Alexander多項式(Alexander polynomial)とは、結び目 $K$ の補空間の無限巡回被覆の 1 次元ホモロジー(Alexander 加群)を Laurent 多項式環 $\mathbb{Z}[t,t^{-1}]$ 上の加群とみたときの位数で、単元 $\pm t^k$ 倍を除いて定まる結び目の不変量である。Seifert 曲面の 1 次元ホモロジーの基底と、それを曲面の正の側へ押し出した曲線の絡み数を並べた Seifert 行列 $V$ から、$\Delta(t)=\det(tV-V^{T})$ と計算できる。三葉結び目の Alexander 多項式は $t^2-t+1$ で、自明な結び目($1$)と区別される。一方、Conway 結び目のように Alexander 多項式が $1$ の自明でない結び目がある。
前提知識: 絡み数, 被覆空間, Mayer–Vietoris完全列, 有限表示加群
Alexander 多項式(Alexander polynomial)は、結び目 $K\subset\mathbb{R}^3$ に Laurent 多項式 $\Delta_K(t)\in\mathbb{Z}[t,t^{-1}]$ を対応させる不変量である。結び目の補空間 $X=\mathbb{R}^3\setminus K$ の $1$ 次元ホモロジーは、どの結び目でも $\mathbb{Z}$ で結び目を区別しない。そこで $X$ の無限巡回被覆 $X_\infty$ をとると、その $1$ 次元ホモロジー $H_1(X_\infty)$ には被覆変換 $t$ が作用し、Laurent 多項式環 $\Lambda=\mathbb{Z}[t,t^{-1}]$ 上の加群(Alexander 加群)になる。Alexander 多項式はこの加群の「位数」である。
計算には Seifert 曲面を使う。結び目の張る向き付けられた曲面 $F$ の $1$ 次元ホモロジーの基底 $a_1,\dots,a_n$ と、それを $F$ の正の側へ押し出した曲線 $a_j^+$ の絡み数を並べた行列 $V=(\operatorname{lk}(a_i,a_j^+))$(Seifert 行列)から
$$
\Delta_K(t)\doteq\det(tV-V^{\mathsf T})
$$
が得られる($\doteq$ は単元 $\pm t^k$ 倍の違いを除いて等しいこと)。
この記事では、Alexander 加群と Alexander 多項式を定義し、Seifert 行列による表示を Mayer–Vietoris 完全列で完全に証明する。あわせて $\Delta_K(1)=\pm1$、$\Delta_K(t^{-1})\doteq\Delta_K(t)$ を証明し、$2$ 本の帯をもつ Seifert 曲面の境界の Alexander 多項式を Seifert 行列から計算する。三葉結び目の Alexander 多項式は、基本群の表示から計算する。
結び目・絡み数・Seifert 曲面の定義と記号は 絡み数 の記事に従う。$K$ を結び目、$X=\mathbb{R}^3\setminus K$ とする。絡み数 の記事の命題「補空間の 1 次元ホモロジー」により、$X$ は弧状連結で、
$$
\varphi\colon\pi_1(X,x_0)\to\mathbb{Z},\qquad[\gamma]\mapsto\operatorname{lk}(K,\gamma)
$$
は全射準同型であり、可換化 $H_1(X)$ と $\mathbb{Z}$ の同型を引き起こす。メリディアン $\mu$ は $\varphi(\mu)=1$ をみたす。
$\ker\varphi$ に対応する連結な被覆 $p\colon X_\infty\to X$ を $K$ の無限巡回被覆という。これは正規被覆で、被覆変換群は $\pi_1(X)/\ker\varphi\cong\mathbb{Z}$ である(Hat02 Theorem 1.38、p. 67、Proposition 1.39、p. 71)。$\varphi(\gamma)=1$ となる閉曲線 $\gamma$ の持ち上げの始点を終点に移す被覆変換を $t$ とする(この $t$ は $\gamma$ の選び方によらない)。$t$ は $H_1(X_\infty;\mathbb{Z})$ に作用し、これによって $H_1(X_\infty;\mathbb{Z})$ は Laurent 多項式環
$$
\Lambda:=\mathbb{Z}[t,t^{-1}]
$$
上の加群になる。これを $K$ の Alexander 加群といい、$A_K$ と書く。
定義から、$\varphi(\gamma)=k$ となる閉曲線 $\gamma$ を点 $\tilde x$ から持ち上げると、終点は $t^k\tilde x$ である。$A_K$ は被覆の同型を除いて $K$ だけで決まるので、結び目の不変量である。$K$ の向きを逆にすると $\varphi$ の符号が変わり、$t$ が $t^{-1}$ に替わる。
