数列

同義語:numerical sequence

概要

数列(numerical sequence)とは、自然数などの連続する整数を添字として実数または複素数を一つずつ対応させたものである。一般項と漸化式で指定でき、項別演算、収束、有界性、実数列の単調性、部分列を調べる。等差・等比数列や一次漸化式の解、周期列の反例を通じて振る舞いを比較し、級数の部分和や数列空間、数値近似への接続を示す。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 自然数, 実数, 複素数, 写像

数列とは

数を番号の順に並べたものを数列(numerical sequence)という。$2,4,6,8,\ldots$ は偶数を並べた数列であり、第 $n$ 項を $a_n=2n$($n\ge1$)と指定できる。番号が大きくなるにつれて項がどう変わるかを調べることが、数列の中心的な問題である。収束、有界性、単調性、部分列という言葉は、その変化の異なる側面を表す(Abb15 Chapter 2)。
数列は点列のうち値が実数または複素数である場合である。点列の記事は任意の集合・位相空間での定義と部分列の一般論を扱う。この記事では数に固有の加減乗除、大小比較、漸化式、級数との関係を具体的に扱う。極限の演算法則と詳しい $\varepsilon$ 論法は数列の極限に譲り、ここでは各操作がどのような数列を作るかに焦点を置く。

添字と項

数列

$K$ を $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とする。数列 $(a_n)_{n\ge n_0}$ とは、ある整数 $n_0$ について添字集合 $\{n\in\mathbb Z\mid n\ge n_0\}$ から $K$ への写像である。$a_n$ を第 $n$ 項、$n$ を添字という。値域が $\mathbb R$ のとき実数列、$\mathbb C$ のとき複素数列という。

多くの場合は $n_0=0$ または $1$ を使う。例えば $a_n=1/n$ は $n\ge1$ で定義されるが、$n=0$ の項は定義されない。「$a_n=1/n$」と式だけを書くときも添字の範囲を明示する必要がある。$a_n=n^2$ なら $n\ge0$ でも $n\ge1$ でも定義できるが、最初の項は異なる。数列は値の集合ではなく、添字を含む写像として考えるので、順序と同じ値の繰り返しを区別する。

同じ項の集合を持つ異なる数列

$a_n=(-1)^n$ と $b_n=(-1)^{n(n+1)/2}$($n\ge0$)はいずれも項の集合が $\{-1,1\}$ である。しかし $a_0,a_1,a_2,a_3=(1,-1,1,-1)$ に対し $b_0,b_1,b_2,b_3=(1,-1,-1,1)$ であり、数列としては異なる。項の集合だけから順序は復元できない。

$a_{n+1}=a_n+2$ と初期値 $a_1=2$ を与える方法も、$a_n=2n$ と一般項を与える方法も、同じ数列を指定する。前者を漸化式、後者を一般項の式という。ただし漸化式だけでは最初の値が定まらないことがある。例えば $a_{n+1}=2a_n$ は、$a_0$ の選び方によって $1,2,4,\ldots$ にも $3,6,12,\ldots$ にもなる。初期値と更新規則を組にして初めて一つの数列が定まる。
有限個の値 $(a_0,\ldots,a_N)$ は有限列であり、無限数列と区別する。無限数列の最初の $N+1$ 項だけを切り取ることもできるが、有限列だけではその後の項は決まらない。例えば $(1,1,1)$ の続きは定数列にも、以後 $0$ になる列にもできる。有限個の項から一般項を推測するときは、追加の規則や仮定が必要である。

数列の演算

同じ添字集合を持つ二つの数列 $(a_n),(b_n)$ には、項ごとの和 $(a_n+b_n)$ と積 $(a_nb_n)$ を作れる。スカラー $c\in K$ による倍 $(ca_n)$ も数列である。除法 $(a_n/b_n)$ は、対象とするすべての添字で $b_n\ne0$ のときに定義できる。$b_n$ が最初の有限個の項でだけ零なら、その項を除いた尾部では商の数列を作れる。

数列全体のベクトル空間

$K$ 値の数列全体 $K^{\mathbb N}$ は、項別の和とスカラー倍で $K$ 上のベクトル空間になる。零ベクトルは定数列 $(0,0,\ldots)$ である。

