Zariski位相(Zariski topology)とは、可換環 $A$ の素イデアル全体 $\operatorname{Spec}A$ に、イデアル $I$ を含む素イデアルの集合 $V(I)$ を閉集合として入れる位相である。$f$ を含まない素イデアルの集合 $D(f)$ が開基をなし、閉集合は根基イデアルと、既約閉集合は素イデアルと対応する。閉点は極大イデアルにあたり、整域では $(0)$ が全体の生成点になる。$\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ のように Hausdorff でない空間が典型である。代数閉体 $k$ 上の $k^n$ の古典的な Zariski 位相は $\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$ の閉点の空間と同相であり、アフィンスキームの土台となる。
本記事では環は単位元をもつ可換環、環準同型は単位元を保つものとする。環 $A$ のイデアル $\mathfrak{p}$ が素イデアルであるとは、$\mathfrak{p}\neq A$ であって、$ab\in\mathfrak{p}$ ならば $a\in\mathfrak{p}$ または $b\in\mathfrak{p}$ となることをいう。$I$ の根基を $\sqrt{I}:=\{a\in A\mid\text{ある }n\ge1\text{ で }a^n\in I\}$ と書く。
$A$ を可換環とし、$A$ の素イデアル全体の集合を $\operatorname{Spec}A$ と書く。部分集合 $S\subset A$ に対し
$$
V(S):=\{\mathfrak{p}\in\operatorname{Spec}A\mid S\subset\mathfrak{p}\}
$$
とおく。$V(S)$ の形の部分集合を閉集合とする $\operatorname{Spec}A$ の位相を Zariski 位相(Zariski topology)という。$\operatorname{Spec}A$ は通常この位相によって位相空間とみなし、$A$ の素スペクトル(prime spectrum)という。元 $f\in A$ に対し
$$
D(f):=\operatorname{Spec}A\setminus V(\{f\})=\{\mathfrak{p}\in\operatorname{Spec}A\mid f\notin\mathfrak{p}\}
$$
を基本開集合という。
$S$ が生成するイデアルを $(S)$ と書くと、素イデアルが $S$ を含むことと $(S)$ を含むことは同値なので $V(S)=V((S))$ である。したがって閉集合はイデアル $I$ による $V(I)$ の形のものだけを考えれば十分である。この族が実際に位相の閉集合系の公理(閉集合)を満たすことを次に示す。
$A$ を可換環、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。
1:どの素イデアルも $0$ を含む。素イデアルは $A$ と異なるので $A$ を含まない。
2:素イデアル $\mathfrak{p}$ がすべての $I_\lambda$ を含むことは、$I_\lambda$ たちの和 $\sum_\lambda I_\lambda$($I_\lambda$ たちを含む最小のイデアル)を含むことと同値である。
3:$IJ\subset I\cap J\subset I$ かつ $I\cap J\subset J$ なので、$V(I)\cup V(J)\subset V(I\cap J)\subset V(IJ)$ である。逆に $\mathfrak{p}\in V(IJ)$ とし、$\mathfrak{p}\notin V(I)$ と仮定する。$a\in I\setminus\mathfrak{p}$ をとると、任意の $b\in J$ について $ab\in IJ\subset\mathfrak{p}$ で $a\notin\mathfrak{p}$ なので、$\mathfrak{p}$ が素であることから $b\in\mathfrak{p}$ である。よって $J\subset\mathfrak{p}$、すなわち $\mathfrak{p}\in V(J)$ である。ゆえに $V(IJ)\subset V(I)\cup V(J)$ であり、3 つの集合は一致する。
