有理関数体(rational function field)とは、体 $K$ 上の多項式環 $K[x]$ の商体 $K(x)$ のことで、多項式の分数 $f/g$ 全体に通常の分数の演算を入れた体である。多変数の多項式環の商体 $K(x_1,\dots,x_n)$ も同様に定める。$K(x)/K$ は超越的な元を 1 つ添加した単純拡大で、次数は無限である。既約分数表示・部分分数分解など整数と有理数に似た算術をもち、$K$ 上の自己同型は 1 次分数変換で $PGL_2(K)$ と同型である。$K$ と $K(x)$ の間の体は $K$ を除いて再び有理関数体である(Lüroth の定理)。標数 $p$ の $K$ に対する $K(x)$ は完全体でない体の基本例である。
本記事では環は単位元をもつ可換環とし、環準同型は単位元を単位元に送るものとする。$K$ を体とする。体上の 1 変数多項式環 $K[x]$ は整域である(多項式環 の記事の命題「次数の公式と整域性」)ので、その商体を作ることができる。
$K$ を体、$x$ を不定元とする。多項式環 $K[x]$ の商体
$$
K(x):=\operatorname{Frac}(K[x])=\left\{\frac{f}{g}\ \middle|\ f,g\in K[x],\ g\neq0\right\}
$$
を $K$ 上の(1 変数)有理関数体(rational function field)といい、その元を $K$ 係数の有理関数という。$f/g=f'/g'$ は $fg'=f'g$ を意味し、和と積は通常の分数の規則で定める。
より一般に、$n\ge1$ に対し $n$ 変数多項式環の商体
$$
K(x_1,\dots,x_n):=\operatorname{Frac}(K[x_1,\dots,x_n])
$$
を $K$ 上の $n$ 変数有理関数体という。任意の集合 $\Lambda$ を添字とする不定元 $x_\lambda$($\lambda\in\Lambda$)についても、多項式環 $K[x_\lambda\mid\lambda\in\Lambda]$ の商体として同様に定める。
商体の構成が正しく体を与えること(同値関係であること、演算が代表のとり方によらないこと)と、$K[x]\to K(x)$、$f\mapsto f/1$ が単射な環準同型であることは 商体 の記事の命題「商体の構成の正当性」で示されている。この単射によって $K\subset K[x]\subset K(x)$ とみなし、$K(x)/K$ を体の拡大と考える。
記号 $K(x)$ は、体の拡大 $L/K$ の元 $\alpha$ を添加した体 $K(\alpha)$ の記号と同じ形をしている。これは偶然ではない。$\alpha\in L$ が $K$ 上超越元($K$ 係数の $0$ でない多項式の根にならない元)ならば、$f/g\mapsto f(\alpha)g(\alpha)^{-1}$ は $K$ 上の体の同型 $K(x)\cong K(\alpha)$ を与える(体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」の 2)。すなわち有理関数体は、超越的な元を 1 つ添加した体の標準形である。
$0$ でない有理関数は、分子と分母が互いに素な形にただ一通りに書ける。証明では、$K[x]$ で $f,g$ の最大公約数 $d$ が $d=uf+vg$($u,v\in K[x]$)と書けること(多項式環 の記事の命題「最大公約多項式の特徴づけ」)を用いる。
$0$ でない $\varphi\in K(x)$ は、$f,g\in K[x]$ の最大公約数が $1$ で $g$ がモニック(最高次係数が $1$)であるような表示 $\varphi=f/g$ をただ一つもつ。
存在:$\varphi=f_0/g_0$($g_0\neq0$)と書き、$f_0,g_0$ のモニックな最大公約数を $d$ とする。$f_0=df_1$、$g_0=dg_1$ とおくと $f_0/g_0=f_1/g_1$($f_0g_1=df_1g_1=f_1g_0$)であり、$f_1,g_1$ の最大公約数は $1$ である(公約元 $e$ があれば $de$ が $f_0,g_0$ の公約元になり、$d$ の最大性から $e$ は定数)。$g_1$ の最高次係数を $c$ として $f=f_1/c$、$g=g_1/c$ とすればよい。