項別演算の証明

任意の $(a_n),(b_n)\in K^{\mathbb N}$ について各 $n$ の値 $a_n+b_n$ は $K$ に属するので、和は再び数列である。$c\in K$ に対し $ca_n\in K$ だからスカラー倍も同様である。結合律、交換律、分配律などのベクトル空間の公理は、各添字 $n$ で $K$ の対応する等式を適用すれば成り立つ。例えば $((a_n)+(b_n))+(c_n)$ と $(a_n)+((b_n)+(c_n))$ の第 $n$ 項はともに $a_n+b_n+c_n$ である。全項が零の数列は和の単位元、$(-a_n)$ は $(a_n)$ の加法逆元である。従って全公理が成立する。

このベクトル空間は数列を一つの「点」とみなす見方を与える。例えば有界な数列全体はその部分空間になる。$(a_n)$ と $(b_n)$ がそれぞれ $|a_n|\le A$、$|b_n|\le B$ を満たせば、$|a_n+b_n|\le A+B$ であり、$|ca_n|\le |c|A$ だからである。一方、単調増加な実数列全体は一般には部分空間でない。$(a_n)$ が増加しても $(-a_n)$ は減少するからである。集合の性質と、演算について閉じる性質を分けて考える必要がある。

偶数列と平方数列

$a_n=2n$、$b_n=n^2$($n\ge0$)なら和は $a_n+b_n=n^2+2n$、積は $a_nb_n=2n^3$ である。$b_n$ で割る式 $a_n/b_n=2/n$ は $n=0$ では定義できず、$n\ge1$ に限って数列となる。この尾部の商は $0$ に収束するが、元の二つの列はともに無限大へ向かう。項ごとの演算後の振る舞いは、元の各列の性質だけで単純には決まらない。

収束・有界性・単調性

数列の収束と有界性

数列 $(a_n)$ が $L\in K$ に収束するとは、任意の $\varepsilon>0$ に対してある $N$ が存在し、$n\ge N$ なら $|a_n-L|<\varepsilon$ となることである。$|a_n|\le M$ をすべての $n$ について満たす定数 $M\ge0$ があるとき、$(a_n)$ を有界という。

収束は最後の方の項の振る舞いで決まる。有界性はすべての項を一つの範囲に収められるという条件である。収束する数列は有界だが、有界性だけでは収束しない。例えば $(-1)^n$ は $|-1|=|1|=1$ で有界だが、偶数番目は $1$、奇数番目は $-1$ なので一つの値へ近づかない。一方 $a_n=1/(n+1)$ は $0< a_n\le1$ で有界かつ $0$ に収束する。定義を使えば、$1/(n+1)<\varepsilon$ となる番号以降で $|a_n-0|<\varepsilon$ と確かめられる。
複素数列でも絶対値 $|z|$ を用いて収束と有界性を定められる。例えば $z_n=i^n$ は $|z_n|=1$ で有界だが、$1,i,-1,-i$ を周期的に繰り返して収束しない。複素数には実数全体と両立する通常の大小順序がないため、次の単調性は実数列に限って使う。

実数列の単調性

実数列 $(a_n)$ がすべての $n$ で $a_n\le a_{n+1}$ を満たすとき単調増加、$a_n\ge a_{n+1}$ を満たすとき単調減少という。$\le$、$\ge$ を厳密な不等号に替えたものを狭義単調増加、狭義単調減少という。「単調増加」に等号を許すかは文献で異なるため、必要な場面では狭義かどうかを明示する。

$a_n=n$ は狭義単調増加だが有界でなく、$b_n=1/(n+1)$ は狭義単調減少で有界である。$(-1)^n$ は有界だが単調でない。実数の完備性から、上に有界な単調増加列、下に有界な単調減少列は収束する。この定理と上限による証明は点列の記事で扱う。単調性は収束を判定する有力な十分条件だが、必要条件ではない。例えば $a_n=(-1)^n/(n+1)$ は $0$ に収束しても、正負が交互に変わるため単調ではない。

有限個の項の変更と収束

二つの数列 $(a_n),(b_n)$ について、ある $N_0$ 以降のすべての $n$ で $a_n=b_n$ なら、$(a_n)$ が $L$ に収束することと $(b_n)$ が $L$ に収束することは同値である。また片方が有界なら他方も有界である。

有限変更の証明

$a_n\to L$ とし、$\varepsilon>0$ を取る。ある $N_1$ 以降で $|a_n-L|<\varepsilon$ となる。$n\ge\max\{N_0,N_1\}$ なら $b_n=a_n$ だから $|b_n-L|<\varepsilon$。逆向きも $a,b$ を入れ替えれば同じである。有界性について、$|a_n|\le M$ であれば、$n< N_0$ に現れる $b_n$ は有限個なので、それらの絶対値と $M$ の最大値が $(b_n)$ 全体の上界になる。逆向きも同様である。