$G=\pi_1(X,x_0)$ とする。$A_K$ は $\ker\varphi$ の可換化 $(\ker\varphi)^{\mathrm{ab}}$ と同型で、$t$ は $\varphi(g)=1$ となる $g\in G$ による共役 $x\mapsto gxg^{-1}$ が引き起こす作用に対応する。とくに、$\pi_1(Z)\cong G$ となる連結な CW 複体 $Z$(基本群の同型で $\varphi$ を $Z$ に移す)について、$\ker\varphi$ に対応する被覆 $Z_\infty$ の $1$ 次元ホモロジーは、$A_K$ と $\Lambda$ 加群として同型である。
$p_*\colon\pi_1(X_\infty)\to\pi_1(X)$ は単射で像は $\ker\varphi$ である(Hat02 Proposition 1.31、p. 61)。$X_\infty$ は弧状連結なので $H_1(X_\infty)\cong\pi_1(X_\infty)^{\mathrm{ab}}\cong(\ker\varphi)^{\mathrm{ab}}$ である(Hat02 Theorem 2A.1、p. 166)。被覆変換 $t$ は、基点 $\tilde x_0$ から $t\tilde x_0$ への道 $\tilde g$($g=p\circ\tilde g$ は $\varphi(g)=1$ の閉曲線)を使って基点を取り替える同型と一致し、これは $\ker\varphi$ 上では $g$ による共役である。$\varphi(g)=\varphi(g')=1$ なら $g'g^{-1}\in\ker\varphi$ で、その共役は可換化の上で自明なので、作用は $g$ の選び方によらない。後半は、$Z_\infty$ についても同じ議論で $H_1(Z_\infty)\cong(\ker\varphi)^{\mathrm{ab}}$ となることから従う。$\square$
この命題により、Alexander 加群は結び目群 $G$ と準同型 $\varphi$ だけから決まる。たとえば自明な結び目では $G\cong\mathbb{Z}$ で $\varphi$ は同型なので $\ker\varphi=1$ となり、$A_K=0$ である。三葉結び目では $A_K\cong\Lambda/(t^2-t+1)$ となる。
$\Lambda$ は一意分解整域で Noether 環であり、その単元は $\pm t^k$($k\in\mathbb{Z}$)だけである。実際、$fg=1$ なら最高次と最低次の次数の差(幅)が和で $0$ になるので $f,g$ は単項式で、係数は $\mathbb{Z}$ の単元 $\pm1$ である。$f,g\in\Lambda$ が単元倍の違いを除いて等しいことを $f\doteq g$ と書く。
有限生成 $\Lambda$ 加群 $A$ の表示 $\Lambda^m\xrightarrow{P}\Lambda^n\to A\to0$($m\ge n$)について、$P$ の $n$ 次小行列式すべての最大公約元を $A$ の位数 $\operatorname{ord}(A)$ という。これは表示の取り方によらず、単元倍の違いを除いて定まる(FNOP25 Definition 15.6、p. 120)。とくに $A$ が正方行列 $P$ で表示されるなら $\operatorname{ord}(A)\doteq\det P$ である。
結び目 $K$ の Alexander 多項式を
$$
\Delta_K(t):=\operatorname{ord}(A_K)\in\Lambda
$$
と定める(FNOP25 Definition 15.9、p. 123)。$A_K$ が有限生成であることは下の thm-alex-seifert からわかる。
絡み数 の記事の命題「Seifert 曲面の存在」の構成(Seifert のアルゴリズム)で得られる曲面は、有限個の円板を帯で結んだものである。円板を頂点、帯を辺とするグラフは連結なので、その全域木をとり、木の辺にあたる帯と円板をまとめると $1$ 枚の円板 $D_0$ になる。こうして、Seifert 曲面
$$
F=D_0\cup B_1\cup\cdots\cup B_n
$$
で、各 $B_i$ が $\partial D_0$ の互いに交わらない $2$ つの弧に両端をつけた帯であるものが得られる。$D_0$ の中心から帯 $B_i$ の芯を通って戻る向き付けられた単純閉曲線を $a_i$ とする。$F$ は $D_0$ と帯の芯の和に変形レトラクトし、それは $n$ 個の円周のウェッジ和とホモトピー同値なので、$H_1(F)\cong\mathbb{Z}^n$ で $[a_1],\dots,[a_n]$ がその基底である。以下、Seifert 曲面はこの形のものとする。
$F^\circ:=F\setminus K$ は $X$ の閉集合で、境界のない向き付けられた曲面である。その管状近傍(Lee13 Theorem 6.24、p. 139)を $X$ の中にとり、単位法ベクトル場 $\nu$($T_pF$ の正の基底 $(a,b)$ について $(a,b,\nu)$ が正の基底になるもの)で自明化して、微分同相
