整数の割り算と互除法(division and the Euclidean algorithm)とは、割り算の余り・Euclid の互除法・1 次不定方程式を $\mathbb{Z}$ のイデアルの言葉で見直す話題である。正の整数 $b$ による商と余り $a=bq+r$($0\le r<b$)は 1 通りに定まり、割り算は公約数を変えないので、互除法は有限回で止まり最大公約数を与える。$\mathbb{Z}$ のイデアルはすべて $d\mathbb{Z}$ の形であり、$g=\gcd(a,b)$ について $a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}=g\mathbb{Z}$(Bézout の等式)となる。$ax+by=c$ が整数解をもつ条件は $g\mid c$ であり、$a,b\ne0$ なら解の全体は 1 つの解に $t\,(b/g,-a/g)$ を足したものである。
高校では、割り算の繰り返しで最大公約数を求める方法(互除法)と、それを使って 1 次不定方程式を解く方法を習う。
$1071$ と $462$ の最大公約数を求める。大きいほうを小さいほうで割り、次は割った数を余りで割る、ということを余りが $0$ になるまで繰り返す。
$$
1071=2\cdot462+147,\qquad 462=3\cdot147+21,\qquad 147=7\cdot21+0 .
$$
最後の $0$ でない余り $21$ が最大公約数である。実際 $1071=3^2\cdot7\cdot17$、$462=2\cdot3\cdot7\cdot11$ なので $\gcd(1071,462)=3\cdot7=21$ である。
$1071x+462y=105$ を満たす整数 $x,y$ をすべて求める。両辺を $21$ で割ると $51x+22y=5$ である。ex-dea-start-gcd の割り算を下から逆にたどると
$$
21=462-3\cdot147=462-3\,(1071-2\cdot462)=7\cdot462-3\cdot1071
$$
なので、両辺を $21$ で割って $51\cdot(-3)+22\cdot7=1$、さらに $5$ 倍して $51\cdot(-15)+22\cdot35=5$ を得る。これを方程式から引くと
$$
51\,(x+15)=22\,(35-y)
$$
となる。「$51$ と $22$ は互いに素なので、$x+15$ は $22$ の倍数である」から $x+15=22t$($t$ は整数)と書け、代入して $y=35-51t$ を得る。すなわち解の全体は
$$
(x,y)=(-15+22t,\ 35-51t)\qquad(t\in\mathbb{Z})
$$
である。たとえば $t=1$ で $(7,-16)$ であり、$51\cdot7-22\cdot16=357-352=5$ となる。
$1071x+462y=100$ には整数解がない。左辺はどんな整数 $x,y$ についても $21$ の倍数だが、$100$ は $21$ の倍数ではないからである。
これらの計算は、次の疑問を残す。
| 高校の計算 | 大学の概念 | ボックス |
|---|---|---|
| 割り算を繰り返す | 公約数の不変性と余りの減少 | lem-dea-gcd-shift、thm-dea-euclid |
| 割り算を下から逆にたどる | Bézout の等式、拡張互除法 | thm-dea-bezout、ex-dea-extended-table |
| 「互いに素なので倍数」 | 互いに素な数による割り算 | cor-dea-coprime-divides |
| 一般解 $(-15+22t,\,35-51t)$ | 特殊解+同次方程式の解 | thm-dea-linear-diophantine |
以下、文字は特に断らない限り整数を表す。$b\ne0$ について、$a=bk$ となる整数 $k$ があるとき $b$ は $a$ を割り切る($b$ は $a$ の約数、$a$ は $b$ の倍数)といい、$b\mid a$ と書く。$0$ はすべての整数の倍数である。$d\mid a$ かつ $d\mid b$ なら、任意の整数 $x,y$ について $d\mid ax+by$ である($a=da'$、$b=db'$ なら $ax+by=d(a'x+b'y)$)。