最後の主張:1 は $X$ と $\emptyset$ が閉集合であること、2 は任意個の共通部分で閉じていること、3 は(帰納法により)有限個の和集合で閉じていることを示す。$\square$
イデアルと閉集合の対応を調べるには、可換環 の記事の定理「冪零根基は素イデアルの共通部分」を用いる。これを剰余環 $A/I$ に適用し、$A/I$ の素イデアルと $I$ を含む $A$ の素イデアルが一対一に対応すること(環準同型 の記事の定理「イデアルの対応定理」の 1・3 と、可換環 の記事の命題「剰余環による言い換え」の 1 による)と合わせると、
$$
\sqrt{I}=\bigcap_{\mathfrak{p}\in V(I)}\mathfrak{p}
$$
が得られる($A/I$ の冪零元とは、$a^n\in I$ となる $a$ の類のことである)。特に $I\neq A$ なら $V(I)\neq\emptyset$ である($1\notin\sqrt{I}$ だから)。
$A$ を可換環、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。
1:$J\subset\sqrt{I}$ とし、$\mathfrak{p}\in V(I)$ とする。$b\in J$ なら $b^n\in I\subset\mathfrak{p}$ となる $n$ があり、$\mathfrak{p}$ が素なので $b\in\mathfrak{p}$ である。よって $\mathfrak{p}\in V(J)$ である。逆に $V(I)\subset V(J)$ なら、$I$ を含むすべての素イデアルが $J$ を含むので、上の等式により $J\subset\bigcap_{\mathfrak{p}\in V(I)}\mathfrak{p}=\sqrt{I}$ である。$I\subset\sqrt{I}$ と $\sqrt{I}\subset\sqrt{I}$ に 1 を使えば $V(I)=V(\sqrt{I})$ である。
2:$J:=\bigcap_{\mathfrak{p}\in Y}\mathfrak{p}$ とおくと、$Y$ のどの点も $J$ を含むので $Y\subset V(J)$ である。$V(I)$ を $Y$ を含む任意の閉集合とすると、$Y$ の各点 $\mathfrak{p}$ は $I$ を含むので $I\subset J$、よって $V(J)\subset V(I)$ である。したがって $V(J)$ は $Y$ を含む最小の閉集合、すなわち $\overline{Y}$ である。
3:閉集合は $V(I)=V(\sqrt{I})$ と書けるので、根基イデアルに限っても全射である。$I,J$ が根基イデアルで $V(I)=V(J)$ なら、1 により $J\subset\sqrt{I}=I$ かつ $I\subset\sqrt{J}=J$ なので $I=J$ であり、単射である。包含の逆転は 1 による。逆写像の式は、$I$ が根基イデアルなら $\bigcap_{\mathfrak{p}\in V(I)}\mathfrak{p}=\sqrt{I}=I$ であることから従う。$\square$
1:$fg\notin\mathfrak{p}$ ⟺($f\notin\mathfrak{p}$ かつ $g\notin\mathfrak{p}$)は、素イデアルの定義とその対偶($f\in\mathfrak{p}$ なら $fg\in\mathfrak{p}$)である。$1$ はどの素イデアルにも属さず、$0$ はすべてに属する。
2:$D(f)=\emptyset$ ⟺ $V((f))=X=V(0)$ ⟺ $f\in\sqrt{0}$(prop-zariski-topology-radical の 1)⟺ $f$ は冪零である。$D(f)=X$ ⟺ $V((f))=\emptyset$ ⟺ $(f)=A$($(f)\neq A$ なら $V((f))\neq\emptyset$ を上で見た)⟺ $f$ は単元である。
3:各 $D(f)$ は閉集合 $V((f))$ の補集合なので開集合である。開集合 $U=X\setminus V(I)$ と $\mathfrak{p}\in U$ をとる。$I\not\subset\mathfrak{p}$ なので $f\in I\setminus\mathfrak{p}$ がとれ、$\mathfrak{p}\in D(f)$ である。$\mathfrak{q}\in D(f)$ なら $f\in I$、$f\notin\mathfrak{q}$ より $I\not\subset\mathfrak{q}$、すなわち $\mathfrak{q}\in U$ なので、$D(f)\subset U$ である。よって任意の開集合は基本開集合の和集合であり、1 により基本開集合は有限個の共通部分で閉じているから、$\{D(f)\}$ は開基である。$\square$
