Hopfの補題

同義語:Hopf's lemmaHopf lemmaHopfの境界点補題Hopf boundary point lemma

概要

Hopfの補題(Hopf's lemma)とは、係数が有界な 2 階の一様楕円型作用素 $L$ について $Lu\le0$ をみたす関数 $u$ が、領域の内部のどの値よりも真に大きい値を境界点 $x_0$ でとり、領域が $x_0$ で内側に球を含むとき、$x_0$ での外向きの法線方向の傾きが真に正になるという定理である。0 階の係数 $c$ については、$c\equiv0$、または $c\ge0$ かつ $u(x_0)\ge0$、または $u(x_0)=0$ のいずれかを仮定する。$c\equiv0$ で係数が連続な場合を E. Hopf が 1952 年に示した。強最大値原理の証明や、Neumann 問題の解が定数の差を除いて一意であることの証明に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 楕円型偏微分方程式, 偏微分, 調和関数

楕円型方程式の解が領域の境界のある点で最大値をとるとき、その点で解のグラフはどのように境界に触れるだろうか。1 変数で $u''\ge0$ をみたす関数(下に凸な関数)が区間の右端で最大値をとるなら、右端での傾きは $0$ 以上である。Hopf の補題は、多変数で係数が有界な一様楕円型の作用素についての不等式 $Lu\le0$ では、0 階の係数についての条件のもとで、最大値が内部の値より真に大きく、境界がその点で内側に球を含むなら、外向きの傾きが真に正になることを述べる。つまり、解は最大点で平らに境界に触れることができない。
この記事では、2 階の楕円型作用素について Hopf の補題を球の場合に証明し、内部球の条件をみたす領域に広げる。境界が $C^2$ 級なら内部球の条件が成り立つことも示す。応用として、Neumann 問題の解が定数の差を除いて一意であることを導く。内部の最大点を扱う強最大値原理(最大値原理(楕円型偏微分方程式))も、この補題から導かれる。最後に、内部球の条件・楕円性・0 階の係数の符号の仮定を外した反例を挙げる。

設定

以下、$\mathbb{R}^n$ の点を $x=(x_1,\dots,x_n)$ と書き、$\partial_i=\partial/\partial x_i$、関数はすべて実数値とする。開集合 $U\subset\mathbb{R}^n$ の上の関数 $a^{ij}=a^{ji},b^i,c$($1\le i,j\le n$)を係数とする非発散形の 2 階作用素
$$ Lu:=-\sum_{i,j=1}^na^{ij}\,\partial_i\partial_ju+\sum_{i=1}^nb^i\,\partial_iu+c\,u $$
を考える。これは 楕円型偏微分方程式 の定義「2 階の線形楕円型偏微分方程式」の非発散形と同じ符号の約束で、$L=-\Delta$ なら $Lu\le0$ は $\Delta u\ge0$($u$ が劣調和的であること)を意味する。2 階の項に負号を付けているので、最大値原理と Hopf の補題は $Lu\le0$ をみたす関数の最大値について述べることになる。

一様楕円型と有界な係数

集合 $S\subset U$ の上で、定数 $\theta>0$ があって
$$ \sum_{i,j=1}^na^{ij}(x)\,\xi_i\xi_j\ge\theta\,|\xi|^2\qquad(x\in S,\ \xi\in\mathbb{R}^n) $$
が成り立つとき、$L$ は $S$ の上で一様楕円型であるという。さらに $a^{ij},b^i,c$ がすべて $S$ の上で有界であるとき、$L$ は $S$ の上で一様楕円型で係数が有界であるという。

係数の連続性は仮定しない。証明で使うのは、上の不等式と係数の上界だけである。

内部球の条件

$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$x_0\in\partial\Omega$ とする。開球 $B=B(y,R)\subset\Omega$ で $x_0\in\partial B$(すなわち $|x_0-y|=R$)となるものがあるとき、$\Omega$ は $x_0$ で内部球の条件をみたすという。このとき単位ベクトル $\nu:=(x_0-y)/R$ を、球 $B$ の $x_0$ での外向き単位法線という。

