Besselの不等式(Bessel's inequality)とは、内積空間の正規直交系 $(e_k)$ とベクトル $x$ について、係数の 2 乗の和が長さの 2 乗を超えない $\sum_k|\langle x,e_k\rangle|^2\le\|x\|^2$ という不等式であり、影の長さは元の長さを超えないという三平方の定理の帰結である。足りない分は $x$ から正規直交系の張る空間までの距離の 2 乗に等しく、Hilbert 空間では等号は $x$ がその閉包に入るときに限る。係数が $0$ に近づくこと、$0$ でない係数が高々可算個であること、係数の列が 2 乗総和可能であることが従い、すべての $x$ で等号となるのが Parseval の等式である。
空間のベクトル $x$ を水平な平面に射影すると、影の長さは $x$ の長さを超えない。影の長さの 2 乗は平面の正規直交基底 $e_1,e_2$ についての成分の 2 乗の和 $\langle x,e_1\rangle^2+\langle x,e_2\rangle^2$ なので、成分の 2 乗の和は $\|x\|^2$ 以下である。Bessel の不等式は、これを任意の個数(無限個でもよい)の正規直交系に広げた不等式
$$
\sum_k\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2\le\|x\|^2
$$
である。足りない分は、$x$ から正規直交系の張る空間までの距離の 2 乗に等しい。したがって等号は $x$ が正規直交系で表しきれるときに限り、すべての $x$ で等号が成り立つことが Parseval の等式である。この不等式から、Fourier 係数が $0$ に近づくこと、正規直交系の係数の列が 2 乗総和可能であること、ある元の係数のうち $0$ でないものは高々可算個であることが従う。なお、特殊関数の Bessel 関数とは別の主題である(同じ Bessel にちなむ名前である)。
平面 span{e1,e2} への射影 p と、成分の 2 乗の和と長さの 2 乗の比較
図では $e_1=(1,0,0)$、$e_2=(0,1,0)$、$x=(\frac85,\frac65,\frac32)$ である。成分は $\frac85$ と $\frac65$ で、2 乗の和は $\frac{64}{25}+\frac{36}{25}=4$、$\|x\|^2=\frac{25}4$ である。差 $\frac94$ は、$x$ と影 $p=(\frac85,\frac65,0)$ の差の長さの 2 乗 $(\frac32)^2$ に等しい。
以下、$F$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とし、内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は 内積空間 の記事と同じく第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形、$\|x\|:=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ とする。
$V$ を内積空間、$\Gamma$ を任意の集合(添字集合)とする。$V$ の元の族 $(e_k)_{k\in\Gamma}$ が $\langle e_j,e_k\rangle=\delta_{jk}$($j=k$ なら $1$、$j\ne k$ なら $0$)を満たすとき、正規直交系 という。$x\in V$ に対し、$\langle x,e_k\rangle$ を $x$ の $e_k$ に関する 係数(Fourier 係数)という。
$0$ 以上の実数の族 $(a_k)_{k\in\Gamma}$ の和を、有限部分集合 $\Omega\subset\Gamma$ にわたる有限和の上限
$$
\sum_{k\in\Gamma}a_k:=\sup\Bigl\{\sum_{k\in\Omega}a_k\Bigm|\Omega\subset\Gamma\text{ は有限集合}\Bigr\}\in[0,\infty]
$$
で定める。$\Gamma=\{1,2,3,\dots\}$ なら、これは通常の級数 $\sum_{k=1}^\infty a_k$ に等しい(項が $0$ 以上なので、有限部分和の上限と部分和の極限は一致する)。
Bessel の不等式の主張は、任意の正規直交系 $(e_k)_{k\in\Gamma}$ とすべての $x\in V$ について $\sum_{k\in\Gamma}\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2\le\|x\|^2$ が成り立つことである(thm-bessel-main)。まず有限個の場合を示し、次に一般の場合へ移る。$V$ の完備性は使わない。
有限個の正規直交系については、不等式は等式の形で書ける。足りない分が、張る部分空間までの距離の 2 乗である。
$V$ を内積空間、$e_1,\dots,e_n$ を正規直交系、$U:=\operatorname{span}\{e_1,\dots,e_n\}$ とし、$P_U$ を $U$ への直交射影とする。すべての $x\in V$ について