$a,b$ の少なくとも一方が $0$ でないとき、$a$ と $b$ の両方を割り切る整数(公約数)のうち最大のものを $a,b$ の最大公約数といい、$\gcd(a,b)$ と書く。$\gcd(0,0):=0$ と定める。$\gcd(a,b)=1$ のとき、$a$ と $b$ は互いに素であるという。
$a\ne0$ なら公約数は $|a|$ 以下なので、最大のものが存在する。$1$ はつねに公約数なので、$a,b$ の一方が $0$ でなければ $\gcd(a,b)\ge1$ である。また $\gcd(a,0)=|a|$($a\ne0$)、$\gcd(a,b)=\gcd(|a|,|b|)=\gcd(b,a)$ である。
$\gcd(12,18)=6$(正の公約数は $1,2,3,6$)、$\gcd(-12,18)=6$、$\gcd(7,0)=7$ である。$\gcd(8,15)=1$ なので $8$ と $15$ は互いに素である。
ex-dea-start-no-solution で使ったのは、「$a$ と $b$ から $ax+by$ の形で作れる数全体」という集合である。この集合は、足し算・引き算と、整数倍について閉じている。このような集合に名前をつける。
$\mathbb{Z}$ の部分集合 $I$ が次の 3 条件を満たすとき、$I$ を $\mathbb{Z}$ のイデアルという。
条件 3 で $n=-1$ とすると $-u\in I$ なので、イデアルは引き算についても閉じている。$d\mathbb{Z}=(-d)\mathbb{Z}$ であり、$0\mathbb{Z}=\{0\}$、$1\mathbb{Z}=\mathbb{Z}$ である。
ex-dea-start-no-solution の観察は $1071\mathbb{Z}+462\mathbb{Z}\subset21\mathbb{Z}$ と言い換えられ、実は等号が成り立つ(thm-dea-bezout)。
以下の証明では、次の性質を前提とする(整列順序による。数学的帰納法と同値な、自然数の基本的な性質である)。
$0$ 以上の整数からなる空でない集合には、最小の元がある。
整数 $a$ と正の整数 $b$ について、
$$
a=bq+r,\qquad 0\le r< b
$$
を満たす整数の組 $(q,r)$ がちょうど 1 つ存在する。$q$ を商、$r$ を余りという。
存在:$S:=\{a-bk\mid k\in\mathbb{Z},\ a-bk\ge0\}$ とおく。$k=-|a|$ とすると $a-bk=a+b|a|\ge a+|a|\ge0$ なので、$S$ は空でない $0$ 以上の整数の集合である。整列性により $S$ には最小元があり、それを $r=a-bq$ とする。$r\ge0$ である。もし $r\ge b$ なら、$r-b=a-b(q+1)$ も $0$ 以上なので $S$ に属し、$r$ より小さい。これは $r$ の最小性に反するので $r< b$ である。
一意性:$a=bq+r=bq'+r'$、$0\le r,r'< b$ とする。$b(q-q')=r'-r$ であり、右辺の絶対値は $b$ より小さい。$q\ne q'$ なら左辺の絶対値は $b$ 以上なので矛盾する。よって $q=q'$、したがって $r=r'$ である。$\square$
割り算の筆算で各段の商が 1 桁に決まる理由は 整数の筆算の仕組み で扱う。
$a$ が負のときも同じで、たとえば $-17=5\cdot(-4)+3$ である(商は $-3$ ではなく $-4$)。
整数 $a,b,q$ について、$a$ と $b$ の公約数全体と、$b$ と $a-qb$ の公約数全体は一致する。特に $\gcd(a,b)=\gcd(b,a-qb)$ である。
$d\mid a$、$d\mid b$ なら $d\mid a-qb$ である。逆に $d\mid b$、$d\mid a-qb$ なら $d\mid(a-qb)+qb=a$ である。公約数全体が一致するので、その最大のものも一致する($a=b=0$ のときは $a-qb=0$ で、両辺とも $0$ である)。$\square$
$q$ は商でなくてもよい。割り算の定理の $q$ を選ぶのは、$a-qb$ をできるだけ小さくするためである。