単位ベクトル $\mu$ が $\mu\cdot\nu>0$ をみたせば、小さい $t>0$ について $x_0-t\mu\in B$ である。実際
$$ |x_0-t\mu-y|^2=R^2-2tR\,(\mu\cdot\nu)+t^2< R^2\qquad(0< t<2R\,\mu\cdot\nu) $$
である。$\mu=\nu$ がもっとも典型的な場合で、$x_0-t\nu$ は球の中心へ向かう線分である。

Hopf の補題

Hopfの補題(球の場合)

$B=B(y,R)$ を $\mathbb{R}^n$ の開球とし、$L$ は $B$ の上で一様楕円型で係数が有界であるとする。$u\in C^2(B)\cap C(\overline B)$ が $B$ で $Lu\le0$ をみたし、点 $x_0\in\partial B$ について
$$ u(x)< u(x_0)\qquad(x\in B) $$
であるとする。さらに次のいずれかを仮定する。

  1. $c\equiv0$ である。
  2. $B$ の上で $c\ge0$ であり、$u(x_0)\ge0$ である。
  3. $u(x_0)=0$ である($c$ の符号は問わない)。
    このとき $\nu:=(x_0-y)/R$ とすると、$\mu\cdot\nu>0$ をみたすすべての単位ベクトル $\mu$ について
    $$ \liminf_{t\downarrow0}\frac{u(x_0)-u(x_0-t\mu)}{t}>0 $$
    である。とくに、極限 $\partial_\mu u(x_0):=\lim_{t\downarrow0}\bigl(u(x_0)-u(x_0-t\mu)\bigr)/t$ が存在すれば $\partial_\mu u(x_0)>0$ であり、$u$ が $x_0$ の近傍で $C^1$ 級に延びていれば $\nabla u(x_0)\cdot\nu>0$ である。

$u$ は $x_0$ で $\overline B$ 上の最大値をとるので、差分商が $0$ 以上であることは仮定から明らかである。補題の内容は、それが $0$ に近づかないこと、すなわち $u$ が $x_0$ に 1 次の速さ以上で近づくことである。

