普遍ネット(universal net, ultranet)とは、台集合の任意の部分集合について、ネットが最終的にその中に入るか、最終的にその補集合に入るかのどちらかを満たすネットである。ネットが普遍であることは末尾フィルターが超フィルターであることと同値で、普遍な点列は最終的に定値なものに限られる。超フィルター補題を用いると任意のネットは普遍部分ネットを持ち、普遍ネットでは集積点と極限が一致する。そのため位相空間のコンパクト性は、すべての普遍ネットが収束することと同値であり、座標射影との組合せからTychonoffの定理のネットによる証明が得られる。
普遍ネットは、台集合の任意の部分集合に対して、ネットが最終的にその中に留まるか、最終的にその外に留まるかのどちらかを必ず選ぶネットである。任意のネットは、超フィルター補題を用いると普遍部分ネットを持つ。普遍ネットでは集積点が直ちに極限になるため、コンパクト性は「すべての普遍ネットが収束する」と言い換えられる。この特徴づけと直積位相における座標ごとの収束を組み合わせると、Tychonoffの定理のネットによる証明が得られる。
ネット $(x_d)_{d\in D}$ と集合 $A$ に対して、ある $d_0\in D$ が存在し、$d\geq d_0$ なら常に $x_d\in A$ となるとき、ネットは 最終的に $A$ に入る(eventually in $A$)という。また、任意の $d_0\in D$ に対し、ある $d\geq d_0$ が存在して $x_d\in A$ となるとき、ネットは 頻繁に $A$ に入る(frequently in $A$)という。
集合 $X$ 上のネット $(x_d)_{d\in D}$ が 普遍ネット(universal net, ultranet)であるとは、任意の部分集合 $A\subseteq X$ に対して、$(x_d)$ が最終的に $A$ に入るか、最終的に $X\setminus A$ に入るかの少なくとも一方が成り立つことをいう。
与えられたネットの部分ネット(ネット)であって普遍ネットであるものを 普遍部分ネット(universal subnet)という。
部分ネットは ネット の記事の定義「部分ネットと集積点」の意味(共終な写像による合成)で用いる。普遍ネットの定義は Mor24 Appendix 6 の A6.3.16(p. 654)と同じである。
集合 $A$ とその補集合に同時に最終的に入ることはできない。ただし $X=\emptyset$ 上にはネットが存在しないので、この場合は空虚な例外を考える必要はない。
通常のネットは、ある集合 $A$ とその外側を何度も行き来できる。普遍ネットは、どれほど複雑な部分集合 $A$ を選んでも、十分先では必ず内側か外側の一方に決着する。これは「末尾で大きい」と判定される集合全体が超フィルターをなす、ということに等しい。
普遍ネットは一般に明示的な式で与える対象というより、任意のネットから極大化によって取り出す補助装置である。その存在には超フィルター補題を使う。したがって選択原理への依存を伏せてはいけない。
ある $d_0\in D$ と $x\in X$ があり、$d\geq d_0$ なら $x_d=x$ となるネットは普遍である。実際、$A\subseteq X$ に対し $x\in A$ なら最終的に $A$ に入り、$x\notin A$ なら最終的に $X\setminus A$ に入る。
離散空間 $\{-1,1\}$ の点列 $x_n=(-1)^n$ は、$A=\{1\}$ に最終的に入らず、その補集合 $\{-1\}$ にも最終的に入らない。したがって普遍ネットではない。この例は、単に値域が有限であるだけでは普遍性が従わないことを示す。
$(x_d)_{d\in D}$ を集合 $X$ 上の普遍ネット、$f\colon X\to Y$ を任意の写像とする。このとき $(f(x_d))_{d\in D}$ は $Y$ 上の普遍ネットである。
$B\subseteq Y$ を任意にとる。$(x_d)$ の普遍性を $f^{-1}(B)\subseteq X$ に適用すると、$(x_d)$ は最終的に $f^{-1}(B)$ に入るか、最終的に $X\setminus f^{-1}(B)=f^{-1}(Y\setminus B)$ に入る。前者なら $(f(x_d))$ は最終的に $B$ に入り、後者なら最終的に $Y\setminus B$ に入る。よって像ネットは普遍である。$\square$
