階数(加群)

同義語:加群の階数rank of a module

概要

階数(加群)(rank of a module)とは、加群の大きさを測る量で、自由加群では基底の個数、整域 $R$ 上の加群 $M$ では商体 $K$ への係数拡大の次元 $\dim_K(K\otimes_RM)$、有限生成射影加群では各素イデアルでの局所化の階数として定まる。整域上の階数は一次独立な元の最大個数に等しく、短完全列について加法的で、捩れ加群では $0$ になり、行列が定める写像の像・核・余核の階数は商体上の行列の階数で決まる。単項イデアル整域上では捩れのない有限生成加群の同型類を階数が決めるが、一般の整域では決めない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 自由加群, 整域, 商体, 捩れ(加群)

ベクトル空間の大きさは次元で測られる。環 $R$ 上の加群についても、自由加群 $R^n$ なら基底の個数 $n$ が大きさの目安になり、これを 階数 という。では、自由でない加群、たとえば $\mathbb{Z}$ 加群 $\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ や $\mathbb{Q}$ の「大きさ」はどう測ればよいか。整域 $R$ 上では答えが 1 つに定まる。商体 $K$ へ係数を広げたベクトル空間 $K\otimes_RM$ の次元を階数とすればよい。この操作で捩れ(捩れ(加群))はちょうど消え、「独立な方向がいくつあるか」だけが残る。
この記事では、自由加群の階数、整域上の加群の階数、有限生成射影加群の階数関数の 3 つの定義を並べ、整域上の階数が一次独立な元の最大個数に等しいこと、短完全列について加法的であること、行列の階数との関係を証明する。単項イデアル整域上では階数が捩れのない有限生成加群を決めるが、一般の整域ではそうならないことも例で確かめる。行列や線形写像の階数は 階数(線形代数) の記事が扱う。

定義

以下、環はすべて単位元をもつ可換環とする。
自由加群の階数. $R$ を零環でない可換環とする。自由 $R$ 加群 $F\cong R^{(I)}$ の基底の濃度 $|I|$ は基底の取り方によらない(自由加群 の記事の定理「可換環上の階数の一意性」)。これを $F$ の 階数 といい、$\operatorname{rank}_RF$ と書く。体の上では次元に一致する。$R$ が整域である必要はなく、たとえば $\mathbb{R}^n$ 上の滑らかな関数のなす環 $C^\infty(\mathbb{R}^n)$ は零因子をもつが、$\mathbb{R}^n$ 上のベクトル場のなす $C^\infty(\mathbb{R}^n)$ 加群は、座標ベクトル場 $\partial_1,\dots,\partial_n$ を基底とする階数 $n$ の自由加群である。
自由でない加群に階数を広げるには、係数環を整域に限る。

整域上の加群の階数

$R$ を整域、$K$ をその商体、$M$ を $R$ 加群とする。$K$ 上のベクトル空間 $K\otimes_RM$ の次元
$$ \operatorname{rank}_RM:=\dim_K(K\otimes_RM)\in\{0,1,2,\dots\}\cup\{\infty\} $$
を $M$ の 階数(rank)という。元 $x_1,\dots,x_n\in M$ が 一次独立 であるとは、$a_1,\dots,a_n\in R$ について $\sum_ia_ix_i=0$ なら $a_1=\cdots=a_n=0$ となることをいう。

これは 整域 の記事の命題「商体への写像の核と階数」の定義と同じである。無限次元の場合は濃度の区別をせず $\infty$ と書く。$M$ が自由加群 $R^{(I)}$ なら $K\otimes_RR^{(I)}\cong K^{(I)}$ なので、この階数は基底の濃度に一致する($I$ が無限なら $\infty$)。
整域でない環の上では、素イデアルごとに階数を考える。