円環の上の障壁関数と比べる

平行移動して $y=0$ としてよい。$r:=|x|$ と書き、円環 $A:=\{x\mid R/2<|x|< R\}$ を考える。
段 0(仮定 3 を仮定 2 に帰着する).仮定 3 の場合、$B$ の上で $u< u(x_0)=0$ である。$c^+:=\max(c,0)$、$c^-:=\max(-c,0)$ とし、$c$ を $c^+$ に替えた作用素を $L^+$ とすると、$L^+u=Lu+c^-u\le Lu\le0$ である($c^-\ge0$、$u<0$)。$L^+$ は $B$ の上で一様楕円型で係数が有界、0 階の係数は $c^+\ge0$ で、$u(x_0)=0\ge0$ なので、仮定 2 の場合に帰着する。仮定 1 は仮定 2 と同じく「$B$ の上で $c\ge0$ かつ $c\,u(x_0)\ge0$」をみたす。以下ではこの 2 つの性質だけを使う。
段 1(障壁関数).$\alpha>0$ について
$$ v(x):=e^{-\alpha r^2}-e^{-\alpha R^2} $$
とおく。$v$ は滑らかで、$|x|< R$ では $v>0$、$|x|=R$ では $v=0$、$|x|\le R$ では $v\le e^{-\alpha r^2}$ である。$\partial_iv=-2\alpha x_ie^{-\alpha r^2}$、$\partial_i\partial_jv=(4\alpha^2x_ix_j-2\alpha\delta_{ij})e^{-\alpha r^2}$ だから
$$ Lv=e^{-\alpha r^2}\Bigl(-4\alpha^2\sum_{i,j}a^{ij}x_ix_j+2\alpha\sum_ia^{ii}-2\alpha\sum_ib^ix_i\Bigr)+c\,v $$
である。$\Lambda:=\sup_B\max_{i,j}|a^{ij}|$、$\beta:=\sup_B|b|$($b=(b^1,\dots,b^n)$)、$\gamma:=\sup_Bc$ とおく。一様楕円性から $\sum a^{ij}x_ix_j\ge\theta r^2$、また $\sum a^{ii}\le n\Lambda$、$|\sum b^ix_i|\le\beta r$ であり、$c\ge0$ と $0\le v\le e^{-\alpha r^2}$ から $c\,v\le\gamma e^{-\alpha r^2}$ である。$A$ の上では $R/2< r< R$ なので
$$ Lv\le e^{-\alpha r^2}\bigl(-\alpha^2\theta R^2+2\alpha(n\Lambda+\beta R)+\gamma\bigr) $$
となる。右辺の括弧は $\alpha\to\infty$ で $-\infty$ に発散するので、$\alpha$ を十分大きくとって固定すれば、$A$ の上で $Lv<0$ である。
段 2(比較する関数).内側の球面 $S:=\{|x|=R/2\}$ は $B$ に含まれるコンパクト集合で、その上で $u< u(x_0)$ だから、$\delta:=\min_S\bigl(u(x_0)-u\bigr)>0$ である。$\varepsilon:=\delta$ とし、$\overline A$ の上で
$$ w:=u-u(x_0)+\varepsilon v $$
とおく。$S$ の上では $v<1$ なので $w<-\delta+\varepsilon=0$ である。外側の球面 $|x|=R$ の上では $v=0$ で、$u\le u(x_0)$($B$ で $u< u(x_0)$ と連続性による)なので $w\le0$ である。$A$ の中では、$c\,u(x_0)\ge0$ と段 1 から
$$ Lw=Lu-c\,u(x_0)+\varepsilon Lv<0 $$
である。
段 3($\overline A$ の上で $w\le0$).$\overline A$ はコンパクトなので $w$ は最大値をとる。最大値が正なら、それは $\partial A$ ではとられないので、内点 $x_1\in A$ でとられる。楕円型偏微分方程式 の補題「内部の最大点での符号」により $\nabla w(x_1)=0$、$\sum a^{ij}\partial_i\partial_jw(x_1)\le0$ なので、$Lw(x_1)\ge c(x_1)w(x_1)\ge0$ となり、$Lw<0$ に反する。よって $\overline A$ の上で $w\le0$ である。
段 4(法線方向の傾き).$\mu\cdot\nu>0$ とし、$\varphi(t):=v(x_0-t\mu)$ とおく。$|x_0-t\mu|\to R$($t\downarrow0$)と前節の計算から、十分小さい $t>0$ で $x_0-t\mu\in A$ なので、段 3 から $u(x_0)-u(x_0-t\mu)\ge\varepsilon\varphi(t)$ である。$\varphi(0)=0$ であり、
$$ \varphi'(0)=-\alpha e^{-\alpha R^2}\frac{d}{dt}\Big|_{t=0}|x_0-t\mu|^2=2\alpha e^{-\alpha R^2}\,x_0\cdot\mu=2\alpha R\,e^{-\alpha R^2}\,(\mu\cdot\nu)>0 $$
である。したがって
$$ \liminf_{t\downarrow0}\frac{u(x_0)-u(x_0-t\mu)}{t}\ge\varepsilon\,\varphi'(0)>0 $$
を得る。後半の主張はこの不等式から直ちに従う($C^1$ 級なら差分商は $\nabla u(x_0)\cdot\mu$ に収束し、$\mu=\nu$ とすればよい)。$\square$

段 3 で使ったのは、$Lw<0$ が狭義に成り立つことと、最大点で Hesse 行列が半負定値になることだけである。1 階の項 $b$ がどれだけ大きくても、$\alpha$ を大きくとれば 2 階の項 $-4\alpha^2\sum a^{ij}x_ix_j$ がそれを上回る。Hopf の論文は $c\equiv0$ で係数が連続な場合を扱い、$u$ が $C^2$ 級で $u\ge0$、$Lu\le0$(この記事とは 2 階の項の符号が逆の約束)で境界点での極限値が $0$ なら、その点で法線方向に内側へ測った傾き(差分商の下極限)が正であるか $u\equiv0$ であるかのどちらかであることを示している(Hop52 p. 791、Theorem)。これは下の rem-hl-minimum の $c\equiv0$ の場合にあたる。この障壁関数 $e^{-\alpha r^2}$ は Hopf が強最大値原理の証明で用いたもので、それを円環の上で使う着想を Hopf は D. Gilbarg に負うと記している(Hop52 p. 792、脚注 2)。
符号を逆にした形もよく使う。$-u$ に当てはめると次のようになる。

