Weil高さ

同義語:Weil heightヴェイユ高さ絶対対数高さabsolute logarithmic height高さ関数height functionWeilの高さ機械height machine

概要

Weil高さ(Weil height)とは、代数的数や、代数的数を座標にもつ射影空間の点 $P=[x_0:\dots:x_n]$ に、座標を含む代数体 $K$ のすべての素点 $v$ の正規化された絶対値を使って $h(P)=\frac{1}{[K:\mathbb{Q}]}\sum_v\log\max_i\|x_i\|_v$ と定める、算術的な複雑さの尺度である。積公式により射影座標にも $K$ のとり方にもよらず、既約分数 $a/b$ では $\log\max(|a|,|b|)$ に等しい。高さと次数がともに有界な代数的数は有限個しかなく(Northcott の定理)、高さが $0$ の $0$ でない代数的数はちょうど $1$ の冪根である(Kronecker の定理)。射影多様体の直線束ごとに、有界な差を除いて関手的な高さが定まる(Weil の高さ機械)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数体, アデール環, 射影空間, 代数的数, Diophantus幾何学

Weil 高さ(Weil height)とは、代数的数や、代数的数を座標にもつ射影空間の点に、その「算術的な複雑さ」を表す $0$ 以上の実数を対応させる関数である。有理数 $a/b$(既約)では $\log\max(\lvert a\rvert,\lvert b\rvert)$ に等しく、分子と分母の桁数を測っている。代数的数では、実数・複素数としての大きさだけでなく、すべての素イデアルでの「分母の大きさ」も合わせて測る。そのために代数体のすべての素点の絶対値を使い、積公式によって射影座標のとり方にも体のとり方にもよらない量になる。
高さの基本的な性質は 2 つある。1 つは Northcott の性質で、高さと次数がともに有界な代数的数は有限個しかない。もう 1 つは、写像による変化が規則的であること(関手性)で、射影多様体の直線束ごとに高さが有界な差を除いて定まるという Weil の高さ機械にまとめられる。この 2 つが、有理点の有限性の証明の基本の道具になる。
この記事では、Weil 高さを定義し、定義が座標と体によらないこと、積や和についての不等式、Northcott の定理(次数が有界な代数的数の場合)、高さが $0$ の代数的数は $0$ か $1$ の冪根であること(Kronecker の定理)を完全に証明する。有理数体上の射影空間での高さと Northcott の性質は Diophantus幾何学 で扱っており、この記事はそれを代数的数に広げる。高さを使う近似の定理は Rothの定理 と Schmidtの部分空間定理 で扱う。

素点と正規化された絶対値

以下 $K$ を 代数体 とし、$M_K$ をその素点全体とする。素点と正規化された絶対値 $\|\cdot\|_v$ は アデール環 の定義「素点と正規化された絶対値」のとおりとする。すなわち、素イデアル $\mathfrak{p}$ に対応する有限素点では $\|x\|_v=N(\mathfrak{p})^{-v_{\mathfrak{p}}(x)}$、実埋め込み $\sigma$ に対応する実素点では $\|x\|_v=\lvert\sigma(x)\rvert$、複素埋め込みの組 $\{\sigma,\bar\sigma\}$ に対応する複素素点では $\|x\|_v=\lvert\sigma(x)\rvert^2$ である(Mil20 §7、p. 112 と同じ正規化)。
この正規化について、アデール環 の定理「積公式」により、$0$ でない $x\in K$ では $\|x\|_v=1$ が有限個を除くすべての $v$ で成り立ち、
$$ \prod_{v\in M_K}\|x\|_v=1 $$
である。
素点 $v$ について、$v$ が有限素点なら $N_v:=0$、実素点なら $N_v:=1$、複素素点なら $N_v:=2$ とおく。$K$ の実埋め込みの個数を $r_1$、複素埋め込みの組の個数を $r_2$ とすると、$\sum_{v\mid\infty}N_v=r_1+2r_2=[K:\mathbb{Q}]$ である。

