完備化(completion)とは、可換環 $A$ とイデアル $I$ に対し、$I$ の高い冪に属する元ほど $0$ に近いとする $I$ 進位相で $A$ を完備にした環 $\hat{A}=\varprojlim_n A/I^n$ のことで、加群にも同様に定める。多項式環から形式的冪級数環を、$\mathbb{Z}$ から $p$ 進整数環 $\mathbb{Z}_p$ を作る操作が原型である。$A\to\hat{A}$ の核は $\bigcap_n I^n$ で、Noether 局所環では Krull の交叉定理により $0$ になる。Noether 環の完備化は平坦かつ Noether で $\hat{A}/I\hat{A}\cong A/I$ をみたし、極大イデアルでの完備化は Hensel の補題が成り立つ完備局所環になる。結節点をもつ曲線のように、既約性は完備化で壊れうる。
前提知識: 可換環, イデアル, 加群, 射影極限, Noether環, 局所環
完備化は、可換環 $A$ とそのイデアル $I$ に対して、「$I$ の高い冪に属する元ほど $0$ に近い」と考える位相($I$ 進位相)に関して $A$ を完備にする操作である。有理数から実数を作るときのようにCauchy列の極限を付け加えると考えてもよいし、剰余環 $A/I^n$ の射影極限をとると考えてもよく、両者は一致する。本記事では射影極限による定義を採用する。
$A$ を可換環、$I$ をそのイデアル、$M$ を $A$ 加群とする。$M$ の部分加群の減少列
$$
M\supset IM\supset I^2M\supset\cdots\supset I^nM\supset\cdots
$$
を $0$ の基本近傍系とする $M$ の位相、すなわち「$U\subset M$ が開であるとは、任意の $x\in U$ に対しある $n$ が存在して $x+I^nM\subset U$ となることをいう」と定めた位相空間の構造を、$M$ の $I$ 進位相($I$-adic topology)という。$M=A$ のときは $A$ の $I$ 進位相という。加法 $M\times M\to M$ と乗法 $A\times M\to M$ はこの位相に関して連続写像であり、$A$ は位相環、$M$ は位相 $A$ 加群になる。
各剰余類 $x+I^nM$ は開集合であり、その補集合は剰余類の和集合なので、$x+I^nM$ は閉集合でもある。$I$ 進位相が Hausdorff空間の位相であることと $\bigcap_nI^nM=0$ であることが同値であることは prop-completion-of-ring-basic で示す。
$A$ を可換環、$I$ をそのイデアル、$M$ を $A$ 加群とする。自然な全射 $M/I^{n+1}M\to M/I^nM$ を推移写像とする射影系 $(M/I^nM)_{n\ge1}$ の射影極限
$$
\hat{M}:=\varprojlim_nM/I^nM=\Bigl\{(x_n)_{n\ge1}\in\prod_{n\ge1}M/I^nM\ \Bigm|\ \text{各 }n\text{ について }x_{n+1}\text{ の }M/I^nM\text{ での像が }x_n\Bigr\}
$$
を $M$ の $I$ 進完備化($I$-adic completion)という。$M=A$ のとき $\hat{A}=\varprojlim_nA/I^n$ は成分ごとの演算で可換環になり、$\hat{M}$ は成分ごとの作用で $\hat{A}$ 加群になる。$x\in M$ にその各剰余類の列 $(x\bmod I^nM)_n$ を対応させる写像
$$
\iota_M\colon M\longrightarrow\hat{M}
$$
は $A$ 加群の準同型であり($M=A$ のときは環準同型 $\iota_A\colon A\to\hat{A}$)、$M$ が $I$ 進位相に関して分離(separated)であるとは $\iota_M$ が単射であること、完備(complete)であるとは $\iota_M$ が全射であることをいう。$\iota_M$ が同型のとき $M$ は $I$ 進完備分離であるという。$I$ 進完備分離な環を $I$ 進完備環、極大イデアル $\mathfrak{m}$ について $\mathfrak{m}$ 進完備分離な局所環を完備局所環(complete local ring)という。
$\hat{M}$ は $\hat{A}$ 加群であるだけでなく、$\iota_A$ を通して $A$ 加群でもあり、$\iota_M$ は $A$ 加群の準同型である。また $\hat{M}$ には射影極限としての自然な位相、すなわち