$$
h\colon F^\circ\times(-1,1)\to U\subset X,\qquad h(x,0)=x
$$
で、$s$ が増える向きが $\nu$ の向きであるものを固定する。$F^\circ$ の中の曲線 $c$ について $c^{\pm}:=h(c\times\{\pm\tfrac12\})$ とおく。
上の $F$、$a_1,\dots,a_n$ について、$n$ 次の整数行列
$$
V=(V_{ij}),\qquad V_{ij}:=\operatorname{lk}(a_i,a_j^+)
$$
を $F$ の Seifert 行列という。
$\operatorname{lk}(a_j,a_i^-)=V_{ij}$、$\operatorname{lk}(a_j,a_i^+)=V_{ji}$ である。
$s\in[0,\tfrac12]$ に対し、曲線の組 $\bigl(h(a_j\times\{s\}),\ h(a_i\times\{s-\tfrac12\})\bigr)$ は高さが違うので互いに交わらない。この族は $s=0$ で $(a_j,a_i^-)$、$s=\tfrac12$ で $(a_j^+,a_i)$ であり、Gauss 写像のホモトピーを与えるので、$\operatorname{lk}(a_j,a_i^-)=\operatorname{lk}(a_j^+,a_i)$ である。絡み数 の記事の定理「絡み数の対称性」により、これは $\operatorname{lk}(a_i,a_j^+)=V_{ij}$ に等しい。後半は定義と対称性から $\operatorname{lk}(a_j,a_i^+)=V_{ji}$ である。$\square$
$a_i^-$ との絡み数を $(j,i)$ 成分とする行列は $V$ の転置行列 $V^{\mathsf T}$ である。つまり、曲線を面の上側へ押し上げるか下側へ押し下げるかの違いは、行列の転置に対応する。この関係は、以下の計算で $V$ と $V^{\mathsf T}$ が対になって現れる理由を与える。
$Y:=\mathbb{R}^3\setminus F$ は弧状連結で、$H_1(Y)$ は階数 $n$ の自由アーベル群である。$Y$ の閉曲線 $b_1,\dots,b_n$ で、$\operatorname{lk}(a_i,b_j)=\delta_{ij}$ をみたすものがあり、それらは $H_1(Y)$ の基底をなす。$Y$ の任意の閉曲線 $\gamma$ について
$$
[\gamma]=\sum_{j=1}^n\operatorname{lk}(a_j,\gamma)\,[b_j]
$$
である。
$F$ はコンパクトで局所可縮である。Alexander 双対により $\tilde H_i(S^3\setminus F)\cong\tilde H^{2-i}(F)$ である(Hat02 Corollary 3.45、p. 255)。$F$ は $n$ 個の円周のウェッジ和とホモトピー同値なので $\tilde H^2(F)=0$、$H^1(F)\cong\mathbb{Z}^n$ であり、$S^3\setminus F$ は弧状連結で $H_1(S^3\setminus F)\cong\mathbb{Z}^n$ である。絡み数 の記事の命題「補空間の 1 次元ホモロジー」の証明と同じく、無限遠点を除いても基本群は変わらないので、$Y$ についても同じことが成り立つ。
各 $a_j$ は $F^\circ$ の中の結び目で、$Y\subset\mathbb{R}^3\setminus a_j$ なので、$\gamma\mapsto\operatorname{lk}(a_j,\gamma)$ は準同型 $H_1(Y)\to\mathbb{Z}$ を定める(絡み数 の記事の命題「補空間の 1 次元ホモロジー」の証明と同じ議論)。これらを並べた準同型を $\ell\colon H_1(Y)\to\mathbb{Z}^n$ とする。
帯 $B_j$ の芯の中点 $q_j$ で、芯に垂直な平面を考える。Seifert のアルゴリズムの帯は $\mathbb{R}^3$ のイソトピーでいくらでも細くできるので、帯は十分細いとしてよい。すると $q_j$ の近くでは、この平面と $F$ の交わりは帯を横切る弧だけで、その両端は $\partial F=K$ の上にある。この平面の中で、その弧を囲む小さな円周を $b_j$、それが囲む円板を $E_j$ とする。$b_j$ は $F$ と交わらず、$E_j\cap F$ はその弧である。$a_i$ は帯 $B_i$ の芯をちょうど $1$ 回通り、ほかの帯を通らないので、$E_j\cap a_i$ は $i=j$ のとき $1$ 点 $q_j$($a_j$ は芯に沿って $E_j$ と横断的に交わる)、$i\ne j$ のとき空である。$E_j$ は $b_j$ の Seifert 曲面なので、絡み数 の記事の定理「Seifert 曲面による公式」と対称性により
$$