整数 $a$ と正の整数 $b$ に対し、$r_0:=a$、$r_1:=b$ とおき、$r_i\ne0$ である限り、thm-dea-division により
$$
r_{i-1}=q_ir_i+r_{i+1},\qquad 0\le r_{i+1}< r_i
$$
と割り算して $r_{i+1}$ を定める($i=1,2,\dots$)。$r_{n+1}=0$ となったところで止める。この手続きを Euclidの互除法(または単に互除法)といい、$n$ を割り算の回数という。
互除法は $b$ 回以下の割り算で止まり、最後の $0$ でない余り $r_n$ は $\gcd(a,b)$ に等しい。
停止:余りの列は $b=r_1>r_2>r_3>\cdots\ge0$ と真に減少する $0$ 以上の整数の列である。$r_1=b$ から $1$ ずつ減っても $b$ 段で $0$ に達するので、$r_{n+1}=0$ となる $n\le b$ がある。
正しさ:各段で $r_{i+1}=r_{i-1}-q_ir_i$ なので、lem-dea-gcd-shift により
$$
\gcd(a,b)=\gcd(r_0,r_1)=\gcd(r_1,r_2)=\cdots=\gcd(r_n,r_{n+1})=\gcd(r_n,0)=r_n
$$
である($r_n>0$)。$\square$
ex-dea-start-diophantine で係数を逆にたどれたのは、互除法の余りがすべて $a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}$ に属するからである。
$\mathbb{Z}$ のイデアル $I$ は、ある $0$ 以上の整数 $d$ によって $I=d\mathbb{Z}$ と書ける。このような $d$ はただ 1 つであり、$I\ne\{0\}$ なら $d$ は $I$ に属する最小の正の整数である。
$I=\{0\}$ なら $d=0$ でよい。$I\ne\{0\}$ とし、$0$ でない $u\in I$ をとると $-u=(-1)u\in I$ なので、$I$ は正の整数を含む。整列性により、$I$ に属する最小の正の整数 $d$ がある。イデアルの条件 3 により $d\mathbb{Z}\subset I$ である。
逆に $u\in I$ とし、thm-dea-division により $u=dq+r$、$0\le r< d$ と書く。$r=u+(-q)d$ はイデアルの条件 2・3 により $I$ に属する。$r>0$ なら $d$ の最小性に反するので $r=0$、すなわち $u=dq\in d\mathbb{Z}$ である。よって $I=d\mathbb{Z}$ である。
一意性:$d\mathbb{Z}=d'\mathbb{Z}$($d,d'\ge0$)なら、$d\in d'\mathbb{Z}$、$d'\in d\mathbb{Z}$ なので $d'\mid d$ かつ $d\mid d'$(一方が $0$ なら他方も $0$)であり、$d,d'\ge0$ から $d=d'$ である。$\square$
thm-dea-principal は「$\mathbb{Z}$ は単項イデアル整域である」と言い換えられる。証明で使ったのは割り算の定理と整列性だけである。
整数 $a,b$ と $g:=\gcd(a,b)$ について
$$
a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}=g\mathbb{Z}
$$
が成り立つ。すなわち、(i) $ax+by=g$ を満たす整数 $x,y$ が存在し、(ii) $ax+by$ の形の数はすべて $g$ の倍数である。さらに、(iii) $a$ と $b$ の公約数はすべて $g$ を割り切る。
$a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}$ はイデアルなので、thm-dea-principal により $a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}=d\mathbb{Z}$ となる $d\ge0$ がある。この $d$ が $g$ に等しいことを示す。