例えば最初の項だけを $10^{100}$ に替えても、後の項が $1/n$ なら極限は依然 $0$ であり、数列全体も有界である。ただし単調性は有限個の項の変更で壊れ得る。$(1,2,3,\ldots)$ の最初の項だけを $100$ にすると、$100,2,3,\ldots$ は単調増加でない。このため収束の議論では有限個の例外を許しても、全項についての単調性を主張するときは別途確認する。

部分列と振動

数列の部分列

$(a_n)$ と狭義単調増加な整数列 $n_1< n_2<\cdots$ に対して、$(a_{n_k})_{k\ge1}$ を $(a_n)$ の部分列という。元の項から順序を保って無限個を抜き出した数列である。

狭義単調増加な自然数列は $n_k\ge k+c$ となるため、$k\to\infty$ なら $n_k\to\infty$ である。このことから $a_n\to L$ なら任意の部分列 $a_{n_k}\to L$ が従う。実際、収束の定義で指定された $N$ に対して $n_k\ge N$ となるまで $k$ を大きくすれば、$|a_{n_k}-L|<\varepsilon$ となる。従って二つの部分列が異なる極限を持つ数列は収束しない。

偶数番目と奇数番目

$a_n=(-1)^n+1/n$($n\ge1$)を考える。偶数番目は $a_{2k}=1+1/(2k)\to1$、奇数番目は $a_{2k-1}=-1+1/(2k-1)\to-1$ である。異なる二つの部分列の極限があるため、元の数列は収束しない。$1/n$ が $0$ に近づいても、交互に加えた $(-1)^n$ の振動は残る。

ある数列に収束する部分列が存在することは、元の数列の収束を意味しない。$(-1)^n$ の偶数番目は定数列 $1$、奇数番目は定数列 $-1$ である。反対に、実数の有界列には必ず収束する部分列があるという Bolzano–Weierstrass の定理が成り立つ。これは有界列全体の収束を言うのではなく、その中に収束する「抜き出し方」があるという主張である。証明と一般の点列への見方は点列を参照する。

周期数列の収束

数列 $(a_n)_{n\ge n_0}$ が周期 $p\ge1$ を持ち、すべての $n\ge n_0$ で $a_{n+p}=a_n$ となるとする。この数列が収束することと、すべての項が同じ値であることは同値である。

周期数列の収束の証明

$a_n\to L$ とする。各 $j\in\{n_0,n_0+1,\ldots,n_0+p-1\}$ に対して $a_j,a_{j+p},a_{j+2p},\ldots$ は定数列 $a_j$ で、同時に収束列 $(a_n)$ の部分列である。部分列は元と同じ $L$ に収束するため $a_j=L$。すべての剰余類の代表 $j$ でこれが成り立ち、周期性からすべての項は $L$ になる。逆に定数列はその定数へ収束する。

これは $(-1)^n$ や $i^n$ が収束しないことを一度に説明する。周期 $2$ または $4$ の中に異なる値があるからである。数列の周期性は数論の剰余類からも現れる。例えば $n$ を $3$ で割った余りの列 $0,1,2,0,1,2,\ldots$ は周期 $3$ で有界だが収束しない。離散的な反復現象を数列として捉えると、極限と周期性の違いを明確にできる。

等差・等比数列と漸化式

等差数列と等比数列

$a_{n+1}=a_n+d$ を満たす数列を公差 $d$ の等差数列、$a_{n+1}=r a_n$ を満たす数列を公比 $r$ の等比数列という。初期値を $a_0$ とすれば、それぞれ $a_n=a_0+nd$、$a_n=a_0r^n$ である。ここでは $r^0=1$ と約束する。

等差数列の一般項は、更新式を $n$ 回適用して得られる。$d=0$ なら定数列であり、$d\ne0$ なら $|a_0+nd|\ge n|d|-|a_0|$ なので有界でなく、有限値へ収束しない。実数列では $d>0$ のとき狭義単調増加、$d<0$ のとき狭義単調減少である。複素数の $d$ には大小を使わないが、$d\ne0$ なら絶対値が発散する結論は同じである。

等比数列の収束

$a_n=c r^n$($n\ge0$、$c,r\in\mathbb C$)とする。$c=0$ なら定数列 $0$ である。$c\ne0$ なら、$|r|<1$ のとき $a_n\to0$、$r=1$ のとき定数列 $c$ であり、それ以外の場合は有限値に収束しない。

