クラッチング構成

同義語:clutching constructionクラッチング

概要

クラッチング構成(clutching construction)とは、2 次元球面 $S^2$ を単位円周 $S^1$ で 2 枚の閉円板に分け、空間 $X$ 上の束 $E$ の各円板への引き戻しを $X\times S^1$ 上の可逆な線形写像の族 $u$(クラッチング関数)で貼り合わせて、$X\times S^2$ 上のベクトル束 $[E,u]$ を作る方法である。$X$ がコンパクト Hausdorff 空間なら、可逆性を保って $u$ を動かしても同型類は変わらず、$X\times S^2$ 上のどの複素ベクトル束もこの形に書け、$u(x,1)=\mathrm{id}$ と正規化したクラッチング関数は共役とホモトピーを除いて束から決まる。たとえば $S^2$ 上の複素直線束は、クラッチング関数 $z^n$ の整数 $n$ で分類される。Bott の周期性定理の証明に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル束, ベクトル束の直和・テンソル積, 一般線形群, Fejérの定理

クラッチング構成(clutching construction)は、2 次元球面 $S^2$ を北と南の 2 枚の閉円板に分け、それぞれの上の束を境界の円周 $S^1$ の上で可逆な線形写像の族によって貼り合わせ、$S^2$ の上のベクトル束を作る方法である。円板は可縮なので、円板の上の束はすべて自明(パラメータ空間 $X$ がコンパクト Hausdorff 空間のときは $X$ 上の束の引き戻し)になり、$S^2$(または $X\times S^2$)の上の束の情報は貼り合わせに使う写像(クラッチング関数)にすべて集まる。
$X$ がコンパクト Hausdorff 空間のとき、中心の事実は 2 つある。1 つは、クラッチング関数を可逆性を保ったまま連続に変形しても、できる束の同型類は変わらないこと。もう 1 つは、$X\times S^2$ の上のどの束もこの形に書け、しかもクラッチング関数は(正規化し、$X\times\{1\}$ の上での同一視を固定すれば)ホモトピーを除いて束から決まることである。こうして束の分類は、一般線形群に値をとる写像のホモトピー類の問題に移る。たとえば $S^2$ の上の複素直線束は、クラッチング関数 $z\mapsto z^n$ の整数 $n$ で分類される。この構成は Atiyah–Bott による Bott周期性定理 の証明の土台であり、そこではクラッチング関数を Laurent 多項式で近似してから線形化する。円周の上の束を 1 つの行列で貼り合わせる話は 円周上のベクトル束の分類 にある。

記号と定義

この記事では、$X$ はコンパクト Hausdorff 空間とし、ベクトル束は複素ベクトル束とする。位相的K理論 の記事と同じく、階数が局所定数の束も許す。コンパクト空間は有限個の開かつ閉な集合に分かれ、それぞれの上で階数は一定なので、階数一定の束について示した主張は各片に当てはめればよい。ベクトル束 の定理「ホモトピー不変性と分類」の 1 を次の形で使う:$Y$、$Z$ がコンパクト Hausdorff 空間で $f_0,f_1\colon Y\to Z$ がホモトピックなら、$Z$ 上の任意の束 $F$ について $f_0^*F\cong f_1^*F$ である。
$S^2=\mathbb{C}\cup\{\infty\}$ を Riemann 球面とし、
$$ D_0:=\{z\in\mathbb{C}\mid |z|\le1\},\qquad D_\infty:=\{z\in\mathbb{C}\mid |z|\ge1\}\cup\{\infty\},\qquad S^1=D_0\cap D_\infty $$
とおく。$\iota(w):=1/w$($\iota(0)=\infty$)は $D_0$ から $D_\infty$ への同相写像である。射影を $\pi_0\colon X\times D_0\to X$、$\pi_\infty\colon X\times D_\infty\to X$、$\pi\colon X\times S^1\to X$、$p\colon X\times S^2\to X$、$q\colon X\times S^2\to S^2$ と書き、$s\colon X\to X\times S^2$、$s(x):=(x,1)$ とおく。$\varepsilon^N:=X\times\mathbb{C}^N$ は自明束、$\|\cdot\|$ は $\mathbb{C}^N$ の標準ノルムに関する行列の作用素ノルムである。