和の評価

$v\in M_K$、$x_1,\dots,x_m\in K$ について
$$ \|x_1+\dots+x_m\|_v\le m^{N_v}\max_i\|x_i\|_v $$
が成り立つ。

有限素点では $v_{\mathfrak{p}}(x+y)\ge\min\{v_{\mathfrak{p}}(x),v_{\mathfrak{p}}(y)\}$ なので $\|x+y\|_v\le\max\{\|x\|_v,\|y\|_v\}$ であり、繰り返せば $m^0=1$ の場合の不等式を得る。実素点では三角不等式により $\lvert\sum_i\sigma(x_i)\rvert\le m\max_i\lvert\sigma(x_i)\rvert$ である。複素素点ではこの不等式の両辺を 2 乗すればよい。$\square$

複素素点の $\|\cdot\|_v$ は三角不等式をみたさないが、この補題の形の不等式で足りる(Voj11 (1.3.3)、p. 116)。
体を広げたときの素点の関係は次のとおりである。$L$ を $K$ の有限次拡大体とする。$L$ の素点 $w$ の $K$ への制限が $v$ と同値であるとき $w\mid v$ と書く。$L$ の各素点はちょうど 1 つの $K$ の素点の上にある。$K_v$、$L_w$ をそれぞれの完備化とし、局所次数 $n_{w}:=[L_w:K_v]$ とおく。

拡大体の素点

$v\in M_K$ とする。

  1. $v$ の上にある $L$ の素点 $w$ は有限個で、$\sum_{w\mid v}n_w=[L:K]$ である。
  2. $w\mid v$ なら、すべての $x\in K$ について $\|x\|_w=\|x\|_v^{\,n_w}$ である。
局所次数の読み方

1 の式は、素点 $v$ が $L$ でどう分解するかを次数で数えたものである。$v$ が完全分解して $w$ が $[L:K]$ 個あるなら各 $n_w=1$ であり、$w$ がただ 1 つなら $n_w=[L:K]$ である。2 は、$K$ の元に対する $w$ での大きさが $v$ での大きさの $n_w$ 乗になることを表す。この指数が、高さの定義で $K$ を広げても和が変わらないことに効く。

この命題はこの記事では証明しない。1 は $L\otimes_KK_v\cong\prod_{w\mid v}L_w$ の両辺の $K_v$ 上の次元を比べて得られ(Mil20 Proposition 8.2、p. 136)、2 は Mil20 Lemma 8.6(p. 137)である(Voj11 (1.4)、p. 117 にも同じ式がある)。

定義

射影空間 $\mathbb{P}^n(\overline{\mathbb{Q}})$ の点 $P=[x_0:\dots:x_n]$ について、$x_j\ne0$ となる $j$ をとり、$\mathbb{Q}(P):=\mathbb{Q}(x_0/x_j,\dots,x_n/x_j)$ とおく。$x_k\ne0$ となる別の $k$ についても $x_i/x_k=(x_i/x_j)/(x_k/x_j)$ なので、$\mathbb{Q}(P)$ は $j$ によらない。これを $P$ の 定義体 という。$\mathbb{Q}(P)$ は代数体で、$P$ はそのどの拡大体 $K$ の元を座標にしても表せる。

Weil 高さ

$K$ を代数体、$P\in\mathbb{P}^n(\overline{\mathbb{Q}})$ を $K$ の元 $x_0,\dots,x_n$(すべては $0$ でない)を座標とする点とする。
$$ h(P):=\frac{1}{[K:\mathbb{Q}]}\sum_{v\in M_K}\log\max_{0\le i\le n}\|x_i\|_v $$
を $P$ の (絶対対数)Weil 高さ、$H(P):=e^{h(P)}$ を 乗法的高さ という。代数的数 $x\in\overline{\mathbb{Q}}$ については $h(x):=h([x:1])$ とおく。$\log^+t:=\max\{\log t,0\}$($t>0$)、$\log^+0:=0$ と書けば
$$ h(x)=\frac{1}{[K:\mathbb{Q}]}\sum_{v\in M_K}\log^+\|x\|_v\qquad(x\in K) $$
である。