$a=a\cdot1+b\cdot0$、$b=a\cdot0+b\cdot1$ は $d\mathbb{Z}$ に属するので、$d$ は $a,b$ の公約数である($d=0$ のときは $a=b=0$ を意味する)。また $d\in a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}$ なので $d=ax_0+by_0$ と書け、$a,b$ の任意の公約数 $c$ は $d$ を割り切る。
$a=b=0$ なら $a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}=\{0\}$ で $d=0=g$ である。そうでなければ $a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}$ は $0$ でない元を含むので $d>0$ であり、公約数 $c$ は $c\mid d$ から $c\le|c|\le d$ を満たす。$d$ 自身も公約数なので、$d$ は最大の公約数、すなわち $d=g$ である。以上で (i)(ii)(iii) が示された。$\square$
この等式から、法 $n$ で $a$ が逆元をもつ条件 $\gcd(a,n)=1$ が出ることは 合同式の割り算と逆元 で扱う。
(iii) は、最大公約数が大小の意味だけでなく「すべての公約数で割り切れる」という意味でも最大であることを述べている。大小が意味をもたない多項式では、こちらが定義の出発点になる。
係数 $x,y$ は、互除法の各段の余りを $a$ と $b$ の組合せとして記録していけば計算できる(拡張Euclidの互除法、ex-dea-extended-table)。
$1071$ と $462$ では、余り $r$ を $r=1071s+462t$ と書いた係数 $(s,t)$ が
| 余り $r$ | $1071$ | $462$ | $147$ | $21$ |
|---|---|---|---|---|
| $s$ | $1$ | $0$ | $1$ | $-3$ |
| $t$ | $0$ | $1$ | $-2$ | $7$ |
となる。各列は、割り算 $r_{i+1}=r_{i-1}-q_ir_i$ と同じ式で前の 2 列から求まる(たとえば $-3=0-3\cdot1$、$7=1-3\cdot(-2)$)。最後の列が ex-dea-start-diophantine の $1071\cdot(-3)+462\cdot7=21$ である。
$a\mid bc$ かつ $\gcd(a,b)=1$ ならば $a\mid c$ である。特に、$p$ が素数で $p\mid bc$ ならば、$p\mid b$ または $p\mid c$ である。
thm-dea-bezout により $ax+by=1$ となる整数 $x,y$ がある。両辺に $c$ を掛けると $c=a(cx)+(bc)y$ であり、$a\mid a(cx)$、$a\mid bc$ なので $a\mid c$ である。
$p$ が素数のとき、$\gcd(p,b)$ は $p$ の正の約数なので $1$ か $p$ である。$p$ なら $p\mid b$ であり、$1$ なら前半により $p\mid c$ である。$\square$
後半の主張は Euclidの補題 と呼ばれ、素因数分解の一意性の証明の要である(素因数分解の一意性)。
$a,b$ を $0$ でない整数、$c$ を整数、$g:=\gcd(a,b)$ とする。
1:整数解があれば、$c=ax+by\in a\mathbb{Z}+b\mathbb{Z}=g\mathbb{Z}$(thm-dea-bezout)なので $g\mid c$ である。逆に $c=gk$ なら、thm-dea-bezout の $ax_1+by_1=g$ を $k$ 倍して $(x,y)=(kx_1,ky_1)$ が解になる。
2:$a':=a/g$、$b':=b/g$ とおく。$ax_1+by_1=g$ を $g$ で割ると $a'x_1+b'y_1=1$ なので、$a'$ と $b'$ の公約数は $1$ を割り切り、$\gcd(a',b')=1$ である。示された形の組が解であることは、$a\bigl(x_0+b't\bigr)+b\bigl(y_0-a't\bigr)=c+(ab'-ba')t=c$($ab'=ab/g=ba'$)から分かる。逆に $(x,y)$ を解とすると、$a(x-x_0)+b(y-y_0)=0$ を $g$ で割って
