正多角形の頂点までの距離の積(product of distances to the vertices of a regular polygon)とは、原点を中心とする半径 $R$ の円に内接し 1 つの頂点が $R$ にある正 $n$ 角形の頂点 $A_k$ と、複素数 $z$ で表した平面の点 $P$ について、$PA_0\cdot PA_1\cdots PA_{n-1}=\lvert z^n-R^n\rvert$ が成り立つという等式である。$z^n-R^n$ の 1 次式への分解から従う。1 つの頂点から他の $n-1$ 個の頂点までの距離の積は $nR^{n-1}$ で、これは $\prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}n=\frac n{2^{n-1}}$ の図形の意味である。
前提知識: 等間隔の角の正弦の積, 複素数の掛け算は回転と拡大, 剰余の定理と因数定理
正多角形の頂点から点 $P$ までの距離を全部掛けると、どんな値になるだろうか。小さい例で計算してみる。
原点を中心とし、4 つの頂点が $A_0(1,0)$、$A_1(0,1)$、$A_2(-1,0)$、$A_3(0,-1)$ の正方形を考える(外接円の半径は $1$)。
(1) $P$ が中心 $(0,0)$ のとき、4 つの距離はどれも $1$ なので積は $1$ である。
(2) $P=(2,0)$ のとき、距離は $PA_0=1$、$PA_1=PA_3=\sqrt{2^2+1^2}=\sqrt5$、$PA_2=3$ なので
$$
PA_0\cdot PA_1\cdot PA_2\cdot PA_3=1\cdot\sqrt5\cdot3\cdot\sqrt5=15
$$
である。$15=2^4-1$ になっている。
(3) $P$ が頂点 $A_0$ のとき、$PA_0=0$ なので積は $0$ である。$A_0$ を除いた 3 つの距離は $A_0A_1=\sqrt2$、$A_0A_2=2$、$A_0A_3=\sqrt2$ で、積は $4$ である。
原点を中心とし、外接円の半径が $2$ で、1 つの頂点が $A_0(2,0)$ の正六角形を考える。頂点は $A_k=\Bigl(2\cos\dfrac{k\pi}3,\ 2\sin\dfrac{k\pi}3\Bigr)$($k=0,1,\ldots,5$)である。$P=(3,0)$ とすると
$$
PA_0=1,\quad PA_1=PA_5=\sqrt{(3-1)^2+(\sqrt3)^2}=\sqrt7,\quad PA_2=PA_4=\sqrt{(3+1)^2+(\sqrt3)^2}=\sqrt{19},\quad PA_3=5
$$
なので、積は $1\cdot7\cdot19\cdot5=665$ である。$665=729-64=3^6-2^6$ になっている。
どちらの例でも、$P$ が頂点の並ぶ直線 $OA_0$ の上にあるとき、積は「$P$ の座標の $n$ 乗」と「半径の $n$ 乗」の差になった。また (3) の $4$ は、等間隔の角の正弦の積 の値 $\sin\dfrac\pi4\sin\dfrac{2\pi}4\sin\dfrac{3\pi}4=\dfrac12$ の $2^3$ 倍である。この記事で答える問いは次の 2 つである。
| 図形の量 | 複素数平面の言葉 |
|---|---|
| 正 $n$ 角形の頂点 $A_k$ | $R\omega^k$($\omega$ は $1$ の $n$ 乗根) |
| 距離 $PA_k$ | $\lvert z-R\omega^k\rvert$ |
| 距離の積 | $\lvert z^n-R^n\rvert$ |
| 1 つの頂点から他の頂点までの距離の積 | $z^{n-1}+Rz^{n-2}+\cdots+R^{n-1}$ の $z=R$ での値 |
この記事を通して、次の設定をとる。
$n\ge2$、$R>0$ とする。複素数平面で、原点 $O$ を中心とする半径 $R$ の円に内接し、1 つの頂点が $A_0=R$(実軸の上)にある正 $n$ 角形の頂点を
$$
A_k=R\,\omega^k\qquad(k=0,1,\ldots,n-1),\qquad\omega=\cos\frac{2\pi}n+i\sin\frac{2\pi}n
$$
とする($n=2$ のときは 2 点 $R$、$-R$ で、正 $n$ 角形は線分になる)。平面の点 $P$ を複素数 $z$ で表し、$z=d(\cos\theta+i\sin\theta)$($d=\lvert z\rvert\ge0$)と極形式で書く。
$\omega^k$ は単位円を $n$ 等分する点で、それを $R$ 倍した $R\omega^k$ は半径 $R$ の円を $n$ 等分する点である(複素数の掛け算は回転と拡大 の定理「1 の $n$ 乗根」)。2 点 $z$、$w$ の距離は $\lvert z-w\rvert$ なので、$PA_k=\lvert z-R\omega^k\rvert$ である。