右辺の和は有限和である。$0$ でない $x_i$ はそれぞれ有限個を除く素点で $\|x_i\|_v=1$ をみたすので、有限個を除く素点では $\max_i\|x_i\|_v=1$ となり、その項は $0$ である。この定義は Voj11 (2.3)–(2.6)(pp. 118–119)の $h_K$ を $[K:\mathbb{Q}]$ で割ったものであり、Sch89 (1.5)(1.6)(p. 123)の絶対高さと同じ考え方である。$[K:\mathbb{Q}]$ で割る正規化のおかげで、次の命題のとおり $K$ のとり方によらない。

定義がよいこと
  1. $h(P)$ は $P$ の射影座標のとり方によらない。
  2. $h(P)$ は座標を含む代数体 $K$ のとり方によらない。
  3. $h(P)\ge0$ である。
  4. $P\in\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ を、最大公約数が $1$ の整数 $a_0,\dots,a_n$ で $P=[a_0:\dots:a_n]$ と表すと、$h(P)=\log\max_i\lvert a_i\rvert$ である。とくに既約分数 $a/b$ について $h(a/b)=\log\max(\lvert a\rvert,\lvert b\rvert)$ である。

1:座標を $0$ でない $\lambda\in K$ 倍すると、各素点で $\max_i\|\lambda x_i\|_v=\|\lambda\|_v\max_i\|x_i\|_v$ となり、和は $\sum_v\log\|\lambda\|_v$ だけ変わる。積公式によりこれは $0$ である。座標を含む体を $K$ から広げて $\lambda$ を $K$ の外からとる場合は、2 を示したあと、$\lambda$ も含む体で同じ議論をすればよい。
2:$L$ を $K$ の有限次拡大とする。$L$ の各素点 $w$ はちょうど 1 つの $v\in M_K$ の上にあるので、$L$ の素点の和は $v$ ごとにまとめられる。prop-wh-extension の 2 により $x_i\in K$ について $\|x_i\|_w=\|x_i\|_v^{\,n_w}$、同じ命題の 1 により $\sum_{w\mid v}n_w=[L:K]$ なので
$$ \sum_{w\in M_L}\log\max_i\|x_i\|_w=\sum_{v\in M_K}\sum_{w\mid v}n_w\log\max_i\|x_i\|_v=[L:K]\sum_{v\in M_K}\log\max_i\|x_i\|_v $$
である。$[L:\mathbb{Q}]=[L:K][K:\mathbb{Q}]$ で割れば、$L$ で計算した値と $K$ で計算した値は等しい。座標を含む 2 つの代数体 $K,K'$ については、それらを含む代数体 $KK'$ と比べればよい。
3:1 により、$x_j\ne0$ となる $j$ について $x_j=1$ と正規化してよい。すると各素点で $\max_i\|x_i\|_v\ge\|1\|_v=1$ なので、和の各項は $0$ 以上である。
4:$K=\mathbb{Q}$ で計算する。素数 $p$ に対応する素点では、$a_i$ のどれかは $p$ で割り切れないので $\max_i\lvert a_i\rvert_p=1$ である。実素点では $\max_i\lvert a_i\rvert$ である。よって $h(P)=\log\max_i\lvert a_i\rvert$ である。$a/b$ には $[a:b]$ を当てる。$\square$

4 により、$\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ 上では、この記事の $H$ は Diophantus幾何学 の定義「射影空間の点の高さ」の $H$ と一致する。

例

有理数と平方根

$h(2)=\log2$、$h(3/5)=\log5$、$h(-7/2)=\log7$ である(prop-wh-well-defined の 4)。
$\sqrt2$ の高さを $K=\mathbb{Q}(\sqrt2)$ で計算する。実素点は 2 つで、$\sqrt2\mapsto\pm\sqrt2$ なので $\log^+\lvert\pm\sqrt2\rvert=\tfrac12\log2$ である。有限素点では、$\sqrt2$ は代数的整数なので $\|\sqrt2\|_v\le1$ である。よって $h(\sqrt2)=\tfrac12\bigl(\tfrac12\log2+\tfrac12\log2\bigr)=\tfrac12\log2$ である。同様に $h(2^{1/m})=\tfrac1m\log2$($m\ge1$)であり、これは次節の性質「$h(x^m)=\lvert m\rvert h(x)$」とも合う。