最小値の形

thm-hl-ball と同じ $B$、$L$ について、$u\in C^2(B)\cap C(\overline B)$ が $B$ で $Lu\ge0$、$u(x)>u(x_0)$($x\in B$)をみたし、$c\equiv0$、または「$c\ge0$ かつ $u(x_0)\le0$」、または $u(x_0)=0$ なら、$\mu\cdot\nu>0$ をみたす単位ベクトル $\mu$ について $\displaystyle\limsup_{t\downarrow0}\frac{u(x_0)-u(x_0-t\mu)}{t}<0$ である。$u$ が $C^1$ 級に延びていれば、外向きの法線微分 $\nabla u(x_0)\cdot\nu$ は負である。

球の上の放物面

$B=B(0,1)$、$L=-\Delta$、$u(x)=1-|x|^2$ とする。$Lu=2n\ge0$、$B$ の上で $u>0$、$|x|=1$ で $u=0$ なので、rem-hl-minimum の仮定が各境界点 $x_0$ でみたされる。実際 $\nabla u(x_0)\cdot\nu=-2x_0\cdot x_0=-2<0$ である。一方、$u(x)=(1-|x|^2)^2$ も $B$ で正、境界で $0$ だが、境界での法線微分は $0$ になる。このとき $\Delta u=-4n(1-|x|^2)+8|x|^2$ は $|x|=1$ の近くで正になるので、$-\Delta u\ge0$ が成り立たず、補題とは矛盾しない。

領域への拡張

球の場合から、内部球の条件をみたす境界点に移る。$u$ は境界点 $x_0$ でだけ連続であればよい。

Hopfの補題(領域の場合)

$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を開集合とし、$x_0\in\partial\Omega$ で $\Omega$ が内部球の条件をみたすとする。その球を $B=B(y,R)\subset\Omega$、外向き単位法線を $\nu$ とし、$L$ は $B$ の上で一様楕円型で係数が有界であるとする。$u\in C^2(\Omega)$ が $\Omega$ で $Lu\le0$ をみたし、$x_0$ での値 $u(x_0)$ が与えられて $u$ が $\Omega\cup\{x_0\}$ の上で連続であり、
$$ u(x)< u(x_0)\qquad(x\in\Omega) $$
であるとする。thm-hl-ball の仮定 1〜3 のいずれかが($B$ の上で)成り立てば、$\mu\cdot\nu>0$ をみたすすべての単位ベクトル $\mu$ について
$$ \liminf_{t\downarrow0}\frac{u(x_0)-u(x_0-t\mu)}{t}>0 $$
である。

内接する小さい球に移す

$\overline B$ は $\partial\Omega$ の $x_0$ 以外の点を含むかもしれないので、$u$ は $\overline B$ の上で連続とは限らない。そこで $y':=(y+x_0)/2$、$B':=B(y',R/2)$ とおく。$x\in\overline{B'}$ なら
$$ |x-y|\le|x-y'|+|y'-y|\le\frac R2+\frac R2=R $$
であり、等号は $|x-y'|=R/2$ かつ $x-y'$ が $y'-y$ と同じ向きのとき、すなわち $x=y'+(y'-y)=x_0$ のときに限る。よって $\overline{B'}\subset B\cup\{x_0\}\subset\Omega\cup\{x_0\}$ であり、$u\in C^2(B')\cap C(\overline{B'})$ である。$B'\subset B$ なので $L$ は $B'$ の上で一様楕円型で係数が有界であり、$B'$ の上で $u< u(x_0)$ である。$x_0\in\partial B'$ で、$B'$ の外向き単位法線は $(x_0-y')/(R/2)=(x_0-y)/R=\nu$ である。thm-hl-ball を $B'$ に当てはめればよい。$\square$

内部球の条件は、境界が滑らかならいつも成り立つ。境界の点の近くで領域がグラフの上側として表されることを、次のように言う。

境界が $C^2$ 級なら内部球の条件が成り立つ

$n\ge2$ とし、$\Omega\subset\mathbb{R}^n$ を開集合、$x_0\in\partial\Omega$ とする。座標を平行移動と回転で取り替えて $x_0=0$ とし、$x=(x',x_n)$($x'\in\mathbb{R}^{n-1}$)と書くとき、$\rho>0$ と $C^2$ 級の関数 $g\colon\mathbb{R}^{n-1}\to\mathbb{R}$ があって、$g(0)=0$、$\nabla g(0)=0$、
$$ \Omega\cap Q=\{x\in Q\mid x_n>g(x')\},\qquad Q:=\{x\mid |x'|<\rho,\ |x_n|<\rho\} $$
であるとする。このとき $\Omega$ は $x_0$ で内部球の条件をみたし、球を $B(se_n,s)$($s>0$ は十分小さい数)の形にとれる。その外向き単位法線は $-e_n$ である。