$$
a'(x-x_0)=-b'(y-y_0)
$$
である。$b'\mid a'(x-x_0)$ かつ $\gcd(b',a')=1$ なので、cor-dea-coprime-divides により $b'\mid x-x_0$、すなわち $x-x_0=b't$ となる整数 $t$ がある。代入して $a'b't=-b'(y-y_0)$、$b'\ne0$ で割って $y-y_0=-a't$ である。$\square$
ex-dea-start-diophantine の「互いに素なので倍数」という一歩を素因数分解の一意性で説明しようとしても、一意性の標準的な証明自体が cor-dea-coprime-divides を使うので循環する。
解の全体は、1 つの解に同次方程式 $ax+by=0$ の解 $t\,(b/g,-a/g)$ を足したものであり、連立 1 次方程式の「一般解=特殊解+同次方程式の一般解」と同じ構造をもつ。座標平面では、解は直線 $ax+by=c$ 上に等間隔に並ぶ格子点である。また $ax\equiv1\pmod n$ の解があることは $ax+ny=1$ の整数解があることと同じなので、$\gcd(a,n)=1$ と同値である。これが合同式での割り算の基礎である。
停止の証明で得た「$b$ 回以下」はとても粗い。実際の回数を評価するのに、Fibonacci数 $F_1=F_2=1$、$F_{k+2}=F_{k+1}+F_k$($1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,89,\dots$)を使う。$F_0:=0$ とおくと漸化式は $k=0$ でも成り立つ。
$a>b\ge1$ とし、互除法の割り算の回数を $n$ とする。このとき $j=0,1,\dots,n$ について $r_{n-j}\ge F_{j+2}$ である。特に $b\ge F_{n+1}$、$a\ge F_{n+2}$ である。
$1\le i\le n$ について $r_{i-1}>r_i$ である($i=1$ では $a>b$、$i\ge2$ では $r_i$ が $r_{i-1}$ で割った余りだから)。したがって商 $q_i=(r_{i-1}-r_{i+1})/r_i$ は正である。さらに最後の段 $r_{n-1}=q_nr_n$ では $r_{n-1}>r_n$ なので $q_n\ge2$ である。
$j=0$:$r_n\ge1=F_2$。$j=1$:$r_{n-1}=q_nr_n\ge2=F_3$。$j\ge2$ で $j-1,\,j-2$ について主張が成り立てば、$i=n-j+1$ の段 $r_{n-j}=q_{i}r_{n-j+1}+r_{n-j+2}$ と $q_i\ge1$ から
$$
r_{n-j}\ge r_{n-j+1}+r_{n-j+2}\ge F_{j+1}+F_j=F_{j+2}
$$
である。$j=n-1,n$ とすると $b=r_1\ge F_{n+1}$、$a=r_0\ge F_{n+2}$ を得る。$\square$
隣り合う Fibonacci 数 $a=F_{n+2}$、$b=F_{n+1}$($n\ge1$)では、$F_{k+2}=1\cdot F_{k+1}+F_k$($k\ge2$ では $0< F_k< F_{k+1}$ なのでこれが割り算の定理の商と余りである)が続き、最後が $F_3=2\cdot F_2+0$ なので、割り算はちょうど $n$ 回である。
$a>b\ge1$ とし、$b$ の 10 進法での桁数を $k$ とする。互除法の割り算の回数 $n$ は
$$
n\le1+\frac{\log b}{\log\varphi},\qquad n\le5k
$$
を満たす。ここで $\varphi:=\frac{1+\sqrt5}2=1.618\ldots$ は黄金比である。
まず $m\ge1$ について $F_m\ge\varphi^{m-2}$ を示す。$F_1=1>\varphi^{-1}$、$F_2=1=\varphi^0$ であり、$\varphi^2=\varphi+1$ なので、$F_m\ge\varphi^{m-2}$、$F_{m+1}\ge\varphi^{m-1}$ なら
$$
F_{m+2}=F_{m+1}+F_m\ge\varphi^{m-1}+\varphi^{m-2}=\varphi^{m-2}(\varphi+1)=\varphi^m