黄金比

$\varphi=(1+\sqrt5)/2$ は $x^2-x-1=0$ の根で、$\varphi\cdot\varphi'=-1$($\varphi'=(1-\sqrt5)/2$)なので $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ の単数である。有限素点ではすべて $\|\varphi\|_v=1$ である。2 つの実素点での値は $\lvert\varphi\rvert\approx1.618$ と $\lvert\varphi'\rvert\approx0.618$ なので
$$ h(\varphi)=\frac12\log\frac{1+\sqrt5}{2}\approx0.2406 $$
である。$\varphi$ は $1$ の冪根ではなく、高さは $0$ でない(thm-wh-kronecker と合う)。

絶対値が 1 の代数的数

$x=(3+4i)/5\in K=\mathbb{Q}(i)$ を考える。$\lvert x\rvert=1$ なので、ただ 1 つの複素素点では $\|x\|_v=1$ である。一方 $5=(2+i)(2-i)$、$3+4i=(2+i)^2$ なので $x=(2+i)/(2-i)$ であり、素イデアル $(2-i)$(ノルム $5$)では $\|x\|_v=5$、$(2+i)$ では $\|x\|_v=1/5$ である。よって
$$ h(x)=\frac12\log5 $$
である。実数・複素数としての大きさが $1$ でも、分母が高さに現れる。

基本性質

高さの基本性質

$x,y,x_1,\dots,x_m\in\overline{\mathbb{Q}}$ とする。

  1. 整数 $m$ について $h(x^m)=\lvert m\rvert\,h(x)$ である($m< 0$ では $x\ne0$ とする)。
  2. $h(x_1\cdots x_m)\le h(x_1)+\dots+h(x_m)$ である。
  3. $h(x_1+\dots+x_m)\le h(x_1)+\dots+h(x_m)+\log m$ である。
  4. 体の埋め込み $\sigma\colon\mathbb{Q}(x)\to\overline{\mathbb{Q}}$ について $h(\sigma(x))=h(x)$ である。射影空間の点についても同様である。
  5. $h(0)=0$ であり、$1$ の冪根 $\zeta$ について $h(\zeta)=0$ である。
不等式の項と共役

3 の $\log m$ は省けない。$h(1)=0$ だが $h(1+1)=\log2$ である(節「反例と注意」の表の 4 行目)。4 により、代数的数とその共役(最小多項式の根)はすべて同じ高さをもつ。

要点:各素点の不等式を足し合わせる。3 の $\log m$ は lem-wh-sum の $m^{N_v}$ から出て、$\sum_{v\mid\infty}N_v=[K:\mathbb{Q}]$ で割ると $\log m$ になる。

詳しい証明を開く

$K$ をすべての元を含む代数体とする。1:$m\ge0$ なら $\max(\|x\|_v^m,1)=\max(\|x\|_v,1)^m$ である。$m=-1$ なら $\log^+\|x^{-1}\|_v=\log^+\|x\|_v-\log\|x\|_v$ であり、積公式により $\sum_v\log\|x\|_v=0$ なので $h(x^{-1})=h(x)$ である。一般の負の $m$ は 2 つを合わせればよい。

2:$a,b\ge0$ について $\log^+(ab)\le\log^+a+\log^+b$ なので、$\log^+\|x_1\cdots x_m\|_v\le\sum_i\log^+\|x_i\|_v$ であり、$v$ について足して $[K:\mathbb{Q}]$ で割ればよい。

3:lem-wh-sum と $m\ge1$ から $\log^+\|\sum_ix_i\|_v\le N_v\log m+\log^+\max_i\|x_i\|_v\le N_v\log m+\sum_i\log^+\|x_i\|_v$ である。$v$ について足すと $\sum_vN_v\log m=[K:\mathbb{Q}]\log m$ なので、$[K:\mathbb{Q}]$ で割って主張を得る。