放物面で挟む

$K:=\max_{|x'|\le\rho}\|D^2g(x')\|$(作用素ノルム)とおく。Taylorの定理 により、$|x'|<\rho$ で $g(x')\le\frac K2|x'|^2$ である($g(0)=0$、$\nabla g(0)=0$)。$s>0$ を $2s<\rho$ かつ $Ks\le1$ となるようにとり、$B:=B(se_n,s)$ とおく。$x\in B$ なら $|x'|^2+(x_n-s)^2< s^2$ なので、$|x'|< s<\rho$、$0< x_n<2s<\rho$ であり $x\in Q$ である。さらに
$$ x_n>s-\sqrt{s^2-|x'|^2}=\frac{|x'|^2}{s+\sqrt{s^2-|x'|^2}}\ge\frac{|x'|^2}{2s}\ge\frac K2|x'|^2\ge g(x') $$
だから $x\in\Omega\cap Q$ である。よって $B\subset\Omega$ であり、$0\in\partial B$、外向き単位法線は $(0-se_n)/s=-e_n$ である。$\square$

この座標で $\Omega$ は $x_n>g(x')$ の側にあり、$\nabla g(0)=0$ なので、$-e_n$ は $\partial\Omega$ の $x_0$ での外向き単位法線にほかならない。境界がこのように各点の近くで $C^2$ 級の関数のグラフとして表されるとき、$\Omega$ は $C^2$ 級の境界をもつという。

応用:Neumann 問題の一意性

Laplace 方程式の Neumann 問題の解が定数の差を除いて一意であることは、Green の公式(エネルギーの方法)でも示せる(境界値問題 の定理「Dirichlet・Neumann・Robin 問題の一意性と両立条件」)。Hopf の補題を使うと、発散形でない作用素や、境界まで $C^2$ 級でない解にも同じ結論が広がる。

Neumann 問題の解の一意性

$\Omega\subset\mathbb{R}^n$($n\ge2$)を $C^2$ 級の境界をもつ有界な連結開集合とし、$\partial\Omega$ の外向き単位法線を $\nu$ と書く。$L$ は $c\equiv0$ で、$\Omega$ の上で一様楕円型で係数が有界であるとする。$u\in C^2(\Omega)\cap C^1(\overline\Omega)$ が
$$ Lu=0\quad(\Omega\text{ 内}),\qquad\nabla u\cdot\nu=0\quad(\partial\Omega\text{ 上}) $$
をみたせば、$u$ は定数である。とくに、$Lu=f$、$\nabla u\cdot\nu=h$ の解 $u\in C^2(\Omega)\cap C^1(\overline\Omega)$ は、定数の差を除いて一意である。

ここで $u\in C^1(\overline\Omega)$ は、$u$ とその 1 階偏導関数が $\overline\Omega$ 上の連続関数に延びることを表す。

最大点で補題を使う

$u$ が定数でないと仮定して矛盾を導く。$\overline\Omega$ はコンパクトなので、$u$ は $\overline\Omega$ のある点で最大値 $M$ をとる。もし $\Omega$ の点で $M$ をとれば、最大値原理(楕円型偏微分方程式) の定理「強最大値原理」($c\equiv0$ の場合)により $u$ は $\Omega$ で定数になり、仮定に反する。よって $\Omega$ の上で $u< M$ であり、ある $x_0\in\partial\Omega$ で $u(x_0)=M$ である。
prop-hl-c2 により $\Omega$ は $x_0$ で内部球の条件をみたし、その球の外向き単位法線は $\nu(x_0)$ である。cor-hl-domain(仮定 1)を $\mu=\nu(x_0)$ で使うと
$$ \liminf_{t\downarrow0}\frac{u(x_0)-u(x_0-t\nu(x_0))}{t}>0 $$
である。一方、$0<\tau\le t$ について $x_0-\tau\nu(x_0)\in\Omega$($t$ が小さいとき)であり、1 変数の平均値の定理と $\nabla u$ の $\overline\Omega$ 上での連続性から、左辺の差分商は $\nabla u(x_0)\cdot\nu(x_0)=0$ に収束する。これは矛盾である。
後半は、2 つの解の差に前半を当てはめればよい。$\square$