def-pdp-setting の設定で、平面のすべての点 $P$ について
$$
PA_0\cdot PA_1\cdots PA_{n-1}=\lvert z^n-R^n\rvert=\sqrt{d^{2n}-2d^nR^n\cos n\theta+R^{2n}}
$$
である。
方針:$z^n-R^n$ を $z-R\omega^k$ の積に分け、絶対値をとる。
段 1(分解)。等間隔の角の正弦の積 の補題「$z^n-1$ の分解」により、すべての複素数 $u$ について $u^n-1=\prod_{k=0}^{n-1}(u-\omega^k)$ である。$u=\dfrac zR$ を代入して両辺に $R^n$ を掛けると、$R^n=R\cdot R\cdots R$($n$ 個)を各因子に 1 つずつ配って
$$
z^n-R^n=R^n\prod_{k=0}^{n-1}\Bigl(\frac zR-\omega^k\Bigr)=\prod_{k=0}^{n-1}\bigl(z-R\omega^k\bigr)
$$
を得る。
段 2(絶対値)。複素数の積の絶対値は絶対値の積なので(複素数の掛け算は回転と拡大)
$$
\lvert z^n-R^n\rvert=\prod_{k=0}^{n-1}\lvert z-R\omega^k\rvert=\prod_{k=0}^{n-1}PA_k
$$
である。
段 3(極形式で書く)。ド・モアブルの定理により $z^n=d^n(\cos n\theta+i\sin n\theta)$ なので、$z^n-R^n=(d^n\cos n\theta-R^n)+i\,d^n\sin n\theta$ であり、
$$
\lvert z^n-R^n\rvert^2=(d^n\cos n\theta-R^n)^2+d^{2n}\sin^2n\theta=d^{2n}(\cos^2n\theta+\sin^2n\theta)-2d^nR^n\cos n\theta+R^{2n}
$$
である。$\cos^2+\sin^2=1$ を使い、正の平方根をとって主張の右辺を得る。$\square$
正七角形の外接円の内側に点 P をとり、P から 7 つの頂点へ線分を引いた図で、7 本の長さの積は |z^7-1| に等しい
主定理 1 の右辺は $d$ と $n\theta$ だけで決まる。とくに、$P$ を原点のまわりに $\dfrac{2\pi}n$ 回転しても積は変わらない。回転で頂点の並びが 1 つずれるだけだからである。$P$ の位置によって、式はさらに簡単になる。
thm-pdp-any-point の設定で、次が成り立つ。
(1) $P$ が中心($d=0$)なら、積は $R^n$ である。
(2) $P$ が半直線 $OA_0$ の上($\theta=0$)なら、積は $\lvert d^n-R^n\rvert$ である。$P$ が半直線 $OA_0$ と $OA_1$ の間の角を 2 等分する半直線の上($\theta=\frac\pi n$)なら、積は $d^n+R^n$ である。
(3) $P$ が外接円の上($d=R$)なら、積は $2R^n\Bigl\lvert\sin\dfrac{n\theta}2\Bigr\rvert$ である。この値は、$P$ が頂点にあるとき $0$、隣り合う 2 頂点の間の弧の中点にあるとき最大値 $2R^n$ をとる。
P が外接円の上を一周するときの積 2|sin(7θ/2)|(R=1、n=7)のグラフで、頂点の位置で 0、隣り合う頂点の間の弧の中点で最大値 2 をとる
| $P$ の位置 | 距離の積 | ex-pdp-square($n=4$、$R=1$)での値 |
|---|---|---|
| 中心 | $R^n$ | $1$ |
| 半直線 $OA_0$ の上で中心から $d$ | $\lvert d^n-R^n\rvert$ | $d=2$ で $15$ |
| 角の 2 等分線の上で中心から $d$ | $d^n+R^n$ | $d=1$ で $2$ |
| 外接円の上 | $2R^n\lvert\sin\frac{n\theta}2\rvert$ | 最大 $2$、最小 $0$ |
| 頂点 | $0$ | $0$ |
$P$ が頂点 $A_0$ にあると積は $0$ になる。$A_0$ 自身への距離 $0$ を除いて、残りの $n-1$ 個の距離を掛けるとどうなるだろうか。
def-pdp-setting の設定で
$$
A_0A_1\cdot A_0A_2\cdots A_0A_{n-1}=nR^{n-1}
$$
である。どの頂点から測っても同じ値になる。
方針:prf-pdp-any-point の段 1 の分解から因子 $z-R$ を取り除き、$z=R$ を代入する。割り算は多項式の等式として行い、極限は使わない。
段 1(2 通りの分解)。$z^n-R^n$ は 2 通りに分解できる。1 つは等比数列の和の形
$$