一意性:$f/g=f'/g'$ がともに条件を満たすとする。$fg'=f'g$ である。$f,g$ の最大公約数は $1$ なので $uf+vg=1$ となる $u,v\in K[x]$ があり、
$$
g'=ufg'+vgg'=uf'g+vgg'=g(uf'+vg')
$$
だから $g\mid g'$ である。対称に $g'\mid g$ なので $g'=cg$($c\in K^\times$)であり、ともにモニックだから $c=1$、$g=g'$ である。すると $fg=f'g$ で $g\neq0$、$K[x]$ は整域なので $f=f'$ である。$\square$
この表示を用いて、$0$ でない $\varphi=f/g$ の次数を $\deg\varphi:=\deg f-\deg g\in\mathbb{Z}$ と定める。表示によらないことは、$fg'=f'g$ の両辺の次数を比べて $\deg f+\deg g'=\deg f'+\deg g$ となることから分かる。$\deg(\varphi\psi)=\deg\varphi+\deg\psi$ であり、$\varphi+\psi\neq0$ なら $\deg(\varphi+\psi)\le\max(\deg\varphi,\deg\psi)$ である($f/g+f'/g'=(fg'+f'g)/(gg')$ の分子の次数を見ればよい)。
有理関数体は「分数式」全体のなす体であり、有理数体 $\mathbb{Q}$ が整数環 $\mathbb{Z}$ の分数から作られるのと同じ手続きで、多項式の分数から作られる。$\mathbb{Z}$ と $K[x]$ はどちらも割り算の余りを小さくできる環であり、既約分数表示や素因数分解の類似が成り立つので、$\mathbb{Q}$ と $K(x)$ はよく似た算術をもつ。部分分数分解は、分母を素因子の冪に分けて分数を書き直すという、$\mathbb{Q}$ でも成り立つ操作の多項式版である。
幾何学的には、$K(x)$ は射影直線 $\mathbb{P}^1$ 上の有理関数全体であり、$f/g$ は $g$ の根で極をもつ「関数」とみなせる。ただし係数体が有限体のときは、形式的な分数と点での値のとり方が一致しないので、代数学では有理関数を関数ではなく形式的な分数として扱う。$K(x)$ は $K$ に超越的な元を 1 つ添加した体であるため $K$ 上無限次の拡大であるが、$K$ と $K(x)$ の間の体は、$K$ 自身を除けばすべて再び有理関数体であり(Lüroth の定理)、しかも $K(x)$ はそれらの上では有限次になる。
$\mathbb{Q}(x)$ において $\dfrac{x^2-1}{x^2-x}=\dfrac{(x-1)(x+1)}{x(x-1)}=\dfrac{x+1}{x}$ であり、右辺が既約分数表示である。この元の次数は $1-1=0$ である。$\dfrac{1}{x}$ の次数は $-1$、$0$ でない定数の次数は $0$ である。
$p$ を素数、$K$ を標数 $p$ の体とする。$x$ は $K(x)$ の中に $p$ 乗根をもたない。実際 $x=(f/g)^p$($f,g\in K[x]$、$g\neq0$)とすると $xg^p=f^p$ であり、左辺の次数 $1+p\deg g$ と右辺の次数 $p\deg f$ は $p$ で割った余りが異なる。したがって Frobenius 準同型(Frobenius写像)$\varphi\mapsto\varphi^p$ は $K(x)$ の上で全射でなく、$K(x)$ は完全体でない。$K=\mathbb{F}_p$ の場合が 完全体 の記事の例「反例:有理関数体と $x^p-t$」であり、上の次数の議論は $K$ が完全かどうかによらない。
このため $K(x)$ の上では、$y^p-x\in K(x)[y]$ が既約であるのに、$x$ の $p$ 乗根 $w$ を添加した体では $y^p-x=(y-w)^p$ と 1 つの根を $p$ 重にもつ(既約性は 完全体 の記事の定理「完全体の特徴づけ」の証明の 2 ⇒ 1 の議論による)。この拡大は分離拡大でない拡大の典型例である。