平均値の定理を使うところを詳しく書くと、$0< s< t$ について $u(x_0-s\nu)-u(x_0-t\nu)=\int_s^t\nabla u(x_0-\tau\nu)\cdot\nu\,d\tau$ であり、$s\downarrow0$ として $u(x_0)-u(x_0-t\nu)=\int_0^t\nabla u(x_0-\tau\nu)\cdot\nu\,d\tau$ を得る($\nu=\nu(x_0)$)。被積分関数は $\tau\to0$ で $\nabla u(x_0)\cdot\nu$ に収束する。

仮定を外したときの反例

cor-hl-domain の仮定を 1 つずつ外す。各行で $L$ の係数は滑らかで有界であり、外した条件以外はみたされている。

外す条件反例成り立たなくなること
内部球の条件$\Omega=\{x_1>0,\ x_2>0\}\subset\mathbb{R}^2$、$L=-\Delta$、$x_0=0$、$u=-x_1x_2$内向きのどの方向でも差分商が $0$ に収束する
$u(x)< u(x_0)$ の狭義性$\Omega=B(0,1)$、$L=-\Delta$、$x_0=e_1$、$u\equiv0$差分商が $0$
一様楕円性$\Omega=B(0,1)\subset\mathbb{R}^2$、$Lu=-\partial_1^2u$、$x_0=e_2$、$u=-(x_2-1)^2$$\nabla u(x_0)\cdot\nu=0$
仮定 2 の $c\ge0$$\Omega=B(0,1)$、$L=-\Delta-1$、$x_0=e_1$、$u=\cos(x_1-1)$$\nabla u(x_0)\cdot\nu=0$
仮定 2 の $u(x_0)\ge0$$\Omega=B(0,1)$、$L=-\Delta+1$、$x_0=e_1$、$u=-\cosh(x_1-1)$$\nabla u(x_0)\cdot\nu=0$
表の反例の確認

1 行目:$u=-x_1x_2$ は調和なので $Lu=0$、$\Omega$ で $u<0=u(0)$ である。中心 $z$、半径 $s$ の球が $\Omega$ に含まれ $0$ を境界にもつとすると、$z_1\ge s$、$z_2\ge s$ かつ $|z|=s$ となるが、$|z|\ge\sqrt2\,s>s$ なので不可能である。よって $0$ で内部球の条件は成り立たない。$-\mu=(m_1,m_2)$($m_1,m_2>0$)を内向きの方向とすると、$\bigl(u(0)-u(-t\mu)\bigr)/t=m_1m_2\,t\to0$ である。
2 行目:$u$ は定数なので差分商は $0$ である。ほかの仮定($Lu=0$、仮定 1)はみたされる。
3 行目:係数行列は $\operatorname{diag}(1,0)$ で半正定値だが、一様楕円型ではない。$u$ は $x_1$ によらないので $Lu=0$ であり、$B$ の点では $x_2<1$ なので $u<0=u(x_0)$ である。$\nu=e_2$ で $\partial_2u(x_0)=-2(1-1)=0$ である。
4 行目:$Lu=\cos(x_1-1)-\cos(x_1-1)=0$ である。$B$ の点では $-2< x_1-1<0$ なので $u<1=u(x_0)$ であり、$u(x_0)=1\ge0$ だが $c=-1<0$ である。$\nu=e_1$ で $\partial_1u(x_0)=-\sin0=0$ である。
5 行目:$\Delta u=-\cosh(x_1-1)=u$ なので $Lu=-\Delta u+u=0$ である。$B$ の点では $x_1\ne1$ なので $u<-1=u(x_0)$ であり、$c=1\ge0$ だが $u(x_0)=-1<0$ である。$\partial_1u(x_0)=-\sinh0=0$ である。

4 行目と 5 行目は、0 階の係数の符号と最大値の符号の条件が組で必要なことを示している。$c\ge0$ でも $u(x_0)<0$ なら、$c\,u$ の項が $Lu\le0$ を助けてしまい、$u$ は境界に平らに触れることができる。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する