集合 $X$ 上のネット $(x_d)_{d\in D}$ について、次は同値である。
末尾フィルターは ネット の記事の命題「ネットとフィルターの対応」で定めたもので、ある $d$ について末尾集合 $\{x_{d'}\mid d'\geq d\}$ を含む集合全体である。これは「最終的に $A$ に入る」集合 $A$ の全体と一致する。$X\neq\emptyset$ なのでこれはフィルターである。
フィルター $\mathcal F$ が超フィルターであることは、任意の $A\subseteq X$ について $A\in\mathcal F$ または $X\setminus A\in\mathcal F$ が成り立つことと同値である(超フィルター の記事の定理「超フィルターの特徴づけ」)。$\mathcal F=\mathcal F_{(x_d)}$ に対してこの条件を言い換えると、任意の $A$ についてネットが最終的に $A$ に入るか最終的に $X\setminus A$ に入る、となり、これは普遍ネットの定義そのものである。$\square$
逆向きに、フィルター $\mathcal F$ から ネット の記事の命題「ネットとフィルターの対応」の 2 で作るネット(添字集合 $D_{\mathcal F}=\{(a,A)\mid a\in A\in\mathcal F\}$)の末尾フィルターは $\mathcal F$ に一致する。したがって $\mathcal F$ が超フィルターならこのネットは普遍ネットである。普遍ネットと超フィルターは、この二つの操作で行き来できる。
集合 $X$ の点列 $(x_n)_{n\in\mathbb N}$ が普遍ネットならば、$(x_n)$ は最終的に定値である。すなわち、ある $N$ と $x\in X$ があって $n\geq N$ なら $x_n=x$ となる。
$(x_n)$ が最終的に定値でないと仮定し、普遍でないことを示す。
ある値 $x$ を無限回とる場合:最終的に定値でないので $x_n\neq x$ となる $n$ も無限個ある。$A=\{x\}$ とすれば、点列は頻繁に $A$ に入り、頻繁に $X\setminus A$ にも入るので、どちらにも最終的には入らない。
どの値も有限回しかとらない場合:添字 $n_1< n_2<\cdots$ を、$x_{n_k}$ がそれ以前の値 $x_{n_1},\ldots,x_{n_{k-1}}$ のどれとも異なるように帰納的に選べる(各値は有限回しか現れないので、十分大きい添字では既出の有限個の値を避けられる)。$A:=\{x_{n_{2k}}\mid k\geq1\}$ とおく。値 $x_{n_k}$ はすべて異なるので、$x_{n_{2k+1}}\notin A$ である。よって点列は $n_{2k}$ で $A$ に入り、$n_{2k+1}$ で $X\setminus A$ に入り、どちらにも最終的には入らない。
いずれの場合も普遍でない。$\square$
この命題により、最終的に定値でない普遍ネットは点列としては得られず、超フィルターから作った添字集合のような、$\mathbb N$ とは別の有向集合が要る。実際、$\mathbb N$ 上の非主超フィルター $\mathcal U$(超フィルター の記事の定理「超フィルターへの拡張」により存在する)から上の方法で作ったネット $(a)_{(a,A)\in D_{\mathcal U}}$ は、prop-universal-net-tail-filter により普遍ネットである。そして最終的に定値ではない。最終的に値 $m$ をとり続けるなら、末尾フィルター $\mathcal U$ は $\{m\}$ を含み、主超フィルターになってしまうからである。非主超フィルターの存在には選択公理の一部が使われるので、最終的に定値でない普遍ネットを具体的な式で書き下すことは期待できない。
集合 $X$ 上の任意のネットは普遍部分ネットを持つ。ただしこの主張には超フィルター補題を用いる。
ネットを $(x_d)_{d\in D}$ とし、これが最終的に入る部分集合全体を
$$
\mathcal F_0:=\{A\subseteq X\mid (x_d)\text{ は最終的に }A\text{ に入る}\}
