 乗可積分な関数 $f$ は、積分 $v\mapsto\int fv$ によって $H^1_0(\Omega)$ 上の汎関数とみなされ、$H^{-1}(\Omega)$ にはさらに $L^2$ に入らない「右辺」も含まれる。
注意すべきなのは、$V$ 自身が Hilbert 空間であっても、$i$ が全射でなければ、$V$ を $V^*$ と同一視することと $H$ を $H^*$ と同一視することは両立しない点である。この記事では、埋め込み $H\to V^*$ の単射性と稠密性を証明し、それぞれの仮定が外せないことを反例で示す。
この記事では、Bre11 §5.2 と同じく実数体上で考える(複素数体上の場合は rem-gt-complex)。$X$ が実ノルム空間のとき、連続双対空間を $X^*$、$g\in X^*$ の $x\in X$ での値を $\langle g,x\rangle$ と書く。$X^*$ は作用素ノルムで Banach 空間である。
$H$ を実 Hilbert 空間とし、内積を $(\cdot,\cdot)$、ノルムを $|\cdot|$ と書く。$R_H\colon H\to H^*$ を $\langle R_Hf,w\rangle:=(f,w)$ で定めると、Rieszの表現定理 の系「Hilbert 空間とその双対空間」により、実数体上では $R_H$ はノルムを保つ線形な全単射である。
$V$ を実 Banach 空間とし、ノルムを $\|\cdot\|_V$ と書く。線形写像 $i\colon V\to H$ が次をみたすとする。
上の $V,H,i$ について、写像の列
$$
V\xrightarrow{\ i\ }H\xrightarrow{\ j\ }V^*
$$
を Gelfand の三つ組 といい、$H$ をその ピボット空間 という。$i$ と $j$ で元を同一視して $V\subset H\subset V^*$ と書くことが多い。
$V\subset H\subset V^*$ と書くとき、$f\in H$ と $v\in V$ について
$$
\langle f,v\rangle=(f,v)
$$
となる。すなわち、$V^*$ と $V$ の対は、両方が意味をもつところでは $H$ の内積と一致する。三つ組を $(V,H,V^*)$ とも書く。この記事では $V$ を Banach 空間とする。
上の設定で、次が成り立つ。
1:$j$ は線形写像の合成なので線形である。$|\langle jf,v\rangle|=|(f,iv)|\le|f|\,|iv|\le C|f|\,\|v\|_V$ である。
2:$jf=0$ とすると、すべての $v\in V$ について $(f,iv)=0$ であり、$f$ は $i(V)$ と直交する。$i(V)$ は稠密なので、Hilbert空間 の系「稠密な部分空間の判定」により $f=0$ である。
3:$\langle(j\circ i)u,v\rangle=(iu,iv)$ は定義から従い、内積の対称性から $u,v$ について対称である。$v\ne0$ なら $i$ の単射性から $iv\ne0$ なので $\langle(j\circ i)v,v\rangle=|iv|^2>0$ であり、とくに $(j\circ i)v\ne0$ である。
4:$j(H)$ は $V^*$ の線形部分空間である。稠密でないとすると、Hahn–Banachの定理 の系「稠密性の判定」を Banach 空間 $V^*$ に使って、$j(H)$ の上で $0$ になる $0$ でない $\Lambda\in V^{**}$ が得られる。$V$ は反射的なので、$\Lambda=J_Vv$ となる $v\in V$ がある($J_V$ は評価写像。反射的Banach空間 の定義「反射的Banach空間」)。$\Lambda\ne0$ なので $v\ne0$ である。すべての $f\in H$ について
$$
0=\Lambda(jf)=\langle jf,v\rangle=(f,iv)
$$
であり、$f=iv$ とおくと $|iv|^2=0$、$i$ の単射性から $v=0$ となって矛盾する。
