ホモトピー極限

同義語:homotopy limitホモトピー逆極限homotopy inverse limit

概要

ホモトピー極限(homotopy limit)とは、図式の極限を、図式をファイブラントな形に取り替えてからとることで、各成分の弱同値で置き換えても値が弱同値を除いて変わらないようにしたものであり、極限関手の右導来関手を与える。最も基本的な場合は二つの射 $X\to Z\leftarrow Y$ のホモトピー引き戻しで、右固有なモデル圏では一方の射をファイブレーションに取り替えた引き戻しとして定まり、分解の選び方やどちらの射を取り替えるかによらない。位相空間では二重の道の空間で与えられ、ホモトピーファイバーやループ空間はその特別な場合である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: モデル圏, 極限(圏論), ファイバー積, ホモトピーファイバー

図式のホモトピー極限(homotopy limit)は、図式の極限(圏論)を、弱同値で置き換えても値の弱同値類が変わらないように修正したものである。通常の極限は、図式の各対象を弱同値な対象に取り替えると、まったく別の対象に変わりうる。ホモトピー極限は、図式をあらかじめ「ファイブラントな形」に取り替えてから極限をとることで、この欠点を取り除く。もっとも基本的な場合は、二つの射 $X\to Z\leftarrow Y$ のホモトピー引き戻しであり、ホモトピーファイバーやループ空間はその特別な場合である。
主定理(thm-holim-cogluing)は、右固有なモデル圏で、一方の脚がファイブレーションである二つの図式 $X\to Z\leftarrow Y$ の間の射が各成分で弱同値なら、引き戻しの間の射も弱同値であることを述べる。これにより、ホモトピー引き戻しは分解の選び方によらずに定まり(cor-holim-independence)、どちらの脚を取り替えてもよい(cor-holim-symmetry)。位相空間では、ホモトピー引き戻しは二重の道の空間で具体的に与えられる(prop-holim-double-path)。一般の小さい図式のホモトピー極限は、極限関手の右導来関手として定まる。

厳密な極限は弱同値を保たない

$I:=[0,1]$ とし、一点空間を $*$ と書く。

引き戻しが空になる図式

位相空間の二つの図式
$$ \{0\}\hookrightarrow I\hookleftarrow\{1\},\qquad *\to*\leftarrow* $$
と、前者から後者への唯一の射(各成分が一点への写像)を考える。各成分はホモトピー同値である。ところが引き戻しは、前者が $\{0\}\times_I\{1\}=\emptyset$、後者が $*$ であり、空集合と一点は弱ホモトピー同値でない。したがって、各成分が弱同値である図式の射が、極限の間の弱同値を誘導するとは限らない。
一方、$0$ を $1$ と「等しい」とみなす証拠として、$0$ から $1$ への道を添えた空間 $\{\gamma\colon I\to I\mid\gamma(0)=0,\ \gamma(1)=1\}$ は、$\gamma_s(t):=(1-s)\gamma(t)+st$ で恒等写像 $t\mapsto t$ に縮むので可縮であり、$*\times_**=*$ と弱同値である。これがこの図式のホモトピー引き戻しである(prop-holim-double-path)。

この例で失敗の原因は、$\{0\}\to I$ がファイブレーションでないことにある。主定理は、一方の脚がファイブレーションならこの種の失敗が起こらないことを保証する。

定義

以下、$\mathcal M$ をモデル圏とする(完備かつ余完備で、弱同値・コファイブレーション・ファイブレーションの三つのクラスを持つ)。$Z$ 上の二つの射 $f\colon X\to Z$、$g\colon Y\to Z$ の組 $X\xrightarrow{f}Z\xleftarrow{g}Y$ をコスパンという。二つのコスパンの間の射とは、射 $\alpha\colon X\to X'$、$\zeta\colon Z\to Z'$、$\beta\colon Y\to Y'$ で $f'\alpha=\zeta f$、$g'\beta=\zeta g$ を満たすものである。
$$ \xymatrix{ X \ar[r]^{f} \ar[d]_{\alpha} & Z \ar[d]^{\zeta} & Y \ar[l]_{g} \ar[d]^{\beta}\\ X' \ar[r]_{f'} & Z' & Y' \ar[l]^{g'} } $$

