Grothendieck位相(Grothendieck topology)とは、圏の各対象 $U$ に、$U$ への射の族のうち「被覆」とみなすものを指定したもので、同型・被覆の合成・底変換で被覆が保たれることを要請する。位相空間の開被覆の一般化であり、被覆の重なりを開集合の共通部分の代わりにファイバー積 $U_i\times_U U_j$ で表す。圏とGrothendieck位相の組を景といい、その上で層と層コホモロジーが定義される。スキームの圏にエタール射や平坦な射の全射族を被覆として入れることで、エタールコホモロジーやfppfコホモロジーが得られる。
前提知識: 圏, ファイバー積, 前層, 位相空間, スキーム
レベル: 大学院
位相空間の上の層は「開被覆で貼り合わせられる」ことで定義される。この「被覆」だけを圏の言葉で取り出したものが Grothendieck 位相である。代数幾何では、スキームの開集合の代わりにエタール射や平坦な射を「開集合」とみなすために使う。
以下、$\mathcal C$ はファイバー積をもつ圏とする。
圏 $\mathcal C$ 上の Grothendieck 位相(Grothendieck topology)とは、$\mathcal C$ の各対象 $U$ に対して、$U$ を終域とする射の族 $\{U_i\to U\}_{i\in I}$ の集まり $\operatorname{Cov}(U)$ を指定したものであって、次の 3 条件を満たすものをいう。$\operatorname{Cov}(U)$ の元を $U$ の被覆という。
$\mathcal C$ 上の集合値の前層、すなわち関手 $F\colon\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ を考える。射 $V\to U$ による $F(U)\to F(V)$ を $s\mapsto s|_V$ と書く。
景 $\mathcal C$ 上の前層 $F$ が層であるとは、任意の被覆 $\{U_i\to U\}_{i\in I}$ について、図式
$$
F(U)\longrightarrow\prod_{i\in I}F(U_i)\ \rightrightarrows\ \prod_{(i,j)\in I\times I}F(U_i\times_UU_j)
$$
がイコライザ(等化子)であることをいう。ここで左の射は $s\mapsto(s|_{U_i})_i$、右の 2 本の射は $(s_i)_i$ を $(s_i|_{U_i\times_UU_j})_{i,j}$ と $(s_j|_{U_i\times_UU_j})_{i,j}$ に送る射である。
言いかえると、(a) 各 $U_i$ への制限がすべて一致する 2 つの切断は等しく、(b) 「重なり」$U_i\times_UU_j$ で両立する切断の族 $(s_i)$ は $U$ 上の切断に貼り合わせられる。位相空間の場合と違い、$i=j$ のときの $U_i\times_UU_i$ も一般には $U_i$ と異なるので、条件に入れておく必要がある。
アーベル群に値をとる前層についても同様に層を定める。景上のアーベル群の層は、十分な単射的対象をもつアーベル圏をなし(Milne80 第 III 章 §1、Stacks「Cohomology on Sites」の章。本記事では証明しない)、大域切断の関手の右導来関手として 層コホモロジー $H^i(U,F)$ が定義される。
Grothendieck 位相では、「開集合」は $U$ の部分集合である必要がなく、$U$ への射であればよい。「開集合の共通部分」は $U_i\times_UU_j$ に置き換わる。条件 1〜3 は、位相空間の開被覆について当たり前に成り立つ性質(全体は自分自身の被覆、被覆の被覆は被覆、被覆を開集合に制限すると被覆)をそのまま抜き出したものである。
エタール射 $U_i\to U$ は、複素数体上では局所同相になる射の代数版である。Zariski 位相の開集合は粗すぎて、たとえば代数多様体上の定数層のコホモロジーが位相的な情報を反映しない。エタール射を「開集合」とみなすことで、この欠点を補える。これが エタールコホモロジー の出発点である。
位相空間 $X$ の開集合を対象とし、包含を射とする圏 $\operatorname{Op}(X)$ を考える。ファイバー積は共通部分 $U\cap V$ である。$\{U_i\subset U\}$ が被覆であるとは $\bigcup_iU_i=U$ であることと定めると、条件 1〜3 が成り立つ(底変換は $\{U_i\cap V\subset V\}$ で、その合併は $V$ である)。この位相についての層は、通常の意味での $X$ 上の層にほかならない。空集合は空な族で被覆されるので、層 $F$ では $F(\varnothing)$ は 1 点集合である。
$X$ をスキームとする。
$k$ を体、$k^{\mathrm s}$ をその分離閉包、$\Gamma=\operatorname{Gal}(k^{\mathrm s}/k)$ とする。$\operatorname{Spec}k$ 上エタールなスキームは、有限次分離拡大体のスペクトルの(集合として任意個の)直和である。$(\operatorname{Spec}k)_{\mathrm{et}}$ 上のアーベル群の層 $F$ に対し $\varinjlim_LF(\operatorname{Spec}L)$($L$ は $k^{\mathrm s}$ に含まれる有限次拡大を動く)は離散 $\Gamma$ 加群になり、この対応は層の圏と離散 $\Gamma$ 加群の圏の圏同値を与える(Milne80 第 II 章 §1。本記事では証明しない)。こうして体のエタールコホモロジーは Galoisコホモロジー と一致する。
同じ圏 $\mathcal C$ 上の 2 つの Grothendieck 位相 $\tau,\tau'$ について、$\tau$ の被覆がすべて $\tau'$ の被覆であるとする($\tau'$ は $\tau$ より細かいという)。このとき $\tau'$ についての層は $\tau$ についての層である。