$K=\mathbb{F}_p$ とする。多項式 $x^p$ と $x$ は $K(x)$ の異なる元であるが、Fermatの小定理によりすべての $a\in\mathbb{F}_p$ で $a^p=a$ となるので、点での値はすべて一致する。さらに $1/(x^p-x)$ は $K(x)$ の $0$ でない元であるが、分母が $\mathbb{F}_p$ のすべての点で $0$ になるので、$\mathbb{F}_p$ のどの点でも値をもたない。この例は「有理関数体の元」を満たすが「係数体の点での値によって定まる」を満たさず、含意「有理関数は値のとり方で区別できる」を破る。$K$ が無限体なら、$0$ でない多項式は $K$ のある点で $0$ でない値をとる(多項式環 の記事の定理「無限体上の多項式の非零点」)ので、この現象は起こらない。
後の thm-rational-function-field-partial-fractions の分解を具体的に書く。$\mathbb{Q}(x)$ では
$$
\frac{1}{x^2-1}=\frac{1/2}{x-1}-\frac{1/2}{x+1},\qquad \frac{x}{(x-1)^2}=\frac{1}{x-1}+\frac{1}{(x-1)^2}
$$
である(右辺を通分すれば確かめられる)。分母の分解は係数体に依存する。$\mathbb{R}(x)$ では $x^2+1$ が既約なので
$$
\frac{1}{x^3+x}=\frac{1}{x}-\frac{x}{x^2+1}
$$
が分解であり、分子 $x$ の次数は分母の既約因子 $x^2+1$ の次数 $2$ より小さい。$\mathbb{C}(x)$ では $x^2+1=(x-i)(x+i)$ となるので、さらに $\dfrac{x}{x^2+1}=\dfrac{1/2}{x-i}+\dfrac{1/2}{x+i}$ と分かれる。
$n\ge2$ とし、$F:=K(x_1,\dots,x_{n-1})$ とおく。包含 $K[x_1,\dots,x_n]=K[x_1,\dots,x_{n-1}][x_n]\subset F[x_n]$ は体の同型
$$
K(x_1,\dots,x_n)\cong F(x_n)
$$
を引き起こす。したがって $n$ 変数有理関数体は、有理関数体を作る操作を $n$ 回繰り返して得られる。
$A:=K[x_1,\dots,x_{n-1}]$ とおくと $F=\operatorname{Frac}(A)$ であり、$A[x_n]=K[x_1,\dots,x_n]$ である(多項式環 の記事の定義「多変数の多項式環」)。$A\subset F$ から $A[x_n]\subset F[x_n]\subset F(x_n)$ であり、この包含 $j\colon A[x_n]\to F(x_n)$ は単射な環準同型である。
$F(x_n)$ の任意の元が $j(P)j(Q)^{-1}$($P,Q\in A[x_n]$、$Q\neq0$)の形に書けることを示す。$F(x_n)$ の元は $R/S$($R,S\in F[x_n]$、$S\neq0$)と書ける。$R$ と $S$ の係数は有限個の $F$ の元なので、それらの分母の積 $d\in A\setminus\{0\}$ をとれば $dR$ と $dS$ はともに $A[x_n]$ に属し、$R/S=(dR)/(dS)$ である。$dS\neq0$ である。
商体 の記事の系「整域を含む最小の体」の 3 により、$j$ は同型 $\operatorname{Frac}(A[x_n])\cong F(x_n)$ に延長される。左辺は $K(x_1,\dots,x_n)$ である。$\square$
$K(x_1,\dots,x_n)/K$ の超越次数は $n$ であり、特に $K(x_1,\dots,x_n)$ と $K(y_1,\dots,y_m)$ が $K$ 上同型であることと $n=m$ は同値である(Lan02 Chapter VIII §1)。$K(x_1,\dots,x_n)$ の形の拡大を純超越拡大という。
