Stewartの定理(Stewart's theorem)とは、三角形 $ABC$ の辺 $BC$ 上の点 $P$ について、$a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、$m=BP$、$n=PC$、$d=AP$ とおくと $b^2m+c^2n=a(d^2+mn)$ が成り立つという定理である。$P$ が中点なら中線定理、$AP$ が角の二等分線なら $d^2=bc-mn$ になる。背後には、直線 $BC$ 上の点 $P_t=(1-t)B+tC$ と任意の点 $X$ について $XP_t^2=(1-t)XB^2+t\,XC^2-t(1-t)BC^2$ となる公式があり、補正項は 2 点の分散にあたる。$P$ が辺の延長上にあるときは、$m,n$ に符号をつければ同じ式が成り立つ。
前提知識: 余弦定理(高校数学), ベクトルの内積(高校数学), 位置ベクトルと内分点, 中線定理(高校数学)
三角形 $\mathrm{ABC}$ で、頂点 $\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C$ の向かいの辺の長さを $a=\mathrm{BC}$、$b=\mathrm{CA}$、$c=\mathrm{AB}$ と書く。辺 $\mathrm{BC}$ の上に点 $\mathrm P$ をとり、
$$
m=\mathrm{BP},\qquad n=\mathrm{PC},\qquad d=\mathrm{AP}
$$
とおく。$\mathrm P$ が辺の上にあるので $m+n=a$ である。頂点と向かいの辺の上の点を結ぶ線分 $\mathrm{AP}$ を、この記事では Ceva 線 と呼ぶ(Ceva の定理に出てくる線分なのでこう呼ばれる。Cevaの定理(高校数学))。中線・角の二等分線・垂線(足が辺の上にあるとき)は、どれも Ceva 線の特別な場合である。
$\mathrm P$ が中点のときの $d$ は 中線定理(高校数学) で求められる。中点でないときはどうか。高校の方法では、余弦定理(高校数学) を 2 回使う。
$\mathrm B(0,0)$、$\mathrm C(14,0)$、$\mathrm A(5,12)$ とする。2 点間の距離の公式で
$$
a=14,\qquad b=\sqrt{9^2+12^2}=15,\qquad c=\sqrt{5^2+12^2}=13
$$
である。辺 $\mathrm{BC}$ 上の点 $\mathrm P(4,0)$ をとると、$m=4$、$n=10$ である(図 1)。
3 辺 13, 14, 15 の三角形と、辺 BC を m = 4 と n = 10 に分ける点 P。Ceva 線 AP の長さ d を、a, b, c, m, n だけで表したい
$c=\mathrm{AB}=5$、$b=\mathrm{CA}=7$、$a=\mathrm{BC}=8$ の三角形で、$\mathrm{BP}=3$、$\mathrm{PC}=5$ となる点 $\mathrm P$ をとる。$\cos B=\dfrac{25+64-49}{2\cdot5\cdot8}=\dfrac{40}{80}=\dfrac12$ なので、三角形 $\mathrm{ABP}$ で
$$
d^2=5^2+3^2-2\cdot5\cdot3\cdot\frac12=25+9-15=19
$$
である。$d=\sqrt{19}$ である。
2 つの例では、途中で $\cos B$ を求めたが、答えの $d^2$ には角が残っていない。$\cos B$ は 3 辺で決まるので、$d^2$ も $a,b,c,m,n$ だけで書けるはずである。この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 余弦定理を 2 回使って $\cos$ を消す | Stewart の定理 $b^2m+c^2n=a(d^2+mn)$ | cor-stw-stewart |
| 内分点の位置ベクトル $(1-t)\vec b+t\vec c$ | 距離の 2 乗は「重み付き平均 − 補正項」 | thm-stw-convex |
| 中線定理 | $t=\dfrac12$ の場合 | ex-stw-median |