有限生成射影加群の階数関数

$A$ を可換環、$P$ を有限生成射影 $A$ 加群とする。各素イデアル $\mathfrak{p}$ で局所化した $P_{\mathfrak{p}}$ は有限階数の自由 $A_{\mathfrak{p}}$ 加群である(有限生成射影加群 の記事の定理「可換局所環上の有限生成射影加群」)。その階数を $r_P(\mathfrak{p})$ と書き、$\mathfrak{p}\mapsto r_P(\mathfrak{p})$ を $P$ の 階数関数 という。$r_P$ が値 $r$ の定数関数のとき、$P$ を 階数 $r$ の射影加群 という。

有限生成射影加群 の記事の命題「階数関数と支持」により、$r_P$ は素スペクトル $\operatorname{Spec}A$ 上の局所定数関数である。$r_P(\mathfrak{p})$ は剰余体上の次元 $\dim_{\kappa(\mathfrak{p})}(P\otimes_A\kappa(\mathfrak{p}))$ にも等しい。幾何学では同じ考え方で、整スキーム上の連接層の階数を生成点での茎の次元として定め、局所自由層・ベクトル束の階数をファイバーの次元として定める(局所自由層、ベクトル束)。

直感

$\mathbb{Z}$ 加群 $M=\mathbb{Z}^2\oplus\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ を $\mathbb{Q}$ 上へ広げると、$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の部分は $6$ 倍で消えるので $\mathbb{Q}\otimes M\cong\mathbb{Q}^2$ となり、階数は $2$ である。階数は「有限の周期をもつ方向を無視して、無限に伸びる独立な方向を数えたもの」である。一次独立な元を $2$ 個選べば、どの元も $0$ でない整数倍すればそれらの整数係数の和になる。階数は加群を「分母を払えば自由加群と見分けがつかない」程度の粗さで測る量であり、そのぶん完全列とよく両立する。

一次独立な元の最大個数

以下この節では、$R$ を整域、$K$ を商体、$S:=R\setminus\{0\}$ とする。$K\otimes_RM$ は局所化 $S^{-1}M$ と同型であり、$1\otimes m$ は $m/1$ に対応する(局所化 の記事の命題「局所化とテンソル積」)。$S^{-1}M$ で $m/s=0$ となるのは、ある $u\in S$ で $um=0$ となるときである。以下 $K\otimes_RM$ を $S^{-1}M$ と同一視する。