$$
\hat{M}_n:=\ker\bigl(\hat{M}\to M/I^nM\bigr)=\{(x_k)_k\in\hat{M}\mid x_1=\cdots=x_n=0\}
$$
を $0$ の基本近傍系とする位相が入る。$I^n\hat{M}\subset\hat{M}_n$ はつねに成り立つが、等号は一般には成り立たない(ex-completion-of-ring-non-noetherian)。$A$ が Noether環で $M$ が有限生成加群なら等号が成り立ち、この位相は $\hat{M}$ の $I$ 進位相(正確には $I\hat{A}$ 進位相)に一致する(prop-completion-of-ring-exact)。
Atiyah–Macdonald AM69 や松村 Mat89 は「$\iota_M$ が同型」であることを「$M$ は完備である」とよぶ。本記事は分離(単射)と完備(全射)を分けて述べ、両方成り立つとき完備分離という。$\bigcap_nI^nM=0$ のとき、$x-y\in I^nM$ となる最大の $n$ を $\nu(x-y)$ として $d(x,y):=2^{-\nu(x-y)}$($x=y$ のとき $0$)とおくと $d$ は距離空間の構造を与え、$I$ 進位相はこの距離の位相に一致する。このとき $\hat{M}$ は距離空間 $(M,d)$ の完備距離空間としての完備化と一致し、$M$ の Cauchy 列——任意の $n$ に対しある $N$ があって $k,l\ge N$ ならば $x_k-x_l\in I^nM$ となる列——の全体を、零列($x_k\to0$)を法として割ったものとしても $\hat{M}$ を構成できる(AM69 第 10 章)。実際 Cauchy 列 $(x_k)$ に対し、各 $n$ について $k\ge N(n)$ での $x_k\bmod I^nM$ は一定であり、この値を第 $n$ 成分とすれば $\hat{M}$ の元が定まる。
完備化は、有限和しか許さない代数の世界に「$I$ 進位相で収束する無限和」を付け加える操作である。多項式環 $k[x]$ から形式的冪級数環 $k[\![x]\!]$ を作るのがその原型で、$x$ の高い冪ほど小さいと考えるから $\sum a_nx^n$ が意味をもつ。整数の環 $\mathbb{Z}$ で素数 $p$ の高い冪ほど小さいと考えれば $p$ 進整数環 $\mathbb{Z}_p$(p進数)が得られる。
幾何的には、代数多様体の点 $x$ における局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ の極大イデアルに関する完備化 $\widehat{\mathcal{O}}_{X,x}$ は、「$x$ における Taylor展開の環」であり、$x$ の無限小近傍だけを見ている。局所化 $\mathcal{O}_{X,x}$ が Zariski位相の意味での近傍(多様体の稠密な開集合。稠密部分集合)の情報を保っているのに対し、完備化はそれを忘れる代わりに、複素解析における収束冪級数(収束冪級数環)と同じような扱いやすさ——Hensel の補題(Hensel局所環)による方程式の解の持ち上げ、Cohen の構造定理による具体的な表示——を手に入れる。その代償として、大域的な性質である既約性は完備化で壊れることがある(ex-completion-of-ring-node)。
$A=\mathbb{Z}$、$I=(p)$($p$ は素数)とすると、$\hat{\mathbb{Z}}=\varprojlim_n\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ は $p$ 進整数環 $\mathbb{Z}_p$ である(p進数)。両立する列 $(x_n)$ の各成分を $0\le x_n< p^n$ の整数で代表すると、$x_{n+1}\equiv x_n\pmod{p^n}$ より $x_{n+1}=x_n+a_np^n$($0\le a_n< p$)と書けるので、$\mathbb{Z}_p$ の元は $p$ 進展開 $\sum_{n\ge0}a_np^n$($0\le a_n< p$)と 1 対 1 に対応する。$\mathbb{Z}$ は $(p)$ 進位相で分離だが完備でない($\sum_np^n$ に対応する元は整数でない)。$I=(p)$ は極大イデアルなので $\mathbb{Z}_p$ は局所環であり(prop-completion-of-ring-local)、剰余体は $\mathbb{F}_p$、極大イデアルは $p\mathbb{Z}_p$ である。