5:$g=jf$ なら $|\langle g,v\rangle|=|(f,iv)|\le|f|\,|iv|$ なので、$a=|f|$ ととれる。逆に $a$ が存在するとする。$i$ は単射なので、$i(V)$ 上の線形汎関数 $\psi(iv):=\langle g,v\rangle$ が定まり、$|\psi(w)|\le a|w|$($w\in i(V)$)である。$\psi$ は $i(V)$ 上で一様連続で、$i(V)$ は $H$ で稠密なので、$\psi$ は $H$ 上の線形汎関数 $\Psi$ に一意に延び、$|\Psi(w)|\le a|w|$ である($w_n\to w$、$w_n\in i(V)$ について $\Psi(w):=\lim\psi(w_n)$)。Rieszの表現定理 により $\Psi=(f,\cdot)$、$|f|=\|\Psi\|\le a$ となる $f\in H$ がある。すると $\langle jf,v\rangle=(f,iv)=\Psi(iv)=\langle g,v\rangle$ なので $jf=g$ である。$f$ の一意性は 2 から従う。最後の主張は、$a=|f|$ が条件をみたすことと、条件をみたすどの $a$ についても $|f|=\|\Psi\|\le a$ であることによる。$\square$
1・2・4 は Bre11 Remark 3(pp. 136–137)の性質 (i)–(iii) であり、5 は同書 Exercise 5.16 の 4(pp. 150–151)にあたる。2 には $i(V)$ が $H$ で稠密であることが、4 には $V$ が反射的であることが効いている。どちらの仮定も外せない(ex-gt-counterexamples)。
一方、すべての仮定がみたされていても、$j$ は全射とは限らない(Bre11 Remark 3 の脚注、p. 136)。$j(H)$ は $V^*$ の稠密な部分空間だが、一般に閉じていない。5 は、$V^*$ の元が $H$ から来るのは、$H$ のノルム $|iv|$ で抑えられるときに限ることを述べている。具体例は ex-gt-weighted で計算する。
$V$ が内積 $((\cdot,\cdot))$ をもつ Hilbert 空間なら、$V$ についても Riesz の写像 $R_V\colon V\to V^*$、$\langle R_Vu,v\rangle:=((u,v))$ がある。$R_V$ も線形な等長全単射なので、$V$ を $V^*$ と同一視することもできる。しかし、$i$ が全射でなければ、それは $H$ を $H^*$ と同一視したうえでの埋め込み $j\circ i$ とは一致しない。
$V$ を実 Hilbert 空間とし、上の設定で $j\circ i=R_V$ が成り立つとする。このとき $i$ は $V$ から $H$ への内積を保つ全単射である。したがって $i$ が全射でなければ、$j\circ i\ne R_V$ である。
$j\circ i=R_V$ なら、すべての $u,v\in V$ について $((u,v))=\langle R_Vu,v\rangle=\langle(j\circ i)u,v\rangle=(iu,iv)$ であり、$i$ は内積を保つ。とくに $|iv|=\|v\|_V$ なので、$i(V)$ は完備な空間の等長像として完備であり、$H$ の閉部分空間である。$i(V)$ は稠密なので $i(V)=H$ であり、$i$ は全単射である。$\square$
そこで通常は、$H$ を $H^*$ と同一視して $V\subset H\subset V^*$ と書き、$V$ を $V^*$ とは同一視しない。$R_V$ は等長同型として残るが、恒等写像とはみなさない(Bre11 Remark 3、p. 137)。
$H=\ell^2$(実数列)とし、
$$
V:=\Bigl\{u=(u_n)_{n\ge1}\ \Big|\ \sum_{n\ge1}n^2u_n^2<\infty\Bigr\},\qquad ((u,v)):=\sum_{n\ge1}n^2u_nv_n
$$
とおく。$i$ は包含写像である。
1:$(Wu)_n:=nu_n$ とおくと、$W\colon V\to\ell^2$ は内積を保つ線形な全単射(逆は $a\mapsto(a_n/n)$)なので、$V$ は完備である。$n^2\ge1$ から $|u|\le\|u\|_V$ である。有限個を除いて $0$ である数列は $V$ に属し、$\ell^2$ で稠密である。