\operatorname{lk}(a_i,b_j)=\operatorname{lk}(b_j,a_i)=E_j\cdot a_i=\pm\delta_{ij}
$$
で、$b_j$ の向きを選んで $+\delta_{ij}$ にできる。
よって $\ell(b_j)$ は $\mathbb{Z}^n$ の標準基底で、$\ell$ は全射である。$H_1(Y)\cong\mathbb{Z}^n$ から $\mathbb{Z}^n$ への全射準同型は、分裂して核が階数 $0$ の自由アーベル群になるので同型である。したがって $[b_j]$ は基底で、$\ell([\gamma])=(\operatorname{lk}(a_j,\gamma))_j$ から最後の式が従う。$\square$
$F$ を上の形の Seifert 曲面、$V$ をその Seifert 行列とする。Alexander 加群は
$$
A_K\cong\operatorname{coker}\bigl(tV-V^{\mathsf T}\colon\Lambda^n\to\Lambda^n\bigr)
$$
と表示される。したがって
$$
\Delta_K(t)\doteq\det\bigl(tV-V^{\mathsf T}\bigr)
$$
である。
空間の分割。 $Y=X\setminus F^\circ=\mathbb{R}^3\setminus F$ と $U=h(F^\circ\times(-1,1))$ はともに $X$ の開集合で、$X=Y\cup U$、
$$
Y\cap U=U^+\sqcup U^-,\qquad U^{\pm}:=h\bigl(F^\circ\times(0,\pm1)\bigr)
$$
である($(0,-1)$ は区間 $(-1,0)$ の意味)。$U,U^+,U^-$ はどれも $F^\circ$ とホモトピー同値で、$F^\circ$ は $F$ とホモトピー同値である(境界のカラーを縮める)。$H_1(U^\pm)$、$H_1(U)$ を $h$ で $H_1(F)$ と同一視すると、包含 $U^\pm\hookrightarrow U$ は恒等写像になる。包含 $U^\pm\hookrightarrow Y$ が引き起こす写像を $\iota_\pm\colon H_1(F)\to H_1(Y)$ とすると、$\iota_\pm[c]=[c^\pm]$ である。
持ち上げ。 $Y$ の閉曲線 $\gamma$ は $F$ と交わらないので、絡み数 の記事の系「Seifert 曲面と交わらない場合」により $\varphi(\gamma)=\operatorname{lk}(K,\gamma)=0$ である(その証明は $\gamma$ が自己交差してもそのまま通用する)。$U$ の閉曲線は $U^+$ の閉曲線にホモトピックなので、これも $\varphi=0$ である。よって $\pi_1(Y)$、$\pi_1(U)$ の像は $\ker\varphi=p_*\pi_1(X_\infty)$ に含まれ、持ち上げの判定法(Hat02 Proposition 1.33、p. 61)により $Y$ と $U$ は $X_\infty$ に持ち上がる。$Y$ の持ち上げを $\tilde Y$ とすると $p^{-1}(Y)=\bigsqcup_{k\in\mathbb{Z}}t^k\tilde Y$ で、各 $t^k\tilde Y$ は $p$ で $Y$ と同相である。$U$ についても同様である。
$\tilde Y$ の中の $U^-$ の持ち上げを $\tilde U^-$ とし、それを含む $U$ の持ち上げを $\tilde U$ とする。$\tilde U$ に含まれる $U^+$ の持ち上げ $\tilde U^+$ がどのシートにあるかを調べる。$x\in F^\circ$ から $h(x,-\tfrac12)$ から $h(x,\tfrac12)$ への道 $\delta$ は $F$ を $\nu$ の向きに $1$ 回横切り、それを $Y$ の中の道 $\varepsilon$ で閉じた閉曲線 $\gamma$ は、絡み数 の記事の定理「Seifert 曲面による公式」により $\varphi(\gamma)=F\cdot\gamma=+1$ である。$\gamma$ の持ち上げは $\tilde Y$ から出発し、$\tilde\delta\subset\tilde U$ を通って $\tilde U^+$ に入り、$\tilde\varepsilon$ は $p^{-1}(Y)$ の $1$ つのシートにとどまって終点 $t\cdot(\text{始点})\in t\tilde Y$ に着く。よって $\tilde U^+\subset t\tilde Y$ である。
Mayer–Vietoris 完全列。 $X_\infty=\mathcal{A}\cup\mathcal{B}$、$\mathcal{A}=p^{-1}(Y)$、$\mathcal{B}=p^{-1}(U)$ とすると、$\mathcal{A}\cap\mathcal{B}=\bigsqcup_k t^k(\tilde U^+\sqcup\tilde U^-)$ である。$t$ が各項に作用するので、$\Lambda$ 加群として