相異なる $r\ge2$ 個の素因数をもつ合成数 $m=p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$ については、中国剰余定理により $\mathbb{Z}/m^n\mathbb{Z}\cong\prod_i\mathbb{Z}/p_i^{ne_i}\mathbb{Z}$ なので、$(m)$ 進完備化は直積 $\prod_i\mathbb{Z}_{p_i}$ であり、局所環ではない($r=1$、たとえば $m=p^2$ なら $(m)$ 進位相は $(p)$ 進位相と同じで、完備化は $\mathbb{Z}_p$ である)。
$R$ を可換環、$A=R[x_1,\dots,x_r]$、$I=(x_1,\dots,x_r)$ とする。$A/I^n$ は、全次数 $n$ 以上の単項式を $0$ とみなした環であり、$R$ 加群としては全次数 $n$ 未満の単項式を基底とする自由加群である。推移写像 $A/I^{n+1}\to A/I^n$ は次数 $n$ の項を切り捨てる写像なので、両立する列とは「次数 $d$ の斉次成分(斉次多項式)$f_d$ を各 $d$ について 1 つずつ定めたもの」にほかならず、
$$
\hat{A}=\varprojlim_nA/I^n=R[\![x_1,\dots,x_r]\!]
$$
である。多項式環 $A$ は分離だが完備でない。
$\mathfrak{m}$ が $A$ の極大イデアルのとき、$A$ の $\mathfrak{m}$ 進完備化と局所化 $A_{\mathfrak{m}}$ の $\mathfrak{m}A_{\mathfrak{m}}$ 進完備化は一致する。実際、$A/\mathfrak{m}^n$ において $\mathfrak{m}^n$ を含む素イデアルは $\mathfrak{m}$ だけなので $A/\mathfrak{m}^n$ は局所環であり、$s\notin\mathfrak{m}$ の像は単元である。したがって $S=A\setminus\mathfrak{m}$ による局所化は $A/\mathfrak{m}^n$ を変えず、局所化の完全性から
$$
A_{\mathfrak{m}}/\mathfrak{m}^nA_{\mathfrak{m}}=S^{-1}(A/\mathfrak{m}^n)=A/\mathfrak{m}^n
$$
となり、射影極限も一致する。とくに $k$ を体とすると $k[x]_{(x)}$ の完備化は $k[\![x]\!]$ であり、$\mathbb{Z}_{(p)}$ の完備化は $\mathbb{Z}_p$ である。より一般に、点 $a=(a_1,\dots,a_r)\in k^r$ に対応する極大イデアル $\mathfrak{m}_a=(x_1-a_1,\dots,x_r-a_r)$ について $\widehat{k[x_1,\dots,x_r]_{\mathfrak{m}_a}}=k[\![x_1-a_1,\dots,x_r-a_r]\!]$ であり、多項式 $f$ の像は $f$ の点 $a$ における Taylor 展開である。$k[\![x_1,\dots,x_r]\!]$ は極大イデアル $(x_1,\dots,x_r)$ をもつ完備局所環であり、正則局所環である。
原点の近傍で収束する 1 変数の複素冪級数の全体 $\mathbb{C}\{z\}$(収束冪級数環。正則関数の原点での芽の環)は、$\mathbb{C}[\![z]\!]$ の部分環であり、極大イデアル $(z)$ をもつ局所環である。$\mathbb{C}\{z\}/(z^n)=\mathbb{C}[z]/(z^n)$ なので(収束級数は次数 $n$ 未満の切り捨てと $z^n\mathbb{C}\{z\}$ を法として合同であり、次数 $n$ 未満の多項式は $0$ 以外 $z^n\mathbb{C}\{z\}$ に属さない)、$\mathbb{C}\{z\}$ の $(z)$ 進完備化は $\mathbb{C}[\![z]\!]$ である。$\mathbb{C}\{z\}$ は分離である($\bigcap_nz^n\mathbb{C}[\![z]\!]=0$ だから)が、完備ではない。実際 $\sum_nn!\,z^n$ は収束半径 $0$ の級数なので $\mathbb{C}\{z\}$ に属さず、その部分和の列は $\mathbb{C}\{z\}$ の Cauchy 列であって極限をもたない。したがって
$$
\mathbb{C}[z]_{(z)}\subsetneq\mathbb{C}\{z\}\subsetneq\mathbb{C}[\![z]\!]