4:$K=\mathbb{Q}(x)$、$K'=\sigma(K)$ とすると、$\sigma\colon K\to K'$ は体の同型である。これは整数環の同型 $\mathcal{O}_K\cong\mathcal{O}_{K'}$ を与え、素イデアル $\mathfrak{p}$ を同じノルムの素イデアル $\sigma(\mathfrak{p})$ に移し、$v_{\sigma(\mathfrak{p})}(\sigma(y))=v_{\mathfrak{p}}(y)$ である。$K'$ の埋め込み $\tau$ には $K$ の埋め込み $\tau\circ\sigma$ が対応し、実・複素の別も保たれる。こうして全単射 $M_K\to M_{K'}$、$v\mapsto v'$ で $\|\sigma(y)\|_{v'}=\|y\|_v$ となるものが得られ、$[K':\mathbb{Q}]=[K:\mathbb{Q}]$ なので $h(\sigma(x))=h(x)$ である。射影空間の点でも同じ計算である。

5:$h(0)=h([0:1])=0$ である。$\zeta^N=1$ なら $\|\zeta\|_v^N=1$ なので $\|\zeta\|_v=1$ であり、$h(\zeta)=0$ である。$\square$

Northcott の定理

有理数体の点については、Diophantus幾何学 の命題「Northcott の性質(有理数体の場合)」により、高さが $B$ 以下の $\mathbb{P}^n(\mathbb{Q})$ の点は有限個である。これを、次数が有界な代数的数に広げる。

Northcott の定理

整数 $n\ge0$、$D\ge1$ と実数 $B$ について、集合
$$ \{P\in\mathbb{P}^n(\overline{\mathbb{Q}})\mid[\mathbb{Q}(P):\mathbb{Q}]\le D,\ h(P)\le B\} $$
は有限集合である。とくに、次数が $D$ 以下で高さが $B$ 以下の代数的数は有限個である。

まず代数的数の場合を示す。$x\in\overline{\mathbb{Q}}$ の次数を $e\le D$ とし、$h(x)\le B$ とする。$x$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式を
$$ f(T)=\prod_{i=1}^e(T-x_i)=\sum_{r=0}^e(-1)^rs_rT^{e-r} $$
と書く。$x_1,\dots,x_e$ は $x$ の共役で、$s_r$ は $x_1,\dots,x_e$ の $r$ 次の基本対称式、$s_0=1$、$s_r\in\mathbb{Q}$ である。$L:=\mathbb{Q}(x_1,\dots,x_e)$ とする。
$L$ の素点 $w$ で $\|s_r\|_w$ を評価する。$s_r$ は $x_i$ の $r$ 個の積 $\binom{e}{r}$ 個の和である。$r$ 個の積の値は $\prod_{i=1}^e\max(1,\|x_i\|_w)$ 以下であり、$\binom{e}{r}\le2^e$ なので、lem-wh-sum により
$$ \|s_r\|_w\le2^{eN_w}\prod_{i=1}^e\max(1,\|x_i\|_w)\qquad(0\le r\le e) $$
である(有限素点では $N_w=0$)。$s_0=1$ なので、対数をとって
$$ \log\max_r\|s_r\|_w\le eN_w\log2+\sum_{i=1}^e\log^+\|x_i\|_w $$
を得る。$w$ について足して $[L:\mathbb{Q}]$ で割ると、$\sum_{w\mid\infty}N_w=[L:\mathbb{Q}]$ なので、点 $c(x):=[s_0:s_1:\dots:s_e]\in\mathbb{P}^e(\mathbb{Q})$ について
$$ h\bigl(c(x)\bigr)\le e\log2+\sum_{i=1}^eh(x_i) $$
となる。各 $x_i$ は体の埋め込み $\mathbb{Q}(x)\to L$ による $x$ の像なので、prop-wh-basic の 4 により $h(x_i)=h(x)$ であり、
$$ h\bigl(c(x)\bigr)\le e\bigl(B+\log2\bigr)\le D\bigl(B+\log2\bigr) $$
である。prop-wh-well-defined の 4 と Diophantus幾何学 の命題「Northcott の性質(有理数体の場合)」により、各 $e\le D$ について、この不等式をみたす $\mathbb{P}^e(\mathbb{Q})$ の点は有限個である。$c(x)$ は $x$ の最小多項式を決め、1 つの多項式の根は $e$ 個以下なので、条件をみたす $x$ は有限個である。
次に一般の $P=[x_0:\dots:x_n]$ を考える。$x_j\ne0$ となる $j$ をとり、$x_j=1$ と正規化して $y_i:=x_i/x_j\in\mathbb{Q}(P)$ とおく。各 $y_i$ の次数は $[\mathbb{Q}(P):\mathbb{Q}]\le D$ 以下である。各素点で $\max(\|y_i\|_v,1)\le\max_k\|y_k\|_v$($y_j=1$ による)なので $h(y_i)\le h(P)\le B$ である。前段により、各 $y_i$ は有限集合に属する。$j$ の選び方は $n+1$ 通りで、$P$ は $j$ と $(y_0,\dots,y_n)$ で決まるので、$P$ は有限個である。$\square$