$$
H_1(\mathcal{A})\cong\Lambda\otimes H_1(Y),\quad H_1(\mathcal{B})\cong\Lambda\otimes H_1(F),\quad H_1(\mathcal{A}\cap\mathcal{B})\cong\Lambda\otimes\bigl(H_1(F)\oplus H_1(F)\bigr)
$$
であり、$H_0$ についても同様に $H_0(\mathcal{A})\cong H_0(\mathcal{B})\cong\Lambda$、$H_0(\mathcal{A}\cap\mathcal{B})\cong\Lambda^2$ である。Mayer–Vietoris 完全列(Mayer–Vietoris完全列 の定理「Mayer–Vietoris 完全列」、写像 $\Phi(\alpha)=(\alpha,-\alpha)$)
$$
H_1(\mathcal{A}\cap\mathcal{B})\xrightarrow{\Phi}H_1(\mathcal{A})\oplus H_1(\mathcal{B})\to H_1(X_\infty)\to H_0(\mathcal{A}\cap\mathcal{B})\xrightarrow{\Phi}H_0(\mathcal{A})\oplus H_0(\mathcal{B})
$$
の写像はすべて $t$ と可換である。$\tilde U^+\subset t\tilde Y$、$\tilde U^-\subset\tilde Y$、$\tilde U^\pm\subset\tilde U$ から
$$
\Phi(\alpha,\beta)=\bigl(t\,\iota_+\alpha+\iota_-\beta,\ -(\alpha+\beta)\bigr)\qquad(\alpha\in H_1(\tilde U^+),\ \beta\in H_1(\tilde U^-))
$$
で、$H_0$ でも同じ形 $\Phi(x,y)=(tx+y,-(x+y))$ である。後者は単射である:$tx+y=0$、$x+y=0$ なら $(t-1)x=0$ で、$\Lambda$ は整域なので $x=0$、$y=0$ である。よって $H_1(X_\infty)\cong\operatorname{coker}\Phi$ である。
余核の計算。 $\Phi(0,\beta)=(\iota_-\beta,-\beta)$ を使うと、$H_1(\mathcal{A})\oplus H_1(\mathcal{B})$ の元 $(y,z)$ は $\operatorname{im}\Phi$ を法として $(y+\iota_-z,0)$ と合同である。したがって $\operatorname{coker}\Phi$ は、$H_1(\mathcal{A})$ を $\{t\iota_+\alpha+\iota_-\beta:\alpha+\beta=0\}$ で割ったもの、すなわち
$$
A_K\cong\operatorname{coker}\Bigl(\Lambda\otimes H_1(F)\to\Lambda\otimes H_1(Y),\quad\alpha\mapsto t\,\iota_+\alpha-\iota_-\alpha\Bigr)
$$
である。
行列の計算。 lem-alex-dual と lem-alex-seifert-basic により
$$
\iota_+[a_i]=[a_i^+]=\sum_j\operatorname{lk}(a_j,a_i^+)[b_j]=\sum_jV_{ji}[b_j],\qquad \iota_-[a_i]=[a_i^-]=\sum_j V_{ij}[b_j]
$$
である。よって基底 $[a_i]$、$[b_j]$ について、写像 $\alpha\mapsto t\iota_+\alpha-\iota_-\alpha$ の行列の $(j,i)$ 成分は $tV_{ji}-V_{ij}$、すなわち行列は $tV-V^{\mathsf T}$ である。正方行列による表示なので $\Delta_K\doteq\det(tV-V^{\mathsf T})$ である。$\square$
表示から、Alexander 多項式の幅(最高次と最低次の次数の差)は帯の個数 $n$ 以下である。
$\Delta_K(t^{-1})\doteq\Delta_K(t)$ である。
$tV-V^{\mathsf T}$ を転置すると $tV^{\mathsf T}-V=-t(t^{-1}V-V^{\mathsf T})$ なので、$\det(tV-V^{\mathsf T})=(-t)^n\det(t^{-1}V-V^{\mathsf T})$ である。右辺の行列式は $\Delta_K(t^{-1})$ にあたる。$(-t)^n$ は単元である。$\square$