$$
であり、3 つの環の $(z)$ 進完備化はいずれも $\mathbb{C}[\![z]\!]$ である。$\mathbb{C}\{z\}$ は完備でないにもかかわらず Hensel の補題をみたす(Hensel局所環 の記事の例)ので、完備性は Hensel 性より真に強い条件である。
$k$ を体、$A=k[x_1,x_2,x_3,\dots]$ を可算無限個の変数の多項式環、$I=(x_1,x_2,\dots)$ とする。$A$ は Noether 環でなく、$I$ は有限生成でない。ex-completion-of-ring-power-series と同じ理由で、$\hat{A}=\varprojlim A/I^n$ の元は各次数 $d$ の斉次多項式 $f_d\in A$(有限個の単項式の和)を並べた形式和 $\sum_{d\ge0}f_d$ である。
まず $I\hat{A}\subsetneq\hat{A}_1=\ker(\hat{A}\to A/I)$ を示す。$b:=\sum_{k\ge1}x_k^k\in\hat{A}_1$ とおく。$b\in I\hat{A}$ とすると、$I$ の生成元は $x_i$ なので有限個の $g_1,\dots,g_m\in\hat{A}$ により $b=\sum_{i=1}^mx_ig_i$ と書ける。右辺に現れる単項式はすべて $x_1,\dots,x_m$ のいずれかで割り切れるが、左辺の単項式 $x_{m+1}^{m+1}$ はそうでない。これは矛盾である。したがって自然な全射 $\hat{A}/I\hat{A}\to A/I$ は単射でなく、$\hat{A}/I\hat{A}\cong A/I$ という prop-completion-of-ring-exact の結論は Noether 性を外すと成り立たない。
次に、$\hat{A}$ が $I\hat{A}$ 進位相に関して完備でないことを示す。$b_n:=\sum_{k=1}^{n-1}x_k^k\in A$ とおくと $b_{n+1}-b_n=x_n^n\in I^n$ なので、$(b_n\bmod I^n\hat{A})_n$ は $\varprojlim_n\hat{A}/I^n\hat{A}$ の元である。これがある $b'\in\hat{A}$ の像であるとすると、任意の $n$ について $b'-b_n\in I^n\hat{A}\subset\hat{A}_n$ であり、$b'$ の第 $n$ 成分は $b_n$ の像に等しい。それは $b$ の第 $n$ 成分でもあるから $b'=b$ である。すると $b-b_1=b\in I\hat{A}$ となり、前段に矛盾する。よって $\hat{A}\to\varprojlim_n\hat{A}/I^n\hat{A}$ は全射でない。この例は「$A$ が Noether 環である」という仮定を破っており、「完備化は $I$ 進完備である」「$\hat{A}/I\hat{A}\cong A/I$」という結論をいずれも破る。Stacks Project Stacks の Algebra の章の Completion の節にも同じ例がある。$I$ が有限生成であれば、$A$ が Noether でなくても $\hat{A}$ は $I\hat{A}$ 進完備分離である(Stacks 同節)。
$k$ を標数 $2$ でない体、$f=y^2-x^2(x+1)\in k[x,y]$、$B=k[x,y]_{(x,y)}$、$A=B/fB$ とする。$A$ は結節点をもつ平面 3 次曲線 $y^2=x^2(x+1)$ の原点における局所環である。
$A$ は整域である。実際 $f$ は $k[x][y]$ の $y$ について 2 次のモニック多項式であり、$f$ が $k[x,y]$ で可約(既約多項式でない)なら $y$ について 1 次の因子をもち、$x^2(x+1)$ が $k(x)$ の平方になるが、$k[x]$ は一意分解整域で $x+1$ が $x^2(x+1)$ に 1 回だけ現れるので、Gaussの補題により $x^2(x+1)$ は $k(x)$ の平方でない。よって $f$ は既約であり、$k[x,y]/(f)$ は整域、その局所化 $A$ も整域である。$\dim A=1$ である($B$ は 2 次元の正則局所環で整域、$f\neq0$ はその非単元、すなわち $B$ の極大イデアルに属する非零因子なので、$\dim B/fB=\dim B-1=1$ である。AM69 第 11 章 Corollary 11.18。Krullの単項イデアル定理からも従う)。