次数の上界は外せない。$2^{1/m}$($m\ge1$)は互いに異なり、高さはすべて $\log2$ 以下である(ex-wh-rational)。この定理は Voj11 Theorem 2.7(p. 119)にあり、証明の方針(最小多項式の係数の大きさと高さの比較)も同所に述べられている。

Kronecker の定理

Kronecker の定理

$0$ でない代数的数 $x$ について、$h(x)=0$ であることと、$x$ が $1$ の冪根であることは同値である。

$1$ の冪根の高さが $0$ であることは prop-wh-basic の 5 である。逆に $h(x)=0$ とし、$d:=[\mathbb{Q}(x):\mathbb{Q}]$ とおく。$m\ge1$ について $x^m\in\mathbb{Q}(x)$ なので $x^m$ の次数は $d$ 以下であり、prop-wh-basic の 1 により $h(x^m)=m\,h(x)=0$ である。thm-wh-northcott により、集合 $\{x^m\mid m\ge1\}$ は有限集合である。よって $a< b$ となる正の整数 $a,b$ で $x^a=x^b$ となるものがあり、$x\ne0$ なので $x^{b-a}=1$ である。$\square$

Voj11 p. 119 は、$h(x)=0$ から積公式で $x$ が単数であることを導き、単数群の構造から $1$ の冪根であることを結論する、という別の道筋を述べている。上の証明は Northcott の定理だけを使う。

共役がすべて単位円板にある代数的整数

$x$ を $0$ でない代数的整数とし、$x$ の共役がすべて複素数として絶対値 $1$ 以下であるとする。このとき $x$ は $1$ の冪根である。

$K=\mathbb{Q}(x)$ とする。$x\in\mathcal{O}_K$ なので、有限素点ではすべて $v_{\mathfrak{p}}(x)\ge0$、すなわち $\|x\|_v\le1$ である。無限素点に対応する埋め込み $\sigma$ について $\sigma(x)$ は $x$ の共役なので、$\|x\|_v=\lvert\sigma(x)\rvert^{N_v}\le1$ である。よってすべての項 $\log^+\|x\|_v$ が $0$ で、$h(x)=0$ である。thm-wh-kronecker により $x$ は $1$ の冪根である。$\square$

代数的整数であることは外せない。ex-wh-abs-one の $(3+4i)/5$ は、2 つの共役 $(3\pm4i)/5$ がともに絶対値 $1$ だが、高さが $\tfrac12\log5>0$ なので $1$ の冪根ではない。

高さ機械

射影空間の高さは、射影多様体の上の直線束ごとの高さに広がる。これを Weil の高さ機械(height machine)という。以下 $k$ を代数体、$X$ を $k$ 上の射影多様体とし、$O(1)$ で有界な関数の差を表す。