環準同型 $\varphi\colon A\to B$ に対し、$B$ の素イデアル $\mathfrak{q}$ の逆像 $\varphi^{-1}(\mathfrak{q})$ は $A$ の素イデアルである($1\notin\varphi^{-1}(\mathfrak{q})$ であり、$\varphi(a)\varphi(b)\in\mathfrak{q}$ なら $\varphi(a)$ か $\varphi(b)$ が $\mathfrak{q}$ に属する)。こうして写像 $\varphi^*\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$、$\mathfrak{q}\mapsto\varphi^{-1}(\mathfrak{q})$ が定まり、
$$
(\varphi^*)^{-1}(V(I))=\{\mathfrak{q}\mid I\subset\varphi^{-1}(\mathfrak{q})\}=\{\mathfrak{q}\mid\varphi(I)\subset\mathfrak{q}\}=V(\varphi(I))
$$
なので $\varphi^*$ は連続写像である。特に全射 $A\to A/I$ は $\operatorname{Spec}(A/I)$ から閉集合 $V(I)$ への同相写像を与え(対応定理と上の式による)、局所化 $A\to A_f$ は $\operatorname{Spec}A_f$ から基本開集合 $D(f)$ への同相写像を与える(集合としての対応は 局所化 の記事の定理「素イデアルの対応」、同相であることは アフィンスキーム の記事の命題「基本開集合はアフィン」)。
$A$ の元 $f$ を $\operatorname{Spec}A$ 上の「関数」とみて、点 $\mathfrak{p}$ での値を剰余環 $A/\mathfrak{p}$ における $f$ の類と考える。すると $f\in\mathfrak{p}$ は「$f$ が点 $\mathfrak{p}$ で消える」ことを意味し、$V(S)$ は $S$ の関数がすべて消える場所、$D(f)$ は $f$ が消えない場所である。Zariski 位相は「方程式の共通零点を閉集合とする」という最も粗い要請だけから作った位相であり、開集合は非常に大きく、空でない開集合どうしがしばしば交わる。そのため Hausdorff 性のような通常の分離性は成り立たないが、代わりに閉包・既約性・生成点という概念が、代数(イデアルの包含)と幾何(部分集合の包含)を正確に対応させる。
整数環 $\mathbb{Z}$ の素イデアルは $(0)$ と、素数 $p$ による $(p)$ である。イデアルは $(n)$($n\ge0$)の形なので、閉集合は $V((0))=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ と、$n\ge1$ に対する $V((n))=\{(p)\mid p\text{ は }n\text{ の素因数}\}$ である。$V((1))=\emptyset$ であり、素数の任意の有限集合 $\{p_1,\dots,p_r\}$ は $V((p_1\cdots p_r))$ として閉である。したがって閉集合は「全体」と「$(0)$ を含まない有限集合」に限る。点 $(p)$ は閉点であり、点 $(0)$ の閉包は $V((0))=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ 全体である(prop-zariski-topology-radical の 2)。空でない開集合は $(0)$ と、有限個を除くすべての $(p)$ を含む。
$k$ を体とする。$k[x]$ は単項イデアル整域なので、素イデアルは $(0)$ と、モニックな既約多項式 $g$ による $(g)$ である。ex-zariski-topology-spec-z と同じ理由で、閉集合は全体と「$(0)$ を含まない有限集合」である。$k$ が代数閉体なら既約多項式は $1$ 次式 $x-a$ に限る(代数閉体 の記事の命題「代数閉体の同値条件」)ので、閉点は $a\in k$ と一対一に対応し、$\operatorname{Spec}k[x]=\{(x-a)\mid a\in k\}\cup\{(0)\}$ である。$k=\mathbb{R}$ なら $(x^2+1)$ のように実数の点に対応しない閉点もある。