クラッチング構成

$E$ を $X$ 上のベクトル束とする。

  1. $X\times S^1$ 上の束 $\pi^*E$ の束自己同型 $u$、すなわち $(x,z)\in X\times S^1$ ごとの線形同型 $u(x,z)\colon E_x\to E_x$ で束写像として連続なものを、$E$ のクラッチング関数という。すべての $x$ で $u(x,1)=\mathrm{id}$ のとき、$u$ は正規化されているという。
  2. 互いに交わらない和 $\pi_0^*E\sqcup\pi_\infty^*E$ で、$(x,z)\in X\times S^1$ と $v\in E_x$ について、$\pi_0^*E$ の $(x,z)$ 上の点 $v$ と $\pi_\infty^*E$ の $(x,z)$ 上の点 $u(x,z)v$ を同一視した商空間を $[E,u]$ と書く。射影 $[E,u]\to X\times S^2$ は 2 つの引き戻しの射影から定まる。
  3. $E=\varepsilon^N$ のとき、クラッチング関数は連続写像 $g\colon X\times S^1\to\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ と同じものである。

$\pi_0^*E$ の $(x,z)$ 上の点 $v\in E_x$ を $(x,z,v)_0$、$\pi_\infty^*E$ の点を $(x,z,v)_\infty$ と書く。$u(x,z)$ は全単射なので、同値類は 1 点か、$\{(x,z,v)_0,(x,z,u(x,z)v)_\infty\}$($|z|=1$)の 2 点である。$[E,u]$ のファイバーには、どちらの側の点で表しても同じベクトル空間の構造が入る。

クラッチング構成の基本性質

$E,E'$ を $X$ 上の束、$u,u'$ をそれぞれのクラッチング関数とする。

  1. $[E,u]$ は $X\times S^2$ 上のベクトル束であり、$X\times D_0$、$X\times D_\infty$ への制限は自然に $\pi_0^*E$、$\pi_\infty^*E$ と同型である。
  2. $Y$ をコンパクト Hausdorff 空間、$f\colon Y\to X$ を連続写像とすると $(f\times\mathrm{id})^*[E,u]\cong[f^*E,f^*u]$ である。
  3. $[E,u]\oplus[E',u']\cong[E\oplus E',u\oplus u']$、$[E,u]\otimes[E',u']\cong[E\otimes E',u\otimes u']$ である。
  4. $\alpha$ を $X\times D_0$ 上の $\pi_0^*E$ の束自己同型、$\beta$ を $X\times D_\infty$ 上の $\pi_\infty^*E$ の束自己同型とすると、$[E,\beta u\alpha^{-1}]\cong[E,u]$ である(右辺の $\alpha,\beta$ は $X\times S^1$ への制限)。とくに $X$ 上の束自己同型 $c$($z$ によらない)について $[E,cu]\cong[E,u]\cong[E,uc]$ であり、$[E,\mathrm{id}]\cong p^*E$ である。
  5. 束同型 $\theta\colon E\to E'$ について $[E,u]\cong[E',\theta u\theta^{-1}]$ である。

要点:$[E,u]$ からの写像は、$\pi_0^*E$ と $\pi_\infty^*E$ の上で別々に定めて $|z|=1$ で両立すれば連続に定まる。各ファイバーで線形同型な束写像は束同型である(ベクトル束の直和・テンソル積 の補題「ファイバーごとに同型な束写像は束同型」)。局所自明性は、継ぎ目の近くで片側の自明化をクラッチング関数でずらして作る。

