普遍ネット(universal net, ultranet)とは、台集合の任意の部分集合について、ネットが最終的にその中に入るか、最終的にその補集合に入るかのどちらかを満たすネットである。超フィルター補題を用いると任意のネットは普遍部分ネットを持ち、普遍ネットでは集積点と極限が一致する。そのため位相空間のコンパクト性は、すべての普遍ネットが収束することと同値であり、座標射影との組合せからTychonoffの定理のネットによる証明が得られる。
前提知識: ネット, 部分ネット, フィルター, 超フィルター, コンパクト空間
普遍ネットは、台集合の任意の部分集合に対して、ネットが最終的にその中に留まるか、最終的にその外に留まるかのどちらかを必ず選ぶネットである。任意のネットは、超フィルター補題を用いると普遍部分ネットを持つ。普遍ネットでは集積点が直ちに極限になるため、コンパクト性は「すべての普遍ネットが収束する」と言い換えられる。この特徴づけと直積位相における座標ごとの収束を組み合わせると、Tychonoffの定理のネットによる証明が得られる。
ネット $(x_d)_{d\in D}$ と集合 $A$ に対して、ある $d_0\in D$ が存在し、$d\geq d_0$ なら常に $x_d\in A$ となるとき、ネットは 最終的に $A$ に入る(eventually in $A$)という。また、任意の $d_0\in D$ に対し、ある $d\geq d_0$ が存在して $x_d\in A$ となるとき、ネットは 頻繁に $A$ に入る(frequently in $A$)という。
集合 $X$ 上のネット $(x_d)_{d\in D}$ が 普遍ネット(universal net, ultranet)であるとは、任意の部分集合 $A\subseteq X$ に対して、$(x_d)$ が最終的に $A$ に入るか、最終的に $X\setminus A$ に入るかの少なくとも一方が成り立つことをいう。
与えられたネットの部分ネットであって普遍ネットであるものを 普遍部分ネット(universal subnet)という。
この定義と部分ネットの流儀については Kel75 Chapter 2 および Wil04 §§11–12 を参照。
集合 $A$ とその補集合に同時に最終的に入ることはできない。ただし $X=\emptyset$ 上にはネットが存在しないので、この場合は空虚な例外を考える必要はない。
通常のネットは、ある集合 $A$ とその外側を何度も行き来できる。普遍ネットは、どれほど複雑な部分集合 $A$ を選んでも、十分先では必ず内側か外側の一方に決着する。これは「末尾で大きい」と判定される集合全体が超フィルターをなす、ということに等しい。
普遍ネットは一般に明示的な式で与える対象というより、任意のネットから極大化によって取り出す補助装置である。その存在には超フィルター補題を使う。したがって選択原理への依存を伏せてはいけない。
ある $d_0\in D$ と $x\in X$ があり、$d\geq d_0$ なら $x_d=x$ となるネットは普遍である。実際、$A\subseteq X$ に対し $x\in A$ なら最終的に $A$ に入り、$x\notin A$ なら最終的に $X\setminus A$ に入る。
離散空間 $\{-1,1\}$ の点列 $x_n=(-1)^n$ は、$A=\{1\}$ に最終的に入らず、その補集合 $\{-1\}$ にも最終的に入らない。したがって普遍ネットではない。この例は、単に値域が有限であるだけでは普遍性が従わないことを示す。
$(x_d)_{d\in D}$ を集合 $X$ 上の普遍ネット、$f\colon X\to Y$ を任意の写像とする。このとき $(f(x_d))_{d\in D}$ は $Y$ 上の普遍ネットである。
$B\subseteq Y$ を任意にとる。$(x_d)$ の普遍性を $f^{-1}(B)\subseteq X$ に適用すると、$(x_d)$ は最終的に $f^{-1}(B)$ に入るか、最終的に $X\setminus f^{-1}(B)=f^{-1}(Y\setminus B)$ に入る。前者なら $(f(x_d))$ は最終的に $B$ に入り、後者なら最終的に $Y\setminus B$ に入る。よって像ネットは普遍である。
集合 $X$ 上の任意のネットは普遍部分ネットを持つ。ただしこの主張には超フィルター補題を用いる。
ネットを $(x_d)_{d\in D}$ とし、これが最終的に入る部分集合全体を
$$
\mathcal F_0:=\{A\subseteq X\mid (x_d)\text{ は最終的に }A\text{ に入る}\}
$$
とおく。$X\in\mathcal F_0$、$\emptyset\notin\mathcal F_0$ であり、最終的に $A$ と $B$ に入るなら有向性により最終的に $A\cap B$ に入る。また $A\subseteq B$ なら、最終的に $A$ に入ることから最終的に $B$ に入る。よって $\mathcal F_0$ はフィルターである。