体 $k$ の素イデアルは $(0)$ だけなので $\operatorname{Spec}k$ は一点である。$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の素イデアルは $(2)$ と $(3)$ で、どちらも極大なので、$\operatorname{Spec}(\mathbb{Z}/6\mathbb{Z})$ は 2 点の離散空間である(下の prop-zariski-topology-closed-point により各点が閉)。$k[\varepsilon]/(\varepsilon^2)$ の素イデアルは $(\varepsilon)$ だけで、スペクトルは一点である。一点という位相空間としては $\operatorname{Spec}k$ と区別できないが、環としては $0$ でない冪零元 $\varepsilon$ の有無で異なる。Zariski 位相は $\sqrt{0}$ で割った環 $A/\sqrt{0}$ の情報しか見ない(prop-zariski-topology-radical の 3 により、閉集合は根基イデアルだけで決まる)。
$A$ を体でない整域とする($\mathbb{Z}$、$k[x]$ など)。$(0)$ は素イデアルであり、空でない開集合 $U=X\setminus V(I)$ をとると、$V(I)\neq X=V((0))$ より $I\neq(0)$、したがって $(0)\notin V(I)$、すなわち $(0)\in U$ である。つまり点 $(0)$ は空でないすべての開集合に属する。$A$ は体でないので $0$ でない素イデアル $\mathfrak{p}$(たとえば極大イデアル)があり、$\mathfrak{p}$ のどの開近傍も $(0)$ を含む。よって $\mathfrak{p}$ と $(0)$ は開集合で分離できず、$\operatorname{Spec}A$ はHausdorff空間でない。$\mathfrak{p}$ を含み $(0)$ を含まない開集合すらないので、$T_1$ 空間でもない($\{(0)\}$ は閉でない)。これは Hausdorff空間 の記事の例「反例:Zariski位相」と同じ議論である。
この空間は「位相空間である」「後述のとおり $T_0$ 空間である」を満たすが「Hausdorff 性」「一点集合が閉」を満たさず、含意「自然に現れる幾何学的な空間は Hausdorff である」を破る。
$k$ を無限体とし、$k^n$ に古典的な Zariski 位相(多項式の共通零点の集合を閉集合とする位相。下の prop-zariski-topology-classical と アフィン代数的集合 を参照)を入れる。$n=1$ では閉集合は $k$ と有限集合であり(零でない一変数多項式の根は有限個)、$k$ の Zariski 位相は余有限位相に一致する。
$k^2$ の Zariski 位相は、$k\times k$ の直積位相と一致しない。実際、対角線 $\Delta=\{(a,a)\mid a\in k\}$ は $x-y$ の零点集合なので Zariski 閉である。一方、直積位相で $\Delta$ が閉なら、$a\neq b$ に対し $(a,b)\in U\times V\subset k^2\setminus\Delta$ となる開集合 $U\ni a$、$V\ni b$ がとれて $U\cap V=\emptyset$ となるが、$k$ の空でない開集合は補集合が有限なので、無限集合 $k$ の中で必ず交わる。よって $\Delta$ は直積位相で閉でない。一方、射影 $\mathrm{pr}_i\colon k^2\to k$ は Zariski 位相について連続である(たとえば $\mathrm{pr}_1^{-1}(Z(f))=Z(f(x))$)から、直積位相は Zariski 位相より粗い。以上より、$k^2$ の Zariski 位相は直積位相より真に細かい。
これは Hausdorff空間 の記事の命題「対角線の閉性による特徴づけ」($X$ が Hausdorff ⟺ 対角線が直積位相の $X\times X$ で閉)と矛盾しない。$k$ は Hausdorff でなく、実際に直積位相では $\Delta$ は閉でない。$\Delta$ が閉になるのは Zariski 位相という別の位相で見たときであり、この性質はスキームの分離性(分離射)という Hausdorff 性の代用物につながる。この例は含意「$k^2$ の位相は因子 $k$ の位相の直積位相である」を破る。