等比数列の収束の証明

$|r|<1$ なら $|a_n|=|c|\,|r|^n\to0$ なので $a_n\to0$。$r=1$ は明らかである。$|r|>1$ なら $|a_n|=|c|\,|r|^n\to\infty$ となり有界でない。残る $|r|=1$ で $r\ne1$ の場合を考える。もし $a_n\to L$ なら絶対値の連続性から $|L|=|c|>0$ であり、漸化式 $a_{n+1}=r a_n$ の両辺の極限を取ると $L=rL$ となる。$L\ne0$ だから $r=1$ となり矛盾する。

例えば $a_n=(1/2)^n$ は $0$ に収束し、$a_n=2^n$ は有界でない。$a_n=(-1)^n$ は絶対値が一定でも収束しない。複素数の $r=e^{i\theta}$ が単位円上にあるときも、$r=1$ でない限り収束しない。周期的な場合だけでなく、単位円上を無限に巡る場合も上の証明が一括して扱う。

一次の漸化式

$a_{n+1}=r a_n+b$($n\ge0$)と初期値 $a_0$ で複素数列を定める。$r\ne1$ なら $p=b/(1-r)$ と置くと
$$ a_n=p+(a_0-p)r^n $$
である。特に $|r|<1$ なら、初期値にかかわらず $a_n\to p$ となる。$r=1$ なら $a_n=a_0+nb$ である。

一次漸化式の解の証明

$p=b/(1-r)$ は $p=rp+b$ を満たす。$u_n=a_n-p$ と置くと $u_{n+1}=a_{n+1}-p=r(a_n-p)=ru_n$ となる。帰納法で $u_n=u_0r^n=(a_0-p)r^n$。これを戻せば表示式を得る。$|r|<1$ のとき $r^n\to0$ なので $a_n\to p$。$r=1$ のときは毎回 $b$ を足すため $n$ 回後に $a_0+nb$ となる。

例えば $a_{n+1}=a_n/2+3$、$a_0=0$ なら不動点は $p=6$ で、$a_n=6-6(1/2)^n$ と求められる。項は $0,3,4.5,\ldots$ と増え、$6$ に近づく。極限が存在すると仮定して方程式 $L=L/2+3$ を解くだけでは、実際に極限が存在する証明にはならない。上の一般項と $|r|<1$ が、その不足を埋める。

ほかの分野で数列を使うとき

級数は部分和の数列

数列 $(a_n)_{n\ge0}$ から部分和 $s_N=\sum_{n=0}^{N}a_n$ を作ると、$(s_N)$ も数列になる。無限級数 $\sum_{n=0}^{\infty}a_n$ が収束するとは、部分和の数列が有限の極限を持つことである。項の列 $(a_n)$ と部分和の列 $(s_N)$ を区別することが、級数の議論の第一歩となる。例えば $a_n=2^{-n}$ では $s_N=2-2^{-N}$ だから部分和は $2$ に収束する。一方、$a_n=1$ なら各項は有界でも $s_N=N+1$ は有界でない。

級数の収束に必要な条件

部分和 $s_N=\sum_{n=0}^{N}a_n$ が収束するなら、元の数列は $a_n\to0$ を満たす。ただし $a_n\to0$ だけでは部分和の収束は保証されない。

部分和から項への証明

$s_N\to S$ なら、$N\ge1$ について $a_N=s_N-s_{N-1}$ であり、$s_N$ と $s_{N-1}$ はともに $S$ に収束する。よって $a_N\to S-S=0$。逆は成り立たない。例えば $a_n=1/(n+1)$ は $0$ に収束するが、その部分和は発散する。実際、$1+1/2+\cdots+1/2^m$ を $2^{j-1}< n\le2^j$ ごとに区切ると、各群には $2^{j-1}$ 個の項があり、各項は $1/2^j$ 以上なので各群の和は $1/2$ 以上になる。群の数を増やせば部分和は上に有界でない。