$$
となる(数学的帰納法)。lem-dea-lame-fibonacci により $b\ge F_{n+1}\ge\varphi^{n-1}$ なので、対数をとって $n-1\le\log b/\log\varphi$ である。
次に、$\varphi^2=\varphi+1$ を繰り返し使うと $\varphi^3=2\varphi+1$、$\varphi^4=3\varphi+2$、$\varphi^5=5\varphi+3=\frac{11+5\sqrt5}2$ であり、$5\sqrt5>9$($125>81$)なので $\varphi^5>10$ である。$b$ は $k$ 桁なので $b<10^k<\varphi^{5k}$ であり、$\varphi^{n-1}\le b<\varphi^{5k}$ から $n-1<5k$、すなわち $n\le5k$ である。$\square$
ex-dea-start-gcd は上界 $15$ 回に対して $3$ 回である。上界 $5k$ は $k=1,2,3$ では $(13,8)$、$(144,89)$、$(1597,987)$ で達成される(5 回、10 回、15 回)。4 桁の $b$ では、20 回には $b\ge F_{21}=10946$ が要るので最大 19 回である($(10946,6765)$ で 19 回)。
係数を有理数全体 $\mathbb{Q}$、実数全体 $\mathbb{R}$、複素数全体 $\mathbb{C}$ のいずれかにとり、それを $K$ と書く。$K$ では $0$ 以外の数で割ることができる(このような数の体系を体という)。$K$ の数を係数とする多項式全体を $K[x]$ と書く。
$f,g\in K[x]$、$g\ne0$ について、
$$
f=gq+r,\qquad r=0\ \text{または}\ \deg r<\deg g
$$
を満たす $q,r\in K[x]$ がちょうど 1 組存在する。
存在:$f$ の次数についての帰納法で示す。$f=0$ または $\deg f<\deg g$ なら $q=0$、$r=f$ でよい。$\deg f=m\ge n=\deg g$ とし、$f,g$ の最高次の係数を $\alpha,\beta$($\beta\ne0$)とする。$f_1:=f-\frac\alpha\beta x^{m-n}g$ は $x^m$ の項が消えるので、$f_1=0$ または $\deg f_1< m$ である。帰納法の仮定により $f_1=gq_1+r$($r=0$ または $\deg r< n$)と書けるので、$f=g\bigl(q_1+\frac\alpha\beta x^{m-n}\bigr)+r$ である。
一意性:$gq+r=gq'+r'$ なら $g(q-q')=r'-r$ である。$q\ne q'$ なら左辺の次数は $\deg g$ 以上だが、右辺は $0$ か次数が $\deg g$ 未満なので矛盾する。よって $q=q'$、$r=r'$ である。$\square$
多項式を $x-a$ で割った余りを代入で求める剰余の定理は 剰余の定理と因数定理 で扱う。
整数の「大きさ $|r|$」を「次数 $\deg r$」に取り替えると、議論はそのまま多項式に移る。$f,g$ から $fu+gv$($u,v\in K[x]$)の形で作れる多項式全体を $fK[x]+gK[x]$ と書く。
$f,g\in K[x]$ の少なくとも一方が $0$ でないとする。$fK[x]+gK[x]$ に属する $0$ でない多項式のうち次数が最小で、最高次の係数が $1$ のもの $h$ がただ 1 つあり、
$$
fK[x]+gK[x]=hK[x]
$$
が成り立つ。$h$ は $f,g$ の公約多項式であり、$f,g$ の公約多項式はすべて $h$ を割り切る。$h$ を $f,g$ の最大公約多項式といい、$\gcd(f,g)$ と書く。