$\mathbb{C}^n$ では、多項式関数は通常の(Euclid の)位相で連続なので、Zariski 閉集合は通常の位相でも閉である。逆は成り立たない。$\mathbb{C}$ の閉円板 $\{|z|\le1\}$ や整数全体 $\mathbb{Z}\subset\mathbb{C}$ は通常の位相で閉だが、無限集合かつ $\mathbb{C}$ と異なるので Zariski 閉でない(ex-zariski-topology-not-product の $n=1$ の場合)。Zariski 位相は通常の位相より真に粗い。この例は「通常の位相で閉」を満たすが「Zariski 閉」を満たさない。
$A$ を可換環、$X=\operatorname{Spec}A$、$\mathfrak{p}\in X$ とする。
1:prop-zariski-topology-radical の 2 を $Y=\{\mathfrak{p}\}$ に適用すればよい。
2:1 により、$\{\mathfrak{p}\}$ が閉 ⟺ $V(\mathfrak{p})=\{\mathfrak{p}\}$ ⟺ $\mathfrak{p}$ を含む素イデアルが $\mathfrak{p}$ だけ、である。$\mathfrak{p}$ が極大なら後者は明らかである。逆に $\mathfrak{p}$ を含む素イデアルが $\mathfrak{p}$ だけとする。$\mathfrak{p}\subset\mathfrak{m}\subsetneq A$ となるイデアル $\mathfrak{m}$ に対し、$\mathfrak{m}$ を含む極大イデアル $\mathfrak{n}$ が存在し(可換環 の記事の定理「極大イデアルの存在」を $A/\mathfrak{m}$ に適用する)、極大イデアルは素なので $\mathfrak{n}=\mathfrak{p}$、よって $\mathfrak{m}=\mathfrak{p}$ である。$\mathfrak{p}\neq A$ なので $\mathfrak{p}$ は極大である。
3:$\overline{\{\mathfrak{p}\}}=\overline{\{\mathfrak{q}\}}$ なら 1 により $\mathfrak{p}\subset\mathfrak{q}$ かつ $\mathfrak{q}\subset\mathfrak{p}$、すなわち $\mathfrak{p}=\mathfrak{q}$ である。よって $\mathfrak{p}\neq\mathfrak{q}$ なら、たとえば $\mathfrak{q}\notin\overline{\{\mathfrak{p}\}}$ であり、開集合 $X\setminus\overline{\{\mathfrak{p}\}}$ は $\mathfrak{q}$ を含み $\mathfrak{p}$ を含まない(逆の場合も同様)。
4:$A\neq0$ なら $A$ は極大イデアルをもち(同じ定理)、それは素イデアルなので $X$ の点であり、2 により閉点である。$\square$
一般の位相空間での閉点の性質($T_1$ 空間との関係など)は 閉点 の記事にある。ex-zariski-topology-spec-z の $(p)$、ex-zariski-topology-affine-line の $(x-a)$ が閉点の例であり、$(0)$ は閉点でない。
位相空間 $Z$ が既約(irreducible)であるとは、$Z$ が空でなく、$Z=Z_1\cup Z_2$($Z_1,Z_2$ は $Z$ の閉集合)ならば $Z=Z_1$ または $Z=Z_2$ となることをいう。同値な言い方として、$Z$ の空でない 2 つの開集合は必ず交わる。位相空間の部分集合は、部分空間位相で既約なとき既約という。既約な閉集合 $Z$ の点 $\eta$ で $\overline{\{\eta\}}=Z$ となるものを $Z$ の生成点(generic point)という。
同値性は補集合をとればよい。$Z=Z_1\cup Z_2$ で $Z_1,Z_2\neq Z$ となることは、空でない開集合 $Z\setminus Z_1$ と $Z\setminus Z_2$ が交わらないことと同値である。既約な空間では空でない開集合はすべて稠密である。Hausdorff 空間で既約なものは一点だけなので、この概念は Zariski 位相のような Hausdorff でない空間で意味をもつ。