右固有なモデル圏

モデル圏 $\mathcal M$ が右固有(right proper)であるとは、引き戻しの正方形
$$ \begin{array}{ccc} E\times_BB'&\xrightarrow{w'}&E\\ \downarrow&&\downarrow p\\ B'&\xrightarrow{w}&B \end{array} $$
で $p$ がファイブレーション、$w$ が弱同値なら、$w'$ も弱同値であることをいう。

ホモトピー引き戻しとホモトピーデカルト正方形

$\mathcal M$ を右固有なモデル圏とし、コスパン $X\xrightarrow{f}Z\xleftarrow{g}Y$ をとる。$f$ を
$$ X\xrightarrow{\ i\ }\tilde X\xrightarrow{\ p\ }Z\qquad(i\text{ は弱同値},\ p\text{ はファイブレーション}) $$
と分解し、引き戻し $\tilde X\times_ZY$ をこのコスパンのホモトピー引き戻しという。分解公理により、$i$ を自明コファイブレーションにとる分解はつねに存在する。
可換正方形 $a\colon A\to X$、$b\colon A\to Y$、$fa=gb$ がホモトピーデカルト(homotopy cartesian)であるとは、上のような分解について、誘導される射 $(ia,b)\colon A\to\tilde X\times_ZY$ が弱同値であることをいう。

ホモトピー引き戻しは分解の選び方に依存しうるが、cor-holim-independence により、どの分解をとっても互いに弱同値な対象になり、正方形がホモトピーデカルトであるかどうかは分解によらない。$f$ が初めからファイブレーションなら $\tilde X=X$ ととれ、通常の引き戻し $X\times_ZY$ がホモトピー引き戻しである。この言葉づかいは GJ09 §II.8(pp. 129–131)にしたがう。
一般の図式については、極限関手を導来化して定める。

ホモトピー極限

$J$ を小さい圏とし、$J$ を添字とする単体的集合の図式の圏 $\mathrm{sSet}^J$ を考える。$\mathrm{sSet}^J$ には、弱同値とコファイブレーションを各成分ごとに定めるモデル構造(入射的モデル構造)がある(GJ09 Proposition VIII.2.4、p. 403)。図式 $D$ を各成分の弱同値 $D\to D'$ でこの構造のファイブラント対象 $D'$ に取り替え、
$$ \operatorname{holim}_JD:=\lim_JD' $$
を $D$ のホモトピー極限という。

$\lim_J$ はこのモデル構造のファイブラント対象の間の弱同値を弱同値に送るので、$\operatorname{holim}_JD$ は $D'$ の選び方によらずに弱同値を除いて定まり、極限関手の右導来関手 $\mathbf R\lim_J$ を与える(GJ09 §VIII.2、p. 407)。この記事ではこの事実を証明しない。単体的モデル圏に値をとるコスパンの図式の圏にも、ファイブラント対象が「$Z$ がファイブラントで両方の脚がファイブレーション」であるコスパンになるモデル構造を入れ、ファイブラント置換の引き戻しをホモトピー引き戻しとする流儀がある(GJ09 Exercise VI.1.8・Theorem VI.1.9、pp. 312–313。証明は演習とされており、この記事でも証明しない)。この流儀の値は上の定義の値と弱同値である(rem-holim-fibrant-replacement)。

主定理:引き戻しの貼り合わせ

主定理の証明は三つの補題に分かれる。最初の二つはモデル圏の公理から直接従う。

引き戻しとファイブレーション

モデル圏 $\mathcal M$ で、ファイブレーション(自明ファイブレーション)を任意の射に沿って引き戻したものは、ファイブレーション(自明ファイブレーション)である。

$p\colon E\to B$ をファイブレーション、$w\colon B'\to B$ を任意の射、$p'\colon E\times_BB'\to B'$ を引き戻しとし、$q\colon E\times_BB'\to E$ を射影とする。モデル圏 の命題「持ち上げ性質による四つのクラスの特徴づけ」により、$p'$ が自明コファイブレーション $i\colon A\to C$ に対する右持ち上げ性質をもつことを示せばよい。$i$ を左辺、$p'$ を右辺とする可換正方形(上辺 $u\colon A\to E\times_BB'$、下辺 $v\colon C\to B'$)をとる。正方形 $(qu,\ wv)$ は $p\circ qu=w\circ p'u=w\circ vi$ により可換なので、$p$ の持ち上げ性質から $h\colon C\to E$、$hi=qu$、$ph=wv$ を得る。$ph=wv$ だから $(h,v)\colon C\to E\times_BB'$ が定まり、$(h,v)\circ i=(qu,p'u)=u$、$p'\circ(h,v)=v$ である。自明ファイブレーションについては、$i$ を任意のコファイブレーションにして同じ議論を行う。$\square$