$$
とおく。$X\in\mathcal F_0$、$\emptyset\notin\mathcal F_0$ であり、最終的に $A$ と $B$ に入るなら有向性により最終的に $A\cap B$ に入る。また $A\subseteq B$ なら、最終的に $A$ に入ることから最終的に $B$ に入る。よって $\mathcal F_0$ はフィルターである。
超フィルター補題(超フィルター の記事の定理「超フィルターへの拡張」)により、$\mathcal F_0$ を含む超フィルター $\mathcal U$ をとる。任意の $A\in\mathcal U$ に対し、元のネットは頻繁に $A$ に入る。実際、そうでなければある $d_0$ 以降は $A$ に入らず、$X\setminus A\in\mathcal F_0\subseteq\mathcal U$ となる。すると $A$ と $X\setminus A$ の共通部分である空集合が $\mathcal U$ に属して矛盾する。
$$
E:=\{(d,A)\in D\times\mathcal U\mid x_d\in A\}
$$
とおき、
$$
(d,A)\leq(e,B)\quad\Longleftrightarrow\quad d\leq e\text{ かつ }A\supseteq B
$$
で順序づける。$E$ は空でない。さらに $(d_1,A_1),(d_2,A_2)\in E$ に対し、$d_3\geq d_1,d_2$ をとる。$A_1\cap A_2\in\mathcal U$ であり、元のネットは頻繁にそこへ入るので、ある $e\geq d_3$ が $x_e\in A_1\cap A_2$ を満たす。すると $(e,A_1\cap A_2)$ は両者の上界である。よって $E$ は有向集合である。
$\varphi\colon E\to D$ を $\varphi(d,A)=d$ とする。これは単調である。また任意の $d_0\in D$ に対し $(d_0,X)\in E$ であり、$(d,A)\geq(d_0,X)$ なら $\varphi(d,A)=d\geq d_0$ だから、$\varphi$ は共終である。したがって $(x_{\varphi(e)})_{e\in E}$ は元のネットの部分ネットである。
最後に $B\subseteq X$ をとる。超フィルターの二者択一性より $B\in\mathcal U$ または $X\setminus B\in\mathcal U$ である。$B\in\mathcal U$ の場合、頻繁性から $x_{d_0}\in B$ となる $d_0$ をとれば $(d_0,B)\in E$ であり、$(d,A)\geq(d_0,B)$ なら $A\subseteq B$ なので $x_d\in B$ である。ゆえに部分ネットは最終的に $B$ に入る。補集合が $\mathcal U$ に属する場合も同様である。したがってこの部分ネットは普遍である。
位相空間 $X$ 上の普遍ネット $(x_d)$ と点 $x\in X$ に対して、$x$ が $(x_d)$ の集積点であることと $(x_d)$ が $x$ に収束することは同値である。
収束点が集積点であることは定義から従う。逆に $x$ を集積点とし、$V$ を $x$ の任意の近傍とする。普遍性により、$(x_d)$ は最終的に $V$ に入るか、最終的に $X\setminus V$ に入る。後者ならネットは頻繁に $V$ に入らず、$x$ が集積点であることに反する。したがって最終的に $V$ に入る。すべての近傍 $V$ についてこれが成り立つので $x_d\to x$ である。
位相空間 $X$ について、次は同値である。
(1 ⇒ 2) コンパクト空間では任意のネットが集積点を持つ(ネットの「コンパクト性のネットによる特徴づけ」)。普遍ネットに対してその集積点 $x$ をとれば、prop-universal-net-cluster-limit によりネットは $x$ に収束する。
(2 ⇒ 1) $X$ 上の任意のネットをとる。thm-universal-subnet-existence により普遍部分ネットを持ち、仮定によりその普遍部分ネットは収束する。よって任意のネットが収束部分ネットを持つ。再びネットの特徴づけにより $X$ はコンパクトである。