| 平均値と分散 | 補正項 $t(1-t)a^2$ は 2 点の分散 | prop-stw-weighted |
$\mathrm B$、$\mathrm C$ を異なる 2 点とし、実数 $t$ に対して、位置ベクトルが
$$
\vec p=(1-t)\,\vec b+t\,\vec c
$$
である点を $\mathrm P_t$ と書く($\vec b,\vec c$ は $\mathrm B,\mathrm C$ の位置ベクトル)。位置ベクトルと内分点 の定理「直線上にある条件」により、$t$ がすべての実数を動くとき $\mathrm P_t$ は直線 $\mathrm{BC}$ 全体を動く。$0\le t\le1$ のとき $\mathrm P_t$ は線分 $\mathrm{BC}$ の上にあり、$\mathrm{BC}$ を $t:(1-t)$ に内分する点である。係数 $1-t$ と $t$ がどちらも $0$ 以上で和が $1$ のとき、$(1-t)\vec b+t\vec c$ を $\vec b$ と $\vec c$ の 凸結合 という(点の存在範囲と凸結合)。
点 $\mathrm X$ から $\mathrm P_t$ までの距離の 2 乗は、$\mathrm X$ から $\mathrm B$、$\mathrm C$ までの距離の 2 乗の重み付き平均 $(1-t)\mathrm{XB}^2+t\,\mathrm{XC}^2$ と等しいだろうか。ex-stw-start の三角形で $\mathrm X=\mathrm A$、$t=\dfrac27$ とすると($\mathrm P_{2/7}=(4,0)$ が図 1 の $\mathrm P$)、重み付き平均は
$$
\frac57\cdot169+\frac27\cdot225=\frac{845+450}7=185
$$
で、$\mathrm{AP}^2=145$ より $40$ だけ大きい。この差 $40$ が何かを答えるのが次の定理である。
平面または空間の異なる 2 点 $\mathrm B$、$\mathrm C$ と実数 $t$ に対し、$\mathrm P_t$ を位置ベクトルが $(1-t)\vec b+t\vec c$ の点とする。このとき、どの点 $\mathrm X$ についても
$$
\mathrm{XP}_t^{\,2}=(1-t)\,\mathrm{XB}^2+t\,\mathrm{XC}^2-t(1-t)\,\mathrm{BC}^2
$$
が成り立つ。
方針:$\mathrm X$ を基準にしたベクトルで $\overrightarrow{\mathrm{XP}_t}$ を書き、内積で 2 乗を展開する。出てくる内積 $\overrightarrow{\mathrm{XB}}\cdot\overrightarrow{\mathrm{XC}}$ を、3 つの長さ $\mathrm{XB}$、$\mathrm{XC}$、$\mathrm{BC}$ で書き直す。
段 1(ベクトルで書く)。$\vec u=\overrightarrow{\mathrm{XB}}=\vec b-\vec x$、$\vec v=\overrightarrow{\mathrm{XC}}=\vec c-\vec x$ とおく($\vec x$ は $\mathrm X$ の位置ベクトル)。$(1-t)+t=1$ なので $\vec x=(1-t)\vec x+t\vec x$ と書けて
$$
\overrightarrow{\mathrm{XP}_t}=(1-t)\vec b+t\vec c-\vec x=(1-t)(\vec b-\vec x)+t(\vec c-\vec x)=(1-t)\vec u+t\vec v
$$
である。
段 2(2 乗を展開する)。ベクトルの長さの 2 乗は自分自身との内積で、内積は分配法則を満たす(ベクトルの内積(高校数学))。よって
$$
\mathrm{XP}_t^{\,2}=\lvert(1-t)\vec u+t\vec v\rvert^2=(1-t)^2\lvert\vec u\rvert^2+2t(1-t)\,\vec u\cdot\vec v+t^2\lvert\vec v\rvert^2
$$
である。
段 3(交差項を長さで書く)。$\overrightarrow{\mathrm{BC}}=\vec c-\vec b=\vec v-\vec u$ なので、同じように展開して