三葉結び目の $\Delta(t)=t^2-t+1$ について $\Delta(t^{-1})=t^{-2}(1-t+t^2)=t^{-2}\Delta(t)$ なので、対称性を満たす。逆にこの命題は、Alexander 多項式になりうる多項式を制限する。たとえば $t-2$ は $t^{-1}-2$ と単元倍の違いでは一致しないので、どの結び目の Alexander 多項式でもない。
とくに、$K$ の向きを逆にして $t$ を $t^{-1}$ に替えても $\Delta_K$ は単元倍しか変わらない。
$\Delta_K(1)=\pm1$ である。とくに、Seifert 行列 $V$ について $\det(V-V^{\mathsf T})=\pm1$ である。
鎖複体の短完全列。 特異 $q$ 単体 $\sigma\colon\Delta^q\to X$ は、$\Delta^q$ が単連結なので $X_\infty$ に持ち上がり、その持ち上げの全体は $\{t^k\tilde\sigma\}_{k\in\mathbb{Z}}$ である(Hat02 Proposition 1.33、p. 61)。よって特異鎖群 $C_q(X_\infty)$ は、各 $\sigma$ の持ち上げを $1$ つずつ選んだものを基底とする自由 $\Lambda$ 加群で、$p_\sharp\colon C_q(X_\infty)\to C_q(X)$ は $t\mapsto1$ で $\Lambda$ を $\mathbb{Z}$ に移す写像と同じ形をしている。$t\mapsto1$ の核は $(t-1)\Lambda$ で、$\Lambda$ は整域なので $t-1$ の掛け算は単射である。したがって鎖複体の短完全列
$$
0\to C_\bullet(X_\infty)\xrightarrow{\,t-1\,}C_\bullet(X_\infty)\xrightarrow{\,p_\sharp\,}C_\bullet(X)\to0
$$
があり、ホモロジーの長完全列
$$
H_1(X_\infty)\xrightarrow{t-1}H_1(X_\infty)\xrightarrow{p_*}H_1(X)\xrightarrow{\ \partial\ }H_0(X_\infty)\xrightarrow{t-1}H_0(X_\infty)
$$
が得られる。
$t-1$ の全射性。 $X_\infty$ は弧状連結なので $H_0(X_\infty)\cong\mathbb{Z}$ で、$t$ は自明に作用し、最後の $t-1$ は $0$ である。よって $\partial\colon H_1(X)\cong\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ は全射で、したがって同型である。完全性から $p_*=0$ で、最初の $t-1$ は $A_K=H_1(X_\infty)$ の上で全射である。
行列式へ。 thm-alex-seifert の表示 $\Lambda^n\xrightarrow{M}\Lambda^n\to A_K\to0$($M=tV-V^{\mathsf T}$)に $\otimes_\Lambda\mathbb{Z}$($t\mapsto1$)を施すと、右完全性により $A_K/(t-1)A_K$ は整数行列 $M(1)$ で表示される。これが $0$ なので $M(1)\colon\mathbb{Z}^n\to\mathbb{Z}^n$ は全射で、$\det M(1)=\pm1$ である。$\Delta_K\doteq\det M$ なので $\Delta_K(t)=\pm t^k\det M(t)$ で、$\Delta_K(1)=\pm\det M(1)=\pm1$ である。$M(1)=V-V^{\mathsf T}$ である。$\square$
この証明の要点は、$A_K$ の上で $t-1$ が全射になることで、それは $H_1(X)\cong\mathbb{Z}$ がメリディアンで生成されること($\varphi$ が同型を引き起こすこと)から来ている。
平面の円は円板を張り、帯の個数は $n=0$ である。thm-alex-seifert により $A_K=0$、$\Delta_K\doteq1$ である($0$ 次の行列式は $1$)。
$xy$ 平面の単位円板を $D_0$ とする(法ベクトル $\nu=e_3$ の向き)。帯 $B_1$ は、$D_0$ の点 $(1,0)$ と $(-1,0)$ の近くにつけ、半径 $2$ の上半円に沿って平面の中を通す。帯 $B_2$ は $(0,1)$ と $(0,-1)$ の近くにつけ、$y$ 軸に沿って外へ出て半径 $3$ の左半円に沿って通すが、点 $(0,2)$ の近くでは少し持ち上げて $B_1$ の上を越えさせる。取り付け位置が交互なので境界は連結で、$F$ は $K:=\partial F$ の Seifert 曲面である。さらに帯 $B_1$ の半円の部分に $m$ 回、$B_2$ の半円の部分に $n$ 回の全ねじれ($1$ 回転)を入れたものを $F(m,n)$、その境界を $K(m,n)$ とする。