2:$g\in V^*$ について $g\circ W^{-1}\in(\ell^2)^*$ なので、Rieszの表現定理 により $a\in\ell^2$ で $\langle g,v\rangle=\sum_na_n(nv_n)$ となるものがある。$f_n:=na_n$ とおけば $\sum f_n^2/n^2=\sum a_n^2<\infty$、$\langle g,v\rangle=\sum f_nv_n$ であり、$\|g\|_{V^*}=\|g\circ W^{-1}\|=|a|=(\sum f_n^2/n^2)^{1/2}$ である。逆にそのような $f$ について、Cauchy–Schwarz の不等式から $|\sum f_nv_n|=|\sum(f_n/n)(nv_n)|\le(\sum f_n^2/n^2)^{1/2}\|v\|_V$ なので、$v\mapsto\sum f_nv_n$ は $V^*$ に属する。$f\in\ell^2$ なら $\langle jf,v\rangle=(f,v)=\sum f_nv_n$ なので、$jf$ は数列 $f$ そのものに対応する。
3:$\sum1/n^2<\infty$ なので $f\in V^*$ であり、$\sum1^2=\infty$ なので $f\notin\ell^2$ である。
4:$\langle R_Vu,v\rangle=\sum n^2u_nv_n$ なので、2 の同一視で $R_Vu=(n^2u_n)$ である。
$2< p<\infty$、$\frac1p+\frac1{p'}=1$ とし、$H=L^2(0,1)$、$V=L^p(0,1)$、$i$ を包含写像とする。$(0,1)$ の測度は $1$ なので、Hölder の不等式から $|v|_{L^2}\le\|v\|_{L^p}$ である(Lp空間 の命題「有限測度空間での包含」)。$C_c^\infty(0,1)$ は $L^p(0,1)$ に含まれ、$L^2(0,1)$ で稠密なので(Bre11 Corollary 4.23、p. 109)、$i(V)$ は稠密である。$V$ は反射的である(反射的Banach空間 の例「$1< p<\infty$ の $L^p$ 空間」)。
$L^p(0,1)^*$ は、$g\in L^{p'}(0,1)$ を $v\mapsto\int_0^1gv\,dx$ に対応させることで $L^{p'}(0,1)$ と同一視される(Bre11 Theorem 4.11、p. 97)。この同一視の下で $j$ は $f\in L^2$ を同じ関数 $f\in L^{p'}$ に送る包含写像であり($p'<2$ なので $L^2(0,1)\subset L^{p'}(0,1)$)、三つ組は
$$
L^p(0,1)\subset L^2(0,1)\subset L^{p'}(0,1)
$$
となる。thm-gt-main の 4 は、$L^2(0,1)$ が $L^{p'}(0,1)$ で稠密であることを言っている。
$\Omega\subset\mathbb{R}^N$ を開集合とし、$V=H^1_0(\Omega)$(Sobolev空間の基本事項 の定義「零境界値Sobolev空間」で $k=1$、$p=2$ としたもの)に $H^1$ の内積 $((u,v))=\int_\Omega(\nabla u\cdot\nabla v+uv)\,dx$ を入れ、$H=L^2(\Omega)$、$i$ を包含写像とする。$|u|_{L^2}\le\|u\|_{H^1}$ であり、$C_c^\infty(\Omega)\subset H^1_0(\Omega)$ は $L^2(\Omega)$ で稠密である(Bre11 Corollary 4.23、p. 109)。$V$ は Hilbert 空間なので反射的である(反射的Banach空間 の命題「Hilbert 空間は反射的」)。$H^1_0(\Omega)$ の双対空間を $H^{-1}(\Omega)$ と書くと、thm-gt-main から
$$
H^1_0(\Omega)\subset L^2(\Omega)\subset H^{-1}(\Omega)
$$
は連続な単射で、それぞれの像は稠密である(Bre11 §9.4、p. 291)。
$f\in H^{-1}(\Omega)$ について、
$$
u\in H^1_0(\Omega),\qquad\int_\Omega(\nabla u\cdot\nabla v+uv)\,dx=\langle f,v\rangle\quad(v\in H^1_0(\Omega))
$$
をみたす $u$ は、Rieszの表現定理 を $V$ に使えば $u=R_V^{-1}f$ としてただ一つ存在する。これは方程式 $-\Delta u+u=f$ の弱解である。$f\in L^2(\Omega)$ のときは、右辺は $\langle jf,v\rangle=\int_\Omega fv\,dx$ である。ここで $R_V$ は $u$ を $-\Delta u+u$ に送る写像にあたり、$j\circ i$ は $u$ を $u$ 自身に送る。$V$ を $V^*$ と同一視しない理由(prop-gt-incompatible)が、この例ではっきり見える。