$K(x)$ の元 $u$ を 1 つとり、$K$ と $u$ で生成される部分体 $K(u)$ を考える。次の命題は、$K(x)$ が $K(u)$ の上では有限次であり、その次数が分子・分母の次数で決まることを述べる。$u=x^n$ の場合は 拡大次数 の記事の命題「有理関数体の冪による部分体上の次数」で示されており、次の命題はその一般化である。
$u\in K(x)\setminus K$ とし、$u=f/g$ を既約分数表示(prop-rational-function-field-reduced)、$n:=\max(\deg f,\deg g)$ とする。このとき次が成り立つ。
$f=\sum_ia_iy^i$、$g=\sum_ib_iy^i$ と書くと、$P(y)=\sum_i(a_i-ub_i)y^i$ である。$i\le n$ のうち $a_i,b_i$ の少なくとも一方が $0$ でないものについて $a_i-ub_i\neq0$ である。実際、$b_i\neq0$ なら $a_i-ub_i=0$ は $u=a_i/b_i\in K$ を意味し、$b_i=0$ なら $a_i-ub_i=a_i\neq0$ である。特に $y^n$ の係数は $0$ でなく、$P$ は $y$ について $n$ 次である。また $P(x)=f(x)-(f/g)g(x)=f-f=0$ なので、$x$ は $P$ の根である。$u\notin K$ から $f,g$ の少なくとも一方は定数でなく、$n\ge1$ である。
1:$x$ は $K(u)$ 係数の $0$ でない多項式 $P$ の根なので $K(u)$ 上代数的であり、$K(x)=K(u)(x)$ だから $[K(x):K(u)]\le n$ である(体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」)。もし $u$ が $K$ 上代数的なら $[K(u):K]<\infty$ であり、次数の乗法性(体の拡大 の記事の定理「拡大次数の乗法性」)により $[K(x):K]<\infty$ となるが、これは ex-rational-function-field-transcendental に反する。よって $u$ は超越的である。
2:1 により、$T\mapsto u$ は多項式環の同型 $K[T]\cong K[u]$ を与える。これにより $P$ を 2 変数多項式 $\Phi(T,y):=f(y)-Tg(y)\in K[T][y]=K[y][T]$ に対応させる(変数の順序は 多項式環 の記事の系「多変数の普遍性と変数の順序」により入れ替えてよい)。$\Phi$ が $K[T,y]$ の既約元であることを示す。$\Phi$ は $y$ について $n\ge1$ 次なので $0$ でも単元でもない。$\Phi=AB$ と分解したとする。$K[y][T]$ で $T$ についての次数を比べると $\deg_TA+\deg_TB=\deg_T\Phi=1$($g\neq0$ による)なので、たとえば $\deg_TA=0$、すなわち $A\in K[y]$ である。$B=B_0+B_1T$($B_0,B_1\in K[y]$)と書いて係数を比べると $f=AB_0$、$-g=AB_1$ なので、$A$ は $f$ と $g$ の公約元であり、$f,g$ の最大公約数が $1$ だから $A$ は $0$ でない定数、すなわち単元である。よって $\Phi$ は既約元である。
$K[T]$ は一意分解整域であり(多項式環 の記事の定理「体上の一意分解」)、その商体は $K(T)$ である。$\Phi$ は $y$ について正の次数をもつ $K[T][y]$ の既約元なので、多項式環 の記事の命題「既約性の商体への遺伝」により $K(T)[y]$ で既約である。同型 $K(T)\cong K(u)$ で送れば、$P$ は $K(u)[y]$ で既約である。
3:2 により、$P$ を最高次係数で割ったものは $x$ の $K(u)$ 上の最小多項式であり、$[K(x):K(u)]=[K(u)(x):K(u)]=\deg P=n$ である。$\square$
1 から、$K(x)$ の元で $K$ 上代数的なものは $K$ の元だけである($K$ は $K(x)$ の中で代数的に閉じている)。たとえば $u=x^2+x^{-2}=(x^4+1)/x^2$ なら $[K(x):K(u)]=4$ であり、$u=(x^3+1)/x$ なら $[K(x):K(u)]=3$ である。