$Z$ を $\mathcal M$ の対象とし、$Z$ 上の対象の圏(スライス圏)を $\mathcal M/Z$ と書く。対象は射 $X\to Z$、射は $Z$ 上の射である。

スライス圏のモデル構造

$\mathcal M/Z$ の射を、$\mathcal M$ の射として弱同値・コファイブレーション・ファイブレーションであるときにそう呼ぶと、$\mathcal M/Z$ はモデル圏になる。そのファイブラント対象はファイブレーション $X\to Z$ である。

要点:持ち上げと分解は $\mathcal M$ で行えば、自動的に $Z$ 上の射になる。

詳しい証明を開く

余極限は $\mathcal M$ の余極限に $Z$ への誘導射をつけたものである。極限は、空でない連結な図式なら $\mathcal M$ の極限、積は $Z$ 上の広いファイバー積、終対象は $\mathrm{id}_Z$ で与えられるので、$\mathcal M/Z$ は完備かつ余完備である。2 out of 3 とレトラクト閉性は $\mathcal M$ から従う。持ち上げ:$i\colon A\to C$、$p\colon X\to Y$ を $\mathcal M/Z$ の射とし、可換正方形(上辺 $u$、下辺 $v$)に $\mathcal M$ での持ち上げ $h\colon C\to X$ をとる。$Y$ の構造射を $s_Y$ とすると $s_X h=s_Y ph=s_Y v=s_C$ なので、$h$ は $Z$ 上の射である。分解:$\mathcal M$ での分解 $X\to W\to Y$ の中間の対象 $W$ に、$W\to Y\to Z$ を構造射として与えればよい。終対象は $\mathrm{id}_Z$ なので、$X\to Z$ がファイブラントであることは、$X\to Z$ が $\mathcal M$ のファイブレーションであることと同じである。$\square$

射 $g\colon Y\to Z$ による引き戻し $g^*\colon\mathcal M/Z\to\mathcal M/Y$、$g^*(X\to Z):=(Y\times_ZX\to Y)$ を考える。

引き戻し関手と弱同値

$g\colon Y\to Z$ を任意の射とし、$p_1\colon X_1\to Z$、$p_2\colon X_2\to Z$ をファイブレーション、$u\colon X_1\to X_2$ を $p_2u=p_1$ を満たす弱同値とする。このとき $g^*u\colon Y\times_ZX_1\to Y\times_ZX_2$ は弱同値である。

$\mathcal M/Y$ の弱同値を $\mathcal M$ の弱同値とすると、それは同型をすべて含み 2 out of 3 を満たす。lem-holim-slice により $p_1,p_2$ は $\mathcal M/Z$ のファイブラント対象なので、モデル圏 の補題「Ken Brownの補題」の双対の主張を関手 $g^*$ に当てれば、$g^*$ がファイブラント対象の間の自明ファイブレーションを弱同値に送ることを示せば足りる。$u$ が自明ファイブレーションなら、引き戻しの貼り合わせにより
$$ Y\times_ZX_1\cong(Y\times_ZX_2)\times_{X_2}X_1 $$
であり、$g^*u$ は $u$ を射影 $Y\times_ZX_2\to X_2$ に沿って引き戻したものである。lem-holim-base-change により $g^*u$ は自明ファイブレーション、とくに弱同値である。$\square$

引き戻しの貼り合わせ補題

$\mathcal M$ を右固有なモデル圏とする。コスパン $X\xrightarrow{f}Z\xleftarrow{g}Y$ から $X'\xrightarrow{f'}Z'\xleftarrow{g'}Y'$ への射 $(\alpha,\zeta,\beta)$ が与えられ、

  1. $f$ と $f'$ はファイブレーションであり、
  2. $\alpha$、$\zeta$、$\beta$ は弱同値である
    とする。このとき、誘導される射
    $$ \alpha\times_\zeta\beta\colon X\times_ZY\longrightarrow X'\times_{Z'}Y',\qquad (x,y)\longmapsto(\alpha x,\beta y) $$
    は弱同値である。