$H^{-1}(\Omega)$ の元は、$f_0,f_1,\dots,f_N\in L^2(\Omega)$ を使って $\langle f,v\rangle=\int_\Omega f_0v\,dx+\sum_{i=1}^N\int_\Omega f_i\,\partial_iv\,dx$ と表せる(負のSobolev空間 の定理「$W^{-1,p'}$ の元の表現」で $p=2$ としたもの)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $i(V)$ の $H$ での稠密性 | $H=\mathbb{R}^2$、$V=\mathbb{R}\times\{0\}$ | $j$ の単射性 |
| $V$ の反射性 | $V=C([0,1])$、$H=L^2(0,1)$ | $j(H)$ の $V^*$ での稠密性 |
| $i$ の単射性 | $V=\mathbb{R}^2$、$H=\mathbb{R}$、$i(x,y)=x$ | $j\circ i$ の単射性 |
1 行目:$V$ に $\mathbb{R}^2$ の Euclid ノルムを制限して入れると Banach 空間で、包含写像 $i$ は単射かつ連続だが、$i(V)$ は $\mathbb{R}^2$ で稠密でない。$f=(0,1)$ について、すべての $v\in V$ で $\langle jf,v\rangle=(f,v)=0$ なので $jf=0$ だが $f\ne0$ である。
2 行目:$C([0,1])$ に最大値ノルムを入れ、$i$ を連続関数をその $L^2$ の類に送る写像とする。$|v|_{L^2}\le\|v\|_\infty$ である。連続関数がほとんど至るところ $0$ なら、$0$ でない点の近くで正の測度の集合の上で $0$ でないので矛盾し、$i$ は単射である。$C_c^\infty(0,1)\subset C([0,1])$ は $L^2(0,1)$ で稠密なので(Bre11 Corollary 4.23、p. 109)、$i(V)$ は稠密である。$\delta\in V^*$ を $\langle\delta,v\rangle:=v(0)$ で定める。$f\in L^2(0,1)$ と $0<\eta<1$ について、$g_\eta(x):=\max(0,1-x/\eta)$ は $\|g_\eta\|_\infty=1$、$g_\eta(0)=1$、$[\eta,1]$ の上で $0$ をみたすので、$\|\delta-jf\|_{V^*}\ge\langle\delta-jf,g_\eta\rangle=1-\int_0^\eta fg_\eta\,dx\ge1-\int_0^\eta|f|\,dx$ である。$f\in L^2(0,1)\subset L^1(0,1)$ なので、$\eta\to0$ のとき右辺は $1$ に近づく(優収束定理)。よって $\|\delta-jf\|_{V^*}\ge1$ がすべての $f\in L^2$ で成り立ち、$j(H)$ は $V^*$ で稠密でない。thm-gt-main の 4 により、$C([0,1])$ は反射的でない。
3 行目:$i$ は連続な全射だが単射でない。$i(V)=\mathbb{R}$ は稠密で、$j\colon\mathbb{R}\to V^*$ は $\langle jf,(x,y)\rangle=fx$ である。$(j\circ i)(0,1)$ は $(x,y)\mapsto0\cdot x=0$ なので、$(0,1)\ne0$ が $0$ に写る。このとき $V$ を $H$ の部分空間とみなすことはできない。
複素 Hilbert 空間では、Riesz の写像 $f\mapsto(\cdot,f)$ は共役線形である(Rieszの表現定理 の系「Hilbert 空間とその双対空間」の 2)。そこで、$V$ 上の連続な共役線形汎関数の空間 $\overline{V}^*$(反双対)を考え、$jf(v):=(f,iv)$ とおくと、$j\colon H\to\overline{V}^*$ は線形になる。この形で、thm-gt-main の 1・2・3・5 と prop-gt-incompatible は同じ証明で成り立つ(4 は、反双対と双対を複素共役で結べば同様に示せる)。$V^*$ のほうを使い、$j$ を共役線形写像として扱う流儀もある。この記事の主張と証明は、実数体上の場合に限って述べている。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する