$$
\mathrm{BC}^2=\lvert\vec v-\vec u\rvert^2=\lvert\vec u\rvert^2-2\,\vec u\cdot\vec v+\lvert\vec v\rvert^2
$$
である。これを $2\,\vec u\cdot\vec v$ について解くと $2\,\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2-\mathrm{BC}^2$ である。
段 4(代入して整理する)。段 3 を段 2 に代入すると
$$
\mathrm{XP}_t^{\,2}=(1-t)^2\lvert\vec u\rvert^2+t(1-t)\bigl(\lvert\vec u\rvert^2+\lvert\vec v\rvert^2-\mathrm{BC}^2\bigr)+t^2\lvert\vec v\rvert^2
$$
である。$\lvert\vec u\rvert^2$ の係数は $(1-t)^2+t(1-t)=(1-t)\bigl((1-t)+t\bigr)=1-t$、$\lvert\vec v\rvert^2$ の係数は $t(1-t)+t^2=t\bigl((1-t)+t\bigr)=t$ である。$\lvert\vec u\rvert=\mathrm{XB}$、$\lvert\vec v\rvert=\mathrm{XC}$ なので
$$
\mathrm{XP}_t^{\,2}=(1-t)\,\mathrm{XB}^2+t\,\mathrm{XC}^2-t(1-t)\,\mathrm{BC}^2
$$
を得る。証明の中で $t$ の範囲も、$\mathrm X$ が平面にあるか空間にあるかも使っていないので、どの実数 $t$、どの点 $\mathrm X$ でも成り立つ。$\square$
ex-stw-start の座標 $\mathrm B(0,0)$、$\mathrm C(14,0)$、$t=\dfrac27$、$\mathrm P_t=(4,0)$ で、$t(1-t)\,\mathrm{BC}^2=\dfrac27\cdot\dfrac57\cdot196=40$ である。
図 2 は、$\mathrm X=\mathrm A$ として、$t$ を動かしたときの $\mathrm{AP}_t^{\,2}$ と重み付き平均 $(1-t)\mathrm{AB}^2+t\,\mathrm{AC}^2$ を並べたものである。前者は $t$ の 2 次関数、後者は 1 次関数で、両者は $t=0$($\mathrm B$)と $t=1$($\mathrm C$)で一致する。$0< t<1$ では放物線が直線より下にあり、その差が $t(1-t)\mathrm{BC}^2$ である。
直線 BC 上の点 P_t について、AP_t² のグラフ(放物線)と、端の値を結んだ直線 (1−t)AB² + tAC²。線分 BC の上では放物線が直線より下にあり、差は t(1−t)BC² である
thm-stw-convex は距離の 2 乗 についての等式である。2 乗しない距離 $\mathrm{XP}_t$ について、$(1-t)\mathrm{XB}+t\,\mathrm{XC}$ から決まった量を引けば得られる、という形の等式はない。$0\le t\le1$ のとき、ベクトルの三角不等式 $\lvert\vec p+\vec q\rvert\le\lvert\vec p\rvert+\lvert\vec q\rvert$(Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) で導かれている)を $\vec p=(1-t)\vec u$、$\vec q=t\vec v$ に使うと、$\mathrm{XP}_t\le(1-t)\mathrm{XB}+t\,\mathrm{XC}$ という不等式だけが得られる。ex-stw-convex の 1 では $\mathrm{AP}=\sqrt{145}=12.04\ldots$、$\dfrac57\cdot13+\dfrac27\cdot15=\dfrac{95}7=13.57\ldots$ で、差は $1.53\ldots$ である。2 では $\mathrm{XP}=\sqrt{41}=6.40\ldots$、$\dfrac57\cdot5+\dfrac27\cdot\sqrt{221}=7.82\ldots$ で、差は $1.41\ldots$ である。差が $\mathrm X$ によって変わるので、「決まった量を引く」形の公式にはならない。2 乗すると内積で展開でき、交差項が段 3 のように 3 辺で書けることが、この定理の要である。