詳しい証明を開く

1:$\varpi$ を商写像とする。$|z_0|\ne1$ の点の近くでは片側の引き戻しの局所自明化がそのまま使える。$(x_0,z_0)\in X\times S^1$ とし、$x_0$ の開近傍 $U$ と局所自明化 $\phi\colon E|_U\to U\times\mathbb{C}^r$ をとる。$\phi u\phi^{-1}$ は連続写像 $h\colon U\times S^1\to\mathrm{GL}_r(\mathbb{C})$ で表される。$A:=\{z\in\mathbb{C}\mid 1/2<|z|<2\}$、$\rho(z):=z/|z|$ とおき、$\Phi\colon[E,u]|_{U\times A}\to U\times A\times\mathbb{C}^r$ を $(x,z,v)_0\mapsto(x,z,h(x,\rho(z))\phi_x(v))$($|z|\le1$)、$(x,z,w)_\infty\mapsto(x,z,\phi_x(w))$($|z|\ge1$)で定める。$|z|=1$ では $(x,z,v)_0$ と $(x,z,u(x,z)v)_\infty$ の像がともに $(x,z,h(x,z)\phi_x(v))$ なので、$\Phi$ は矛盾なく定まり、商位相の定義から連続である。逆写像は $(x,z,a)\mapsto(x,z,\phi_x^{-1}h(x,\rho(z))^{-1}a)_0$($|z|\le1$)、$(x,z,\phi_x^{-1}a)_\infty$($|z|\ge1$)で、2 つの閉集合の上で連続で共通部分で一致するので連続である。よって $\Phi$ は局所自明化である。$\pi_0^*E\to[E,u]|_{X\times D_0}$ は連続な全単射でファイバーごとに線形同型であり、上の局所自明化を通すと同相なので束同型である。$D_\infty$ も同じである。

2:$(y,z,v)_0\mapsto\bigl((y,z),(f(y),z,v)_0\bigr)$、$(y,z,w)_\infty\mapsto\bigl((y,z),(f(y),z,w)_\infty\bigr)$ は $|z|=1$ で両立し、ファイバーごとに線形同型な束写像である。

3:直和は $(x,z,(v,v'))_\bullet\mapsto((x,z,v)_\bullet,(x,z,v')_\bullet)$($\bullet=0,\infty$)による。テンソル積は、1 の同型と ベクトル束の直和・テンソル積 の命題「引き戻しとの両立性」による $\pi_\bullet^*(E\otimes E')\cong\pi_\bullet^*E\otimes\pi_\bullet^*E'$ を両側で使い、$|z|=1$ で $(u\otimes u')(v\otimes v')=uv\otimes u'v'$ となることから両立する。

4:$(x,z,v)_0\mapsto(x,z,\alpha^{-1}v)_0$、$(x,z,w)_\infty\mapsto(x,z,\beta^{-1}w)_\infty$ を $[E,\beta u\alpha^{-1}]\to[E,u]$ とする。$(x,z,v)_0$ と $(x,z,\beta u\alpha^{-1}v)_\infty$ の像は $(x,z,\alpha^{-1}v)_0$ と $(x,z,u\alpha^{-1}v)_\infty$ で、$[E,u]$ で同一視されている。$c$ は $z$ によらないので $X\times D_\infty$ 上($\beta=c$)にも $X\times D_0$ 上($\alpha=c^{-1}$)にも延びる。$[E,\mathrm{id}]\to p^*E$ は $(x,z,v)_\bullet\mapsto((x,z),v)$ で与えられる。

5:両側で $v\mapsto\theta v$ とすれば、$(x,z,v)_0$ と $(x,z,uv)_\infty$ の像 $(x,z,\theta v)_0$ と $(x,z,\theta u\theta^{-1}\cdot\theta v)_\infty$ が同一視されている。$\square$

ホモトピー不変性

$u_0,u_1$ を $E$ のクラッチング関数とする。$\mathrm{pr}\colon X\times[0,1]\to X$ を射影とし、$\mathrm{pr}^*E$ のクラッチング関数 $U$($(x,t,z)$ について連続な線形同型の族)で $U(\cdot,0,\cdot)=u_0$、$U(\cdot,1,\cdot)=u_1$ となるものがあるとする。このとき $[E,u_0]\cong[E,u_1]$ である。