$$
\|x\|^2=\sum_{k=1}^n\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2+\|x-P_Ux\|^2
$$
であり、$\|x-P_Ux\|$ は $x$ から $U$ までの距離 $\min_{u\in U}\|x-u\|$ に等しい。特に $\sum_{k=1}^n\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2\le\|x\|^2$ であり、等号は $x\in U$ のときに限る。
$U$ は有限次元なので直交射影 $P_U$ があり、$P_Ux=\sum_k\langle x,e_k\rangle e_k$ である(直交射影 の命題「基底による公式」の 1)。正規直交系の 1 次結合については $\bigl\|\sum_kc_ke_k\bigr\|^2=\sum_{j,k}c_k\overline{c_j}\langle e_k,e_j\rangle=\sum_k\lvert c_k\rvert^2$ なので、$\|P_Ux\|^2=\sum_k\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2$ である。一方 直交射影 の定理「直交射影の基本性質」の 3 により $\|x\|^2=\|P_Ux\|^2+\|x-P_Ux\|^2$ であり、同じ定理の 5 により $\|x-P_Ux\|$ は $U$ までの距離である。等号は $\|x-P_Ux\|=0$、すなわち $x=P_Ux\in U$ のときに限る(逆に $x\in U$ なら $P_Ux=x$)。$\square$
同じ等式は Parsevalの等式 の補題「Bessel の等式」、内積空間 の命題「正規直交系の性質」の 3、実数の場合は Fourier係数と最良近似 の定理「正射影・Bessel の不等式・最良近似」にもある。ここでは直交射影の言葉で書いた。
$e_1=\frac13(1,2,2)$、$e_2=\frac13(2,1,-2)$ は正規直交系である($\langle e_1,e_2\rangle=\frac19(2+2-4)=0$)。$x=(1,1,1)$ の係数は $\langle x,e_1\rangle=\frac53$、$\langle x,e_2\rangle=\frac13$ で、
$$
\Bigl(\frac53\Bigr)^2+\Bigl(\frac13\Bigr)^2=\frac{26}9<3=\|x\|^2
$$
である。差 $\frac19$ は、平面 $U=\operatorname{span}\{e_1,e_2\}$ の法線方向の単位ベクトル $e_3=\frac13(2,-2,1)$ の係数 $\langle x,e_3\rangle=\frac13$ の 2 乗であり、$x-P_Ux=\frac19(2,-2,1)$ の長さの 2 乗に等しい。$e_1,e_2,e_3$ は $\mathbb{R}^3$ の正規直交基底なので、3 本すべてでは $\frac{25}9+\frac19+\frac19=3$ と等号になる。
$V$ を内積空間、$(e_k)_{k\in\Gamma}$ を正規直交系とする。
1:有限部分集合 $\Omega\subset\Gamma$ について、$(e_k)_{k\in\Omega}$ は有限個の正規直交系なので、thm-bessel-finite から $\sum_{k\in\Omega}\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2\le\|x\|^2$ である。上限をとればよい。
2:$N_\varepsilon:=\{k\in\Gamma\mid\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert\ge\varepsilon\}$ の任意の有限部分集合 $\Omega$ について、1 から $\#\Omega\cdot\varepsilon^2\le\sum_{k\in\Omega}\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2\le\|x\|^2$ である。有限部分集合の元の個数が $\|x\|^2/\varepsilon^2$ で抑えられるので、$N_\varepsilon$ は有限集合で、元の個数は $\|x\|^2/\varepsilon^2$ 以下である。$\langle x,e_k\rangle\ne0$ となる $k$ の全体は $\bigcup_{m\ge1}N_{1/m}$ で、有限集合の可算個の和集合なので高々可算である。$\square$
2 により、1 の左辺は $0$ でない項だけを並べた(高々可算個の)級数で、項の順序によらない。Hilbert 空間 $\ell^2(\Gamma)$ や $L^2$ の非可算な正規直交系を扱うときも、1 つの $x$ については可算個の係数しか効かない。1 は Axl20 8.57 の形であり、正規直交系が列 $(e_k)_{k\ge1}$ の場合は Hilbert空間 の命題「Besselの不等式と正規直交系の級数」の 1 である。