$K$ 上の体の自己同型 $\sigma\colon K(x)\to K(x)$($K$ の元を動かさないもの)は、
$$
\sigma(x)=\frac{ax+b}{cx+d}\qquad(a,b,c,d\in K,\ ad-bc\neq0)
$$
の形の元 $\sigma(x)$ で一意に定まり、逆にこの形の元はすべて $K$ 上の自己同型を定める。可逆な行列 $M=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ に対し、$x$ を $\dfrac{ax+b}{cx+d}$ に送る自己同型を $\sigma_M$ とおくと、$M\mapsto\sigma_{M^{-1}}$ は一般線形群 $GL_2(K)$ から $\operatorname{Aut}(K(x)/K)$ への全射な群準同型で、核はスカラー行列 $K^\times I$ である。したがって
$$
\operatorname{Aut}(K(x)/K)\cong PGL_2(K):=GL_2(K)/K^\times I
$$
である(射影一般線形群)。
$u\in K(x)\setminus K$ とする。prop-rational-function-field-degree の 1 により $u$ は超越的なので、体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」の 2 により、$h\mapsto h(u)$(有理関数の $x$ に $u$ を代入する写像)は $K$ 上の体の単射準同型 $\sigma\colon K(x)\to K(x)$ を与え、その像は $K(u)$ である。$K$ 上の準同型は $x$ の像で決まる($f/g$ の像は $f(\sigma(x))/g(\sigma(x))$ である)。また $\sigma(x)\in K$ となる $K$ 上の準同型は存在しない($x-\sigma(x)\neq0$ が $0$ に送られ、単射性に反する)。
したがって $K$ 上の自己同型は、$u\in K(x)\setminus K$ で $K(u)=K(x)$、すなわち $[K(x):K(u)]=1$ となるものと一対一に対応する。prop-rational-function-field-degree の 3 により、これは既約分数表示 $u=f/g$ で $\max(\deg f,\deg g)=1$ となることと同値である。
この条件が $u=(ax+b)/(cx+d)$、$ad-bc\neq0$ と同値であることを示す。$\max(\deg f,\deg g)=1$ なら $f=ax+b$、$g=cx+d$ と書け、$ad-bc=0$ とすると $(a,b)$ と $(c,d)$ が比例する(どちらも $0$ でない)ので、$f$ と $g$ は定数倍の関係にあり、$u\in K$ となるか、$f,g$ が 1 次の公約元をもつことになって矛盾する。逆に $ad-bc\neq0$ なら、$ax+b$ と $cx+d$ は比例しないので $u\notin K$ であり、1 次の公約元をもたないので(もつなら両者は比例する)最大公約数は $1$ で、$\max(\deg f,\deg g)=1$ である。
群の構造について:$M\cdot x:=\sigma_M(x)=(ax+b)/(cx+d)$ と書くと、$\sigma_M\sigma_N(x)=\sigma_M\bigl(N\cdot x\bigr)$ は $N\cdot x$ の $x$ に $M\cdot x$ を代入したものであり、1 次分数式の合成の計算により $(NM)\cdot x$ に等しい。よって $\sigma_M\sigma_N=\sigma_{NM}$ であり、$M\mapsto\sigma_{M^{-1}}$ は群準同型である($\sigma_{M^{-1}}\sigma_{N^{-1}}=\sigma_{N^{-1}M^{-1}}=\sigma_{(MN)^{-1}}$)。全射であることは上で示した。核について、$\sigma_M=\mathrm{id}$ は $(ax+b)/(cx+d)=x$、すなわち $ax+b=cx^2+dx$ を意味し、係数を比べて $c=0$、$b=0$、$a=d$ となる。よって核はスカラー行列の全体である。$\square$