ここで $(x,y)$ などの書き方は、引き戻しの普遍性で定まる射を表す略記である。$Q:=Z\times_{Z'}X'$ とおき、射影を $\pi_Z\colon Q\to Z$、$\pi_{X'}\colon Q\to X'$ と書く。
手順 1. $\pi_Z$ は $f'$ を $\zeta$ に沿って引き戻したものなので、lem-holim-base-change によりファイブレーションである。$\pi_{X'}$ は弱同値 $\zeta$ をファイブレーション $f'$ に沿って引き戻したものなので、右固有性により弱同値である。
手順 2. $f'\alpha=\zeta f$ だから $\delta:=(f,\alpha)\colon X\to Q$ が定まり、$\pi_Z\delta=f$、$\pi_{X'}\delta=\alpha$ である。$\alpha$ と $\pi_{X'}$ が弱同値なので、2 out of 3 により $\delta$ は弱同値である。$\delta$ は二つのファイブレーション $f$、$\pi_Z$ の間の $Z$ 上の弱同値なので、lem-holim-pullback-functor により
$$ g^*\delta\colon X\times_ZY\longrightarrow Q\times_ZY $$
は弱同値である。
手順 3. 引き戻しの貼り合わせにより $Q\times_ZY\cong X'\times_{Z'}Y$ である。ここで右辺の $Y\to Z'$ は $\zeta g=g'\beta$ である。射 $\mathrm{id}\times\beta\colon X'\times_{Z'}Y\to X'\times_{Z'}Y'$ は、弱同値 $\beta$ を射影 $X'\times_{Z'}Y'\to Y'$ に沿って引き戻したものであり、この射影はファイブレーション $f'$ を $g'$ に沿って引き戻したものなので、lem-holim-base-change によりファイブレーションである。右固有性により $\mathrm{id}\times\beta$ は弱同値である。
手順 4. 手順 2 と手順 3 の射の合成は $(x,y)\mapsto((fx,\alpha x),y)\mapsto(\alpha x,\beta y)$ であり、$\alpha\times_\zeta\beta$ に等しい。弱同値の合成なので弱同値である。$\square$

分解の選び方によらないこと

$\mathcal M$ を右固有とし、$X\xrightarrow{f}Z\xleftarrow{g}Y$ をコスパン、$f=p_1i_1=p_2i_2$ を $f$ の二つの分解($i_k\colon X\to\tilde X_k$ は弱同値、$p_k$ はファイブレーション)とする。このとき $\tilde X_1\times_ZY$ と $\tilde X_2\times_ZY$ は弱同値の列で結ばれる。さらに可換正方形 $a\colon A\to X$、$b\colon A\to Y$ について、$(i_1a,b)$ が弱同値であることと $(i_2a,b)$ が弱同値であることは同値である。

$f$ を自明コファイブレーション $j\colon X\to W$ とファイブレーション $q\colon W\to Z$ に分解する。$k=1,2$ について、$j$ を左辺、$p_k$ を右辺、上辺を $i_k$、下辺を $q$ とする正方形は $p_ki_k=f=qj$ により可換なので、持ち上げ公理から $h_k\colon W\to\tilde X_k$、$h_kj=i_k$、$p_kh_k=q$ を得る。$j$ と $i_k$ が弱同値なので、2 out of 3 により $h_k$ は弱同値である。コスパンの射 $(h_k,\mathrm{id}_Z,\mathrm{id}_Y)\colon(W\xrightarrow{q}Z\xleftarrow{g}Y)\to(\tilde X_k\xrightarrow{p_k}Z\xleftarrow{g}Y)$ に thm-holim-cogluing を当てると、$h_k\times\mathrm{id}\colon W\times_ZY\to\tilde X_k\times_ZY$ は弱同値である。これで前半が従う。後半は、$(h_k\times\mathrm{id})\circ(ja,b)=(i_ka,b)$ と 2 out of 3 から、どちらの条件も「$(ja,b)$ が弱同値」と同値になることによる。$\square$

脚の取り替え

$\mathcal M$ を右固有とし、$f$ を $X\xrightarrow{i}\tilde X\xrightarrow{p}Z$、$g$ を $Y\xrightarrow{i'}\tilde Y\xrightarrow{p'}Z$ と分解する($i,i'$ は弱同値、$p,p'$ はファイブレーション)。このとき
$$ \tilde X\times_ZY\xrightarrow{\ \mathrm{id}\times i'\ }\tilde X\times_Z\tilde Y\xleftarrow{\ i\times\mathrm{id}\ }X\times_Z\tilde Y $$
はどちらも弱同値である。したがって、$f$ と $g$ のどちらを取り替えても、ホモトピー引き戻しは弱同値を除いて同じである。