Weil の高さ機械

$X$ 上の各 直線束 $\mathcal{L}$ に対し、関数 $h_{\mathcal{L}}\colon X(\overline{\mathbb{Q}})\to\mathbb{R}$ が有界な関数の差を除いて定まり($\mathcal{L}$ の同型類だけによる)、次をみたす。

  1. (正規化)$X=\mathbb{P}^n_k$、$\mathcal{L}=O(1)$ なら $h_{\mathcal{L}}=h+O(1)$ である。
  2. (関手性)射 $\phi\colon X\to Y$ と $Y$ 上の直線束 $\mathcal{M}$ について $h_{\phi^*\mathcal{M}}=h_{\mathcal{M}}\circ\phi+O(1)$ である。
  3. (加法性)$h_{\mathcal{L}\otimes\mathcal{M}}=h_{\mathcal{L}}+h_{\mathcal{M}}+O(1)$ である。
  4. (下界)$\mathcal{L}$ が大域切断で生成されるなら、$h_{\mathcal{L}}$ は下に有界である。
  5. (Northcott)$\mathcal{L}$ が豊富なら、各 $D$ と $B$ について $\{x\in X(\overline{\mathbb{Q}})\mid[k(x):k]\le D,\ h_{\mathcal{L}}(x)\le B\}$ は有限集合である。
高さ機械の読み方

$h_{\mathcal{L}}$ は有界な関数の差を除いてしか定まらないので、各主張は $O(1)$ を許す形で述べられ、高さの具体的な値ではなく増大の速さを比べるために使う。5 では $\mathcal{L}$ が豊富であることが仮定として効き、豊富でない直線束では有限性は一般には成り立たない。

この定理はこの記事では証明しない。構成(Weil 関数による定義)と 1〜4 は Voj11 Definition 9.6、(9.2) の後の式 $h_{O(1),k}=h_k+O(1)$、Theorem 9.7 (a)(b)(d)(pp. 144–145)、5 は同 Theorem 9.10(pp. 145–146)である。そこでの高さ $h_{\mathcal{L},k}$ はこの記事の正規化の $[k:\mathbb{Q}]$ 倍であり、定数倍は主張に影響しない。
次数 $d$ の同次多項式 $f_0,\dots,f_m$ で共通零点をもたないものが定める射 $\phi\colon\mathbb{P}^n\to\mathbb{P}^m$ では $\phi^*O(1)=O(d)=O(1)^{\otimes d}$ なので、1〜3 から
$$ h\bigl(\phi(P)\bigr)=d\,h(P)+O(1) $$
が従う。有理数体の点についてこれを定数まで具体的に証明したのが、Diophantus幾何学 の定理「射と高さ」である。
誤差 $O(1)$ は一般には取り除けない。$\mathbb{P}^1$ の自己同型 $\phi(x)=x+1$ は $\phi^*O(1)=O(1)$ をみたすが、$h(\phi(1))=h(2)=\log2\ne0=h(1)$ である。Voj11 p. 144 は、$\mathbb{P}^n$ の自己同型群が有理点に推移的に働くことから、追加の構造なしには $O(1)$ を除けないと注意している。楕円曲線では、2 倍写像で高さがちょうど 4 倍になるように $\hat h(P)=\lim_{n\to\infty}h(2^nP)/4^n$ と正規化した標準的な高さ(Néron–Tate 高さ)が使われる(Mil21 §IV.4、p. 124)。これは Mordell–Weilの定理 の証明と関わる。

反例と注意

Weil 高さの性質の仮定や定義の要素を外すと、結論が成り立たなくなる。確かめは表の下にある。

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
次数の上界(Northcott)$2^{1/m}$($m=1,2,3,\dots$)高さ $\log2$ 以下の点が有限個
有限素点も使う実素点だけで測る $\log\max\lvert x_i\rvert$射影座標によらないこと
複素素点で 2 乗する$\mathbb{Q}(i)$ で $\lvert\sigma(\cdot)\rvert$ をそのまま使う積公式と、座標によらないこと
和の不等式の $\log m$$1+1=2$$h(x+y)\le h(x)+h(y)$
誤差 $O(1)$自己同型 $x\mapsto x+1$$h(\phi(P))=h(P)$
代数的整数(Kronecker の系)$(3+4i)/5$共役がすべて単位円上なら $1$ の冪根