$Y:=X\times[0,1]$ はコンパクト Hausdorff であり、prop-clt-basic の 1 により $G:=[\mathrm{pr}^*E,U]$ は $Y\times S^2$ 上の束である。$i_t\colon X\to Y$、$i_t(x):=(x,t)$ とおくと、同じ命題の 2 により $(i_t\times\mathrm{id})^*G\cong[E,u_t]$($t=0,1$)である。$(x,z,t)\mapsto(x,t,z)$ は $i_0\times\mathrm{id}$ と $i_1\times\mathrm{id}$ のホモトピーなので、ホモトピー不変性により $[E,u_0]\cong[E,u_1]$ である。$\square$

$E=\varepsilon^N$ なら、仮定は連続写像 $X\times[0,1]\times S^1\to\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ によるホモトピーがあることである。値が可逆であることは外せない(ex-clt-counterexamples の 2 行目)。

束の表示と一意性

次の定理は、$X\times S^2$ 上のどの束もクラッチング構成で得られ、正規化したクラッチング関数が、$s(X)$ の上での同一視を固定すればホモトピーを除いて束から決まることを述べる(2 で $\Psi$ が $s(X)$ の上で恒等写像なら $\theta=\mathrm{id}$ である)。$[E,u]$ の $s(X)=X\times\{1\}$ 上への制限は、$\pi_0^*E$ の側の点で表して $E$ と同一視する。

直積の上の束の表示

$F$ を $X\times S^2$ 上のベクトル束とし、$E:=s^*F$ とおく。

  1. $E$ の正規化されたクラッチング関数 $u$ と、$s(X)$ の上で $E$ の恒等写像になる束同型 $[E,u]\cong F$ がある。
  2. $u,u'$ をそれぞれ $X$ 上の束 $E,E'$ の正規化されたクラッチング関数とし、$\Psi\colon[E,u]\to[E',u']$ を束同型、$\theta\colon E\to E'$ をその $s(X)$ 上への制限とする。このとき、正規化されたクラッチング関数を通る $u'$ から $\theta u\theta^{-1}$ へのホモトピー(thm-clt-homotopy の意味)がある。
円板を 1 点へ縮める

1:$h_t(x,z):=(x,(1-t)z+t)$ は、$D_0$ が凸で $1$ を含むので $X\times D_0$ の中の写像で、恒等写像と $s\circ\pi_0$ を結ぶホモトピーである。ホモトピー不変性により束同型 $\psi_0\colon F|_{X\times D_0}\to\pi_0^*E$ がある。$s(X)$ の上では両辺とも $E$ なので、$\psi_0$ の制限は $E$ の束自己同型 $c$ であり、$\varphi_0:=(\pi_0^*c)^{-1}\psi_0$ は $s(X)$ の上で恒等写像になる。$D_\infty$ では $k_t(x,z):=(x,\iota((1-t)\iota^{-1}(z)+t))$ が恒等写像と $s\circ\pi_\infty$ を結ぶホモトピーなので、同じようにして $s(X)$ の上で恒等写像になる束同型 $\varphi_\infty\colon F|_{X\times D_\infty}\to\pi_\infty^*E$ を得る。
$u:=\varphi_\infty\varphi_0^{-1}$($X\times S^1$ への制限)は $\pi^*E$ の束自己同型で、$u(x,1)=\mathrm{id}$ である。$[E,u]\to F$ を $(x,z,v)_0\mapsto\varphi_0^{-1}(x,z,v)$、$(x,z,w)_\infty\mapsto\varphi_\infty^{-1}(x,z,w)$ で定めると、$|z|=1$ で $\varphi_\infty^{-1}(uv)=\varphi_0^{-1}v$ なので両立し、ファイバーごとに線形同型な束写像であるから束同型である。$s(X)$ の上では恒等写像である。
2:prop-clt-basic の 1 により、$\Psi$ の $X\times D_0$ 上への制限は束同型 $\alpha\colon\pi_0^*E\to\pi_0^*E'$、$X\times D_\infty$ 上への制限は束同型 $\beta\colon\pi_\infty^*E\to\pi_\infty^*E'$ と見なせる。$|z|=1$ で $(x,z,v)_0=(x,z,uv)_\infty$ の像を比べると、$(x,z,\alpha v)_0=(x,z,\beta uv)_\infty$ が $[E',u']$ で成り立つので $u'\alpha v=\beta uv$、すなわち $X\times S^1$ の上で
$$ u'=\beta u\alpha^{-1} $$
である。$u(x,1)=u'(x,1)=\mathrm{id}$ なので $\alpha(x,1)=\beta(x,1)=\theta_x$ である。$t\in[0,1]$、$(x,z)\in X\times S^1$ について
$$ \alpha_t(x,z):=\alpha(x,(1-t)z+t),\qquad\beta_t(x,z):=\beta\bigl(x,\iota((1-t)\iota^{-1}(z)+t)\bigr),\qquad U_t:=\beta_tu\alpha_t^{-1} $$
とおくと、$U_t$ は $\pi^*E'$ の束自己同型で $(x,t,z)$ について連続であり、$U_0=u'$、$U_1=\theta u\theta^{-1}$、$U_t(x,1)=\theta_x\theta_x^{-1}=\mathrm{id}$ である。$\square$