左の射は、コスパンの射 $(\mathrm{id}_{\tilde X},\mathrm{id}_Z,i')\colon(\tilde X\xrightarrow{p}Z\xleftarrow{g}Y)\to(\tilde X\xrightarrow{p}Z\xleftarrow{p'}\tilde Y)$ に thm-holim-cogluing を当てて弱同値である(左の脚はどちらも $p$ でファイブレーション)。右の射は、引き戻しの二つの因子の役割を入れ替えたコスパンの射 $(\mathrm{id}_{\tilde Y},\mathrm{id}_Z,i)\colon(\tilde Y\xrightarrow{p'}Z\xleftarrow{f}X)\to(\tilde Y\xrightarrow{p'}Z\xleftarrow{p}\tilde X)$ に同じ定理を当てて弱同値である。$\square$

右固有性を仮定しない一般のモデル圏でも、$X,Y,Z,X',Y',Z'$ がすべてファイブラントなら thm-holim-cogluing の結論が成り立つ(Hov99 Lemma 5.2.6(cube lemma)の双対。この記事では証明しない)。これを $(E\xrightarrow{p}B\xleftarrow{w}B')\to(E\xrightarrow{p}B\xleftarrow{\mathrm{id}}B)$ に当てると、すべての対象がファイブラントなモデル圏は右固有であることが分かる。位相空間の圏の Quillen モデル構造(弱同値は弱ホモトピー同値、ファイブレーションは Serre ファイブレーション)ではすべての対象がファイブラントであり(Hov99 Theorem 2.4.19)、したがって右固有である。単体的集合の Kan–Quillen モデル構造も右固有である(GJ09 Corollary II.8.6、p. 126)。主定理は、左右とも固有なモデル圏について GJ09 Corollary II.8.13(p. 129)に述べられており(証明は双対の議論に委ねられている)、cor-holim-independence は同書 Lemma II.8.16(p. 130)にあたる。

ファイブラント置換による定義との比較

$\mathcal M$ を右固有とし、コスパン $X\xrightarrow{f}Z\xleftarrow{g}Y$ から、$\hat Z$ がファイブラントで $\hat f\colon\hat X\to\hat Z$ がファイブレーションであるコスパン $\hat X\xrightarrow{\hat f}\hat Z\xleftarrow{\hat g}\hat Y$ への、各成分が弱同値である射 $(u_X,u_Z,u_Y)$ があるとする。$f=pi$($i\colon X\to\tilde X$ は自明コファイブレーション、$p$ はファイブレーション)と分解すると、$\tilde X\times_ZY$ と $\hat X\times_{\hat Z}\hat Y$ は弱同値である。実際、$i$ を左辺、$\hat f$ を右辺、上辺を $u_X$、下辺を $u_Zp$ とする正方形は $\hat fu_X=u_Zf=u_Zpi$ により可換なので、持ち上げ $l\colon\tilde X\to\hat X$($li=u_X$、$\hat fl=u_Zp$)がとれる。$l$ は 2 out of 3 により弱同値であり、コスパンの射 $(l,u_Z,u_Y)$ に thm-holim-cogluing を当てればよい。

位相空間のホモトピー引き戻し

位相空間の圏には Quillen モデル構造を考える。写像の空間 $Z^I$ にはコンパクト開位相を入れ、$c_z$ は点 $z$ にとどまる定値の道を表す。

二重の道の空間

連続写像 $f\colon X\to Z$、$g\colon Y\to Z$ について、
$$ P(f,g):=\{(x,\gamma,y)\in X\times Z^I\times Y\mid\gamma(0)=f(x),\ \gamma(1)=g(y)\} $$
に部分空間の位相を入れる。$E_f:=\{(x,\gamma)\in X\times Z^I\mid\gamma(0)=f(x)\}$、$i(x):=(x,c_{f(x)})$、$p(x,\gamma):=\gamma(1)$ とおくと、$f=p\circ i$ であり、$i\colon X\to E_f$ はホモトピー同値、$p\colon E_f\to Z$ は Serre ファイブレーションである。さらに $E_f\times_ZY=P(f,g)$ なので、$P(f,g)$ はコスパン $X\xrightarrow{f}Z\xleftarrow{g}Y$ のホモトピー引き戻しである。