数列空間と近似計算

有界な数列の全体は $\ell^\infty$ と書かれ、$\|(a_n)\|_\infty=\sup_n|a_n|$ というノルムを持つ。すべての項が有界であるから上限は有限である。数列の項ごとの演算とこのノルムを組み合わせると、無限次元の解析を行う空間になる。$0$ に収束する数列の全体 $c_0$ はその部分空間であり、例えば $(1/(n+1))$ は $c_0$ に入るが $((-1)^n)$ は入らない。これは数列を個々の値としてだけでなく、関数解析の対象として見る接続である。
数値計算でも、計算を一回進めるたびの近似値 $q_0,q_1,\ldots$ は数列になる。例えば正の実数 $\alpha$ に対し、$q_n=10^{-n}\lfloor10^n\alpha\rfloor$ は小数第 $n$ 位で切り捨てた近似である。床関数の定義から $q_n\le\alpha< q_n+10^{-n}$ だから $0\le\alpha-q_n<10^{-n}\to0$ となり、$q_n\to\alpha$ が厳密に分かる。近似値が並んでいるだけでは精度は分からず、このような誤差評価が収束の根拠になる。
確率論では確率変数 $X_0,X_1,\ldots$ を並べたものも数列に似た構造を持つ。各標本点 $\omega$ を固定すれば $(X_n(\omega))$ は普通の数列である。ただし「各 $\omega$ での収束」、例外集合を許す「ほとんど確実な収束」、確率で測る収束は異なる概念である。数列の添字と値という枠組みは共通でも、値の間にどの構造を入れ、どの意味で極限を取るかを指定する必要がある。

反例の表

本文の命題の仮定を外すと結論が崩れる例と、収束・有界・単調の間の含意が成り立たない例をまとめる。

外す条件反例成り立たなくなること
収束(有界だけにする)$(-1)^n$一つの値へ近づくこと
有界(単調だけにする)$a_n=n$単調列は収束する
実数の完備性(値を $\mathbb Q$ に制限)$\sqrt2$ の切り捨て近似 $q_n\in\mathbb Q$上に有界な単調増加列は収束する
$\lvert r\rvert<1$(thm-numerical-sequence-affine-recurrence)$a_{n+1}=2a_n-6$、$a_0=0$初期値によらず不動点へ収束
部分和の収束(項が $0$ に近づくだけにする)$a_n=1/(n+1)$級数が収束する(prop-numerical-sequence-series-term)
全項が同じ値(prop-numerical-sequence-periodic)$n$ を $3$ で割った余りの列周期数列が収束する
有限個の例外を許さないこと$100,2,3,4,\ldots$有限個の項の変更で単調性が保たれる
反例:有理数の中では有界な単調列が収束しない

$q_n=10^{-n}\lfloor10^n\sqrt2\rfloor$ とする(「数列空間と近似計算」の節で $\alpha=\sqrt2$ としたもの)。$q_n$ は有理数で、$\lfloor10^{n+1}\sqrt2\rfloor\ge10\lfloor10^n\sqrt2\rfloor$ から $q_{n+1}\ge q_n$、また $q_n\le\sqrt2<2$ なので、上に有界な単調増加列である。$\mathbb R$ の中では $q_n\to\sqrt2$ だが、極限は一意なので $\mathbb Q$ の中の極限はありえない($\sqrt2\notin\mathbb Q$)。したがって値の範囲を $\mathbb Q$ に制限すると、単調収束定理は成り立たない。破るのは実数の完備性(上限の存在)である。

反例:$\lvert r\rvert\ge1$ では一次漸化式は初期値によって発散する

$a_{n+1}=2a_n-6$ では $r=2$、$b=-6$ で、不動点は $p=-6/(1-2)=6$ である。thm-numerical-sequence-affine-recurrence の表示式は $r\ne1$ なら成り立つので $a_n=6+(a_0-6)2^n$ となる。$a_0=6$ なら定数列 $6$ だが、$a_0=0$ なら $a_n=6-6\cdot2^n\to-\infty$ で収束しない。方程式 $L=2L-6$ の解 $L=6$ は存在するのに、数列は $6$ に近づかない。破るのは $\lvert r\rvert<1$ であり、極限の候補を方程式で求めるだけでは収束の証明にならないことを示す。

残りの行は本文で確かめた。$(-1)^n$ は「収束・有界性・単調性」の節、$a_n=n$ は有界でない単調増加列、$1/(n+1)$ の部分和の発散は prop-numerical-sequence-series-term の証明、余りの列 $0,1,2,0,1,2,\ldots$ は周期 $3$ で異なる値をもつので収束しない。$100,2,3,\ldots$ は有限個の変更で単調性が壊れる例である。

関連項目

参考文献

[1]
Stephen Abbott, Understanding Analysis, Springer, 2015, Chapter 2, Sequences and Series, pp. 39–84

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