階数と一次独立な元

$R$ を整域、$M$ を $R$ 加群とする。

  1. $x_1,\dots,x_n\in M$ が $R$ 上一次独立であることと、$x_1/1,\dots,x_n/1$ が $K$ 上一次独立であることは同値である。
  2. $\operatorname{rank}_RM$ は、$M$ の一次独立な元の個数の上限に等しい。
  3. $\operatorname{rank}_RM=n< \infty$ で $x_1,\dots,x_n\in M$ が一次独立なら、$F:=Rx_1+\cdots+Rx_n$ は $x_1,\dots,x_n$ を基底とする自由加群であり、$M/F$ は捩れ加群である。
  4. 逆に、階数 $n$ の自由部分加群 $F\subset M$ で $M/F$ が捩れ加群であるものがあれば、$\operatorname{rank}_RM=n$ である。
分母を払う
  1. $x_i/1$ が一次独立で $\sum_ia_ix_i=0$ なら、$\sum_i(a_i/1)(x_i/1)=0$ なので $a_i=0$ である。逆に $x_i$ が一次独立で、$\sum_i(b_i/s_i)(x_i/1)=0$($b_i\in R$、$s_i\in S$)とする。$s:=s_1\cdots s_n$、$c_i:=b_is/s_i\in R$ とおいて $s/1$ を掛けると $\bigl(\sum_ic_ix_i\bigr)/1=0$ なので、ある $u\in S$ で $\sum_iuc_ix_i=0$ となる。一次独立性から $uc_i=0$ であり、$R$ は整域で $u\ne0$ なので $c_i=0$、よって $b_i=0$ である。
  2. 1 により、$M$ に一次独立な $n$ 個の元があれば $n\le\dim_KS^{-1}M$ である。逆に、自然数 $n$ が $n\le\dim_KS^{-1}M$ を満たすとする。$m/s=(1/s)(m/1)$ なので、$\{x/1\mid x\in M\}$ は $S^{-1}M$ を $K$ 上張る。$x_1/1,\dots,x_k/1$ の形の一次独立な族の個数 $k$ がすべて $n$ 未満だとすると、$k$ が最大のものがとれる。最大性から、任意の $x\in M$ について $x/1$ はその族の張る部分空間に入るので、その族は $S^{-1}M$ を張り、$\dim_KS^{-1}M=k< n$ となって矛盾する。よって $x_1/1,\dots,x_n/1$ が一次独立となる $x_i\in M$ があり、1 によりそれらは一次独立である。
  3. 一次独立性から $F$ は $x_1,\dots,x_n$ を基底とする自由加群である。1 により $x_i/1$ は $n$ 次元空間の一次独立な $n$ 個のベクトルなので基底である。$y\in M$ について、共通の分母 $s\in S$ をとって $y/1=\sum_i(b_i/s)(x_i/1)$ と書くと $\bigl(sy-\sum_ib_ix_i\bigr)/s=0$ なので、ある $u\in S$ で $u\bigl(sy-\sum_ib_ix_i\bigr)=0$、すなわち $(us)y\in F$ である。$us\ne0$ なので $y$ の類は $M/F$ の捩れ元である。
  4. 完全列 $0\to F\to M\to M/F\to0$ を局所化すると完全列 $0\to S^{-1}F\to S^{-1}M\to S^{-1}(M/F)\to0$ を得る(局所化 の記事の命題「局所化の完全性」)。$M/F$ は捩れ加群なので $S^{-1}(M/F)=0$($\bar y/s$ は $a\bar y=0$、$a\ne0$ を使って $a\bar y/(as)=0$)であり、$S^{-1}M\cong S^{-1}F\cong K^n$ である。

$R=\mathbb{Z}$ の場合、有限生成アーベル群 $A\cong\mathbb{Z}^r\oplus T(A)$($T(A)$ は有限群。有限生成アーベル群 の記事の定理「有限生成アーベル群の基本定理」)では $\mathbb{Q}\otimes_{\mathbb{Z}}A\cong\mathbb{Q}^r$ なので、階数は自由部分の階数 $r$ に一致し、2 によりそれは一次独立な元の最大個数でもある。定義 $\dim_{\mathbb{Q}}(\mathbb{Q}\otimes_{\mathbb{Z}}A)$ は、有限生成でないアーベル群にもそのまま意味をもつ。

加法性

階数の加法性

$R$ を整域とし、$0\to M'\to M\to M''\to0$ を $R$ 加群の完全列とする。このとき
$$ \operatorname{rank}_RM=\operatorname{rank}_RM'+\operatorname{rank}_RM'' $$
である($\infty$ を含めて、$\infty+n=\infty$ と約束する)。

局所化の完全性

$S=R\setminus\{0\}$ で局所化すると、$K$ 上のベクトル空間の完全列 $0\to S^{-1}M'\xrightarrow{\ i\ }S^{-1}M\xrightarrow{\ p\ }S^{-1}M''\to0$ を得る(局所化 の記事の命題「局所化の完全性」)。$S^{-1}M$ が有限次元なら、$p$ は全射で $\ker p=i(S^{-1}M')\cong S^{-1}M'$ なので、線形代数学 の記事の定理「次元定理」により $\dim S^{-1}M=\dim S^{-1}M'+\dim S^{-1}M''$ である。$S^{-1}M$ が無限次元なら、$S^{-1}M'$ と $S^{-1}M''$ の少なくとも一方は無限次元である。実際、両方が有限次元なら、$S^{-1}M'$ の基底の $i$ による像と、$S^{-1}M''$ の基底の $p$ による逆像から 1 つずつ選んだ元は $S^{-1}M$ を張るので、$S^{-1}M$ も有限次元になる。