同じ特徴づけは Mor24 の A6.3.29(p. 658)にあり、普遍部分ネットの存在は同書 A6.3.30(p. 658)で演習とされている。
コンパクト空間の任意の族 $(X_i)_{i\in I}$ の直積 $X=\prod_{i\in I}X_i$ は、直積位相に関してコンパクトである。
$X$ 上の普遍ネット $(x_d)_{d\in D}$ をとる。各射影 $\pi_i\colon X\to X_i$ に対し、prop-universal-net-image により $(\pi_i(x_d))_{d\in D}$ は $X_i$ 上の普遍ネットである。$X_i$ はコンパクトだから、thm-universal-net-compactness により、ある $y_i\in X_i$ に収束する。$y=(y_i)_{i\in I}\in X$ とおく。
直積位相でのネットの収束は座標ごとの収束と同値である。実際、$y$ の基本近傍は有限個の座標 $i\in F$ だけを制限する。各 $i\in F$ で $\pi_i(x_d)\to y_i$ となる添字の下限を有向性で同時に上回れば、それ以降の $x_d$ はその基本近傍に入る。したがって $x_d\to y$ である。
以上より $X$ 上のすべての普遍ネットは収束するから、thm-universal-net-compactness により $X$ はコンパクトである。なお、普遍部分ネットの存在で超フィルター補題を使っており、選択原理への依存が消えたわけではない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 普遍性(集積点と極限の一致) | $\{-1,1\}$ の点列 $(-1)^n$ | 集積点 $1$ にネットが収束する |
| $X$ のコンパクト性 | $\mathbb R$ の点列 $x_n=n$ の普遍部分ネット | 普遍ネットが収束する |
| Hausdorff 性 | 密着位相の空間での任意の普遍ネット | 極限がただ一つに決まる |
| 部分ネットの添字を一般の有向集合にとること(部分列に限る) | $\mathbb R$ の点列 $x_n=n$ | 普遍な部分列がとれる |
1 行目の点列は $1$ と $-1$ を集積点にもつが、rem-universal-net-alternating-counterexample のとおり普遍でなく、どちらにも収束しない。prop-universal-net-cluster-limit の「集積点なら極限」は普遍性がないと成り立たない。
2 行目:$x_n=n$ の普遍部分ネット $(y_e)_{e\in E}$ を thm-universal-subnet-existence でとる。$y_e\to y$ となる点 $y\in\mathbb R$ があったとすると、$y$ はもとの点列の集積点でもある(部分ネットの極限は集積点である。ネット の記事の命題「集積点と収束する部分ネット」)。しかし $(y-1,y+1)$ に入る $n$ は有限個なので、点列は最終的に $(y-1,y+1)$ の外にあり、$y$ は集積点でない。よってこの普遍ネットはどこにも収束しない。これは thm-universal-net-compactness のコンパクト性の仮定を外すと結論が破れることを示す。
3 行目:位相が $\{\emptyset,X\}$ だけの空間($X$ は 2 点以上)では、どの点の近傍も $X$ だけなので、どのネットもすべての点に収束する。普遍ネットも例外ではない。Tychonoff の定理の証明で各座標の極限を一つ「選ぶ」必要があったのはこのためで、Hausdorff 空間なら極限は一意である(ネット の記事の命題「極限の一意性とHausdorff性」)。
4 行目:$x_n=n$ の部分列 $(x_{n_k})_k$ は値がすべて異なり最終的に定値でないので、prop-universal-net-sequence により普遍でない。したがって thm-universal-subnet-existence の普遍部分ネットは部分列としてはとれず、超フィルター $\mathcal U$ から作った添字集合 $E$ が要る。
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