行列の族による表示

$X\times S^2$ 上の任意の束 $F$ について、$X$ 上の束 $E'$、整数 $N\ge0$、正規化された連続写像 $g\colon X\times S^1\to\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ で $F\oplus p^*E'\cong[\varepsilon^N,g]$ となるものがある。

thm-clt-represent の 1 により $F\cong[E,u]$ である。位相的K理論 の定理「補束の存在」により束同型 $\theta\colon E\oplus E'\to\varepsilon^N$ がある。prop-clt-basic の 4・3・5 により $F\oplus p^*E'\cong[E,u]\oplus[E',\mathrm{id}]\cong[E\oplus E',u\oplus\mathrm{id}]\cong[\varepsilon^N,\theta(u\oplus\mathrm{id})\theta^{-1}]$ であり、$g:=\theta(u\oplus\mathrm{id})\theta^{-1}$ は正規化されている。$\square$

Laurent 多項式による近似

クラッチング関数は、可逆性を保つ範囲で動かしても束を変えない(thm-clt-homotopy)。とくに一様に十分近い関数は同じ束を与えるので、連続なクラッチング関数を $z$ の Laurent 多項式で置き換えられる。

Laurent 近似

$Y$ をコンパクト Hausdorff 空間、$g\colon Y\times S^1\to\mathrm{M}_N(\mathbb{C})$ を連続写像とする。$k\in\mathbb{Z}$、$n\ge0$ について
$$ a_k(y):=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}g(y,e^{i\vartheta})e^{-ik\vartheta}\,d\vartheta,\qquad \sigma_ng(y,z):=\sum_{|k|\le n}\Bigl(1-\frac{|k|}{n+1}\Bigr)a_k(y)z^k $$
とおく。

  1. $a_k\colon Y\to\mathrm{M}_N(\mathbb{C})$ は連続であり、$n\to\infty$ のとき $\sigma_ng$ は $Y\times S^1$ の上で $g$ に一様収束する。
  2. $g$ が $\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ に値をとり、$M:=\max\|g^{-1}\|$ とする。連続写像 $h\colon Y\times S^1\to\mathrm{M}_N(\mathbb{C})$ がいたるところ $\|h-g\|<1/M$ を満たせば、すべての $t\in[0,1]$ で $(1-t)g+th$ は可逆である。とくに $g$ は、$\mathrm{GL}_N(\mathbb{C})$ の中で、連続な係数 $b_k\colon Y\to\mathrm{M}_N(\mathbb{C})$ をもつ Laurent 多項式 $\sum_{|k|\le n}b_k(y)z^k$ とホモトピックである。

