準コンパクト

同義語:準コンパクト空間quasi-compact

概要

準コンパクト(quasi-compact)とは、任意の開被覆から有限部分被覆を選べることである。アフィンスキームは常に準コンパクトで、一般のスキームでは有限アフィン開被覆をもつことと同値になる。射に対しては底の準コンパクトな開集合の逆像が準コンパクトであることを意味し、アフィン開集合の逆像だけで判定できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 位相空間, コンパクト空間, アフィンスキーム

有限個で覆えるという条件

無限個の開集合を使って空間を覆えたとき、その中の有限個だけで覆い直せるか。この条件を、代数幾何学では準コンパクト(quasi-compact)という。条件自体には点を開集合で分離できるという仮定はない。したがって、Zariski 位相を備えたスキームにもそのまま適用できる。スキームは小さなアフィン開集合の近くでは必ず準コンパクトだが、全体が準コンパクトとは限らない。

準コンパクト空間

位相空間 $X$ が準コンパクトであるとは、任意の開被覆 $X=\bigcup_{i\in I}U_i$ に対して有限個の添字 $i_1,\ldots,i_n$ を選び、$X=U_{i_1}\cup\cdots\cup U_{i_n}$ とできることをいう。空間の空集合も準コンパクトである。

定義は コンパクト空間 の記事で使う「コンパクト」と同じ有限部分被覆の条件である。文献によっては Hausdorff 性を加えた空間だけを「コンパクト」と呼ぶ。代数幾何学では Hausdorff でない空間が頻出するため、この条件を明確に指す「準コンパクト」を使う(Stacks Tag 0059)。二つの語が異なる位相的性質を表すわけではなく、どこに Hausdorff 性を含めるかという用語の約束が異なる。
任意の位相空間について、準コンパクト性は次の閉集合による条件と同値である。閉集合の族 $\{F_i\}_{i\in I}$ が「有限交叉性」をもつとは、有限個を選ぶたびにその共通部分が空でないことをいう。

閉集合による判定

$X$ が準コンパクトであることと、有限交叉性をもつ $X$ の任意の閉集合族について $\bigcap_{i\in I}F_i\ne\emptyset$ であることは同値である。

$X$ が準コンパクトで、閉集合族の共通部分が空だとする。補集合 $X\setminus F_i$ は $X$ の開被覆だから、有限部分被覆がある。その添字に対応する有限個の $F_i$ の共通部分は空になり、有限交叉性に矛盾する。逆に $X$ の開被覆 $\{U_i\}_{i\in I}$ に有限部分被覆がないとする。任意の有限個の $X\setminus U_i$ は共通部分が空でないが、族全体の共通部分は空である。閉集合についての条件に矛盾する。$\square$

この判定は開集合の話を閉集合の交わりに直す道具である。特に閉部分空間や連続像が準コンパクトになることも、有限部分被覆を直接引き戻せば分かる。以下では、一般の位相空間の性質をスキームで計算できる形に変える。

アフィンスキームは準コンパクト

$A$ を可換環とする。$\operatorname{Spec}A$ の基本開集合は $D(f)=\{\mathfrak p\in\operatorname{Spec}A\mid f\notin\mathfrak p\}$ であり、基本開集合が位相の基底をなす(アフィンスキーム)。この基底のおかげで、任意の開被覆を環の有限個の元についての等式に帰着できる。

アフィンスキームの準コンパクト性

任意の可換環 $A$ について $\operatorname{Spec}A$ は準コンパクトである。とくに基本開集合 $D(f)$ も準コンパクトである。

まず基本開集合による被覆 $\operatorname{Spec}A=\bigcup_{i\in I}D(f_i)$ を考える。どの素イデアルもすべての $f_i$ を含むことはないから、イデアル $(f_i\mid i\in I)$ は真でない。したがって $1$ はこのイデアルに入り、ある有限個の $f_{i_1},\ldots,f_{i_n}$ と $a_1,\ldots,a_n\in A$ について $1=\sum_{j=1}^n a_jf_{i_j}$ と書ける。これらの元をすべて含む素イデアルはないので、$D(f_{i_1}),\ldots,D(f_{i_n})$ が有限部分被覆をなす。任意の開被覆については、各点を含み、元の被覆の一つの開集合に入る基本開集合を選んで細分する。いま示した有限部分被覆を元の被覆へ戻せばよい。最後に $D(f)\cong\operatorname{Spec}A_f$ だから、同じ結論が基本開集合にも適用できる。$\square$