thm-stw-convex で $\mathrm X$ を頂点 $\mathrm A$ にし、$t$ を長さの比で書き直すと、冒頭の問い 1 の答えが出る。
三角形 $\mathrm{ABC}$ の辺 $\mathrm{BC}$ の上に、$\mathrm B$、$\mathrm C$ と異なる点 $\mathrm P$ をとる。$a=\mathrm{BC}$、$b=\mathrm{CA}$、$c=\mathrm{AB}$、$m=\mathrm{BP}$、$n=\mathrm{PC}$、$d=\mathrm{AP}$ とすると
$$
b^2m+c^2n=a\,(d^2+mn)
$$
が成り立つ。$d^2$ について解くと
$$
d^2=\frac{b^2m+c^2n}{a}-mn
$$
である。
この等式を Stewart の定理 という(18 世紀スコットランドの数学者 Matthew Stewart の名による。MTSte、CG67)。左辺は「$b$ には $m$、$c$ には $n$」と、辺に 向かい側の 部分の長さを掛けている。$b=\mathrm{CA}$ は $\mathrm C$ を端にもつ辺で、$\mathrm C$ に近いほうの部分は $n$ だが、掛けるのは遠いほうの $m$ である。
方針:$\mathrm P$ を $\mathrm B$、$\mathrm C$ の凸結合で書き、thm-stw-convex に $\mathrm X=\mathrm A$ を入れる。
段 1($t$ を決める)。$\mathrm P$ は線分 $\mathrm{BC}$ を $m:n$ に内分する点なので、位置ベクトルと内分点 の定理「内分点と外分点の位置ベクトル」により
$$
\vec p=\frac{n\,\vec b+m\,\vec c}{m+n}=\frac na\,\vec b+\frac ma\,\vec c
$$
である。$t=\dfrac ma$ とおくと $1-t=\dfrac{a-m}a=\dfrac na$ なので、$\mathrm P=\mathrm P_t$ である。
段 2(代入する)。thm-stw-convex で $\mathrm X=\mathrm A$ とすると、$\mathrm{AB}=c$、$\mathrm{AC}=b$、$\mathrm{BC}=a$ なので
$$
d^2=\frac na\,c^2+\frac ma\,b^2-\frac ma\cdot\frac na\cdot a^2=\frac{c^2n+b^2m}a-mn
$$
である。
段 3(分母を払う)。両辺に $a$ を掛けて移項すると $ad^2+amn=b^2m+c^2n$、つまり $b^2m+c^2n=a(d^2+mn)$ である。$\square$
高校の教科書の道具だけでも証明できる。冒頭の ex-stw-start でしたことを、文字のまま行えばよい。
方針:$\mathrm P$ での 2 つの角 $\angle\mathrm{APB}$ と $\angle\mathrm{APC}$ は、足すと $180^\circ$ になる。三角形 $\mathrm{ABP}$ と $\mathrm{ACP}$ で余弦定理を使い、2 つの式の $\cos$ が符号だけ違うことを利用して消す。
段 1(角の関係)。$\mathrm P$ は線分 $\mathrm{BC}$ の上にあって $\mathrm B$、$\mathrm C$ と異なるので、半直線 $\mathrm{PB}$ と $\mathrm{PC}$ は反対向きである。よって $\theta=\angle\mathrm{APB}$ とおくと $\angle\mathrm{APC}=180^\circ-\theta$ である。三角比と鈍角への拡張 の定理「$180^\circ-\theta$ と $90^\circ-\theta$ の三角比」により $\cos(180^\circ-\theta)=-\cos\theta$ である。