内積空間 $V$ の正規直交系の列 $(e_k)_{k\ge1}$ と $x\in V$ について、$\lim_{k\to\infty}\langle x,e_k\rangle=0$ である。また、写像 $x\mapsto\bigl(\langle x,e_k\rangle\bigr)_{k\ge1}$ は $V$ から 2 乗総和可能な数列の空間 $\ell^2$ への線形写像で、$\ell^2$ のノルムについて $\bigl\|(\langle x,e_k\rangle)_k\bigr\|\le\|x\|$ を満たす。
thm-bessel-main の 1 から $\sum_k\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2$ は収束するので、項 $\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2$ は $0$ に近づく。写像の線形性は内積の第 1 変数の線形性から、ノルムの不等式は thm-bessel-main の 1 そのものである。$\square$
Fourier 係数では、これは平均 2 乗の意味の Riemann–Lebesgue の補題にあたる。$[-\pi,\pi]$ 上の Riemann 積分可能な関数 $f$ の複素 Fourier 係数 $c_n=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)e^{-inx}dx$ について、系 $\{e^{inx}\}$ は内積 $\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f\bar g\,dx$ で正規直交なので
$$
\sum_{n=-N}^{N}\lvert c_n\rvert^2\le\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\lvert f(x)\rvert^2dx
$$
がすべての $N$ で成り立ち、$c_n\to0$($\lvert n\rvert\to\infty$)となる(Leb26b Theorem 11.8.9 と 11.8.4 節の冒頭)。証明は thm-bessel-finite と同じで、Riemann 積分可能な関数の空間では $\int\lvert f\rvert^2=0$ でも $f\ne0$ でありうるが、使うのは三平方の定理と $\int\lvert f-s\rvert^2\ge0$ だけである。実数の三角関数系の形は Fourier係数と最良近似 の系「Fourier 係数の Bessel の不等式と最良近似」にある。
有限個の場合の等式 thm-bessel-finite は、無限個の場合にもそのまま成り立つ。ただし、級数 $\sum_k\langle x,e_k\rangle e_k$ が収束するためには空間の完備性が要る。
$H$ を Hilbert空間、$(e_k)_{k\ge1}$ を $H$ の正規直交系とし、$M$ を $\operatorname{span}\{e_k\mid k\ge1\}$ の閉包とする。$x\in H$ について次が成り立つ。
1:thm-bessel-main の 1 から $\sum_k\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2<\infty$ なので、Hilbert空間 の命題「Besselの不等式と正規直交系の級数」の 2 により $y:=\sum_k\langle x,e_k\rangle e_k$ が収束し、$\|y\|^2=\sum_k\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2$、$\langle y,e_j\rangle=\langle x,e_j\rangle$(すべての $j$)である。$y$ は $\operatorname{span}\{e_k\}$ の元(部分和)の極限なので $y\in M$ である。$x-y$ はすべての $e_j$ と直交するので $\operatorname{span}\{e_k\}$ と直交し、内積の連続性からその閉包 $M$ とも直交する(直交補空間 の命題「直交補空間は閉部分空間」)。よって $x=y+(x-y)$ は $y\in M$、$x-y\in M^\perp$ という分解であり、$M$ への直交射影の定義から $P_Mx=y$ である。
2:$y\perp x-y$ なので三平方の定理から $\|x\|^2=\|y\|^2+\|x-y\|^2$ であり、$\|y\|^2=\sum_k\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2$ を代入すればよい。距離であることは 直交射影 の定理「直交射影の基本性質」の 5 による。