証明の核心は「被覆する」ことが $(f_i\mid i\in I)=A$ と同じことである。環のイデアルは無限個の生成元で記されても、$1$ を表す等式には有限個の元しか現れない。この有限性が、Noether 環でない場合にもアフィンスキームを準コンパクトにする(Stacks Tag 00E8)。

Hausdorff でない準コンパクト空間

体 $k$ について $X=\operatorname{Spec}k[t]$ は準コンパクトである。一方、$\eta=(0)$ は $X$ の生成点であり、$\eta$ を含まない非空の開集合はない。実際、非空の基本開集合 $D(f)$ では $f\ne0$ なので $\eta\in D(f)$ である。したがって $\eta$ と閉点 $(t)$ は互いに交わらない開近傍で分離できず、$X$ は Hausdorff でない。「準コンパクト」が必要になる典型例である。

スキームの有限アフィン被覆

スキームとはアフィンスキームで局所的に覆える空間である。アフィン開集合は準コンパクトだから、すべてのスキームは局所準コンパクトである。全体の準コンパクト性を判定するときは、定義に現れる任意の開被覆をすべて調べる必要はない。

有限アフィン被覆による判定

スキーム $X$ について、次は同値である。

  1. $X$ は準コンパクトである。
  2. $X$ は有限個のアフィン開集合で覆える。

$X$ は定義によりアフィン開集合の被覆をもつ。$X$ が準コンパクトなら、その被覆から有限個を選べる。逆に $X$ が有限個のアフィン開集合 $U_1,\ldots,U_n$ の和なら、各 $U_i$ は前命題で準コンパクトである。有限個の準コンパクト部分空間の和は準コンパクトである。実際、$X$ の任意の開被覆を各 $U_i$ に制限して有限部分被覆を選び、その有限個をすべて合わせれば $X$ を覆う。$\square$

この判定は「有限個のアフィン開集合が存在する」という主張である。選んだ一つのアフィン被覆が無限であっても、それだけで非準コンパクトとはいえない。逆に、無限個のアフィンスキームの直和 $X=\coprod_{n\ge1}\operatorname{Spec}k$ は各成分が開集合であり、成分全体による被覆から有限部分被覆を選べない。各点はアフィンな近傍をもつので、これは局所準コンパクトだが全体では準コンパクトでないスキームの例である。
一般の位相空間でも、準コンパクト空間の閉部分空間と連続像は準コンパクトになる。前者では閉部分空間 $Z$ の開被覆に $X\setminus Z$ を加えて $X$ を覆う。後者では像の開被覆を写像で引き戻す。この二つの事実を使うと、閉部分スキームや準コンパクトなスキームの射による像について有限性を直ちに言える。ただし、開部分空間には同じ結論を適用できない。

開部分は準コンパクトとは限らない

$A=k[x_1,x_2,x_3,\ldots]$ を可算無限個の変数の多項式環とし、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。$X$ はアフィンスキームなので準コンパクトである。しかし
$$ U=\bigcup_{i\ge1}D(x_i)=X\setminus V(x_1,x_2,\ldots) $$
は準コンパクトでない。この表示自体が $U$ の開被覆である。有限個の添字からなる集合 $F$ を任意に選び、$j\notin F$ とする。$\mathfrak p=(x_i\mid i\in F)$ は素イデアルで、$x_i\in\mathfrak p$($i\in F$)かつ $x_j\notin\mathfrak p$ だから、$\mathfrak p\in U$ だが $\mathfrak p\notin\bigcup_{i\in F}D(x_i)$ である。どの有限個の $D(x_i)$ も $U$ を覆えない。したがって開埋め込み $U\hookrightarrow X$ についても、準コンパクト性を別に確かめる必要がある。