$fK[x]+gK[x]$ は $0$ でない元を含むので、次数が最小の $0$ でない元 $h_0$ がある(整列性を次数に使う)。その最高次の係数で割ったものを $h$ とすると、$h$ も $fK[x]+gK[x]$ に属し、次数は最小である。$p=fu+gv$ を任意の元とし、thm-dea-poly-division で $p=hq+r$ と割ると、$r=p-hq$ も $fK[x]+gK[x]$ に属し、$r\ne0$ なら $\deg r<\deg h$ となって最小性に反する。よって $r=0$、$p\in hK[x]$ である。逆の包含は明らかなので $fK[x]+gK[x]=hK[x]$ である。$f,g$ はこの集合に属するので $h$ で割り切れ、$h=fu_0+gv_0$ と書けるので $f,g$ の公約多項式は $h$ を割り切る。最高次の係数が $1$ で次数最小の元が 2 つ $h,h'$ あれば、$h-h'$ は $0$ か次数がより小さい元なので $h=h'$ である。$\square$
互除法も同じように働く。$f=gq+r$ なら $f,g$ の公約多項式と $g,r$ の公約多項式は一致し(lem-dea-gcd-shift と同じ証明)、余りの次数は真に減るので、$\deg g+1$ 回以下の割り算で余りが $0$ になる。最後の $0$ でない余りを最高次の係数で割ったものが $\gcd(f,g)$ である。
$f=x^4-1$、$g=x^3+2x^2+2x+1$ とする。
$$
\begin{aligned}
x^4-1&=(x-2)\,g+(2x^2+3x+1),\\
g&=\Bigl(\frac x2+\frac14\Bigr)(2x^2+3x+1)+\Bigl(\frac34x+\frac34\Bigr),\\
2x^2+3x+1&=\Bigl(\frac83x+\frac43\Bigr)\Bigl(\frac34x+\frac34\Bigr)+0
\end{aligned}
$$
なので $\gcd(f,g)=x+1$ である。途中の商や余りに分数が現れることに注意する。逆にたどると
$$
-\frac{2x+1}3\,(x^4-1)+\frac{2x^2-3x+2}3\,(x^3+2x^2+2x+1)=x+1
$$
が得られる。この等式から、$f$ と $g$ の共通の複素数の根は $-1$ だけである。$f(\alpha)=g(\alpha)=0$ なら左辺に代入して $\alpha+1=0$ だからである(実際 $f=(x-1)(x+1)(x^2+1)$、$g=(x+1)(x^2+x+1)$)。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 余りの範囲 $0\le r< b$ | 商と余りがただ 1 組に決まる | ex-dea-remainder-range |
| 余りが $0$ 以上の整数 | 互除法が有限回で止まる | ex-dea-sqrt2 |
| 係数が体($0$ 以外で割れる) | 多項式の割り算、公約数が $1$ なら $1=fu+gv$ | ex-dea-integer-poly |
$17=5\cdot3+2=5\cdot2+7=5\cdot4+(-3)$ のように、条件 $0\le r< b$ を外すと、$a=bq+r$ を満たす組 $(q,r)$ は無数にある。thm-dea-division の一意性は条件 $0\le r< b$ に依存しており、これを外すと「商と余りが 1 つに決まる」という結論が破れる。ただし、余りの範囲を長さ $b$ の別の区間、たとえば $-b/2< r\le b/2$ にしても一意性は保たれる(証明は同じ)。
$a=\sqrt2$、$b=1$ に、商を整数として同じ手続きを施す。$\sqrt2=1\cdot1+(\sqrt2-1)$ であり、$s:=\sqrt2-1=0.414\ldots$ とおくと
$$
1=2s+s^2
$$
である($2(\sqrt2-1)+(3-2\sqrt2)=1$)。$0\le s^2< s$ なので、次の余りは $s^2$ である。同じ式に $s^k$ を掛けると $s^k=2s^{k+1}+s^{k+2}$ なので、余りは $1,\ s,\ s^2,\ s^3,\dots$ と $s$ 倍ずつ小さくなり、決して $0$ にならない。余りは真に減少するが、$0$ 以上の整数であるという条件が外れたため、thm-dea-euclid の「有限回で止まる」という結論が破れる。
係数を整数に限った多項式全体 $\mathbb{Z}[x]$ で考える。
すべての正の整数 $n$ について、分数 $\dfrac{21n+4}{14n+3}$ は既約であることを示せ。