階数の基本的な性質

$R$ を整域、$M,N$ を $R$ 加群とする。

  1. $\operatorname{rank}T(M)=0$ であり、$\operatorname{rank}M=\operatorname{rank}\bigl(M/T(M)\bigr)$ である。$M$ が捩れ加群であることと階数が $0$ であることは同値である。
  2. $M$ が捩れをもたず階数 $0$ なら $M=0$ である。
  3. $\operatorname{rank}(M\oplus N)=\operatorname{rank}M+\operatorname{rank}N$ である。
  4. 部分加群 $N\subset M$ について $M/N$ が捩れ加群なら $\operatorname{rank}N=\operatorname{rank}M$ である。とくに $R$ の $0$ でないイデアルの階数は $1$ であり、アーベル群の有限指数の部分群はもとの群と同じ階数をもつ。
  5. $M$ が $n$ 個の元で生成されるなら $\operatorname{rank}M\le n$ である。
  1. 捩れ加群 $T$ については $S^{-1}T=0$ である($t/s=at/(as)=0$、$a\ne0$、$at=0$)。完全列 $0\to T(M)\to M\to M/T(M)\to0$ に thm-rk-additive を使えばよい。$M$ が捩れ加群なら $S^{-1}M=0$ であり、逆に $S^{-1}M=0$ なら各 $m/1=0$ からある $u\ne0$ で $um=0$ となる。
  2. $M\to S^{-1}M$、$m\mapsto m/1$ の核は $T(M)=0$ なので(整域 の記事の命題「商体への写像の核と階数」)、$S^{-1}M=0$ なら $M=0$ である。
  3. 完全列 $0\to M\to M\oplus N\to N\to0$ に thm-rk-additive を使う。
  4. $0\to N\to M\to M/N\to0$ に thm-rk-additive と 1 を使う。$0$ でないイデアル $I$ では、$0\ne a\in I$ が $R/I$ を消すので $R/I$ は捩れ加群であり、$\operatorname{rank}I=\operatorname{rank}R=1$ である。アーベル群 $A$ の部分群 $B$ の指数が $m$ なら、$A/B$ の元は $m$ 倍で消える(Lagrangeの定理)。
  5. 生成元の像が $K$ 上 $S^{-1}M$ を張る($m/s=(1/s)(m/1)$)からである。

1 と 2 から、捩れをもたない加群では「階数が $0$」と「零加群」が一致するが、捩れがあると一致しない($\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は階数 $0$ の $0$ でない $\mathbb{Z}$ 加群)。加法性により、整域 $R$ 上の有限生成加群の同型類の上で階数は加法的な量になるので、有限生成加群の Grothendieck群 から $\mathbb{Z}$ への準同型を定める。

行列の階数との関係

整域上の行列が定める線形写像では、像・核・余核の階数が行列の階数で決まる。

行列の像・核・余核の階数

$R$ を整域、$K$ を商体とし、$A$ を成分が $R$ に属する $m\times n$ 行列、$L_A\colon R^n\to R^m$ を $A$ を掛ける線形写像とする。$A$ を $K$ 上の行列とみた階数を $r$ とすると(階数(線形代数))
$$ \operatorname{rank}_R(\operatorname{Im}L_A)=r,\qquad\operatorname{rank}_R(\ker L_A)=n-r,\qquad\operatorname{rank}_R(\operatorname{Coker}L_A)=m-r $$
である。