$a_1$ は $(1,0)$ から $B_1$ に沿って $(-1,0)$ へ行き、直径に沿って $(1,0)$ に戻る閉曲線、$a_2$ は $(0,1)$ から $B_2$ に沿って $(0,-1)$ へ行き、直径に沿って $(0,1)$ に戻る閉曲線である。$a_1,a_2$ は原点で交わる。
ねじれの向きを適切にとると、$F(m,n)$ の Seifert 行列は
$$
V=\begin{pmatrix}m&0\\1&n\end{pmatrix}
$$
で、$\Delta_{K(m,n)}(t)\doteq mn(t-1)^2+t$ である。
対角成分。 ねじれがないとき、$D_0$ と帯の平らな部分では $a_i^+$ は $a_i$ を真上に少し持ち上げたものである。$a_i^+$ をさらに水平に少しずらすと(高さが違うので $a_i$ と交わらないまま)、$a_i$ と $a_i^+$ の射影は交わらない平行な $2$ つの曲線になる($a_i$ の射影は自己交差のない閉曲線である)。交差がないので 絡み数 の記事の定理「交差の符号による公式」により $\operatorname{lk}(a_i,a_i^+)=0$ である。帯に全ねじれを $1$ 回入れると、$a_i$ と $a_i^+$ はそこで互いに $2$ 回交差し、$2$ つの交差の符号は等しい。絡み数 の記事の系「交差の入れ替えと偶奇」と同じく $\frac12\sum\varepsilon$ の式により、絡み数は $\pm1$ 変わる。ねじれの向きを選んで $+1$ ずつ変わるようにすると、$V_{11}=m$、$V_{22}=n$ である。ねじれは半円の部分にあるので、非対角成分の計算には影響しない。
非対角成分。 $a_1$ と $a_2$ の射影が交わるのは原点と点 $(0,2)$ だけである。原点で $a_1$ は向き $(1,0)$、$a_2$ は向き $(0,1)$ で通り、$(0,2)$ では $a_1$ は向き $(-1,0)$(半円を反時計回り)、$a_2$ は向き $(0,1)$ で、$a_2$ が上を通る。
$V_{12}=\operatorname{lk}(a_1,a_2^+)$:$a_2^+$ は原点で $a_1$ の上にあり、$(0,2)$ でも上にある。符号は原点で $\det_2((0,1),(1,0))=-1$、$(0,2)$ で $\det_2((0,1),(-1,0))=+1$ なので、「第 $2$ 成分が上」の和は $0$ である。
$V_{21}=\operatorname{lk}(a_2,a_1^+)$:$a_1^+$ は原点で $a_2$ の上にあり、符号は $\det_2((1,0),(0,1))=+1$ である。$(0,2)$ では持ち上げた帯 $B_2$ の上の $a_2$ が $a_1^+$ の上にあるので数えない。よって $V_{21}=1$ である。
行列式。 $tV-V^{\mathsf T}=\begin{pmatrix}m(t-1)&-1\\t&n(t-1)\end{pmatrix}$ の行列式は $mn(t-1)^2+t$ である。$\square$
prop-alex-fmn により
$$
\Delta_{K(1,1)}(t)\doteq t^2-t+1\doteq t-1+t^{-1},\qquad \Delta_{K(1,-1)}(t)\doteq-t^2+3t-1\doteq t-3+t^{-1}
$$
である。どちらも $\Delta(1)=\pm1$ と $\Delta(t^{-1})\doteq\Delta(t)$ をみたす。$t=-1$ での値の絶対値は $3$ と $5$ で、単元倍($\pm(-1)^k$)で変わらないので、$K(1,1)$、$K(1,-1)$、自明な結び目(値 $1$)は互いに異なる。とくに $K(1,1)$ と $K(1,-1)$ は自明でない結び目である。より一般に、$\lvert\Delta_{K(m,n)}(-1)\rvert=\lvert4mn-1\rvert$ なので、$mn$ の値が違えば $K(m,n)$ は異なる結び目である。
$K(1,1)$ の Alexander 多項式は、次の節で基本群から計算する三葉結び目の Alexander 多項式と一致する。ただし、$K(m,n)$ が具体的にどの結び目(三葉結び目や 8 の字結び目など)にあたるかはこの記事では示さず、以下でも使わない。上の計算は、曲面 $F(m,n)$ の境界 $K(m,n)$ についてのものである。
prop-alex-group により、Alexander 加群は結び目群の表示から計算できる。$(2,3)$ 型のトーラス結び目(三葉結び目)の補空間の基本群は
$$
G=\langle a,b\mid a^2=b^3\rangle
$$
である(Hat02 Example 1.24、pp. 47–48)。
$(2,3)$ 型のトーラス結び目 $K$ について $A_K\cong\Lambda/(t^2-t+1)$ であり、$\Delta_K\doteq t^2-t+1$ である。