段 2(2 つの余弦定理)。三角形 $\mathrm{ABP}$ の $\mathrm P$ での角 $\theta$ に余弦定理を使い、三角形 $\mathrm{ACP}$ の $\mathrm P$ での角 $180^\circ-\theta$ に余弦定理を使うと
$$
c^2=d^2+m^2-2dm\cos\theta,\qquad b^2=d^2+n^2+2dn\cos\theta
$$
である(2 つ目は $-2dn\cos(180^\circ-\theta)=+2dn\cos\theta$ による)。
段 3($\cos\theta$ を消す)。1 つ目の式に $n$、2 つ目の式に $m$ を掛けると、$\cos\theta$ の項はどちらも $2dmn\cos\theta$ で符号が逆になる。足すと
$$
c^2n+b^2m=(m+n)d^2+m^2n+mn^2=(m+n)d^2+mn(m+n)
$$
である。
段 4(まとめる)。$m+n=a$ なので、右辺は $a(d^2+mn)$ である。$\square$
2 つの証明は同じ計算の言い換えである。1 つ目の証明で交差項 $\vec u\cdot\vec v$ を 3 辺で書き直した段は、2 つ目の証明で余弦定理を使った段にあたる。$\cos\theta$ が消えるのは、ベクトルの言葉では $\overrightarrow{\mathrm{PB}}$ と $\overrightarrow{\mathrm{PC}}$ が逆向きで、$n\overrightarrow{\mathrm{PB}}+m\overrightarrow{\mathrm{PC}}=\vec 0$ となるからである。
Stewart の定理に $m$、$n$ の具体的な値を入れると、特別な Ceva 線の長さの公式が出る。
$\mathrm P$ が辺 $\mathrm{BC}$ の中点 $\mathrm M$ のとき、$m=n=\dfrac a2$ である。Stewart の定理は
$$
\frac a2\,(b^2+c^2)=a\Bigl(d^2+\frac{a^2}4\Bigr)
$$
となり、両辺を $\dfrac a2$ で割ると $b^2+c^2=2\Bigl(d^2+\Bigl(\dfrac a2\Bigr)^2\Bigr)$ である。これは $\mathrm{AB}^2+\mathrm{AC}^2=2(\mathrm{AM}^2+\mathrm{BM}^2)$、つまり中線定理である。中線定理の 3 通りの証明と、平行四辺形の法則・内積とのつながりは 中線定理(高校数学) で扱う。
ex-stw-start の三角形では、$d^2=\dfrac{225+169}2-49=197-49=148$ である。座標で $\mathrm M(7,0)$ とすると $\mathrm{AM}^2=2^2+12^2=148$ で一致する。
$\mathrm{AP}$ が角 $A$ の二等分線のとき、角の二等分線の定理 により $m:n=c:b$ である。$m+n=a$ と合わせて $m=\dfrac{ac}{b+c}$、$n=\dfrac{ab}{b+c}$ である。Stewart の定理の左辺は
$$
b^2\cdot\frac{ac}{b+c}+c^2\cdot\frac{ab}{b+c}=\frac{abc\,(b+c)}{b+c}=abc
$$
なので、$abc=a(d^2+mn)$ である。$a$ で割ると
$$
d^2=bc-mn
$$
である。つまり、角の二等分線の長さの 2 乗は、はさむ 2 辺の積から、分けられた 2 つの部分の積を引いたものである。