各行の反例が、どの条件を破り、他の条件をみたすかを確かめる。

各行の確認を開く

1 行目:$2^{1/m}$ は $x^m-2$ の根で、$x^m-2$ は Eisenstein の判定法により既約なので次数は $m$ であり、次数の上界をみたさない。高さは $\tfrac1m\log2\le\log2$ で有界なので、thm-wh-northcott の次数の仮定を外すと有限性が崩れる。

2 行目:$\mathbb{Q}$ の実素点だけで $\log\max(\lvert x_0\rvert,\lvert x_1\rvert)$ を測ると、同じ点 $[1:2]=[\tfrac12:1]$ に $\log2$ と $0$ の 2 つの値が出る。有限素点を落とすと積公式が使えず、prop-wh-well-defined の 1 の証明が崩れる。実素点だけの量は $\{1/m\mid m\ge1\}$ のすべてで $0$ になり、Northcott の性質も成り立たない。

3 行目:$K=\mathbb{Q}(i)$、$x=1+i$ とする。素イデアル $(1+i)$ のノルムは $2$ で $\|x\|=1/2$、他の有限素点では $1$ である。複素素点で 2 乗しない $\lvert1+i\rvert=\sqrt2$ を使うと、積は $\sqrt2\cdot\tfrac12\ne1$ となる。このとき同じ点 $[1:1]=[1+i:1+i]$ に、$\log$ の和として $0$ と $\log(\sqrt2/2)$ が出る。

4 行目:$h(1)=0$、$h(2)=\log2$ なので $h(1+1)>h(1)+h(1)$ である。prop-wh-basic の 3 の $\log m$ が必要な例である。

5 行目:$\phi(x)=x+1$ は次数 $1$ の射で、$h(\phi(1))=\log2$、$h(1)=0$ である。thm-wh-machine の 2 は $O(1)$ 付きでしか成り立たない。

6 行目:ex-wh-abs-one で計算したとおり $h((3+4i)/5)=\tfrac12\log5>0$ であり、thm-wh-kronecker により $1$ の冪根ではない。$(3+4i)/5$ の最小多項式は $5T^2-6T+5$ で、最高次の係数が $1$ でないので代数的整数ではない。


注意を 2 つ挙げる。

  • 下からの評価.Kronecker の定理により、$1$ の冪根でない $0$ でない代数的数の高さは正である。しかし $h(2^{1/m})=\tfrac1m\log2$ のように、次数を上げると高さはいくらでも $0$ に近づく。正の下界は次数に依存せざるをえない。
  • 近似の定理との関係.有理数 $p/q$ の高さはほぼ分母 $q$ の対数なので、「分母の大きさに比べて近い」という Diophantus 近似の問いは「高さに比べて近い」と言い換えられる。この形で、Rothの定理 は代数体と有限個の素点の場合に、Schmidtの部分空間定理 は射影空間の超平面の場合に述べられる(Voj11 Theorem 3.3、p. 121、Theorem 7.11、p. 135)。

関連項目

参考文献

[1]
Paul Vojta, Diophantine approximation and Nevanlinna theory, Arithmetic Geometry, Lecture Notes in Mathematics 2009, 2011, 著者サイトの版(刊行版と同じ頁番号)。(1.3.3) p. 116、(1.4) p. 117、§2 (2.3)–(2.6)・Theorem 2.7(Northcott)pp. 118–119、Theorem 3.3 p. 121、Theorem 7.11 p. 135、Definition 9.6・Theorem 9.7 pp. 144–145、Theorem 9.10 pp. 145–146
[3]
Wolfgang M. Schmidt, The subspace theorem in diophantine approximations, Compositio Mathematica, 1989, §1:局所次数と積公式 p. 122、(1.5)(1.6)(体の高さと絶対高さ、絶対高さが体によらないこと)p. 123

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