3:2 から、等号は $x=P_Mx$ と同値であり、これは $x\in M$ と同値である(直交射影 の定理「直交射影の基本性質」の 1)。$\square$
すべての $x\in H$ で等号が成り立つのは $M=H$、すなわち $\operatorname{span}\{e_k\}$ が稠密なときであり、これが Parseval の等式である(Parsevalの等式 の定理「正規直交系が足りていることの特徴づけ」、Hilbert空間 の定理「完全正規直交系の特徴づけとParsevalの等式」)。非可算個の正規直交系でも同じことが成り立つ(Axl20 8.58)。有限次元では、正規直交基底について等号が成り立つ。たとえば $\mathbb{C}^n$ の正規直交基底 $\frac1{\sqrt n}(\zeta^{tk})_{0\le k< n}$($\zeta=e^{2\pi i/n}$、$t=0,\dots,n-1$)についての等号が、離散Fourier変換と反転公式 の Parseval の等式である。
係数の側から見ると、Bessel の不等式は次の対応の一方向である。
$H$ を Hilbert 空間、$(e_k)_{k\ge1}$ を正規直交系、$(a_k)_{k\ge1}$ を $F$ の数列とする。級数 $\sum_ka_ke_k$ が $H$ で収束するための必要十分条件は $\sum_k\lvert a_k\rvert^2<\infty$ である。
$\sum_k\lvert a_k\rvert^2<\infty$ なら収束することは Hilbert空間 の命題「Besselの不等式と正規直交系の級数」の 2 である。逆に $y=\sum_ka_ke_k$ が収束すれば、内積の連続性から $\langle y,e_j\rangle=\lim_n\bigl\langle\sum_{k\le n}a_ke_k,e_j\bigr\rangle=a_j$ であり、thm-bessel-main の 1 から $\sum_j\lvert a_j\rvert^2=\sum_j\lvert\langle y,e_j\rangle\rvert^2\le\|y\|^2<\infty$ である。$\square$
たとえば $\ell^2$ の標準的な正規直交系で $\sum_k\frac1ke_k$ は収束するが、$\sum_k\frac1{\sqrt k}e_k$ は収束しない($\sum_k\frac1k=\infty$)。
正規直交系でなく直交系(互いに直交するが長さが $1$ とは限らない)の場合は、長さで割った形になる。
内積空間 $V$ の $0$ でない元の族 $(u_k)_{k\in\Gamma}$ が互いに直交するとき、すべての $x\in V$ について
$$
\sum_{k\in\Gamma}\frac{\lvert\langle x,u_k\rangle\rvert^2}{\|u_k\|^2}\le\|x\|^2
$$
である。
$e_k:=u_k/\|u_k\|$ は正規直交系で、$\lvert\langle x,e_k\rangle\rvert^2=\lvert\langle x,u_k\rangle\rvert^2/\|u_k\|^2$ なので、thm-bessel-main の 1 に帰着する。$\square$
区間 $[-\pi,\pi]$ 上の内積 $\int_{-\pi}^{\pi}f(x)g(x)\,dx$ で、$1,\cos x,\sin x,\cos2x,\dots$ は直交系で、$\|1\|^2=2\pi$、$\|\cos nx\|^2=\|\sin nx\|^2=\pi$ である。実数値の連続関数 $f$ の Fourier 係数を $a_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos nx\,dx$、$b_n=\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin nx\,dx$ とすると、$\langle f,\cos nx\rangle=\pi a_n$ などであり、cor-bessel-orthogonal は
$$
\frac{a_0^2}2+\sum_{n=1}^\infty\bigl(a_n^2+b_n^2\bigr)\le\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}f(x)^2\,dx
$$
となる。
$f(x)=x$ の Fourier 係数は $a_n=0$、$b_n=\frac{2(-1)^{n+1}}n$ である(Fourier係数と最良近似 の例「$f(x)=x$ の Fourier 係数」)。$\frac1\pi\int_{-\pi}^{\pi}x^2dx=\frac{2\pi^2}3$ なので、上の不等式は
$$
\sum_{n=1}^\infty\frac4{n^2}\le\frac{2\pi^2}3,\qquad\text{すなわち}\qquad\sum_{n=1}^\infty\frac1{n^2}\le\frac{\pi^2}6=1.6449\ldots
$$