$c=\mathrm{AB}=6$、$b=\mathrm{AC}=4$、$a=\mathrm{BC}=5$ の三角形では $m=3$、$n=2$ で、$d^2=24-6=18$、$d=3\sqrt2$ である。座標で確かめる。$\mathrm B(0,0)$、$\mathrm C(5,0)$ とおくと、$\mathrm A$ の $x$ 座標は $\dfrac{a^2+c^2-b^2}{2a}=\dfrac{25+36-16}{10}=\dfrac92$、$y$ 座標は $\sqrt{36-\dfrac{81}4}=\dfrac{3\sqrt7}2$ である。二等分線の足は $(3,0)$ なので $d^2=\Bigl(\dfrac32\Bigr)^2+\dfrac{63}4=\dfrac{9+63}4=18$ で一致する。この三角形は 角の二等分線の定理 の冒頭の例「3 辺が 6、4、5 の三角形」と同じで、そこでは座標(ベクトルの成分)で $\mathrm{AD}=3\sqrt2$ を求め、内積で角が等しいことを確かめている。同じ記事の「さらに先へ」で証明せずに述べられている $\mathrm{AD}^2=\mathrm{AB}\cdot\mathrm{AC}-\mathrm{BD}\cdot\mathrm{DC}$ が、ここで示した式である。
垂線の足は、$m$ を先に知らないので、Stewart の定理にそのまま代入はできない。そこで $m$ を $0< m< a$ の範囲で動かし、$d^2$ を $m$ の関数とみる。$n=a-m$ を代入すると
$$
d^2=f(m)=\frac{b^2m+c^2(a-m)}a-m(a-m)
$$
である。ex-stw-start の三角形($a=14$、$b=15$、$c=13$)では
$$
f(m)=\frac{225m+169(14-m)}{14}-14m+m^2=169+4m-14m+m^2=m^2-10m+169=(m-5)^2+144
$$
である。$\mathrm{AP}$ がいちばん短くなるのは $\mathrm{AP}\perp\mathrm{BC}$ のとき(垂線のとき)なので、垂線の足は $f$ が最小になる $m=5$ の点で、垂線の長さの 2 乗は最小値 $144$、つまり垂線の長さは $12$ である。座標 $\mathrm A(5,12)$ と一致する。一般に $f(m)$ の頂点を平方完成で求めると $m=\dfrac{a^2+c^2-b^2}{2a}$ となり、これは $c\cos B$ に等しい(2次関数の最大・最小)。
「垂線がいちばん短い」ことは、$\mathrm P$ を直線 $\mathrm{BC}$ 上で動かすとき $\mathrm{AP}^2=\mathrm{AH}^2+\mathrm{HP}^2$($\mathrm H$ は垂線の足)となる三平方の定理から分かる。ex-stw-altitude の $(m-5)^2+144$ は、ちょうどこの式 $\mathrm{HP}^2+\mathrm{AH}^2$ になっている。
thm-stw-convex は $t$ がどんな実数でも成り立つ。$t>1$ や $t<0$ のとき、$\mathrm P_t$ は線分 $\mathrm{BC}$ の外、直線 $\mathrm{BC}$ の延長の上にある。このときも Stewart の定理は、長さに符号をつければそのまま使える。
ex-stw-start の三角形で、直線 $\mathrm{BC}$ 上の点 $\mathrm P(21,0)$ をとる。$\mathrm P$ は $\mathrm C$ の先にあり、$\vec p=-\dfrac12\vec b+\dfrac32\vec c$($\vec b=(0,0)$、$\vec c=(14,0)$ で $\dfrac32\cdot14=21$)なので $t=\dfrac32$ である。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| $\mathrm P$ が直線 $\mathrm{BC}$ の上にある | $b^2m+c^2n=a(d^2+mn)$($m=\mathrm{BP}$、$n=\mathrm{PC}$、$a=\mathrm{BC}$) | ex-stw-cx-off-line |
| $\mathrm P$ が線分 $\mathrm{BC}$ の上にある(延長上の点に符号なしの長さを使う) | $b^2m+c^2n=a(d^2+mn)$ | ex-stw-cx-unsigned |
| 距離がふつうの長さ(内積から来る長さ)である | $b^2m+c^2n=a(d^2+mn)$ | ex-stw-cx-taxicab |
| 距離を 2 乗して使う | 重み付き平均との差が $\mathrm X$ によらない | rem-stw-not-linear |