反例で使った $A$ は Noether 環でない。一方、Noether 位相空間では任意の開部分空間が準コンパクトである。たとえば Noether 環 $A$ のスペクトルは Noether 位相空間なので、そこでは開部分スキームにも有限アフィン被覆がある。アフィンスキーム一般についてこの結論を使ってはいけない。
アフィンスキームの開部分については、準コンパクト性を方程式の有限性として読み替えられる。イデアル $I\subset A$ に対し $D(I)=\operatorname{Spec}A\setminus V(I)=\bigcup_{f\in I}D(f)$ と書く。

アフィン開部分の有限表示

$U\subset\operatorname{Spec}A$ を開集合とする。次は同値である。

  1. $U$ は準コンパクトである。
  2. $U=D(f_1)\cup\cdots\cup D(f_n)$ となる有限個の $f_j\in A$ がある。
  3. 有限生成イデアル $J\subset A$ を使って $U=D(J)$ と書ける。

基本開集合は位相の基底なので、$U$ はそれらの和として書ける。$U$ が準コンパクトなら、この被覆から有限個を選べるので 2 が従う。2 なら $J=(f_1,\ldots,f_n)$ と置けば $D(J)=\bigcup_jD(f_j)=U$ であり 3 が従う。3 なら $J$ の有限個の生成元を使って 2 に戻せる。最後に各 $D(f_j)$ は準コンパクトだから、2 の有限和 $U$ も準コンパクトである。$\square$

たとえば $U=\operatorname{Spec}A\setminus V(I)$ の表示が与えられているとき、$U$ が準コンパクトであることは、ある有限生成イデアル $J$ について $V(I)=V(J)$ となることと同値である。ここで $I$ 自身が有限生成である必要はない。閉集合はイデアルの根基だけで決まるからである。先の無限変数の例では $I=(x_1,x_2,\ldots)$ に対し、その閉集合を定める有限生成イデアル $J$ は存在しない。

Noether 位相空間の開集合

閉集合の降鎖条件を満たす位相空間 $X$ の任意の開集合 $U$ は準コンパクトである。

閉集合の降鎖条件を補集合で言い換えると、開集合の真の増加列は無限に続かない。$U$ の開被覆 $\{U_i\}_{i\in I}$ をとり、その有限個の和全体からなる族を考える。この族に包含に関して極大な元 $V=U_{i_1}\cup\cdots\cup U_{i_n}$ がある。もし $U\setminus V$ に点 $x$ があれば、被覆のある $U_j$ が $x$ を含み、$V\subsetneq V\cup U_j$ となって極大性に反する。よって $V=U$ であり、有限部分被覆が得られた。$\square$

この命題の Noether 性は、準コンパクト性そのものより強い。$\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\ldots]$ は準コンパクトだが、上の開集合 $U$ は準コンパクトでないため Noether 位相空間ではない。局所性だけでも足りず、無限直和の例では各点の近くは一点のアフィンスキームである。これらは、何に対して「有限個」を要求しているかを見分ける例である。

準コンパクトな射

スキームの性質を底空間 $S$ に対して述べるときは、$X$ 全体が準コンパクトかどうかだけでは不十分である。射 $f:X\to S$ の下で、底の準コンパクトな開集合を引き戻した部分が準コンパクトかを調べる。

準コンパクトな写像と射

連続写像 $f:X\to Y$ が準コンパクトであるとは、$Y$ の任意の準コンパクトな開集合 $V$ について、逆像 $f^{-1}(V)$ が準コンパクトであることをいう。スキームの射も、その台の連続写像について同じ条件を満たすとき準コンパクトな射という。

ここで調べるのは準コンパクトな開集合の逆像である。任意の準コンパクトな部分集合の逆像を要求しているわけではない。また $X$ の準コンパクト性だけから、任意の $S$ への射が準コンパクトとはいえない。底の開部分 $V$ に制限した $f^{-1}(V)$ が準コンパクトになるかが相対的な問題である(Stacks Tag 0059, 01K2)。
スキームではアフィン開集合が開集合の基底をなし、それ自身が準コンパクトなので、射の条件はアフィン開集合だけで判定できる。実際、準コンパクトな開集合は有限個のアフィン開集合で覆える。