要点:$\sigma_ng$ は成分ごとの Fejér 平均であり、Fejér 核が原点の近くに集中することと、コンパクト性から来る $y$ について一様な連続性で一様収束が出る。2 は Neumann 級数による。

詳しい証明を開く

1:$(y,\vartheta)\mapsto g(y,e^{i\vartheta})e^{-ik\vartheta}$ は $Y\times[-\pi,\pi]$ 上で連続で、$[-\pi,\pi]$ はコンパクトなので、$y$ が $y_0$ に近ければ $\vartheta$ について一様に被積分関数は $y_0$ での値に近い。よって $a_k$ は連続である。Fejérの定理 の補題「Fejér 核の性質」の 1 を成分ごとに使うと

$$\sigma_ng(y,e^{i\varphi})-g(y,e^{i\varphi})=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\bigl(g(y,e^{i(\varphi-t)})-g(y,e^{i\varphi})\bigr)F_n(t)\,dt$$

である(同じ補題の 2 により $F_n\ge0$、$\frac1{2\pi}\int F_n=1$)。$\eta>0$ をとる。$\Delta(y,\varphi,t):=\|g(y,e^{i(\varphi-t)})-g(y,e^{i\varphi})\|$ はコンパクト集合 $Y\times[-\pi,\pi]\times[-\pi,\pi]$ 上の連続関数で $t=0$ で $0$ なので、$\{\Delta\ge\eta\}$ はコンパクトで $\{t=0\}$ と交わらず、$|t|$ はその上で正の最小値 $\delta$ をもつ。よって $|t|<\delta$ なら $\Delta<\eta$ である。同じ補題の 3 の $F_n(t)\le\pi^2/((n+1)t^2)$ を使うと、$K:=\max\|g\|$ として

$$\|\sigma_ng-g\|\le\eta+\frac{2K}{2\pi}\int_{\delta\le|t|\le\pi}F_n(t)\,dt\le\eta+\frac{2K\pi^2}{(n+1)\delta^2}$$

であり、$n$ が大きければ $2\eta$ 以下になる。

2:$(1-t)g+th=g\bigl(I+tg^{-1}(h-g)\bigr)$ で $\|tg^{-1}(h-g)\|<1$ なので、Neumann級数 により右の因子は可逆である。1 で $\|\sigma_ng-g\|<1/M$ となる $n$ をとり $h:=\sigma_ng$ とすれば、$t\mapsto(1-t)g+th$ が求めるホモトピーである。$\square$

例:2 次元球面の上の直線束

ここでは $X$ を 1 点とし、$S^2$ 上の束を考える。$\phi\colon S^2\to\mathbb{C}\mathrm{P}^1$ を $\phi(z):=[1:z]$、$\phi(\infty):=[0:1]$ で定めると、$\phi$ はコンパクト空間から Hausdorff 空間への連続な全単射なので同相写像である。$\gamma:=\{(\ell,v)\in\mathbb{C}\mathrm{P}^1\times\mathbb{C}^2\mid v\in\ell\}$ をトートロジー直線束とする(ベクトル束 の例「射影空間上のトートロジー束」)。

トートロジー直線束のクラッチング関数

$1$ 次元の自明束 $E=\mathbb{C}$ とクラッチング関数 $u(z)=z$ について、$[\mathbb{C},z]\cong\phi^*\gamma$ である。

$(z,a)_0\mapsto(\phi(z),a\,(1,z))$($z\in D_0$)、$(z,a)_\infty\mapsto(\phi(z),a\,(\iota^{-1}(z),1))$($z\in D_\infty$)とおく。後者は $\iota^{-1}(\infty)=0$ により $z=\infty$ でも連続である。$|z|=1$ では $(z,a)_0$ と $(z,za)_\infty$ が同一視され、その像は $a(1,z)$ と $za\,(z^{-1},1)=a\,(1,z)$ で一致する。$(1,z)$ も $(\iota^{-1}(z),1)$ も $\phi(z)$ の直線の $0$ でないベクトルなので、この写像はファイバーごとに線形同型な束写像 $[\mathbb{C},z]\to\phi^*\gamma$ であり、束同型である。$\square$