$\mathrm B(0,0)$、$\mathrm C(6,0)$、$\mathrm A(3,-4)$、$\mathrm P(3,4)$ とする。$a=\mathrm{BC}=6$、$b=\mathrm{CA}=5$、$c=\mathrm{AB}=5$、$m=\mathrm{BP}=5$、$n=\mathrm{PC}=5$、$d=\mathrm{AP}=8$ である。左辺は $25\cdot5+25\cdot5=250$、右辺は $6\,(64+25)=534$ で、等しくない。$\mathrm P$ は直線 $\mathrm{BC}$ の上になく、$m+n=10\ne6=a$ である。prf-stw-stewart-convex の段 1 で $\mathrm P$ を $\mathrm B$、$\mathrm C$ の凸結合に書いたこと、prf-stw-stewart-cosine の段 1 で $\angle\mathrm{APB}+\angle\mathrm{APC}=180^\circ$ としたことが、どちらも成り立たない。
ex-stw-external の $\mathrm P(21,0)$ で、$m=21$、$n=7$(どちらも正)とすると、左辺 $225\cdot21+169\cdot7=5908$、右辺 $14\,(400+147)=7658$ で等しくない。$\mathrm P$ が線分 $\mathrm{BC}$ の外にあると、正の長さでは $m+n=28\ne14=a$ で、$m-n=a$ になっている。prf-stw-stewart-cosine の段 1 では、$\mathrm P$ が $\mathrm B$ と $\mathrm C$ の間にあることを使って $\angle\mathrm{APC}=180^\circ-\angle\mathrm{APB}$ とした。$\mathrm P(21,0)$ では $\mathrm B$ も $\mathrm C$ も $\mathrm P$ から見て同じ側(左)にあり、半直線 $\mathrm{PB}$ と $\mathrm{PC}$ が同じ向きなので $\angle\mathrm{APC}=\angle\mathrm{APB}$ となって、この関係が崩れる。ex-stw-external の 2 のように $n=-7$ と符号をつければ、等式は成り立つ。
2 点 $(x_1,y_1)$、$(x_2,y_2)$ の距離を $\lvert x_1-x_2\rvert+\lvert y_1-y_2\rvert$(縦と横の移動の合計)で測ることにする。$\mathrm B(0,0)$、$\mathrm C(3,0)$、$\mathrm P(1,0)$、$\mathrm A(1,2)$ とすると、この距離で $a=3$、$m=1$、$n=2$、$c=\mathrm{AB}=1+2=3$、$b=\mathrm{AC}=2+2=4$、$d=\mathrm{AP}=2$ である。左辺は $16\cdot1+9\cdot2=34$、右辺は $3\,(4+2)=18$ で、等しくない。
ふつうの長さで測ると $c^2=5$、$b^2=8$、$d^2=4$ で、左辺 $8\cdot1+5\cdot2=18$、右辺 $3\,(4+2)=18$ と一致する。prf-stw-convex では、長さの 2 乗を内積で展開した(段 2・段 3)。碁盤の目の距離は内積から来る長さではないので、この展開ができない。同じ距離で中線定理が崩れる例は 中線定理(高校数学) にある。
thm-stw-convex の補正項 $t(1-t)\,\mathrm{BC}^2$ には、統計の意味がある。数直線の上で、$0$(点 $\mathrm B$)に重み $1-t$、$a$(点 $\mathrm C$)に重み $t$ を置いたデータを考えると、重み付きの平均は $ta$(点 $\mathrm P_t$)で、平均からのずれの 2 乗の重み付き平均(分散)は
$$
(1-t)(ta)^2+t\bigl((1-t)a\bigr)^2=t(1-t)a^2\bigl(t+(1-t)\bigr)=t(1-t)a^2
$$
である。つまり補正項は 2 点 $\mathrm B$、$\mathrm C$ の重み付きの分散である。この見方で、点の個数を増やしたものが次の命題である。