たとえば $K=\mathbb{F}_2$ なら $|GL_2(\mathbb{F}_2)|=6$ でスカラー行列は単位行列だけなので、$\mathbb{F}_2(x)$ の自己同型群は位数 $6$ の群($x\mapsto x,\ x+1,\ 1/x,\ 1/(x+1),\ x/(x+1),\ (x+1)/x$)である。
$f,g\in K[x]$、$g\neq0$ はモニックとし、$g=p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$ を相異なるモニックな既約多項式 $p_i$ への分解($e_i\ge1$)とする。このとき
$$
\frac{f}{g}=h+\sum_{i=1}^{r}\sum_{j=1}^{e_i}\frac{a_{ij}}{p_i^{\,j}}\qquad(h\in K[x],\ a_{ij}\in K[x],\ \deg a_{ij}<\deg p_i)
$$
を満たす $h$ と $a_{ij}$ がただ一組存在する。特に $\deg f<\deg g$ なら $h=0$ である。
分解 $g=p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$ の存在は、体上の多項式環での一意分解(多項式環 の記事の定理「体上の一意分解」)による。
存在、第 1 段:$q_i:=p_i^{e_i}$ とおき、$1/g=\sum_ib_i/q_i$ となる $b_i\in K[x]$ があることを $r$ についての帰納法で示す。$r=0$ なら $g=1$ で $h=f$ とすればよい。$r=1$ なら $b_1=1$ でよい。$r\ge2$ のとき $Q:=q_2\cdots q_r$ とおくと、$q_1$ と $Q$ の最大公約数は $1$ である(共通の既約因子は $p_1$ でなければならないが、$p_1$ は相異なる既約多項式 $p_2,\dots,p_r$ のどれも割り切らないので $Q$ を割り切らない。多項式環 の記事の命題「既約多項式に関する Euclid の補題」)。よって $sq_1+tQ=1$ となる $s,t\in K[x]$ があり、両辺を $g=q_1Q$ で割ると $1/g=t/q_1+s/Q$ である。$s/Q$ に帰納法の仮定を用いればよい。すると $f/g=\sum_ifb_i/p_i^{e_i}$ である。
存在、第 2 段:$c\in K[x]$、$p$ を定数でない多項式、$e\ge1$ とする。$c$ を $p$ で割り、商をさらに $p$ で割ることを繰り返すと、$c=c_0+c_1p+\dots+c_mp^m$($\deg c_k<\deg p$)と書ける($p$ 進展開)。よって
$$
\frac{c}{p^e}=\sum_{k< e}\frac{c_k}{p^{e-k}}+\sum_{k\ge e}c_kp^{k-e}
$$
であり、第 1 の和は $j=e-k\in\{1,\dots,e\}$ についての $c_k/p^j$ の和、第 2 の和は多項式である。これを第 1 段の各項 $fb_i/p_i^{e_i}$ に適用し、多項式の部分をまとめて $h$ とすれば存在が示される。
一意性:2 つの表示の差をとると、$\deg a_{ij}<\deg p_i$ を満たす $a_{ij}$ と $h\in K[x]$ によって $h+\sum_{i,j}a_{ij}/p_i^j=0$ となる。すべての $a_{ij}$ が $0$ であることを示せば $h=0$ も従う。ある $a_{ij}\neq0$ があるとし、そのような $i$ を 1 つ固定し、$a_{ij}\neq0$ となる最大の $j$ を $j_0$ とする。$D:=\prod_{i'\neq i}p_{i'}^{e_{i'}}$ とおき、等式の両辺に $Dp_i^{j_0}$ を掛けると
$$
Da_{ij_0}+p_i\sum_{j< j_0}Da_{ij}p_i^{\,j_0-j-1}+p_i^{\,j_0}\Bigl(Dh+\sum_{i'\neq i}\sum_jDa_{i'j}p_{i'}^{-j}\Bigr)=0
$$