$r(x,\gamma):=x$ とおくと $r\circ i=\mathrm{id}_X$ である。$H((x,\gamma),s):=(x,\ t\mapsto\gamma((1-s)t))$ は、道 $t\mapsto\gamma((1-s)t)$ の始点が $\gamma(0)=f(x)$ のままなので $E_f$ に値をとり、$s=0$ で恒等写像、$s=1$ で $(x,c_{\gamma(0)})=i(r(x,\gamma))$ である。連続性は、$I$ が局所コンパクト Hausdorff であることから、コンパクト開位相 の定理「指数法則」で $(x,\gamma,s,t)\mapsto\gamma((1-s)t)$ の連続性に帰着する(ホモトピーファイバー の補題「連続性の判定」と同じ議論)。よって $i$ はホモトピー同値、とくに弱ホモトピー同値である。$p$ がすべての空間についてホモトピー持ち上げ性質をもつことは Hat02 Proposition 4.64(p. 407)による(この記事では証明しない)。とくに立方体についての持ち上げ性質をもつので、$p$ は Serre ファイブレーションである。最後に、$E_f\times_ZY$ は $\gamma(1)=g(y)$ を満たす $((x,\gamma),y)$ の全体であり、$X\times Z^I\times Y$ の部分空間として $P(f,g)$ と一致する。def-holim-homotopy-pullback の分解として $f=p\circ i$ をとればよい。$\square$

ホモトピーファイバーとループ空間

$z_0\in Z$ とし、$g$ を点の包含 $\{z_0\}\to Z$ とする。$P(f,g)$ は $x\in X$ と $f(x)$ から $z_0$ への道の組の空間であり、道を逆向きにたどる写像により、ホモトピーファイバー の定義「ホモトピーファイバー」の空間 $F_f(z_0)$($z_0$ から $f(x)$ への道との組)と同相である。さらに $f$ も点の包含 $\{z_0\}\to Z$ なら、$P(f,g)$ は $z_0$ を基点とするループの空間 $\Omega Z$ である(ループ空間)。したがって、ホモトピーファイバーは $X\to Z\leftarrow\{z_0\}$ の、ループ空間は $\{z_0\}\to Z\leftarrow\{z_0\}$ のホモトピー引き戻しである。

ex-holim-strict-fails の図式 $\{0\}\to I\leftarrow\{1\}$ では $P(f,g)$ は $0$ から $1$ への道の空間であり、そこで見たとおり可縮である。$f$ が初めから Serre ファイブレーションなら、通常の引き戻し $X\times_ZY$ もホモトピー引き戻しであり、$P(f,g)$ と弱ホモトピー同値になる(cor-holim-independence)。$g$ が点の包含のとき、これは ホモトピーファイバー の定理「ファイバーとホモトピーファイバー」の弱同値版である。

一般の図式のホモトピー極限

def-holim-general のホモトピー極限は、単体的集合の図式について具体的な式で書ける。この節の主張はこの記事では証明しない。
各成分が Kan複体 である図式 $D\colon J\to\mathrm{sSet}$ について、$J$ の対象 $j$ に $j$ への射のなすスライス圏 $J/j$ の脈体 $B(J/j)$ を対応させる図式を $B(J/{-})$ と書く。このとき
$$ \operatorname{holim}_JD\simeq\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}^J}\bigl(B(J/{-}),D\bigr) $$
(右辺は図式の間の単体的写像空間)が成り立つ($\simeq$ は弱同値の列で結ばれることを表す。右辺は GJ09 §VIII.2 がホモトピー極限の定義に使う対象と同型であり(Lemma VIII.2.3、p. 402)、それが $\lim_JD'$ と弱同値で結ばれることは同 Lemma VIII.2.11(p. 407)による)。これは Bousfield–Kan の式と呼ばれる。各成分が弱同値である、Kan 複体の図式の間の射は、この右辺の間の弱同値を誘導する(同 Lemma VIII.2.2、p. 401)。右辺は、通常の極限 $\lim_JD=\operatorname{Hom}_{\mathrm{sSet}^J}(*,D)$ の一点の図式 $*$ を、各成分が可縮な図式 $B(J/{-})$ に置き換えたものである。$J/j$ は終対象 $\mathrm{id}_j$ をもつので $B(J/j)$ は可縮である。
塔 $\cdots\to X_2\to X_1\to X_0$ が Kan 複体の間の基点付き Kan ファイブレーションの列なら、通常の逆極限がホモトピー極限であり(GJ09 §VI.1)、各 $i\ge0$ について基点付き集合の完全列
$$ *\to{\lim}^1\pi_{i+1}X_s\to\pi_i\bigl(\lim X_s\bigr)\to\lim\pi_iX_s\to* $$
(Milnor の完全列)がある(GJ09 Proposition VI.2.15、p. 319。$i\ge1$ では群の完全列)。ホモトピー極限のホモトピー群は、各段のホモトピー群の極限だけでは決まらず、$\lim^1$ の項が加わる。