$A$ を可換環、$X=\operatorname{Spec}A$ とする。
まず、一点集合の閉包 $\overline{\{\mathfrak{p}\}}$ は既約である。空でなく、$\overline{\{\mathfrak{p}\}}=Z_1\cup Z_2$(閉集合)なら $\mathfrak{p}$ はどちらか、たとえば $Z_1$ に属し、$Z_1$ は $\mathfrak{p}$ を含む閉集合なので $\overline{\{\mathfrak{p}\}}\subset Z_1$ となるからである。
1:$\sqrt{I}=\mathfrak{p}$ が素なら、prop-zariski-topology-radical の 1 と prop-zariski-topology-closed-point の 1 により $V(I)=V(\mathfrak{p})=\overline{\{\mathfrak{p}\}}$ であり、これは既約である。逆に $V(I)$ が既約とし、$J=\sqrt{I}$ とおく。$V(I)\neq\emptyset$ なので $J\neq A$ である。$ab\in J$ とすると $V(I)=V(J)\subset V(ab)=V(a)\cup V(b)$(prop-zariski-topology-axioms の 3)なので、$V(I)=(V(I)\cap V(a))\cup(V(I)\cap V(b))$ は閉集合の和であり、既約性からたとえば $V(I)\subset V(a)$ である。prop-zariski-topology-radical の 1 により $a\in\sqrt{I}=J$ である。よって $J$ は素イデアルである。
2:$V(\mathfrak{p})$ は既約閉集合である(1 で $I=\mathfrak{p}$、$\sqrt{\mathfrak{p}}=\mathfrak{p}$)。全射性:既約閉集合 $Z=V(I)$ に対し、1 により $\mathfrak{p}:=\sqrt{I}$ は素で $Z=V(\mathfrak{p})$ である。単射性は prop-zariski-topology-closed-point の 3 の証明のとおり、$V(\mathfrak{p})=V(\mathfrak{q})$ から $\mathfrak{p}=\mathfrak{q}$ が従うことである。生成点について:$\overline{\{\eta\}}=Z=V(\mathfrak{p})$ なら $V(\eta)=V(\mathfrak{p})$ なので $\eta=\mathfrak{p}$ である。
3:$X=V(0)$ に 1 を適用する。整域では $\sqrt{0}=(0)$ は素イデアルであり、$\overline{\{(0)\}}=V((0))=X$ である。$\square$
包含を逆にする全単射により、素イデアルの包含 $\mathfrak{p}\subset\mathfrak{q}$ は既約閉集合の包含 $V(\mathfrak{q})\subset V(\mathfrak{p})$ に、極大イデアルは極小の既約閉集合(閉点)に、極小素イデアルは極大の既約閉集合(既約成分)に対応する。$A$ がNoether環なら $\operatorname{Spec}A$ の閉集合は有限個の既約閉集合の和に書け、極小素イデアルは有限個しかない(AM69 Chapter 1 演習 20、Chapter 6 演習 5–8、Har77 Chapter I, Proposition 1.5)。たとえば $k[x,y]/(xy)$ のスペクトルは 2 本の座標軸 $V(x)$、$V(y)$ の和で、既約成分の生成点は $(x)$ と $(y)$ である。
$k$ を体、$k[x_1,\dots,x_n]$ を $n$ 変数多項式環とする。部分集合 $S\subset k[x_1,\dots,x_n]$ の $k^n$ における共通零点の集合を $Z(S):=\{a\in k^n\mid f(a)=0\ (\forall f\in S)\}$ と書く。$Z(S)$ の形の集合(アフィン代数的集合)を閉集合とする $k^n$ の位相を、$k^n$ の古典的な Zariski 位相という(これが位相であることは アフィン代数的集合 の記事による。prop-zariski-topology-axioms と同じ公式 $Z(0)=k^n$、$\bigcap Z(I_\lambda)=Z(\sum I_\lambda)$、$Z(I)\cup Z(J)=Z(IJ)$ から従う)。点 $a=(a_1,\dots,a_n)\in k^n$ に対し $\mathfrak{m}_a:=(x_1-a_1,\dots,x_n-a_n)$ とおく。