商体の上の線形写像に移す

$S=R\setminus\{0\}$ で局所化すると $S^{-1}R^n=K^n$、$S^{-1}R^m=K^m$ であり、$L_A$ は $K$ 線形写像 $L_A^K\colon K^n\to K^m$(同じ行列 $A$ を掛ける写像)になる。局所化は完全なので(局所化 の記事の命題「局所化の完全性」)、$S^{-1}(\operatorname{Im}L_A)=\operatorname{Im}L_A^K$、$S^{-1}(\ker L_A)=\ker L_A^K$、$S^{-1}(\operatorname{Coker}L_A)=\operatorname{Coker}L_A^K$ である。$\dim\operatorname{Im}L_A^K=r$ は行列の階数の定義(階数(線形代数) の記事の定義「線形写像の階数と行列の階数」)であり、次元定理から $\dim\ker L_A^K=n-r$、$\dim\operatorname{Coker}L_A^K=m-r$ である。

たとえば $\mathbb{Z}$ 上の行列 $A=\begin{pmatrix}2&4\\1&2\end{pmatrix}$ は $\mathbb{Q}$ 上で階数 $1$ なので、$\operatorname{Coker}L_A=\mathbb{Z}^2/A\mathbb{Z}^2$ の階数は $1$ である。実際、$A\mathbb{Z}^2$ は $(2,1)$ で生成され、$\mathbb{Z}^2/A\mathbb{Z}^2\cong\mathbb{Z}$($(x,y)\mapsto x-2y$ による)である。

単項イデアル整域と Dedekind 整域

単項イデアル整域 $R$ 上の有限生成加群 $M$ は $M=T(M)\oplus F$($F$ は有限階数の自由加群)と分かれる(捩れ(加群) の記事の定理「単項イデアル整域上の有限生成加群の捩れ」)。cor-rk-basic の 1 により $\operatorname{rank}F=\operatorname{rank}M$ なので、$M\cong T(M)\oplus R^{\operatorname{rank}M}$ である。とくに捩れをもたない有限生成 $R$ 加群は $R^{\operatorname{rank}M}$ と同型であり、階数だけで同型類が決まる。
単項イデアル整域でない整域では、捩れをもたない有限生成加群は階数だけでは決まらない。

階数 1 だが自由でないイデアル

$R=\mathbb{Z}[x]$ のイデアル $I=(2,x)$ を考える。cor-rk-basic の 4 により $\operatorname{rank}I=1$ であり、$I$ は捩れをもたない。$I$ は自由でない。自由なら、$I$ の任意の 2 元 $f,g$ は $g\cdot f-f\cdot g=0$ により一次従属なので基底は 1 元 $f$ からなり、$I=(f)$ となる。$f$ は $2$ と $x$ をともに割るので $f=\pm1$ となるが、$I$ の元の定数項はすべて偶数なので $1\notin I$ であり矛盾する。$I$ と $R$ はともに階数 $1$ で捩れをもたないが同型でない。$I$ は 1 個の元では生成されないので、cor-rk-basic の 5 の不等式は真の不等式になりうる。

Dedekind整域 $R$ 上では、捩れをもたない階数 $n\ge1$ の有限生成加群 $M$ は、あるイデアル $I$ について $R^{n-1}\oplus I$ と同型になり、$I$ のイデアル類は $M$ から一意に定まる(Dedekind整域 の記事の定理「Dedekind整域上の加群」、DF04 §16.3 Theorem 22、p. 771。この記事では証明しない)。階数のほかにイデアル類群の元が 1 つ必要になる。整域の $0$ でないイデアル $I$ は、可逆であることと射影加群であることが同値であり(可逆イデアル の記事の定理「可逆性と射影性」)、可逆イデアルは cor-rk-basic の 4 により階数 $1$ の射影加群である。