平面または空間の点 $\mathrm A_1,\dots,\mathrm A_k$ と、和が $1$ の実数 $w_1,\dots,w_k$ に対し、位置ベクトルが $\vec g=w_1\vec a_1+\cdots+w_k\vec a_k$ の点を $\mathrm G$ とする。このとき、どの点 $\mathrm X$ についても
$$
\sum_{i=1}^k w_i\,\mathrm{XA}_i^{\,2}=\sum_{i=1}^k w_i\,\mathrm{GA}_i^{\,2}+\mathrm{XG}^2
$$
が成り立つ。
方針:$\overrightarrow{\mathrm{XA}_i}$ を $\mathrm G$ を経由する 2 つのベクトルの和に分けて 2 乗し、重みを掛けて足す。交差項が消えることを示す。
段 1(分けて展開する)。$\overrightarrow{\mathrm{XA}_i}=\overrightarrow{\mathrm{GA}_i}+\overrightarrow{\mathrm{XG}}$ なので
$$
\mathrm{XA}_i^{\,2}=\mathrm{GA}_i^{\,2}+2\,\overrightarrow{\mathrm{GA}_i}\cdot\overrightarrow{\mathrm{XG}}+\mathrm{XG}^2
$$
である。
段 2(重みを掛けて足す)。$w_i$ を掛けて $i=1,\dots,k$ について足すと
$$
\sum_i w_i\,\mathrm{XA}_i^{\,2}=\sum_i w_i\,\mathrm{GA}_i^{\,2}+2\Bigl(\sum_i w_i\,\overrightarrow{\mathrm{GA}_i}\Bigr)\cdot\overrightarrow{\mathrm{XG}}+\Bigl(\sum_i w_i\Bigr)\mathrm{XG}^2
$$
である。
段 3(交差項は 0)。$\overrightarrow{\mathrm{GA}_i}=\vec a_i-\vec g$ なので
$$
\sum_i w_i\,\overrightarrow{\mathrm{GA}_i}=\sum_i w_i\vec a_i-\Bigl(\sum_i w_i\Bigr)\vec g=\vec g-1\cdot\vec g=\vec 0
$$
である。$\sum_i w_i=1$ なので、段 2 の最後の項は $\mathrm{XG}^2$ である。これで主張を得る。$\square$
prop-stw-weighted では、重みは和が $1$ でありさえすれば負でもよい。$t>1$ の ex-stw-external は、重み $-\dfrac12$ と $\dfrac32$ の場合である。重みがすべて正のとき、$w_i$ を質量と読めば $\mathrm G$ は質量中心で、左辺は点 $\mathrm X$ のまわりの慣性モーメント(質量 × 距離の 2 乗の和)にあたる。命題は、力学で平行軸の定理と呼ばれる式と同じ形をしている。
$\mathrm A$、$\mathrm B$、$\mathrm P$、$\mathrm C$ の 4 点の間の 6 つの距離 $c,d,b,m,n,a=m+n$ を考える。4 点が同じ平面の上にあるとき、6 つの距離の間には 1 つの多項式の関係がある。それを 5 行 5 列の行列式(Cayley–Menger 行列式)で書くと、$\mathrm B$、$\mathrm P$、$\mathrm C$ が一直線上に並ぶ場合には
$$
\text{(Cayley–Menger 行列式)}=-2\,\bigl(b^2m+c^2n-a(d^2+mn)\bigr)^2
$$
と、Stewart の定理の両辺の差の 2 乗になる(右辺の形は行列式を展開して確かめられる有限の計算で、この記事では展開を書かない。数式処理ソフトで確かめた)。Cayley–Menger 行列式は 4 点がつくる四面体の体積の 2 乗の $288$ 倍に等しく、4 点が同じ平面の上にあれば $0$ になる。したがって Stewart の定理は「平面の上の 4 点では四面体の体積が $0$」ということの 1 つの形である。行列式の定義と体積との関係は、次の記事 Heronの公式とCayley–Menger行列式 で扱う。
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