一方、完備化 $\hat{A}$ は整域でない。prop-completion-of-ring-exact により $\hat{A}=\hat{B}/f\hat{B}$ であり、ex-completion-of-ring-power-series により $\hat{B}=k[\![x,y]\!]$ である。$k[\![x]\!]$ の中で $1+x$ は平方根をもつ。実際 $u=\sum_{n\ge0}u_nx^n$、$u_0=1$ とおいて $u^2=1+x$ の $x^n$ の係数を比べると、$n\ge1$ について
$$
2u_n=\delta_{n,1}-\sum_{i=1}^{n-1}u_iu_{n-i}
$$
となり、$2$ が $k$ で可逆なので $u_n$ が順に定まる。すると $k[\![x,y]\!]$ において
$$
f=y^2-x^2u^2=(y-xu)(y+xu)
$$
である。$y\pm xu$ は $f\hat{B}$ に属さない。$k[\![x,y]\!]$ の元の位数($0$ でない斉次成分の最小次数)は積について加法的(斉次成分の最低次の部分の積が $k[x,y]$ で $0$ にならないから)であり、$f\hat{B}$ の $0$ でない元の位数は $\operatorname{ord}f=2$ 以上だが、$y\pm xu$ の位数は $1$ だからである。したがって $\hat{A}$ において $y-xu$ と $y+xu$ は $0$ でなく、積が $0$ である。すなわち $\hat{A}$ は零因子をもち、整域でない。$\hat{A}$ の極小素イデアルは $(y-xu)$ と $(y+xu)$ の 2 つで、結節点で交わる 2 本の「解析的な枝」$y=\pm x\sqrt{1+x}$ に対応する。
この例は「$A$ が整域である」という性質を保ちながら「$\hat{A}$ が整域である」という性質を破り、「既約性は完備化で保たれる」という含意を破る。一方で次元は保たれ、$\dim\hat{A}=\dim A=1$ である(Noether 局所環では一般に $\dim\hat{A}=\dim A$。AM69 第 11 章 Corollary 11.19)。Hartshorne Har77 I §5 は、この曲線が原点で $xy=0$ と「解析的に同型」であること、すなわち $\hat{A}\cong k[\![x,y]\!]/(xy)$ であることを述べている($y-xu$、$y+xu$ を新しい変数にとればよい。この変数変換の線形部分の行列式は $-2\neq0$ なので、$k[\![x,y]\!]$ の自己同型を定める)。
$A$ を可換環、$I$ をイデアル、$M$ を $A$ 加群とする。
以下の主要な結果は $A$ が Noether 環の場合に成り立つもので、鍵になるのは Artin–Rees の補題である。$I=(a_1,\dots,a_r)$ に対し、多項式環 $A[t]$ の部分環
$$
A^{*}:=\bigoplus_{n\ge0}I^nt^n=A[a_1t,\dots,a_rt]
$$
を $I$ の Rees 環という。$A$ が Noether 環なら $A^{*}$ は有限生成 $A$ 代数なので、Hilbertの基底定理により Noether 環である。
$A$ を Noether 環、$I$ をイデアル、$M$ を有限生成 $A$ 加群、$N\subset M$ を部分加群とする。このとき整数 $c\ge0$ が存在して、すべての $n\ge c$ について
$$
I^nM\cap N=I^{n-c}(I^cM\cap N)
$$
が成り立つ。とくに $I^nN\subset I^nM\cap N\subset I^{n-c}N$ であり、$N$ の $I$ 進位相は $M$ の $I$ 進位相から誘導される相対位相に一致する。
$M^{*}:=\bigoplus_{n\ge0}I^nMt^n$ は、$a t^m\in I^mt^m$ と $xt^n\in I^nMt^n$ の積を $axt^{m+n}$ で定めて次数付き環 $A^{*}$ 上の次数付き加群になる。$M$ の生成元 $m_1,\dots,m_s$ は次数 $0$ の元として $M^{*}$ を生成する($I^nM$ の元は $\sum a_jm_j$、$a_j\in I^n$ と書け、$a_jt^n\in A^{*}$ だから)ので、$M^{*}$ は有限生成 $A^{*}$ 加群であり、$A^{*}$ が Noether 環なので Noether加群である。$N^{*}:=\bigoplus_{n\ge0}(I^nM\cap N)t^n$ は $M^{*}$ の部分加群である($a\in I^m$、$x\in I^nM\cap N$ なら $ax\in I^{m+n}M\cap N$)から、有限個の斉次元 $y_1t^{d_1},\dots,y_qt^{d_q}$($y_j\in I^{d_j}M\cap N$)で生成される。$c:=\max_jd_j$ とおく。$n\ge c$ のとき $I^nM\cap N$ の元 $x$ は、$xt^n=\sum_jb_jt^{n-d_j}\cdot y_jt^{d_j}$($b_j\in I^{n-d_j}$)と書けるので