を与える。部分和は $N=1,2,10,100$ で $1$、$1.25$、$1.5497\ldots$、$1.6349\ldots$ である。実際には等号が成り立ち(Parsevalの等式 の例「のこぎり波 $f(x)=x$」)、三角関数系が $f$ を表すのに足りていることを反映している。Bessel の不等式だけでは等号は分からない。
$[-1,1]$ 上の連続関数の空間に内積 $\int_{-1}^1f(x)g(x)\,dx$ を入れ、$1,x,x^2$ に Gram–Schmidt の直交化(内積空間 の定理「Gram–Schmidtの直交化法」)を施すと、正規直交系
$$
e_0=\frac1{\sqrt2},\qquad e_1=\sqrt{\frac32}\,x,\qquad e_2=\sqrt{\frac58}\,(3x^2-1)
$$
を得る(定数倍を除いて Legendre 多項式)。$f(x)=\lvert x\rvert$ の係数は $\langle f,e_0\rangle=\frac1{\sqrt2}$、$\langle f,e_1\rangle=0$(奇関数の積分)、$\langle f,e_2\rangle=\sqrt{\frac58}\cdot2\int_0^1(3x^3-x)\,dx=\sqrt{\frac58}\cdot\frac12$ で、
$$
\frac12+0+\frac5{32}=\frac{21}{32}=0.65625<\frac23=\int_{-1}^1x^2\,dx=\|f\|^2
$$
である。差 $\frac23-\frac{21}{32}=\frac1{96}$ は、次数 $2$ 以下の多項式による $\lvert x\rvert$ の近似の、平均 2 乗の意味の最小誤差 $\min_q\int_{-1}^1(\lvert x\rvert-q(x))^2dx$ に等しい(thm-bessel-finite)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 直交性 | $[0,\pi]$ 上の単位ベクトル $\frac1{\sqrt\pi}$、$\sqrt{\frac2\pi}\sin x$ と $f=\sin x$ | 不等式(左辺 $\approx2.844>1.571\approx\Vert f\Vert^2$) |
| 長さが $1$ | $\mathbb{R}$ の $u=2$ と $x=1$ | 不等式($\lvert\langle x,u\rangle\rvert^2=4>1$) |
| 内積の正定値性 | $\mathbb{R}^2$ の $x_1y_1-x_2y_2$、$e=(1,0)$、$x=(1,1)$ | 不等式($1>0$) |
| 空間の完備性 | $c_{00}$ の完全な正規直交系 | 「完全なら等号」(thm-bessel-equality の Hilbert 空間での言い換え) |
1 行目:Fourier係数と最良近似 の例「反例:直交しない系では成分を並べても最良にならない」の $e_1=\frac1{\sqrt\pi}$、$e_2=\sqrt{\frac2\pi}\sin x$(内積 $\int_0^\pi fg\,dx$)は長さ $1$ だが $\langle e_1,e_2\rangle=\frac{2\sqrt2}\pi\ne0$ である。$f=\sin x$ では $\langle f,e_1\rangle^2=\frac4\pi$、$\langle f,e_2\rangle^2=\frac\pi2$ で、和 $\frac4\pi+\frac\pi2=2.844\ldots$ は $\|f\|^2=\frac\pi2=1.570\ldots$ を超える。直交性を外すと、同じ方向の成分を 2 回数えることになる。
2 行目:直交系でも長さが $1$ でなければ、cor-bessel-orthogonal の $\|u_k\|^2$ で割らない形は破れる。$\lvert\langle x,u\rangle\rvert^2/\|u\|^2=4/4=1$ なら成り立つ。
3 行目:形式 $B(x,y)=x_1y_1-x_2y_2$ では $B(e,e)=1$ だが $B(x,e)^2=1>0=B(x,x)$ である。証明で使った「$x-P_Ux$ の長さの 2 乗は $0$ 以上」が、正定値でない形式では成り立たない(Fourier係数と最良近似 の例「反例:長さの 2 乗が負になりうる形式では Bessel の不等式が崩れる」)。
4 行目:Bessel の不等式そのものは完備でない空間でも成り立つ(thm-bessel-main は内積空間で示した)。崩れるのは「すべての $e_k$ と直交する元が $0$ だけ(完全)なら、すべての $x$ で等号」という言い換えである。$\ell^2$ の内積を入れた $c_{00}$ には、完全な正規直交系 $(f_k)$ で $\sum_k\lvert\langle e_1,f_k\rangle\rvert^2=1-\frac6{\pi^2}<1=\|e_1\|^2$ となるものがある(Parsevalの等式 の例「反例:完備でない内積空間」)。
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