以下 $S^2$ を $\phi$ で $\mathbb{C}\mathrm{P}^1$ と同一視し、$n\in\mathbb{Z}$ について
$$ H:=[\mathbb{C},z]\cong\gamma,\qquad H^n:=[\mathbb{C},z^n] $$
とおく。prop-clt-basic の 3 により $H^m\otimes H^n\cong H^{m+n}$、$H^0$ は自明束である。さらに同じ命題の 2・3・4 により、$X$ 上の任意の束 $E$ について
$$ [E,z^n]\cong p^*E\otimes q^*H^n $$
である($q^*H^n\cong[\varepsilon^1,z^n]$、$p^*E\cong[E,\mathrm{id}]$ のテンソル積)。

回転による関係式

$S^2$ 上で $(H\otimes H)\oplus\varepsilon^1\cong H\oplus H$ である。したがって $K(S^2)$ で $b:=[H]-1$ とおくと $b^2=0$ である。

2 つの因子を回して入れ替える

$R_t:=\begin{pmatrix}\cos(\pi t/2)&-\sin(\pi t/2)\\ \sin(\pi t/2)&\cos(\pi t/2)\end{pmatrix}$ とし、$t\in[0,1]$、$z\in S^1$ について
$$ w_t(z):=\begin{pmatrix}z&0\\0&1\end{pmatrix}R_t\begin{pmatrix}z&0\\0&1\end{pmatrix}R_t^{-1} $$
とおく。$w_t(z)$ は可逆行列の積なので可逆で、$(t,z)$ について連続である。$w_0(z)=\mathrm{diag}(z^2,1)$ であり、$R_1\,\mathrm{diag}(z,1)R_1^{-1}=\mathrm{diag}(1,z)$ なので $w_1(z)=\mathrm{diag}(z,z)$ である。thm-clt-homotopy と prop-clt-basic の 3 により $H^2\oplus H^0\cong[\mathbb{C}^2,\mathrm{diag}(z^2,1)]\cong[\mathbb{C}^2,\mathrm{diag}(z,z)]\cong H\oplus H$ である。$K(S^2)$ に移すと $[H]^2+1=2[H]$、すなわち $([H]-1)^2=0$ である。$\square$

prop-clt-tautological により $H\cong\gamma$ なので、これは 位相的K理論 の定理「射影直線上の関係式」と同じ関係である。$H\otimes H^{-1}$ が自明なので $K(S^2)$ で $[H^{-1}]=[H]^{-1}=(1+b)^{-1}=1-b$ である。

2 次元球面上の複素直線束

$S^2$ 上の任意の複素直線束は、ただ 1 つの $n\in\mathbb{Z}$ について $H^n$ と同型である。

クラッチング関数の回転数

$L$ を直線束とする。thm-clt-represent の 1 により、正規化された連続写像 $g\colon S^1\to\mathbb{C}^\times=\mathrm{GL}_1(\mathbb{C})$ で $L\cong[\mathbb{C},g]$ となるものがある。$g_t:=g/|g|^t$($t\in[0,1]$)は正規化されたクラッチング関数のホモトピーで、$g_1$ は $S^1$ に値をとる。$s\mapsto g_1(e^{2\pi is})$ は $1$ を基点とする $S^1$ のループなので、ある $n\in\mathbb{Z}$ について $s\mapsto e^{2\pi ins}$ と基点を止めてホモトピックである(Hat02 Theorem 1.7、p. 29)。このホモトピーは正規化されたクラッチング関数のホモトピーなので、thm-clt-homotopy により $L\cong[\mathbb{C},z^n]=H^n$ である。
一意性:$H^m\cong H^n$ とする。thm-clt-represent の 2 で $\theta$ は $0$ でない複素数なので $\theta z^m\theta^{-1}=z^m$ であり、$z^n$ と $z^m$ は正規化された $\mathbb{C}^\times$ 値の写像のホモトピー $U_t$ で結ばれる。$U_t/|U_t|$ は $1$ を基点とする $S^1$ のループのホモトピーなので、同じ定理の一意性から $m=n$ である。$\square$