アフィン開集合で射を判定する

スキームの射 $f:X\to S$ について、次は同値である。

  1. $f$ は準コンパクトである。
  2. $S$ の任意のアフィン開集合 $V$ に対し、$f^{-1}(V)$ は準コンパクトである。

1 なら各アフィン開集合 $V$ は準コンパクトだから 2 が従う。逆に 2 を仮定し、$S$ の準コンパクトな開集合 $W$ をとる。$W$ の各点の周りに $W$ に含まれるアフィン開集合を選べる。$W$ の準コンパクト性から、その有限個 $V_1,\ldots,V_n$ が $W$ を覆う。よって $f^{-1}(W)=\bigcup_{j=1}^n f^{-1}(V_j)$ は、準コンパクトな部分空間の有限個の和であり準コンパクトである。$\square$

この命題の 2 は「任意のアフィン開集合」である。さらに、底 $S$ のある一つのアフィン開被覆 $\{V_i\}$ について各 $f^{-1}(V_i)$ が準コンパクトなら、それだけでも $f$ は準コンパクトである(Stacks Tag 01K2)。この最後の判定では、二つのアフィン開集合の共通部分が常に準コンパクトとは仮定しない。アフィン開集合の交わりが準コンパクトかは、別の性質である準分離性に関わる。

底が一点のとき

体 $k$ 上のスキームの構造射 $f:X\to\operatorname{Spec}k$ は、$X$ が準コンパクトであるとき、かつそのときに限り準コンパクトである。底の空でない開集合は $\operatorname{Spec}k$ 自身だけで、これは準コンパクトであり、その逆像は $X$ だからである。無限直和 $\coprod_{n\ge1}\operatorname{Spec}k$ から $\operatorname{Spec}k$ への射は準コンパクトでない。一方、アフィンスキームからの構造射は準コンパクトである。

開埋め込みの判定

$U\subset X$ を開部分スキームとする。開埋め込み $j:U\hookrightarrow X$ が準コンパクトであることは、$X$ の任意のアフィン開集合 $V$ に対して $U\cap V$ が準コンパクトであることに等しい。とくに $X$ がアフィンなら、$j$ が準コンパクトであることと $U$ が準コンパクトであることは同値である。先の $U=\bigcup_{i\ge1}D(x_i)\subset\operatorname{Spec}k[x_1,x_2,\ldots]$ は、準コンパクトでない開埋め込みの具体例にもなる。

射影射や固有射などで「準コンパクト」と述べるときも、定義の主体はこの相対的な性質である。固有射は有限型・分離的・普遍閉であり、有限型から準コンパクト性が従う(固有射)。準コンパクト性は点を分離する条件でも、像が閉になる条件でもない。射 $X\to S$ を扱うときは、まず底のアフィン開集合の逆像に有限アフィン被覆があるかを確認するとよい。

性質有限性を調べる対象スキームでの見方
$X$ の局所準コンパクト性各点の近傍アフィン開近傍があるので自動的に成立する
$X$ の準コンパクト性$X$ 全体有限アフィン開被覆の存在と同値
$f:X\to S$ の準コンパクト性底の準コンパクトな開集合の逆像各アフィン開集合 $V\subset S$ について $f^{-1}(V)$ を調べる
$X$ の Noether 性局所的な環の有限性と全体の有限性局所 Noether 性に準コンパクト性を加える

この表の上から三行は、同じ「準コンパクト」を点の近く、空間全体、射の逆像に使い分けたものである。射の性質から空間の性質を結論づけるには底の準コンパクト性が関わる。実際、$f$ と $S$ がともに準コンパクトなら、$S$ 自身が定義で許された開集合なので $X=f^{-1}(S)$ は準コンパクトになる。たとえば底が一点の例では一致するが、一般には $X$ を有限個で覆えることと、すべての $f^{-1}(V)$ を有限個で覆えることは別々に確認する。

関連項目

参考文献

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