出典:国際数学オリンピック(1959 年)第 1 問 Oly59。筆者による和訳。
互除法を $n$ を含んだまま実行する。
$$
21n+4=1\cdot(14n+3)+(7n+1),\qquad 14n+3=2\,(7n+1)+1
$$
なので、lem-dea-gcd-shift により
$$
\gcd(21n+4,\,14n+3)=\gcd(14n+3,\,7n+1)=\gcd(7n+1,\,1)=1
$$
である。逆にたどると $3\,(14n+3)-2\,(21n+4)=1$ であり、これを示すだけでも答になる(公約数は左辺を割り切るので $1$ を割り切る)。$\square$
$21n+4$ と $14n+3$ を変数 $n$ の多項式と見ると、等式 $3\,(14n+3)-2\,(21n+4)=1$ は、係数 $3,-2$ が整数である Bézout の等式である。だから $n$ にどんな整数を代入しても値は互いに素になる。
係数が整数でとれることは本質的である。$n$ と $n+2$ は $\frac12(n+2)-\frac12n=1$ により $\mathbb{Q}[n]$ では互いに素だが、整数係数では $(n+2)-n=2$ までしか作れず、実際 $n=2$ で $\gcd(2,4)=2$ となる。一般に、整数係数の多項式 $f,g$ から $fu+gv$($u,v\in\mathbb{Z}[n]$)の形で作れる整数全体は $\mathbb{Z}$ のイデアルなので $m\mathbb{Z}$($m\ge0$)の形をしており(thm-dea-principal)、$m=fu+gv$ に代入すると $\gcd(f(n),g(n))$ はいつも $m$ を割り切る。この問題は $m=1$、$n,\,n+2$ は $m=2$ の場合である。
$m,n$ は $\{1,2,\dots,1981\}$ に属する整数で、$(n^2-mn-m^2)^2=1$ を満たす。$m^3+n^3$ の最大値を求めよ。
出典:国際数学オリンピック(1981 年)第 3 問 Oly81。筆者による和訳。
$Q(m,n):=n^2-mn-m^2$ とおき、条件 $Q(m,n)=\pm1$ を満たす正の整数の組 $(m,n)$ を解と呼ぶ。
操作 $(m,n)\mapsto(n-m,\,m)$ は、大きいほうから小さいほうを引く「引き算の互除法」の 1 段である。解の条件は、この操作を何度施しても「引いた結果が引いた数以下」($n-m\le m$)であり続けること、つまり $n$ を $m$ で割った商が最後の段を除いていつも $1$ であることを強制している。その結果、Lamé の定理で互除法の回数が最大になる入力と同じ、隣り合う Fibonacci 数の組が現れる。逆向きの操作は列ベクトル $\binom mn$ に行列 $A=\begin{pmatrix}0&1\\ 1&1\end{pmatrix}$ を掛けることであり、$A^k\binom01=\binom{F_k}{F_{k+1}}$ である。上の降下は $Q(F_k,F_{k+1})=(-1)^k$ も示しており、これは Cassini の恒等式 $F_{k+1}F_{k-1}-F_k^2=(-1)^k$ の書き換えである($F_{k+1}^2-F_kF_{k+1}=F_{k+1}F_{k-1}$)。右辺の $(-1)^k$ は $\det A^k$ に等しい。この恒等式は、隣り合う Fibonacci 数に対する Bézout の等式にもなっている。
互除法は Euclid『原論』第 VII 巻の命題 1・2 に、引き算を繰り返す形で現れる(Hea08 第 VII 巻 命題 1・2)。割り算の回数が小さいほうの数の桁数の 5 倍を超えないことは、G. Lamé が 1844 年に Fibonacci 数を用いて示した。余りが割る数の半分を超えないように選ぶ変種では 3 倍を超えないことが Lionnet により付け加えられた(いずれも Dic19 Chapter XVII による)。割り算の定理・イデアル・Bézout の等式を本記事と同じ順序で扱った教科書に Sho08 §1.1–1.2 がある(回数の評価は同書 Theorem 4.1、多項式の割り算は Theorem 7.10)。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する