射影加群の階数関数

整域上の有限生成射影加群では、2 つの定義が一致し、階数関数は定数になる。

整域上の有限生成射影加群の階数

$R$ を整域、$P$ を有限生成射影 $R$ 加群とする。階数関数 $r_P$ は値 $\operatorname{rank}_RP$ の定数関数である。

生成点 $(0)$ を含まない開集合はない

零イデアル $(0)$ は素イデアルであり、$R_{(0)}=K$ なので $r_P((0))=\dim_K(K\otimes_RP)=\operatorname{rank}_RP$ である。$\operatorname{Spec}R$ の空でない開集合 $U$ は $(0)$ を含む。実際、$\mathfrak{p}\in U$ について $\mathfrak{p}\in D(f)\subset U$ となる $f\notin\mathfrak{p}$ があり(Zariski位相)、$f\ne0$ なので $f\notin(0)$、すなわち $(0)\in D(f)$ である。$r_P$ は局所定数なので、各 $\mathfrak{p}$ には $r_P$ が一定となる開近傍 $U$ があり、$U\ni(0)$ から $r_P(\mathfrak{p})=r_P((0))$ である。

整域でない環では階数関数は定数とは限らない。体 $k$ について $A=k\times k$、$P=k\times0$ とすると、$P$ は有限生成射影加群で、2 つの素イデアルで階数が $1$ と $0$ になる(有限生成射影加群 の記事の例「階数が成分ごとに変わる有限射影加群」)。

例

階数の例
  1. Gauss 整数環 $\mathbb{Z}[i]$ は $1,i$ を基底とする階数 $2$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群である(Gauss整数)。$n$ 次の代数体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ は階数 $n$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群である(判別式(代数体) の記事の定理「整数底の存在」)。
  2. 零環でない可換環 $A$ 上のモニックな $n$ 次多項式 $f$ について、$A[t]/(f)$ は $1,t,\dots,t^{n-1}$ の類を基底とする階数 $n$ の自由 $A$ 加群である(モニックな多項式による割り算の商と余りがただ 1 通りに定まることによる)。
  3. $\mathbb{Q}$ は階数 $1$ の $\mathbb{Z}$ 加群である。$a/b,c/d\in\mathbb{Q}$ について $bc\cdot(a/b)-ad\cdot(c/d)=0$ なので、$0$ でない 2 元はつねに一次従属である。$\mathbb{Q}$ は有限生成でない。
  4. $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は $0$ でないが階数 $0$ である(捩れ加群)。
  5. $\mathbb{Z}$ 加群 $\mathbb{Z}^2\oplus\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の階数は $2$、$\mathbb{Z}^{(\mathbb{N})}$(可算個の直和)の階数は $\infty$ である。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
係数環が可換$\operatorname{End}_k(V)$($V$ は可算無限次元)で $R^2\cong R$(加群 の記事の例「反例:一般の環では階数が一意とは限らない」)自由加群の基底の個数が一意
係数環が零環でない零環 $0$ 上で $0^m\cong0^n$自由加群の基底の個数が一意
捩れをもたない$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$階数 $0$ なら零加群(cor-rk-basic の 2)
単項イデアル整域$\mathbb{Z}[x]$ のイデアル $(2,x)$(ex-rk-nonfree-ideal)捩れのない有限生成加群は $R^{\operatorname{rank}M}$ と同型
整域$k\times k$ 上の $k\times0$有限生成射影加群の階数関数は定数(prop-rk-projective-domain)

補足

文献

DF04 §12.1(p. 460)は整域上の加群の階数を一次独立な元の最大個数として定義し、Exercises 1–4(pp. 468–469)でその性質(捩れ部分の階数が $0$、極大な一次独立系が生成する自由部分加群で割ると捩れ加群、短完全列での加法性)を、Exercise 20(p. 471)で商体とのテンソル積の次元に等しいことを問うている。Exercises 5–6(p. 469)は $(2,x)\subset\mathbb{Z}[x]$ と単項でないイデアルが階数 $1$ で自由でないことである。上ではこれらを商体への局所化を使って証明した。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2004, §12.1(階数の定義、p. 460)、Exercises 1–6(pp. 468–469)、Exercise 20(p. 471)、§16.3 Theorem 22(p. 771)

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