z^n-R^n=(z-R)\bigl(z^{n-1}+Rz^{n-2}+R^2z^{n-3}+\cdots+R^{n-1}\bigr)
$$
で、右辺を展開すると隣り合う項が打ち消し合って $z^n-R^n$ になる。もう 1 つは prf-pdp-any-point の段 1 の
$$
z^n-R^n=(z-R)\,(z-R\omega)(z-R\omega^2)\cdots(z-R\omega^{n-1})
$$
である($k=0$ の因子 $z-R\omega^0=z-R$ を前に出した)。
段 2(因子を取り除く)。$F(z)=z^{n-1}+Rz^{n-2}+\cdots+R^{n-1}$、$G(z)=(z-R\omega)\cdots(z-R\omega^{n-1})$ とおく。段 1 から、すべての $z$ について $(z-R)F(z)=(z-R)G(z)$、つまり $(z-R)\bigl(F(z)-G(z)\bigr)=0$ である。$z\ne R$ なら $z-R\ne0$ で割れるので $F(z)=G(z)$ である。$F-G$ は $n-1$ 次以下の多項式で、$z\ne R$ の無限に多くの値で $0$ になるので、剰余の定理と因数定理 の定理「根の個数は次数以下」により $F-G=0$ である。よって $z=R$ でも $F(R)=G(R)$ である。
段 3($z=R$ を代入)。$F(R)=R^{n-1}+R\cdot R^{n-2}+\cdots+R^{n-1}=nR^{n-1}$($n$ 個の項がどれも $R^{n-1}$)、$G(R)=(R-R\omega)\cdots(R-R\omega^{n-1})$ なので
$$
nR^{n-1}=\prod_{k=1}^{n-1}\bigl(R-R\omega^k\bigr)
$$
である。
段 4(絶対値)。絶対値をとると、$\lvert R-R\omega^k\rvert=A_0A_k$ なので $nR^{n-1}=\prod_{k=1}^{n-1}A_0A_k$ である。
段 5(ほかの頂点)。原点のまわりの角 $\dfrac{2j\pi}n$ の回転($\omega^j$ を掛ける写像)は距離を変えず、$A_0$ を $A_j$ に移し、頂点全体を頂点全体に移す。よって $A_j$ から他の頂点までの距離の積も $nR^{n-1}$ である。$\square$
この定理は 等間隔の角の正弦の積 の主定理 2 の図形の意味である。正 $n$ 角形の頂点 $A_0$ と $A_k$ は中心角 $\dfrac{2k\pi}n$ をはさむので、等間隔の角の正弦の積 の補題「正弦を単位円の点で表す」により
$$
A_0A_k=R\,\Bigl\lvert1-\omega^k\Bigr\rvert=2R\sin\frac{k\pi}n
$$
である($0<\frac{k\pi}n<\pi$ で正弦は正)。これを主定理 2 に代入すると $\prod_{k=1}^{n-1}2R\sin\frac{k\pi}n=nR^{n-1}$、両辺を $2^{n-1}R^{n-1}$ で割って
$$
\sin\frac\pi n\sin\frac{2\pi}n\cdots\sin\frac{(n-1)\pi}n=\frac n{2^{n-1}}
$$
を得る。前の記事では極限を使って示したこの等式が、ここでは多項式の割り算と代入だけで出た。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 頂点が円を等分する(正多角形) | 円に内接する長方形(正方形でない) | $A_0$ から他の頂点までの距離の積 $=nR^{n-1}$($4$ にならない) |
| $P$ は正多角形と同じ平面の上 | 正方形の中心の真上の点 | 距離の積 $=\lvert z^n-R^n\rvert$ |
| $A_0$ 自身を除く | $A_0A_0$ も掛ける | 積 $=nR^{n-1}$(積は $0$ になる) |
主定理 2 の $R=1$ の場合 $\prod_{k=1}^{n-1}(1-\omega^k)=n$ は、大学向けの 1の冪根 で、$x^n-1$ を 1 の冪根を根とする 1 次式に分解したあとの等式として扱われている。そこから円分多項式(原始 $n$ 乗根だけを根とする多項式)へ進む。
頂点の組すべての距離の積も求まる。Vandermondeの行列式 の命題「1 の冪根の Vandermonde 行列」から、$\bigl\lvert\prod_{0\le k< l\le n-1}(\omega^l-\omega^k)\bigr\rvert^2=n^n$ が出る。左辺は、半径 $1$ の正 $n$ 角形の頂点の組 $\binom n2$ 個すべての距離の積の 2 乗である。主定理 2 を各頂点で使って $n$ 個の積を掛けると、各組の距離を 2 回ずつ掛けることになるので、同じ $n^n$ が得られる。
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