層の条件は被覆ごとの条件であり、$\tau$ の被覆は $\tau'$ の被覆でもあるから、$\tau'$ の層は $\tau$ のすべての被覆について条件を満たす。
スキーム $X$ 上のスキームの圏では、開被覆はエタール被覆であり(開埋め込みはエタール)、エタール被覆は fppf 被覆である(エタール射は平坦かつ局所有限表示)。したがって fppf 層はエタール層であり、エタール層は Zariski 層である。
$X$ をスキーム、$\mathcal C$ を $X$ 上のスキームのある圏で、有限直和とファイバー積で閉じているものとする。$\mathcal C$ 上の前層 $F$ が有限直和を直積に写す、すなわち $F(\coprod_{i=1}^nU_i)\to\prod_{i=1}^nF(U_i)$ が全単射であるとする($n=0$ のときは $F(\varnothing)$ が 1 点集合)。このとき、有限族 $\{U_i\to U\}_{i=1}^n$ についての層の条件は、1 つの射 $\{\coprod_iU_i\to U\}$ についての層の条件と同値である。
$V=\coprod_iU_i$ と置く。スキームのファイバー積は直和と交換するので $V\times_UV=\coprod_{i,j}U_i\times_UU_j$ である。仮定から $F(V)=\prod_iF(U_i)$、$F(V\times_UV)=\prod_{i,j}F(U_i\times_UU_j)$ であり、これらの同一視のもとで、族についての図式と 1 つの射についての図式は同じものになる。よって一方がイコライザであることと他方がそうであることは同値である。
Zariski 位相で層である前層は有限直和を直積に写す(直和は互いに交わらない開集合による被覆だから)。したがって Zariski 層について、有限個の射からなる被覆は 1 つの射で置き換えて考えてよい。アフィンスキームの有限族の場合、これにより環の準同型 1 つ $A\to B$ の問題になる。これが 忠実平坦降下 の設定である。
$f\colon X\to Y$ をスキームの射とし、$\tau$ を Zariski・エタール・fppf のいずれかとする。$X$ 上の景 $X_\tau$ の層 $F$ に対し、$Y_\tau$ 上の前層 $f_*F$ を $(f_*F)(V):=F(V\times_YX)$ で定めると、$f_*F$ は層である。
$\tau$ の被覆 $\{V_i\to V\}$ を $X$ に底変換した $\{V_i\times_YX\to V\times_YX\}$ は、条件 3 と同様の理由(開埋め込み・エタール射・平坦かつ局所有限表示な射はいずれも底変換で保たれ、全射性も保たれる)で $X_\tau$ の被覆である。さらに
$$
(V_i\times_YX)\times_{V\times_YX}(V_j\times_YX)\cong(V_i\times_VV_j)\times_YX
$$
であるから、$f_*F$ についての被覆 $\{V_i\to V\}$ の図式は、$F$ についての被覆 $\{V_i\times_YX\to V\times_YX\}$ の図式そのものである。後者はイコライザだから、前者もそうである。
順像 $f_*$ は層の圏の左完全関手であり、その右導来関手が Lerayスペクトル系列 に現れる高次順像 $R^qf_*$ である。
$X$ をスキーム、$T$ を $X$ 上のスキームとする。関手 $h_T\colon U\mapsto\operatorname{Hom}_X(U,T)$ は、$X$ 上のスキームの圏の fppf 位相(さらに fpqc 位相)について層である。したがってエタール層でも Zariski 層でもある。
これは Grothendieck による定理であり(Milne80 第 I 章 §2・第 II 章 §1、FGAex の Vistoli の部)、アフィンスキームの場合の証明は 忠実平坦降下 で扱う。この定理により、群スキーム は fppf 位相でのアーベル群(または群)の層を定める。
例の開集合の場合で、$X$ を 2 点の離散空間 $\{a,b\}$、$A$ を $0$ でないアーベル群とし、前層 $F(U):=A$(すべての開集合 $U$、制限は恒等写像)を考える。
$k$ を体、$U=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$ とし、原点の閉埋め込み $i\colon\operatorname{Spec}k\to U$ と、開埋め込み $j\colon U\smallsetminus\{0\}=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]\to U$ からなる族 $\{i,j\}$ を考える。像の合併は $U$ 全体であるが、$i$ は平坦でない($k[t]\to k[t]/(t)$ は平坦でない)。この族を被覆として認めると、構造層 $\mathcal O\colon V\mapsto\Gamma(V,\mathcal O_V)$ が層の条件を破る。実際、
$$
\operatorname{Spec}k\times_U(U\smallsetminus\{0\})=\varnothing,\qquad \operatorname{Spec}k\times_U\operatorname{Spec}k=\operatorname{Spec}k
$$
であるから($j$ も開埋め込みなので $(U\smallsetminus\{0\})\times_U(U\smallsetminus\{0\})=U\smallsetminus\{0\}$)、重なりの条件は何も課されず、イコライザは $k\times k[t,t^{-1}]$ 全体になる。一方 $k[t]\to k\times k[t,t^{-1}]$、$f\mapsto(f(0),f)$ は全射でない($(0,t^{-1})$ が像にない)。Zariski・エタール・fppf のどの位相でも、被覆の射に平坦性(開埋め込みの場合は開であること)を要求するのはこのためである。
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