$\infty$ 圏と豊穣圏での見方

単体的集合で豊穣化した圏の通常の極限(極限(豊穣圏))は、全 Hom の単体的集合の通常の極限を表すものであり、それだけではホモトピー極限ではない。上の主定理が示すように、図式がファイブラントな形(引き戻しなら一方の脚がファイブレーション)であれば、通常の極限がホモトピー極限を計算する。∞圏の極限(極限(∞圏))は写像空間の言葉でホモトピー普遍性を要求するもので、Kan 複体で豊穣された単体的圏の中のホモトピー極限が、そのホモトピー整合的脈体で得られる∞圏の極限を与える(HTT09 Theorem 4.2.4.1 の双対。この記事では証明しない)。単体的モデル圏のファイブラント・コファイブラント対象の部分圏は、この比較を使うための典型的な表示である。

反例の表

thm-holim-cogluing の仮定のうち二つを、一つずつ外す。どちらも位相空間の Quillen モデル構造(右固有)で考える。

外す条件反例成り立たなくなること
$f$ がファイブレーション$(\{0\}\to I\leftarrow\{1\})\to(*\to*\leftarrow*)$引き戻しの間の射が弱同値($\emptyset\to*$)
$\zeta$ が弱同値$(\mathbb R\xrightarrow{e}S^1\leftarrow*)\to(*\to*\leftarrow*)$、$e(r)=e^{2\pi ir}$引き戻しの間の射が弱同値($\mathbb Z\to*$)
反例:表の各行の確かめ
確かめを開く

1 行目:$\alpha,\zeta,\beta$ はどれも可縮な空間から一点への写像なので弱同値であり、$f'=\mathrm{id}_*$ はファイブレーションである。$f\colon\{0\}\to I$ は Serre ファイブレーションでない。実際、一点 $D^0$ から $\{0\}$ への写像と、$0$ から $1$ への道 $D^0\times I\to I$ からなる持ち上げの問題に解があれば、道は $\{0\}$ の中を通ることになり、終点が $1$ であることに反する。引き戻しは $\emptyset$ と $*$ で、空集合と一点は弱同値でない(ex-holim-strict-fails)。

2 行目:$e$ は被覆写像なのでファイブレーションであり(ホモトピーファイバー の例「被覆写像と円周」)、$f'=\mathrm{id}_*$ もファイブレーションである。$\alpha\colon\mathbb R\to*$ と $\beta=\mathrm{id}_*$ は弱同値だが、$\zeta\colon S^1\to*$ は $\pi_1(S^1)\cong\mathbb Z\ne0$ なので弱同値でない。引き戻し $\mathbb R\times_{S^1}*=e^{-1}(1)=\mathbb Z$ は離散空間で、$\pi_0$ が無限集合なので $*$ と弱同値でない。

関連項目

参考文献

[1]
Paul G. Goerss, John F. Jardine, Simplicial Homotopy Theory, Modern Birkhäuser Classics(1999 年版の再版), Birkhäuser, §II.8: Corollary II.8.6 (p. 126), Corollary II.8.13 (p. 129), Lemma II.8.16 (p. 130); §VI.1: Exercise VI.1.8, Theorem VI.1.9 (pp. 312–313); Proposition VI.2.15 (p. 319); §VIII.2: Lemma VIII.2.2 (p. 401), Lemma VIII.2.3 (p. 402), Proposition VIII.2.4 (p. 403), Lemma VIII.2.11 (p. 407)

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