$$
x=\sum_jb_jy_j\in\sum_jI^{n-d_j}(I^{d_j}M\cap N)\subset\sum_jI^{n-c}I^{c-d_j}(I^{d_j}M\cap N)\subset I^{n-c}(I^cM\cap N)
$$
である。逆の包含 $I^{n-c}(I^cM\cap N)\subset I^nM\cap N$ は明らかである。最後の主張は、$I^nN\subset I^nM\cap N$ が明らかであり、$n\ge c$ について $I^nM\cap N=I^{n-c}(I^cM\cap N)\subset I^{n-c}N$ であることから従う。$\square$
$A$ を Noether 環、$I$ をイデアル、$M$ を有限生成 $A$ 加群とし、$N:=\bigcap_nI^nM$ とおく。
Krull の交叉定理は AM69 第 10 章 Theorem 10.17 と Corollary 10.18–10.20、Mat89 §8 Theorem 8.9–8.10 にある。3 の仮定「整域」や 2 の仮定「Jacobson 根基に含まれる」を外せないことは ex-completion-of-ring-non-separated の 1 が示す。
$A$ を Noether 環、$I$ をイデアルとする。
$A$ 加群 $F$ が平坦であるためには、$A$ の任意の(有限生成)イデアル $J$ について $J\otimes_AF\to F$ が単射であれば十分である(Mat89 §7 Theorem 7.7)。$A$ は Noether 環なので $J$ は有限生成であり、prop-completion-of-ring-exact の 2 により $J\otimes_A\hat{A}=\hat{J}$、$A\otimes_A\hat{A}=\hat{A}$ で、$J\otimes_A\hat{A}\to\hat{A}$ は完全列 $0\to J\to A$ の完備化 $\hat{J}\to\hat{A}$ に一致する。これは prop-completion-of-ring-exact の 1 により単射である。よって $\hat{A}$ は平坦である。
局所環の場合、prop-completion-of-ring-exact の 3 により $\hat{A}/\mathfrak{m}\hat{A}\cong A/\mathfrak{m}\neq0$ なので $\mathfrak{m}\hat{A}\neq\hat{A}$ であり、局所環 $A$ 上の平坦加群 $F$ で $F/\mathfrak{m}F\neq0$ をみたすものは忠実平坦である(Mat89 §7 Theorem 7.2)。$\square$
証明は AM69 第 10 章 Corollary 10.25–Theorem 10.26、Mat89 §8 Theorem 8.12 に譲る。筋は次のとおりである。prop-completion-of-ring-exact の 3 により、随伴次数環 $\operatorname{gr}_I(A)=\bigoplus_nI^n/I^{n+1}$ と $\operatorname{gr}_{I\hat{A}}(\hat{A})$ は同型であり、前者は Noether 環 $A/I$ 上 $I/I^2$ の有限個の元で生成されるので Noether 環である。そして「$I$ 進完備分離な環で $\operatorname{gr}_I(A)$ が Noether 環ならば $A$ は Noether 環である」(AM69 Corollary 10.25。イデアル $J$ に対し $\operatorname{gr}(J)$ の有限個の生成元の代表を $J$ にとり、完備性を使って $J$ の任意の元をそれらの $A$ 係数の収束級数で表す)を $\hat{A}$ に適用する。多項式環 $k[x_1,\dots,x_r]$ が Noether 環なので、ex-completion-of-ring-power-series によりこの定理は形式的冪級数環 $k[\![x_1,\dots,x_r]\!]$ が Noether 環であることを含む。次元の不変性は AM69 Corollary 11.19 にある。正則性の同値は、同型 $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}(A)\cong\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}\hat{A}}(\hat{A})$ と、Noether 局所環が正則であることが $\operatorname{gr}_{\mathfrak{m}}(A)$ が剰余体上の多項式環であることと同値であること(AM69 Theorem 11.22。正則局所環 を参照)から従う。