$k$ が代数閉体なら、$k[x_1,\dots,x_n]$ の極大イデアルはすべて、ある $a\in k^n$ によって $\mathfrak{m}_a$ と書ける。
$k$ を体、$X=\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$ とする。
1:代入 $f\mapsto f(a)$ は全射な環準同型 $k[x_1,\dots,x_n]\to k$ であり、その核は $\mathfrak{m}_a$ である。実際、$x_i-a_i$ は核に属し、逆に任意の $f$ は $x_i=(x_i-a_i)+a_i$ と書き換えて展開すれば $f=f(a)+g$、$g\in\mathfrak{m}_a$ と書けるので、$f(a)=0$ なら $f\in\mathfrak{m}_a$ である。環の第 1 同型定理(環準同型)により $k[x_1,\dots,x_n]/\mathfrak{m}_a\cong k$ は体なので、$\mathfrak{m}_a$ は極大イデアルである。
2:$a\neq b$ なら、$a_i\neq b_i$ となる $i$ について $x_i-a_i\in\mathfrak{m}_a$ は $b$ で $0$ にならないので 1 により $\mathfrak{m}_b$ に属さず、$\mathfrak{m}_a\neq\mathfrak{m}_b$ である。1 により、$\iota(a)\in V(I)$ ⟺ $I\subset\mathfrak{m}_a$ ⟺ すべての $f\in I$ について $f(a)=0$ ⟺ $a\in Z(I)$ である。閉集合 $Z(S)=Z((S))$ はこうして閉集合 $V((S))$ の逆像であり、逆に部分空間 $\iota(k^n)$ の閉集合 $V(I)\cap\iota(k^n)$ は $\iota(Z(I))$ なので、$\iota$ は $k^n$ の閉集合と $\iota(k^n)$ の閉集合を一対一に対応させる。よって $\iota$ は像への同相写像である。
3:1 により $\iota(k^n)$ は閉点からなる(prop-zariski-topology-closed-point の 2)。逆に閉点は極大イデアルなので、thm-zariski-topology-nullstellensatz により $\mathfrak{m}_a$ の形である。$\square$
このように、古典的な代数幾何学の空間 $k^n$ は $\operatorname{Spec}k[x_1,\dots,x_n]$ の閉点だけを取り出したものであり、$\operatorname{Spec}$ はそこに既約閉集合の生成点($n=2$ なら $(0)$ と、既約曲線 $f=0$ に対応する $(f)$)を付け加えた空間である。prop-zariski-topology-classical から直接わかるのは、$k$ が代数閉のとき $Z(I)$ 上で消える多項式の全体が $I$ を含む極大イデアルの共通部分に等しいことまでであり、prop-zariski-topology-radical が与えるのは $\sqrt{I}$ が $I$ を含む素イデアルの共通部分に等しいことである。両者が一致することはこの記事では示さない。零点定理(弱形)から Rabinowitsch の技法により、$k$ が代数閉なら $Z(I)$ 上で消える多項式の全体は $\sqrt{I}$ に等しいこと(Hilbert の零点定理の強形)が示され、$k^n$ の閉集合と根基イデアルが対応する(AM69 Chapter 7 演習 14、Har77 Chapter I, Theorem 1.3A・Corollary 1.4)。$\operatorname{Spec}A$ 上には Zariski 位相に加えて構造層が載り、これがアフィンスキームである。$\operatorname{Spec}A$ が準コンパクトであること、基本開集合が $\operatorname{Spec}A_f$ と同一視できることは アフィンスキーム の記事で扱う。
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