超フィルター補題により、$\mathcal F_0$ を含む超フィルター $\mathcal U$ をとる。任意の $A\in\mathcal U$ に対し、元のネットは頻繁に $A$ に入る。実際、そうでなければある $d_0$ 以降は $A$ に入らず、$X\setminus A\in\mathcal F_0\subseteq\mathcal U$ となる。すると $A$ と $X\setminus A$ の共通部分である空集合が $\mathcal U$ に属して矛盾する。
$$
E:=\{(d,A)\in D\times\mathcal U\mid x_d\in A\}
$$
とおき、
$$
(d,A)\leq(e,B)\quad\Longleftrightarrow\quad d\leq e\text{ かつ }A\supseteq B
$$
で順序づける。$E$ は空でない。さらに $(d_1,A_1),(d_2,A_2)\in E$ に対し、$d_3\geq d_1,d_2$ をとる。$A_1\cap A_2\in\mathcal U$ であり、元のネットは頻繁にそこへ入るので、ある $e\geq d_3$ が $x_e\in A_1\cap A_2$ を満たす。すると $(e,A_1\cap A_2)$ は両者の上界である。よって $E$ は有向集合である。
$\varphi\colon E\to D$ を $\varphi(d,A)=d$ とする。これは単調である。また任意の $d_0\in D$ に対し $(d_0,X)\in E$ であり、$(d,A)\geq(d_0,X)$ なら $\varphi(d,A)=d\geq d_0$ だから、$\varphi$ は共終である。したがって $(x_{\varphi(e)})_{e\in E}$ は元のネットの部分ネットである。
最後に $B\subseteq X$ をとる。超フィルターの二者択一性より $B\in\mathcal U$ または $X\setminus B\in\mathcal U$ である。$B\in\mathcal U$ の場合、頻繁性から $x_{d_0}\in B$ となる $d_0$ をとれば $(d_0,B)\in E$ であり、$(d,A)\geq(d_0,B)$ なら $A\subseteq B$ なので $x_d\in B$ である。ゆえに部分ネットは最終的に $B$ に入る。補集合が $\mathcal U$ に属する場合も同様である。したがってこの部分ネットは普遍である。
位相空間 $X$ 上の普遍ネット $(x_d)$ と点 $x\in X$ に対して、$x$ が $(x_d)$ の集積点であることと $(x_d)$ が $x$ に収束することは同値である。
収束点が集積点であることは定義から従う。逆に $x$ を集積点とし、$V$ を $x$ の任意の近傍とする。普遍性により、$(x_d)$ は最終的に $V$ に入るか、最終的に $X\setminus V$ に入る。後者ならネットは頻繁に $V$ に入らず、$x$ が集積点であることに反する。したがって最終的に $V$ に入る。すべての近傍 $V$ についてこれが成り立つので $x_d\to x$ である。
位相空間 $X$ について、次は同値である。
(1 ⇒ 2) コンパクト空間では任意のネットが集積点を持つ(ネットの「コンパクト性のネットによる特徴づけ」)。普遍ネットに対してその集積点 $x$ をとれば、prop-universal-net-cluster-limit によりネットは $x$ に収束する。
(2 ⇒ 1) $X$ 上の任意のネットをとる。thm-universal-subnet-existence により普遍部分ネットを持ち、仮定によりその普遍部分ネットは収束する。よって任意のネットが収束部分ネットを持つ。再びネットの特徴づけにより $X$ はコンパクトである。
コンパクト空間の任意の族 $(X_i)_{i\in I}$ の直積 $X=\prod_{i\in I}X_i$ は、直積位相に関してコンパクトである。
$X$ 上の普遍ネット $(x_d)_{d\in D}$ をとる。各射影 $\pi_i\colon X\to X_i$ に対し、prop-universal-net-image により $(\pi_i(x_d))_{d\in D}$ は $X_i$ 上の普遍ネットである。$X_i$ はコンパクトだから、thm-universal-net-compactness により、ある $y_i\in X_i$ に収束する。$y=(y_i)_{i\in I}\in X$ とおく。
直積位相でのネットの収束は座標ごとの収束と同値である。実際、$y$ の基本近傍は有限個の座標 $i\in F$ だけを制限する。各 $i\in F$ で $\pi_i(x_d)\to y_i$ となる添字の下限を有向性で同時に上回れば、それ以降の $x_d$ はその基本近傍に入る。したがって $x_d\to y$ である。
以上より $X$ 上のすべての普遍ネットは収束するから、thm-universal-net-compactness により $X$ はコンパクトである。なお、普遍部分ネットの存在で超フィルター補題を使っており、選択原理への依存が消えたわけではない。
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