$G$ の可換化は $\langle a,b\mid 2a=3b\rangle\cong\mathbb{Z}$ で、$\varphi(a)=3$、$\varphi(b)=2$ が全射準同型 $G\to\mathbb{Z}$ を与える($\varphi$ は符号を除いて一意で、符号の違いは $t\leftrightarrow t^{-1}$ の入れ替えにあたる)。$G$ の表示複体 $Z$($0$ 胞体 $v$ が $1$ つ、$1$ 胞体 $a,b$、関係 $r=aab^{-1}b^{-1}b^{-1}$ に沿ってつけた $2$ 胞体 $1$ つ)は $\pi_1(Z)\cong G$ をみたす(Hat02 Corollary 1.28 の証明、p. 52)。$\ker\varphi$ に対応する被覆 $Z_\infty$ の胞体は $t^kv$、$t^k\tilde a$($t^kv$ から $t^{k+3}v$ へ)、$t^k\tilde b$($t^kv$ から $t^{k+2}v$ へ)、$t^k\tilde r$ である。$\tilde r$ の境界は、語 $r$ を $v$ から持ち上げてたどった道で、$\tilde a$、$t^3\tilde a$ を進み、$t^4\tilde b$、$t^2\tilde b$、$\tilde b$ を逆にたどって $v$ に戻る。よって胞体鎖複体は
$$
\partial\tilde r=(1+t^3)\tilde a-(1+t^2+t^4)\tilde b,\qquad \partial\tilde a=(t^3-1)v,\qquad\partial\tilde b=(t^2-1)v
$$
である。$x\tilde a+y\tilde b$ が $1$ 次元の輪体であるのは $x(t^3-1)+y(t^2-1)=0$、すなわち $x(t^2+t+1)=-y(t+1)$ のときである。$t^2+t+1=t(t+1)+1$ なので $t^2+t+1$ と $t+1$ は $\Lambda$ で互いに素で、一意分解性から $x=(t+1)z$、$y=-(t^2+t+1)z$($z\in\Lambda$)となる。よって輪体の加群は $w:=(t+1)\tilde a-(t^2+t+1)\tilde b$ で生成される自由加群である。
$$
(t+1)(t^2-t+1)=t^3+1,\qquad(t^2+t+1)(t^2-t+1)=t^4+t^2+1
$$
なので $\partial\tilde r=(t^2-t+1)w$ で、$H_1(Z_\infty)\cong\Lambda/(t^2-t+1)$ である。prop-alex-group によりこれが $A_K$ である。$\square$
これは ex-alex-trefoil-figure-eight の $K(1,1)$ の値と、単元倍を除いて一致する。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 無限巡回被覆をとる | 自明な結び目と三葉結び目 | 補空間の $H_1$ で結び目を区別する |
| $\Delta_K$ が自明でない | Conway 結び目、木下–寺阪結び目 | $\Delta_K\doteq1$ なら自明な結び目 |
| 結び目が同じ | Conway 結び目と木下–寺阪結び目 | Alexander 多項式が等しい結び目は同じ |
| 結び目の Seifert 行列である | $1$ 次の行列 $V=(1)$ | $\det(V-V^{\mathsf T})=\pm1$、$\det(tV-V^{\mathsf T})$ の $t=1$ での値が $\pm1$ |
1 行目:どの結び目でも $H_1(X)\cong\mathbb{Z}$ である(絡み数 の記事の命題「補空間の 1 次元ホモロジー」。Hat02 p. 169 も、補空間のホモロジーは結び目を検出せず、被覆空間のホモロジーを見る必要があると注意する)。無限巡回被覆をとると、$A_K$ は自明な結び目で $0$、三葉結び目で $\Lambda/(t^2-t+1)\ne0$ となって区別できる。
2・3 行目:$11$ 交点の Conway 結び目と木下–寺阪結び目は、Alexander 多項式が $1$ の自明でない結び目のうち最小のものである(Pic18 p. 1)。$2$ つは互いに mutation(結び目と $4$ 点で交わる球面の内側を回して貼り直す操作)で移りあい、この操作は Alexander 多項式を変えないが、Riley が基本群を調べて $2$ つが異なることを示した(Pic18 pp. 1–2)。
4 行目:$tV-V^{\mathsf T}=t-1$ で、$t=1$ での値は $0$ である。thm-alex-at-one により、$V=(1)$ はどの結び目の Seifert 曲面の Seifert 行列にもならない。証明で使った「$H_1(X)$ がメリディアンで生成される $\mathbb{Z}$」が、結び目の補空間であることから来ている。
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