とくに $H^n$($n\in\mathbb{Z}$)は互いに同型でない。$n\ne0$ のとき $H^n$ は自明でなく、$K(S^2)$ では $[H^n]=(1+b)^n=1+nb$ である。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
$u(x,z)$ が可逆$X$ を 1 点、$E=\mathbb{C}$、$u=0$$[E,u]$ がベクトル束である(prop-clt-basic の 1)
ホモトピーの各時刻で値が可逆$\mathrm{M}_1(\mathbb{C})=\mathbb{C}$ の中で $z$ と $1$ を結ぶ $(1-t)z+t$ホモトピックなクラッチング関数は同型な束を与える(thm-clt-homotopy)
表の確かめ

1 行目:同じ定義で商空間を作ると、$|z|=1$ の各点の上で $\pi_0^*E$ 側のすべての点 $(z,a)_0$ が 1 点 $(z,0)_\infty$ に同一視され、$w\ne0$ の点 $(z,w)_\infty$ はどの点とも同一視されない。$|z_0|=1$、$w_0\ne0$ をとり、$\pi_\infty^*E=D_\infty\times\mathbb{C}$ の開集合 $O:=\{(z,w)_\infty\mid |z-z_0|<1,\ |w-w_0|<|w_0|\}$ を考える。$O$ は $w=0$ の点を含まないので、$O$ の点はどれも他の点と同一視されず、$O$ の像は商空間の開集合である。その射影の像 $\{z\in D_\infty\mid |z-z_0|<1\}$ は $|z|<1$ の点を含まないので $z_0$ の近傍ではない。ベクトル束の射影は局所自明性により開写像なので、これはベクトル束ではない。
2 行目:$(1-t)z+t$ は $t=1/2$、$z=-1$ で $0$ になるので、可逆な値をとるホモトピーではない。実際 $[\mathbb{C},z]=H$ と $[\mathbb{C},1]=\varepsilon^1$ は prop-clt-line-bundles により同型でない($n=1$ と $n=0$)。

補足

  • 一般の球面:$S^k$($k\ge1$)を赤道 $S^{k-1}$ で 2 つの閉円板に分けても、thm-clt-represent の証明は円板が凸で赤道上の 1 点に縮むことしか使わないので、そのまま通る。こうして $X\times S^k$ 上の束は $X\times S^{k-1}$ 上の束自己同型で表される。
  • Bott の周期性:Bott周期性定理 は、クラッチング関数を lem-clt-laurent で Laurent 多項式に替え、次数を上げて $z$ の 1 次式にし、さらに固有値が単位円の内側か外側かで束を分けて、$K(X\times S^2)\cong K(X)\otimes K(S^2)$ を示す。
  • 文献:CW 複体を 2 つの部分複体の和に分けたときの貼り合わせとその基本性質は Hus94 第 10 章 §7(Proposition 7.1・7.4–7.6、pp. 134–136)、$X\times S^2$ 上の束の表示と Laurent 近似、トートロジー直線束のクラッチング関数は同書第 11 章 §2(Proposition 2.3・2.5、Example 2.6、Proposition 2.8、pp. 141–143)にある。同書の Example 2.6 でも、トートロジー直線束のクラッチング関数は $z$、その双対束のクラッチング関数は $z^{-1}$ である。

関連項目

参考文献

[1]
Dale Husemoller, Fibre Bundles, Springer, 1994, 第 10 章 §7(Proposition 7.1・7.4–7.6、pp. 134–136、2 つの部分複体の上の束の貼り合わせ)、第 11 章 §2(Proposition 2.3・2.5、Example 2.6、Proposition 2.8、pp. 141–143、X×S² 上の束の表示と Laurent 近似)
[2]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.1 Theorem 1.7(円周の基本群、p. 29)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する