となり、各項は多項式である($j\le e_{i'}$ なので $Dp_{i'}^{-j}\in K[x]$)。よって $p_i\mid Da_{ij_0}$ である。$p_i$ は既約で $D$ を割り切らないので、Euclid の補題により $p_i\mid a_{ij_0}$ となるが、$0\le\deg a_{ij_0}<\deg p_i$ なのでこれは $a_{ij_0}=0$ を意味し、矛盾する。
最後の主張:$\deg f<\deg g$ なら、$h=f/g-\sum_{i,j}a_{ij}/p_i^j$ の右辺の各項は $0$ か負の次数をもつので、定義の直後に述べた次数の不等式により、$h$ は $0$ であるか負の次数をもつ。多項式で負の次数をもつものはないので $h=0$ である。$\square$
$K=\mathbb{C}$ なら既約多項式は 1 次式だけなので(代数学の基本定理)、$a_{ij}$ は定数になる。$K=\mathbb{R}$ なら既約多項式は 1 次式と判別式が負の 2 次式なので、$a_{ij}$ は定数か 1 次式である。これが実係数の有理関数の不定積分を初等関数で計算する方法の基礎である。一般の体上の部分分数分解は Lan02 Chapter IV §5 にある。
$K\subsetneq M\subset K(x)$ を満たす中間体 $M$ に対して、$K(x)/M$ は常に有限次である(prop-rational-function-field-degree)。実際、$u\in M\setminus K$ をとれば $K(u)\subset M$ であり、$[K(x):M]\le[K(x):K(u)]<\infty$ である。次の定理は、このような $M$ がそれ自身有理関数体であることを述べる。
$K$ を体とし、$M$ を $K\subsetneq M\subset K(x)$ を満たす体とする。このとき $M=K(u)$ となる $u\in K(x)\setminus K$ が存在する。特に $M$ は $K$ 上の 1 変数有理関数体と同型である。
証明は Jac09 §8.14 に譲る。証明の筋は次のとおりである。$x$ の $M$ 上の最小多項式を $m(y)=y^n+c_{n-1}y^{n-1}+\dots+c_0$($c_k\in M$、$n=[K(x):M]$)とすると、$c_k$ のうち $K$ に属さないものが少なくとも 1 つある(すべて $K$ に属せば $x$ が $K$ 上代数的になる)。そのような $c_k$ を 1 つ選んで $u$ とおくと $K(u)\subset M$ であり、$[K(x):K(u)]$ を prop-rational-function-field-degree で計算して $n$ 以下であることを示すと、$[K(x):K(u)]=[K(x):M]$ から $M=K(u)$ が従う。
定理の仮定 $K\subsetneq M$ は、$M=K$ を除くためだけのものであり、生成元 $u$ は一意ではない($u$ を 1 次分数変換 $(au+b)/(cu+d)$、$ad-bc\neq0$ で置き換えてもよい)。幾何学的には、この定理は「射影直線から支配的な有理写像を受ける代数曲線は有理曲線である」ことを意味する。
たとえば $K$ の標数が $2$ でないとし、$\tau$ を $x\mapsto-x$ で定まる $K(x)$ の $K$ 上の自己同型とする(cor-rational-function-field-automorphisms の $a=-1$、$b=c=0$、$d=1$ の場合)。$\tau$ で動かない元のなす部分体 $M$(固定体)は $x^2$ を含み、Galois拡大 の記事の定理「Artinの定理」により $[K(x):M]=|\{\mathrm{id},\tau\}|=2$ である。一方 prop-rational-function-field-degree により $[K(x):K(x^2)]=2$ であり、$K(x^2)\subset M$ なので $M=K(x^2)$ となる。Lüroth の定理の生成元がここでは $u=x^2$ と具体的に求まる。
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