$A$ を可換環、$I$ をイデアル、$\hat{A}$ を $I$ 進完備化、$\hat{I}_1:=\ker(\hat{A}\to A/I)$ とする。
$I$ が極大イデアルであれば $A$ 自身が局所環でなくても $\hat{A}$ は局所環になる($\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}_p$、$k[x]$ と $k[\![x]\!]$)。これは ex-completion-of-ring-power-series で見た「極大イデアルでの完備化は局所化してから完備化しても同じ」ことの表れである。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を完備局所環($\mathfrak{m}$ 進完備分離な局所環)とする。モニック多項式 $f\in A[t]$ と、$\bar{f}\in k[t]$ の単根 $\alpha\in k$($\bar{f}(\alpha)=0$、$\bar{f}'(\alpha)\neq0$)に対し、$f(a)=0$ かつ $\bar{a}=\alpha$ をみたす $a\in A$ がただ 1 つ存在する。すなわち完備局所環は Hensel局所環である。とくに Noether 局所環の $\mathfrak{m}$ 進完備化は Hensel 局所環である。
証明(Newton法による近似列の構成と、完備性による極限の存在)は Hensel局所環 の記事の定理「完備局所環は Hensel 局所環である」に譲る。Eis95 Theorem 7.3、Mat89 §8 Theorem 8.3 も参照。ex-completion-of-ring-convergent が示すように逆は成り立たない。Hensel の補題の典型的な応用が ex-completion-of-ring-node の平方根 $\sqrt{1+x}\in k[\![x]\!]$ の存在であり、そこでは代わりに係数の漸化式で直接構成した。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を Noether 完備局所環とする。
証明は Mat89 §29(Theorem 29.4、Theorem 29.7 とその系)、同標数の場合は Eis95 §7.4 に譲る。係数体の存在は自明ではなく、その証明は $A$ が完備であることを本質的に使う。この定理により、Noether 完備局所環は形式的冪級数環の剰余環という「具体的な」環に還元され、ex-completion-of-ring-node のような局所環の完備化での解析が可能になる。$\mathbb{Z}_p$ は 2 における Cohen 環($k=\mathbb{F}_p$ の場合)の最も基本的な例であり、$W(\mathbb{F}_p)=\mathbb{Z}_p$ である。
スキーム $X$ の点 $x$ での局所環の完備化 $\widehat{\mathcal{O}}_{X,x}$ は $x$ の「形式的近傍」の環であり、$X$ を閉部分スキーム $Y$ に沿って完備化した形式スキーム $\hat{X}_{/Y}$ の局所模型は、Noether 環 $A$ の $I$ 進完備化の形式スペクトル $\operatorname{Spf}\hat{A}$ である。prop-completion-of-ring-exact の 3 は $\operatorname{Spf}\hat{A}$ の台が $\operatorname{Spec}A/I$ に一致することを、thm-completion-of-ring-noetherian は $\hat{A}$ が Noether 進位環であることを保証しており、本記事の結果は形式スキームの理論の可換環論的な土台である。また $\hat{A}=\varprojlim A/I^n$ という定義そのものが射影極限の例であり、prop-completion-of-ring-exact の 1 で使った「推移写像が全射な射影系では $\varprojlim$ が完全」という事実、およびそれが破れるときの障害 $\varprojlim^1$ は 射影極限 と Mittag-Leffler条件 の記事が扱う。
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